魔法少女育成計画 -Deicide Side- 作:天都ダム∈(・ω・)∋
◆ロジカルカオス
火炎弾の着弾を確認。対象を撃破。計算上は最初の一撃で死んでいるはずだった相手が、なぜか何度も立ち上がってくるもので、予定より時間はかかったが、これで終了だ。
世界を改造する作業に入ろう。ロジカルカオスは神として、そうしようとした。
ズド、と軽い感触が腹に触れた。見下ろすと、赤い剣が、腹部を貫通していた。
はて、と首を傾げる。この剣は今しがた、処理を終えた相手のものではなかったか。
「………………」
ロジカルカオスに感情はない。神であり、機能であり、システムだからだ。
けれど、思考にエラーが生じることがある、例えばそう。
己の配下であるラジカルマキナが、
◆ミラクルまりりん
――――時間は少し遡る。
ラジカルマキナには自爆機能があると事前に聞いていてよかった。最後の最後で一矢報いてやることが出来た。
光を放つシルヴマキナに触れる。憎い、許せない相手ではあるが、自分に付き合って死ぬのだから、せめて一言お礼を言っても良いかも知れない。
同時に、プリマステラは、巻き込んでしまって申し訳ないと思う。あの世というものがあるとするなら、是非謝りたい。
「……………………?」
けれど、いつまでたっても、意識が途絶えることはなかった。
恐る恐る目を開けると同時、ごとりとシルヴマキナの首が取れ、完全に機能を停止した。
「――――はは」
失敗した。失敗してしまった。最後の最後でこのオチだ。あまりに間抜けすぎる。
残ったシルヴマキナの残骸を捨てて、ラジカルマキナが手を伸ばしてきた。どこを折られるのか、せめて痛くないように、と目を閉じた。
「 質問 負傷はありますか? 」
――ラジカルマキナは、ミラクルまりりんの腕を掴みあげ、ぐいと立たせた。
「…………は?」
それだけではない、プリマステラに迫っていたラジカルマキナたちも、皆動きを止めて、じっとミラクルまりりんを見つめている。
「あ、あの、まりりんさん? これはどういう……」
さすがのプリマステラも、これには戸惑っているようだった。しかし、コチラもまったく同じ状況だ、何がどうなったのかさっぱりわからない。
解答をもたらしたのは、ミラクルまりりんの傍らに立つラジカルマキナだった。
「
「……え、あ、へ? ど、同期……?」
「 肯定 シルヴマキナ010Jによる同期が行われました 」
「 当個体群《、》の行動目的は ミラクルまりりんの保護となります 」
「 指示をどうぞ 」「 指示をどうぞ 」「「「 指示をどうぞ 」」」
ラジカルマキナ達のシルヴマキナへの対策は同期ネットワークからの断絶だった。何故か。シルヴマキナ側から同期を試みられた場合、彼女達は抵抗できないからだ――ラジカルマキナがラジカルマキナを裏切ることを、
だが、妨害装置が破壊され、同期ネットワークは消滅した。ラジカルマキナ達は、いわば非常に無防備な状態だった。だから、
「ふざ、けんなっ……」
まだ言いたいことを言っていない。シルヴマキナに、シルヴェストリを殺した責任を取らせていない。シルヴェストリの生命を、奪って、受け継いだその身体は、完全に死んでしまっていた。最後に、置き土産を遺して。
「……行きましょう、まりりんさん」
プリマステラは、拳を握ってうつむくミラクルまりりんの頭を、優しく撫でた。
「……うん。皆、シルヴマキナ達」
総計十二体のシルヴマキナが、一斉にミラクルまりりんを見た。
「……アンタ達の神様に、歯向かう勇気はある?」
全員が一斉に、肯定、と声を上げた。
◆プリンセス・ルージュ
暴君の盾になるように、二体のラジカルマキナが立ちはだかり、ロジカルカオスの火炎弾を一身に受け止めた。一体は半分ほど溶けて、もう一体は半壊したが、お陰で、プリンセス・ルージュがその炎に焙られることはなかった。
「…………」
隙ができたので、反射的に剣を投げた。見事命中し、その胸に穴を穿ったものの、困惑が消えたわけではない。
