調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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soliquidです。「調査兵団亡霊部隊」も、この話をもちましてお終いです。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました!
エピローグ、少し時系列が前後しますが、後日談的な話です。
比較的短い話を何本か、オムニバス形式でお送りします。

続きになります。

何かの折に、お読みいただければ幸いです。



エピローグ 死すれども残るもの

848年、春。

 

「――ねぇ、北壁の亡霊部隊って知ってる?」

104期訓練兵二年目の、ミーナ・カロライナという髪をお下げに結った少女が、そんな風に話を切り出す。

 

「――あ、あれでしょ?ユトピア区の北壁で夜な夜な『開門願う!開門願う!』って声がするっていう」

クリスタ・レンズという金髪の少女が反応する。

 

それなりに歴史の長い兵団である。真偽はともかくとして、逸話や噂話などいくらでも出てくる。訓練兵の少女達は、一日の終わりの自由時間、兵舎の寝室で、訓練の疲れや退屈の慰みに、そんな取り留めもない噂話に花を咲かせている。

 

「――で、その亡霊、まだ兵団に出るとか出ないとか!」

「えー!怖いっ!」

 

数人の少女が悲鳴をあげる。同部屋のアニ、ミカサも話にこそ参加しないが、聞き耳を立てている。噂話と怪談が混じったような、そんな話をする少女達を横目に見ながら、ユミルは独りごちる。

 

『あの壁の外から戻って来るなんざ、マトモな人間には出来ない芸当だよ――』

 

---

 

「――そうか」

 

ヨルクから報告を受け、エルヴィンがため息を吐いた。

 

「本当に――ご苦労だった。君とサンドラー補給兵の生還は、兵団にとって非常に大きく、同時に繊細な問題になるだろう。ともかく、まずは身体を休めてくれ」

 

 

 

ヨルクが部屋を退室した後、エルヴィンは一人、呟く。

 

「――お前は最後まで貫いたんだな。他を捨てずに、自らを犠牲にする姿勢を」

 

書類の上に、はらはらと涙が零れる。誰も居ない部屋で、少し嗚咽を漏らす。

 

エルヴィンは心に誓った。私も生き方を貫こうと。多くの者を斬り捨てても、悪鬼羅刹と呼ばれようとも――必ず兵団や人類の未来を切り拓いて見せようと。かつて未来を共に語り合った掛け替えのない友人への――せめてもの手向けとなるように。

 

ひとしきり涙を流した後、エルヴィンの眼に、静かな炎が宿った。

 

---

 

ヨルク・ゼクレスとジン・サンドラーは、あの後、走りに走り、壁近くまでたどり着いた。大声で「開門を!開門を願う!!」と何度も叫び、警備に当たっていた駐屯兵によって速やかに保護された。

 

 

手短な帰還報告、しばしの療養の後、二人は審議所に居た。

 

 

遭難したこと、狼煙で定期連絡を取ったことは、兵団側も理解していた。黒金竹と氷爆石の発見についても、真偽の程はともかく、記録に留めておくことになった。装備の再構成の際、氷爆石も黒金竹もすべてベルンハルトに渡した。そのため、手元に現物が何も無いことが悔やまれたが、ヨルクが持ち帰ったベルンハルトの手帳の記録が詳細かつ具体的であったため、一考の価値ありと判断された。

 

言葉を話す巨人や、その巨人が夜に出没したことに関してはかなり疑問視され、判断材料に乏しいとのことで保留となった。

 

ヨルクの薬物投与に関しては、軍紀違反であるが、お咎め無し。ジンの異常回復については、議論の対象となった。この話が本当であれば、不死身か、それに近い兵士が誕生する。当然、医療部門の下で生体実験をすることになった。

 

しかし、簡単な傷を付けても、打撲や打ち身のような損傷を加えても、普通の人間と同じ速度以上では回復しない。実際に起こったことであるという報告であるが、再現性が無かった。三ヶ月の実験期間を経た後、兵団の見解としては『信憑性に欠ける』とし、ジンの処遇については保留となった。

 

---

 

しばらく時が経ち――848年。ウォール・シーナ領内。

 

「お久しぶりです、ヨルク班長」

休暇を申請し、ジンがヨルクを見舞いに来た。

 

「――もう班長じゃないよ。一介の技工特兵さ」

ヨルクは苦笑いをする。

 

「俺だって、特兵ですよ」

「あぁ――そうだったな」

釣られてジンも苦笑いをする。

 

