東方付喪録   作:もち羊

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何をしでかすか分からない悪魔

「どうもどうもー、悪魔でーす」

 

 悪魔。幻想郷で嫌われものと名高い種族だ。その多くが傲慢不遜で自己中心的だと言われている。

 だが人々に受け継がれた伝承が伝承だけに、強大な力を持つものが殆どと、怨霊と同じように嫌悪されていいるのが悪魔だ。

 

 その悪魔を目の前にして、レミリアとパチュリーは溜め息を吐いた。

 

「ふん、悪魔と言えどこの程度か。他愛ない」

 

「そうね、レミィ。これじゃあ悪魔じゃなくて熊レベルよ」

 

 彼女達は魔法使い、妖怪という種族の中で、実力は大きく抜きん出ている。片や花曇の魔女。片やカリスマの具現。悪魔にも劣る小悪魔程度の存在など、歯牙にさえかけていない。……表面上では。

 

(やっべ、悪魔とかアカン。これ私が立てたフラグのせいかな。いや、待てよ。私の二つ名もスカーレット・デビル。デビル……ハッ、まさか私が引き寄せてしまったのか? 悪魔とデビル、同じ意味だから……)

 

(私の本質は悪魔じゃない悪魔じゃない悪魔じゃない悪魔じゃない悪魔じゃない悪魔じゃない悪魔じゃない)

 

 レミリアはあり得ない可能性を思索し、パチュリーは突き付けられた事実から目を逸らそうと必死である。

 そして彼女らの心情を知らない小悪魔にとっては、レミリアとパチュリーの堂々と、それで不遜な態度は中々好意的だ。小悪魔が仕えていた大悪魔らとはどこか違う、所詮カリスマというものが溢れているのだろう。

 

「悪魔に向かってその態度……素晴らしい! 豪胆で更に強かさも持つ貴女様に仕えれば、私は悪魔として格が上がりそうな予感さえします」

 

 小悪魔は歓喜した。それは主の質という意味でも、今この場に召喚された事にも……だ。

 使い魔として選ばれる事は、幻獣や神獣、その他魔に関わる存在であれば可能性は無限にある。

 絶対数が他の種族と比べて多い魔族だが、基本的に普通の感性では無い上に、召喚主と相性が合わぬ事が殆どなので、召喚されることは滅多に無い。

 

「うふふ、こんな素晴らしい場所があったなんて! ああ、幻想郷の事は聞き及んでいましたが想像以上です」

 

「ほう……ならば良かった。仕えてもらう身、喜色を示してもらわねば呼んだこちらも面目が立たないのでな」

 

(この子の名前どうしようかなぁ。スカーレット・デビルから因んでスカちゃんとか? いや、咲夜に笑われそう。それだけは嫌だ)

 

「へぇ、使い魔になる気満々ねぇ。従順な子は嫌いじゃないわ」

 

(ああああああ、とうとう契約の時になっちゃったぁ! ハッキリ断れ、私! 悪魔と契約するほど私の身体は安くはないわよって)

 

「使役の魔術は既に施してありますよね?」

 

 パチュリーが心の中で必死に雄叫びのような叫びを上げている最中、小悪魔がそう聞いてきた。心なしか瞳も爛々と輝いている。

 

「使役の魔術ならもう施してあるわ。後は契約だけね」

 

(いやああああああああああ!!

 いやああああああああああ!!)

 

 使役と契約の魔術は実は少しだけ違う。使役魔術とは召喚された使い魔を使役可能にする魔術で、効果としては、使い魔は主からの魔力供給や恩恵を受ける事が出来るということ。その逆に、主の方は使い魔から絶対的信頼を強制的に受ける事が出来、更に使い魔とのテレパスによる受信交信。そして位置情報が分かるようになる。

 

「では、私はもう主様から魔力を受け取り可能という事ですね!」

 

「……まぁ、そう言うことになるわね」

 

「そうなんだそうなんだぁ……ハハ……

 

 

 ───────────じゃあ遠慮せず喰らって下さい」

 

 小悪魔の服装は少し堅苦しい。赤のチューニックを併せた黒めの服を着ている。

 そして見栄なのかどうかは知らないが、恐怖心を煽るような模様柄のコートを上に羽織る。

 小悪魔はコートの内側に手を入れた。その動作はまるで手品師がこっそりとタネを仕組むように、会話の最中で流れるように行われた。

 

 幻想郷には異界含め、現実では見ないような世界が内包されており、それは博麗大結界と幻想郷の管理者が敷いた幻と実体の境界に依るところが大きい。妖怪から人、はたまた神や物まで、忘れられれば漂流物のように幻想郷へ辿り着く。

 小悪魔が持っているソレ。魔界の闇市にて少量だが流通していたそれは、鈍い色を放ちながらパチュリーへと向けられる。

 

