魔法少女育成計画 -Deicide Side-   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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*** 第三章 選択する以上は決断する必要がある ***

◆シルヴェストリ

 

 死ぬのだと思った。後悔を抱えたまま、失敗をしたまま、自分は、ここで、無残に殺されるのだと思った。覚悟を決める暇もない、ただ、怯えて、震えて、嘆いて、叫んで、後に残るのは、ただの愚かな娘の死体だけなのだと。

 だから、反射的に閉じた目を、数秒後、恐る恐る開くまで、何が起こったかわからなかった。

 襲ってくるはず痛みや熱さはなく、感覚がわからないほどに傷ついたわけでもない。

 

「フルルルル……」

 

 リルフェンは、シルヴェストリより数メートル、離れた位置に移動していた。

そこに、余裕綽々だった彼女の表情はない。豪奢な着物が汚れる事を厭わず、地面に両手をつき、喉を鳴らし、耳と尾を逆立てている。

 

(警戒、してる……?)

 

 何をだろう、と思うのと、答えが来るのは同時だった。

 

「やあやあ、お待たせしたのだね。大分時間がかかってしまったよ、いやあ魔法の国も人が悪いのだね。結界を張るなら教えてくれればいいのに。あと十分帰ってくるのが遅かったら、今頃ぺちゃんこのぐちゃんこだよ」

 

 聞き覚えのある――本来は、絶対聞きたくはなかったが、今、この場で、という条件付きならば、これ以上、安心できる要素はない人物の声だった。

 

「さて、久しぶりだねリルフェン、ユーコは元気? まだ元気に悪巧みしてる? あはは――――目当てはリップ・ロップなのかな」

 

 右目に小洒落たモノクルをつけて、パイプをぷかぷかとふかし、ブラウンのチェック柄のマントを羽織った――魔法少女。

 

「ええ、元気や、元気やよ。お察しの通り、リップ・ロップを貰いに来たんや」

 

 その魔法少女は、自分に向けられる怒気も唸り声も気にすることなく、シルヴェストリと、唸るリルフェンの間に立ちはだかった。

 

「フェ、フェスティ=バル……」

「はい、お久しぶりだね、シルヴェストリ」

 

 魔法少女フェスティ=バル。D市の魔法少女達の管理者にして、ミラクルまりりんとシルヴェストリの天敵。

 

「さてリルフェン? 選ばせてあげるのだよ、君に」

「……なんやって?」

「今、この場で、尻尾巻いて逃げる(、、、、、、、、、)か、私にぶち殺される(、、、、、、)かを選ばせてあげるって言ってんだけど、わからないかな、やっぱり畜生には」

 

 どれだけ愚鈍な人間だろうとわかる、明確な挑発だった。リルフェンの殺気は膨れ上がり、シルヴェストリはその瞬間、獣に喉笛を噛みちぎられるイメージを抱いてしまった。リルフェンが襲い掛かってきたら、実際にそうなるであろうことも確信したし、だから、フェスティ=バルは不遜な態度を崩さない事が、自殺行為に思えて仕方ない。

 

「……………………ええわ」

 

 だが、リルフェンは、手を地面から離し、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ウチ一人でやらかしたら、ユーコに怒られてまうからなあ……ええよ、退くよ」

「へえ? 随分と賢くなったものだね、ご主人様にちゃんと教育してもらえたのかな?」

 

 ギリ、と口元を歪めるリルフェンの憎悪。その感情は、フェスティ=バルには勿論、狩猟寸前の獲物であったシルヴェストリにも向けられている。それだけで息が詰まる。

 

「――次は殺す」

 

 びゅんっ、という擬音を、初めて聞いたかもしれない。リルフェンは、シルヴェストリ達に背を向けた直後、四足歩行の姿勢で駆け抜けて――――

 

「――――ただ、こいつはもろていくわ!」

 

 その一呼吸で、ターンして、こちらに向かってきた。一瞬気を緩めてしまったシルヴェストリは、その動きに対応できず、フェスティ=バルは自分に向かってくる攻撃に対しては、予想していたのだろう、構えを取っていた。だが。

 

「はっ!」

 

 リルフェンは、そのままフェスティ=バルに向かわず、横にずれて、コンビニの店舗に突っ込んだ。何をしているのだ、と思う間も無く、片腕に何かを抱えて飛び出して、叫んだ。

 

「あっはっはっはっは! 油断したねぇフェスティ=バル! ほなまたねぇ!」

「――――茉莉菜ちゃんっ!?」

 

 傷だらけの、萩茨茉莉菜(はぎばらまりな)だ。負傷して、姿を消して、何とかコンビニまで這いずって、そこで力尽きて、変身が解除されたのだろう。生きているのか、死んでいるのかもわからない。リルフェンは、それを鼻で嗅ぎつけていたのだ。魔法さえ解ければ、ミラクルまりりんは何者からも隠れられない、ただの少女になってしまう。

 

「っ!」

 

 とっさに身体が追いかけようとしたが、フェスティ=バルに遮られた。間に阻むように立ち、走り去るリルフェンの背を睨みながら。

 

「駄目だ、アイツの足には追いつけないのだよ」

「でも、でも茉莉菜ちゃんがっ!」

「大丈夫、殺されはしないのだよ。……もうちょっと厄介なことになるかもだけど、助ける機会は多分ある」

 

 言いながら、マントの下をゴソゴソと漁って、手のひらサイズの機械を取り出した。

 

「ファズ、通信は使える?」

 

 声に反応したのは、見覚えのあるマスコットだった。この地域を管理している、シルヴェストリ達にリップ・ロップの様子を見に行くように依頼した、ファズだった。

 

「駄目だね……ぽん。このエリアだと、端末に接続できないようだ……ぽん」

「そっか……うん、じゃあ、魔法少女の反応を追うしか無いか。レーダーは使えるんでしょう?」

「範囲は普段より狭いけど、出来るよ……ぽん」

「じゃあ、サーチ宜しく。とりあえず、集まれる戦力で集まったほうが良いからね。……大丈夫? シルヴェストリ。怪我はない?」

 

