八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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偽物の方が本物になろうって気持ちが籠もってるからお得だって

潰す、という雪ノ下の言葉に嘘はなかった。

第二局は雪ノ下の親番、えげつない手が連発され、遊戯部は厳しい戦いを強いられる。

 

「ロン、1300」

「あ、あってます」

 

ば、馬鹿な!あの短期間で俺すら微妙な点数計算をしっかり出来るだと!?

遊戯部だって早見表見ながら計算しているのに覚えたのか。

驚く俺と雪ノ下の視線が合う。

 

「何を驚いているの比企谷君、早見表を丸暗記すればいいじゃない」

「ナチュラルに思考を読まないでくれませんか、ニュータイプかお前」

「顔に書いてある……なんて言ってしまうと、まるで私はどこかの漫画家のようだけど、正確には普段よりも挙動不審な動きと視線の方向、早見表から私に移った動きから、早見表に関する驚き、タイミングからして点数計算出来たことに驚いたと推測したのよ」

「普通の人はできないから、何なの、諜報組織のエージェントなの?あと、サラッと普段から挙動不審みたいに言うなよ、日によるだろ」

 

雪ノ下は、何いってんだオメェとでも言わんばかりに、こてんと首を傾げた。

その純粋な瞳が俺をいじめる、やめて八虐は流行ってないよ!

 

「まぁ、や、安い手だし……次は親だから」

「何言ってるのかしら」

「ひょ?」

「まだ私の親番は終わってないわ!」

 

そ、そうか!親番で親が上がったとき、麻雀では連荘というのがある!

それはもう一度、雪ノ下が親をやり百点分の棒を場に置くという物だ。

雪ノ下は我が物顔で点棒を手に取り、まるで生花や茶道の場にいるような気品でゆっくりと棒を置いた。

なんだ、垂直に立てたり投げたりはしないのか。

そして、東二局一本場が始まる。

 

「由比ヶ浜さん、ごめんなさいね。ツモ、2000オール」

「うぇ!?これ、もしかして私脱ぐ」

「そうね、でもルールだから」

「味方から脱がされることもあるの!?」

 

その時、八幡に電流走る。

ざわざわ……ざわざわ……

コ、コイツら……それが狙い!一見、一般的な脱衣麻雀だがそれが罠。

女子と男子の服装の枚数差を考えると女子の方が多く、防御力があるように見える。

だが……だが、男はラスト一枚まで、女子は四枚確保しないといけないボーダーラインがある。

四枚以下まで削れたらコイツらは下着を見れる、つまり勝ち!勝ちだ!

逆にパンツを見られてもコイツらはどうとも思わない、見られたら困る女子よりも圧倒的なリード!

圧倒的、圧倒的リード!さらに!それを加速させる味方のツモ!

言うなれば、フレンドリーファイアツモ!

当然、女子の方は味方を気遣い使えない、上がり方を制限するそれは、男子側を有利にさせる!

 

「先輩……駄目ですよ」

「ッ!?だが、こんなの」

「一度始まったゲームです、まぁ予想外の手でしたがね」

「嘘だろ、なんて卑怯な」

「ところがどっこい、現実!現実なんですよ、先輩」

 

そんな俺と相模の後ろでは材木座のフォォォォォが響いていた。

うるせぇ、電波の良い所に行くかサーバーメンテ終わるまで待て!

 

「う、上着脱いだだけでキモっ」

「フッ、知っていたさ。オタクに優しいギャルはいないってな」

「はぁ!?ギャルじゃないし!ウザ、マジキモいんですけどぉ」

「ぐふぅぅぅぅ」

 

おい、何勝手に自爆してんだよ、フレンドリーファイアを受けに行くな。

雪ノ下はただ、黙々と麻雀卓を見ていた。

お前、それはそれで怖いよ。何か反応しろよ。

 

「何をしているの。由比ヶ浜さんのは所謂コラテラルダメージというものよ、続けましょう」

「偶然上がれたからってまだまだですよ」

 

ニ本場が始まる。

和気藹々としていた雰囲気は、今や処刑台前に並ぶ囚人達の集まりのように静かだった。

ここから脱出するには首を切られる前にドラゴンとか来ないと無理そうだ。

 

「フッ、序盤でとはついている。リーチ!」

「ロン、7700」

「すばらッ!?」

「次」

 

雪ノ下がすかさずロン!お前、腕とかワムウ並に疼いてないだろうなぁ!