何が起こっている、と言う間もなく、更にその横を、二体のラジカルマキナが駆けてゆく。間をおかず、四つの瞳からビームが放たれた。
「――――――」
ロジカルカオスの身体の各所に命中し、その身体を熱していく。赤熱する肉体を見下ろしながら、ロジカルカオスは両翼の先端についた、青白く光るカッターの刃のような形状をしたパーツ、合計十二個を一斉に射出した。
「 回避不可 」
「 直撃 」
ラジカルマキナ達の身体が刻まれて、ばらばらになる。両手両足と胴体が泣き別れ、最後に真ん中の線から両断された。
「 継続 」
「 攻撃 」
わらわらと、更にラジカルマキナが、戦場へと乱入してくる。どういうことだ、という疑問には、傍らに現れた魔法少女が答えた。
「……生きてたんだ」
「……
今まで、プリンセス・ルージュに見せていた、激情が、そこにはなかった、何かを達観したような、諦めたような、そんな表情だ――だと言うのに。
その瞳の奥には、確かに、何らかの熱がある。
「味方よ、あれ、凄いでしょう、あの子がやったの」
その視線の先には、ミラクルまりりんが居た。ラジカルマキナ――いや、ミラクルまりりんのしもべ、シルヴマキナ達に指示を出している。攻撃と防御を一身に担うシルヴマキナ達は、次々と破壊されてゆくが、彼女たちに一切の躊躇はない。
「立てる?」
「何をする……っ」
「一旦引いて、回復に努めて」
「ふざけるな、奴は余が……」
「そのボロボロの体で?」
言われて、ふと床を見る。反射して映るプリンセス・ルージュは、ひどい有様だった。真っ赤のドレスはちぎれ、破れ、煤けて汚れ、見る影もない。まとめた金髪も、いつの間にか解けて、無造作に投げ出されていた。
「知らなかった、あなたって、傷ついたり、弱ったりするんだ」
「……何だと」
「それに、そんな顔も。泣きそうな顔」
泣きそう、と言われても、わからない。紅緋朱姫ならともかく、プリンセス・ルージュは泣いたことがない。あるのは怒りと、プライドと、激情だけだ。
「ミラクルまりりんは、シルヴマキナを、許してない、許してないまま、受け入れた。私は――――」
プリンセス・ルージュを降ろした
「――あんな風になれない、けど、今貴女を殺そうとも、思えない。そこに居て」
そして――
プリンセス・ルージュは、自分の頬に何が伝っているのか、まだ気づいていなかった。
◆ロジカルカオス
ラジカルマキナは、ロジカルカオスの忠実な下僕だ。逆らうことも、命令違反もありえない。視線だけで、新たな命令を与える。神に抗う愚か者を殺せと。
それに、彼女らは従わない。ロジカルカオスが放つ攻撃をその身で受け、捨て身で攻撃を行ってくる。
「神に逆らうか」
答えは、氷だった。ラジカルマキナの背後から放たれたそれは、空気を凍らせながら迫ってくる。右腕に直撃し、凍りつく。勿論、この程度はロジカルカオスにとって一切の障害になりえない。即座に全てが復元し、攻撃は無為になる。
――――はずなのに。
「…………?」
右腕はなおも凍てついていた。理解不能。またもやエラー。神として作り上げた、ロジカルカオスのロジックが、機能していない。
「私は絶対唯一無二の機械神、ロジカルカオス」
言語にして、自己の存在を確認する。絶対なる定義、完全なる存在。
右腕の凍結を解除する。元来、全自動で修復されるはずだが、現状では機能していない。
「私は神である。神の裁きは絶対である。神として警告する、貴様らの」
「神様神様うるせーな――――」
喉を突かれた。首が大きく後ろに跳ね上がり、視界が回る。おかしい、何かがおかしい。
「お前がどれだけ偉いかなんて
いつの間にか、眼前に、立っていた。
輝く水晶の棒を携えたそいつは、王冠を頭に載せ、ふわふわとしたファーのついた、真っ赤なマントを羽織っている。
「人の住んでる街で、勝手な事すんじゃねえ――――たかだかゲームの分際で」
その背後に、両手に銃を構えた娘がいた。パイプを咥えた
