胸騒ぎがした。それも飛びっきりの胸騒ぎ。……なにか拙い事があったのかもしれない。早くフランの所へ向かわなきゃ。
レミリアは館の中であるにも関わらず、羽を広げて飛翔した。
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フランが幽閉されているとされる地下室までもう少し。
レミリアは朝昼晩の三食をよくフランの元へ持っていっている。給餌係とも言われるそれは、妹の為ならばと思い積極的に引き受けていた。
フランの部屋は人形で溢れていて、常に暗い。明るさに関しては吸血鬼の弱点上仕方がない所はあるが、人形の方はレミリアには受け入れる事は出来なかった。
可愛い人形ならば、レミリアも気に入っていた。可愛い人形ならば。
部屋に溢れ返っているのは、いずれもはらわたが引き出されている人形達。それも禍禍しい物から、人の内蔵が入っている物まで様々だということだ。
気が触れている……と周囲には言われているが、その言葉を聞くたびにレミリアは言いようもない不安と憎悪に心中が満たされる。
誰があの子を幽閉したと思うんだ。
お前らはフランと接したこともないくせに。
勝手な事を言うな。
494年も幽閉されていたフラン。産まれた時からずっと、あの地下室で独りぼっち。それが勿体無くて、悲しくて、姉としてとても複雑な気分だった。
「フラン……無事でいて」
後は次の曲がり角を曲がるだけで、地下室に続く通路が見える。レミリアは一分の望みを賭けて、曲がり角を曲がった。
「お姉様! 蓮ちゃんを……私の友達を助けて!!」
途端に呼ばれたのは、お姉様という一人の人物しか呼ばない呼び名。まさかと思って近寄ると、そこには地下室にいるハズのフランが、私と同じくらいの女の子を抱き抱えていた。よく見ると、フランの方も片腕と両足を怪我している。だが吸血鬼の治癒力で治癒は始まっているようだ。血が飛び散っていないのが不思議だけど。
「……ッ! フラン、なにがあったの。説明して!」
「それが、私のせい、私のせいなの!」
顔を泣き腫らして出てきた言葉は、『私のせい』。直感的になにがあったのかを理解できた。それに、抱き抱えられた女の子の肩には、レーヴァテインが突き刺さっているではないか。
顔も至るところが血濡れで、腹部には大きな打撲傷。そして厄介な事に、今もなおレーヴァテインが女の子の肩を焼いていて、女の子の肩の肉は今にでも千切れそうだ。
「フラン、貸しなさい。お姉ちゃんがなんとかしてあげるわ」
フランから女の子を受けとる。血の気が引いていて、すぐに処置を行わないと拙い事はすぐに分かった。
「……フンッ!」
レーヴァテインの刺さる肩を、根本ごと切断。血が吹き出るまでに、刹那の猶予が与えられている。吸血鬼とは、鬼の力と天狗の素早さを持った最強の種族。刹那の猶予など、レミリアにとっては十分過ぎる時間だ。
肩に刺さっているレーヴァテインを抜き、切り口を焼く。肉を焦がす匂いが辺りに広がるも、血は出なかった。初めてやってみたが、意外と上手くいったようだ。
取り敢えず化膿や失血は避けた。これ以上の処置は私には出来ない。近くに有能なメイドが入れば……と思わんばかりである。
「フラン、落ち着いて。致命傷は処置したわ。これで一応大丈夫だとは思う。そして、お姉ちゃんになにがあったのかをゆっくり説明してくれないかしら?」
フランは泣きながら、何度も頷いた。
494年、一度も地下室以外で関わらなかった二人。姉妹の溝は深く、修復にも時間を要するだろう。しかし、この日を境にしてそれももう終わる。
姉妹の邂逅。それは望んだ形ではなかったけれど、二人の心に少しばかりの安息をもたらした。