調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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Interludeとは「幕間(まくあい)」という意味です。
物語を進める、というよりは、キャラクター達の内面を描いてみようかと。
会話パートのため、やや「」多めです(当社比)。

続きになります。

何かの折に、お読みいただければ幸いです。



第7話 Interlude

ヨルクとジンが黒金竹を細工している。筒を薄く削いで加工し、何本目かの簡易ブレードを製作するためだ。

 

「そう言えば知ってるか?超硬質ブレードは、元々アンヘル・アールトネンとゼノフォン・ハルキモが黒金竹を何度も精錬して――」

 

「で、あの伝説のキュクロ兵長やローザ隊長の時代には今よりも携帯できるブレードの替刃が少なくてな、それでも部類の強さを誇っていたんだ!そもそもあの時代の兵士たちは――」

 

「――確かに立体起動装置や超硬質ブレードなどの武器は進歩している。しかし、扱う人間の技術がどれほど進歩しているか――」

 

「彼らに直に薫陶を受けた最後の世代は、多分君んトコのピクシス指令やウチのキース団長くらいか――いや、時代だから仕方ないが、あの時代の、豪快かつ洗練された立体軌道やブレード捌き!今の兵団じゃなかなかお目にかかれるもんじゃない――」

 

――まぁ、俺も大概下手くそなんだがな。少し自嘲しながらヨルクは手を動かす。ベルンハルトもヨルクも気さくな人間だとは思っていたが、こんな少年のように目をキラキラさせて喋るものかと、ジンは改めて感じた。同時に、本来兵士としてよりも、技巧分野に喜びを見いだす男、それがヨルク・ゼクレスという人物なのだろうとも。実際、目潰しや氷爆石を利用した爆雷はじめ、この洞窟で生活をする上での道具や設備諸々、ヨルクの知恵と工夫に大きく助けられている。

 

「ヨルク班長は――技巧がお好きなんですね」

 

 

「そうだな、技巧の方が性に合うのかもしれない。しかしな、武器にせよ戦術にせよ、実際に現場で培ったものじゃないと机上の空論になってしまうだろう?だから俺は、技巧ではなく兵士になった。そのうち――身体が動かなくなったら、技巧をやりたいけどな」

 

団長やエルヴィン分隊長には告げ口しないでくれよ、と軽口を叩きながら、黒金竹の簡易ブレードを黙々と形成する。軽口を叩いたり、直情なところは見られるものの、その根底は誠実なのだろう。ジンはそう思った。

 

 

「――なぁ、ジン。そう言えば君は何で今回の調査に志願したんだ?」

 

ヨルクは手元から目を逸らさずに、ともすると独り言のようにジンに問いかけた。

 

「ほら、今回は駐屯からは志願制だったろう?戦闘はともかく、君の索敵や後方支援は優秀だった。まだ若いし、志願制とは言え、駐屯からの引き留めは無かったのか?」

 

ベルンハルトもヨルクも、ジンに関して、書類以上の情報は持ち得ていない。調査兵団としては思いがけず嬉しい人事ではあったが――

 

「いえ、俺なんて。駐屯兵団にも優秀な兵士は多く居ます。何より俺もこの国に心臓を捧げた兵士です。ですから――」

 

「――それは本音か?」

 

ジンの言葉を遮って、ヨルクが問う。若干の沈黙が二人を包んだ。

 

「――なんてな!済まない。人事からの書類によれば、君は去年のシガンシナ陥落の際、ご親戚を亡くしている。もしかして、その復讐にでもと……な。気を悪くさせちまったらごめんな」

 

「とんでもないです。実際、復讐っていうか……えぇ、俺の大好きだった遠縁の叔母さんは、シガンシナの襲撃で亡くなってしまって……叔父さんは行方不明で。その夫婦には子供が居るんですが、そいつが、『調査兵団に入って、巨人共を一匹残らず駆逐してやる!』って――」

 

「――そうか」

ジンは訥々と言葉を続ける。

 

「今は開拓地で、来年から訓練兵になると思うんですが……故郷がああいうことになる前はよく会っていました。弟みたいなもんで――」

 

「しばらく前、その子から、兄ちゃんは弱虫だ、駐屯兵団なんかに入ってのうのうと家畜のように暮らしていればいい、って言われてしまって」

 

「叔母さんの敵討ち半分、坊主に良いとこ見せたいってのが半分――か?」

ヨルクが苦笑いする。

 

「そう――なのかもしれませんね。自分でもよく分からないで志願していました。ただ、生きて帰ることができたら、今回のこと――調査兵団の凄さも、壁外へ出る怖さも伝えたい――そう思います」

ヨルクが上司としての顔ではないことが分かったので、ジンも包み隠すことなく自分の思いを伝えた。

 

「……なるほど」

ヨルクが優しく笑う。また二人は黙々と黒金竹の細工をした。

 

「あの……ヨルク班長は、その――調査兵団に所属した経緯って、あるんですか?」

今度はジンが尋ねる。

 

「俺か?俺はな、幸いなことに内地に家族も健在だし、復讐云々ってのは無いな。訓練兵のとき、ベルンハルト隊長に憧れたんだ――」

 

