東方付喪録   作:もち羊

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鬼の狂宴

「ぜぇ……ぜぇ……もう」

 

 最後の最後、文との対決で、天狗部隊に使った影響力を疎める技術を発揮したが、どうも消費が激しい。

 違うか。これは受ける影響力によって消費量は変わってくる……と考えれば合致する。

 

「あまり無闇に使える能力じゃないなぁ……」

 

 しばらく歩いていると、山の頂付近に大きな割れ目があった。下を覗いてみると、まるで崖だと錯覚するくらい深い。耳を凝らすと水の荒れ狂う音が聞こえるので、大方崖下には水が流れているのだろう。

 そして向こうの崖壁に、大きな屋敷が見えた。断崖絶壁に沿うように建てられたその場所の下には、幾つもの邸や建物が見える。あれが天狗の集落だろうか。だとしたら、私はやっと天魔に会えるのである。

 

 幾度戦ったか。そしてその数少なくとは言え、得れた物は多かった。

 

 既に日暮れに入っている。山登りで時間が掛かりすぎだと一人でごちた。

 

 そのまま大回りをするのもなんだかと思い、両足に力を込めてひた走る。靴を履いていないので、靴下の布越しに伝わる砂利が痛い。

 だが今はそんな事を考えている暇などなく、ある程度助走をつけたと思い大きく跳び上がる。飛行なんて言えるようなもんじゃない、お粗末な跳躍。

 数十m……いや、百あるのかもといった崖の幅を優に飛び越し、一気に天狗の集落に到着した。

 

「うおっ! き、貴様は誰だ!?」

 

 突然女の子が空から降ってきたら、そりゃ驚くだろう。私でも驚く。この天狗の雑兵はよく教育されているようで、こんな私にも敵意と警戒心を露にしてきた。

 

「私はそうだね……山の四天王の一人、とでも言えばいいかな?」

 

「だから誰!?」

 

 山の四天王を知らない……。そういえば鬼が去ったのももう数百年も昔になるんだね。こいつが新米だとしたら、その事を知らない可能性もある……か。

 

「あー、新米か。なら良いや。取り敢えず天魔のところに案内してよ」

 

「あっ、天魔様のお知り合いでしたか?」

 

「うん、まぁそうだね。天魔って言っても、多分先々代の知りあいかな?」

 

「そ、それは失礼致しました!! 天魔一族のお知り合いとは知らず、名を二度も尋ねてしまうなんて!!」

 

 天狗は深々と頭を下げる。その勢いは今すぐ土下座に移行してしまいそうな勢いだ。私はなるべく事を波立たせたくなかったので、頭を上げてと優しく言いながら、その天狗に天魔の所まで案内を頼んだ。

 

 天狗とは縦社会故、それぞれのプライベート、または友人関係などを知らない事が多々ある。よって、例えば見たことがない部外者であっても天狗に案内されている、仲良く談笑していると他の天狗に姿を見られれば、コイツ、こんな友達がいたんだと納得してしまう脆さがある。

 

 天狗は他に興味が無いからこそ、他人に関しての真実のような薄っぺらい嘘に騙されることもあるし、逆に自分の事ならば最後まで真意を確かめるという用心深さ、強かさも持ち合わせているんだが……この天狗はかなり大雑把なようで、私と天魔の関係や目的について根掘り葉掘り聞くこともなく、私の方もこの天狗と談笑していたので怪しまれずに済んだ。

 

 唯一の懸念としては……私が伸した天狗がこの集落で休養を取っている事だが、どうやら天は私に味方したようだ。一度もそんな奴等と顔を合わせる事もなく、天魔の大きな屋敷に着いた。

 

「ありがとう、あんたの事は覚えておくよ」

 

「そ、そんな! 萃香様が俺の名前を覚えてくれるなんて……」

 

 初々しく照れる天狗。敬われる事に少しだけ嬉しさを感じたので、ちょっと悪戯をしてみることにする。

 

