東方付喪録   作:もち羊

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代理役

 慣れない巫女装束に袖を通す。なんで腋の部分が無いのだこの巫女服は。絶対この服装をデザインした奴変態だと思う。

 というか片腕だとすっごく着込み難いんですけど。歯でおさえながら着ないと着れないんですけど。

 

「博麗の巫女の代わりって……あんたか」

 

 目の前で着替えを覗く変態魔法使いを一瞥する。全く、こんなに年端もいかぬ少女が覗きなんて世も末よね。ぷんぷん! ……あ、今自分でやって吐きそうになった。

 

「なんだい白黒魔法使い。そんなに目くじらを立てないでおくれよ。私とあんたの仲じゃないか」

 

「そんなに仲良くもないだろ……」

 

「酷い! 私の服を脱がした癖に!」

 

「いや脱がしてねぇよ!? 勝手な言いがかりすんな!」

 

「その割に……私の着替えを覗いてる癖に。このエッチ」

 

「じゃあ帰るぜ」

 

「待って待って! 待ってください! 寂しいから一人にしないで下さい!」

 

 私は即座に土下座を敢行する。プライド? 美味しかったよ。というかやっぱりこんな暗い神社に一人ぼっちって、絶対なにか出ると思うんだよ。幽霊とかゴーストとか魂が怨念化した奴とか!

 

「お前、妖怪だろ……?」

 

 魔理沙にゴミを見るような目で見られた。気にしないし聞きたくないし聞こえない。

 

「そりゃあ……一応付喪神らしいけどさ。それでもね、寂しいもんは寂しいし、怖いもんは怖いんだよ」

 

 あーこれ決まりましたわー。私の渾身の土下座からの上目遣い。以前より身長も伸びて140台になったとしても、少女然であることには変わりはない。こんな美少女に健気そうな瞳で見つめられれば、どんな存在もイチコロよ!

 

 それでも魔理沙はゴミを見るような目をやめなかった。あ、あれ? 意外と効いてなかった。私の魅力が足りないだけかもしれない。それともあれか? 魔理沙は博麗の巫女である博麗霊夢しか見えてないと。いわゆる百合主義だと。そういうことのんか?

 

 くぁー、こりゃ一本取られた。私の魅力が通じないなんて、おかしいと思ったんだよ。そうかそうか、魔理沙ちゃんはそっちだったか。

 

「いや、勝手な妄想してるところ悪いんだが、霊夢と私の関係は、ただの親友だぜ?」

 

「いやーあれでしょ奥さん、隠さなくても良いんですよ。抱いてるんでしょ? 禁断のこ「マスタースパーク」あべべべべべべ、熱い熱い、弱火地味に熱いから! 私の綺麗な柔肌焦げちゃうから!」

 

 私は魔理沙に傷物にされた肌を優しくさすりながら、魔理沙の方を見た。

 

「……で、私はこの代理について紫から何も聞いていないんだけど、理由の検討は付くかい?」

 

 魔理沙に聞くと、少し間を置いた後に魔理沙の推測とここまでの経緯を聞かせてくれた。

 取り敢えず八雲紫と西行寺幽々子って奴は胡散臭いって事だね! これでQEDだ!

 

「お前、ちゃんと話聞いてたか?」

 

「も、もももも、勿論さー」

 

 あれだろ? つまりアレがアレでアレって事だろ? 結局アレってなんだったっけ。

 

「取り敢えず私はその冥界って所に行って、ちょっとばかしそこの主をぶん殴ってくる」

 

「え、マジで? 物騒じゃね? デコピンくらいにしときなよ」

 

「お前本当に妖怪か……?」

 

 またもや呆れられる。ふーんだ、もう慣れたもーん。

 

「まぁいいか。じゃあ私はちょっくら出掛けてくる。冥界の場所をあの変な女に聞くの忘れてたしな、大人しくしてろよ」

 

「あーい」

 

 勢いよく障子を開けて箒に飛び乗り、雪降る白い世界の中に飛び込んでいった。かなり吹雪いていて、もう既に魔理沙の姿は見えない。

 

 一人になったことで、話し相手がいない。分かりやすく言うと暇だ。なにかしたいけど、大人しくしてろって言われたしなぁ。さて、どうしよう。…………掃除でもするか。

 

 博麗霊夢が使っているとされる博麗神社。よく見てみると雪降ろしもされていないし、掃除が行き届いていない箇所も多々ある。この光景を見て私の血が疼いた。掃除をしろ……と。

 

「よし、やるか」

 

 まずは屋根の雪降ろしだ。私は意を決して障子を開け、外に出る。

 外は当然吹雪に見舞われており、腋出しのちょい露出高めの巫女服ではこの吹雪に耐えれる防御力なんてほぼゼロに等しい。というか完全にゼロである。

 

「やっぱやめよ」

 

