岸波白野の転生物語【ペルソナ編】   作:雷鳥

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お待たせしました。
かなり遅くなりましたが完二回の大詰めです。



【もう一人の完二と直斗】

「タマモ!」

 

 集団で現れた岩に手が生えてたシャドウを弱点属性である風の範囲スキルで一掃する。

 残りの仮面が付いたテーブルの上で剣や杖を浮かせているシャドウが浮いていた剣を直斗に向けて飛ばす。

 

「直斗!」

 

 直斗の前に出て飛んで来た剣を錫杖で弾き、このシャドウの弱点である氷結のスキルで倒す。

 

「大丈夫か直斗?」

 

「僕は大丈夫です。申し訳ありません僕の存在が反って足手纏いになってしまいました」

 

「気にするな。直斗はペルソナを持っていないんだから」

 

 リュックを背負い直していつもなら走る所だが自分よりも足が遅く更に視界が悪い直斗を置いて行くわけには行かないので歩いてダンジョンのような銭湯を進んでいく。

 

「僕にもペルソナがあればお役に立てるのですが。白野さんはどのようにペルソナを得たんですか?」

 

「自分の場合は初めてこの世界に来た時にシャドウと戦いになって、その時に内側から湧き上がった感じかな。あまり参考にならなくてすまない」

 

 直斗の問いにそう答えると彼女は少し残念そうに『そうですか』と答えた。

 直斗としてはただ守られるだけの今の現状をなんとかしたいのだろうが、実際にペルソナ能力の発現方法を知らない自分としてはこれ以上教えられる事がない。

 

 でも確かに、どうして自分はペルソナをすぐに得て直斗は得られないのか。また新しい疑問が増えたな。

 

 それからも道中で出現するシャドウを撃破しつつ以前手に入れた鍵のお陰で最短ルートを通って階を上る事ができ、そしてある程度の疲労は感じながらも最上階らしき階へと到達する。

 

『この奥から強い気配を感じるよお兄ちゃん』

 

(ああ。ありがとうヒノ)

 

 ヒノの声は直斗には聞こえないみたいなので返事は心の中でだけして直斗の方へと振り返る。

 

「この奥から何か気配がする……今までよりも激しい戦いになるかもしれない。そうなったら直斗は場合によっては完二を連れて避難してくれ」

 

「分かりました」

 

 神妙な顔で頷く直斗にこちらも頷き返して扉を開ける。

 中は今迄で一番広く壁際には周りを欄干が囲い、天井には吊り灯篭、正面の壇上には桜の屏風が置かれその上には『男子専用』と書かれた垂れ幕が張られていた。

 

 その中央で学校の制服を着た完二が倒れていた。

 

「完二!」

 

 慌てて駆け寄って身体を揺すって動かす。

 

「う……ここは……先輩?」

 

 起きた完二は顔を顰めながら頭を振って回りを確認する。

 

「大丈夫ですか巽君?」

 

「てめーはさっきの」

 

「さっき……もしかして完二、お前ずっと気絶してたのか?」

 

「気絶って、どういうことっすか先輩、それにここはどこっすか? 俺ぁ確かコイツと別れて変な連中ともめてそのあと家に……」

 

「やっと目が覚めたんだね」

 

 正面の壇上からの声に二人が振り返り、自分はそんな二人より前に出て警戒しながら徐々に姿を現した存在を見据える。

 

「完二……」

 

「なっなんだよありゃ!?」

 

「巽君が二人?」

 

 現れたのは褌だけを身に着けた完二だった。

 

「これでようやく話が出来るねもう一人のボク」

 

 そう言って身体をくねくねさせるもう一人の姿に、完二は憤慨した様子で叫んだ。

 

「もう一人の俺だと? ふざけたこと言ってんじゃね!」

 

「いいやボクはキミ、キミはボクさ。なんならその二人にも色々教えようか。キミが本当は裁縫や料理、可愛い物や絵を描くのが大好きな奴だってさ」

 

「なっ!?」

 

 相手の言葉に言葉を詰まらせる完二と意外そうにする直斗。まあ自分は家事が得意なのは知っていたし完二は隠していたかもしれないが普通に可愛い物が好きなのも知っている。

 

 そう言えば昔見せて貰った絵は確かに上手かったし工作は今も得意だったはずだ。手先が器用でセンスもあるのは羨ましい。

 

「丁度いいじゃないかボク。まあそこに女が居るのは気に入らないけど、大好きな先輩も居るし本音で語り合おうよ♪」

 

