東方付喪録   作:もち羊

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遅れました。すいません。
ついでに会話方式を変更しました。


終わらない因果

「やぁ、萃香」

「やっぱり、最後はあんたか─────蓮華」

 

 一本道。魔法の森の奥。無縁塚と呼ばれた場所の手前にその場所はあった。幻想郷の住民は滅多に来ないためか、道は整備されておらず荒れている。

 無縁塚へと続く先に、一人の少女がいた。桃の絵の具を散らしたかのような、無駄っけのない明るい髪色。背丈は小さいが、それでも萃香よりは大きい。

 こんななりでも萃香の親友。そして能力だけに関して言えば、幻想郷内でも最強に近いと断言できる。

 

「こんなところでどうしたの?」

「蓮華……あんたがそれを言うかい」

「思い直すにはこの道が丁度良いってね。紫からさ、聞いたもんでね」

「私は進み続ける。半端はもうお断りだ」

 

 彼女の瞳には明確な敵意が宿っている。三人目の彼女と邂逅してから、初めて向けられる類いの視線。そして今まで多くの者に向けられてきた視線。

 

(友達と敵からじゃあ、随分と感じ方が違うなぁ)

 

 紅魔館で一悶着を起こして、その日から三日が経った。噂とは流布されるのが早いもので、すぐさま萃香の危険性は人里全体に広まり、里を纏める代表者は決断を迫られた。

 

 退治か、封印か。

 

 代表者達の意見はこの二つのどちらかであり、萃香が抵抗の意思を見せる見せないにしても、お情けは掛けられる隙間もなかった。──────第三者がいなければ。

 

「進み続けるんだったらさ、私とデートしない? そんなあちこち破れた服なんて着ないでさ。里でおめかしでもして、普通の女の子みたいに団子でも食べながら一緒に語り合ったりしてさ」

 

 蓮華の口から出るのは毒だ。萃香の意思を弱らせる神経毒。言葉に乗って、その毒は萃香を侵食しようと近付いてくる。もし萃香がこれに屈すれば、萃香が今までやった行いの全ては無駄になり、また振り出しに戻る。友情に依存した自分に戻ってしまう。

 

「嫌だ……」

「おろ?」

「ごめん、蓮華。私は普通の女の子じゃない」

「へぇ。私から見たら、今にも泣きそうな弱々しい女の子に見えるんだけど。……これは幻視かな?」

「蓮華……ごめん。……ごめん。私は一人じゃなかった。沢山の友がいた。不幸なんて思った事もない」

「そう言って貰えるなんて友達冥利に尽きるね」

「でも私は─────。嫌なんだ。おんぶに抱っこ。寄り掛かって杖代り。そんなの嫌だ! 私は鬼だ! 鬼の伊吹萃香なんだッッ!!」

 

 張り裂けそうになるほど、声を出した。

 蓮華に伝わるように、声を出した。

 想いを吐き出すために、声を出した。

 表情なんて関係ない。姿形なんて関係ない。思うがまま、今の萃香を受け取ってほしかった。

 

「そうか。……そうだったね。萃香は鬼なんだ。その事を……忘れていたよ」

 

 蓮華の口から出たのは、どこか諦めの言葉。そして分かりきっていたかのように言葉を止めた。

 

「蓮華……あんたを倒すよ。あんたを倒して、証明するんだ。鬼はここにいるんだと。そして指針になるんだ。地下に隠れた鬼達が気付いてくれるように」

「私を倒しても終わりじゃない。その後は更に血が流れるんだ。憤った人間が。報復に業を煮やした天狗達が。人間に煽動された強い妖怪達が。皆、皆が萃香を狙うんだ! 指針になる前に殺されちゃうよ! だからさ……もう止めようよ。ねぇ!」

 

 萃香は無言で拳を握った。これ以上言葉はない。何を語っても、萃香と蓮華の主張が変わることはないからだ。

 

「意思を通したくば戦え」

「萃香……」

「それが鬼の約定だ」

 

 ───────もう既に、踏み止まる時は踏み越えた。両者にとって言葉もう無意味。

 萃香は己の望みを叶えるため。そして正義を高らかに謳うため、蓮華を倒す。

 蓮華も萃香を止めるため。友を救おうとする身勝手な願いを成就させる為に萃香を倒す。

 ただそれだけだ。

 

「掛かってきな。もう私は全盛期を上回った」

「ホントは嫌だけど……無理矢理気絶してもらうからね」

「私を気絶させる? 寝言は寝て言え、蓮華ぇぇッッ────!」

 

 ──────再思の道。思い止まる事は決してしない二人が、激突した。決戦の火蓋が切られたのだ。

 

 まず蓮華は、結界を発動させる。萃香が警戒しているのはこの能力だ。元々彼女が前世の時より〝弱体化している〟のは知っている。それでも尚、警戒するに足るのが『界を結ぶ程度の能力』だった。

 二代目曰く、世界を創り、それを管理する神として君臨するための能力。設定された効果は、確実にこの世界に顕れる。

 

(なんだ・・・なんの結界だ? でもそんなことより・・・)

 

「蓮華、あんたが結ぶ界は、もう境界じゃないんだね。その成長速度、ちょっとだけ驚いたよ」

「ありがと──────ねッッッ!」

 

 この時、鬼の直感が働いた。度重なる連戦で未来を感じるまでに至ったその直感は、蓮華が繰り出した初撃を確実に見切った。まずは左の蹴りだ。狙いはこめかみ。

 だがその蹴りは、予想したより数段速く、私のこめかみに突き刺さった。

 

「なっ────────」

「次っ!」

 

 脳を揺らされ、膝が地面に吸い寄せられていく。それまでの短い時間。既に私の腹部には、二発もの拳がめり込んでいた。息が咄嗟に吐き出される。直感でも、経験でも見切れないその打撃。種は彼女が張った結界にこそあるのだろう。

 

(自分の力を散らして一旦様子見を……!!)

