あらすじでも書きましたがこの話にはペルソナ4の【重大なネタバレ】が存在します。
ペルソナ4のゲームの未プレイ、またはアニメの未視聴の方はそれを踏まえた上でお読み下さい。
ゆっくりと目蓋を開ける。
ああ、またこの夢か。
気付けば霧が覆う世界に立っていた。
見える範囲は自分を中心に半径百メートルくらいだろうか。そこから先はだんだん霧が濃くなっていって輪郭が見える程度だ。そんな霧の中で、目視できる手摺りの無い赤と黒の四角い模様の床を歩きながら目的の場所に向かって進む。
しばらく歩いていると赤と黒の四角い線が折り重なった扉の前に辿り着きその扉に触れる。
扉はゆっくり回転しながら中央から外側に向けて開いていく。
扉を潜りまたしばらく歩き続けると、大きく開けた扇状の場所に出る。
そこから先は床が途切れて霧しかなかった。ここが目的の終着点である。
「こんばんわー! ナミ様ー!」
霧の先に向かって大声で相手の愛称を叫ぶ。
呼び掛けから少しすると、霧の向こうから自分の何倍もの大きさの影がゆっくりと現れる。
「ふっ、もはや遠慮も無いか人の子よ」
「あはは」
巨大怪獣と遭遇した人間って、こんな気分なんだろうなぁ。
遥か頭上から聞こえた声に顔を見上げながらそんなズレた事を考える。
目の前には赤黒い巨大な骨盤、肉で覆われていない正に骨のみの骨盤が目の前にある。
そこから視線を上に上げると巨大で長い背骨、先が鋭く尖った肋骨、羽の様に左右に大きく伸びた鎖骨には左右合わせて12本の巨大な腕、そして肋骨の上部辺りから白無垢のようにサラシの様な帯が幾つも巻かれ、その頂点に自分と同じくらいの身長のナミ様の本体であろう全身髑髏で縮れた長い髪の女性が、瞳の無い黒い眼窩でこちらを見据えている。
因みにナミ様と呼ぶようになったのは最近で、その正体は日本では知らない人の方が少ないであろう有名な国生みの神にして黄泉の国の女王の一柱である【伊邪那美命】。
ナミ様は自分が住むこの町、八十稲羽の土地神でもある。
最初は彼女の姿を見た時はキャスターの本体と遭遇した時のようなプレッシャーを受け、恐怖と緊張で彼女の質問に返答するのがやっとだったが、最近では向こうが抑えてくれている為こうやって気さくに会話できるようになった。
「……ふん」
ナミ様は自身に生えている手ではなく、巨大な身体の方の骨の手を一つ動かしてこちらに近づける。
本来なら逃げるべきなのだろうが、自分は逃げない。そもそもこれも最近のいつものやり取りだ。
ナミ様の血が乾いた様な赤黒い骨の指先が……自分の頭に触れる。
「…………」
「…………」
しばらくお互いに見詰め合い、先に自分がナミ様に向かって笑いかける。
「……ふ。今日はお主の出会った我の娘について話してくれる約束であったな」
ナミ様は指をゆっくりと下げ、それを見届けてから彼女の言葉に頷いて答える。
「はい。生前、というか別の世界と言った方が正しいですが」
生前のパートナーの一人であったキャスター、タマモについて彼女に話す。
彼女が己の意識の一部を分御霊として現世に落とし、人として過ごすも、ある日化生である事がバレ、そのせいで愛している人間に追い立てられ討たれてしまい、悲しい最後を遂げたことを。
ここまで話すとナミ様は『我が子ながら行動力がありすぎる』と呆れた声を上げた。
その後、英霊となっても人を愛し、人を支える事を第一としていたこと、酷い男に捕まった結果、色々はっちゃけて地を隠すのをやめたことを話す。
この段階でナミ様が『男運の無いトコまで似たか。いや、最後に幸せなら別にいいが』と完全に母親目線になっていた。
そして最後に『自分なんて元祖ヤンデレの母親に比べればまだまだ甘い』と言っていたことを伝えると、これには流石にナミ様も否を唱えた。
「待て。我はヤンデレではない。そもそも復縁しろとやって来て離縁を叩き付けた兄が悪い。あやつこそ元祖草食系男子にして自己中無責任男の代表格よ!」
ナミ様は意外と現世の知識に富んでいる。理由を聞くと現世の様子を覗いてる上に、条件が揃えば人型でも行けるらしく、ちょいちょい情報収集に出ているんだとか。
「我は黄泉の管理と同時に地母神でも在る故、子を見守るのは当然。大体あの男は仕事をしない。本来ならあやつの仕事だと言うのに――」
そこからは旦那兼兄であるイザナギの愚痴が始まった。そんなナミ様を見ているせいか、全然怖くない。というか、祖母が祖父の愚痴を言っているように感じて微笑ましかった。
「……ん、んん。まあ我の事はよい。今日はお主に大事な物を渡す予定であった」
こちらの内心を感じ取ったのかナミ様は一度ワザとらしく咳払いすると、空中に手を翳す。するとそこに手の平に収まるサイズの小さな葡萄が付いたつる草の髪留めの様な何かと大輪に六つの小輪がついた錫杖が現れ、それはゆっくりと自分の手の中に降りてきた。
「
……えっ、天逆鉾ってあの刃の部分がレプリカの……これ国から狙われない!?
