岸波白野の転生物語【ペルソナ編】   作:雷鳥

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前書きは前編で確認を。


【林間学校 後編】

 直斗の『犯人は刑事(ヤス)』発言に驚きつつ、改めて彼女に尋ねる。

 

「直斗はその足立刑事と面識はないのか?」

 

「稲葉署には顔を出しましたが、まだ捜査に関わっている全員の顔と名前は把握していませんでした。天城先輩の話では彼は鳴上先輩の叔父である堂島さんの相棒として連続殺人事件を追っているそうです」

 

「マジかよ。てことは俺らを襲ったのもそいつって事か?」

 

「いや、それはどうだろう。流石に警察が天城や完二の家に車でやってきたら目撃情報くらいはあってもいいはずだ」

 

 自分の推理に直斗が頷く。

 

「ええ。少なくとも天城先輩が攫われたと思しき時間帯に警察関係者が天城旅館を尋ねたと言う情報はありませんでした。つまり山野真由美殺しに関してはもっとも犯人に近い容疑者ではありますが、同時にその後の誘拐事件ではもっとも容疑者から離れた人物、とも言えます」

 

「……現状で山野アナを殺せたのは足立刑事だけ。なら彼が犯人だと仮定して、その後の事件を改めて見直してみよう」

 

「では次の事件、小西早紀さんについて。彼女は警察で事情聴取を受け、その晩から行方不明になりました……調書では彼女は聴取を終えて帰宅した事になっていますが……」

 

「もしも聴取したのが足立刑事だとしたら彼が虚偽の調書を用意し、周囲には彼女は帰宅したと伝えればそれで済むな。取調室にテレビがあればの話だが」

 

「それは署に出入りできる僕が確認しておきます。しかし、そう考えると小西早紀さんを殺したのも足立刑事の可能性が高いですね」

 

 ますます足立刑事が犯人である可能性が高まり、自分と直斗の顔が険しくなる。何故なら調査に参加している現役の刑事が犯人ということは、現場の証拠の隠滅やその後の調書の虚偽も可能という事になるからだ。

 

「次に天城の誘拐だが、さっきも言ったが刑事なんて職業の人間が居れば周りの人間に目撃情報の一つくらいはあると思う。完二はどうだ? 誘拐当時に警察関係者とか来たか?」

 

 自分が尋ねると今迄会話に参加せずに話を聞いていた完二は話を振られると思わなかったのか、一度だけ驚いた顔をさせた後に腕を組んで当時の事を思い出そうとうんうん唸る。

 

「……いや、サツは来てねっすね。俺もあいつ等も互いに好く思っていないって言うか、そんな感じの関係なんで尋ねて来てたら流石に印象に残っていると思うっす!」

 

 完二の言葉に確かにと納得するように頷き返し、首を傾げて唸る。

 

「つまり足立刑事が犯人だった場合、山野アナと小西早紀は足立刑事の犯行だが、天城と完二は別人の犯行って事になるのか。いや、共犯者の可能性もあるか?」

 

「どちらにしろ足立ともう一人の犯人の両方が『テレビの中に入れる能力を保有している』という事になりますね。これは、元々厄介な事件でしたが更に厄介になったかもしれません」

 

 直斗も難しい顔で唸る。確かに唯でさえテレビの中なんていう不可思議な世界が関わっているのに現実で犯人が複数存在するかもしれないという可能性が出てきたのは、犯人を追うこちら側としては頭が痛い可能性だ。

 

「もうこの際本人に訊いちまうのは駄目なんすか? もしくはテレビに触れさせて能力が有るかどうかの確認だけでもしておくとか」

 

「いえ、それは危険でしょう」

 

 完二の提案に直斗が真剣な表情で首を横に振る。

 

「今回の事件の一番の問題は物的証拠が何も無い事なんですよ巽君。確かにテレビに触れさせて能力が有るかどうかの確認はしたいですが、しくじれば対策を立てられてしまうでしょうし、警戒もされてしまいます。出来ればある程度状況証拠が揃ってから行うべきでだと、僕は思います」