「安心してください。殺しはしません。四肢をもぐだけです。痛みは最初だけ」

 

「……『コルトローマン』それも、弾は『.357マグナム弾』ね」

 

「流石主、ご名答。外の世界では数十年前に流行っていた代物です」

 

 自動拳銃であるコルトローマンは、小型でありながらもマグナム弾を発射することが出来、ローマン(法執行人)の名に恥じないよう警察が使いやすいように設計されている。

 外の世界……日本では警察に使用されたとの例は無いらしいが、この小悪魔はどこからそれを手に入れたのか。パチュリーは銃口を向けられているにも関わらず、冷めた頭でそう考えた。

 

「撃たない方が良いわよ?」

 

「撃たない方が良いと言われて、撃たない輩がいると思います?」

 

「必然的にいるわ。人は覚悟が中途で終わっている奴等ばかりだもの」

 

「私は悪魔です」

 

「あ、そうだったわね。魔力量が少なくて勘違いしちゃった」

 

 銃口から瞬間的な火花と、同時に乾いた音が木霊する。薬莢が床に跳ねたーーー。

 

「……〝私には〟撃たないのね」

 

 落下傘のように落ちる天窓の破片。

 それは大図書館に併設された観測機器を使うために設置された大きな天窓から降り注いでいた。

 天窓はパチュリー独自の魔力を流せば、いつでも開ける事が出来る。湿気や溜まった埃の影響で身体を壊さぬように……と、今は亡きパチュリーの父が空気清浄の役割も考えて設計したものだ。

 

 小悪魔は服の中に隠していた羽を解き放ち、跳躍の勢いを以て飛翔した。

 

「それじゃあ私は幻想郷観光でも行ってきますねー!」

 

「…………」

 

 天窓から光が溢れる。その光は大図書館の日陰までも隅々と照らし、背後にいる親友を焼いた。

 

「ぎゃああああああああっ……!」

 

 ーーーという親友の悲鳴を聞きながら、パチュリーは展開していた魔法を解く。

 

(アイツ……意外とやるわね)

 

 パチュリーが展開していた魔法は〝はねっ返り〟の魔法。主な効果はその名の通り、放たれた魔法や攻撃をまんま対象に跳ね返す魔法。術者の技術、魔力によって魔法の硬度や跳ね返せる威力を調整する事が可能。

 パチュリーは魔力を読み取る〝眼〟でもって、小悪魔が万が一魔法や攻撃を放ってくる場合や、銃弾を発射した場合を想定した魔法を展開していた。

 

「熱い、熱いぃぃぃいいいいいいい……ッッ!!」

 

 小悪魔の意思は本気であった。

 悪人善人等しく見てきたパチュリーにとって、相手の意思が真か偽かを見抜く審美眼を持っていて当然である。

 

「あっつ、ちょ、あっつ、助け、パチェっ」

 

 〝もしパチュリーが侮っていたら〟

 

 〝もしパチュリーが魔法を使わなかったら〟

 

 その何れの未来も、パチュリーを殺していただろう。

 

「って話を聞けええええ!!! 私メチャクチャ焼かれてるんだけど!?」

 

 思考を一時中断し、背後にいる親友へと向き直る。親友のレミリアは、身体の一部を焦げさせながら目を吊り上げていた。あれは怒っているサインだ。分かりやすい。

 

「レミィは七面鳥の丸焼きを食べたいと以前言ってたわよね?」

 

「私が七面鳥の役ってか?」

 

「ええ、小悪魔程度に料理(ころ)されそうになる吸血鬼。新しいジャンルじゃない?」

 

「どんなジャンルよソレ!? しかもすっごく面白く無さそうだし!」

 

「つまらないレミィにお似合いじゃない」

 

「お前後で表出ろ」

 

 そろそろ頃合いだと見て、パチュリーは指を鳴らす。するとレミリアを覆うように膜が出来て、レミリアから漂う焦げ臭さが無くなった。

 

「あ、これが直射日光を防ぐ魔法?」

 

「そうよ、じゃあ表に出ましょうか、レミィ」

 

「え、マジで表に出るの!? い、イヤだなぁ……冗談だってば、パチェ。喧嘩とかしないしない」

 

「何言ってるのよ、追いかける為に決まってるじゃない」

 

「え、何を?」

 

 当然の事をさも分からないかのように聞いてくるレミリア。レミリアは直射日光に焼かれていて、小悪魔が天窓から出ていったことを知らない。

 ゆっくりと間をためて、パチュリーはレミリアに言った。

 

「ーーーあの何をしでかすか知らない悪魔を、に決まってるでしょ」

 

 ーーー生憎、主は使い魔の所在地が分かるのだから。

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