突き抜けるような夜空が広がっていた。様々な等星が自らを誇示するその時間は、一種の幻想空間。排気ガスやらに汚染された現代では、あまり見られない光景だ。
私は身体を起こす。どうやら紅霧異変は、レミリア達の負けという筋書き通りに事が進んだようで、辺りを包んでいた紅霧はもうどこにも見えない。
チルノちゃんも大ちゃんも、近くにはいない。まぁどうせ、博麗の巫女とやらにフルボッコでも喰らったのだろう。というか、私の所に博麗の巫女は来なかったんですけど。白黒の魔法使いしか来ていないんですけど。
それに今マズイ事が起こっている。どうやら私の服は、白黒の魔法使いの激しい攻撃によって弾け飛んでしまったようだ。ハッキリと言おう、現在全裸である。
プライドとかその他諸々を捨て去った私でも、流石に開けた森で全裸は恥ずかしいぃー!
その時、柔い風がおへそを撫でる。
「ひゃうぅんっ! ……あ、ヤバイ、気持ち良くなってきた」
流石私。恥ずかしいという気持ちを、ちょっとした気持ちの切り替えで開放感に変えやがった。
って待て待て待て。流石にそれはどうかと思う。私は痴女じゃないんだ多分。
くぅぅ! しかし夏だとしても夜風は肌に染みる。
腰まで伸びた長い髪を弄りながら、私はぽてぽてと歩き始めた。あっ痛い。小石踏んだ。
「ちくしょー、こんなんだったら予備の服持ってくれば良かった」
「そうね、そんなところは昔の貴女と変わらないわ」
「だよねー。全く、私ったら昔からおっちょこちょ……い……で……」
ってなんか声が聞こえたああああああああ!!!
え、ちょ、今の誰だよ。Who are you? あれか、此の地に封印されしなんちゃらかんちゃらとかか!!
考えられる可能性は幾つか。
一つ、迷い込んだ人間。
全裸を見られた恥ずかしさで死にます。
一つ、妖怪。
フルボッコのボッコボコにされて死にます。
一つ、封印されしなんちゃらかんちゃら。
死にます。
全部死んじゃうじゃないかーもー!
取り敢えず、今の声の主は私に危害を加える気は無いのかもしれない。もし危害を加えるのなら、今ごろ私フルボッコのボッコボコだし。
そんな考えに思い至った私は、歩みを止める。
いる……。そう確信するほどの濃厚な気配。まずはあれだ。初印象が大事なんだ。第一声に気合いを入れろ。出来るだけ私は敵じゃありませんよ~というアピールをするんだ。そういうことを何て言ったっけ。ファーストコンタクト?
「ひ、久しぶりじゃないかあははははは。私がいない間、なにか変わったことはあったか?」
……やっちまったぁーーっ!
完全にひきつってるじゃん! 久しぶりとかどこの友達だよ! なんで笑ってるんだよ! 突っこみどころ、多すぎだぁーーーーっ!!
私は心の中で吠えた。満月に照らされら狼の如く吠えた。
なんで私がこんな目に会わなきゃいけないんだよ。一体誰のせいだよ。って私の自業自得だったわ。何も言えないわ。
「……驚いた。まさか貴女、記憶が残っているの? えっと、今の貴女は新しい蓮華……よね?」
えっ、ちょっと待って。全く話が分かんない。というかこの人あれじゃない? まさかのまさか、人違いをしてるんじゃない?
あれだ、森の奥深く、超絶ビューティーな少女が裸で興奮していたと。そして私に声を掛けた人物……声からして彼女には、超絶ビューティーな少女の友達がいたと。あー、これは間違えても仕方ないわ。うんうん、私も、彼女も悪くない。これでグッジョブ。
「あ、あたたた、新しい蓮華?」
「ええ、忘れていないのならば、覚えているでしょう? 桃色の髪、頭に差してある蓮の花、女性、ひ弱で脆弱そうな外見……。髪色は変わっていないけれど、まんま貴女の希望通りじゃない」
全然人違いちゃう。これ完全に私や。
それに……新しい蓮華? 新しい蓮華ってなんだよ。私は私だよ。こんな奴が他に何人もいたら、困る人大勢だよ。
でも、なにか嫌な予感がした。予感というよりは確信に近い。確信を解くために、私は勇気を振り絞って背後を振り向いた。
……そこにはどこか懐かしい、夜なのに日傘を差した妖艶な美女が、空間の裂け目からその身を乗り出していた。
──────────────
─────────
─────
──
夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎて四季が巡り、春が来た。
そこはとある豪邸の庭園。風情のある自然が周りを囲み、さぞこの豪邸に住むものは位の高い者だろうと容易に想像が付く。
『これか、幽々子』
『これがあんたの見せたかった桜か』
ついてきた萃香も、彼女の
『桜は綺麗だ……。だが、こんな花見は無いだろうに』
『おい、蓮華、ありゃなんだい?』
萃香が指差した先には、雪のように白い魂が天へと昇っていく光景が見えた。
高く。高く。魂の数は増え続け、一から十に。十から百に。
『この光景を美しいなんて言った日には、そら死に目になっちまうだろうなぁ』
瞳を伏せる。
寒き冬は過ぎたが、私達に暖かき春は来なかった。