調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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文章を書く際、よくBGMを聴くsoliquidです。
「この曲は○○に合うな」、とか、「歌詞が△△っぽいな」など、
勝手に脳内で妄想して筆の進みが悪くなることもww

いつか、BGMに合わせたテーマで二次創作を書いてみたいです。


続きになります。

何かの折にお読みいただければ幸いです。


第4話 臨界逃走

「隊長!これで戦えるのは四人……巨人は三体……どうします!?」

気絶したジンをヨルクが安全な屋根の上に横たえ、ベルンハルトと落ち合う。向こうではネスとシスという兵士が戦闘中であった。

 

数逡の後、

「……ひどくやられたな。これ以上の戦闘は不可能――負傷兵含め逃げるしかないな」

 

ベルンハルトが号令をかける。

 

 

「討伐を断念!これより撤退する!生存者は息のある負傷者も含め回収!その後馬で巨人を誘導、引き離しつつ南部に移動!先に移動している班と合流!……死ぬなよ!いいな!」

 

 

     「「「了解!」」」

 

 

シス、ネスは負傷者を担ぎ、馬まで移動。荷馬車の中に数名の負傷兵を入れる。負傷兵の中でも、軽傷で、まだ動ける者は馬に乗る。ベルンハルトは、ヨルクと共に巨人の撹乱に努める。事実上の捨て駒、殿(しんがり)である。調査兵団の兵法――『劣勢からの撤退の際、巨人を陽動、誘導する数名を残し、部隊の維持を最優先せよ』に従う。

 

ベルンハルトとヨルクは、戦闘や討伐技術こそ調査兵団の中では並程度だが、この撤退戦技術においては兵団に並ぶ者が居なかった。自殺志願者集団などと揶揄されている調査兵団だが、生還した者の裏には、大なり小なり、彼らの撤退戦の指揮があった。

 

 

     「隊長!次の設営拠点なら五時間まで待てます!!どうかご武運を!!」

 

 

荷馬車と共にネスが馬を走らせる。彼の愛馬『シャレット』は兵団の中でも折り紙付きの駿馬(しゅんめ)だ。きっと無事にたどり着く――

 

 

「上等!だが、状況により柔軟な判断で随時壁内への帰還を許可する!お前等!死ぬな!そして報告を頼む!」

 

 

「「了解!」」

 

 

一体の巨人が、ネスたちに気を取られ標的を定め損ねた。ベルンハルトがアンカーを飛ばし、ブレードを三回打ち合わせる。呼応してヨルクもアンカーを飛ばす。

 

その後、二人は最高速でワイヤーを巻き戻す。すぐに手首を頭の後に合わせるような形でブレードを構え――

 

 

「この野郎ッ!!」

「――くたばれッ!」

 

 

巨人のうなじ付近に刃を当てた瞬間、何回転もしながらブレードで肉を抉る。

 

『回転斬り』――調査兵団の十八番であり、巨人のうなじを削ぐことができる一撃必殺の技を繰り出す。高い練度が要求され、失敗時や着地時のリスクも高い。ブレードの損耗も大きく、限定的なタイミングでのみ行使できるが、今回は上手くいった。

 

 

前のめりに倒れて蒸発する巨人。同時に、荷馬車と騎馬数頭が村から脱出した。運良く一体の巨人が追いかけていった。そろそろ日が暮れる。そうでなくとも巨人も戦闘で疲弊しているはずだ。残る巨人は一体。しかしボンベもブレードも残り少ない。膠着状態だ。

 

「――さて、ヨルク、悪かったな。巻き込んでしまって。頭の傷は大丈夫か?」

 

「切り傷です。大したことはありません。撤退戦も、もう慣れっこですよ隊長。しかし――」

 

「――ジンか。彼には済まないことをした。だが、まずはここを脱出してから考えよう」

 

ヨルクの背中で気絶しているジン。左足首は見るも無惨に損壊し、隊服を赤く染めている。

 

 

「――夜を待って移動しましょう。巨人は動けない。めぼしい目印もありませんが、明りを点けて星を見て、街道沿いに南に行けば――」

 

 

『夜を待つ』という選択肢。これは賭けであった。夜になるまでに複数の巨人や、運が悪ければ奇行種が来る可能性。大型であれば建物を損壊し、捕食されるかもしれない。そして、ジンの容態。必ずしも推奨される選択ではない。

 

しかし、夜になれば巨人は動かなくなる。それだけは経験則から確かであった。ベルンハルトは悩んだ。巨人との連戦。隊の損壊。

 

果たして、自分に正常な判断が下せるのか――

 

 