「あんたも来るかい? 天魔の屋敷へ」

 

 天狗は目を丸くした。誘われると思っていなかったのだろう、次の瞬間唾を口から出しながら思いきり首を横に振った。器用だね、コイツ。

 

「いやいやいや!! 俺なんかじゃ入れないですって! 天魔、天魔ですよ!? 俺ただの警備係ですし!」

 

「ハッハッハ、面白いねあんた。冗談さ、冗談。私もあんた自身の領分を越えろなんて酷な事は本気で言わないさ。まぁ……そうだね。あんたが偉くなったら、今度は一緒に入ろうや」

 

「あ、は、はい!!」

 

「良い返事だ。返事が良い奴は偉くなるぞぉ!」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 私は天魔の屋敷の門に手を掛け、さっきの天狗に別れを告げる。全く、私はこんなに怪我をして怪しいってのに、一言も言及しないなんて間抜けなんだか優しいんだか。それよりさっきの天狗にここから先の展開はあまり見せたくないんでね。奴が遠慮したのは助かった。

 

「入るよ」

 

 一言だけ声を掛けて、中に入る。

 中は外観に比例して広い。だが豪華絢爛という訳でもなく、どこかがらんどうとしていて寂しい雰囲気を感じた。奥には天魔の座。そしてその両脇にはそれぞれの大天狗の座がある。

 いつもなら数人近く大天狗がいるはずだが、今回は誰もいない。いや、居たのは一人だけだ。

 

「お久しぶり……いや、初めましてか。元気にしてるかい、天魔」

 

「…………」

 

 天魔は私の声に気付かないような振りをして、ずっと背を見せ続ける。

 

「おいおい反抗期か? 少しくらい顔を見せてくれても良いじゃないか」

 

 私が何度か声を掛けると、天魔は初めて口を開いた。それは今までのような嗄れた声ではなく、まだ若い声。

 ──────代替り、という単語が頭に浮かんだ。この天魔はまだ天魔という座に就いたばかりなのだろうと推測する。

 

「何故……」

 

「ん?」

 

「何故堕ちた駄族が、我ら天の種族に声を掛けている?」

 

「……おい」

 

 その言葉はまさしく鬼全てを見下す発言。私の声にも自然と険が入ってしまった。

 

「私は天魔。天狗という種族を治める王だ。その王に何のようだ?」

 

 天魔がこちらに振り向く。

 意外や意外、まだ若そうな男じゃないか。やはり代替りってのは本当だったようだねぇ。

 だがその眼光は以前の天魔と変わらず鋭い。

 けれど代替りで鬼の恐怖が薄れちまったようだ。これは後々面倒だね。

 ……ということで理由付けは出来た。

 さぁ、戦いだ。天を仰ぎ見るその頂点、一時返却してもらおう。

 

「……どうやら貴様は勘違いをしている」

 

「ん? 何がだい?」

 

「いつから天狗が鬼に劣ると思っていた?」

 

「なんだ───────ぬぅあ!!?」

 

 天魔は背後に出現した。そう、出現したとしか思えない速度で私の背後を取ったのだ。その証拠に風が私の髪を乗せている。

 ーーー予想以上。冷や汗が背中を伝った。

 これは勝てるかどうか私にも分からんね。

 

「天魔という種族は、鬼の四天王と呼ばれる四人に速さ以外及ばない。故に脈々と受け継がせた。知識を、技を、速度を!!」

 

 天魔はそのまま私を抱えあげ、屋敷から飛び出す。気付いたときには幻想郷の雲の上。私はその目まぐるしい変化に、口を開けながら唖然とするしかない。

 

「どうだ、良い景色だろう。しかと見ておけ。これが貴様の仰ぎ見る最期の天空だ!!!」

 

