東方付喪録   作:もち羊

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118季 月と秋と木の年
招待


 やっべー。超憂鬱だ。どれくらい憂鬱かっていうと、私の頭の上に咲いている蓮の花がだれるくらい憂鬱。

 

 事の発端は例の吸血鬼異変が終わって一ヶ月後。なんと紅魔館の現主であるレミリアから招待状が届いたのだ。内容はなんだったっけか。えーっと、ああそうだそうだ。

 

 確か『人間を拾ったの。それもとっても可愛い娘よ! 賢いし吸収も良いしでうちの館のメイドに教育しようと思うんだけど……あなたも見に来ない? 勿論チルノと大ちゃんも一緒よ!』との内容だった。

 その手紙に対して、いつの間にか私やチルノちゃん、大ちゃんとも仲良くなってて、紅魔館の主はコミュ力豊富で将来が楽しみだなーと老人の如く感想を述べていたら、気づいたら夜になってたの。

 

 いや嘘とか超能力とか、そんな高尚なもんじゃない。もっと、そう、うん。まぁ正直言うと普通に寝てたんだけどね。完全に夜までグースカピーときたもんで、約束をすっぽかしてたってもんよ。

 その……謝ったよ? 真剣に土下座までしたさ。フライングまで頑張ったさ。けどね、約束をすっぽかして謝りに行ったときのレミリアの泣きそうな顔が、頭から離れんわけよ。

 

 それで冒頭に戻るんだけど、実は今日もまた招待状が届いたんだ。内容は今年に起こす異変の打ち合わせについて。これは私が気絶してたから後で聞いたんだけど、どうやらこの幻想郷を統括するお偉いさんの命令でやらねばならないらしい。紅魔館も大変だなと思いました。

 そして手紙には寝坊するなとの文面も書かれていて、あ、これ行かなアカン奴や……と感じて大ちゃんとチルノちゃんと共に、現在紅魔館へ向かっている途中です。

 

 霧の湖は既に半分近く凍らせていて、歩いて紅魔館に迎えるほど進捗した。それと身長も5cmほど伸びたのである。多分今は135cmくらいかな? チルノちゃんが私を見上げるようになり、妖精の中でも比較的高身長の大ちゃんも超えてしまった。どうやら私の中に眠る成長期ってやつは、まだまだ暴れたりないようだ。

 

 ぶっちゃけ湖を凍らせているついでに気づいたんだけど、霧の湖って意外と小さいのね。昼間に湖を覆う霧のせいで凄く大きく見えていたけど、よく見てみたら一周するのに一時間も掛からないくらいの大きさだ。

 

「はぁ……ふぅ……今年の夏も暑いねぇチルノちゃん」

 

 隣で額の汗を拭う大ちゃん。その可愛い容姿余ってかとても絵になるぅ!

 反対にチルノちゃんは少し疲れている様子だ。まぁ夏だもんね。氷の妖精には辛いモノがあるよね。でも暑いなぁくらいで済ませるチルノちゃんって、結構凄いと思うんだよね。

 

 私? 私は三人の中で一番バテてるよ。うわ情けない。

 

 なんやかんやてんやわんややっている内に、立派な館の前に着く。今日も門番の美鈴さんはグースカピーだ。あれ? なんだかデジャヴが。

 

「美鈴さん? おーい美鈴さーん」

 

「はいはい起きてますよ」

 

 いやどこのボケ老人だ。

 

「取り敢えず通って良いですかね」

 

「既にお嬢様から許可は頂いております。中へどうぞー」

 

 美鈴が門を開けてくれた。吸血鬼異変から一年近く経った今、美鈴も門番としての意識と板は付いてきたと思う。それに、彼女も毎日楽しそうだ。

 

 門から入ると、館の入り口までに大きな庭園が広がっている。その庭園は初めて来た時のような荒れ果てたヒャッハーの面影はなく、色とりどりの花が咲き乱れる綺麗で落ち着く空間となっていた。

 この庭園を管理しているのが美鈴というのだから、彼女が普段寝ているだけではないと分かる。

 

 庭園の周りでは妖精メイドがぱたぱたと飛び回っており、そんな妖精メイドに対して仕事に精を出しているなぁと感じる。これを社畜と言うのかもしれない。

 