北部調査の翌年、847年。兵団はヨルクの処遇を決定した。ヨルクは薬物投与の副作用で思うように立体機動や騎乗が出来なくなり、かねてから声が掛かっていた中央の技工部門へ転属した。しかし、容態の回復が遅く、週のうち半分は療養所での生活になっている。正規の兵役をこなせないため、特兵扱いとなった。

 

ジンは、容態が回復してから駐屯兵団に戻ったが、間を置かず特兵に転属となった。兵団としては、ジンに関して不確定な要因があり、野放しにはできないという意図があった。しかし調査兵団や駐屯兵団などの戦術的な現場に直接干渉しない立ち位置で監視下に置く、という意図もあり、現在は訓練兵団預かりの特兵で、営倉や懲罰房の番兵をしている。兵団の思惑はジンも薄々感付いていた。

 

 

『特兵制度』――シガンシナ陥落後、兵団の資金的な軽減を目的とし整備された制度である。傷病や高齢、その他の理由で、兵団の正規任務に就けなくなった者の中で、事務や医療、土木や技工等、主に非戦闘部門で再雇用する。給料は正規時の半分以下になるが、副業の自由がある程度認められ、税金や福利厚生などの面では正規兵に準ずる形で優遇される。一目で特兵と分かるように、カーキ色の兵団のジャケットを黒く染め上げ、それを着用する。背中のエンブレムはそのままであり、その特兵が元々所属していた兵団が分かるようになっている。最近は詰め所や支部でも、そこそこ見かけるようになってきた。

 

 

「俺の身体はなかなか満足に動かないが、君はまだ若いし――」

 

「――どうせクスリの副作用も大したことなかったんだろ?」

 

ヨルクが悪戯っぽくニヤリと笑う。少しやつれているが、あの悪戯っぽい笑みで。

 

「ええ、何故だかわかりませんが、班長よりも軽かったみたいです」

 

ジンも呼応してニヤリと笑う。

 

「――まったく、羨ましいよ。まぁ、その調子なら有事の際には駐屯兵団に戻るかもな――だが、くれぐれも無理はするなよ」

 

ヨルクの方がリハビリなどで大変であるのに、こうやって気遣う姿を見て、ジンは本当に良い上司と共に戦えたのだと実感する。しばし、互いの近況などを話す。

 

 

「……意志の力――いや、技巧の俺がこんなこと言うのもアレなんだが」

何かの拍子に、ヨルクがぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

 

「ジン、君が回復を見せたときの状況――『生きる』という強い意志が働いていなかったか?」

 

生きる意志、そして生かす意志。それはベルンハルトが一貫して持ち続けた想いだった。少なくともジンにはそう見えた。確かに洞窟での滞在期間や帰還する行程は、生きること、ただその一点に心血を注いだ日々であった。兵団で実験をされた際は、そのような気持ちは持ち得なかった。傷を付けられても死ぬような状況では無かったからだ。

 

「俺の仮説が正しいかなんて分からないが――ジン、君のその回復と生きようとする意志には、何らかの関連性があるのかもな」

 

 

――生体実験をされてからしばらく後、ジンにはある意志が芽生えていた。

 

 

生き延びることに必死だったあの一ヶ月。しかし顧みればそれは自分だけだった。少なくとも彼ら二人は、自らが生きることと同等以上に、ジンを守り、生かすこと――そこに必死に注力してくれたのだと。そのような気持ちが無ければ、足を怪我し、荷馬車にも間に合わなかった時点で、作戦遂行上の邪魔になり、どこかに置き去りにされただろう。彼らは尊敬すべき軍人であり、それ以上に尊敬すべき人間であった。

 

ベルンハルトやヨルクのように「守り、生かす」という意志。自分も彼らのようになりたい。それがどのように作用したか分からないが、ジン自身の劇薬による副作用は、その頃を境にどんどん軽減され、回復してていった。

 

 

「泣き虫の俺がこんなこと言うのは恥ずかしいんですけど、ベルンハルト隊長とヨルク班長の意志――俺が継ぎます。継がせてください……!」

 

「あぁ――泣き虫駐屯兵がどこまで継げるか、期待せずに祈ってるよ」

 

ヨルクは安心したような、頼もしいような目をして、本当に、本当に優しく軽口を叩いた。

 

---

 

――850年。トロスト区防衛戦。

 

「――エレン!エレン、何処に居るの……!!」

 

ミカサ・アッカーマンが屋根の上を立体機動で駆け回る。遠くの屋根に、エレンに似た容姿の青年を見かけた。

 

「――エレン!?」

 