どれも、取るに足らない、気にかける必要もない、ロジカルカオスの偉大なる所業の前には、瑣末事でしかない存在だ。
そのはずなのに、何故。
「――――らぁっ!」
棒が振るわれる。再び腹部に命中する、衝撃が来る。
ダメージになりえないはずの攻撃で、ロジカルカオスに設定されたHPが減少した。それらの数字は、すぐに元に戻る。神だからだ、神を傷つける権利など、この世界の誰にも存在しない、与えていない。
なのに、
一度、エラーを切り捨てて、眼前の、神に逆らった愚者を始末しようと、手を伸ばす。
指先に熱が収束する。ロジカルカオスの放つ光線の十連撃は、万物を焼き払う。ロジカルカオスの、万全なる解析能力から判別する能力値から計算すれば、眼前の生命体は、ただの一秒も耐えられない。
「滅せよ」
ボム、ボム、と。
その熱を解き放つ前に、両手が爆発した。ロジカルカオスを、再び困惑が襲った。
◆デスクイーン57世
のえるちゃんが放った弾丸が、ロジカルカオスが指の先端に集めたエネルギーの塊を撃ち抜く。狙い通りに暴発し、熱と爆音がその五指を吹き飛ばす。
「先輩、いけます、ダメージ、通ります!」
マジカルロウの力によって、ロジカルカオスのHPの自動回復機能は失われた。圧倒的な攻撃力も、豊富な戦闘手段も失われては居ないが、それでも。
絶対に倒せない神様から、倒すべき
「頭に刻めよクソゲーの親玉――――」
デスクイーン57世は、高らかに叫んだ。
「我が名はデスクイーン57世! 死という正義の執行者! 死の女王なり!」
●
物心ついた時には、父親にもう棒術の手ほどきを受けていた。何せ体格がよく、腕力もあった上、道場の息子という立場では、それは必然だった。疑問に思うことなく、遊びですら訓練として、ただひたすらに戦う術だけを学んでいた。
中学に入ってからは、同流派の杖術も学んだ。古流武術の流派を、この現代日本において継いできた実家にとって、この後継者はまさに天が与えてくれた神童だと、父や母は何度も神に感謝したという。
そんな世界が変わったのは、ある日曜日の事だった。朝方、体力作りのランニングを終えて、麦茶を飲もうと居間に入ると、三つ下の妹がテレビを見ていた。
普段、そんな娯楽に一切興味のなかった『彼』は、その時間帯にやっていた――可愛い女の子が、ひらひらの服を着て、デフォルメされた怪物に立ち向かうアニメを、初めて見た。
それは例えるなら、澄み渡った水に、一滴、絵の具を垂らしたようなものだ。
一度変質してしまったら、それを元に戻す方法などない。子供たちに夢と希望を振りまくために、アニメの中の魔法少女は、愛らしくウインクと共に微笑む。
その姿に、『彼』は魅了されてしまった。
寝ても覚めてもその姿が頭から離れない。何度も何度も思い出す内に、頭の中で補正された映像と、再度見た映像が乖離しすぎていて困惑したことすらある。
それが女児のために作られたものであり、妹ですらたまたま早起きしたから見ていただけで、熱中しているわけではない事など、関係なかった。初めて『彼』は、執着の伴う趣味という物を得た。
やがてそれらの興味は単品の『アニメ』から、『系統』へと移ってゆく。スピンオフのコミックや小説、その作家が描いた別作品、そこから派生したゲーム――――勿論、棒術一辺倒で育ってきた『彼』は、それを気に入ったなどと公言出来る立場ではなく、また親も許さないだろうことは重々承知だった、わかりきっていたから、誰にも言わず胸に秘めた。不良が隠れて煙草を吸う様に、『彼』はスマートフォンにゲームアプリを入れた。
やがて転機は訪れる――――高校に上がり、一度学業に専念するということで、初めての一人暮らしが許された。そこから完全に
その生活の中で、『彼』は魔法少女になった。
「ハーン、なるほどね、だから棒術を使える魔法少女って訳だ。普通は魔法少女に人間の武術ってあまり役立たないんだけどね――え、うん、だってスペックが違いすぎるもの、人間生物を相手にするために人間生物が使うための武術なんて、魔法少女に適合するわけ無いでしょ? まして武器を使うならなおさら、獲物の方が耐えられなくて壊れちゃうのだよ。あぁでも」