 

「『固定の結界』」

「何ッ!?」

 

 まるで身体が石になったかのように動かない。即座に下を向くと、肩から下が半球の形をした薄い膜に包まれている。

 

(まさか蓮華は、〝私の能力〟も含めて固定したのか!)

 

「おりゃっ!」

 

 丁度鼻頭の部分に、彼女の爪先が当たった。軽く、小柄である蓮華。人間大の飛び蹴りは、子供程の背丈であっても当たり所によっては大きなダメージとなる。しかしそれは対象が人間である場合によるだけで、人間の身体能力を大きく超える妖怪では、人間の子供程度の蹴撃ではかすり傷も与えられない。

 

 

 ────────筈だった。

 

「、っはぁ、ぐっ─────!!」

 

 枝葉をクッションにしながら、衝撃緩和に努める。

 蓮華の一撃。それは子供程度の者が放った蹴り────と言うには、あまりにも威力が桁違いだった。

 このままでは不味い……と頭のどこかで警報が鳴る。ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる蓮華は、いつも私が見ていた蓮華じゃない。全く別の、それこそ他人だと見まごうような少女だった。

 

「強い、ね。何か種でも……?」

「紫って物知りだよね」

「アイツか。魔術にも妖術にも知が及ぶ紫の事だ。何らかの術で強化でもしてるのかな?」

「秘密だよ」

 

 一陣の風を纏って、馬鹿正直みたいに彼女が一直線で突っ込んでくる。問題はそんな直線的な攻撃も見切れないって事なんだけど。

 しかし手立てはある。蓮華は左腕と右目が無い。当然左腕を使った攻撃は飛んでこないし、右側から来る攻撃には対処が遅れる……筈。

 

 先ずは目の前の対処だ。蓮華は体ごと私に体当たりしてくる。その衝撃、威力は尋常じゃない。まるで砲弾のようだ。私は踏ん張る事も叶わず、空へと舞い上がる。眼下へ森が広がっていた。地平線の奥まで一面の碧色。そして直下から迫る桃の色。

 

(景色なんて見る暇も与えてくれないのか)

 

 私は咄嗟に三つの分銅を出し、扇状に展開した。分銅は鎖で繋がっており、端の端まで私の思うがまま。分銅は樹林の頑丈そうな幹にそれぞれ巻き付き、私の上昇を止めた。次にギシッと張りつめた鎖によって、しっかりと巻き付いた事を確認する。

 

「────次はこっちの番だよ!」

 

 三つの鎖を片手に纏め、鬼の腕力で思いきり引っ張った。流石に三つの大木は鬼の力より頑丈で、根を隆起させながらも、大木は折れずにその場へ居座っていた。

 生まれたのは反作用。授かったのは加速だ。迫り来る蓮華に向かって、重力を味方につけながら突撃する。

 頭と頭がぶつかり、衝撃波が広がる枝葉を揺らした。お互い無事ではなく、血が額から滲んだ。

 

(まだだ。蓮華はまだ倒れない)

 

 断言した。確信では断じて無い。未来が既に分かっているような、予知に近い信用。彼女は起き上がってくる……と、まるでそれが確定事項のように盲信する。

 そして萃香が立ち上がると同時、蓮華も立ち上がった。驚きも何もない。分かっていたからだ。それよりか安堵の気持ちの方が大きかった。

 

「いつつ……防御力はあんまり無いのに……」

「嘘吐き。十分ある方だよ、あんたは」

「嘘と謙遜って何が違うんだろうね?」

「そりゃ意識の問題さ。思っているか、思っていないか。そうであるか、そうでないか。受けとる側の考え方の違いだね」

「それじゃあすっごく意地悪」

「意地悪じゃない存在なんているかい?」

 

 まるで普段の会話をするように。淡々と行われる両者間の会話は、一時の戦闘を忘れさせ、少しだけ友人との時間を双方に思い出させた。

 けれど蓮華は止める側。萃香は進む側。相反する二つの関係。これを敵対と言わずしてなんと言うか。

 

 もしこの時どちらかが妥協していれば。

 

 ただの喧嘩……で終わる可能性があったのかもしれない。

 

「蓮華、もう夜だ」

「そうだね。今夜の月は綺麗だ」

「でもあんたは敵だ」

「今は敵だね」

「邪魔する限り永遠に敵だ」

「私は何度でも言うよ。今だけが敵だって」

「あんたは私についてくるのかい?」

「紫と幽々子を置いてはいけない」

「だったら私が言うことは一つだけだよ」

 

 萃香が告げる言葉。

 それは友との決別を意味した終わりの言葉。

 

「我が名は鬼の四天王伊吹萃香! 邪魔立てするなら容赦はせん! 物の怪よ、塵の山に沈めッッ!」

「萃香……。私から掛ける言葉はもう品切れ。だからその喧嘩、買ってやるよ! 売るのはもうゴメンだ!」

 

 鬼の伊吹萃香は、たった一人の少女に勝負を挑んだ。

 お互いを敵と認識し、闘争という形で喰らいあう。

 

「──────死にな。四天王奥義《三歩壊廃》!」

「──────今だけのとっておき。《夢想反射境》!」

 

 それぞれの最大奥義が、(萃香)を倒す為に。(蓮華)を超える為に。─────各々の形でぶつかった。




四月一杯までかなり忙しく、
更新は一週間に一回とします。
こちらの都合で勝手な事をし、申し訳ございません。
五月に入ってから更新ペースを戻しますので、それまでお待ちください。
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