東方付喪録   作:もち羊

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吸血鬼異変

「ふぅー。この一年でかなり凍らせたよねぇ」

 

 あれから一年。私が見る限り、霧の湖の三分の一程度は凍らせれた自信がある。まぁ私自身はお手伝いと効率性をあげるための計算くらいしかしていない。実質上頑張り続けていたのはチルノちゃんと、もう一人の妖精のお蔭だろう。

 

「うん! これもあんたのおかげよ、蓮華!」

 

「ええ!? チルノちゃん、私も手伝ったよ!?」

 

「ごめん大ちゃん忘れてた」

 

 チルノちゃんに忘れられていた不憫な妖精、大ちゃん。正式な名前は大妖精と言われていて、霧の湖を私達が凍らせている際に迷惑だと怒鳴り込んできて、チルノちゃんに呆気なく返り討ちにされた挙げ句強制的に子分にされるというなんとも悲しい結末を迎えた可愛い女の子だ。

 

 緑髪を後ろに結んでポニーにしている彼女がいるのといないのとでは作業効率が格段に違ったので、チルノちゃんの判断は正しいっちゃ正しいのだが、迷惑だという物凄く正当な理由で注意しに来た彼女を働かせるのは、とても申し訳なかった。

 

「チルノちゃん、大ちゃんを忘れちゃダメだよ。大ちゃんの瞬間移動があったからこそ、私達はこんなにも早く霧の湖を凍らせれたんだから。そんな彼女をしっかりおだてて利用しなくちゃ!」

 

「うんそうだった! ありがとう瞬間移動!」

 

「私の存在意義瞬間移動だけ!? あと蓮ちゃん私のことそんな風に思ってたの!?」

 

「冗談だよ大ちゃん」

 

「冗談に決まってるじゃない、瞬間移動」

 

「チルノちゃん、私の存在をしっかり認めてぇ~!」

 

 涙目になって抗議する大ちゃん。流石に可哀想になってきたので、ここら辺を潮時にする。

 

 ここ一年で変わった事と言えば、まず私の身長が伸びた事か。以前はチルノちゃんと同じくらいの身長だったのに、既に目線はチルノちゃんを超えてしまった。ついでに私の頭に咲いている蓮も少しだけ成長している。

 そしてこれが最もな変化だが……なんと私の能力がある程度判明したのだ。キッカケは私が妖怪に襲われそうになったときだが……それは後述で良いだろう。

 

 チルノちゃんと大ちゃん曰く、『界を結ぶ程度の能力』。簡単に言うと、条件を定めた結界を創る事が出来る能力だ。私自身まだまだ妖力も未熟で、簡単な結界しか結べないが、それでもかなり強い能力だ。

 

「……蓮ちゃんの結界は万能よね。だって条件を満たす者以外入れないんだもの」

 

 そして大ちゃんが指したのは、私がかまくらの周りに張った結界の外。そこには数匹の妖怪が、今まさに私達を食らおうと結界に歯を立てている様子があった。現在の結界の条件は、内が有用。外が無用だ。私達に必要、有益な存在以外はこの結界を通さないのである。

 しかも結界を張っている間は妖力を維持し続ける必要はなく、張る際以外には自分の妖力を消費しない燃費の良さ。エコって大事だと思う。

 

「それより、今日はなんだか妖怪が多いよね」

 

「蓮ちゃんもそう思う?」

 

「うん。このままじゃ新鮮な水が飲めない」

 

「気にするところそこなの!?」

 

「あたいが後でかき氷を作ってあげるわよ!」

 

「チルノちゃんに至っては全く気にしてない!」

 

 項垂れる大ちゃん。けれど水が主食の私にとっては、水が飲めない事は死活問題なのである。命を大事に。

 隣で氷を削り始めるチルノちゃんを横目に、私は湖の中心にそびえ立つ洋館に目を向けていた。突然あの館が現れて以降、嫌な予感が止まらない。何故だか感じるのだ。目を背けたくなるような、血生臭い雰囲気が。

 

「蓮ちゃん、あの館が気になるの?」

 

 チルノちゃんが作ってくれた時期外れのかき氷を食べながら、大ちゃんが私に話しかけてきた。

 

「うん……なんだか嫌な予感がしてさ……あ、このかき氷美味し」

 