『彼』が、自分の持つ技術の事を、教育係に教えた時、そいつはこんな事を言った。
「それを取得するために培った、君の経験はまた別だよ、デスクイーン。体を作るためのトレーニングも、武術を学ぶ上で身につけた精神集中も、実際に勝負する時の度胸の強さも、全部魔法少女としての君の役に立つ。無駄になることはないよ、何一つ」
棒術は好きだ。今の自分を形作ったものの一つであることは間違いないし、自信の源を形成してくれた、大事なパートナーだ。
一方で、魔法少女を含むサブカルチャーも好きだ。自分に新しい世界を与え、新たな道を示してくれた。ゲーム、漫画、ラノベ、アニメ。どれだけ見ても、次を次をと望んで。憧れ、焦がれ、追い求める。
だからその二つがデスクイーン57世を作る、二本の柱だ。
好きなものは好きだ。だからそれでいい。
学んだことは学んだことだ、最大限に活かせばいい。
その二つが活かせるのならば、文句なしだ。
男としても、魔法少女としても。
デスクイーン57世が立つには、戦場がふさわしい。
●
フェスティ=バルは『魔法少女に人間の武術は適さない』と評したが、こと棒術を始めとする、武器を使った技術に関しては、違うのではないかとデスクイーン57世は思う。
突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。あらゆる武器の作法を内包するのが、棒術であり、杖術だ。
武器を使って攻撃するというのは、基本的に一撃で致命的な損傷を与える事を目的とする。刀で斬るのは殺すためだし、槍で突くのは殺すためだ。魔法少女の戦闘と、よく似ている。
もっとも棒術は『殺さずに相手を制する』という大前提の武術なのだが――――どれだけ攻撃しても死なない相手に加減はいらない。
「よ――――なぁ!」
マジカルロウに頼んで削り出してもらった、壁や床を構成する水晶と同じ材質の棒は、よくしなり、よく曲がる。それでいて、硬く強靭で、重さも手頃だ。
「ガッ」
顎をかち上げ、喉を突き、近接戦の間合いから即座に離脱する。デスクイーン57世の速度に任せたヒット&アウェイを、ロジカルカオスは、絶対神は止められない。
「神に逆らうことは許されない」
火炎弾を打とうとすれば。
「ちゅっ」
「ひゅっ」
呼気にあわせて、魔法少女の腕力に、テコを加えた一撃を放つ。右目狙いは狂わず命中し、更に頭部を揺さぶる。しかし、攻撃をこらえ、腕を伸ばす。
「――――神の裁きは、絶対」
「させませんわ!」
それでも、どうしても逃げられないタイミングで、プリマステラが割り込む。その魔法が続く限り、ロジカルカオスは、眼前のデスクイーン57世ではなく、プリマステラを見て、攻撃しなくてはならなくなる。
「さあ、いらっしゃいませ――目を離してよいのでしたら、ですが」
ただし、プリマステラとは言えど、ロジカルカオスの集中攻撃を受けたら保たない。だから、その魔法が発動するのは一瞬だ。その合間に、残ったシルヴマキナ達のビームが襲いかかる。
「「「「 照射 」」」」
シルヴマキナが自ら言っていた。防御無視攻撃。その特性は、硬い外殻を持つロジカルカオスにも適用される。数秒受け続ければ、ただでは済まない。
「不敬」
ロジカルカオスが手を振ると、広域を一気に吹き飛ばす爆炎が無から発生し、魔法少女たちに襲い来る。
「防御っ、防いで!」
ミラクルまりりんの叫びに、シルヴマキナ達は躊躇いなく、魔法少女の盾になる。一体、また一体と全壊してゆくが、彼女達に恐怖は一切ない。
「ありがと」
デスクイーン57世もまた、自らをかばったシルヴマキナに礼を言った。身体の後ろ半身が溶解しながらも、
「 問題ありません 任務 完 了 」
そう言って、崩れ落ちる。
「それでいいのだね! 次、羽の攻撃が来る! プリマステラ!」
