と言う訳でようやくダンジョン攻略の始まりです。
夢の影響か、それともテレビの世界の影響か、翌日はいつもよりも遅く目覚めた。慌てて支度をして朝のテレビで天気をチェックして学校に向かう。
あの夢はなんだったのだろう。それにあの鍵は一体……。
下駄箱で靴を履き替えながらそんな事を考えていると千枝が切羽詰った表情で走って来た。
「おい千枝、どうした?」
心配になって呼び止める。と彼女は足を止めて焦った様な顔でこちらに駆け寄ってきた。
「あ、白野! ねえ
「
そもそも自分は千枝とはある程度の付き合いはあるが、彼女の友人である天城雪子とはあまり会ったことが無い。精々共通の友人を持つ知人程度の仲だ。
「あ、いや、昨日メールしたけど返事が返ってこなくて、今日の朝も連絡したけど出なくて……」
「旅館の方はどうだ? 家の手伝いをしていたら出られない場合だってあるし、携帯もバイブにしてたら気付かない時もあるだろ?」
「あ、そっか!」
千枝は慌てて携帯を取り出して電話をかける。
「あ、もしもしあたってその声、雪子! 良かった~。うん、うん、いやあたしこそゴメンね。ちょっと心配になってさ。うん、じゃあね」
どうやらちゃんと話せたようで、千枝は安心しきった表情で安堵の溜息を吐いた。
「良かった~。もう、あんな事があったせいで心配しちゃったよ」
あんな事とはたぶん事件の事だろう。殺人事件が起きた時に友人と連絡が取れなくなれば心配するのは当然だろう。千枝は特に他人思いなところがあるし。
「ありがとね白野、やっぱ頼りになるね委員長!」
「そのあだ名以降、委員長をやり続ける羽目になった原因があだ名を広めたお前だという自覚はあるか、千枝?」
千枝とは小学校が一緒で自分が小学校高学年に委員長をし続ける羽目になった原因が彼女だ。まぁそのお陰でこの年まで彼女と友達で居られたのだから悪い出来事ではなかったと思う。
「あはは、すいません」
意地悪く笑いながら答えると、千枝は苦笑しながら謝る。まぁ気にしていないのですぐに話題を切り替える。
「そう言えば中学はクラスがずっと別々だったから休日に町で会ってそのまま遊んだり、愛屋で会う時以外で話すのって久しぶりだな」
「そう言えばそうだね。休日に遊ぶって言っても偶にだったしね。一年の時もクラス別だったし」
そんな会話を切っ掛けにお互いに近況を話し合う。
「そう言えばウチのクラスに転校生が来たの知ってる?
「ん、分かった。気長に待ってるよ」
「期待しててよ。それじゃあね白野、本当にありがとう!」
千枝のクラスの前に来たため、千枝が手を振ってクラスに入っていく。
さて、自分もクラスに向かうか。そう言えば今日も雨か、マヨナカテレビのチェックをしないと。
『こんにちは~。今日は私、天城雪子がナンパ、逆ナンに挑戦したいと思いま~す』
……はい?
深夜、いつもの様にマヨナカテレビを見ようと待機していると、今までとはまったく毛色の違う映像が映し出された。
こちらが唖然としてる間も、画面の向こうではお姫様と言った感じの幅広のスカートにフリルのついたピンクのドレスに身を包んだ天城雪子らしき少女が、マイク片手に愉快そうに笑っていた。
『もう私専用のホストクラブをぶっ建てるくらいのつもりで、それでは行ってきま~す』
天城らしき少女は背後の西洋の城へと入って行き、そこで映像は消えた。
どういうことだ?
外見は完全に天城だが、彼女はこんな逆ナンなんて言う子ではなかったはずだ。
少なくともつい最近目にしたときも千枝以外とは積極的に話すことの無い大人しい感じの子だった。
とりあえず行くしかないな。それにこれで彼女が向こうの世界に居れば、向こうの世界が関係している証拠にもなる。
昨日と同じように準備をしてから向こうの世界に向かう。
広場に立つと自分の中に別の気配を感じた。多分ヒノの気配だろうが、昨日は感じなかった。ヒノの力が増した影響だろうか?
ヒノ、聞こえるか?
