東方付喪録   作:もち羊

26 / 71
118季最終話


Who are you.

 突き抜けるような夜空が広がっていた。様々な等星が自らを誇示するその時間は、一種の幻想空間。排気ガスやらに汚染された現代では、あまり見られない光景だ。

 

 私は身体を起こす。どうやら紅霧異変は、レミリア達の負けという筋書き通りに事が進んだようで、辺りを包んでいた紅霧はもうどこにも見えない。

 

 チルノちゃんも大ちゃんも、近くにはいない。まぁどうせ、博麗の巫女とやらにフルボッコでも喰らったのだろう。というか、私の所に博麗の巫女は来なかったんですけど。白黒の魔法使いしか来ていないんですけど。

 

 それに今マズイ事が起こっている。どうやら私の服は、白黒の魔法使いの激しい攻撃によって弾け飛んでしまったようだ。ハッキリと言おう、現在全裸である。

 プライドとかその他諸々を捨て去った私でも、流石に開けた森で全裸は恥ずかしいぃー! 

 

 その時、柔い風がおへそを撫でる。

 

「ひゃうぅんっ! ……あ、ヤバイ、気持ち良くなってきた」

 

 流石私。恥ずかしいという気持ちを、ちょっとした気持ちの切り替えで開放感に変えやがった。

 って待て待て待て。流石にそれはどうかと思う。私は痴女じゃないんだ多分。

 

 くぅぅ! しかし夏だとしても夜風は肌に染みる。

 腰まで伸びた長い髪を弄りながら、私はぽてぽてと歩き始めた。あっ痛い。小石踏んだ。

 

「ちくしょー、こんなんだったら予備の服持ってくれば良かった」

 

「そうね、そんなところは昔の貴女と変わらないわ」

 

「だよねー。全く、私ったら昔からおっちょこちょ……い……で……」

 

 ってなんか声が聞こえたああああああああ!!!

 

 え、ちょ、今の誰だよ。Who are you? あれか、此の地に封印されしなんちゃらかんちゃらとかか!!

 考えられる可能性は幾つか。

 

 一つ、迷い込んだ人間。

 全裸を見られた恥ずかしさで死にます。

 

 一つ、妖怪。

 フルボッコのボッコボコにされて死にます。

 

 一つ、封印されしなんちゃらかんちゃら。

 死にます。

 

 全部死んじゃうじゃないかーもー!

 

 取り敢えず、今の声の主は私に危害を加える気は無いのかもしれない。もし危害を加えるのなら、今ごろ私フルボッコのボッコボコだし。

 

 そんな考えに思い至った私は、歩みを止める。

 

 いる……。そう確信するほどの濃厚な気配。まずはあれだ。初印象が大事なんだ。第一声に気合いを入れろ。出来るだけ私は敵じゃありませんよ~というアピールをするんだ。そういうことを何て言ったっけ。ファーストコンタクト?

 

「ひ、久しぶりじゃないかあははははは。私がいない間、なにか変わったことはあったか?」

 

 ……やっちまったぁーーっ!

 完全にひきつってるじゃん! 久しぶりとかどこの友達だよ! なんで笑ってるんだよ! 突っこみどころ、多すぎだぁーーーーっ!!

 

 私は心の中で吠えた。満月に照らされら狼の如く吠えた。

 なんで私がこんな目に会わなきゃいけないんだよ。一体誰のせいだよ。って私の自業自得だったわ。何も言えないわ。

 

「……驚いた。まさか貴女、記憶が残っているの? えっと、今の貴女は新しい蓮華……よね?」

 

 えっ、ちょっと待って。全く話が分かんない。というかこの人あれじゃない? まさかのまさか、人違いをしてるんじゃない?

 あれだ、森の奥深く、超絶ビューティーな少女が裸で興奮していたと。そして私に声を掛けた人物……声からして彼女には、超絶ビューティーな少女の友達がいたと。あー、これは間違えても仕方ないわ。うんうん、私も、彼女も悪くない。これでグッジョブ。

 

「あ、あたたた、新しい蓮華?」

 

「ええ、忘れていないのならば、覚えているでしょう? 桃色の髪、頭に差してある蓮の花、女性、ひ弱で脆弱そうな外見……。髪色は変わっていないけれど、まんま貴女の希望通りじゃない」

 

 全然人違いちゃう。これ完全に私や。

 

 それに……新しい蓮華? 新しい蓮華ってなんだよ。私は私だよ。こんな奴が他に何人もいたら、困る人大勢だよ。

 

 でも、なにか嫌な予感がした。予感というよりは確信に近い。確信を解くために、私は勇気を振り絞って背後を振り向いた。

 

 ……そこにはどこか懐かしい、夜なのに日傘を差した妖艶な美女が、空間の裂け目からその身を乗り出していた。

 

 

 

 

──────────────

 

─────────

 

─────

 

──

 

 夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎて四季が巡り、春が来た。

 そこはとある豪邸の庭園。風情のある自然が周りを囲み、さぞこの豪邸に住むものは位の高い者だろうと容易に想像が付く。

 

『これか、幽々子』

 

 ()が大空に広がる中、庭の中央に植えられた桜の木の下で泣き崩れる紫と、首から赤い蝶を何匹も放つ幽々子がいた。幽々子の顔色を見るに、彼女は、もう……。

 

『これがあんたの見せたかった桜か』

 

 ついてきた萃香も、彼女の()に驚きながら、それでも満開の妖桜に魅とれていた。

 

『桜は綺麗だ……。だが、こんな花見は無いだろうに』

 

『おい、蓮華、ありゃなんだい?』

 

 萃香が指差した先には、雪のように白い魂が天へと昇っていく光景が見えた。

 高く。高く。魂の数は増え続け、一から十に。十から百に。

 

『この光景を美しいなんて言った日には、そら死に目になっちまうだろうなぁ』

 

 瞳を伏せる。

 

 寒き冬は過ぎたが、私達に暖かき春は来なかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。