 差し伸べられた手を、シルヴェストリはとることができなかった。ただひたすら悔しくて、涙が溢れるのが止まらない。

 ミラクルまりりんが傷ついたのも、拐われたのも、全部、シルヴェストリのせいだ。

 彼女の言うとおり、何も見なかったことにして、帰ればよかったのだ。何も出来ないシルヴェストリが居なくても、フェスティ=バルみたいな魔法少女が、解決してくれるに違いないのだから。

 自己嫌悪に苛まれ、自らの身体を抱いて嗚咽を漏らすシルヴェストリを、フェスティ=バルは何も言わず、ふぅ、と息を吐いて、その肩を抱いた。

 

 

 

◆デスクイーン57世

 

 空中を飛び回る相手に対して、言うまでもなく有効なのは、遠距離攻撃だ。よって、威勢よく啖呵を切ったは良いものの、ふわふわと宙を舞うユーコに対して、ガンガンと銃をぶっ放しているのは専らのえるちゃんだった。

 

「くっ!」

「クイン先輩っ!」

 

 見えている所ならば、どこにでも着弾させることが出来るのえるちゃんの弾丸は、その理屈上、相手と離れていれば離れているほど効力が増す。だからユーコは距離を取る、という安全策を封じられ、接近を試みることになる。

 

「はぁっ!」

 

 だが、のえるちゃんに接敵はさせない。デスクイーン57世は杖を片手に、伸びた手を薙ぎ払い、打ち払い、斬り払う。矮躯の小さい素手のユーコと、手足の長い武器持ちのデスクイーン57世では、リーチが違う。

 

「これで……っ!」

 

 弾丸がユーコの片翼の根本に命中して、引きちぎる。その衝撃にたじろぐ間に、杖の頭で顎をかち上げて、返す反動で後頭部にも一撃叩き込む。

 傍から見ていてもわかる、一分の無駄もない洗練された動作だった。棒を回転させる勢いとテコを利用して、あんな細い杖で、どうやってるんだろう、と思うぐらい、凄まじい勢いでユーコが地面に叩きつけられ、ぐしゃりと硬いものが砕ける音がした。

 

「…………」

 

 そこまでやって尚、デスクイーン57世の表情に、余裕はなかった。警戒を解けず、頬を伝う汗を拭う暇もない。

 むくり、とユーコが起き上がった。頭蓋骨が陥没して、キレイな顔は血と、こぼれ出た何かによって赤く染まっていた。

 けれど、それも少しの事だ。無造作に手をかざして、離すと、もうそこには何の傷もない、元のユーコの顔が戻っていた。ちぎれたはずの翼も、塵が集まるように再形成されて、再びばさりと羽ばたいた。

「思ったよりは仕込まれているようだ、棒術の類かね?」

 

「――不死身かよっ!」

「そうだとも、私は不死身なのだよ、つまり、君達では抗えない、ということだ」

 

 タン、と軽い音がして、ユーコの額に穴が空いた。デスクイーン57世の背後から、のえるちゃんが銃を撃ったのだろう。魔法少女の武器であるそれはユーコの頭を割砕いたが、今度は膝をつく前に、すぐに元に戻ってしまった。

 

「だから、無駄だと言っているのに」

「~~~~~~~~~っ!」

 

 のえるちゃんが、銃を乱射した。多数の弾丸が、一斉にユーコに襲いかかる。

 だが、ふん、と鼻で笑うと、ユーコは顔だけを腕で守り、あとはそのまま受け入れた。身体を貫通してゆく弾丸、流れる血、すぐに塞がる傷。頭部さえ破壊されなければ、撃たれた所で問題なく、活動出来るのか。

 

「気は済んだかね?」

 

 加えて、デスクイーン57世が、のえるちゃんと朱姫を守るように前に立つ以上、ユーコが踏み込んできたら、もう銃撃の支援ができない。ユーコが小さすぎて、近接戦闘の速さに、のえるちゃんの魔法がついていかないのだ。

 

 見えているなら当たる、というのは、見えていなければ当てられないという意味なのだ。

 いくら撃っても、いくら打っても、ユーコには効かない。もとい、通じるけれど、すぐに治ってしまう。これがユーコの魔法なのだとしたら、向こうが本気で捨て身になったら、いつか根負けするのはこちらだ。集中力が欠けた瞬間、掴まれる。殴り合いで負けるつもりはないが、それはちゃんとKO勝ちができる勝負なら、の話だ。

 

 相手にHPがない様なボスのことを、負けイベントというのだ。

 

「はは、さて、散々なめた口を聞いてくれた者に、私はどう応じるべきかな。謝罪をすれば許す、と寛大な心を見せるべきか。それとも二度と逆らえぬよう、徹底的に蹂躙して、立場をわからせてやるべきかな?」

「ここいらで一旦帰って二度と姿を見せない、なんてのはどうよ」

 

 反射的に軽口を叩いてしまった。ユーコは笑みを深くして、告げた。

 

「いいだろう、手足を引きちぎってから考えるとしよう」

 

 両手を広げた、来る。

 戦い詰めで、集中力が鈍っているのを実感している。稽古ならともかく、命のやり取りを、実際に、魔法少女のスケールで行うことが、これほどきついとは思っていなかった。それでも、一手間違えれば、相手はダメージを無視して詰め寄ってくるだろう。一度掴まれたら、恐らく対抗出来ない。確実に、触れられる前に、体の動きを予測して、全て叩き潰し、全て叩き落とすしかない。

 

 父親の言うとおり、もっとちゃんと訓練しておくべきだったかもしれない。怪我を覚悟で、命がけで。そうすれば、多少は度胸もついただろうに。いざという時に、その必要性を感じても、もう遅い。

 

「ストーップ、ですわ!」

「っ!?」

 

