お待たせしました。
初めてのペルソナVSペルソナ戦。
楽しむ出来になっていればいいのですが。
こちらに突撃してきたシャドウドレイクとセイバーが甲板中央で互いの剣をぶつけ合う。
セイバーの一撃を受けたドレイクが後方に吹き飛び追撃を行おうとセイバーが駆け出そうとした瞬間に、彼女の背後から『四門の砲』が現れる。
「カルバリン砲!?」
咄嗟にセイバーを射線から移し自分もその場から移動する。
砲口から炎に包まれた鉄球が放たれる。
地面に着弾すると同時にその場所が爆裂する。
しかし地面は抉れていない。その辺りはテレビの世界と同じようだ。
次にシャドウドレイクがカトラスをこちらに向ける。
セイバーの足元が光ったのでその場から離脱させると竜巻が発生する。
セイバーが炎のスキル扱うようにシャドウドレイクは風のスキルを扱うのかもしれない。
ベルベットルームで話を聞く事である程度ペルソナの使う技や術についての知識も増えた。
まずペルソナはそれぞれ【力・魔・耐・速・幸】のステータスと【物理・火炎・氷結・疾風・雷撃・光・闇】の属性が存在する。
そしてペルソナの技は『スキル』と呼ばれていて、攻撃スキルは【万能属性】以外は全て七つのどれかの属性が割り当てられている。
スキルには【単発】と【範囲】の二種類があり、ペルソナによっては片方しか使えなかったりする。
因みにセイバーは物理スキル、強化スキルは単発だけだが火炎スキルは単発でも範囲でも発動が可能であり火炎と物理には強い耐性を持っている。
シャドウドレイクはセイバーと同じオールラウンダーの可能性はあるが、攻めないと情報を得る事も出来ないか。
「セイバー!」
セイバーが掌を向け、シャドウドレイクの足元から炎を放つが、それをシャドウドレイクは余裕の動きで避ける。
シャドウ慎二が腕を動かすとシャドウドレイクはカトラスを消して新たに銃を握り、二丁拳銃をこちらに向けて白い光の弾丸を連続で発射する。
そこまで弾速は早くない。先程の力比べを考えるとスピードとパワーはセイバーの方が上か、なら!
セイバーに突撃を命じる。
光る弾丸を時には回避し時には剣で弾きながら距離を詰め、彼女の大剣が届く間合いへと到る。
「そこだセイバー!」
攻撃補助スキルで剣が光り、その刀身がドレイクの胴を水平に斬ろうとした瞬間、彼女は飛んだ。
「なっ!?」
いや、確かに彼女の『生前のクラス』を考えれば『アレ』が有り、扱えるのは分かる。そして自分は現実ではそれを見ていないが、その『情報』は知っている。
「……作られた。そうだよなぁ再現じゃない。想定しておくべきだった」
一度だけマーガレットの方へと視線を向けると、彼女は目を細めて笑ってみせる。
目の前のシャドウドレイク、正確には空を滑る『ボート』へと視線を向ける。
ドレイクはライダーだ。つまり彼女には最初から『乗り物』が存在する事になる。
【
生前彼女が乗っていたガレオン船であり宝具。
先程のカルバリン砲はこの船の物だ。
つまり彼女は魔力さえあれば船その物を呼び出す事も可能だし、やろうと思えば『船の部品単体』での召喚も可能ということだ。
「だからってボートがあの速度っておかしいだろ!」
空を滑るボートの速度はどう考えても人力では出せないレベルの速度が出ている。アレじゃまるでジェットスキーだ。
「そこは彼女の疾風属の力が有れば可能だと思って私がアレンジしたわ」
「くそ、その理由で納得してしまっている自分が悔しい」
マーガレットの言うとおりペルソナの疾風スキルを応用すれば出来そうだし、そもそも生前からして魔力放出のスキルがあれば出来そうな気がしてしょうがない。
こちらの気持ちなんて気にした様子も無く、ドレイクはそのまま空から拳銃を構えて連射してくる。セイバーに回避を命じているが距離があるせいでこちらが攻撃する暇が無い。
視線を一度だけシャドウ慎二へと向ける。
自分のように喋らない代わりに彼は手を動かしてシャドウドレイクに色々と命じている。
そう、これはサーヴァント戦じゃない。ペルソナ同士の戦いだ。
つまり今シャドウドレイクにこう動け、こう攻撃しろと命じているのは自分と同じくシャドウ慎二だ。
「そう考えると、慎二らしい戦い方とも言えるな」
基本的に優位ポジションを取ったらそれを維持しようとする。
無理や無茶はギリギリまでしない。というか殆どしない。
最初の鍔迫り合いでセイバーに力負けしたから接近戦を避けた。
スキルはアレ以降使わないところを見ると、あまり得意ではない可能性が有る。
セイバーにあの速度に対しての遠距離武器が無いと悟られた。
セイバーの動きに気を配りながらもシャドウ慎二の動きから彼の考えを読み解こうとする。
あれだけの優位の場所でカルバリン砲を出さない。やはりあのボートの制御に力を持っていかれているか、呼び出せる部品は一つだけ、という設定だと考えるべきか。
ならば自分が取るべき行動は……やれるか?
「このままではジリ貧ね。でも負けてもまた挑戦すればいいわ。今回駄目でも、また挑戦できるのだから」
「負ける……この二人に関してだけは、それは絶対にありえない。あってはならないんだよマーガレット」
だってそうだろう。
自分はこの二人の凄さを知っている。
「条件はどうあれ、互いに本気で、全力で戦った二回戦以降の相手なら、負けたっていい。だけど……」
だが自分はそんな彼等の本気を知らない。全力を知らない。
自分の記憶には、それがない。だから負ける訳にはいかない。
「実力を出し切れていなかった彼等から生まれた偽者なんかに負ける訳には行かない!」
この戦いでの敗北は本来は強い筈のあの二人への冒涜に繋がる。それだけは自分自身が許さない!
