東方付喪録   作:もち羊

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幻と現と嘘

 魔法の森の中を、箒に跨がって進んでいく魔理沙。向かう先は魔法の森の向こう、霧の湖の中心に位置する紅い屋敷だ。

 どうにも近くで浮いていた妖精達に聞いてみると、あそこから紅い霧が出ている事を見掛けた妖精が多々いるみたいだ。

 

(どうもその場所が怪しそうだな……)

 

 魔理沙が頭の中で異変について考えていると、どこかで爆発音が聞こえた。

 普通、日常で聞くはずもない音。魔理沙という人間はどうやら非日常が好きなようで、それは本人も自覚している事だった。だからこそ、なおのことたちが悪い。

 

(ちょっと向かってみるか)

 

 誘われるように音がした方向へ向かっていくと、そこには一人の少女が倒れていた。

 魔理沙が思っていた事態とはまた違った事で、普段の横暴な態度は鳴りを潜め、ついつい自分に似合わぬような行動をとってしまう。言うならば、人助けだ。

 

「お、おい、あんた大丈夫か?」

 

「い、痛いよぅぅ」

 

 桃色の髪に背丈は小さい。私くらいだろうか? 

 どうやら泣いているみたいで、流石の私でも放っておくことは出来ず、魔法の箒から降りて近寄る。ぎょっとした。なんと女の子の左腕が、肩から先無くなっているのだ。だがおかしいことに血は出ていない。そして気になったのは、女の子の頭にかんざしの如く差してある綺麗な蓮の花だ。

 

「おい、どうしたんだ? なにかあったのか?」

 

「うっううぅ、お姉ちゃん誰ぇ?」

 

「私は霧雨魔理沙。魔法使いだぜ!」

 

「魔法使い? だったら魔法が使えるの?」

 

「ああ、そうだぜ」

 

「じゃあ、あっちにいる幽霊倒してきてよ。私のお母さんその幽霊に襲われて……うぅぅ」

 

「そうか……お母さんが襲われているのか。その割に静かじゃねえか? 襲うためにあんな爆音まで出しておいて……なぁ妖怪」

 

「…………」

 

 実は気づいていた。こいつが妖怪だということを。しかし妖力も魔力も一切悟られないのは凄いと思った。腕も切断面が綺麗過ぎるし、なにより包帯も巻いていない。まるで怪我してますよと主張するかのように不自然だ。

 それにもう一つ。まず健全な母親だったら、こんな危険な森に娘一人を連れてこないさ。

 

「……あ~バレちゃったか」

 

「結構不自然な点は多かったぜ? それじゃあ演者になれないな」

 

「取り敢えず魔理沙ちゃんだっけ? ここ、通れば良いよ。博麗の巫女が来る前に一度テストプレイをしてみたんだけど、この有り様じゃ無理かな……」

 

「博麗の巫女?」

 

 その言葉は聞き捨てならなかった。

 博麗の巫女。博麗大結界を維持する要でもある、博麗神社の巫女をその総称で呼ぶ。現博麗の巫女である霊夢とは、幼い頃からの付き合いだ。今では親友と呼べる間柄と言っても過言ではない……はず。

 この妖怪の言っている事が本当ならば、その霊夢が今日ここを通るということだろうか。そしてこの妖怪は、そんな霊夢を騙し討ちしようとしていた……と。

 

 まぁ、あの霊夢がこんな簡単な悪戯に引っ掛からないと思うが、憂いは断っておきたい。

 

「さてさて、私は忙しいからまたねー」

 

 その妖怪は、その場を後にしようとしている。アイツが来る前に、なんとか引き留めて退治せねば。

 

「ちょっと待った!」

 

「え……何?」

 

 ソイツは動きを止めた。第一関門は通ったな。

 

「最近広まった幻想郷の決闘ルールくらい知ってるよな?」

 

「弾幕ごっこでしょ? 知ってるよ」

 

「じゃあ私とその弾幕ごっこを興じてみないか?」

 

「やだよ。私弱いもん」

 

 何言ってんだコイツ。妖怪がただの人間より弱いわけがないだろうに。さては……私を油断させようとしているのか。

 

「ハッ、生憎その手は通じないぜ。私を油断させようとするなら、もっと上手い手を使ってくれ」

 

「美味しいお手々ならもう無いからね」

 

 妖怪が手が生えてない肩をフリフリと振った。

 

「上手い手ってそういう意味じゃないからな?」

 

「……とにかく、私は戦いたくないの」

 

「そりゃ困るぜ」

 

「あー、ひょっとしてバトルジャンキー?」

 

 妖怪がなにか可哀想な者を見るような、そんな冷ややかな目で見てきた。おいおい、そんな熱い瞳で見つめないでおくれ。

 

「ジャンキーじゃないさ。お前のこれから起こす悪戯が問題なんだ」

 

「……巫女さんに随分とご執心だね」

 

「自覚、しっかりあるじゃねえか。さてさて弾幕ごっこと行こうぜ?」

 

「私の能力は『界を結ぶ程度の能力』。縁も界の内よ。結ぶ事も、絶つことも可能。貴女と巫女の縁、絶ってあげようか?」

 

「おうおうそりゃ怖い。初めて友達になる経験と達成感を二度も味わえるとは、良い能力じゃねえか」

 

「……もう決めた。なんか凄くムカついたし、ここでけちょんけちょんにしてやるよ!」

 

「ははは、先に訂正しとけよ? けちょんけちょんじゃなく、消し飛ばすってな。私の攻撃くらって、それでもそんな軽口叩けるんなら、弱くないと思うぜ?」

 

 さて、私は魔法の箒に跨がり飛び上がった。妖怪の方はなにを思っているのか、飛ぶ様子はない。意外とアイツ、私の事舐めてるのかもな。だったら後悔してくれれば良いんだが……私のマスタースパークをくらった後でな!!!