 その時、デスクイーン57世は、反射的に余所見(、、、)をしてしまった。

 戦いの最中、絶対にしてはならない行為だ、それでも、そちらに気を取られてしまった。見なければならない、注視しなければならない気がした。

 そしてそれは、ユーコも同様だった。

 

「――魔法少女か、新手かね?」

 

 攻撃動作を中断し――デスクイーン57世と同じ場所を見ていた。

 

 

 

 

◆愛死狂

 

 愛死狂達がその場にたどり着いた時、、魔法少女同士での交戦が、既に始まっていた。即座に魔法を発動してもらい、視線がプリマステラに集中する。

 

「愛死狂さん、どちらが敵ですの!?」

 

 その問いに答える暇もなく、愛死狂は駆け出していた。

 プリマステラの魔法は、視覚と知覚、二つの要素において自らを目立たせる。

 言い換えれば、見なければ視線を引き付けられない、気配だけでも気を取られてしまうのが恐ろしいところだが、そのあたりは、プリマステラ本人がある程度ならば対象を調整できる、というので、愛死狂は自らをターゲットから外してもらった。後方が物凄く気になるが、我慢できないほどではない。

 

「ユーコっ!」

 

 ある程度近づいた所で、愛死狂は唇に指をあてがった。人差し指と中指の二つを押し付けて、ちゅっと前に離す、所謂投げキッスの仕草だ。

 それが、空気を、導火線が火を通るように、細く、しかし一気に凍らせて、ユーコに向かって一直線に飛んでいった。

 

「っ」

 

 狙いは顔だったが、少し逸れた。びし、っと凍結した自分の足を見て、ユーコが何かに気づいた。

 それでも、愛死狂の存在にはまだ気づけない。プリマステラの魔法の本質は、相手がプリマステラに注目することで、他の動きを気づけなくする事だ。コンビプレイをするならば、これ以上便利な魔法はない。

 

「――――――ちぃっ!」

 

 だが、ユーコの行動は、愛死狂の予想を、数段上回った。愛死狂がユーコにたどり着く、その数秒で、自らの指で目を潰し、続いて足を強引に持ち上げて、砕け散らせながらも、拘束から逃れた。愛死狂が第二撃を放つ寸前で、腰の翼で一気に飛翔して、建物の上に降り立った。

 

「!」

「――この魔法は、愛死狂(アイシクル)か、久しいね」

 

 その場に居た、全員が、ユーコを見上げる形になった。潰れた瞳は、もう元に戻っていて、砕けた足は、再生していた。

 

「ユーコ、あなた……」

「酷いことをするものだ、かつての友にして同志に。いや、違うか、元々私達は、敵同士だったね。君は紅(、、、)で、私は竜(、、、)だった」

「その魔法、どうやって……っ」

「我々はリップ・ロップを手に入れるよ、次は本気で処理させてもらおう」

 

 問いかけには答えがなく、ユーコはそのまま飛び去ってしまった。

 残された魔法少女たちは、困惑しながら、あるいは動揺しながら、顔を合わせるのみだ。

 

 

 

◆のえるちゃん

 

 展開に脳みそが追いつかない。良い事か悪い事かで言えば、よくはないだろう。状況を素早く理解し、適切な行動をしなくては、後輩として立つ瀬がない。

 

「先輩っ、大丈夫ですかっ?」

「うん、おかげさまで……ありがとね」

「いえ、私は、あんまり役には……あっ」

 

 のえるちゃんが背後に守っていた朱姫が、ばっと飛び出して、デスクイーン57世にくっついた。ぎゅっと足にすがりつくようにしがみつき、そのまま離れようとしない。

 

「こ、こらこら、朱姫ちゃん、クイン先輩はですね、今戦いのあとですっごい疲れてますから……」

「んー……っ」

 

 木にしがみつくコアラか何かのように、ギュッと手足を巻きつける。テコでも動こうとしない。まあ、確かに、怖かったのだろうとは思うが……。

 

「大丈夫だよ、のえるちゃん。あの人達は、その……」

 

 デスクイーン57世は苦笑しながら、朱姫の頭をなでて、そして、現れた新たな魔法少女たちを見やった。

 

「味方、でいいのかな」

 

 尋ねた先には、三人の魔法少女が居た、うさみみフードに、お姫さまに、アイドル、三者三様と言った具合だが、返答には誰も答えない。

 いや、答えないというか、フードとお姫さまが、アイドルをじぃっと見て、アイドルは『え、私? 私ですか!?』と何かしら叫んでから、肩を落として、近寄ってきた。

 

「その、あなた達が私達の敵ではないのなら、味方のつもりです、はい」

「敵対したくはないんだけど……えっと、私はデスクイーン57世、こっちは後輩ののえるちゃん、D市で魔法少女をやってます」

「あ、現地の魔法少女でしたか……私は胡桃咲ラヴ、あちらは同行者のプリマステラさんと、愛死狂さん、所属は《天使の祝福(エンゼルブレス)》です」

「それって、さっき、ユーコが言ってた……」

 

 のえるちゃんも、流石に覚えていた。ユーコが口走った名前だったはずだ。

 そして、バツが悪そうに目をそらす、胡桃咲ラヴの顔を見ると、何かしら、複雑な事情がありそうなことは、のえるちゃんにもわかった。

 

「あ、そ、その前にですね、もしかして、お二人のどちらかは、治療系の魔法が使えたりはしませんか?」

 

 何かしらの期待を込めて、主にデスクイーン57世に詰め寄る胡桃咲ラヴ。のえるちゃんは、両手に銃を持っているので、違うと判断されたのだろう。

 

「ご、ごめんなさい、精神的にならともかく、物理的にはちょっと……」

「そう、ですかぁ……あああ……」

 

 ぐったりと肩を落とす胡桃咲ラヴ、よく見たら、首に包帯を巻いていて、じんわりと、血が滲んでいる。大した怪我ではなさそうだが、痛いのだろうか。

 

「胡桃咲さん、ちょっといいですの?」

 