近くまで来ると、エレンでは無いことが分かった。その男は黒いジャケットを着用している。立体機動装置を装備しているが、珍しいことに特兵らしい。背中に薔薇のエンブレム。彼はもしや――

 

「あ――ジン兄さん!?」

 

声を掛ける。

 

「ミカサじゃないか。どうした……?」

 

ジンが訓練兵団の営倉や懲罰房の番兵になってから、104期訓練兵とはそれなりに顔馴染みになっていた。不真面目な訓練兵はもちろん、成績上位者であっても、エレンやジャン、コニー、そして何よりサシャは懲罰房に来る回数は多かった。そうでなくとも、エレン、ミカサ、アルミンとは昔からの顔馴染みであったので、何かにつけて話をすることも多かった。

 

エレンは、ジンが特兵になったことを残念がっていた。しかし、ジンにも兵団から守秘義務を課せられているため、北壁調査部隊の、とりわけ置き去りにされた三人のうちの生還者だとは言えなかった。表向きは、怪我をしたので時限付きで特兵に――ということにしていた。

 

エレンに対してミカサが家族以上の思慕を抱いていることは、とうの昔から分かっていた。そのエレンが居ない。ミカサは青ざめて今にも死にそうな顔をしている。元々聡明な少女ではあるが、状況判断もまともにできそうにない様相だ。

 

「ミカサ、落ち着け。まず君がやらなければいけないことは――しっかり状況判断をして、生存することだ。焦りはミスを生む。今回の場合、それが君だけじゃなく、兵団やトロスト区全体の致命傷にも為りかねない」

 

涙目になっているミカサを諭す。

 

「――いいかい?エレンの生死がどうであるか分からない。だが、君が生きていなければ話にならないだろう。……エレンにも同じ顔させたいか?」

 

ミカサは賢い。ハッとした顔の後、すぐに状況を飲み込んだ。そして一言

 

「ジン兄さん、ありがとう……!」

 

再び立体機動で、持ち場へと移動する。

 

 

 

「さて――」

 

 

ジンは胸ポケットからバンダナを取り出し、鉢巻きのように締める。

 

 

戦況は刻一刻と変化している。先輩であり、現在は班長であるイアンの下へ向かう。ジンは、有事の際には駐屯兵団に戻ることを許可されており、遊撃兵としての任務を与えられていた。その働きができるよう、訓練兵団の番兵としての勤務時間以外は、日々、訓練に充てた。駐屯兵団にも定期的に出向き、訓練に組み込んでもらった。

 

「イアンさん!」

 

「ジン――!よく来てくれたな。やはり精鋭班だけでは追いつかない。突然で悪いが――駐屯の新兵の遊撃戦を指揮してもらえないか?」

 

駐屯兵団の多くとは顔馴染みであるが、ジンが特兵になってから入団した兵士とは訓練以外ではあまり接点が無い。しかし、この状況でそんなことを言ってはいられない。イアンたち精鋭部隊は、拠点防衛のために遊撃戦に打って出ることが出来ないのだ。ちょうどこのタイミングで遊撃戦に手が回せることは、駐屯兵団にとっても僥倖であった。

 

(――大丈夫だ。ジン、多分お前は『北壁の亡霊』だろ?あのベルンハルト隊長の下で生き延びたんだ。お前なら出来る……!)

 

イアンが耳打ちする。彼はかつて、調査兵団でのベルンハルトの戦術論などの講義に定期的に顔を出していた。直接の経緯は詳しく知らされていないが、処分や転属の経緯を鑑みるに、ジンが北部調査部隊の生き残りであることを、彼なりに確信していた。

 

 

「――分かりました」

 

 

ジンが指揮を任された新兵七人と、状況確認し、遊撃に出る。所属が駐屯兵団でしかも新兵。戦闘に慣れていないのは明らかであった。全員表情が暗く、堅い。これでは訓練通りの成果を出すことは難しい。

 

「――いやぁ、とんだ事態になっちまったなぁ。トロスト区へようこそ!ってか!?」

移動しながらジンが兵員に軽口を叩く。

 

「――そういえばさ、みんな、『北壁の亡霊』って知ってる?」

 

「えっ、いや、その……はい。噂では……」

エレンやミカサとそう年端が違わない青少年、少女の兵士たちは、予想外の質問に驚きつつも、正直に答える。

 

 

「いや……さ、実はそれ、俺だったりして――な!」

言い出して、プーッっと笑う。他の兵員も少し緊張がほぐれたらしい。

 

 

