東方付喪録   作:もち羊

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なんとか更新できました。


紅の門番

 箒で湖を横断するが、特になにか変わった様子はなく、呆気なく湖の中央にそびえる館に辿り着いた。

 罠かと疑うべきだろうか。しかし実際なにもなかったのだから、警戒心を持ち続けるのも滑稽というもの。

 

「えーっと、どこか開いている窓は~っと。あれ? この屋敷、窓が一つも無いじゃないか」

 

 これは困った事になった。。いつもの如く、どこか窓から忍び込もうと思っていたのだが、どうやらこの館には窓が無いようで正面突破しか道はないようだ。

 

(チッ、正面突破はガラじゃないんだけどな……)

 

 大人しく引き返し大きな門の所へ戻ってくる。洋風建築で、凝った装飾品もないただの堅牢な門。まぁそれだけだったら、一番良かったんだけどなぁ。

 門の横には、一人の綺麗な女性が佇んでいた。壁に背を預け、目を瞑って寝ているようだが……なんだか嫌な予感がする。ここは一旦距離をとって、取り敢えず先手必勝だ。

 

「『マスタースパーク』」

 

 大きな光が集まっていき、それらは色を形成していく。優しい若葉色のものから、激しい赤色まで。八卦炉から放たれたと同時、それは徐々に外側へ押し出すように広がっていく。

 湖が割れた───と錯覚するほどの極太レーザーが、湖の水を巻き上げながら進んでいく。その圧倒的な大質量は遠くからでも見えるほどで、湖の上空で妖精達と戦い終えた博麗の巫女もそのレーザーを察知、視認した。

 

 直線的に進むマスタースパーク。

 当然門を守る門番……美鈴も、その存在に気づいていた。だが彼女にはどうする術もない。近接戦闘ならば分からないが、弾幕ごっこは苦手の部類に入るのだ。

 

「はぁ……。弾幕ごっこは私の負けで良いですよ。けれど、門番の仕事は最低限果たさせてもらいます」

 

 魔理沙との距離は数キロ先までのぼる。あちらは空中。こちらは地上。一応少しだけなら飛べるとはいえ、ほぼ無制限に飛べる方が有利なことに変わりはないだろう。故に、なにもしなかった。

 まず門番とは積極的に戦う役職ではない。守れれば良いのだ。今回は、侵入者を通すことになりそうだが。

 

 マスタースパークが迫る。既に紅魔館に大穴を空けそうな勢いと質量を持って。

 気を集めていく。全身から。自然から。地面から。大気中から。集められた気は、張り巡らせる事でその部分の強化に使えるのだ。

 

 足に気を巡らせる。支え。

 脚に気を巡らせる。重し。

 腰に気を巡らせる。重心。

 腹に気を巡らせる。源。

 腕に、指先に気を巡らせる。技巧。

 

 息を吐いた。空気は逃げるが気は逃げない。

 

 マスタースパークが紅魔館に接触するギリギリ。両手をかざす。向かってきたマスタースパークに、かざした両手が沈んでいった。

 途端、焼けるような痛みが両手を襲う。予想以上だ。そしてこれでもう私は被弾した。弾幕ごっこはこれで敗北という言い訳が出来る。

 

 気を浸透させて行く。痛みを無視して浸透させ続ける。そして、掴んだ。マスタースパークを形成する魔力の素を。

 

「ふぅーーー、フンッッッ!!!」

 

 捌く。捌く。捌く。出来るだけ外側に逸らしていく。空気を掻き出すように受け流し、全身を使って方向を変えていく。

 気を浸透させているお陰で、触れる筈もない魔力の素をなんとか固形化出来ているが、圧倒的な質量には勝てそうにもない。だから、少しだけで良い。少しだけ先端の向く方向を変えるだけで良い。

 

「く、うぅ、ぁああああああ!!!」

 

 気を手繰れ。拡大解釈を続けるのだ。

 そして、とうとう先端を逸らした。ここからはキッカケと道を作ってやれば良い。

 

「フシュッッッッ!」

 

 折れ曲がる軌道。今度はこちらからアクションを加える。後続する光に刺激を与え、方向を前方の光に合わせるのだ。後は流れ作業に近い。根気と我慢の勝負である。これはどちらも得意だ。

 そして最後の光を捌ききると、様々な色の残像を残した尾が綺麗に湖の上に浮かび上がる。これだけで芸術的だと表現しても、お釣りが来るくらいだ。

 