 プリマステラ、と呼ばれた魔法少女が、手を上げて近寄ってきた。先程、デスクイーン57世やユーコのみならず、のえるちゃんも目を奪われた、お姫さまのような魔法少女だ。

 

「ええ……どうかしましたか、プリマステラさん……」

「ファムが何か報告があるそうで、聞いてもらっていいですの?」

 

 言いつつ、取り出されたのは、なんと、管理者用の魔法の端末だった。のえるちゃん達が持っているものよりも、機能も頑丈さも優れていて、これがマスコットの本体なのだ……と以前フェスティ=バルに聞いたことがある。

 

『はじめましてぽん。僕はプリマステラのマスコット、ファムだぽん』

 

 現れたのは、のえるちゃんもよく知る、ファズに瓜二つのマスコットだった。

 

「仮、というか、お借りしているだけですけどもね。私の専属じゃありませんわ」

『とりあえず、このミッションでのマスターはプリマステラだぽん、ええとね、近場の魔法少女の担当マスコットと、連絡がとれたぽん、今、魔法少女が二名、こっちに向かってきてるぽん。治療ができる魔法少女も、一緒みたいだぽん』

「ほ、本当ですかぁっ!?」

 

 胡桃咲ラヴは、ぱぁっと目を輝かせた。端末を掴んでがっしがっしと揺すると、ファムの映像があばばばばばば、と叫びながらノイズで乱れまくった。

 

「落ち着いてくださいな、これぐらいなら一日ぐらいは持ちますわよ」

「余命一日で落ち着ける人はもう人間じゃないですよ変な人ですよっ! あああ……よかった、よかったぁ……」

「治るとは、限らないと思うけど……」

「なんてこと言うんですか愛死狂さああんっ!」

 

 大暴れするアイドルを横目に、のえるちゃんとデスクイーン57世は、顔を見合わせた。

 

「治療が出来る魔法少女……」

「……それって、もしかして」

 

 仲が良くない相手なのだが、どうすればよいのだろうか。

 

 

 

◆ユーコ

 

「ご苦労だったね、リルフェン、切子」

 

 石化した人々が溢れる、小さな家具屋に、ユーコ達は居た。売り物のベッドの上に我が物顔で腰を下ろし、不機嫌そうに尻尾を丸めてすねたリルフェンの頭をなでてやる。

 

「フェスティ=バルも《天使の祝福(エンゼルブレス)》も動いていた、か。どうする? ユーコ、直にリップ・ロップを狙いにいくか?」

「それも手だが、危険な要因は排除したい、それと、手駒もほしい。あと何匹かは、魔法少女を拐いたいね」

「なぁに、ウチの狩りの結果だけじゃ満足できへんの?」

 

 リルフェンの大きな尻尾が、ばた、ばた、と揺れた。口ではそう言うが、要するにもっと褒めろ、もっとかまえ、という合図なので、ユーコは顎を苦笑しながら、顎をなでてやった。こやん、と喉を鳴らして、とたんにおとなしくなる。

 

「あれはあれで使い手があるさ、メイククイーンの様に上等には行かないけどね」

 

 リルフェンの狩ってきた獲物――魔法少女は、びくびくと痙攣しながら、床に転がされていた。全身をずたずたに切り裂かれ、右目には空洞が出来ている。出血量も多く、今すぐ死んでも、何らおかしくはないのだが、ユーコ達はそれに頓着する素振りを見せなかった。

 

「しかし、愛死狂がいるとはね、はは。懐かしいものだ」

「捕まえて、従えるか?」

「それができれば理想的だね、彼女は強い。災厄と最悪を除けば、真紅の軍勢の中では随一だった――が、無理は禁物だよ、私と違って(、、、、、)君達には限度と言うものがある、死なれたら困るのでね」

「心得てるさ、何、二人は始末したも同然だ、なんなら、一晩潜伏してもいい」

「無理だと想いますけどなあ、フェスティ=バルがいるっちゅうことは、マスコットもおるやろ? 魔法少女の探知ぐらいできるんとちがうん?」

「探知の届かない距離を保つのは、まあ簡単だがね。手間もかかるし、逃げるのも癪だ。ここは素直に蹂躙してやろうじゃないか」

 

 ユーコは立ち上がって、ミラクルまりりん……萩茨茉莉菜の体に足を開いてのしかかり、邪魔な髪の毛を退かした。無防備な、穢の知らない、白い首筋が顕になる。

 唾液で濡らした舌を、ゆっくりと這わせ、皮膚を湿らせてから、口を大きく開けた。鋭い二本の犬歯が、根本までずぶりと、茉莉菜の肉に突き刺さった。

 

「ぎゅっ、ぐっ、ごっ、がっ」

 

 痙攣が一層激しくなり、声ではなく音が喉からこぼれ出る。カッと目を見開き、全身が張りつめたように硬直し、それでもユーコは、グリグリと牙を押し付け、溢れる血を舐め取っていく。

 かつて自分達がされた光景を思い出すように、リルフェンと闇影切子は、その姿を楽しそうに見つめていた。

 

 

「さて――あとは、そうだな」

 

 仕込みを終えたユーコは、くるりと振り返る。

 

「君達にも働いてもらおう――頼んだよ」

 

 その背後に並ぶ――――二十を越える魔物たちが、頭を垂れた。

 

 

 

 

◆シルヴェストリ

 

 他の魔法少女たちと合流して、相談場所としてカラオケボックスに入り、真っ先に頼まれたのは、怪我の治療だった。大した傷には見えないが、魔法の影響で塞がることがなく、放っておけば死に至るのだと言われ、慌てて大部屋から隣の部屋へと移動し、治療に取り掛かった。

シルヴェストリが水をかけると、闇影切子によってつけられた、癒えないはずの魔法の傷口は、肉と肉が少しずつくっついて、ゆっくりと塞がっていった。胡桃咲ラヴに至っては、生命が助かった安心感からか、その場で泣き始めてしまった。

 

