調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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――まぁ、その、なんだ。ごめんなさい。
チート無しとか言っときながらね、俺TUEEEEE!をやってみたかったんです。
でも、描けるだけの筆力がなかったでござる。果たして俺TUEEEEE!になっているかも疑問ですが。

続きになります。

何かの折に、お読みいただければ幸いです。



第9話 永訣

一日目、二日目と、夕方から朝方にかけて街道に沿って南下、日中は森林地帯で休息。この行程を繰り返し、三人は遂に最後の三日目を迎えた。

 

森林の傍を進む時間外、街道を南下する時間帯、再び森林で休息を取る時間帯。これらを徹底しているため、移動中には巨人には遭遇することは無かった。また、森林内では、地の利を生かして巨人をやり過ごす。遭遇することもあったが、まずは逃げ、隠れ、それでも仕方がないときは爆雷で交戦した。あるいは、黒金竹の葉脈を編んだ強靱な縄を樹と樹の間に張り巡らして簡単な防壁にするなどした。

 

 

三日目の朝方、最後の拠点の旧村にたどり着いた。既に肉眼で大きくウォール・マリアの北壁が見える。最終日はこの旧村で休息をとる。ここから先は地形の関係上森林には寄らず、街道に沿ってひたすら南下する。

 

飲料水は川で汲んだものの、既に食料は残り少ない。ここまでたどり着くために、爆雷も黒金竹の葉脈縄もそれなりに消費している。

 

「――随分軽くなっちまいましたね」

ヨルクが軽口を叩く。

 

「その分移動しやすくていいじゃないか、なぁ」

「はは……でもこの村ならひょっとしてネス班長たちがまた何か残してくれているかも――」

 

設営跡地の建物内に入ると、先行隊が僅かばかりの保存食とブレードを残してくれていた。同時に、これくらいの物資を譲る余裕があるのであれば、先行隊は巨人の襲撃に遭わず――あるいは遭ったとしても本格的なものではなく、ネス達は壁内へ帰還した可能性が高いと判断できた。もちろん憶測に過ぎないが、それだけでもベルンハルトの安心材料にはなった。

 

「――さて、最後の休息だ。日が暮れるまで建物内の安全な場所で食事と休息。日暮れを待って出発しよう」

 

「はっ!」

 

ここを乗り切れば壁内だ。だがこれまでの様に、森林地帯を併走するわけにもいかない。緊張と不安と、淡い期待が三人を襲う。願わくば、巨人に遭遇しないように。そして、壁外監視の駐屯兵が速やかに見つけて、回収に駆け付けてくれるように。

 

 

――日が暮れた。宵口の薄明りの中、旧村内の馬小屋から藁くずや板きれをかき集め、最後の狼煙を上げた。煙の出所が異なれば、壁外監視の駐屯兵団もこちら側の意図に気付き、何らかの対応があるかもしれない。同時に三人は村を出発する。

 

 

すでに北壁までは一本道だ。一歩一歩進むたびに近くなる。満月から少し欠けた十六夜の月明かりの下、三人は粛々と兵站行進を続ける。

 

「ジン、疲れたか?脚は大丈夫か?」

「――はい、大丈夫です」

 

ベルンハルトがジンを気遣う。本当に細やかな気遣いができる隊長であると、ジンは改めて感じ入る。

 

小休止を挟みつつ、三人は着実に歩みを進めていた。月が傾く。しばらくすれば朝が来る。

 

東の空が白む。朝方だ。北壁は既に目の前だ。かつての休憩所――茶処だろうか、街道沿いの東屋の廃屋で最後の小休止をとる。あと二時間も移動すれは北壁だ。この先、小規模な村が点在するのみで、大きな村や街は無い。旧村内の家屋に避難こそできそうだが、高層の建造物が無いため、巨人の襲来には対応できそうにない。もっとも、立体機動装置がまともに使用できないため、あまり関係ないことなのだが。

 

「あともう少しだ。上手くすれば、昨日の狼煙に反応して救援が来るかもしれない。さぁ――」

 

ベルンハルトが言い終わる前に、後方から足音がする。

 

 

――ここまで来て!

 

 

――巨人だ。このような場所での襲撃は想定していないわけではないが、迎撃は非常に困難だ。森林内では木や枝の遮蔽物があり、高所や物陰から爆雷で応酬することもできたが、ここは平地だ。

 

「――隊長!!」

 

ヨルクもジンも真っ青になる。もちろんベルンハルトも動揺する。心許ないこの東屋で応戦するか、それとも逃走――いや、どうやって?

