東方付喪録   作:もち羊

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霖と咲と妖

 魔理沙は激怒した。必ずやかの冥界の従者をぶん殴らなければならないと決意した。

 魔理沙には妖夢の事情が分からぬ。分かるのは、来なかったという事実だけだ。

 怒りに任せ、勢いだけでとある店に来た。

 

「森えも~ん、幽霊とか霊が見える道具、なんかないのか!?」

 

「魔理沙、久しく会わない内に、どこか頭を打ったようだね……」

 

「冗談に決まってるだろ?」

 

「知ってるさ」

 

 魔理沙が訪ねたのは、森近霖之助という青年が営業する古道具屋、香霖堂である。

 瓦屋根の目立つ和風の一軒家。魔法の森入り口に居を構えており、人里からの道のりも比較的安全だが、どうもここに来るのは魔理沙を主とした特異な人間、妖怪ばかりだ。

 

「それで……何だって、幽霊や霊が見える道具なんか欲しいんだい?」

 

 香霖堂の奥の店主が座る席で、霖之助はモノクルを嵌めてなにかを弄りながら魔理沙に聞いた。

 普段火力やら魔法に使えそうな道具やらを奪っていく魔理沙にしては、珍しい注文。俄然霖之助に興味が湧いた。

 

「それが、半人半妖の奴に騙されたんだ」

 

「半人半妖だって? そりゃ珍しい登場人物だ」

 

「まぁ聞けよ。実は一昨日にそいつと喧嘩する約束をしていたんだが、約束をすっぽかしやがってな。私は一日ずっと待ち惚けをくらったってわけだ」

 

「それで引導を渡したい……と」

 

 魔理沙ならあり得そうだ……と霖之助は思う。それと同時に、魔理沙に目を付けられた半人半妖にも同情の念を抱く。

 

「ああその通りだ。どうにも各にも霊夢の事もあるし、早く見つけて冥界に行かなきゃいけないんだよ」

 

「……霊夢がどうかしたのかい?」

 

 聞いた瞬間、不味いなと悟った。

 霖之助は勘の良い方だ。それは相対する相手の機敏や感情の揺れに敏感な事からだったりする。

 故に霖之助は見逃さなかった。霊夢の事を聞いた途端、魔理沙の目が曇った事を。なにか言いにくい事でもあるのかもしれない。けれど自分は部外者。ずけずけと入り込む訳にはいけないのだ。

 

「いや、忘れてくれ。なんでもないさ。……それで、魔理沙が欲しいものは幽霊や亡霊を察知、視認する道具ではなく、それを感知する道具が欲しいと見える。そうだね……少し待っていてくれ」

 

 モノクルを外し、いつもの眼鏡を付けた後、弄っていた何かを時計のような物に填めた。

 それは子供が使うような、時計機能もない時計。秒針のある場所には、三色の木霊が陰陽を争うかのように描かれている。

 

「それ……なんだ?」

 

「これは僕が無縁塚で壊れているのを発見した物なんだが……どうやら外界で子供が運用する、妖怪を探知する為の道具らしい」

 

「はぇ~、外界じゃ子供までも妖怪をさがしてんだな。そりゃ妖怪が幻想郷に来るわけだぜ」

 

「どうやらメダルを入れることで、それに準じた妖怪を呼び出せる機能もあるらしい。ま、僕はそんなメダルなんて知らないし持っていないから、宝の持ち腐れなんだけどね」

 

 魔理沙はその時計を霖之助から受けとる。どうやら腕に装着する型のようで、まだまだ子供である魔理沙にとっては丁度良い大きさだった。

 

「で、これでどうやって幽霊や亡霊を見つけるんだ? レーダーでも付いてるのか?」

 

「えーっとそれはね……側面にボタンがあるだろ?」

 

「これか?」

 

 魔理沙が側面を見ると、確かにボタンのような出っ張りがある。

 

「そこを押すとレンズが開いて、ライトが出る。そのライトで照らせばどんな亡霊や幽霊、妖怪だってお見通しって訳さ。実はレーダー機能も有ったんだけど、それは完全に壊れていて直せなかったよ」

 

「へー! こりゃ良い。ツケで貰っていくぜ」

 

「まいど」

 

 魔理沙は意気揚々と飛び出し、箒に跨がった。

 その様子をどこか懐かしむように見ていた霖之助。

 魔理沙は昔から変わらないなぁ……と呟いた言葉は、彼以外に誰にも聞こえる事はなかった。

 

 

───────────────

 

────────

 

 

(これであの半人半妖を見つけれるぜ!)