 

「一気に決めさせてもらうぜ? 恋符『マスタースパーク』」

 

 八卦炉を取り出し、ありったけの魔力を注ぎ込む。光が八卦炉の中心に集まっていき、影が引っ張られてくる。熱も、力も、光も集め終わったとき、一瞬の閃光が走った後に、マスタースパークは放たれた。

 光の奔流。そうとしか形容できない程のパワーと威力。近くにあった太い大木もその力の前に屈し、枝の先に止まっていた小鳥達は大慌てで空の果てに逃げていく。

 

「ハッハァ! 弾幕はパワーだぜ!!」

 

 それだけの力を示しても、奴は逃げない。戦かない。目も瞑らない。

 ……心底私のマスタースパークを侮っているようだが、その魔法はどんな妖怪にでも通ずる特殊な魔法だ。例え自分がどんな力を持っていたとしても、その力はマスタースパークに触れた途端霧散する。

 その事を教える義理もないし、避けもしない奴が悪い。弱いかどうかは知らないが、存分にその魔法の威力を、パワーを味わいやがれ。

 

 ───光の奔流が終わった。

 残ったのは抉れた大地と砂煙のみ。どうやらあの妖怪は消し飛んじまったみたいだ。……はぁ、意外と呆気なかったな。

 

 私はマスタースパークで開けてしまった魔法の森を見ながら、その先にある霧の湖を見据えた。夜であるからか、霧はかかっていないようだ。そして確かに見える。場違いな紅い館。月明かりに照らされて、ぼんやりとその姿が浮かび上がっている。

 

(あそこが異変の元凶か)

 

 館を目的地と見定め私が飛び立とうとすると、その時なにかが私を通り抜けた。

 

「な、なんだ!?」

 

 周りを見渡すと、遠くになにか膜のような物が張られている事が確認できた。私を閉じ込めた……ってわけか。

 

「おーい、私を無視するったぁ随分な余裕だね?」

 

「なんだ、生きてるじゃねえか」

 

「そりゃあ生きてるさ。生きたいもの」

 

 砂煙から姿を現した、軽口を叩くそいつの周りには、さっきと同じような膜が幾重にも張られていた。もしやあの膜で身を守ったのかもしれない。なんだ、十分戦えるじゃねえか。

 

「それと魔理沙ちゃんにはこれをプレゼント。

界符『夢想反射境』」

 

 奴がスペルカードを宣言する。すると、奴の手の平に小さな膜が出来た。

 

「この結界の中にはねー、私が神力を使って発生させた一つの弾があるの。これをこの増加と減少の結界の中に入れておくと……ほら、もう64倍だよ」

 

 おいおいおいおいまさか……こいつ、その結界の中で圧縮し続けた弾を一気に解放させるのか。今では64倍と言わず、既に結界内は弾で埋め尽くされて一片の隙間もない。

 

「じゃあ行くよ。これだけの弾が貴女を襲うなんてまさに地獄さながらじゃない?」

 

 待て待て待て待てッ! ほんとにそれを放つのか!? おいおい、それじゃあ弾幕ごっこじゃないじゃないか。美しさを競うのに、殺傷能力を競ってどうするんだ?

 

 だがソイツは結界を緩める気もなく、すぐさまその結界を解き放った。

 

「じゃあねー、可愛い魔法使いさん」

 

「ちょっ、まっ──────」

 

 途端、目を焼くような閃光と爆発。────がしたかに思えた。

 瞑った目を開けてみると、そこはさっきと同じ風景。爆発は? 結界は? 弾幕ごっこは? 様々な疑問が頭を駆け巡っていた私だが、下にいる奴の声で我に帰る。

 

「ごめーん、今の全部嘘なんだー!」

 

「……………………は?」

 

「まず私、妖力とか無さすぎて弾作れないから、スペルカードも持ってないんだ」

 

「……………………」

 

「それに、最初の結界は『幻と現の結界』って言って、中にいる人に幻を見せる事が出来るんだよね。だから魔理沙ちゃんが魔法を放った辺りから、全部幻ってわけ」

 

「………………れ、れれ」

 

「いやーそんなに驚くとは思わなかったからつい……。いやほんとごめんね?」

 

 頭を掻きながらさもしてやったりといった顔をする奴に向かって、私はもう一つのスペルカードを唱えた。怒りのスペルカード宣言である。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』えええええ!!!」

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

 星の魔法が私の周りを飛び交い、全てが奴に向かっていく。突然のことに面食らったのか、ソイツは避ける事もせず弾幕の嵐に沈んでいった。

 

「……ふぅ。さて、先に進むか」

 

 スッキリした私は帽子にかかった埃を払いのけ、意気揚々と屋敷の方へ進んでいった。

 

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