調査兵団亡霊部隊   作:soliquid

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走ったり。木に登ったり。今回も地味なアクロバット野郎共が頑張ります。

久しぶりに戦闘描写があります。ゲリラ戦かなぁと。地味ですが。

何かの折に、お読みいただければ幸いです。



第8話 進撃

壁内帰還作戦決行の前日。三人は、携帯食料、心ばかりの武器等の確認をしていた。

 

ウサギやヘビの肉を切り血抜きをし、天日に干した干し肉。ジャガイモやカボチャなどの根菜類を水で練って平たくし、同様に天日で干した乾燥食。

 

できうる限りの改良を重ねた、黒金竹製の投擲爆雷(グレネード)。超硬質ブレード、立体起動装置に加え、ブレードのホルダーには黒金竹を削り形成した簡易ブレードが刺さっている。一人あたり重さにして二十数キロ。重くなることを承知で、飲料水も携帯する。

 

経路も最終確認する。一日目は夕方から移動を始め、夜通し走る。明け方、日が昇る頃、森の中に潜伏し、夕方まで待機。この流れを二回繰り返し、三日目の明け方にローゼ領、ユトピア区付近の北壁にたどり着く。

 

もちろんこれは理想だ。巨人に遭遇する可能性はゼロではない。また、天候はどうしようもない。体力が奪われることを承知で雨天兵站を行うか、行程を一日遅らせても体力を温存するかは、その時の状況によって判断する。

 

出発当日。西日が眩しい中、三人はナイフで髭を剃った。何となくだが、最初で最後の作戦に向かう決意、あるいは、この一ヶ月と少しの期間を乗り越えた証というべきか――そういう思いがあったのかもしれない。

 

「――なぁ、世界は残酷だよな」

ベルンハルトが二人に向けて話す。

 

「そうですね、でも――美しいとも思いますよ」

ヨルクが答える。ジンは笑いながら髭を剃っている。

 

三人は、沈みゆく夕日を眺めながら、出発前に心を落ち着けた。

 

「では、行こう。この作戦の成功は、『壁内に帰還すること』――それだけだ」

 

---

 

――ガチャ ガチャ ガチャ……

  ――ザッ ザッ ザッ……

 

秋も少しずつ深まってきた季節、日が暮れるとすぐに宵闇に変わる。三人は黙々と森伝いに兵站行軍を開始した。立体起動装置とブレードホルダーの金属音、そして靴音。冷静で確実な進捗であった。

 

 

 

十三夜の月明かりが空をおぼろに照らし始めた頃、三人は森林地帯付近から街道へ移動し、道沿いに南下する。数時間後、最初の目的地まで歩みを進めた。北部調査の往路で拠点とした旧村に入る。

 

 

水を飲み、用便等を済ませる。万が一、何か残っていないか、設営跡地を探す。

 

「――班長、隊長、こんなものが」

 

往路で設営拠点とした建物内に、わずかな携帯食料と酵母、ブレードの替刃が数本置かれていた。そして、石で重しをされた手帳の切れ端が置かれていた。

 

 

『心ばかりの補給物資です。隊長もヨルクも必ず寄ると思いますから。我々は次のユトピア北壁の村にも補給物資を残す予定です(確実かは分かりませんが)。どうぞ ご武運を

△月○日 夕刻      北部調査部隊一同』

 

「あいつら――憎いことをしてくれる……」

涙を浮かべ、ヨルクがつぶやく。

 

「よし、食料とブレードを補給し、また出発しよう」

ヨルクもジンも力強く頷いた。

 

 

移動を続ける。月の位置が低くなる。あと数刻で朝だ。三人は、森林地帯の近くに移動し、引き続き南下する。街道では巨人に遭遇した際、丸裸になるからだ。森の中であれば身を隠すこともできる。また、最悪の場合でもグレネードや、満足に動けないもの立体機動を使える可能性もある。

 

 

まだ北壁からは遠いので、このような移動ができる。しかし、北壁に近くなればなるほど、北部山岳の森林地帯からは遠ざかるため、移動最終日には、街道を突っ切るしかない。

 

 

東の空が白み始めた。朝が近い。三人は森林の中に入る。針葉樹が多いが、広葉樹も程よく混じった雑木林。枝が横に張り出す広葉樹は、天然のバリケードとも言える。なるべく広葉樹が繁茂する場所を選んで、休憩拠点とする。

 

「――立体機動で移動する」

 

ベルンハルトが静かに指示を出す。アンカーを打ち出すほどのガス圧が無いので、アンカーの先端を直に手に持ち、樹木から太く張り出している枝に向けて、ワイヤーが巻き付くように投擲する。この練習も、洞窟での期間中に何回も行った。

 

クルクルとワイヤーが太い枝に巻かれた。そして立体機動のガスを蒸かしてワイヤーを巻き取る。プシュッ、という音が排気孔から断続的に出て、ゆっくりとワイヤーが巻き戻る。ボンベの中は精製していない氷爆石なので出力は低い。戦闘には堪えないものだが、移動程度には使える。この森は巨大樹ではないので、三人が同じ枝に乗るわけにもいかない。隣り合う、あるいは近接した樹木を選び、十メートル程度の高さで、樹木の枝が分岐しているような安定した場所に身体を収めた。

 

「――――ふぅ……」

ジンが安堵の溜息をつく。ひとまず一日目の行程は予定通りに終わった。既に朝日が昇り、木々の隙間から木漏れ日が差す。

 

「各自、装備解除せずに休息。巨人が来たら対処しよう。まずは私が番をする」

「了解です。巨人が来ればどのみち足音で分かってしまいますけどね」

「すいません、じゃあ休ませていただきます」

 