『うん、久しぶりお兄ちゃん。またお話できて嬉しいよ』
嬉しそうな声を上げるヒノ。そう言えば意識はあると言ってもヒノと話すにはこちらの世界に来ないといけないんだよな。
暇な日はこっちの世界に来て話し相手になってあげても言いかもと考えつつヒノに確認する。
「すまないがヒノ、昨日みたいに何か感じられるかな?」
『えっと……ボクと同じようなそうでないような、よくわからない気配を感じるよ』
ヒノは困ったような声でそう答える。
「そうか。とりあえずそっちに案内してもらえるか?」
『うん。えっとね、こっちだよ』
ヒノに誘導を頼みその通りに暫く進むとまた歪みを見つけてそれを潜るとテレビで見た異様な雰囲気を放つ城の正門前に辿り着いた。
……ここはヤバイな。
ここに来て自分も城その物から異様な気配が放たれているのを感じとる。まるでこちらの侵入を拒むような気配に自然と錫杖を持つ手に力が篭る。
「……今は危険を冒してでも情報が欲しい。ヒノ、自分の身体のダメージはお前にも行くんだよな?」
『うん。でも大丈夫、ボクも頑張るよお兄ちゃん!』
「……分かった。すまないが少しだけ付き合ってくれ」
意を決して酒屋と同じように歪んだ入口に身体を潜らせて城の中に侵入する。
城の内装もいかにもお城な感じだった。
大理石っぽい白い壁に床、赤い絨毯にカーテン、天井や柱にはアンティーク調のシャンデリアや蝋燭立てが吊るされている。
「ヒノ、さっき感じた気配はまだ感じるか?」
『うん、さっきより強く感じるよ。あとシャドウ達の気配もあちこちから感じる』
「気配を感じられるだけ助かるよ。とりあえずその強い気配に向かおう』
『分かった。それじゃあ案内するね』
辺りを警戒しながらヒノに誘導された道を慎重に進むんでいると正面から不穏な気配を感じるのとヒノが叫ぶのは同時だった。
『お兄ちゃん、正面から何か来る!』
立ち止まりすぐにセイバーを呼び出して臨戦態勢を取る。
正面の床から黒い霧が二つ溢れ、徐々に形を成していく。
一つは仮面とローブを身に着け二人の人間が、頭を横から杭の様な物で貫通されて繋がった様な姿の化け物。
もう一つは中型犬くらいのサイズで足にランタンを下げた鴉が現れる。
「セイバー炎を!」
先手必勝とセイバーに炎で二体共攻撃してもらう。
串刺し人間の方の化物はその場で一瞬で燃え尽き、鴉の方は炎を回避してこちらに向かってくる。
動きを冷静に見極めてその場を飛び退きつつ、セイバーに大剣で迎撃してもらい、一撃で消滅させることに成功する。
とりあえず一段落か。
緊張を少しだけ解いて辺りを警戒しながら進む。
ヒノの誘導は優秀だ。通路にはいくつも扉があり、もし一人なら一つ一つ調べなければならなかったが、ヒノのお陰で行き止まりに行く事無く最短ルートを進めている。
階段のある部屋にいた手を逆さにし、手首の部分に頭がついた姿のシャドウを倒して二階に上がる。
二階は一本道でその先にはひときは大きな扉がありそれを開ける。
「あれは、天城か?」
大きなホールの中央にテレビで見た天城らしき少女を見つける。
こちらが彼女に向かって駆け寄ると急にスポットライトの様な光が彼女を照らすと、彼女は笑いながらこちらに振り返った。
「あらぁサプライズゲスト? どんな感じに絡んでくれるかしら。フフフ、盛り上がってまいりました!」
「え、いや天城、でいいんだよな? でもなんか、気配が」
天城と言えば天城のような気もするが違うような感じもする。なんだこれ?
「ええそうよ。私は天城雪子、さてさて、あなたが私の王子様ならきっと奥まで追って来てくれるわよね? それじゃあ最初の王子様候補一名様、ご案な~い」
ジャンジャンジャン!!
【やらせナシ! 雪子姫、白馬の王子様さがし!】
「……なんです?」
『空中に文字、あ、ボク知ってるよ。アレってテロップって奴でしょお兄ちゃん? テレビで見たことある!』
そう。ヒノの言うとおり急に音楽が鳴ったと思ったら天城の頭上になんとも目に優しくない配色のデカイ文字が番組のタイトルのように現れた。
「――それじゃあまだ見ぬ王子様、首を洗って待ってろよ」
「……あっ! しまった……」
呼び止め損ねた。
目の前で起こったインパクトの強い現象に唖然としてしまって何かを喋っていた天城の言葉が聞き取れず、気付けば天城が文字と一緒に消えて行く所だった。
その場から姿を消したって事はやはり現実の天城とは何かが違う可能性があるな。
「……とりあえず追おう」
なんとも釈然としない気持ちのままホール奥の扉を開けて更に階段を上る。
それからヒノの誘導に従って無駄に部屋の探索をせずに通路や階段の部屋に居るシャドウだけをセイバーで倒して上り続け、五階に上がって通路を進み、もう少しで扉の前を通るという所で急に光に包まれて気付けば別の場所に飛ばされていた。
『え? な、何が起きたの!?』
「落ち着けヒノ……うん、たぶん転移の罠だな」
慌てるヒノに声をかけながら落ち着いて周りを見渡し、先程自分が居た地点から扉を越えるように前方に数メートル程移動している事から生前のリターンクリスタルによる転移と同じ現象と判断する。
「ちょっとこのまま進もう」
状況把握の為にそのまま進み、通路のシャドウを倒しながらフロアを一周する。
ふむ、扉の近くに行くと転移されて部屋に入れなくされるのか、となると……。
階段まで戻されそのまま進み、転移した後にそのまま進まずに後退する。すると今度は転移せずに扉の前に立つ事ができた。
「これがギミックの答えだな。確か強い気配を放つ部屋が一つあったからそこまで行こう」
移動中にヒノが扉の奥から強い気配がすると言っていたのでその部屋まで向かう。
転移を繰り返して目的の部屋の扉を開けると、そこに天城と馬に跨った騎士の様なシャドウが待ち構えていた。
「うふふふ。あなたが本当の王子様ならこの衛兵くらい簡単に倒せるわよね?」
それだけ告げて天城はまた姿を消し、それと同時に傍に浮かんでいた騎士が叫び声を上げてランスを向けて突っ込んでくる。
「セイバー!」
騎士のランスによる突撃を剣で受けながし、セイバーが身体をひねって大剣で切りかかるが、相手を切り裂く事は出来ずに軽く吹き飛ばす事しかできなかった。
堅い、なら!