 私は限りなく圧縮した体感時間を体験していたせいか、疲労が私の腰を折った。力なくへたれこむ。

 すると、肩で息をして呼吸を整える私に影がかかった。それは箒に乗る少女の姿だ。

 聞かされていた博麗の巫女とは服装が違うし、特徴も一致していない、魔女のような格好をした少女。多分この少女は自ら異変を解決しに来たのであろう。

 

「……私はもう動けません。今この門を超えたとしても、私は疲労で気づかないかもしれません」

 

「じゃ、遠慮なく行かせてもらうぜ。……裏口とかはあるのか?」

 

「あっち」

 

 この少女なら、なんとなく探し当てるような気がした。案内なんてする余裕も余地も無し。彼女なら別にどうなっても構わないし、今くらいの魔法が放てる実力があるのならば十分だ。

 ということで、私は寝させてもらおうかな。昨日の夜から緊張でほぼ眠れていない。今が咲夜さんに気づかず眠れるチャンスだ。

 

「ねぇ」

 

 声が降ってきた。その声は凛として透き通るような声で、つい上に振り返るとそこには当の巫女がいた。聞かされた通りの風貌。この少女が正真正銘博麗の巫女か。

名前は……たしか博麗霊夢だったはず。

 

「……なんですか? 私の腕は今こんな状況なので、弾幕ごっこは遠慮願いますよ」

 

 さっきの魔法で焼け爛れてしまった両手をぷらぷらと振り、自分が戦えないアピールを必死に伝える。

 霊夢はそれを一瞥するが、すぐに目線を逸らした。目線の先は、既に紅魔館に向いているのだ。

 

「紅い霧はここから出てるの?」

 

「さぁ? お嬢様に聞いてください」

 

「この館のお嬢様が犯人なのね」

 

「ハハッ、末端妖怪である私にはさっぱり」

 

「嘘ね。あなた強いわ」

 

 この巫女、誘導尋問巧いなぁ。話していくと、こちらがどんどんボロを出してしまう。妖怪と相対することに慣れているって印象だ。

 しかしよく見ると、そんな巫女の身体には幾つもの切り傷が刻まれている。血が出ている箇所もあるようだ。痣の形や、指先に見える震えから、多分チルノの弾幕でも味わったのだろう。

 弾幕ごっこを望んでいないのは私だけではない。この少女も、また望んでいないのだ。消耗を抑えたいから───というのが最もな理由だろう。

 

「お褒めに預かり結構。そして、ようこそ紅魔館へ。この館は悪魔でも神でも巫女でさえも受け入れます。さぁどうぞ、お入りになってください」

 

「やけに素直ね、怪しいわ……。まぁ手間は省けるし、別に良いんだけど」

 

「あ、そうだ、館に勤めるメイド長にはお気をつけを。油断していると、切り傷がもっと増えるかもしれませんよ?」

 

「うっさいわね。そんなこと分かってるわよ」

 

 博麗の巫女はお喋りを止めて、門を軽々と超えていく。ああ、やっと私の役目は終わった。今年の博麗の巫女は結構曲者だった。妖怪退治を主な仕事にする役職柄、その素面は激情家から面倒臭がりまで極端になりやすい。心の芯が強いのだ。

 幻想郷にはかなり前から住み着いているが、霊夢のようなタイプの巫女は初めてだ。まるで空気と喋っているよう。……だが、その性質こそが巫女を弱音も吐かずやっていくコツなのかもしれない。

 

「はぁーー、お嬢様大丈夫かなぁ。ちゃんと台本通りに、そしてアドリブにもしっかり対応出来るかなぁ」

 

 あのお嬢様の事だ。いざ巫女と対峙したかと思うと、緊張と上がり性で頭が真っ白になり、セリフを忘れてあたふたしながら最後に噛んで終了……とならぬ事を祈るばかりである。

 

 いや、お嬢様を信じよう。私は今は従者だ。主人を疑って良いはずがない。この紅霧異変も既に折り返し地点。

 異変の終幕まで、残り時間は少ないだろう。けれど見守るしかない。上手くいくように……と願うしかない。だがどんな結末になろうと、あの巫女と黒白の少女。そしてお嬢様や妹様、咲夜さんの良い刺激になる事は、間違いないだろう。

 

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