 

「ポン!」

「ツモ、4100オール」

「バ、馬鹿な!」

「確率論と心理学のゲーム、それに捨て牌は開示されてるのだから手牌も予想出来るわよ……出来るわよね?」

「うーん、ゆきのんみたいに捨て牌から予想できない……靴下にするか」

「ず、ズルい!靴下はズルだ!というか脱ぐなんてトンデモナイ!」

 

由比ヶ浜、普通の人は出来ないぞ。

いきなりデカイ岩を叩き斬れ、切れるよね?って言われてるようなもんだぞ。

あと材木座くんさぁ……ここはそういうお店じゃないし、性癖を押し付けるな。

というか、四連続で上がれてすごいなお前。

 

「ダ、ダブルリーチ!勝った!もう終わりだ!」

「御無礼、ツモです」

「は、はぁ!揃ってるとかイカサマだ!」

「イカサマの証拠はあるのかしら、あるとして言えるの?例えばマーキングとか積み方とか」

「そ、それは……」

「ツモ、6200オールよ」

 

いったいどういうことだと雪ノ下と遊戯部を見る。

確かに牌は使い込まれていて傷や汚れがあるが……やはりイカサマ!チーム麻雀だからイカサマをしていたのか!

 

「負けが続いてボロを出したというところかしら、もっとも説明できるとしたら不正行為を働いたと自らの首を締めるだけだけど」

「そうだ、じゃんけんで勝負しませんか」

「駄目よ、五本場」

 

雪ノ下から冷たい眼差しが後輩達を襲う。

怖えぇ……イカサマするコイツラもだけど、それを見破る雪ノ下も怖えぇ……。

しかも、今まで気づいてなかっただろうから、序盤はリアルに計算と心理学で普通に麻雀も強いっていう。

ハンターハンターとかジョジョで出たら強キャラに違いないよ、迂闊にボスに近付かない暗殺者的なキャラだよコイツ。

 

「うぅ……見んなし」

「ぬぅ、リボンか……日和ったか」

 

材木座、お前はどっちの味方なんだ。

 

「おい材木座」

「落ち着け八幡、ゲームとは楽しむものだ。もっと余裕を持て」

「余裕をなくしてるのはお前なんだが」

 

俺が文句を言おうとしてたら、ため息が遮る。

 

「なるほど、そういうスタンスなんですね」

 

それが秦野だと気づくのには少し時間がかかった。

これまでの弱気になってビビってた印象とは違う、明らかに攻撃的な色が透けて見える声だ。

 

「なんていうかユーザー視点終始っていうのはちょっとねー」

「ぬぬぬ……どこのプロデューサー目線だ貴様」

「貴方の番よ」

「すいません……剣豪さんさぁ、なんでゲーム作りたいんですかぁ?」

 

この剣豪さんとやらは多分材木座だろ、お前後輩に剣豪とか呼ばせてんのとツッコミたいが、ここはぐっと我慢しよう。話が進まないからな。

 

「フッ、愚問好きだからだ。好きなことを仕事に、正社員なら安定してるしな」

「ハッ、好きだから。最近多いんですよね、それだけで出来る気になっちゃう奴」

「次」

「すいません」

 

材木座が何が言いたいと由比ヶ浜から後輩の方に視線を向ける。

カチンと来たのだろう、そして反論しようとしたのだろう、だが言葉に詰まった事を表す息を飲んだ音がすぐに聞こえる。

 

「現実逃避、夢を言い訳にして、してますよね」

「な……にを……」

「薄っぺらいんですよ、ユーザー視点っていうか、ユーザーのまんま、表面なぞってるだけっつーか」

「止まってるんだけど、次」

 

材木座は堪えるようにして、拳を握ってうつむいた。

 

「ゲームの何たるか知らない若手クリエイターにも多いんですよ。TVゲームしかやったことないのに作ろうとする、革新的なことが出来ない、斬新な発想を生む土壌が養われてない、ワンパターン、好きだからって作れるほどゲームは……あっ、すいません」

「ぐぬぬぬぬ」

 

材木座が遂には唸る。

 

「アンタ、誰かに誇れること、得意なこと、無いでしょ?縋ってるだけだ」

 

正論なのだろう、材木座は遂にドカッと近くの椅子に座り始める。

大丈夫か、息してるぅ?