「……どうしてこれを?」
今迄こんな事は一度もなかったのと、現実にコレを持って行っていいのかという純粋な疑問からナミ様に尋ねると、彼女は視線をこちらに戻してから口を開く。
「……私が『伊邪那美命』で在れるのも、今日が最後であろう。故に、最後にお主に『私のもう一つの想い』を託してみることにする」
するとナミ様はもう一度だけ自分の頭に触れる。不意に身体に何かが駆け巡ったような感覚が走る。
そんな感覚に疑問を抱いている内にナミ様はゆっくりと霧の奥に戻って行く。
「ナミ様! また会えますか!」
「それは『お主』次第であろう。ではな、ただの人の身で我が下に来た子、
その言葉を最後に彼女は姿を消し、自分もまた睡魔に襲われる。
ああ目覚める。目覚めると全てを忘れているんだよなぁ。
それが残念で仕方がなかった。
まあ今回は贈り物も貰ったし、もしかしたら覚えていられるかもな。
そんな事を考えながら、自分はゆっくりと睡魔に意識を委ねた。
シャリン。シャリン。という鈴の様な音が聞こえた。
それはまるで自分を起こすかのようにずっと鳴り響き、その音に意識が目覚め、次に聞こえてきたのは小さな誰かの泣き声だった。
ナミ様との邂逅が終わり、いつもの様に目覚めると思った自分の予想を裏切り、目蓋を開いた自分が立っていたのは真っ暗な空間だった。
ここはどこだろう?
初めての出来事に多少の戸惑いはあった。
だがそれ以上に、誰かが泣いている。ならば助けないとという思いが勝り、思考はすぐに冷静さを取り戻した。
こんな真っ暗な空間でどうすれば……あ。
手に持った金剛錫杖に気付き、それを自分が立っているならきっと地面もあるだろうと、足元に石突を打ち付ける。
シャリンという大きな音と供に輪から白いオーラの様な物が周囲に飛ぶ。それを何度も何度も繰り返していると、真っ暗な闇の向こうから、小さく輝く青白い火の玉がゆっくりとこちらにやってくるのが見えた。
火の玉は音に導かれる用にこちらに近付く。手が触れられそうな距離まで来ても止らないので、軽く手を出して触れると、火の玉はその場で止る。
『……暖かい……ぐす……母に逢いたい……あああ…』
火の玉から直接そんな言葉が送られてくる。
子供のような声色からは、ただただ母への強い想いが込められている気がした。
声は発せられない。故にこちらも相手に伝わるように心の中で念じる。
『それじゃ一緒に来る?』
しかし火の玉は否定する。
『身体……ぐす……無い……無理』
そしてまた泣く。
『なら自分の身体に入りなよ。そして君の身体を一緒に捜そう』
諦めずにそう語り火の玉を抱き寄せる。
『……いいの?』
『ああ。さあ行こう。こんな寂しい場所に居ちゃダメだよ』
火の玉をゆっくりと自分の身体に押し当てると、火の玉はゆっくりと身体の中へと入り込んだ。
『――ありがとう』
感謝の言葉が頭に響くと、また意識が遠退き始めた。
ああ、今度こそ目覚めるかな。
ゆっくりと目蓋を閉じる。そう言えばあの火の玉の子に名前を聞いていなかった。今度会ったら聞いてみよう。
そんなことを考えながら次に目が覚めると見慣れた天井を見詰めていた。
「覚えて……あれ?」
今迄で覚えていなかった夢の内容を覚えている事に驚いたその時、両手に何かを握っている事に気付いて身体を起こすと、両手には夢で見た髪飾りと錫杖が握り締められていた。
……何かが、始まろうとしているのか?
窓の外に視線を向ければ雪が降り、地元の神社から響く鐘の音が新しい年の始まりを告げていた。
ナミ様の性格が原作より穏やかなのはまだ『アレ』の前だからです。
というか原作やった人は白野の苗字で原作のどのキャラに近いポジションなのか分かってしまうと思う。(そのキャラの設定まんまではないですが)