「――さ、我々の班は遊撃という複雑な仕事だ。まずは状況をよく判断し、各自死なないように行動する。巨人を誘導し単体にしてから、最低四人で叩く。訓練してるから目潰しの投擲は――できるね?それから――支給された手榴弾は幾つ持ってる?」

 

「はい!各員十個ずつ携帯しています!」

 

 

「――よし、上等!」

 

 

一ヶ月と少しだけではあるが――

共に闘った男達の態度や口癖を真似ていることに気付く。

 

 

巨人を誘導し、目潰しを投擲。視界を奪ったら立体機動で急所を削ぐ。巨人が密集している箇所には、手榴弾を放り込む。立体機動中でも、片手で着火できるようにヨルクが改良に改良を重ねた代物だ。場所は違えど、彼もまだ、闘っている。

 

『小型だが威力は保証する。試作品だが――形見代わりに持ってきな。なに、許可は取ってある――』

 

 

                 ド……ゴォン………

 

 

炸裂音が響き、巨人の身体が半壊する。ジンがボンベのコックを全開にし、最大出力で高速立体機動に移る。ブレードを持つ両手首を頭の後で重ね合わせるように構え――

 

「――いやあああぁっ!!」

 

かつて朦朧とした意識の中で見た、あの男達の技――『回転斬り』。刃がうなじに接触すると同時に、立体機動の基本的な動きである『スピン』を出力全開で行う。身体を独楽のように回し、肉を削ぐ。あの男達の背中に、生き様に追いつこうと、日々研鑽を重ねてきた。

 

 

「……すげぇ」

 

新兵の一人が生唾を呑み込む。

 

「よし!各員状況を見つつ、柔軟に対応!いいか!お前ら――――」

 

 

『絶対に死ぬなよ!!』

 

 

三人の男達の――思いを乗せた言葉が、トロスト区の街角に静かに響いた。

 




●あとがき

これにてこのお話は完結となります。あとがきで設定や独自解釈などを少々。少し長くなりますが、お付き合い頂ければ幸いです。

プロット段階というか、書き始めてからも誰を主人公にするか迷いました。最終的にはジンが主人公……のように振る舞います。文面にはきちんと起こしませんでしたが、「未練を捨てられず、そんな自分を捨ててしまおうとする」ベルンハルトの苦しみからの救済、ということも考えました。なぜベルンハルトは危険な撤退戦ばかりするようになってしまったのか?それは、自分が救えなかった家族や仲間への懺悔もある、と。ヨルクはそこまで分かっての、「ご自分を許しちゃどうです?」という発言です。

さて、ジンですが、エレンの母、カルラの遠縁で、「(エレンほどではないが)先天的に巨人化する因子を持っている」という独自設定です。

・グリシャに注射をされなかったこと、
・巨人に食べられていないこと
・人を食べていないこと(エレンが人を食べたかは現時点で不明ですが)

これらのいずれのプロセスも踏んでいないため、ジンは巨人に成り得ません。そのため、獣巨人が「出来損ない」と言ったのです。獣巨人の正体は現時点(9/22現在)で様々な憶測がありますが、私の設定上では獣巨人=グリシャではありません。また、何らかの巨人化する人間の因子をかぎ分ける能力がある、という独自設定,解釈をしております。

また、エレンの巨人化の条件などから考えると(スプーン拾った時は分かりませんが)、ある程度「覚悟」のような強い気持ちが必要なのかな、と。なので、気持ちや覚悟がスイッチとなり、巨人化の因子(?)的なものが活性化し、(エレン始め他の巨人化できる人間には及ばずとも)肉体の超回復に繋がった――という勝手な解釈です。エレンは「闘う」覚悟。ジンは「守る」覚悟と対比をさせてみました。

設定以外のところでは、筆力が未熟で、理不尽な世界に立ち向かう強さと、それでも根底に在る優しさを充分描けたかは分かりません。特に戦闘描写のパートでは、チートや俺TUEEE!を封印し、かなり地味になってしまったと思います。娯楽としての読み物であれば、多少フィクションや無茶ぶりに傾いても、疾走感や爽快感も大事だな、と改めて感じ入りました。

特兵制度に関しては、完全な創作です。企業などの再雇用制度、もっと言えばパートタイマーみたいなものだと思います。経費削減案と、ジンが比較的自由に動けるため、かつ、存在を少しでも際立たせるための設定です。特兵ばかりになると「パート兵団」とかになって大変でしょうけど(笑)

自分も書いていて楽しめました。末筆ではありますが、次回作があれば、そこでお会いしたく思います。


お読みくださり、本当にありがとうございました!

soliquid
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