 チルノちゃんが作ってくれたかき氷を一口含む。甘さ控えめの苺味で彩られたかき氷は、何よりもあの館を想起させる。

 

「蓮ちゃん……気になるのなら、ちょっとだけ行ってみる?」

 

「え、良いの!?」

 

「あたいも行くわ!」

 

 かき氷を全員分作り終えたチルノちゃんも、同行してくれる事になった。実際あの館の近くは凶暴な妖怪もいて、湖氷結の大きな障害にもなっているのだ。

 

「じゃあチラッと、チラチラッとちょこっとだけ見てこようか」

 

 私の同意と共に、大ちゃんがチルノちゃんと私の手を掴む。これは全員で瞬間移動するための前動作だ。私はこの瞬間が少し苦手なので、目を瞑っておく。

 

「じゃあ飛ぶよー! ……えいっ」

 

 世界が反転したかのような感覚に襲われ、込み上がる吐き気を抑えていると、いつの間にか館の門前に着いていた。

 

「館に着いたよ!」

 

 ヤバイ、我慢していた吐き気が一気に込み上げてきた。これは瞬間移動をする度に経験するのだが、どうも慣れない。

 うえぇぇぇと私がえずいていると、大ちゃんがいつもの如く心配してきた。やっぱりこの娘は優しいなぁ。癒されるよ。

 

「大丈夫? 蓮ちゃん……」

 

「うん大丈夫大丈夫なんくるないさー」

 

「なに言ってるか分かんないけど、ほら蓮華、さっさと乗り込むわ! この館の連中に、あたい達がさいきょーだってこと知らしめるのよ!」

 

「ええ!? 私と蓮ちゃんの会話じゃ、ちょっとだけ見て帰るって手筈だったんじゃ……」

 

 大ちゃんも驚いているけど、私もビックリだ。いや別に私もちょっとだけ中に入ろうかなーとは思ってたよ? でも近くに来てみると分かる。これアカンやつや。

 私の警告センサーって言うのかな? それが警鐘を鳴らしてるよ。さっきからずっとね。多分中には思いもよらぬような化け物や化け物や化け物なんかがいるはずだ。うんきっとそうだ。そうに違いない。というわけで帰ろーっと。

 

「チルノちゃん、私忘れ物したから帰りまぶぶぶぶぶ」

 

「蓮ちゃああああああん!? 溺れてる、溺れてるよ!?」

 

 私が帰ろうと後ずさったらそこは既に湖でしたまる。……って助けてええええええ!!! 水は主食だけど、泳げる訳でもないし、なにより私飛べないから! 死んじゃう! 死んじゃう!

 

「待ってて蓮ちゃん! 今助け───」

 

「私の手に掴まれ、妖精」

 

 そして溺れて足掻いている私の前に差し出された大きな手。必死な私は咄嗟にその手を掴む。すると、まるで鯨にでも引っ張られたような大きな力で引き上げられる。

 

「ゲホッゲホッ、その、ありがとうございま───」

 

 私がお礼を言おうとすると、口へひとさし指を当てられて途中でどもってしまう。

 

「いや、礼は要らないよ。それと今からこの場所はとても危なくなる。あなたみたいな妖精は避難してなさい」

 

 私の事を妖精だとでも思っているのか、その人は諭すように忠告をした後、優しく私の頭を撫でてくれた。

 これは惚れる。この名も知らぬ女性が、とても格好よく見えた。そう思えるほど、その一連の動作が板に付いていた。

 

「紅美鈴、参る!」

 

 彼女が堅牢な門を肘で軽く押したかと思うと、門を支える壁ごと大きく空中に舞った。

 

「つ、強ー……」

 

 私が呆然としている内に、紅美鈴と名乗った女性は館に向かっていく。

 

「ねぇねぇ蓮ちゃん、今の人格好良かったね~」

 

「うん……ってチルノちゃんは?」

 

「あれ? チルノちゃーん?」

 

 ま、まさか。まさかまさか。そう言えば私が溺れている時に、彼女だけなんのリアクションもなかった。一年で分かった事だが、チルノちゃんは決して友達を見捨てない友達思いの子だ。ノーリアクションなんてありえない。ということは導きだされる真実は一つ。

 

「チルノちゃん……まさかもう館に入っちゃった?」

 

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