調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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みなさまこんにちは。soliquidです。

物語を書く際に、「正史(=原作)で語られなかった部分」を妄想するのが好きです。しかし、正史に影響を与えてはいけない。ので、オリ主達の結末をどのようにするか、悩みます。本作で書く「謎」のような部分も、「発芽しなかった種」のような、闇に葬られた感じで書ければいいなぁ、と。

少しずつですが、物語が動きます。派手さを描ける筆力がまったく無く申し訳ありません。かといって、謎解きの要素もありませんが。

続きになります。

何かの折に、お読み頂ければ幸いです。



第5話 未知の恐怖

上り坂なのだろうか。いつもよりも呼吸が浅い。月明かりがあるとはいえ、この薄暗闇の中。先程まで降っていた雨で地面がぬかるみ、泥の中で足掻いているような感覚に陥る。風が強い。身体が重い。息が苦しい。困難な状況は数多くあったが、これほどまでの恐怖を味わうことなど無かった。

 

 

――どぉん…

 ――どぉん…

  ――どぉん…

 

後ろを振り返らない。いや、振り返れない。あるのは、確実な「死」だ。ならば、そんなもの――見たくない。

 

「――ぐ……ひぐっ…………」

 

泣いているジンを、ヨルクとベルンハルトが交互に背負いながら走る。思考回路などまともに働くはずもないが、そんな中でも生き残るための方策を必死に探す。

 

――どぉん…

 ――どぉん…

  ――どぉん…

 

巨人の歩みは間隔を変えず、しかし、少しずつ、少しずつ大きな音になる。こちらのことを分かっているのだろうか、それとも、何か人間に対して誘導されているのだろうか――

 

だが、そんなことを考えている余裕は無い。距離は1000メートルを切っただろうか。三人は森の入り口の林道へと入った。

 

 

――どん…どん…

 ――どん…どん…

  ――どん…どん…

 

森の入り口に差し掛かった際、不意に巨人の足音が速くなった。何か目的のあるような歩調。目標物であるベルンハルト等を見つけたのか、それとも――

 

これ以上動くと、見つかる恐れがある。三人は茂みの中に隠れる。身を縮め、ありったけの落ち葉や枯れ枝をかけた。こんな偽装が巨人相手に通用するのか分からないが。

 

そして、茂みの中から足音のする方を見た。

 

 

      全身が長い体毛で覆われたような、毛むくじゃらの――――巨人。

 

 

奇行種だろうか、これまでに見たことがない風貌をしていた。

 

こちら側にやってくる。距離は十メートル程度まで近づいていた。ヨルクがジンの口を押さえる。錯乱して悲鳴を上げないためだ。その手は震えている。

 

ベルンハルトがジャケットの内側から手帳と筆記具を出す。『最期の記録』を残すためだ。運が良ければ、今後の壁外調査で、誰かが見つけてくれるだろう。

 

(最早――これまでか)

 

ベルンハルトが小さく呟く。冷静な声だった。恐怖を突き抜けて、感覚が麻痺をしたのだろう、と思う。

 

『846年、△月□日 夜 雨 ××村からの帰路、行軍途中、巨人に遭遇。体毛あり、獣のような――』

 

そこまで書いたとき、信じられない光景を見た。

 

 

          「――お カ しイ  な   ど コに イる ?」

 

 

巨人から、人の言葉が発せられたのだ。

 

 

          「  どコ だ ? ど  コ だ?」

 

 

巨人が言葉を――悪い夢でも見ているのだろうか。

 

これまでも、巨人のわめき声やうめき声などは目にした。しかし、いずれも意思を孕んだものではない、というものが兵団の見解であった。この数年後――イルゼ・ラングナーという兵士の記録により、巨人が言葉を扱う可能性が兵団の一部に明るみになるのだが。

 

恐怖と、理解の範疇を超えたことが一気に起こりすぎて、三人は身動きひとつできなかった。ヨルクの手が緩む。ジンは震えながら口をポカンと開けるのみ。ベルンハルトも、既に記録などしていない。しかし、身動きをしたり声を上げたりすれば、確実に死ぬ。それは分かっていた。

 

 

じっと待つ。

 

 

巨人は森の前をうろうろしている。目の前数メートルを足が通る。三人を探していることは確かだった。

 

(……ひっ!)

 

 

           「――――にゲた  カ ?」

 

抜けた緊張が再び戻る。身体が強張る。

 

          「まあ  イイ――でキ そ こ なイ   め」

 

 

そう呟き、巨人は背を向けて、元来た方角へ帰って行った。

 

 

――どぉん…

 ――どぉん…

  ――どぉん…

 

規則的な足音が遠くなる。

 

――命を、拾った。今度こそベルンハルトは身体中の力が抜けた。隣を見ると、ヨルクがナイフの刃を地面に落とし、泣いていた。もちろん、ジンも。いよいよの時は、捕食される前に自刃して命を絶つつもりだったのだろう。

 

大きな声は出せないが、三人は涙と鼻水でグシャグシャになりながら抱き合い、命あることに感謝した。

 

(――我々はまだ、生きている。少しでも山奥へ移動しよう。馬は、できれば明日にでも回収する。細かな分析はそれ以降にしよう)

 

((はっ!))