 

 直斗の言葉に完二がやっぱり駄目か。と肩を落とす。

 

「とりあえず、その足立刑事に注意して過ご、いや注意しても駄目なのか、ホント難しいな」

 

 相手は本職の刑事だ。こちらが注意したりすれば気付かれるかもしれない。

 漫画や小説の犯人や探偵ならきっと名俳優ばりの『何食わぬ顔』の演技も出来るだろうが、こちらはそんな演劇とは無縁の一般人だ。どうしたって意識してしまう。

 

「ですがまったく注意しない訳にも行きません。幸いお二人は彼との接点は殆どありません。それと外では事件の話をするのは止めた方がいいかもしれませんね。小さな町ですから何所から情報が漏れるか分かりません。一般的な学生生活を送りつつ、可能なら次の事件が起きた時に『複数犯の可能性』の確証を得たい所です」

 

「一番は誰も誘拐されない事だけどな」

 

 自分の言葉に直斗がそれもそうですねと、複雑な表情で頷く。恐らく事件は今後も続くだろうと予感しているのだろう。自分もそうだから彼女の気持ちは理解できる。

 

 もし本当に誘拐が前の二件の殺人と別人によるものなら、恐らくまたマヨナカテレビに誰かが映ればその人物が襲われる可能性が高い。

 だが同時に別人の犯行だからこそ、既に二回殺人に失敗している事から犯人が犯行を止める可能性も残っている。

 

 成り行きを見守るしか出来ないっていうのは歯痒いな。

 

 内心でそんな事を考えていると、不意に外で物音がした。

 

「見回りか? 完二、明かりを消してくれ。直斗は毛布に包まって寝てくれ、荷物で少しでも見え辛くしておくから」

 

「うっす!」

 

「分かりました」

 

 自分と直斗が荷物で死角を作り、それが終わると完二がランタンの明かりのスイッチを切る。

 テントの中が真っ暗になり、しばらくすると足音らしき音が大きくなる。

 近場のテント一つ一つに確認の声かけが行われる。声からしてどうやらモロキンが見回って居るらしい。

 そしてついに自分達の番になる。

 

「おーい。もう寝てるか」

 

「はい、寝てます」

 

「寝てないじゃないか! いいからさっさと寝ろ。ああ、それと巽完二はいるか?」

 

「……うっす。」

 

 相手がモロキンだからだろう。完二が嫌々な感じに短い返事を返す。

 

「ああ、居るな。いいか、出回っているのを見かけたら即刻停学だからな。大人しく寝ろよ」

 

 何か言いたそうな完二の肩を叩いて落ち着かせる。まったく一言多い先生だ。

 結局とくに中を確認する事もなくモロキンは去っていった。去り際に『早く酒盛りしに戻りたい』なんて呟きが聞こえたから、おそらく軽く酔っているのかもしれない。

 モロキンが去ってからもしばらく身動きせずにじっとし、足音が完全に聞こえなくなってからランタンを付ける。

 

「ふう、行ったな。まあ夜も遅いし、いい加減寝るとしようか」

 

「そっすね。嫌な気分は寝て忘れちまうに限る」

 

「とりあえず荷物で直斗と自分達を分けて――」

 

 それから軽い雑談をしつつ直斗と自分達を遮るように荷物を並べて三人で就寝する。昼間の清掃で身体が、先程までの推理で脳が疲れていたのか、横になるとすぐに睡魔に襲われ数分と経たずに眠りに付いた。

 

 

 

 

 白野達が眠りについた頃、諸岡の見回りをやり過した悠達のテントでも事件の話で盛り上がっていた。

 

「――でね、白鐘君から尋ねられて足立さんが来た事を伝えたの」

 

「足立さんが?」

 

 悠が意外そうな表情で驚く。

 

「なんでも署の命令で彼女の身辺警護の為に来たんだってさ」

 

「まあ当時テレビで騒がれていたしな。芸能人の相手も大変って事か」

 