 その大きな両翼を畳み、抱えている私ごと天魔は身体を捻り出す。

 一回転。二回転。と回転速度を上げ、螺旋を描きながら更に上空へと飛翔。空に映る色が濃くなっていき、反対に酸素が薄くなっていく。

 

「くそっ! 離せ!!」

 

 流石にこの高さは異常である。私はなんとか脱出しようともがくが、がっちりと身体を拘束されており、体勢も悪いせいで思うように力が出せない。

 

「……む、そんなに離して欲しいか。ならば仕方が無いな。降ろしてやろう」

 

「うわわわわ、降ろすのは地面に着いてか───」

 

「秘法『解脱飛翔・開天闢地(ヘブンズ・ゼロ)』」

 

 天魔が下降を開始した。優に音速を越え、超臨界状態に於ける気体の層が天魔と萃香を包む。高さは数万m。豆粒のように見える幻想郷の地。その中心に位置する霧の湖に向かって天魔は加速を続ける。

 風切り音、そして風圧が、動けない萃香を無慈悲に襲い、言い様のない鈍痛やナイフで切り裂かれたかのような切傷が所々走っていく。

 

 既に目を開けていられるような状態ではなく、目を瞑ってその時を待つ。だがそれはまだ見ぬ痛みから逃げたと同時に、襲い来る痛みへの恐怖が沸々と沸き上がる悪手。

 

 痛い、怖い、苦しい。

 

 三つの解が萃香の心を支配した。

 

「今すぐ全てから解放してやろう」

 

 距離は残り数千。通常通りに落ちれば二、三分ほど余裕があるその距離で、天魔は止まった。

 

「えっ…………───────────」

 

 手を大きく広げ、天魔はピタリと何の抵抗もなく止まってみせる。

 

 普通はあり得ない現象。

 

 それを天魔はやってのけた。 

 

 天狗とは一線を画す飛行速度、技術。流石頂点に立つ者だと再確認させられた。そして明らかに先々代よりも強さが増している。この天魔はどのようにこれほどまでの力を手に入れたのか。

 

 

 ───────なんて、現実逃避をしている間にも、萃香は落ちていく。

 天魔と違ってこちらは止まる方法がない。私は自分の髪の毛を何本か抜いてミニ萃香を呼び出す。

 せめてものクッションだ。ミニ萃香には悪い事をする……と思う。だが今更そんな事を言っている暇なんてなかった。

 

 目が開けられないから分からない。

 どこに墜落するか、そして自分がどうなるか。

 

 萃香は歯を食い縛り、少しでもダメージを和らげようと頭を両腕で守る。

 

 高高度からの落下は、流石の鬼であろうとただではすまない。きっと物凄く痛いんだろうなぁ……と希望的観測をしながら、萃香はその時を待った。

 

 

──────────────

 

───────

 

 

 紅魔館。最上階の端の部屋。そこは紅魔館の主が住む部屋であった。

 紅魔館の主ーーーレミリア・スカーレットは、優雅にモーニングタイムを楽しんでいた。

 夜行性である吸血鬼にとって、日暮れとは朝だ。紅魔館の主として、優雅に、そして豪華に始まるレミリアの朝は一種の楽しみになっている。

 

「ふぅ……今日も咲夜の朝食は美味しいわね」

 

 自分のメイドが、少食であるレミリアの為に調節した栄養分のバランスが取れた完璧な食事。食後のトマトジュースも忘れない。

 グルメであるが為に舌の肥えたレミリアを唸らせるほどの料理の腕前。興味で始めたスイーツ関係での料理しか出来ないレミリアにとって、その才能をどこから取ってきたのかと咲夜に問い質したくなる。

 

「流石咲夜。紅魔館のメイド長ね」

 

 不敵に笑うレミリア。その姿は普段面影の欠片もないカリスマの具現、そのものであった。

 

 その時、レミリアに電流走る。

 

(なにか、本格的にヤバイ予感がする……。これは悪寒? それとも変革の予兆? それとも虫の知らせかしら。私吸血鬼だけど。…………ハッ、まさか!)