 

外が徐々に明るくなる。巨人の足音はどんどん大きくなる。既に目標物を見つけたような足取りだ。真っ直ぐに東屋へ向かってくる。このような事態も、事前の打ち合わせで十二分に話し合った。あとは、決定し、命令するする覚悟だけだ。それは隊長である者の責務であった。

 

 

ベルンハルトは五秒間目を瞑り、深呼吸をする。ゆっくりと息を吐いた後、静かに、優しく二人に語りかける。

 

 

「ヨルク。今まで随分苦労をかけたな。壁外調査やら撤退戦やら日常の業務やら――付き合ってもらって、とても助かった。これからはお前が後続を育ててもらえれば、嬉しい」

言いながら、ジャケットの胸ポケットから手帳を取り出し、ヨルクに手渡す。

 

「そして――ジン。今回の調査は随分迷惑をかけてしまったな。君はまだ若い。この経験を是非ともこれからの兵団に、人類の未来に役立ててもらいたい」

そう言って、額のバンダナを外し、ジンに手渡す。ちゃんと一昨日洗ったぞ――などと冗談を言いながら。

 

「――隊長、まさか、そんな」

ジンが震えた声を出す。

 

「そうだ。足音から予想するに、巨人は一体。七メートル級くらいか。時間はまだ朝方だから、これは個体差だろう。だがこれ以上引き延ばせば、他の巨人も嗅ぎ付けてやってくる可能性もある」

 

 

表情を引き締め、ベルンハルトが告げる。

 

 

「分かっているはずだが、ここで最後の撤退戦――――やるぞ」

 

 

このような事態も、当然行動指針の想定に入っていた。単純に、この三人の中で戦闘力が最も高いベルンハルトが陽動を。そしてヨルクとジンが逃走する――生き残る確率が最も高い選択だ。

 

「っ――――分かりましたよ。じゃあ、装備の再構成、やりましょう」

時間が無いことはヨルクも承知していた。悲しむ暇など無い。可能な限りの爆導索や爆雷をベルンハルトに手渡し、逆に、携帯食料や水、調査書類等をベルンハルトから引き受ける。

 

 

「おい、ジン。大丈夫か?さ、お前も装備解除して再構成するんだ」

こんな時でもベルンハルトやヨルクは優しい。きっとこの期に及び、厳しい言葉や突き放すような言葉など何の意味も為さないことを知っているかのような。

 

「――泣くなよ。俺だって辛いし、怖ぇんだぞ?」

こんな時まで軽口を叩ける。

 

「またまた。なんでも兵団に入ったばかりの頃は、『狂犬のベルンハルト』なんて通り名もあったって噂ですよ?隊長」

 

「ばーか、どうせ訓練兵あたりの戯言だろ」

 

冗談めかした会話をしつつ、三人は備品の交換、再構成を終えた。

 

「――あぁ、そうだ。隊長、これ。俺からの餞別です」

ヨルクがジャケットのポケットから薬包紙のような包みをいくつか手渡す。中には丸薬が何粒か入っている。

 

「滋養強壮剤みたいな――いえ、どっちかと言やぁ劇薬です。飲めばしばらく身体能力が飛躍的に向上しますが、フラッシュバック――後々の揺り返しがひどいと思います。本当は俺が飲むはずだったんですけど」

 

「――最後の隠し球、か。上等だ、ヨルク。感謝する」

ベルンハルトは礼を言うや否や、丸薬を噛み、飲み込んだ。続き、ヨルクとジンも丸薬を飲んだ。

 

「本当は三人で壁内に帰還したかったが――」

 

「――ごめんな」

 

巨人の足音がすぐそこまで迫っている。

 

 

「いえ――ごぶ……」

これから死に往く者に、何が『ご武運』だ。ジンは涙で言葉を継げない。

 

 

――が、ここでこの言葉を言わねば、ベルンハルトを見送ることができない。

 

 

「ッ――どうか、ご武運を!」

 

 

ジンが泣きながら叫ぶ。同時に一斉に東屋から飛び出る。ヨルクとジンは街道を南へ。ベルンハルトは爆導索を持ち、陽動態勢に移る。巨人を目視する。胴が太く、やや鈍重な印象を受ける。だが、一撃が重そうだ。ベルンハルトは爆雷に点火した。

 

 

「――ほら、来いよデカブツ。お前の墓場は――ここだ」

爆雷数本を巨人の足下に転がし、撤退戦が始まった。

 

---

 

「――泣くな、ジン」

 

「はい……」

 

