岸波白野の転生物語【ペルソナ編】   作:雷鳥

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ようやくダンジョンです!



【熱気立つ大浴場】

『それでは怪しい熱帯天国に、あっ突・入!』

 

「…………」

 

 おっと、あまりにも凄い映像だったせいで言葉が出なかった。

 

 放課後に完二の様子を見に行こうと思ったらモロキンに捕まって色々と手伝わされ、雨も降ってきた為そのまま帰宅。

 そして深夜にマヨナカテレビの確認をし、そこに映っていたのは――褌姿でなんか銭湯みたいな場所に突入するちょっとおかしい完二の姿だった。

 

「くそ、よりによって忙しくて見に行けなかった日かよ」

 

 慌てていつものテレビに入る時の衣装に着替え、金剛錫杖を持ってテレビ内へと突入する。いつもの落下の後、地面に着地してすぐにヒノに声を掛ける。

 

「ヒノ、完二の場所は解るか?」

 

『……うん。辛うじてだけど。案内するね』

 

 ヒノの言葉に頷き走り出す。

 そしてしばらくして霧が晴れ、現れたのはテレビで見た銭湯。

 

「なんか、暑苦しい場所だなぁ」

 

 開いた扉から中に入るとまるでサウナの様に蒸していた。いや、風呂だと言うのならサウナがあっても間違いではないが……それより、なんか妙に艶っぽい男の声が建物中に響いていてそっちの方が精神衛生的によろしくない。

 

「にしても以前の天城の城もそうだが、いったいこの場所はどういう原理で出来ているんだ?」

 

『僕にも分からないけど、なんか新しい場所が出来る度に力を感じるのが難しくなってきているのは確かだよ。今回場所がすぐに特定できたのはあの完二お兄ちゃんとお兄ちゃんが親しい関係だったからだと思う』

 

「そうか。となると今後は最悪何回も探索しないといけなくなるかもしれないのか」

 

 ヒノと会話しながら霧と湯気の中を進んでいると妙な場所に出た。

 他の場所とは違うとても広い空間でその中央に探していた人物が立っていた。

 

「完二!」

 

「っ!? ああ先輩! まさかまさか最初に出会ったのが貴方だなんて。僕、嬉し過ぎて胸が張り裂けそうだよ」

 

 声をかけると以前のドレス姿の天城同様に完二にスポットライトが当てられ、完二はその場で頬を赤く染めて身体をくねらせながらこちらに全力で敬愛の視線を向ける。

 

 ……なんだろう。こう、仕草は確かに気持ちが悪い。そりゃ大柄な男があんな仕草をすれば多少そう思うものは仕方ないと思う。しかし口調そのものは、なんというか『昔の完二』に戻っただけの様な気もする。

 天城と同じ気配を感じるし、やはり完二もこの世界のなんらかの影響を受けているのかもしれない。

 

「……完二、ここで何があったのかは今は聞かない。ここはあまり良い場所じゃないんだ。一緒に元の世界に帰ろう」

 

 自分がそう言って完二に手を差し伸べると、目の前の完二は驚いたような表情をする。

 

「先輩は、僕を完二だと思ってくれるの?」

 

「ん? そりゃまぁちょっと変な感じはするがお前は完二だろう? 自分の事を僕だなんて昔のお前みたいで懐かしいけど」

 

 自分の答えを聞いた完二はどこか寂しそうに自虐的な笑みを浮かべた。

 

「やっぱすげーよ先輩は、そんな先輩と一緒にいながら、僕と来たら……」

 

「完二?」

 

「ん~先輩の折角のお誘いだけど僕はまだ帰りたくないんだ。だからもし先輩が『僕達』に帰ってきて欲しかったらこの場所の一番奥までズンズン、ガンガンあ、突入! しちゃってください」

 

 完二がそこまで喋るとまた派手な効果音と共に空中に【女人禁制! 突☆入!? 愛の汗だく熱帯天国】というテロップが現れる。

 

「―――お、おぉう?」

 

 え? まさか完二、そっち系? そっち系なの!? でもアイツ普通に……。

 

「そんじゃはりきって、行くぜコラアァァ!」

 

「っ!? また呼び止め損ねた!」

 

 またもあの強烈なテロップのせいで目の前の完二を呼び止める機会を失い自分を叱責しつつ、完二が言った言葉を口にする。

 

「完二は……僕達って言ってたな」

 

 完二の言葉に引っ掛かる物を覚えながら、それでも後を追う以外の選択肢も無いため気合を入れ直して完二の後を追いかけた。

 