 

 これが『運命を操る程度の能力』の力!? ……と、ありもしない自分の能力が目覚めた事に、喜色を示すレミリア。この吸血鬼、ただ見栄が張りたかった為だけに能力をでっち上げているのである。

 だが現実は全然そんなことはなかった。

 

 幾ら待ってもその時は来ない。ありもしない幻想に、レミリアは胸が締め付けられる。

 

「……これが漫画にあった『ちゅーにびょー』ってやつかしら」

 

 ふぅ、と息を付いて伸びをする。

 分かっている。レミリアは分かっていた。そんな漫画みたいに突然能力が覚醒するなんて話、幻想が集まる幻想郷でもあり得ないって。

 

「朝食が冷めちゃうわ。早く食べましょう」

 

 仕方なく席に着き、朝食を食べようとしたその時、なにかが横切った。

 

「……………え?」

 

 そのなにかは、部屋の壁を突き抜けてそのまま朝食類に当たり、勢いの衰えぬまま、反対側の壁に激突した。

 

 紅魔館の主、放心。

 というか全く展開に付いていけてない。

 

「どうしたのお姉様ー!!」

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 愛しの我が妹が扉付近の壁を能力で破壊しながら、レミリアを心配し抱き着いてくる。

 それ自体は嬉しい。嬉しいのだが……如何せん妹の力が強い。首に回された腕は容赦なくレミリアの首を絞めて、意識を刈り取ろうとしてくる。

 

「ちょ、ギブ! ギブ!」

 

「Please give me?」

 

「そっちのギブじゃねえ!! あと流暢な英語ムカつく!」

 

 多分仲良く戯れている姉妹。その姉妹がいる部屋に向かって、とある男が入ってきた。

 いや、それは入室とは言えない。轟音と暴風を伴って穴が空いた壁から侵入した男は、その速さによって生まれた衝撃で、残りの壁を木端微塵にぶち壊した。

 

「失礼するぞ」

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 当然壁が木端微塵になるのであれば、中にいるレミリア達も無事ではすまない。フランは能力で自分に吹きかかる暴風を破壊したが、レミリアはそうはいかなかった。荒れ狂う風の流れに流されて床に頭から衝突する。

 

「ふむ……被害は少なめに、と思ったがそうは簡単にはいかなかったようだな。鬼も生きている。運命や因果とはどうしてこうも私の邪魔をしてくるのだ」

 

 少しだけ掻いた汗を拭う。流石に大気圏近くまで飛翔するのは天魔と云えど体力を使うようだ。

 

「いきなりなによあんた」

 

 そんな天魔に臆せず詰め寄るフラン。それを天魔は軽くいなした。

 

「どうしたどこぞの小娘。お楽しみを邪魔されて立腹か?」

 

「私のお姉様を傷つけたから怒ってるの!!」

 

「そうか、それは悪かった。非礼を詫びよう」

 

「なにそれ。謝る気あるの?」

 

 どこか見下した雰囲気。二人の間に険呑な雰囲気が流れようとしていた。

 そんなこともいざ知らず、レミリアは痛みから立ち上がった。その瞳には少しの涙と怒りの炎が灯っている。

 

「誰よこんなことしたの! すっごく痛いんですけど!? 落とし前着けて上げるから、ちょっと面貸しなさい!」

 

「ほう、姉君が起きたぞ小娘よ」

 

「お姉様、大丈夫!?」

 

 すぐに自分の姉の安否を確認するフラン。

 

 三人が一喜一憂している中、反対側の壁に衝突した鬼が朦朧とした意識の中、目を覚ました。

 




レミリアが昼夜逆転生活をしていないのは、
原作と違って霊夢の影響をそこまで受けていないから。
……という設定です。
技名のネーミングセンスについては目を瞑って下さい。
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