八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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大人になると、30過ぎてから太るし、脂っこい物も食えないし、婚期に焦るようになるからな

「夏休みはどうかね」

「はぁ、普通にしてますね。アニメ見てゲームして、家で勉強してますよ」

「そ、それは普通なのか……?」

「社会人になったらお盆休み以外仕事じゃないですか。公務員ならお盆休みも仕事ですけど」

「……そうだな」

 

車内の空気が、俺と平塚先生の周りだけ静かだった。

後部座席のキャッキャという声が虚しさを目立たせる。

働きたくねぇなぁ……

 

 

 

関東平野に暮らす千葉県民にとって海は馴染みがあっても、山は珍しい。

あの無感動そうな雪ノ下ですら、感嘆のため息をもらすほどだ。

戸塚と小町と由比ヶ浜は疲れたのか眠っていた。

トランプやウノなどで騒いで疲れているのだ、子供か?

俺なんてその間、平塚先生とスクライドとかガンダムの話をしてたよ。

なんだよ、サンライズ推しかよ。

 

「千葉村か」

「今回も自然教室と同じ二泊三日だが、大丈夫かね?」

「そういうことは早く言ってくださいよ、まぁ準備してますけど」

 

意外と覚えているもんなのか、二泊した記憶が俺にはあった。

なんだかんだ、今考えると陽キャみたいなことしてたよなぁ。

 

 

 

視界には雄大な山が飛び込んできた。

 

「おぉ、山だ」

「山ね」

「山だな」

 

山としか言えない。

俺のつぶやきに雪ノ下と平塚先生が繰り返すように頷いた。

関東平野に暮らす千葉人にとって山といえば、埼玉で言うところの海くらい珍しいのである。

スプラッシュマウンテンぐらいしか見たことないかもしれない。

いや、それは言い過ぎか。

 

車を降りると草の匂いがした。

そういえば、これから流行るグランピングという金さえ払えば手軽にキャンプが出来る物があったな。

静かなキャンプ場がリア充達の巣窟になるのだ。

あの、なんだろう、内輪で盛り上がってたところに陽キャがやって来て我が物顔でにわか知識ひけらかす感じに似てるかもしれない。

キャンプ場は焚き火の音や風の音を楽しむんだよ、音楽を楽しむんじゃねぇ。

 

「どうした比企谷、すっごい顔してるぞ」

「疲れましたね」

「んーっ!きっもちいいー!」

「由比ヶ浜を見習ったらどうだ」

「先生、あれが若さって奴ですよ」

「うぅ……」

 

平塚先生が身動ぎ固まってしまった。

コンマ0秒で返すことで発生するクリティカル、これがレスバの確信!いや、普通に致命傷な一言なだけだったな。

 

「人を枕にして寝ていれば気持ちいいでしょうねぇ」

「うぅ……ちくちく言葉だ」

 

あっちも似たようなことしてる、仲いいな。

小町も戸塚と微笑みながら去年来たんだみたいな報告をして楽しんでいた。

その報告いる?女子ってそういうので楽しめるよね。

つまり、楽しんでる戸塚は女の子かもしれない。

 

平塚先生の指示に従って荷物を降ろしているともう一台のワンボックスカーがやってきた。

車から降りてきたのは男女四人組、リアリティーショーでも始めるのか?

そう、我らがスターのお出ましだ。

 

「や、ヒキタニくん」

「これはこれは、未だに人の名前を正確に覚えることも出来ないミスター葉山のお出ましだ」

「なんでねっとりしてるのかな?」

「ふぅむ、グリフィンドールに10点減点」

 

まぁ、教師としての形式上、ボランティア活動に一部の生徒だけというのは如何なものかとか、嫌味言われるし、仕方なくって奴だろうな。

でも俺は陰キャボッチとして、スリザリン的に減点しまくるからな!

俺、スリザリンなのかよどっちかっていうとイジメられるしレイブンクローじゃね?

イジメられちゃうのかよ。

 

「フッフフ、今日は何のために集まったのか」

「行きますよ平塚先生」

「置いてって良いの?あら、自分の荷物くらい持つわよ」

「あっ、待ってよヒッキー!ゆきのん!」

「…………」

 

ボランティア活動だってのは分かるし、そういえば今の時期は雪ノ下もツンドラ状態の戦場ヶ原のようなデレない時期だったから葉山がいると不機嫌になるのも分かっていた。

ので、さっさと二人を引き離しちゃいましょうねぇと言う訳だ。

平塚先生の自慢げな語りは犠牲になったのだ。

 

俺達の集団とダラダラ歩く葉山のグループ。

間には由比ヶ浜や戸塚がいて何となしに会話しているので一つの集団に見えるだろう。

由比ヶ浜はアイツは多分、ハッフルパフだな。アホそうなところがハッフルパフっぽいし、ハチミツ好きそう。

 

 

 