フェスティ=バルは、攻略情報を元に、ロジカルカオスの行動ルーチンを逐一叫ぶ。やりこみプレイでその能力を暴いてくれた、見知らぬプレイヤーには感謝するしかない。
指示に従って、魔法を発動したプリマステラに殺到する攻撃を、シルヴマキナが壁となって受け止めた。耐えきれず、全損する。
「ッ、ごめんなさい、お借りします!」
倒れたシルヴマキナの翼を剥ぎ取って、即席の鎧にして、プリマステラはまた跳躍し、囮を続ける。
「少しずつでいい、ダメージを与え続けるのだよ! ボスキャラの宿命さ! HPって概念が存在する以上、
ロジカルカオスはゲームから生まれた、ゲームの設定に基づき、ゲームの中のルールで生きるキャラクターだ。
どれだけ殴られれば力尽きるのか、
マジカルロウによって、
「ああああああああああああああっ!」
乱打を放つ。一瞬たりとも止まらない。足を止めて、捕まった瞬間に殺される。その条件は変わらない。
けど、恐怖はない。微塵もない。
「先輩、後ちょっとです!」
のえるちゃんの声、どんな時でも頼れる後輩。
後ろに居てくれるだけで、そうだ。
格好悪い姿なんて見せられるわけがない。
「喰らえ――――!」
プリンセス・ルージュが胸に突き立てた剣、そこから広がる罅目掛けて、デスクイーン57世は全力の一撃を放った。
「――――――」
直撃し、神がよろめく。更に追い打ちをかけようと一歩踏み出し。
「我が名はロジカルカオス」
ピタリ、と体の動きが止まった。
「な――――」
デスクイーン57世だけではない。他の魔法少女たちも全員、ロジカルカオス以外の全てが静止した。
「混沌を統べる神、世界を統べる神、汝ら、それに抗う不敬なる者よ」
ロジカルカオスの背後に、光の粒子で出来た時計盤が浮かんでいた。長針が、ゆるやかに動き始める。
(ぜ、全体スタン――――!)
強制的に動きを止める。ゲーム的に言うなら、HPが一定以下になった時に、絶対に行う回避不可の攻撃、と言ったところだろうか。時計の針がゼロになるまで、一切の行動を強制的に封じる、神の奥の手。
ロジカルカオスの両の翼が、同時に展開され、その先端に光が収束していく。
(これは、聞いてな――――)
事前の攻略ブログには、そんな情報は書いていなかった。あるいは、リップ・ロップが仕組んだ最後の罠か。
ロジカルカオスの火力が、こちらにとってオーバーキルであるということ自体は、何一つ変わっていない。まして、その光の規模は、今までのそれらより、明らかに大きい。
「消滅せよ、神に逆らう事、許さず」
目を閉じることも出来ない、動けない、神はその権利を剥奪した。
だから――――光がすべてを飲み込む前に、見ることが出来た。
「貴様が失せよ」
誰もが動けない世界の中、悠然と、神の心臓を貫いた、自らの剣の柄に手をかける、真紅の姿を。
◆プリンセス・ルージュ
「――
壊れた機械が、壊れて叫んでいる。それは当然の事なので、プリンセス・ルージュは特に問題だとは思わなかった。
が、珍しく気分も機嫌も良かったので、答えてやることにした。
「
「
「
何故なら。
「此奴らがここまで戦ったのだ――王たる余が立たずしてどうする、なあ?」
振り返り、デスクイーン57世の顔を見て、プリンセス・ルージュは微笑んだ。
「よくやった、お前達の勝利だ、褒めて使わす」
光が放たれる一瞬前に、剣を振り抜く。
圧倒的な防御力と耐性を持つ、ロジカルカオスの装甲も、残る生命の数量も、あらゆる概念を超越して、プリンセス・ルージュの望み通りの結果が訪れる。
即ち――――――。
「余に殺せぬものなど、ある訳がない」
◆のえるちゃん
両断され、絶叫を上げながら、ロジカルカオスが崩壊していく。
その肉体は、数秒かけて、空気に溶けてゆく。同時に、身体の自由が戻ってきて、思わずぺたんと尻餅をついた。
「終わっ――た?」
はふ、と思わず息が溢れる。保っていた緊張がぷつりとキレて、いまさら手が震えだした。