「その、もう、大丈夫だと、思います」

「本当に、ありがとうございましたわ。傷口が塞がらない、って厄介ですわね。流石に痛みが響いてきた所でしたわ」

「いえ……その、でも……」

「? どうかなさいましたの?」

「あの、私がいるから、その魔法少女相手は大丈夫……とは、思わないで、欲しくて」

 

 自分の魔法に関わるからか、若干言いづらそうに、シルヴェストリは目を伏せた。

 

「私の魔法は、自分の生命を、分け与える魔法、です。普通のかすり傷なら、私にも、そんなに、負担は無かった、ですけど……」

「……この傷を治療するのには、それなりに代価が必要だった、ということですの?」

「その……はい、普通、この量で、人を治療するなら、末期がんが、全身に転移してるとか……胴体が真っ二つになってる、とか……そういう、大怪我、です。多分、今ので、私の寿命……年単位で、減ったと、思います」

 

 シルヴェストリは、水を汲む際に、それがどれだけ自分の生命を削るのかが、何となく分かる。そして、他人の傷が、どれほど深く、どれほど生命に影響を与えていて、どれぐらいのトレードをすれば癒せるのかもわかる。魔法に連動した、一種の超感覚とも言うべき能力だ。

 

「……申し訳ありませんでしたわ。立場上、それでも助けてほしい、ということにはなったと思いますけれど、軽率にお願いして良いことではありませんでしたわね」

「い、いえ……私も、まりりんを助けたい、から……だから、手伝って、貰えれば」

「わ、私も精一杯、協力しますから、ふ、ふえええ……」

 

 恐らく、生きている者の、『生命』という曖昧な概念を、直接傷つける魔法なのではないだろうか。人間は(そして魔法少女だって)新陳代謝によって細胞が、死んでは生まれることで生きて行く。その正常な機能を破壊するのだとすれば、まさしく一撃必殺の、殺すためにしか存在しない、恐るべき魔法だ。

 

「傷の治療は、もういい?」

 

 頃合いを見計らって、愛死狂が現れた。シルヴェストリは初対面の相手なので、ぺこりと頭を下げると、愛死狂は、口元を小さな笑みの形に変えた。

 

「ありがとう、仲間を助けてくれて」

「あ、いえ、そんな……」

「私のせいだった、私は、闇影切子の魔法を知ってたのに。私のミスで、傷つけてしまったのに、その尻拭いをさせてしまった」

「その言い方はないですわよ、自分の怪我は自分の責任ですわ。私がそもそも、先走ってしまったからですの」

「そ、それを言うと私はそもそも人質に取られてしまったわけで……」

 

 お互い、責任を背負い合おうとする魔法少女たち。シルヴェストリはそれが、なんだかとても温かいものに感じた。

 

「仲が、いいんですか?」

「いや、初対面。けど、目的は同じだから」

 

 愛死狂は首を横に振った。

 

「私達の仕事は、リップ・ロップを連れ帰ること」

「え、ええ、そうです。【熾天使(セラフィム)】の指示です」

 

 胡桃咲ラヴが肯定した、だが、愛死狂は言葉を続ける。

 

「そう、だから、この街の問題を解決すること(、、、、、、、、、、、、、)は含まれてない」

 

 人々の石化と、魔物の跳梁跋扈。《天使の祝福(エンゼルブレス)》の面々にとって、解決課題ではない。

 

「え……こ、この街は、じゃあ、どうなるん、ですか」

 

 シルヴェストリからしてみれば、やっと現れてくれた、頼れる援軍だ、けれど彼女たちは、その希望にはなりえない、と言い始めた。

 

「わからない、少なくとも、私達に責任がある問題じゃない。ユーコ達は私達の敵でもあるから、あなたの友人を助ける事には協力する。だけど、その先の事は知らない」

「そんな……」

 

 シルヴェストリにとっては、D市は生活の拠点であり、家族が暮らす場所であり、これからを過ごす土地であっても、外来の魔法少女からしてみれば、そんなことは、全く関係がない。そういうことだ。

 

「そう仰るのでしたら、私、《天使の祝福(エンゼルブレス)》をやめさせていただきますわ」

 

 しかし、プリマステラが、あっさりとそう告げた。胡桃咲ラヴは、え? え? え?と目を白黒させるばかりで、シルヴェストリと同じく展開について行けていない。

 

「【熾天使】の指示に逆らうの?」

「そもそも、私は新人ですし、この仕事が初任務ですもの。報酬も何も受け取ってませんし、負い目も引け目もありませんわ。この事態を放っておけ、という方が無茶でしょう」

 

 それは魔法少女としては極めて正論で、故に力強い言葉だった。愛死狂は、はぁ、と息を吐いて、胡桃咲ラヴを見た。

 

「ラヴ」

「は、はい、なななな、なんですか」

「メンバーが一人勝手に抜けるのと、言われてなければ報酬もない、余計なことをしたと評価に響くかもしれない仕事をするの、どっちがいい?」

 

 カチン、擬音付きで、胡桃咲ラヴの動きが固まった。シルヴェストリとしては、もう成り行きを見守る他ない。

 

「愛死狂さん、口づけなしでも、人を凍らせられるんですのね」

「うまいこと言った」

「言えてますかしら」

 

 のんきに会話する二人を尻目に、全ての決断責任を押し付けられたアイドルはそれどころではなかった、ああああ! とか うううう!とか奇声をあげては悶える、を繰り返し、数十秒の間じっくり悩んで、それから口を開いた。

 

「……わ、私は、《天使の祝福(エンゼルブレス)》の人間です、リーダーを任されて、仕事をしろ、と言われて、ここに来たわけで……」

 

 何かに言い訳するように目を閉じて、むむむぁー! と悲鳴があがった。

 

「でも、何が正しいかぐらいはわかりますよ! もうっ! ついでになんとかしちゃえばいいんです、ついでにっ! どっちにしたってプリマステラさんが居なくなったら、そもそもリップ・ロップさんのところまでたどり着けませんしっ!」