今までの情報から次の行動をセイバーへと伝達し、行動に移る。
「セイバー!」
シャドウドレイク目掛けてセイバーが飛び出し、彼女が剣を横薙ぎに払った瞬間、シャドウドレイクの周囲に幾つ物の火柱が立ち上る。
シャドウドレイクはそれを巧みにボートを操って回避するが、想定済みだ。
セイバーは予め送っていたイメージ通りに『火柱』に突っ込み、突き抜けるとそこにはシャドウドレイクがいた。
セイバーは火属性に強い耐性がある。炎を潜り抜けるくらいは対したダメージにはならない!
「――!?」
シャドウ慎二が驚いたように動き、すぐにシャドウドレイクをその場から離脱させようとするが、こっちの方が早い。
セイバーがそのままシャドウドレイクを蹴り飛ばしてボートから落とす。
シャドウドレイクが落下中にカルバリン砲を出すが、それより先にセイバーの力が溜まる。
今迄の倍近い火柱が、シャドウドレイクとカルバリン砲の背後の甲板から噴出して飲み込む。
「セイバー!」
セイバーに攻撃力強化のスキルと物理攻撃スキルを発動させる。
炎が止み、現れたシャドウドレイクは身体のあちこちをまるで映りの悪いテレビのように乱れさせていた。
そんな彼女目掛けてセイバーは両断するように剣を振り降ろして切り裂く。
「――」
シャドウドレイクがその身体と仮面を切り裂かれると同時にシャドウ慎二の仮面も砕ける。
二人の身体が霧散するとその身体から光の玉が現れ、それが自分達の目の前で一つに合わさる。
黒い霧が晴れ、現れたのはかつて戦ったフランシスドレイクと同じ衣装の二丁拳銃を持った海賊服の女性のペルソナ。
「これは……」
「それが貴方と『彼等』との絆の形」
目の前のペルソナがその姿を『Ⅰ』の文字が書かれたカードへと変化させて自分の身体へと吸収される。
目を閉じて胸に手を当てる。
……感じる。新しい力が自分の中で芽吹いているのを。
新しい力の存在を感じていると、目の前に扉が現れる。
「とりあえず出ましょうか」
マーガレットに促されて扉を潜って最初の場所に戻る。そして扉が閉まると扉はまるで役目を終えたように消えて無くなる。
「おめでとう。まさか初回でクリアするとは思わなかったわ」
「……なあマーガレット、もしかしてこの扉の向こうの敵、その源は」
「貴方が今想像した通り、貴方の『かつての絆』を基にしているわ。以前、貴方には既にペルソナへと到れる程の絆の力を幾つも有していると言ったのを覚えている?」
マーガレットの言葉に頷くと彼女は次の問いを口にする。
「それでは以前『ペルソナ』がどうして英雄や神話生物として具現化するのかについて説明したのを覚えているかしら?」
それならば覚えている。
ペルソナは本来は『意識』という形を持たないものだ。その意識を『普遍的無意識』を介する事で具現している。そして具現化する際に『現実世界で一番形を成し易いモノ』で呼び出される。
これは人間の世界の神々への信仰、物語への想像、偉人達への憧れ等が理由だとイゴールが言っていた。
そのことをマーガレットに話すと彼女は満足気に頷く。
「それが本来のペルソナの在り方であり、ワイルドもまた例外ではないわ。けれど貴方は『個人的無意識』からペルソナに形を与えているのよ」
「個人的無意識……」
自分は他人のペルソナを知らない。だが確かに呼び出したネロもタマモも『自分が知っている姿』をしていた。
そして今回手に入れたフランシス・ドレイクも『男性』ではなく『女性』だった。
「貴方の絆の力は過去の物、故に貴方は今一度過去の相手を強く意識することでペルソナに形を与える必要があるのよ。このヴィジョンクエストは私の我侭でもあり、同時に貴方の為でもあるの」
「そうだったのか……ありがとうマーガレット」
感謝の言葉を伝えると彼女は気にしないでと言って首を横に振る。
「ベルベットルームの住人はお客様をサポートするのが当然の務めですから」
急に営業口調でそう言われて苦笑する。
「それじゃあ次は――あ?」
不意に力が抜ける。
これはテレビで感じた疲労感と同じものだ。
「アレだけの戦いをしたのだから当然よ。今回はゆっくり休みなさい。それとこの世界にこれるのは『主が居ない日』限定なの。だからこの世界に招ける時は、この『白蝶貝のブローチ』で知らせるわ」
そう言って彼女は白蝶貝のブローチを自分の手渡すとここに来た時の扉を開ける。
いつもベルベットルームから外に出る時の同じように意識が引っ張られる。
「それじゃあまたここで会える日を楽しみにしているわ」
マーガレットのその言葉を聞き届けると同時に自分はいつもの商店街に立っていた。
身体の疲労感はそのままだったので、その日は結局マーガレットの言葉通りにそのまま帰宅してすぐにベッドで横になった。
基本的にこの作品のペルソナはアニメ同様に明確にスキル名を言わない様にしています。
大まかにこういったステと属性で、こういったスキルが使えるよって感じです。
それとペルソナのアルカナはマスター基準ですのでそこはご理解下さい。
基本的にアルカナは本人の本編での性格や行動をメインに考えています。
慎二が魔術師なのはたぶん納得してくれる人も多いと思う。