 

 魔理沙とてバカではない。霖之助から貰った道具、この変な時計のデメリットくらいすぐに理解していた。この変な時計の感知機能。それはライトで照らさないと使えない……ということだ。ライト範囲は良くて数m。もし相手が姿を消していたり、化けていたならば効果は覿面だろう。

 

(ん? 待てよ……? そういや私は霖之助にレーダーのような物を頼んだ筈なのに、これでは意味があまり無いんじゃあ……)

 

 まさにその通りだ。ライト範囲が数mということは、魔理沙は半径数mでしか感知出来ないというわけだ。感知出来る点ではある意味魔理沙の意に叶っていたが、総合的に見てみるとただの不要物を押しつけられたようなものである。

 

「クソッ騙された!!」

 

 魔理沙は時計を叩きつけるような事はしなかったが、物凄く叩きつけたい気分には陥った。蓋を開ければなんでもない。ただ魔理沙が勝手な解釈をして、勝手に舞い上がっていただけだ。

 魔理沙は唇を軽く噛み、怒りを抑える。

 

「……考えても仕方がないな」

 

 魔理沙は気分転換に人里へと向かった。

 

 幻想郷に住む人間は、この妖怪が跋扈する世界で最も脆弱で儚く、それでいて臆病である。それも当然の事。人間と妖怪では強さに大きな隔たりがあるからだ。その問題を打開するためにスペルカードルールなんて物があるのだが、死人が出ることさえある。遊びとは言ってもそれは妖怪の視点からで、人間側からしたら命のやり取りに等しい。

 

 そんな人間達は妖怪の危険を回避するために、自分達が集まって暮らす里を形成している。その里の規模は幻想郷内でもかなりの規模で、妖怪に襲われる危険性を常に背負う人間にとって、最も安心できる場所でもある。

 

 訳あって里の中央街を避け、里の有名な団子屋に向かう。そこは値段が安く、それでいて美味しいと評判の店で、魔理沙もよく霊夢と共に食べに来ていたりする。

 

 魔理沙は自分独自に決めたお気に入りの席に座り、店員に団子を頼んだ。

 シンプルな三色団子がすぐさま運ばれてくる。この団子屋は調理時間が早いのもまた人気の理由の一つで、魔理沙はすぐに団子を口に運べる事を嬉しく思いながら、口のなかに一串分放り込んだ。

 

「あぁ~うめぇぜ」

 

「あら、こんな所で会うなんて珍しいわね」

 

「ん!?」

 

 突如声が降ってくる。いきなりだったので魔理沙は驚き、団子を口の中に詰まらせてしまう。胸を何回か叩いた後、苦しい思いをする羽目になった元凶に文句を言おうと顔を上げると、逆に自分が驚いてしまった。

 

「どうしたの、そんな鶴に摘ままれたみたいな」

 

「そこは狐じゃねえのか? なぁ、紅魔館のメイドさんよ。名前は忘れたが」

 

 そこにはいつかの異変以降、交流の出来た紅魔館のメイドがいた。

 魔理沙は相手が相手だけに睨む気も失せ、すぐさまいつもの憎まれ口に戻る。

 

「魔法使いさんはもう痴呆かしら? 私の名前は十六夜咲夜よ」

 

「そうかそうか、十六夜咲夜ちゃんか。すまんね、痴呆で。どうか老後の世話もして欲しいくらいだ」

 

「老後になる前に、この世からおさらばさせてあげましょうか?」

 

「おおっと、そりゃ御免被る」

 