 

三人は立ち上がり、山奥へ移動した。運良く、洞窟のような穴を見つけ、身を寄せた。

 

「ひとまず、ここで夜を明かそう」

 

 

本来なら、野営の番を交代でするはずなのだが、この日までの疲労の蓄積と、限界を超えた緊張のため、三人は糸が切れるように眠りに落ちた。

 

 

翌朝。

ベルンハルトとヨルクが、ジンの傷の処置を行う。放っておくと、傷口が膿んで感染症などを引き起こす恐れがある。

 

「ろくな応急処置もできないが、傷薬と新しい包帯を――」

 

 

 

「――なんだ、これは」

三人が驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 

普通ではあり得ない。

ジンの左足首の肉が、薄い皮膜に覆われ、砕けたはずの骨が少しだけ再生していた。

 

 

---

 

 

旧村を脱出して二日半後。

 

「――以上で、報告を終了致します」

 

調査兵団の司令室。団長のキースはじめ、エルヴィン、リヴァイ、ミケなど調査兵団の精鋭の前で、ヨルクと対を為すもう一人の班長であるディーダ・ネスが代表となり報告する。ネスの背後には、重傷者を除いた北部調査部隊の帰還者が全員揃っている。

 

「やはり、巨人は北部にも侵入しているな。しかし街道や軍備施設の損壊は甚大ではない。この調査報告を基に、北路経由での奪還作戦の礎としたい――本当に、ご苦労だった」

報告書から顔を上げ、キースが話を続ける。

 

「そして、三十五人のうち半数以上――よく帰ってきてくれた。流石はベルンハルトの指揮だ」

 

「しかし、まだ隊長は生きております!ヨルクだって!あの狼煙はそうに決まっております!どうか……どうか、我々に救助に行かせて下さい!何とぞ!!」

ネスはじめ、他の兵員も志願する。

 

キースは一瞬目を細める。良い部下を持ったな、と。しかし、司令官としての立場に戻る。

 

「狼煙の件は把握している。気持ちも痛いほど分かる。しかし、今の調査兵団に壁外へ行くだけの兵力が無い。今回帰還した諸君らは紛れもなく貴重な精鋭戦力――不確定な事項で失うわけにはいかないのだ」

 

「――生きているのがあの『腰抜け野郎』だとお分かりか、団長」

 

リヴァイが口を挟む。

 

「十中八九、そうだろう。腰抜け――か。お前にはそう見えるだろうが、あいつは諦めの悪い男でな。しかし、他に誰が生存しているのか。報告によると、班長のヨルクともう一人、駐屯からの補充兵……か」

 

結局、報告以上の展望は見えず、ネス等は治療や資料の整理などの待機任務となった。

 

 

 

帰還兵が部屋を去った後、リヴァイがエルヴィンに語る。

「あの腰抜け野郎、立体機動や討伐技術はせいぜい並程度だ。サシならばヒネるのは造作もない。だが、班での模擬戦ではヤツには遂に一度も勝てなかった。あの指揮系統としぶとさ――」

 

「そしてあの金魚のフン――直情のメガネだ。ワケの分からん奇策を弄して、俺に狙いを定めさせない――あれも含めて実力だろうがな」

 

リヴァイなりに、彼らのことを認めているのだろう。エルヴィンは少し目を細めた。

 

「お前とは種類が違うが――彼らも間違いなく強い。今後のためにも戻って来てもらいたいが……」

 

余裕さえあれば、あるいは命令さえあれば――すぐにでも馬を駆り救助に向かいたいのはエルヴィンも同じだ。しかし、南征奪還作戦の甚大な被害と作戦失敗により、兵団上層部からの許可も下りなければ、そもそも救助に向かえるだけの残存兵力も無かった。

 

――だが、お前は必ず帰ってくる。待っているぞ、ベル……

 

エルヴィンは、膨大な資料の前で静かに目を瞑った。

 




●あとがき

野郎が苦戦して追われているシーンばかり書いていたら、反動で百合でも書きたくなってきました。ユミクリわっふる。

第1話から第4話までは、洞窟に至るまでの経緯です。
次回以降、時系列がエピローグ時に戻し、いよいよズッコケ三人組の地味な反撃が始まる……はずです。

お読み下さり、ありがとうございました!


●次回予告

生き延びた洞窟を拠点に、三人はできることを模索する。
静かに、反撃の狼煙を上がった。

次回、第6話 生存戦略(仮題)
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