 

 

 

「はあ、はあ」

 

「アアア……」

 

 目の前で『ⅩⅠ』の番号が書かれた青い仮面を付けたレスラーみたいな屈強な身体のシャドウが消滅し、その場に鍵を落とす。

 床に落ちた鍵を拾おうとして膝が崩れる。

 

『お兄ちゃん、もう今日は無理だよ。そんな状態じゃ……』

 

「……くそ」

 

 ヒノの言葉に己の無力さを悔やむ。

 ここまでの道中と先程の強力なシャドウとの戦いで体力が底をついてしまった。もはやペルソナの召喚もできない。

 

 こっちの世界に何度も来ている自分と違って完二は初めてだろうしあの豹変だ。早くここから助け出さないといけないのに。

 

「……一旦撤退しよう」

 

『うん。それがいいと思う。大丈夫だよお兄ちゃん。きっと完二お兄ちゃんを助けられるよ!』

 

「そうだな。ありがとう、ヒノ」

 

 ヒノの励ましに感謝し気落ちしている暇は無いと身体を起こしてトラエストで帰還する。

 帰還後、そのままベッドへと倒れこむとすぐに意識が薄れて行った。

 

 

 

 

 翌日。

 学校を休もうかとも思ったが完二が本当に向こうに行っているのか確認の為にいつものように登校の時間に迎えに行く。携帯にも一応連絡したが圏外だった。

 

 いつものようにチャイムを鳴らすとおばさんが出迎えてくれた。

 

「おはよう白野君。ごめんなさいねあの子ったら昨日帰って来なくて」

 

「……そうですか。ウチには泊まりに来てないので心配ですね」

 

「……そうね。いつもなら一日くらいってなるけれど、今は町も物騒だし、訊いた話だと天城旅館の雪子ちゃんも数日だけど行方不明になったらしいし」

 

「警察に連絡は?」

 

「一応入れたわ。でもほら、あの子普段から格好付けてるから警察の方の対応もあれでねぇ」

 

 まあ普段から不良扱いの完二では警察もたんなる家出や夜遊び程度と考えるかもな。

 

 やはり警察は当てにならない。今日、決着をつける。

 おばさんいつもと殆ど同じ口調と笑顔で話しているつもりかもしれないが、言葉の端々やふとした表情に心配の色が浮かんでいた。

 

「……大丈夫ですよ。自分も学校が終わったら散歩がてらに探してみます」

 

「そう。ありがとうね白野君」

 

 おばさんにお礼を言われ、笑顔でもう一度『大丈夫ですよ』と応えて巽屋から商店街に戻る。

 

 やはり今日は学校を休もう。病欠の連絡を入れてそれから――。

 

「おや? 白野さん?」

 

「え? 直斗?」

 

 来た道を戻っていると昨日と同じ服装の直斗が前からやって来る。

 

「こんな所でどうしたんだ直斗?」

 

「ええ……少し巽屋でお話を窺おうと思いまして」

 

 直斗は少し迷った後にそう答える。

 

「……もしかしてマヨナカテレビか?」

 

 直斗の先程の言葉からやはり彼女は連続殺人犯を追っていると可能性が高まり、確認の為に唯一の手掛かりであるマヨナカテレビという単語を口にする。

 

「マヨナカテレビ?」

 

 何? 直斗もマヨナカテレビを見たから、次に完二が狙われると判断したんじゃないのか!?

 

 直斗の反応から彼女がマヨナカテレビの存在自体まだ知らないと知り驚くと同時に何故彼女が完二が狙われている可能性に気付いたのかが気になった。

 

 ………よし。

 

 覚悟を決めた自分は顔を引き締め直し、彼女の目を真正面から見据えてから、助力を願った。

 

「直斗、力を貸してくれ。俺の後輩、巽完二を助ける為に」

 

「――詳しく訊きましょう」

 

 驚きの表情は一瞬、こちらの気迫に何かを感じてくれたのか、直斗は真剣な表情で頷き返してくれた。

 




原作だと完二のダンジョンに行くには情報集めで二日必要ですが白野は完二と仲が良かったので初日に行けました。
更にこの時点で白野は原作ゲームで言えば八階の中ボスまで最短ルートで走った感じです。
そして上に行く階段のある扉の鍵をゲットして外に出たので例え二年組が今ダンジョンに入ってもラスボスまで行けません。
次回は直斗に白野の状況説明の回。ダンジョンまでいけるかなぁ。

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