「は? 女?」

 

「……完二、直斗は女の子だぞ」

 

「マジっすか!?」

 

 完二は驚いて直斗の方に視線を向け、自分は男と間違えられた直斗に気遣う視線を向けるが、当人の直斗は特に気にしてはいない様子であった。

 

「大丈夫ですよ。男として見られる様にしていますから僕としてはむしろ喜ばしい事です」

 

 そう言って肩を竦めて見せる直斗の姿を見た正面の完二が汚らしい物を見るようにその顔を歪ませる。

 

「やっぱり女は恐い。そうやってすぐに化けて、騙して、嘲る。あの時もお前はボクの事を『変な人』だって言って内心で笑っていたんだろ」

 

「あの時?」

 

 直斗に視線を向けると直斗は慌てた様子で自分と完二へと振り返った。

 

「いえ、あれはあの時の巽君の態度が変だったからそう言っただけで、決して僕は君の内面を指摘した訳では」

 

「そうだよね。そんな事を言う資格、僕にはないもんね」

 

「え?」

 

 正面の完二の方から聞こえた『聞き慣れた声』に全員が振り返ると、まるでシャドウが現れる時と同じように周囲の霧が集まって『白衣を着た直斗』が現れる。

 

「巽君の言う通りだろ? お前はそうやって『理性的な大人』の振りをして自分自身を騙しながら過ごしている。ふふふ、誰よりも『女』である事を嫌っているのに実は一番『女らしい行動』をしていたなんて滑稽もいい所じゃないか」

 

「違う! 僕は、僕はただ理想の、カッコイイ大人な探偵を目指しているだけだ」

 

「ほらまた自分に嘘ついて誤魔化す。カッコイイ大人の探偵? 違うだろ? 僕達が憧れているのは『カッコイイ男の大人のハードボイルドな探偵』だろ? どうして態々『男』の部分を隠すんだい?」

 

「それは……」

 

 白衣の直斗の言葉に直斗が言葉を詰まらせる。

 

「白鐘お前……」

 

 不安気な表情をさせていた直斗に気遣うような視線を向けていたい完二に、正面の完二が話しかける。

 

「君だって同じだろ? 周りから『男のくせに』って気色悪がられるのがイヤで好きな物を好きと言えず、やれず、逃げ続けてる。ねえもう止めようよ。人を騙すものも騙されるのも嫌いだろ? やりたい事やって何が悪い」

 

「違う。それとこれとは……」

 

「巽君、君も……」

 

「ふふふ、つくづく君達二人は似た者同士なんだね。ねえ僕もそうだろ? 事件が起きて周りから必要とされても、事件が解決すれば『子供なんだから』、『子供のくせに』と言われ、反論すれば『駄々をこねるな』と追い出される。周りが欲しているのはお前の『頭脳』だけでお前『自身』じゃない。だから納得した振りして大人の言う事に従うんだろ? これ以上必要とされなくなるのが恐いから」

 

「誰かに受け入れて欲しい。ありのままのボクを!」

 

「誰かに認めて欲しい。ありのままの僕を!」

 

「それがボクの本心だろ?」

 

「それが僕の本心だよね?」

 

 正面の二人がこちらに両手を広げる。

 それを見た二人が数歩、まるで受け入れたくないような表情で後ずさる。

 

「ふ、ふざけんな。俺はそんな女々しい奴じゃ……」

 

「違う。僕はもうそんな駄々をこねるよな子供じゃ……」

 

「――いいじゃないか別に。女々しくても子供でも」

 

「「え?」」

 

 拒絶の態度を取る傍の二人を見据える。

 

 ベルベットルームでのシャドウやペルソナの在り方を考えると目の前の二人が後ろの二人から『別れた』か『生まれた』可能性はある。

 もしもそうであるなら目の前の彼等の言葉は後ろの二人の『本音の一つ』それも『負』の部分なのは間違いない。

 しかし自分の心の負の部分なんて簡単には受け入れられないだろう。なら第三者の自分が動くべきだ。

 

「裁縫や絵を描くのが好き? 染物屋の息子なんだ当たり前だろ? 可愛い物が好き? 男だって可愛いもんは可愛いと思うのは当たり前だなんら変な事じゃない」

 

 完二と目を合わせながら真剣な表情で伝える。

 