「あの子達、大変そうだけど楽しそうね。あたいも混ざろうかしら」

 

 なんだか嫌な予感がするからやめてください。お願いします。

 

「ダメだよチルノちゃん! 確かに楽しそうだけど、あの子達の仕事を私達が奪っちゃダメー!」

 

「むー大ちゃんはケチね!」

 

「ケケケケケケ、ケチ!? な、なによチルノちゃんったら! このアホんだら!」

 

 私を挟んで喧嘩するのやめてほしいなぁ。結構切実に。いやね? 別に良いと思うよ喧嘩くらい。でもさ、なんか寂しいじゃん。私蚊帳の外でさ、なんかぼっちみたいじゃん!

 いや待てよ。じゃあ私も喧嘩に参戦すれば良いんじゃないかな? おっ、名案湧いてきたよ。さぁ構って構って、私を構って。

 

「フッフッフ。貴様ら、私を挟んで喧嘩とは良い度胸じゃな──────」

 

「あんたらいつもうるさいわねぇ。フランが起きるわ、静かになさい」

 

 あ、レミリア参戦。そして終息。なんと紅魔館の主は鶴の一声を使えるようだ。そして私は参戦出来ずショボーンである。泣いてなんかないんだからねっ!

 それにしても、レミリアは一体どこから現れたのだろうか。ある程度動体視力に定評があるともっぱらの噂である私でさえ、彼女の速さに追いつけなかったし見えなかった。

 

 レミリアを見ていると、改めて吸血鬼の強さを実感させられる。そしてたまに感じる彼女の言動の幼さに、この娘も年相応なんだな……と実感させられる。

 

「さぁ、今日は異変について語り合いましょう。私の部屋まで案内するわ。着いてきて」

 

「あーい」

 

 レミリアに導かれ、私達は紅魔館の中に入っていく。

 

「あれ? 紅魔館ってこんなに広かったっけ?」

 

「あら言ってなかったかしら。……いえ、あなたは以前寝ていて来ていなかったわね。これは咲夜の能力よ」

 

 うぐ、痛いところを突いてくる。霧の湖の深さ以上に反省してるから、もう私のウィークポイントを弄らないでくれぇー! 私のライフはもうゼロよ……。

 

「ふふっ、冗談よ。私はもう気にしていないから」

 

「…………なんかごめんなさい」

 

 笑えねぇー! 全然笑えねぇー! 笑えば……良いと思うよ、なんて思えねぇー!

 とにかくなにか返さねばと思ったけど、私の数少ない語彙力ではレミリアの満足する返答は出来ぬと思い、取り敢えずもう一度謝っておいた。

 

 そのままチルノちゃんと大ちゃんを含めた四人で会話していると、レミリアの部屋らしき場所に着く。その部屋はこの紅魔館の一番高い部屋で、一番端の部屋だ。

 内装は館とおなじような赤色で統一されており、柔らかそうなソファが中央の机を囲んでいたり、天蓋付きのベッドがその奥に置いてあった。

 なんとまぁ豪華なお部屋。私も住みたい。居候させてもらいたい。ペットとしてでも良いから住ませてもらいたい。プライドなんて三食昼寝付きの条件の前に置いてきたわ!

 

「じゃあ適当に座って。美鈴や咲夜、パチェとフランとはもう打ち合わせ済んでるから、後はあなた達だけなのよ」

 

「ひゃっふー!」

 

 許可が下りたと思いきや、すぐさま天蓋付きのベッドに飛び込んでいくチルノちゃん。うん。分かる。その気持ち凄く分かるよチルノちゃん。私もそのベッドに飛び込みたい気持ちで一杯なんだから。

 

「ちょっとチルノちゃん!? レミリアさんまだ話してるよ!?」

 

「……チルノには大ちゃんから言っておけば良いわ」

 

「え!? それで良いんですか?」

 

 え、なにそれズルい。私もベッドに飛び込んだらこの堅苦しそうな会話から抜け出せるかな。

 

「……蓮はダメよ。しっかりここで話に混ざりなさい」

 

「…………はーい」

 

 どうやらレミリアには私の魂胆がお見通しだったようで……私は大人しく彼女の言いつけに従った。

 