「胡桃咲、さん……」

「そんなキラキラした目で見ないでくださいよっ! 私本当駄目なんですそういうの、自分が薄汚れてるところをじっくり観察されてるみたいで、本当にっ!」

「ありがとう、ございます、私、どうしたらいいんだろう、ってずっと、思ってて……」

「だからそんな目で見ないでぇー……」

 

 うんうん、とその様子を見て頷く愛死狂。

 

「じゃあ、皆の所に戻ろうか。それと、この現象を起こしてるのはリップ・ロップの魔法らしいから、彼女の確保と問題の解決は、同時にできそうよ、リーダー」

 

 それだけ言って、スタスタと大部屋に戻ってしまった。

 

「……………………」

 

 ぽかーん、と口を開いたままの胡桃咲ラヴは、数秒後、わなわなと震えて、叫んだ。

 

「あ、愛死狂さーーーーーんっ!?」

 

 

 

 

◆デスクイーン57世

 

 少し時間は遡る。

 二体のマスコット、ファズとファムの連携によって、デスクイーン57世達はフェスティ=バルと合流した。なんでお前がここにいるんだ今まで何してたんだと詰め寄って言いたいことは色々あったのだが、とりあえずは安全地帯、それもこの人数が集まりつつもスペースの取れる空間、という事で、カラオケボックスにお邪魔することにした。店員も客も等しく石になっていたが、幸い大部屋が空いていたので、そこに居座って、ついでにドリンクバーも使わせてもらった。

 そして、シルヴェストリの魔法で怪我人を治療したいということで、プリマステラ、胡桃咲ラヴとともに隣の部屋に移動し、愛死狂は部屋と部屋の間にたって見張り役をする事になった。扉は開いているので、こちらの声は聞こえているだろう。

 つまり部屋に残ったのは、顔見知りであるデスクイーン57世、それにそひっついて離れない赤緋朱姫、のえるちゃん、フェスティ=バルの四人だった。勝手知ったるメンバーで、カラオケに遊びに来たような錯覚すら覚える。

 

「じゃあ改めて聞くけど、どこで何してたんだよフェスティ=バル」

「クイン、口調、口調」

「お前相手にはこれでいいよ……もうちょっと早く来てくれてたら、色々楽になっただろうに」

「あはは、ごめんごめん、色々あったのだよ、早めに用事を切り上げたまではよかったのだけどねー。とと、ユーコの相手は辛かったでしょう、よく無事だったのだね」

「知ってるんですか? フェスティ=バルさん」

「ユーコのグループとは色々因縁があったからね、まー、決裂した結果、今はメチャクチャ仲悪いんだけど」

「最悪じゃんか……」

「それより、そっちの女の子は誰? 石になってないってことは、魔法少女なの?」

 

 問いかけとフェスティ=バルの魔法が発動した。

 フェスティ=バルの固有魔法は『質問に答えてもらえる』だ。口頭かつ肉声による質問ならば、相手はそれに必ず答えなければならない。さりげない会話の中で織り交ぜてくるので油断ならないし、デスクイーン57世からすると、初見でいきなり性別を見抜かれた理由でもあるので、正直あまり好きではない。

 朱姫は、ドリンクバーからデスクイーン57世が持ってきてやったイチゴソーダを飲みながら、小さく頷いた。

 

「赤緋朱姫、九歳……魔法少女、です」

「やっぱり、そうだったんですね……言ってくれればよかったのに」

 

 ユーコの推測は当たっていた、ということだろう、むしろ思い至らなかった事がおかしいのか。状況が状況だから、魔法少女なら変身するだろう、という思い込みと、こんな子供が魔法少女な訳がない、という先入観があったからだ。

 

「わたし、変身、したくない……」

 

 ぽつりと、朱姫がそう漏らすと、フェスティ=バルもふうん、と頷いた。

 

「それじゃあ、別に無理に戦ってほしいとは言わないのだね、子供だし……できれば、身の安全のために、変身自体はしててほしいのだけど、どうしても嫌?」

「……嫌、わたし、まだ、駄目だから」

 

 何が駄目なのだろう、と思ったが、顔がみるみる曇っていくのを見ると、あまり良い思い出がないのかもしれない、フェスティ=バルも、それを無理強いはしなかった。

 

「ああ、でも、どういう魔法かだけは教えてくれるかなっ? 一応ねっ?」

 

 すると、朱姫は、どう答えていいか迷ったのだろう、少し考えてから

 

「お姫さまに、なれる」

 

 と言った。

 

「……すっごいふわっとしてますね」

 

 のえるちゃんの感想は尤もだが、そもそも魔法少女自体、比較的ふわっとした存在ではあるし、デスクイーン57世に至ってはもっとふわっとした魔法を持っている身なので、笑って誤魔化した。

 

「……今、使ったよね? フェスティ=バル」

「うん」

 

 つまり、朱姫は嘘やごまかしをしていない、本当にそう思って『質問に答えた』ということになる。

 

「お姫さまになれる、か、いいなあ、可愛いね」

 

 若干、落ち込んだように見える朱姫を励ますつもりでそう言うと、ん、と顔を上げて。

 

「めらめらするの」

「……キラキラじゃなくて?」

「めらめら」

 

 そう言って、再びイチゴソーダに口をつけた。

 

「ふうん、じゃあ、有意義な情報交換タイムといこうよ。君達はどこで何してたんだい?」

 

 隠し立てする相手ではないので、事件が発生してから、ここに至るまで、デスクイーン57世はかいつまんで説明した。

 

「ユーコって奴の話じゃ、この現象自体がリップ・ロップって魔法少女が、あいつらから身を守るタメにやった事らしいけど、そもそもどういう魔法なのか全く想像できないんだよ、個人の魔法少女が、ここまで出来る?」

『それが出来るのがリップ・ロップの魔法だ……ぽん』

 