 千枝の言葉に陽介が同情を含んだ返事をする。

 

「もしかして足立さんが犯人、とか?」

 

 雪子が顎に手を当てながら呟き、それを聞き取った陽介と千枝が笑う。

 

「あははは、天城流石にそれはないっしょ」

 

「だよね。なんかやる気のない感じで頼りない感じだし。それにほら、私達が初めて足立さんに会った時も遺体を見て吐いちゃってたし、殺人なんてする度胸は無いって。ねえ鳴上君?」

 

「……そうだな。思い返しても家に叔父さんと一緒に来る時も普段と変わらない感じだった」

 

 三人の言葉に雪子も普段フードコートでサボる彼の姿を思い出し、それもそうかと納得する。

 

「それで実際の探偵の意見とかって聞けたのか? それともやっぱ守秘義務とかで言えない感じだった?」

 

 足立の話を早々に切り上げた陽介はむしろ夕食時に直斗が探偵である事を知り、彼女の今回の事件についての見解の方に興味があった。

 

「流石に詳細は教えて貰えなかったけど『自衛の為に何か注意とかない?』って言ったら来客時に玄関を開ける前に必ず相手を確認してから開ける事、それと出来るだけ外では一人で出歩かないようにって言われたわ」

 

「あーと、つまり普通に犯罪者への注意的な?」

 

「いや……」

 

 陽介の言葉に悠が待ったを掛け、しばらく考え込んでから直斗のある言葉に疑問を持つ。

 

「……扉を開ける前に相手を必ず確認する。なんて注意するって事は白鐘の推理では今迄の犯人は玄関からやって来た可能性が高いって事なんじゃないかな?」

 

「え、マジで? 玄関からピンポーンって?」

 

「――あっ!」

 

 悠と陽介のやり取りから雪子は何かを思い出したのか、大きな声を上げて目を見開く。

 

「ど、どうしたの雪子?」

 

「鳴ったかもしれない」

 

「鳴った?」

 

「チャイム。うん、鳴ったと思う。それで私が出た、と思う」

 

「え、マジで犯人玄関から『こんにちは』したってこと!?」

 

 雪子の言葉に全員が犯人の大胆な行動に驚きを隠せず慄く。

 

「で、でもさ。それなら犯人の目撃者が居てもいいんじゃない?」

 

「いや、そりゃつまり逆説的に『怪しくない顔見知り』って事になるんじゃないか? この町小さいし、他の場所から来た奴なら逆に目立つだろ」

 

「つまり犯人はこの街に住んでいる人間で確定って事か」

 

「となると、最初の事件の関係者が狙われるっていう当初の推理はやっぱハズレって事か」

 

「あとはどうやってテレビに入れたのかだよね。もし玄関から来るならテレビなんて近くにないし」

 

 千枝の言葉に悠は先程と同じようにしばし考えてから口を開く。

 

「車を使ってる、とか?」

 

「ああなるほど、常に持ち歩いているのか。でもさ人一人を、それもあの巽完二を入れる程だとそこそこ大きいテレビにならねえか?」

 

「少なくとも荷台が剥きだしのトラックは目立つよね。後部座席も人を入れる時だと逆に手間取りそうだから、やっぱり荷台部分が大きい車種だと思う」

 

「じゃあ今後はマヨナカテレビに映った人物の近くに止っている車にも注意だな」

 

 陽介の言葉に全員が頷き、今度の方針も纏まったため彼等も白野達と同じように眠りに付いた。

 

 




一年組と二年組での足立に対しての印象の違いはまさに『知人か他人か』という主観の印象の違いによる物ですね。
そしてようやく二年組も原作の推理段階まで持ってこれました。
次回からはりせ編ですが、まだちゃんとプロット最後まで出来てないのでとりあえず気長にお待ちを。いやまぁ、りせは一年組に入れるのは確定なんでその辺りは問題ないんですが、ぶっちゃけクマが問題なんですよねぇ……。


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