 魔理沙はナイフを取り出す咲夜に両手を突き出す。降参の合図だ。今の魔理沙は別に咲夜と戦いたい訳ではない。団子を食べたいのだ。目的の違う事に首を突っ込む魔理沙ではなかった。

 

「それで貴女はこんな所にのんべんだらり。良いわね、こんな寒い時期に呑気で。……というかなんでわざわざ外で食べてるの? 中で食べれば良いのに」

 

「外で食うのはは私なりのルーチンさ。なんと驚くことに三年間続いてる。褒めてくれても良いぜ」

 

「はいはい凄いわね」

 

 咲夜は呆れるように嘆息した。この魔法使いは自分が風邪を引くことも視野に入れていないのか、と余計な心配をさせる。魔理沙はそんな視線に気づかずに、次の団子を放り込んだ。

 

「そういえばお前んとこのお嬢様は元気か?」

 

「元気よ元気。またすぐにでも異変を起こしそうだわ」

 

「ふぅ~ん」

 

 魔理沙は咲夜の手に視線を向ける。大きめの買い物袋の中に、沢山の料理の材料やらが詰め込まれていた。

 

「咲夜は冥界に行く方法とか知らないよな?」

 

「知ってるわよ。死ぬのよ」

 

「いや、そうじゃなくてだなぁ。あー、生きた状態で冥界に行く方法だ」

 

「冥界への空間を弄るか、橋渡し人が必要でしょうね」

 

「そっかー。橋渡し人かぁ……」

 

 橋渡し人。空間を操る事なんて出来ない魔理沙には、やはり妖夢を探さねば話にはならないのだろう。

 魔理沙は最後の一串を口の中に放り込むと、お代を置いて立ち上がった。

 

「あ、すまんなメイド。時間を取らせちまって」

 

「別に良いわよ。ちょっとした誼だし」

 

「最後になるが、銀白色の髪をした侍染みた半人半霊って見なかったか? 名前は魂魄妖夢って言うんだが……」

 

 魔理沙がその名前を出すと、咲夜は驚いたように事実を告げた。

 

「妖夢? 妖夢ならそこにいるわよ?」

 

「え?」

 

 咲夜が後ろを指差すと、この雪の中、パンパンに詰まった大きなリュックを背負って駆け寄ってくる妖夢の姿が見えた。あまりにも呆気ない発見で、魔理沙は口を開けて吃驚する。

 

「さ、咲夜さん、此度は誠にありがとうございます!! 貴女のお蔭で効率よく、それでいつもより安価で食材を買い揃える事が出来ました! 本当にありがとうございます!」

 

「いえ、私は少し手伝ったまでよ。後は貴女の実力。バーゲンを制する力、今後とも研き続けなさい」

 

「はい! 咲夜さん!!」

 

 可笑しな光景だ。毒が抜けるとも言う。思わず渇いた笑いが出てしまい、その音で妖夢がこちらに気付いた。

 こちらを見た妖夢の瞳は……なんというか、悪いことが親にバレた時のような、申し訳なさと焦りが混ざった“ソレ”だった。

 

「咲夜さん、すみません。少し野暮用で……」

 

「おっ、実は私もそうなんだ。なぁ妖夢、私と野暮用で出掛けようぜ?」

 

「私、血生臭い野暮用にしたくないんですよ」

 

「私の血は消臭機能付きだから大丈夫だな」

 

「幽々子様を待たせる訳にはいかない。すぐに終わらせるわ」

 

 妖夢がその大きなリュックを肩から下ろし、刀の柄に手を置いた。臨戦態勢、それを分からせる威嚇行動。

 邪魔をするなとの意思を込めて、魔理沙は咲夜の方を見る。

 咲夜は魔理沙の視線から何を感じ取ったのか、懐からナイフを出した。鋭い、鋭い刃。光に反射して、銀の鈍色が一つの線を描いた。

 

 魔理沙と妖夢の間にナイフが刺さる。開始の合図だ。

 

 ───だがその表現には少し誤りがあった。

 ナイフが刺さる前、もう既に魔理沙と妖夢は動きだし、元いた場所から姿を消していたからだ。

 

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