 口を挟んできたのは、ファズだった。どうでもいいが、今日、ファズ以外のマスコットと初めてであって驚いたのが、普通のマスコットはいちいち語尾の前をタメたり、意味深な角度をつけたりしないということだ。こいつの個性が若干ハズレ臭い感じがする。

 

『そもそも、リップ・ロップは魔法の国のお抱えだった……ぽん。研究部門に高待遇の高給取りとして優遇されてた、それぐらい、超便利にして、超スゴイ魔法だったんだ……ぽん』

「変な言い回ししなくていいから、具体的にどういう魔法なのかを教えろよ」

『……リップ・ロップは、ゲームを具現化出来る魔法少女なんだぽん』

 

 部屋の中が、一瞬、静まり返った。

 

「あの、それのどこがすごい魔法なんですか?」

 

 デスクイーン57世の思っていたことを、のえるちゃんが代弁してくれた。

 

『魔法っていうのは、多かれ少なかれ制限があるものだけど、リップ・ロップは文字通りのことが出来るぽん。【ゲームのデータを現実の世界に持ってこれる魔法】だって言えばいいか? ……ぽん』

「……例えば?」

『希少金属のオリハルコン、ヒヒイロカネ、ミスリル、魔法の国でも採掘量の少ないレアなモノも、ゲームの中にそういう設定のアイテムがあれば、それを現実に持ってこれる……ぽん。他にもあるぽん、万能薬エリクサーに賢者の石、伝説級の武器に、大きな船も、キャラクターだって呼び出せるぽん』

 

 ゲームの中は、非現実の世界だ。非現実だからこの世には存在しないモノだって、あるいは希少なものだって存在する。

 そして、ゲームの中では貴重であっても、それは所詮、プレイ時間を費やせば手に入るものにすぎない。現実で、体力と精神力を完全回復させる薬なんてものは、今の科学では到底作れないし、下手な魔法少女の魔法を上回る。

 

『一応、制限はある……ぽん。ゲームから持ち出したアイテムはそのセーブデータから消える、とか、ちゃんと完成した一本のゲームじゃないと駄目、とか、バグやチートを使ったデータには効果がない、とか……だから、リップ・ロップは一日中、テレビに向かって必要なアイテムが存在するゲームをプレイして、辿り着いたら抜き出してリセット、って生活をおくってたはずだぽん』

「メチャクチャ羨ましいな!?」

 

 仕事でゲームし放題、なんというか、心が躍る。

 

「本当にそう思う? どんなにゲームが好きでも、魔法を使うためだけに、ひたすら同じところまで進めてはデータを消すを繰り返すんだよ? 私はすっげー嫌だなのだけど」

「……いや、そう言われると確かにデバッグよりも無為な感じがするけども」

 

 でばっぐ? とのえるちゃんと朱姫が同時に首を傾げたので、話を戻す。

 

「……じゃあ何か、街の皆が石になって、魔物が出てきた原因っていうのは……」

『そう、リップ・ロップの魔法に「よって、ゲームの中の世界を引っ張ってきた、というわけなんだね!」というわけ…………被せんじゃねえぽん!』

 

 フェスティ=バルに決め台詞を奪われたファズが叫びだしたので、管理者用端末が閉じられた。騒音が消えて平和が戻った。

 

「多分、そういう『イベント』を具現化したのかな? 石化及び、魔物の発生、みたいなさ」

「道理で、魔法の国の魔物と形が一致しない訳だ。ゲームでデザインされた魔物だったんだ」

 

 愛死狂がそう言いながら、部屋に戻ってきた、治療が終わったのか、他の三人も一緒だ。なぜだか分からないが、フライドポテトやら、チキンナゲットやら、たこ焼きやらの軽食や、スナック類をのせた大皿を両手に持っていた。

 

「厨房からちょろまかしてきましたの、お金は置きましたわよ? そっちの娘は、お腹もすくでしょうと思いまして」

 

 魔法少女は食べなくても大丈夫だが、別に食べられないわけではない。味覚は正常だし、食事は美味しい。食べるものがあるにこしたことはない。

 飲み物や食べ物をつまみながら、お互いの情報を整理して、胡桃咲ラヴが手を上げていった。

 

「つまり、《本当の貴方(トゥルークオリア)》の三人を倒して、ミラクルまりりんさんとリップ・ロップさんを助けられれば、この現象も収まって、全て解決の万々歳ってことですか?」

「でも、リップ・ロップは二重スパイで、どっちも裏切ってた、って言ってたのでしょう? 万々歳で終わるかどうかはわかりませんわよ」

 

 プリマステラは、カリカリとポテトを齧った。

 

「だったらリップ・ロップに私がこう聞けばよいのだね。『お前はどこの所属で誰の味方なんだ』って。後は《天使の祝福(エンゼルブレス)》が今後の処遇を考えればよいのだよ。D市組としては、リップ・ロップの処遇も所在も、あんまり関係ないからね、事態が収まればそれで良いのだよ」

 

 その言葉に無条件でうん、と頷くことはできなかったが(何せ殺されたりしたら寝覚めが悪い)、方針としては間違いがない。全員の利益と目的が一致している。

 

「……じゃあ、あの魔法少女も、ゲームのキャラクター、だったのかな」

 

 シルヴェストリが、ポツリと呟いたのを、フェスティ=バルは聞き逃さなかったようだ。

 

「ん? どの魔法少女?」

「あ、その……私とまりりん、タワーマンションの屋上から、光を放って、人を石化させてる魔法少女を、見たんです。あの魔法少女が犯人なのかな、って思ってたけど……リップ・ロップの魔法が、そういうことなら、あれも、ゲームのキャラクター、なのかも」

「可能性は高いのだね、イベントを発生させるより、イベントを発生させられるキャラクターを具現化したほうが、わかりやすいし」

「でも、すごい強そうだった……」

「リップ・ロップを助けられれば、そいつも消えるのだよ、大丈夫大丈夫、それより目下問題は――――」

 

 フェスティ=バルからの言葉を引き継いだのは、愛死狂だった。

 

 

 

◆愛死狂

 

