東方付喪録   作:もち羊

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遊び疲れの紅魔館

 ーーーコルトローマンに込められたマグナム弾とは。

 

 .357マグナム弾と呼ばれたそれは、第一次世界大戦後に出現し始めたボディーアーマーを唯一貫通できる、優れた護身用の弾として知られている。

 他にもストッピングパワー、もとい弾が命中した生物を、どれだけ行動不能に陥れるかの指数的概念も、究極の基準として高く評価されている。

 

 そして人間が口に銃口を入れ、引き金を引くときに自害できる可能性は、ほぼ確実だ。もし何らかの奇跡が起こったとしても、これからの人生はベッド無しでは生きれないだろう。

 

 小悪魔は口内に入れたコルトローマンの引き金を引く。激しい銃撃音が易者の耳をつんざいた後、易者は彼女が何をしたのか理解した。

 

「お……オイオイオイ! じょ、嬢ちゃん! しっかりしろ!」

 

 易者は心底焦った。

 自分はただ占術を更に昇華させ、世界の外を観測しようとしていただけなのだから。作業をしていた丁度その時、空から降ってきた幼女が儀式を破壊。魂を込めて製作した儀式を壊された事で、易者は激怒した。

 

 烈火の如く幼女を叱っていると、何を思ったのか近くを通り過ぎた青い妖精が突然割り込んできた。彼女の言い分をかいつまんでみると、なんと自分が幼女を苛めていると勘違いしているらしい。

 

 勝負を挑まれ、軽く青い妖精をいなすと、つい力が入ってしまったのか強く妖精を吹き飛ばしてしまった。

 

 〝己を助けようとした見知らぬ恩人が、自らの身を犠牲にして自分を助けようとしてくれた。〟

 幼女にはこう映ったのであろう。幼女は青い妖精を抱えて脱兎の如く逃げ出してしまった。

 

 易者は誤解を解こうと幼女に追い縋る。そして小悪魔と出会ったのだ。

 

 ぶっちゃけ、易者はただの被害者である。

 小悪魔の方も、別に勝負に白黒付ける気など更々なく、ただただ自分の種族としてのプライドを傷つけるきっかけを作った易者に対して嫌がらせをする気しか無い……というところが、易者の不幸具合に拍車を掛けているのだが。

 

 そして、不幸はまだまだ続く。

 

 ーーー易者は小悪魔の銃声音を聞いた後、腹部に大きな衝撃を受けた。

 

「ぐぅッッ……が……なんだ……?」

 

 腹部……身体をすっぽり覆うローブの中心部には、はぜたように穴が空いていて、触ってみるとそれは身体の奥深くまで届いている事が分かった。

 

 続いて、肉片が顔に当たる。

 

「あ……あぁ……」

 

 自殺ーーー。顔についたのは、小悪魔の肉片。口内で引き金を引いたことによる、後頚部付近の爆散。

 

 易者には訳が分からなかった。自分はなにもしていないのに、恐怖に当てられたのか、罪もない彼女は自害してしまった。

 

「なんで……なんでだ……」

 

 悔み。

 

 後悔。

 

 人を捨てた易者だが、心はまだ捨てていなかった。

 

 故に、彼は嗚咽を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 ───────それらを全てぶち壊す銃声音が鳴る。

 

「なっ……!!」

 

 視界が低くなる。

 それは小さくなったとか、そんな特異なものではない。

 足を撃たれた─────……と分かったのは、自害し、死んでいる筈の小悪魔の瞳が、悪戯が成功した子供のように歪んでいたからだ。

 

 小悪魔は立ち上がり、更にもう一度引き金を引く。

 

 先程は足に一発だけであったが、今度は数発。残弾が無くなるまで撃たれたそれは、小悪魔のローブの内側にある弾薬で補充される。

 

「おまっ……生きていたのか?」

 

「~~? ~~~~~~、~~~~~~~~~~?」

 

「すまん、聞こえねえ」

 

 小悪魔はおちゃらけるように片眉を上げた。

 口内で撃ったせいか、喉もやられており、声すらも発することが出来ないのだ。

 

 易者の言いたいことは分かる。彼女は一体何者なのか、と言外で聞いてきているのだ。

 その易者の問いに答えるために、小悪魔はローブを下ろし、服を少しだけずり下げた。

 向けられた背には、小さな黒い羽が一対。それは、彼女が普通の人間ではないという証左だった。

 

「お前……人間じゃ……」

 

 驚いた表情をする易者に向けて、小悪魔は意地の悪い笑みを見せる。

 

 小悪魔は背中に生える翼を除いて、ほぼ人の姿を模している。だがその翼も服に隠れて見えていないときた。占術を極めた易者だが、まだ魔力を探る事を極めてはいなかった。よって、易者は小悪魔を普通の人間だと勘違いしたのである。

 

 その勘違いが功を奏したのか、小悪魔と対峙していた易者は小悪魔が口の中で引き金を引いた事を、〝彼女が恐怖に負けて自害した〟と思い違いをしてしまったのだ。

 

「あ゛、ああ゛、うぅ゛あ、ああ゛、あ、……よし、結構戻ってきましたね。流石主の魔力。回復に専念すれば、すぐにこんな大きな傷も元通り」

 

「騙したな」

 

「騙してませんよ? 勘違いした貴方が悪いんじゃないですか。誤解を騙りと言うのなら、この世界の全員が瞞着者(まんちゃくしゃ)ですよ?」

 

「クソ! だったらお前が撃った足を治せ!」

 