「子供扱いされる? それは仕方ない。事実自分達は子供だ。自分のした責任すら『取らせて貰えない』のだから。ハードボイルドな探偵、結構じゃないか。世の中、それこそ歴史にはカッコイイ女性なんて沢山いるんだ。何も男じゃなきゃなれない訳じゃない」

 

 次に直斗に向けて同じよう伝える。

 

「自分はほんの僅かにだけど二人に対して羨む気持ちも、妬ましいと思う気持ちもあるんだ」

 

 二人からも驚くような気配がしたが言葉を続ける。

 

「自分には将来成りたいものがない。そしてこれといって抜きん出た才能すらない。そんな自分からすれば夢があって、その夢を叶えるに足る才能を持った二人はとても羨ましい存在なんだ。けれど、そんな凡人で非才な自分だからこそ、二人にしてあげられる事がある」

 

 そこで一度言葉を切り、目の前にある二人の手を取り、強く握る。

 

「どうか好きな事から逃げないでくれ」

 

 二人が驚き目を見開く。

 

「好きな事をやる、好きなものを目指す。それには二人が経験したような辛い事や苦しい事が付き纏う。けれどそれが普通なんだ。なんら特別な事じゃない。だから辛かったら、苦しかったら、それを誰かに吐き出して、頼っていいんだ。少なくとも、自分は……」

 

 手を握ったまま二人を正面から見据え力強く笑ってみせる。

 

「そんな二人を元気付けてやれるくらいは、自分にも出来るからさ!」

 

「先輩……」

 

「白野さん……」

 

 二人はしばらく黙った後、自分が握っていた手を優しく解くと正面の自分自身の元へと向かった。

 

「……ああそうだよ。分かってんだよ。女だとか男だとかじゃねぇ。他人の視線が恐くて自分から嫌われようとしてるチキン野郎な部分がある事なんて。でもテメェを認めちまったらまたあの頃のように周りに否定されんじゃねぇかって恐くて逃げ続けた……なさけねぇぜ。俺の傍には、もう『ありのままの俺』を受け入れてくれる人がいてくれたって言うのによ」

 

「……僕は恐かった。大人が持つ強さが。だから納得した振りをしたり男の振りをして自分の今の立場を守る為に、本音を口にする事を諦めていた。けれど、白野さんの言葉で気付いたんだ。僕はただ、探偵の仕事を始めた時のように誰かに必要とされたかった。誰かに喜んで欲しかった。ただ、それだけだったんだって」

 

 完二と直斗がもう一人の自分自身をしっかりと見据えたまま、同じ言葉を告げる。

 

「お前は俺で、俺がお前だ」

 

「君は僕で、僕は君だね」

 

 二人のその言葉を聞いた瞬間、対面していた方の二人は満足そうに頷くとその姿を自分が持つセイバー達の様なペルソナへと変化させ、二人の身体へと吸収されて行った。

 

 その二体のペルソナが消える瞬間に、頭の中で声が響いた。

 

『やっぱカッコイイぜ先輩。そんですいません』

 

『後始末をよろしくお願いします』

 

「後始末――っ!?」

 

 背後から感じた気配に振り返ると入口の扉の前に大量の黒い霧が放出されるとどんどん形を成し、遂には警官服を着たお腹が空洞でそこに鍵を一本ぶら下げた巨大なシャドウの姿となる。

 

「先輩!?」

 

「白野さん!?」

 

 振り返るとそこには蹲る二人の姿があった。

 

「二人は端に逃げろ! 大丈夫だ。必ず二人とも守ってやる!」

 

『あのシャドウからこの前の王様のシャドウと同じ気配がする』

 

 あいつと同じ、そして消えた完二達の言葉、やっぱこのシャドウとこの場所にはなんらかの関係があるのか?

 

「いや、考察は後だ。さて後輩が頑張ったんだ。先輩として意地を見せないとな」

 

 疲労を感じる身体を気力で奮い立たせ、ペルソナを召喚しながら警官のシャドウ目掛けて駆け出した。

 




と言う訳で二人纏めてもう一人の自分を受け入れる形にしました。
色々プロット書いてこれが一番良かったので。
他には裏ボスと戦う前に千枝ちゃん同様に途中で一回直斗がもう一人に会って直斗シャドウ戦闘のパターンや完二シャドウと直斗シャドウのボス二体との戦闘のパターンのプロットもありました。
あと一応この作品では裏ボスにも設定が存在してます。その辺はいつか本編で明かしたいと思います。

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