「セイバー炎を!」
セイバーが炎の渦を発生させ、それに飲まれた騎士はその場で崩れ落ちて動きを止める。
その隙をついてセイバーの攻撃力を強化、物理スキルで更に攻撃力を高めた一撃で切り裂く。
切り裂かれた傷から黒い霧を放つも騎士は健在でもう一度宙に浮かんびランスを掲げる。
騎士の全身を赤いオーラとオレンジのオーラが包み、更にはランスの矛の部分が毒々しい光を放つ。
「セイバーもう一度炎を!」
あのランスは受けない方がいいと判断してセイバーに距離を取って貰い、相手の軌道を読んで、一度炎で攻撃して貰う。
再度炎に包まれる騎士だったが、今度は倒れずにそのままランスを突き出して特攻してくる。
「セイバー! ぐあ!?」
『あぐ!?』
大剣の剣脊でランスの先端を受け止めるも相手の攻撃の威力が先程以上の物だった為にそのままセイバーは壁まで吹き飛ばされて激突し、そのダメージが自身へとフィードバックされる。
騎士の攻撃が終わるとランスの毒々しい色は消え、身体から発していたオレンジのオーラも消える。残っているのは赤いオーラだけだ。
くっ。あのオレンジのオーラはセイバーの物理攻撃力上昇と似ている。攻撃と何か関係がありそうだな。赤い方はもしかして炎への耐性を上げる術か何かか?
立ち上がりながら今の一連の攻防から相手の状態を推測し、セイバーにもう一度炎で攻撃して貰いながら相手のランスの突きをもう一度受けて貰う。今度は受けきり、そのまま大剣でランスを押し返して弾き、離脱ざまに物理スキルで相手の仮面を切り付ける。
やはりさっきよりも威力が弱い。ならあのオレンジのオーラが出た時だけは回避に専念だな。それにあの赤い光もずっと効果を発揮し続けるとは限らない。そして遠距離らしい攻撃をしてこない時点で炎を操れるこちらが有利だ。
「距離を取りつつ、相手の赤い光が消えたら動きを止めている間に決める」
騎士の突撃を回避しつつ観察し、赤い光が消えた瞬間にセイバーに炎で攻撃するように念じる。
すぐさまセイバーが炎で攻撃し、最初と同じように騎士はその場に落下して動きを止めたのでこちらも明確にダメージを与えた時と同じ方法で騎士の傷付いた仮面の場所目掛けて大剣を突き立てる。
黒い霧が勢い良く噴射すると、ついに騎士は黒い霧となり、その場にガラスで出来た鍵を残して消滅した。
「はあ、はあ……疲れた」
『大丈夫、お兄ちゃん?』
「正直、これ以上の探索は難しいな」
ここまでのシャドウとの戦闘で軽い疲労感は感じていたが、今の騎士との戦いでそれが頂点に達した感じだ。
軽い頭痛と気だるさを感じながら、落ちていた鍵を拾う。
「今日はこれで扉の鍵を開けて戻るしかないな……天城は大丈夫だろうか」
なんとか身体を動かしここに来るまでにあった錠が掛かっている扉の前に立って鍵穴に鍵を差し込むと、鍵と錠が同時に消滅する。
部屋の中を確認して階段があるの事を確認したあとにトラエストで城を脱出した。
家に帰還すると更に疲労感が増し、なんとか身支度を整ええてそのままベッドに潜り込むと、すぐに眠気がやってきて意識を失うように眠りに付いた。
この作品の一番難しいところ→『二年生の攻略と被らないようにする』
いや、自分でやっといて意外と難しい。ダンジョンの攻略をゲームよりにしているのはそのため(日数調整)
特にこの雪子の城が千枝の覚醒があるせいで一番日程調整が面倒と言うね。