 激昂する易者。しかし小悪魔はその勢いに怯懦を感じる事もなく、薄笑いのような表情を浮かべながら、易者の言に従う。

 

「仕方ありませんねぇ、もうっ」

 

「ああ、それで良い。……全く、両足を撃ちやがって。これじゃあ動けな────」

 

「よいしょっと」

 

 小悪魔はローブの内側のポケットをまさぐり、ついさっき奪ってきたとある物を易者の頭に被せた。それはまるで元からそこにあったかのようにぴったりフィットし、流石の小悪魔も頬を緩める。

 

「これで良し……っと」

 

「これで良し……じゃねえよ!! なんで誰とも知らぬパンツを被せてるの!?」

 

「パンツじゃありませんよ。ショーツです」

 

「もっとダメだろ!?」

 

 似合ってますよ、と笑いを堪える小悪魔に、流石の易者も堪忍袋の緒が切れたのか、雄叫びを上げながら残った両腕で襲い掛かる。

 小悪魔は易者の反撃を予測していなかったのか、小さな悲鳴を上げて易者に押し倒される形となった。

 心なしか、押し倒した易者の息は荒い。怒りと疲れ、焦りのせいだろう。しかし今の状況では、明らか別の意味に感じ取られてしまう。

 

「フー、フー、貴様、絶対に許さんぞ」

 

「あー、そうまでしちゃいますかぁ。あまりオススメは出来ませんよ? ほら、今の私、翼を見せるためにはだけちゃってますし」

 

「それがどうしたぁ!」

 

「……〝誤解される〟って言ってるんですよ。とびっきりのこわーい魔女に」

 

「はぁ? それってどういう……」

 

 ぶぅん、とハエが横切ったような、重い機械音が鳴る。それと同時に魔方陣が展開され、その魔方陣から幾多もの鎖が飛び出した。

 

「ほら、きたきた♪」

 

 鎖はまるで意思を持っているかのように易者へと向かっていき、大柄な体格を持つ易者を絡め取った。

 易者は必死にもがくが、どうしてかその鎖から逃れることは出来ない。その様子を面白がりながら見ていると、横に噂をしていた主が突然現れた。

 

「あら? 人違いね」

 

「人じゃなくて妖怪違いだと思いますよ。あと、転移魔法が出来るとか主はすごいですね」

 

「ちゃっかり話に混ざるんじゃない。元はと言えば貴女を捕まえるために用意したんだから」

 

「アハハー。幻想郷、とっても面白かったですよ」

 

「そう、ならよかった。じゃあ小悪魔、帰るわよ。うちの優秀なメイド長が美味しい昼食を作ってくれているわ」

 

 その一言に、小悪魔が目を丸くする。

 

「ご一緒してよろしいので?」

 

「なにいってるのよ。あんたは私の使い魔でしょ? 使い魔に餌をやらぬ魔女がどこにいると思って」

 

「使い魔をペット扱いしている魔女はいますけどね」

 

 苦笑。それ以上言うなとパチュリーは目で語っていた。

 

 小悪魔はひと息溜め息を付く。なにはともあれ、自分のプライドを傷つけた相手を辱しめに陥れたのだ。結果はオーライだろう。

 易者を見る。可哀想な怨霊。彼があの鎖から解き放たれるのはいつになるだろうか。主の魔力はほぼ無尽蔵だし、勝手に魔力切れで鎖が消滅するなんて事は万が一にも無いだろう。

 

 小悪魔が憐れみの目で易者を見つめていると、奥の草影から姿を覗かせた一人の幼女が駆け寄ってきた。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「ん? ……なぁんだ、さっきのバカ地獄鴉じゃないですか。どうしたの?」

 

「その……さっきはごめんなさい。お姉ちゃんに怯えちゃって」

 

 そんなことか……と小悪魔は独りでに嘆息する。特に期待していた訳ではない。お礼として数円貰おうとか考えていた訳では決して……無いハズ。

 

「そんなことですか。私は悪魔ですよ? 怯えられるのは大好物です」

 

「じゃあ、えっと、あの」

 

「無理に取り繕う必要はありません。ただ純粋にこう言えば良いんです。この、バーカ! ……ってね。それじゃあ気を付けけるんですよ。悪魔は何処にでも潜んでいますから」

 

 踵を返して、パチュリーが用意した転移用の魔方陣に足を踏み入れると、背後から大きな声が返ってきた。

 

「今日蹴ったことは絶対に許さないし忘れないっ!! でも助けてくれた事も絶対に忘れないから!! お姉ちゃん、ありがとぉっっっ!!!」

 

 パチュリーと小悪魔が転移魔法で消えていく最中、必死にそう叫ぶ幼女。

 

「……小悪魔、ほら、ああ言ってるわよ」

 

「フン、悪魔にお礼を言うとか、私が嫌悪することをよぉく熟知しているじゃありませんか」

 

「そう? 意外と嬉しそうな顔してるけど」

 

「そぉんな訳ありませんよぉ! 全く、主は冗談が巧いなぁ」

 

「……そう言うことにしておくわ」

 

 あちら側から見えなくなり、こちらもあの幼女の事が見えなくなってきた頃。

 

「……………………この、バーカ」

 

 何故かその呟きが、あの幼女に届いた気がするのは、小悪魔の気のせいではないのかもしれないーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーあれ? パチェ? 何処に行ったの?」

 

 魔法の森、置いていかれた吸血鬼が一日中森の中を彷徨う事になったのは、また別のお話で。




次回、囚われの易者と迷子の吸血鬼が出逢う!
そしてそこから始まるラブロマンス。

お楽しみに。(ありません)
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