―エルヴィンなら、どうするのだろうな…………きっと―

 

 

逡巡する。そして、

 

「ヨルク、君の案に乗ろう。待機のち、脱出。南進する――」

 

ベルンハルトとヨルク、ジンは、巨人の手が届かない建物まで避難し、日暮れを待った。日が傾くにつれ、巨人の動きは緩慢になり、ついには寝るように動かなくなった。その間にジンの応急処置をし、今後の作戦を説明した。

 

 

ネスたちに遅れること三時間。その間に夜の闇に乗じて、三人は馬に乗り旧村から離脱した。巨人は追ってこない。

 

しかし、夜を待っている間に、小雨が降り始めた。状況はあまり良くない。応急処置を施したものの、出血によるジンの消耗も心配だ。明日まで待つ余裕は無い。松明の明りを頼りに、速度を落としながら並足で進む。

 

 

闇と雨でほぼ視界が利かない。かつての街道と、街道沿いに点在する樹木を頼りに少しずつ進む。悪天候の中の行軍は、兵站行進の訓練で何度も経験しているが、実際に行うとなると心身に負担が大きい。

 

しかし一行は、少しずつではあったが南進していた。旧街道の状態が思いの外良く、道に沿って進めば、必ず先行班が野営する拠点にたどり着くはずだった。

 

 

移動を始め、しばらく後。

 

 

――突然、馬の足並みがおかしくなった。手綱でも鞭でも言うことを聞かない。

 

「おかしい――何だ――――?」

 

まさか野党など居るはずもない。考えたくない選択肢が各々の脳裏によぎる。

 

馬が静まらない。

 

 

「落ち着けっ!この――!!」

 

 

よく訓練された兵馬であるにも関わらず、その怯えようは尋常ではない。本能からの恐怖で前後不覚になり、脚の怪我により踏ん張りが利かないジンの乗った馬は、彼を振り落とし夜の闇の中へ駆け出してしまった。

 

 

「あっ!――あぁ……」

 

「怪我は無いか!?」

「おい!大丈夫か!?」

 

ベルンハルトとヨルクが声をかける。しかし、彼らも馬を制御するのに必死でジンの近くに行くことができない。落馬した負傷者に暴れた馬を近づけることは、むしろ危険だ。

 

「くっ、仕方ない……」

 

暴れる馬をなんとか街道近くの木に寄せ、簡易に馬止めをする。

 

直後。

 

――遠く、東の方角から地鳴りのような低い音がする。

 

何度も聞いた。そしてこの時間、この場所で、二度と聞きたくない音。

 

 

 

――――巨人だ。

 

 

 

――どぉん…

 ――どぉん…

  ――どぉん…

 

 

規則的な足音。忘れようもない。巨人だ。巨人が来る。それも十五メートルくらいのものだろう。その音の間隔から、まだ歩いているだけで、走ってはいないようだが――

 

三名とも、心臓を何か冷たい物で捕まれたような気分になった。

 

馬の嘶(いなな)きが酷い。泣き叫ぶような鳴き声を上げる。錯乱状態で、もはや騎乗は無理だ。むしろ場所を知らせてしまう可能性さえある。

 

三人で顔を見合わせ確かめる。あの音は――幻聴ではない。

 

「逃げよう――」

 

誰からともなく、そう言い、音のする方向と反対方向へ走る。あまりの恐怖に、雨がやんでいることに気付くのにしばらくかかった。

 

「――火を消せ」

 

どのような機構で察知されるのか分からない。人間の痕跡を少しでも消すために、松明の灯りを消す。雲間からの月明かりを頼りに逃走する。街道から数キロ逸れたところに、巨大樹ではないが、森林が見える。そこまでたどり着けば――

 

絶望を感じながら、三人は逃走する。ほんの少し、命を永らえるために。

 

 




●あとがき

巨人が大量に出て来て、隊を散らされ、兵を失い、怪我をして、逃走したら馬が言うことをきかない。極めつけにまさかの巨人?

踏んだり蹴ったりのssですね。でも負けない。だって、調査兵団だもの。


本作の時系列(846年時点)では、「巨人が夜に出没する」ということは明らかになっておらず、
あくまで「夜には出没しない」という解釈です。

原作に出てくるネスとシスを出しました。
ということは、ネスさん達は無事に壁内へ帰還し、作戦自体は遂行されたことになります。

次回は戦闘描写こそありませんが、
少しずつ話の伏線を散らしていければいいなと思います。

ありがとうございました!


●次回予告

取り残された者、生きて帰った者、それぞれの状況。
そして、三人は未だかつて無い恐怖を体験する。

次回、未知の恐怖(仮題)
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