 

「好きな映画や小説は?もちろん、アニメやラノベ以外で」

「ぬお!?お、おうふ……」

 

もはや多重債務者のような憔悴しきった症状だった。

虚空を見ながら口をパクパクしている、有り金全部溶かしてそうな顔だ。

 

「アンタはエンタメの、すいません、エンタメの本質を分かってない!俺達は源流から、基礎から勉強してるんだ、やべっすいません、半端者がゲームを作るとか見てて恥ずかしいんだよね」

 

古いゲームの歴史を本で調べ、実際にやってみて、ゲームとは何かと勉強している遊戯部。

ブヒブヒ、キタコレ、モエー、可愛いキャラで遊んでるだけ、罵倒されて当たり前。

でも俺は少しだけイラッとした、材木座が馬鹿にされるのは別に独占欲もないし、異論はない。

 

「双方の話を聞いていたのだけど遊戯部の方が正論よ。引導を渡しなさい比企谷くん、友人が手を下してあげるのがせめてもの情けというものよ。自分で納得できないと分からないタイプだもの」

「ゆきのん、手が止まってるよ。麻雀しようよ」

「お前麻雀しながら聞いてたのかよ、ちょいちょい指摘してたから集中してたと思ってた。あと殺すのかよ」

「してたわよ。マルチタスクは誰でもできることでしょ?違うの?」

「違うわい」

 

お前、その傲慢さは何なの、出来ない人だっているんだよ?

ただ、彼らのように調べたりするのと遊ぶのは違う。

彼らの努力は正しいし、材木座の怠惰は責められてしかりだ。

だが、正しいやり方が偉いなんて誰が決めた。

教科書通り、カリキュラムをこなして、ノルマを達成して。

それじゃあ、伝統と正攻法でやってるだけだ。

過去の財産に依存して、権威に寄りかかって、何者でもない自分を誰かの求める形に塗り固めて量産型の人間を作ってしまうだけだ。

 

「あのさ……あたし、ゲームとかよくわかんないけど。初め方が正しくなくても終わりよければ、よく分からないけどヨシ!でしょ」

「由比ヶ浜さん」

「最近見たアニメでも言ってたよ。偽物の方が本物になろうって気持ちが籠もってるからお得だって……ところで麻雀は?」

「絶対、そんなこと言ってないぞ。言わないキャラだぞ」

 

まぁ、だいたい言いたいことは分かる、なぜそのチョイスと思うけれどれも。

材木座は、答えを得たよ由比ヶ浜、みたいなキメ顔で立ち上がった。

由比ヶ浜はビクッとして引いていた。

 

「そうだ……俺には誇れる物がない!だから、これに賭ける、それの何が可笑しい!」

 

材木座は洟を啜り、肩を揺らし、胸元を掻き抱きながら慟哭した。

潤んだ瞳は痛々しい、秦野と相模は嫌悪に満ちた眼でそれを見る。

それは同族嫌悪かもしれない、材木座を通して過去の自分を投影しているのかもしれない。

 

「この世界はラノベやアニメの世界じゃないんだ。理想と現実は違う、夢は叶えられると思って生きていくなら、理想を抱いて溺死しろ!現実に敵わないのに、夢が叶う訳ないじゃないですか」

「おーい、麻雀しないの?」

「そんなこと!とうの……昔に知っている!作家志望のゲーセン仲間は就職したし、二次選考を通った人はニートだ!我だって、現実くらい、知っている……知ってるんだ」

 

材木座が虚空を掴んだ。

何を掴んだのかは分からんが、ギュギュと指ぬきグローブが悲鳴を上げる。

 

「ラノベ作家になると公言すれば、腹の中で馬鹿な夢見てるだの、現実見ろよだの、せせら笑ってることだって分かってる、それでも……」

 

理想と現実で進路を選ぶことに関しては、教職をやってれば嫌でもぶつかる問題だ。

本気で応援してくれる人間も、止めてくれる人間も、夢を語っても誰も本気にしないのだ。

だからいつか諦めて、自分がなりたくなかった奴らに、夢を見ている人間を笑って側に回って、夢を見ていた自分を誤魔化したくなるんだ。

 

「なれるかどうかじゃない、なるんだ!」

「……あー、うん、どっかで聞いたことあるけどスルーするわ」

「スルーしておらんではないか!」

「ねぇ、麻雀しようよ?」

 

うーん、あのさぁ。

雪ノ下もゲーム中は、手を止めるなって怒ってたけどさ。

由比ヶ浜、ちょっと空気読んで、いや盤外戦術っていうか外野が騒がしいから俺らが全面的に悪いけどね。

 

「そうね、まぁ、次で終わらせるわ。誰をハメようとしたのか、分からせてあげるわ」

「ねねっ、ヒッキー、こっち来て」

 

意気揚々か、それとも虎視眈々か、喉元を噛みつこうとする肉食獣のような殺意の籠もった視線を雪ノ下から感じた、一瞬視線が由比ヶ浜の胸に向いてたが、ひょっとしてさっきの雪ノ下の視線から考えることから……おっと心理学的に内心を読まれるかも知れないから考えるのをやめよう。