「シガンシナ陥落の前は調査兵団ものんびりしていてな。訓練兵団の講義なんかもかなり担当していたんだ。君も受けただろうが、戦術概論や調査概論や――あと何だっけな、とにかく、いくつかの座学を当時のベルンハルト隊長が担当していたんだ。まだ班長とか、それくらいの頃だったか」

 

「講義は分かりやすかったし、俺の疑問や質問――どんな馬鹿げたことでも真正面から一緒になって考えてくれた――」

 

――言ってみれば、俺の師匠だ。とヨルクは自慢気に話した。ヨルクが訓練兵団を卒業してしばらくしてから、基本的にはベルンハルトが所属する隊に所属しているということだった。実際にヨルクのことを、『金魚の糞』や『ベルンハルトの犬』などと呼ぶ者も居るが、当の本人にしてみれば、気にならない程度の雑音であった。

 

「確かに、ベルンハルト隊長は、周りが良く見えるし、状況判断も的確だと思います。それに、俺は直に受けたわけではないですが、駐屯兵団にも、ベルンハルト隊長の戦術概論を受けに行く兵だって居ますし――」

 

ヨルクはジンの言葉を受け、目を細めた。しかし、少し寂しげな目になり、こう続けた。

「――隊長はな、良くも悪くも、捨てられない人なんだ」

 

「捨てられない――?それは、どういう?」

ジンが尋ねる。

 

「ん、まぁ、そのうち分かるかもしれないし――分からなくてもいいさ。むしろ分からないまま終わってくれた方がお互いに幸せかもな」

 

ヨルクは「色々な話を聞かせてくれてありがとう」、そう言って黒金竹の加工を続ける。捨てないというのはどういうことかと聞きたくもあったが、それ以上聞いてはいけないような気がして、ジンも加工に戻った。

 

 

いつものように竹を片付けて、ベルンハルトとジンが寝床で就寝する。今夜はジンが野営の番をする。焚火の薄明りの中、誰に向けるでもなく、空に向かって呟く。

 

「おばさん、俺は生き抜いてみせるよ――」

 

 

---

 

ジンに野営の番を任せ、ベルンハルトとヨルクは寝床に横になった。

 

「おい、ヨルク、起きてるか?」

 

「――なんですか隊長」

 

「俺のこと、ジンに話したのか?何だか少し表情が違っていたが」

 

さすが隊長と思うと同時に、ジンは表情に出やすいのだなと再認識する。

「……少しだけ、話しましたけどね」

 

「お前――!」

珍しく、ベルンハルトが焦った声を出す。

 

「いえ、そんなに話はしてませんよ。ただ、『隊長は捨てない人だ』ってことだけで」

 

「――っ!…………まあいい――が、なぜ今頃になってそんな事を話したんだ?」

聞いても無駄だろうが、聞いてみる。

 

「これまでも、そしてこれからも命張ってく仲間でしょう。隊長がいつも言ってらっしゃる『情報の共有』ってヤツですよ……」

 

口には出さないものの、自分の身体の異常な回復に、ジンは内心戸惑っていた。訓練兵の時代に大怪我をして以来だ。その時は打撲と骨折で、外側からは見えなかったが、今回は目に見える形で『復元』してしまった。それ故に、ベルンハルトとヨルクに気味悪がられないだろうか、殺されるまで無くとも、拘束されて隅々まで解剖されるかもしれない――

 

そんなジンの戸惑いをベルンハルトもヨルクも分かっていたが、今ひとつ互いに踏み込めないでいた。北部調査の結末がこんな状況になってしまったのはまったくの不幸であるが、その中で一つだけ収穫を挙げるとすれば、一ヶ月ほど生活を共にするうちに、この三人の間に連帯感のような空気が生まれたことだろう。逆を言えば、その連帯感こそ、三人が「生きよう」とする意思の原動力なのだ。だから腹を割って話せる。少なくともそういう間柄になっていた。

 

「隊長……そろそろご自分を許しちゃどうです?」

 

ヨルクの問いかけに、ベルンハルトは答えることなく目を閉じた。

 

 




● あとがき

……この回、全体的にBLぽくね?いえ詳しくは知らないんですが。今更ながら女の娘を登場させれば良かった。男汁100%系地味小説ですね。アッー!

「版権の二次創作でオリ主(オリキャラ)を書く」ということは、何回かやったことはあります。公開したことはありませんが。傾向としては、アンチヒーローやピカレスク的なものが多かったと思います。

しかし、私にとってオリ主やオリキャラという存在は、作品世界に石ころを投じるようなものであります。それによって、前後関係とか背景とか、なるべく整合性を持たせたい――少なくとも大きく壊したくはない、と思うsoliquidです。今回オリキャラを三人も出してしまったので、それぞれのキャラの落としどころというか、お話の回収が難しいところです。

作品の世界観を壊すことなく、小さくても綺麗な波紋を添えることができれば幸いです。縛りプレイが続くような拙作ですが、何とぞ辛抱強くお付き合い頂ければ幸いです。



お読み下さり、ありがとうございました!




● 次回予告
黒金竹。氷爆石。そして、ほんの少しの知恵と勇気と覚悟。
彼らの持ち合わせはそれしか無い。

いや、それだけ在れば――少なくとも、絶望では無い。

亡霊部隊となった彼らの最初で最後の作戦。
――生を求め、壁内への帰還を試みる。

次回、第8話 進撃(仮題)
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