 私は障子を閉め、博麗神社にある炬燵を取り出し、中で丸くなった。最高である。もう動きたくない。私は重石だ。

 

 そういえば紫は、なんで私に巫女代理を頼んだのだろう。もっと適任な奴は、この幻想郷のどこかにはいるだろうに。

 

 紅霧異変が終わり、私は紫と初めて対峙した。いや、紫の方は久しぶり……と言っていたが。

 その後、私はあっさりと紫の事は知らないと白状した。だってあれだもん。紫ったら人目見ただけで滅茶苦茶妖力あったんだもん。多分嘘を憑いてたらぶっ殺されてたよ。

 紫は妖力を抑えていたようだけど、私にはまるっとお見通しだ。

 

 白状すると、紫は幾分か落ち込んでいた。多分あっちからしたら覚えていて欲しかったのだろう。……いや知らんがな。

 

 それでも、彼女は言ったのだ。貴女は付喪神の性質・気質を持つのね──────と。

 

 彼女が言うには、彼女の友達に蓮華なる人物がいたらしい。なんとも幻想郷の基盤を作り、自らの命を犠牲にして幻想郷を世界から独立させた人物とのこと。私が付喪神だと思ったのも、その蓮華に聞いたらしい。次に生まれる時は付喪神だーって。

 

 いやそんな凄い人を私と重ねられても困る。だって私の心は楽に生きたいって想いで一杯だもの。

 それに、私の名前はチルノが決めたのだ。同名という意味では合っているが、運命というものを信じなければ私とその蓮華さんは全くの別人であろう。

 

 いつか思い出せるわ、とは言われたものの、いつかなんて分からない。私は気楽に生きるのだ。自分の命を犠牲にするなんて絶対に嫌だ。……友達関係だったら命張るかもだけど。

 べ、別に、あんたの為にやるんじゃないんだからね!

 

 はぁ……くそ、まずはこの寒さをなんとかしなきゃいけないんだよなぁ。というか本当に寒くなってきた。炬燵、ちゃんと機能してるのこれ。

 ……なんだか寒さが尋常じゃない。絶対これ異変だよ。博麗の巫女出動だよ。

 

 私はモソモソと炬燵の中から出る。すると雪が積もっていた。外に……ではない。博麗神社の母屋内に……だ。

 

「あ、やっと出てきた。やっほー、レティ・ホワイトロックさんだよ」

 

「いやどちら様?」

 

 ついそう言ってしまったが、失礼だっただろうか。だが目の前で雪を纏いながら佇むレティ・ホワイトロックさんについて、私は一切知らない。完全に初対面だ。

 

「あれ、知らないのかい? 春乞いで有名だと思ったんだけどなぁ」

 

「春乞い?」

 

「春が早く来て欲しい人間が、博麗の巫女に頼んで私をボコボコにするんだよ。私、冬を代表する妖怪だからね」

 

 うわなにそれ可哀相。けれどそうなのか。レティさんは冬を代表する妖怪なのか。

 白いターバンを巻きながらゆったりとした服を着用という、明らか冬対策されていないのも、彼女が冬に強いからなのだろう。

 

「それで、今年もボコボコにされに来たの?」

 

「そんなマゾヒストみたいな……。いやーそれがね? 妖精が煩いのよ」

 

「妖精?」

 

「そうそう。あんたの友達を名乗る、チルノって妖精。やたら絡んでくるから、何とかしてくれない?」

 

「なんとか……って、この寒さで?」

 

「うん」

 

「鬼畜生か」

 

「鬼なんて伝説の存在と一緒にしないでよ。私はもっと優しいわ」

 

「優しいならこの吹雪止めてくれない? 炬燵機能してないんですけど」

 

「嫌よ。というか無理よ」

 

「だ、だったらチルノちゃんにこう伝えておいて。『チルノの弟子、蓮華はチルノちゃんが最強だということを証明してきます!』って」

 

「あ、それ良いわね。簡単に乗ってくれそう」

 

 私の咄嗟の言い訳にレティさんは納得したのか、じゃあ伝えておくわと言って帰ってくれた。

 

 チルノちゃんが騙されやすい純粋な子だと知っていたのだろうか。悪い虫が付いたらぶん殴る自信はあるぞ。

 まぁそれはともかく、やっと寒い奴が帰ってくれた。これで炬燵の機能も戻り、再度暖まれる…………。

 

 私は炬燵の電源を入れる。

 

 だが付かない。

 

「あ、あれっ? な、なんで?」

 

 カチカチと何度捻っても、炬燵は付かない。これじゃあ私が温まる事が出来ないじゃないか。

 蓮華の目の前がまっくらになった─────……。

 

「……というか絶対レティのせいだろ、これ」

 

 恨みからか、そう呟かざるをえない蓮華であった。

 




二話を一部加筆致しました。
一話も少しだけ蛇足な部分を削除、変更致しました。
二十六話、一部改編、加筆致しました。

この場を借りて報告致しました。
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