生かしてもらった命、無駄にはするまい。ヨルクとジンは、力の限り疾走する。丸薬の効果でしばらくは身体能力が著しく向上するはずだ。その間に少しでも距離を稼ぐ。後はどうなるか分からないが、そんなことは考えなくていい。

 

 

ジンは走りながらヨルクの方を見る。何も言えなかった。

 

 

――ヨルクもまた、涙を流していたからだ。

 

 

---

 

爆雷が爆ぜる。殺傷が目的ではない。まずは威嚇と時間稼ぎだ。こちらに注意を引きつける。爆発の音と熱、煙にしばらく躊躇していたが、やがて巨人がベルンハルトに手を伸ばす。劇薬がしっかり作用しているのか、非常にゆっくりしたものに感じる。なるほど、ヨルクめ、これは非道いモノを隠し持っていたなと心の中で苦笑する。

 

 

――捨てられなかった末路か、と思う。

 

「オオオオオッ!!」

ベルンハルトが吼える。気合一閃、伸ばした巨人の手の右手首を力一杯、超硬質ブレードで斬り付ける。どうやら肉体のリミッターが外れているらしい。右手首の腱を深々と切開した。巨人の手がダラリと開く。これですぐに掴み殺される心配は無くなった。

 

――シガンシナ陥落の数年前、妻と娘を、流行り病で亡くした。調査兵団では、数限りない仲間を失った。そのこと自体、誰が悪いわけでもない。だが、簡単に割り切ることはできなかった。情が深すぎるのは悪い癖だとは思うが、どうしようもなかった。

 

巨人が痛がるようなそぶりを見せる。気持ちの悪い呻き声を上げる。動きが止まったことを見て、爆導索に点火し、急いで離れる。今回は五連装だ。これまで以上に手際が良い。ヨルクの丸薬は、肉体だけでなく、精神にも高揚作用をもたらしているのだろう。地面に伏せ、マントを覆い目と耳を塞ぐ。

 

――本来であれば、そういった感情を斬り捨てて、あるいは折り合いを付けて前に進むべきだった。それが、強さだと思っていた。だが、守れなかったこと、できなかったことばかり心に残り――その悔いや罪悪感は加速度的に蓄積された。それでも生きて、目に写る出来る限りを守ること。そうやって生きる他、無かった。

 

 

            ……バン!バンッ!!

 

 

爆導索が爆発し、巨人の下半身を爆砕する。これで機動力は削いだ。巨人が前のめりに倒れる。

 

 

「――えええぇぇやぁッ!!!」

すぐに駆け寄り、巨人の顔めがけ思い切り地面を蹴飛ばす。土煙が舞い、巨人の顔に砂がもう、と降りかかる。すぐに背後に移動し、黒金竹のブレードで首筋や頭部、腰回りを滅多刺しにする。人間と同様で、頸椎や脊椎,脳を破壊すれば、一時的だが行動不能に陥る。だが、巨人はどんな傷でも回復するので、ブレードは刺したままにする。事前に大量に形成しておいたのはこのためだ。

 

 

――後悔を捨てきれなかったこと。エルヴィンやヨルクは分かっていた……と思う。他の兵員も、おそらく。キース団長からも、「お前は優しすぎる」と諭されたことがあったか。別に「いい人」になりたかったわけでもなく、演じていたわけでもない。これが性分なのだろう。

 

動きが止まった巨人のうなじを、超硬質ブレードで削ぎ取る。消滅の蒸気を上げると共に、黒金竹ブレードを拾う。自分でも不思議なくらい、身体と頭がすっきりとしている。疲れもほとんど感じない。ただ、少し、少しだけ、呼吸が荒く、心臓が――熱いくらいだ。

 

後ろから聞き慣れた足音。

 

「はっ――新手、かよ」

 

すぐさま、追加の丸薬を噛み砕き、嚥下する。躊躇は無い。一瞬視界がグラリと揺れ、赤く染まる。心臓が締め付けられるように熱い。そういえば、ヨルクに服用限度を聞くのを忘れたな。七メートル級と五メートル級が一体ずつ。計二体。

 

「よう……えらく早起きだな、お前ら――すぐ寝かしてやる!」

 

 

――いろいろなものを捨てることはできなかった。自己弁護するわけではないが、それでも悪くはなかった……とも思う。兵団が、命知らずの向こう見ずばかりになっても困る。もちろん少数派で、立場上、声を大にして言うことではないが、こんな時代だからこそ、自己保身ではなく、本当の意味で生を尊び、命を慈しむ連中も残ってほしい。

 