ヨルクもジンも眠れはしないが、目を閉じ出来る限り身体を休めた。

 

 

---

 

 

「――おいジン、起きろ、お客さんだぞ」

 

ヨルクの声がする。気を張っていたにも関わらず、浅い眠りに落ちていたらしい。ジンは慌てて目を覚ます。七メートル級程度の巨人が一体、近くまでやって来ている。距離にして百メートルといったところか。遮蔽物が多く、向こうはまだこちらに気付いていないようだ。できることならやり過ごしたい。

 

気付かれないよう、できるだけ声を立てない。動かない。しかし――

 

「――気付かれた、か」

 

巨人と目が合う。昼の強い木漏れ日に照らされ、姿が明らかになる。寸胴で手足がやや短い印象を受ける。こちら側に来る意志を見せるものの、張り出した枝に邪魔され、うろうろしている。個体差はあるだろうが、今回の巨人は、枝を払うなどの概念は持ち合わせていないようだ。休息を森林地帯に選んだのは正解だった。

 

「ヨルク、爆雷を」

「――既に」

ヨルクは、三節棍やヌンチャクのように数本の黒金竹を繋いだ構造の爆雷――爆導索(ばくどうさく)を背負い袋から取り出す。

 

「ジン、目つぶしを」

「はいっ……!」

 

指示を出しながら、ベルンハルトもブレードを構える。同時に三人は巨人から遠ざかる方向へ生えている別の木の枝にアンカーを投げ、ワイヤーを絡ませた。

 

うめき声を上げながら、巨人が近づいてくる。仲間は居ないようで、呼ぶような素振りも見せない。短い腕だが、伸ばせば樹上の三人に手が届きそうだ。どうやら一番近いヨルクに照準を合わせているらしい。

 

 

もたつきながらも、巨人はついに樹下まで近づいた。ヨルクの方へ顔を向け――

 

瞬間、ジンが投擲した数個の目潰しが巨人の顔に当たり、内容物が飛散する。確認次第、ヨルクが声を張り上げる。

 

「――五秒!!三本!!着火ァ!!」

 

ヨルクが三連爆導索の導火線に点火し、巨人に投げ付ける。同時に、三人は立体機動であらかじめアンカーを巻き付けておいた樹木に移動を開始する。巨人は視界を奪われ、両手で目をこすっている。

 

(((四、三、二、一……)))

 

 

バンッ!!

 バンッ!!

 

 

破裂音のような爆発が起こる。膨張爆発で飛散した黒金竹。そして気化熱。振り返ると、巨人は前のめりに倒れ、頭部および両腕は爆砕され、上半身の皮膚はどろどろに溶けている。そして黒金竹の破片が焼けただれた肉に幾つも刺さっている。通常の生物であれば即死間違いない。

 

しかし相手は巨人である。三人は爆発後の様子を注視する。死んでいるのであれば動かなくなり、蒸気を出して消滅するはずだ。判断材料は手足だ。生きているのであれば、痙攣反応の後、何かしら意志を持った動作に切り替わるはずだ。

 

ベルンハルトは両手にブレードを構えたまま、すぐさま立体機動装置のワイヤーを地上に垂らし降下する。

 

――巨人がピクリと動く。うなじの部分は正確には見えないが、仕留め切っていないらしい。ベルンハルトが疾走し、黒金竹の簡易ブレードでうなじ周辺を攻撃する。肉を削ぎ、抉り、掻き取り、斬る。綺麗に削ぎ取るというようなものではない。滅茶苦茶に破損させる。

 

痙攣していた巨人の動きが止まった。蒸気を出し、形が崩れる。討伐できたことを確認し、すぐに立体機動で樹上に避難する。

 

「はあっ……はあっ…………」

ベルンハルトの息が荒い。立体機動を駆使せず巨人を倒すなど、訓練でさえ行ったことは無い。三人は洞窟での避難生活中に爆雷を用いた討伐戦術を何度も練習はしたが、実際に巨人を相手にするのは今、この時が初めてだった。前時代の英雄譚や御伽話の中での話を実際にやってのけた三人だが、緊張と恐怖は幾許のものだっただろう。

 

 

「……勝った――――」

ジンが生唾を呑む。

 

「……隊長、怪我は?」

「大丈夫だ。だが、爆発やら何やらで嗅ぎ付かれてはまずい。場所を移そう」

 

三人は、再び静かに移動し、森の奥へ入っていった。

 

 




●あとがき

終盤に差し掛かってきました。
特に派手な見せ場もありませんでしたが、次回は大立ち回りを予定しております。

ヨルクさんが投擲爆雷を改良し、爆導索を作りました。なにせお手製なんちゃって爆雷なので、ひとつだけだと、導火線に点火しても何らかの不具合で不発の可能性があります。いくつか繋げて、火を付けた筒のいずれかが爆発すれば、隣り合う爆雷も誘爆するのでは?という仮説を立脚点とし、制作をしました。どかーん。

私の中ではヨルクさんは既にキテレツ君です。じゃあジンはコロ助ナリか!?

お読みいただき、ありがとうございました!


●次回予告

――ウォール・ローゼの壁が見える。

手を伸ばせばすぐ届くような。
しかし、其処に至るには実に遠い。

爆雷も水も食料も尽きかけた中、
三人は死力を振り絞り、ただひたすらに、趨(はし)る。


「――ごめんな」


誰が言ったのだろうか。
静かな、決別の言葉。

次回、第9話 永訣(えいけつ)
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