「ユーコ達、あいつらは、強い。簡単に倒せる相手じゃない、ってことを、念頭に入れてほしい」

「そう言えば、愛死狂さんは前からの知り合いだったんですの?」

 

 プリマステラが尋ねると、苦々しげに頷き、喉の滑りを良くするために、ウーロン茶を一口飲んだ。苦い。なんでこんな飲み物がこの世にあるんだ、砂糖を入れろ砂糖を。

 

「《天使の祝福(エンゼルブレス)》に所属する前から、知ってた。最初にあったときは、敵同士だった。アイツは、『噛み付いた相手を支配する』魔法を持ってる」

「――支配、って、具体的には?」

「操り人形、忠実な部下、なんでもいいけど、アイツに噛まれると、ユーコの言うことをなんでも聞くようになる。リルフェンが魔法少女をさらっていったのは、多分、手駒を増やすため」

「て、手駒、って、じゃあ、まりりんは……」

「多分、もう操られてる。対処法は……」

「あるのだねーーーーーー!!」

 

 神妙な顔で『ない……』と言おうとしたら、大声で遮られた。フェスティ=バルだ。

 

「ね、死という正義の執行者、デスクイーン57世ちゃん」

「なんで煽ってきた! ていうか、私?」

「そりゃあそうなのだよ、『心を癒やす』ってことは、『精神を正常な状態にする』ってことなのだよ。洗脳にとっては天敵じゃあない?」

 

 言われたデスクイーン57世が、『あ』という顔をした。

 

「……すごい魔法を、持ってるね」

 

 愛死狂からすれば、心からの賛辞だったのだが、デスクイーン57世は恐縮そうに『いやあ……そっかあ……歌わないと駄目かあ……』とブツブツ言っていた。

 

「つまり、まりりんを助ける手段はある、ってことだね。あの子を味方につけられれば、優勢になるのだよ、魔法はめっちゃ強いからね」

「あ、あの、でも、その娘って、『何をしているか誰もわからなくなる』魔法、なんですよね……暗殺とかされてもおかしくないような……」

 

 胡桃咲ラヴが、おずおずと言った。愛死狂も、魔法を聞いた時から、敵にまわられたら厄介だなと思っていた。

 

「それなら、私がなんとかしますわ。結構無茶をすることになるとは思いますけども」

 

 プリマステラが、シルヴェストリの方を見て、微笑んだ。

 

「恩は必ず返しますわ、友達は絶対に助けますの」

「あ、ありがとう、ございます、プリマステラ、さん」

「こちらこそ、後は、そうですわね。闇影切子相手は、気をつけましょう、ぐらいしか正直思いつかないのですけれど、リルフェンという魔法少女は、どんな魔法を使いますの?」

「ああ、リルフェンは『匂いに敏感』……嗅覚が異常発達する、常時発動方の魔法なのだね。多分、今も私たちは、リルフェンに場所を把握されてるのだよ、シルヴェストリと私は匂いを覚えられているからね。けど、それ以上に身体能力が高いのだよ、元々は野生の狐だけあって、一度暴れだしたら速いし怖い」

「狐?」

「ユーコのぺットだった狐が、魔法少女になったのだよ。才能さえあれば、誰でもなんでも魔法少女になれるのだねえ」

 

 しみじみと言いながら、フェスティ=バルはなぜかデスクイーン57世を見、デスクイーン57世は顔をバッとそらした。もしかしたら、彼女も動物魔法少女なのかもしれない。

 

「まあ、三人の中じゃ、やりやすくはある、って感じなのだね。あとは……」

「……あの、いいですか?」

 

 のえるちゃんが、今度は手を上げた。全員の視線が集中する。

 

「その、ユーコ、って魔法少女なんですけど、私とクイン先輩で、何度も倒したんです。頭に何発も銃弾叩き込んだし、先輩だってボカスカやったし」

「……でも、生きてる」

「そうなんです……もとに戻っちゃうんです、ユーコの魔法は、噛み付いた相手を支配する、なんですよね。一人の魔法少女が二つの魔法を持つことってあるんですか?」

「前例はないのだね。魔法のアイテムで補っている、っていうパターンはあるかもだけど」

「そ、それ、リルフェンも、でした。背中を、まりりんが、突き刺して……一回、倒した、と、思ったんです。でも、生きてて、それで……」

「ユーコとリルフェンがそうなら、闇影切子も、かも知れないですわね」

「死んでも蘇るアイテムでも持ってるとか?」

「そんなの、無敵じゃないですか!」

「本体が別の所に居て、操作してるのは人形とか」

「倒さないで縛っちゃうというのは……」

「魔法少女を拘束できるアイテムなんて、今はもってないですわよ」

 

 あーでもない、こうでもない、と皆が騒ぎ出した。原因がわからない相手の復活は、放置すれば致命的な問題だ、これから戦うにあたって、対策は絶対にしなければならない。だが、じゃあしましょう、で出来る話でもない。かと言って、長引きすぎれば、ユーコ達が攻めてくる。リルフェンの鼻とまりりんの隠密が組み合えば、今この瞬間、誰かが心臓を貫かれてもおかしくないのだ。

 

「……愛死狂、お姉ちゃん」

 

 そんな中、ジュースをちびちび飲んでいた少女が、ポツリと言った。

 

「……私?」

 

「うん、愛死狂お姉ちゃんなら、だめかな」

 

 

 

◆赤緋朱姫

 

 魔法少女たちは、カラオケボックスを出ていった。

 

「それじゃあ皆、死なないように、やられないように。頑張ろう」

 

 フェスティ=バルがそんなことを言って、それぞれが各々の役割のために散ってゆく。

 

「朱姫ちゃんは、ここにいて。もし、万が一魔物が入ってきたら、隠れてやりすごして、どうしても駄目なら、申し訳ないけど、変身して戦ってほしい。倒せない相手じゃないと思うから」

 

 朱姫は、一人きりになった。

 カタカタと、歯の奥が震え始めた。

 

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