ベルンハルトはブレードを地面に置き、背中の荷袋から爆雷を取り出す。すぐに点火し、前方の巨人に投擲。爆発の後、ブレードを構えて突貫する。

 

「うおおおおおぉぉぉっっ!!」

裂帛の気合。爆発の余波が収まりきらないうちに、七メートル級の脚部――足首付近を力一杯横薙ぎする。信じられないことに、藁束を薙ぐように、刃がばっさりと貫通した。しかし過負荷に耐えきれなかったのか、それとも劇薬の副作用か、内蔵から何かがぬるりと込み上げ――ベルンハルトは血を吐いた。

 

七メートル級がバランスを失い尻餅をつく。その間に五メートル級に目潰しを投擲。視界を奪ったことを確認し、立体機動のアンカーを七メートル級の首に投げ付け、巻き付ける。ブレードホルダーから黒金竹刃を全部取り出し、辺りにばら撒く。空になったホルダーに爆雷を数本差し込み、立体機動装置を身体から外す。もう重たくなるだけだ。これ以上用は無い。どのみちここで散華する腹積もりだ。この期に及んで出し惜しみなどするものか。導火線に点火すると同時に、オートで巻き戻すように噴射をかける。

 

爆雷の入ったブレードホルダーとボンベごと、七メートル級の首元に引き寄せられ――爆発した。動くか動かないかは後だ――すぐに五メートル級を叩く。

 

 

――俺の人生、楽しかったと言えば嘘になるが、精一杯生きたのかな。意識が朦朧としてきたけれど――イライザ、アイリーン……俺にもう少しだけ力を――!

 

先に逝ってしまった妻と娘の名を心の中で念じる。

 

 

「あああぁッ!!」

 

呼吸が荒い。目の前が赤く変色する。内蔵から絶え間なく込み上げる血糊をブッと吐き出す。七メートル級は蒸気を出して蒸発している。仕留めただろう。残り少ない爆雷に点火し、五メートル級に投擲。また後方に飛び退き地面に伏せる。地味な作業をひたすら繰り返す。

 

 

---

 

 

――朝日が眩しい。いや、夕日だろうか。目に見える世界が真っ赤だ。そんな時間まで戦闘をしていたのか。いや――

 

五メートル級の巨人が蒸気を上げ形が崩れる。七メートル級は倒した記憶があるが、五メートル級のこいつをどのように討伐したか、よく覚えていない。よじ登り、むしり取り、おそらくこちらが化け物のような形相をしていたのかもしれない。右足首が熱いので、見てみたら、無くなっている。巨人にやられたか、それとも爆発に巻き込まれたか。幸いなことに激しい痛みは無い。劇薬のお陰かもしれない。

 

 

――ヨルクとジンは、無事に逃げられただろうか。

 

 

既に爆雷は尽き、超硬質ブレードも全て折れた。最後の黒金竹の簡易ブレードを一対を両手に持ち、地面に大の字で倒れている――らしい。

 

――なんだ、まだ、朝じゃないか。

 

視界が正常に戻る。体温が低いのか、少し寒い――――寒いな。

 

――あぁ……いい、天気だ――――眠いな――――

 

ベルンハルトは二回ほど大きく深呼吸し、静かに目を閉じた。

 

………

……

 

数時間後、ベルンハルトの傍を一体の巨人が一瞥して通り過ぎた。特に、気にとめる風も無く。

 




●あとがき

ドラッグ、ダメ、絶対。この物語はフィクションですからね!

戦闘描写、派手さはまったくありませんが、よく考えたら隊長さんけっこう凄いことしてますね。立体機動無しに三体ヤりおったわい。おクスリのチカラを借りていますけど。

立体機動を使わずに巨大な敵を倒す――自分でプレイしたことはありませんが、モンハンの戦闘に似ているのかなと。とにかくチート封印なので、俺TUEEEE!をやるにしても泥臭く、を意識しました。また、モノローグと戦闘描写を混ぜて書く、という試みをしました。こういうのはアニメだと映えるんですけどね。

隊長はここでリタイヤです。お疲れ様でした。連続性のある話としてはここが終着点、事実上の最終回となります。次回は形式上の最終話ですが、エピローグ的な展開です。

『狂犬のベルンハルト』のくだりは、もちろんヨルクの冗談です。

お読みくださり、ありがとうございました!


●次回予告

『北壁の亡霊部隊』――兵団に伝わる不思議な逸話のひとつ。

彼らと、彼らを取り囲むその後の話。

そして――背中に薔薇を背負った漆黒の亡霊は、再び戦場に立つ。


次回、エピローグ 死すれども残るもの(仮題)
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