 ソファに座ると、先程までなかったお菓子類と紅茶が置いてあった。なにより紅茶に関しては、今まさに入れたてと主張するように波紋が立っていた。

 

「え!? あの、その、この紅茶はどこから……?」

 

「はぁ……あの子ね。もう、悪戯好きなんだから。咲夜ー、姿を現しなさい」

 

 彼女が両手をパンパンと打ち鳴らすと、どこからともなくメイド服に姿を着飾った、十歳くらいの可愛らしい女の子が現れる。綺麗な銀髪をたなびかせる女の子は、メイドとして完璧な所作でお辞儀をした。

 

「大ちゃんは知ってると思うけど、この娘が咲夜よ。……ありがとう咲夜、下がってなさい」

 

 無口で無表情なメイドはレミリアから一言命令が下ると、私の目の前で消えるように姿を消した。

 

「え、今のって……瞬間移動?」

 

 瞬間移動に反応したのか、大ちゃんがこちらに勢いよく振り返る。いや大ちゃんの事ずっと瞬間移動って呼んでいた事あったけど、今のは違うから。咲夜ちゃんの事について聞いてたから。うん、勘違いだと分かって顔を赤らめる仕草、超可愛い。

 

「いいえ、咲夜は時間を操れるのよ。この屋敷の広さが外観と合わなかったのも、咲夜の能力の延長線上に空間操作があるからだわ」

 

「と、時を操るの!? 最強じゃん!」

 

「え! さいきょー!? どこどこ! さいきょーがどこにいるの!?」

 

 さいきょーに反応したのか、チルノちゃんがベッドの上からこちらに勢いよく振り返る。いやチルノちゃんの事ずっと、必ずさいきょーになれるよって励ましていた時期があったけど、今のは違うから。咲夜ちゃんの事について聞いてたから。うん、勘違いだと分からず右往左往する仕草、超可愛い。

 

「ま、仲良くしてあげて。彼女は無愛想に見えるけど、意外と感情豊かなのよ?」

 

「お幸せにしてあげてください」

 

 もうね、レミリアが咲夜を語る姿は既に主従関係というよりは家族みたいな感じだったね。

 微笑ましいと思うと同時、少し羨ましく感じた。

 

 

─────────────

 

────────

 

 話は議論というより説明に近いもので、着々と時間は過ぎていった。なんでも紅い霧を幻想郷中にばらまいて、人間達を困らせようという内容らしい。もしこの霧を吸引したとしても少し体調が悪くなるだけのようで、彼女なりに安全面も考えていたようだ。

 

「それで私達はどんな場所に待機していれば……」

 

「それなら既に決まっているわ。霧の湖でチルノと共に巫女を迎え撃てば良いの。どんなルールで戦うかは後で教えるわ」

 

「分かりました……」

 

「あれ? 私は?」

 

「蓮は適当に待機しといて」

 

「はーい」

 

 若干私の扱いが雑なような気もするが、逆に考えればそれだけ自由に行動できるというわけだ。よし、良いこと考えた。

 私が自分の神がかり的な発想ににやついていると、レミリアがこちらを見て息を吐いた。……なにか凄くバカにされた気がするぅ!

 

「それで、本題はこれからよ。……実は今回の異変にはとても深刻な問題が一つあるの」

 

 突然神妙な面持ちになったレミリアを見て、私達は喉仏を鳴らす。これだけしっかり考えられていて、安全面も異変の範囲、理由も問題なんて無さそうに見えたが……一体どんな問題があるというのか。

 

「深刻な問題ってなんですか……?」

 

 レミリアは少し間を置いた。とても言いにくい内容のようだ。静寂が包む空間に汗の落ちる音だけが響いた。

 

「問題……それは……」

 

 やっとレミリアが口を開く。ああ、息苦しい。なんて言われるのか、どんな難題が待っているのか。考えるだけでとてつもない不安に襲われる。早く、早く、と心臓が早鐘を打ち、レミリアの次なる言葉を無意識の内にせがませた。

 

 そして、告げられる衝撃の問題。

 

「なんと……異変の名前が決まっていないのよ!」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 それはなんとも気の抜けた問題であった。

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