本館に荷物を置いたら、俺達は集いの広場とやらに来た。

あぁ、キャンプファイヤーとか出来るところね。

そこには体育座りで待つ100近い小学生の群れ、小学生6年生なだけあって体格にはバラツキがある。

幼稚園児よりは論理的で、しかし中学生よりはアホで、そして高校生よりガキなのが小学生だ。

気軽に話し掛けると、通信ケーブルって何?とか、メモリカードって何?とかジェネレーションギャップで簡単に牙を向いてくる。

やだ、小学生怖い。

生徒達の前で先生が腕時計を見ながらずっと立っていた。

 

「はい、みんなが静かになるまで3分かかりました」

 

いわゆるお約束である。

全校集会や学級会で前フリに使われる、気まずい空気にしてからの説教。

俺も高校生にやったことがある。

そして先生から俺達の紹介が始まる。

 

「これから3日間、みんなのお手伝いします。何かあったら僕達に言ってくださいね。この林間学校で素敵な思い出を作りましょう。よろしくお願いします」

 

拍手喝采だった。

葉山の打ち合わせなしの挨拶には補正が掛かっていたのか、女子ウケがすごくいい。

これがイケメンのなせる技か。

なお、面の良い女である雪ノ下は矢面に立つのは嫌いだが人の上に立つのは好きな女である。

というわけで、オリエンテーリングはーじまるよー。

よーい、スタートである。

 

すでに決まっていたのか小学生達はグループごとに分かれて行動を始める。

子供の頃は班分けでメンバーを決めるのが嫌だったが、大人になると一人で行動しないといけない。

少なくとも先生がグループを決めてくれなくなる大学とか、周りはグループ出来てるのに一人だけで授業を受けたり、初日に自分から話しかけないと友達とか作れなかったりするからな、ソースは俺。

 

「いやー、小学生マジ若いわー!高校生とかおっさんじゃね」

「戸部やめてくんない?あーしがババァみたいじゃん」

「いや、マジ言ってねーから!ちげーから!」

 

ワイワイガヤガヤと戸部と三浦が騒いでる。

俺からしたらお前らも若いよ、ガキの範疇だよ。

 

「僕が小学生の頃は高校生って大人に見えたな」

「小町からしても大人って感じしますよ。兄を除いて」

「大人になると、30過ぎてから太るし、脂っこい物も食えないし、婚期に焦るようになるからな」

「ぐっ……やめろ比企谷。それは私に効く」

「……ヒッキーの一言が流れ弾だよ!先生、大ダメージだよ!」

 

夏休みに仕事を押し付けてきたんだ。

これくらいの意趣返しぐらい別にいいだろう。

それに苦しんでる平塚先生からしか得られない何かがある。

 

「あぁ、そうか。その子、ヒキタニくんの妹だったのか」

「おい、何回教えたら学習するんだ。ウチの小町はお前にはやりません!」

 

狙ってるのか、俺の妹を!

退け、俺がお兄ちゃんだぞ!あまり小町に近づくなよ!

血を見ることになるぞ、俺の!

 

「葉山隼人です、よろしくね小町ちゃん」

「小町、ソイツはロリコンだ。喋るんじゃないぞ」

「誤解を生むようなこと言わないでくれるかな!?」

「見てろよ、この林間学校でも小学生女子とばっか喋ってるからな」

「おい、本当にやめろ!」

 

然りげ無く小町を俺の背後に隠して、葉山からゆっくりと離れていく。

来るなよ、来たら小町がどうなってもいいのか、言い訳ないだろ!

 

「お兄ちゃん大変!妹過激派として錯乱しているよ!」

「狂ってるのは俺じゃない、世界の方だ」

「ダメだ、あまりのイケメンにお兄ちゃんが絶望している」

「うるせ、ほっとけ」

 

俺も無用な争いはするつもりはない、だが小町狙いと分かったら話は違う。

ウチの小町は我が家のアイドル、アイドルは結婚しない、つまり小町は結婚しないの!本当だもん!

そんなやりとりをしていたら思わぬところから追撃が来た。

 

「確かに大変かもしれない……ヒキタニ君受けオーラ凄いよ!ヘタレ受けって感じだから迫られたら即落ちそう!」

「おい初めての会話がそれでいいのか!出てねぇよ、出てるとしたら絶望のオーラくらいだよ。馬鹿野郎おまえ、俺は勝つぞ!」

「えっ、つまり誘い受けってこと!?」

「なんでだよ!なんで受けのままなんだよ!この筋肉を見ろ、普通に力で抵抗するわ」

「ふむふむ、うへへへ……つまり筋肉受けということですね」

「違う。全然、違うよ!受けが強いってガードが固いってこと?俺、戸愚呂兄ってことなの?」

「誰それ」

 

知らねぇのかよ、格ゲー界でも屈指のクソキャラだぞ。アイツ、体力全然減らないからな。


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