 

それよりも、人の袖をクイクイ引っ張ってくる由比ヶ浜に仕方ないなと思いながら従う。

どうせ役の確認でもしてもらいたいんだろ。

 

「んっ」

「何だよ」

「バレるから耳貸して」

 

そう言って由比ヶ浜が人の耳たぶを引っ張ってくる。

痛い痛い、分かったから、子供か。

 

「見てみて、これ、同じでしょ、役あるでしょ」

「ふぁ!?」

「ヒッキー?」

 

急に耳元で囁かないでくれますかね!?

びっくりするだろうが、驚かすって言えよ!

由比ヶ浜はわざとやってんのかとばかりに仰け反った俺を無理矢理に引っ張り。

また、見ろと催促してくる。

まわりに聞こえないように手をメガホンにしてるのだが、囁くせいで耳がくすぐったい。

 

「同じ奴四つあるから、あと一枚で上がれるでしょ?」

「お前これ!ッうごごご!?」

「二人でどうしたのかしら!?由比ヶ浜さんの番よ」

「やー、何でも無いよ。ごめん、役があるか確認してもらうから待ってて!」

 

俺は、思わず見ていた役について驚きの声をあげようとした。

しかし、すかさず動いた由比ヶ浜が片手で俺の口を覆う。

遊戯部とか雪ノ下がイカサマした影響か、それともリアルラックなのか。

由比ヶ浜は人差し指を顔の前に立てながら睨みつける。

 

「ちょ、しっー!ゆきのん達にバレちゃうじゃん」

「お、おう。悪い……」

「もう、しっかりしてよね。で、大丈夫そう?」

「あ、ああ。上がれたらな」

 

いや、上がれたらマジでヤバい。

だって、リーチが一翻だとしたら、それは十三翻だ。

麻雀が分からない奴らでも分かるか、役満ってやつだ。

名前を四暗刻という。

これは話の腰をおってでもやりたくなるわ。

でも、自覚ないんだろうな初心者って怖い。

 

「よし、リーチ!」

「なるほど、リーチ出来るかどうか見たかったのね」

「私も場とか確率、出来るからね!これは期待度?期待値?アゲアゲだよ」

「はぁ、由比ヶ浜さんは数学よりまずは国語かしら。あと、少なくとも場に出てないやつと言ってるような物じゃない」

 

しまったという顔で後ろにいる俺に振り向く由比ヶ浜、いや俺のせいみたいな態度やめなー。

まぁ、スジとか関係ないし行けるんでは。

今までの流れが嘘のように、どんどん終局に向けて牌が捨てられる。

おかしいなと思いぐるっと背後に回ると、由比ヶ浜以外が後一枚、一向聴という奴になっている。

……ただ、それ由比ヶ浜が持ってるから二種類待つ両面待ちという形ながら片方の四枚しかチャンスはない。

しかも場を見る限り、どちらも一枚しか入ってない地獄単騎とよばれるスゲー確率の悪い待ちだ。

 

「可笑しいわね。バラけてないのかしら、今の捨て牌は迷っていたからこの待ちじゃない?そうなると誰かが四枚持ってるってこと?まさか」

「あっ、ツモ?ちょっと待ってね、みんなみたいに一気に倒すから」

 

何かに気づいてSAN値チェック入りそうな雪ノ下が、化け物を見るような眼で由比ヶ浜を見る。

由比ヶ浜は満面の笑みだった。

原因はお前らのイカサマだと思うよ。

 

「げぇっ!?」

「げぇっ!?」

「そんな、こんなオカルトありえない……」

 

固まる三人に由比ヶ浜の代わりに報告してやった。

 

「四暗刻、役満。遊戯部は飛んで、雪ノ下は2位だな」

 

部室には暮れゆく夕日が差し込んでいた。

ガッツポーズする由比ヶ浜と、発狂する部員2名、頭が痛そうな雪ノ下の姿があった。

ははは、なにこれ無理ゲーすぎる。

 

「今回の件からお前達が得る教訓は、人生は運ゲー。好き嫌いとか、知識の有無、才能じゃなくて最後は運がある奴が勝つってことだ」

 

材木座の夢が叶うかどうかも運次第だな。

なお、少しズルかもしれないし、そうはならんかもしれないが、将来の材木座は小さい会社で遊戯部の奴らとPCゲームを作ってたりする。

 

実は夢を叶えてたりするのだ、まぁ今はまだ夢の話だ。

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