進撃の世界観が好きで、スピンオフを投稿してみました。
チートや転生要素、他作品とのクロスオーバーは無く、進撃の世界観からの大きな逸脱もなるべく控えようと努めました。
可能性を示唆するようなご都合主義は……ちょっとだけあるかもしれませんが。
また、オッサンや青年しか出てきませんが、BL要素も無いです(笑)。
あと、なんか地味です。
何かの折に読んでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
「うーっ、寒いな……」
「そろそろ冬ですからね……まぁ、この地方じゃ仕方ないことです」
焚火の明かりの傍で、黙々と作業をする男二人。一人は頭に鉢巻きのようにバンダナを巻き、もう一人は眼鏡をかけている。双方ともその声に活力は無い。しかし、「やるべきことをやる」という、淡々とした意志は感じられた。
左手には、銀色に光る筒のようなもの――「黒金竹」が握られ、利き手である右手で兵団から支給されたナイフを持ち、竹細工をしているようだ。
作業場とも言えない簡素な場所。すぐ隣、五メートルも歩けば、そこには幅、高さともに一メートルほどの岩が重なりあった隙間――洞窟の入り口があった。どうやらこの二人はここを住処としているようだった。
バンダナの男――ベルンハルト・フォルカーが口を開く。
「……さて、そろそろ日も完全に暮れる。戻るか」
眼鏡の男――ヨルク・ゼクレスも返事をする。
「そうですね。『彼』もそろそろ回復する頃でしょうし。たくさん食わせてやりましょう」
ベルンハルトが焚火で焼いた動物の肉を回収し、ヨルクが、今しがた細工をしていたものとは別の黒金竹の筒を火に掲げる。竹の先端に、ボウッっと火が灯る。それを確認して、彼らは水と土で丁寧に焚火を消した。
洞窟の中に入る。もともと冷涼な気候帯である上に、山岳地帯なので標高が高い。平地でも気温が低いと感じるが、洞窟の中は少し寒いくらいだ。
用心のために黒金竹で作ったバリケードを内側に設置する。といっても、細工用の黒金竹の束を乱雑に置いただけだが。気休め程度にしかならないことは分かってはいるが、毎日の習慣であった。
松明代わりの黒金竹の明かりに照らされて、二人は洞窟の奥へと入っていく。入口が狭い割には天井が高い。奥までくまなく探索をしたわけではないが、緩やかに風が吹いていることから、空気が出入りするような穴があり、外界のどこかには繋がっているのだろう。現在のベルンハルト達にとって、それはありがたいことでもあり、逆に脅威でもあるのだが――いずれにせよ、なるべく詳細に調査をする必要はある。
移動しながらベルンハルトが口を開く。
「……もうどれくらいになるか」
「三十日は超えたかと」
ヨルクが答え、続ける。
「我々は五日に一回、おおよそ同じ時間に狼煙を上げています。ローゼの壁だって見えないわけじゃない。馬鹿じゃなければ壁向こうの連中も分かっているはずだ……!」
狼煙をあげるための藁くずや板きれなどの廃材も、近くの廃村まで取りに行かねばならない。近くと言っても数キロはある。さらに、現在の彼らには馬という移動手段、通信弾という連絡手段も無い。逆に、馬さえあれば何とかローゼ領内へ帰ることができ得る距離であったのだが。
また、巨人がどのような機構で人間を感知するかが分からない。分からない以上、人間活動はできるだけ控えるべきだ。狼煙を上げるにしても、朝早く、僅かな時間に限られる。廃村に行くのも朝早くか夕方、巨人の活動が低下すると言われる時間帯に、複数人で行く必要がある。
こうして生き残っていることだけでも奇跡に近い。ましてや、帰るとなると――
少し感情的になったヨルクをベルンハルトがなだめる。
「おそらくは――救援に向かえるだけの人数や装備が兵団に整っていない。そう考えるのが妥当だろうな。キース団長率いる奪還作戦は失敗した……あるいは大きな損害を受けたと見るべきだろう」
「つまり我々は、捨て駒にされたと……?」
まだ憮然としているヨルクに対し、ベルンハルトは諭すように言う。
「そう思いたくは無いがな。だが、我々の隊が全滅せず帰還した、という保証もない。帰還したとしても、向こうにとっては我々の残存人数が不明な以上――」
ヨルクが言葉を継いだ。
「兵備が整っていない兵団がわざわざリスク承知で救助にくるメリットも少ない、と」
「そうなるな。だが、我々の狼煙やここでの活動は、おそらく兵団――人類にとっても必ず役に立つ。だから、お前さんのような優秀な部下が居てくれて助かる」
ヨルクは「メリットが少ない」と言った。その発言に反論せず流したものの、実のところベルンハルトは「奪還作戦が失敗したと仮定すれば、今の兵団にとって我々を救出するメリットは無い、むしろデメリットしか無いだろう」と考えていた。
そうやってヨルクを諭しながらも、ベルンハルトは壁の向こうの状況を気にかけていた。おそらくはこの狼煙を認識はしているだろう。だが、この狼煙をどう捉え、対処するのだろうか。
少なくとも向こうから狼煙などで返事があれば、気休め程度でも気は休まるのだが。救助に「行かない」のか、「行けない」のか。
しかし情報が無い以上、ベルンハルトの憶測は妄想以上のものにはならなかった。
少し思索に耽っていると、ヨルクが発言した。
「……いえ、優秀などとは勿体ない言葉です。私も『ジン』も、ベルンハルト分隊長の指示のおかげで、あの惨禍の中で命を拾うことができました」
ヨルクは憮然としながらも、少し照れたような表情で言葉を返す。
「――帰りましょう、内地へ」
「あぁ、そうだな」
――まだ死んじゃいない。俺は、俺たちは生きている――
二人が洞窟内をしばらく歩くと、明かりが点いている空間が見えた。『カツン、カツン』とよく響く音が聞こえてくる。
「おっ、あの様子だと起きているか」
「そうみたいですね。雑用をしているのでしょうか、ありがたいことです」
少し開けた空間に、三人目の男が居た。手に持ったナイフで先ほどの竹を長短さまざまな長さに分割している。
「あっ、お帰りなさい。フォルカー分隊長、ゼクレス班長。水の用意をしておきました」
そう言って、座りながらではあるが、兵団の敬礼をする青年――ジン・サンドラ―。
「ありがとうジン。あと――もうそろそろベルンハルトとヨルクでいい。既に作戦期間は終了している。それに、我々はおそらく死亡したと思われているだろう。だとすれば所属もへったくれも無いのだからな」
「なるほど、言い得て妙ですね」
軽口を叩きつつ、ベルンハルトとヨルクは革袋の水を飲み、喉の渇きを潤した。
「――で、怪我の回復具合はどうだ?ジン」
「はっ。まだ痛みますが動かせないほどではありません。横になっているのも気が引けるので、飲料水を採取し、その後黒金竹を分割しておりました。フォル――いえ、ベルンハルト分隊長とヨルク班長の方は?」
「我々はいつものように日が暮れる前から狩猟と探索と、ついでに竹細工作業だ。あぁ、今日はウサギが捕れた。肉を捌いて焼いておいたから、君から食べるといい」
「……ありがとうございます、ヨルク班長」
「さて諸君、ではメシにしつつ、今日の総括と明日からの作戦を立てよう――――」
ベルンハルト、ヨルク、そしてジンの三人は、細い明かりを囲み円座し、極めて小さく、しかし芯の通った声で敬礼した。
「「「我々、『調査兵団亡霊部隊』の明日に、希望あらんことを!」」」
●現在公開可能な情報
・三人は北部山岳地帯の洞窟に避難
・洞窟内には水がある→飲料水の確保は可能
・小動物や鹿などを狩猟
・木の実や雑穀などを採取
→飢えをしのぐ程度の食料の確保は可能
・晴れている日はウォール・ローゼの外壁が見える(距離にして40~50kmくらい?)
●本作品の登場人物
ベルンハルト・フォルカー(バンダナ)
・35歳(くらい)
・調査兵団 分隊長
・穏やかながら大局を見る目は確か 現実主義
ヨルク・ゼクレス(メガネ)
・30歳(くらい)
・調査兵団 班長
・さまざまな実務的能力に長ける 戦闘能力や作戦立案が上手い
・やや直情径行(?)だが仲間思い
ジン・サンドラー(青年兵士)
・20歳(くらい)
・駐屯兵団から補填された一般兵
・奪還作戦の戦闘中、巨人に襲われて怪我をした
●次回予告
846年のウォール・マリア奪還作戦の経緯や事情。
ベルンハルトとヨルクの隊が巨人と遭遇し戦闘する。
地味な戦闘シーンがあります。