「あ、あはは……はぁ……よ、よかったぁ……」
震えながら、周囲を見る。散らばるシルヴマキナ達の残骸が、痛々しい、残っているのは見える限りで二体、それも無傷ではなく、一体は片腕を失い、もう一体は顔の半分が消し飛んでいた――――それを踏まえて、彼女たちの損害をゼロと数えていいのなら、のえるちゃん達魔法少女は、この戦いで誰も死んでいなかった。
一番危険な役回りを果たしたプリマステラも、デスクイーン57世も、プリンセス・ルージュも。皆で力を合わせて、勝利した。
「のえるちゃん、大丈夫?」
駆け寄ってきたデスクイーン57世に、のえるちゃんははい、と頷く。ここで、弱った姿を見せるわけには――――いや。
「……あ、やっぱり駄目かもしれません、こう、ギュッとしてもらえないと……」
「ギュ、ギュッとですか」
「はい、こう、抱きかかえて――――」
『戦士たちよ』
「ひきゃあ!」
聞こえてきた声に、のえるちゃんは飛び上がった。考えてみたら、戦いが始まってからこっち、悲鳴しかあげていない気がしてきた。
ロジカルカオスが陣取っていた、階段の前に、ロジカルカオスと瓜二つな存在が、いつの間にか現れていた。
「マジカルロウ……あれが」
ミラクルまりりんが、ぽつりと呟く。ロジカルカオスと近い外見ながら、色彩というものが存在するマジカルロウは、どことなく安心感がある。のえるちゃんもそうだった。
『よくぞ、ロジカルカオスを倒してくれました、これで、世界は救われます』
マジカルロウが手をかざすと、散逸した粒子が集まり、一つの光球となった。それを胸に抱くように抱き、頷いた。
「……エンディング、でいいの?」
「これ以上、何かあったら嫌ですわよ、もう」
『貴女達にも、なにかお礼をしなくてはいけませんね……望みがあるならば――』
「あー、ちょっといいかな?」
マジカルロウの言葉を、フェスティ=バルが遮った。全員の視線が、探偵に向いた。
「何だよ、フェスティ=バル」
「いやいや、ちょっとした確認なのだねー、ねえ、マジカルロウ」
のえるちゃんは、その時、気づいた。
いついかなる時も、どこか余裕のあるフェスティ=バルの目が、まったく笑っていない。
「――――
「え?」
その声が誰のものか、わからなかった。のえるちゃん自身かも知れないし、そうじゃないかも知れない。
「あれ、だって、胡桃咲さんは、マジカルロウの封印を解いて、それで――」
それで? その後は?
ロジカルカオスという存在が、あまりに大きくて、気づかなかった。気づく余裕がなかった。全員の視線が、わずかに間をおいて、マジカルロウへと集まった。
『――――――』
マジカルロウは、柔らかな笑みのまま目を閉じ――――告げた。
『もう、
言葉が理解できない。どういう意味? 緩やかに持ち上げられた、マジカルロウの指先に灯る、白い光を見ても、まだ頭が現実に追いつかない。
「――――――逃げて!」
真っ先に動いたのは、プリマステラだった。悲鳴の様な声と同時、のえるちゃんはプリマステラを見た――全員が見た。魔法を発動している。誰より目立ち、誰より光り、壁際に向かって駆け出していた。
ぴんっ、とマジカルロウが光の玉を指で弾いた、光は膨れ上がり、直線上を走る帯となって、プリマステラを飲み込んだ。
――もし、プリマステラが動いていなかったら、全員が光の中に消えていた。
「――――――――」
壁に大きな穴を空けて、ダンジョンの外にまで届いたであろうそれは、少しずつ細くなって、後は何も残っていなかった。
「…………え、あ?」
『……………………』
「プリマ、ステラさん?」
居なかった、どこにも居なかった。
常に笑い、激励し、優雅に、華麗に立ち振舞い、皆を鼓舞して、常に危険の最前線に立ち、それでも戦い続け、守ってくれた魔法少女が、どこにも居なかった。消えてしまった。
マジカルロウは、再び魔法少女達を見下ろした。微笑んだまま。
『もう居ません、胡桃咲ラヴは、役目を終えました』
それは、神が告げる決定事項。定められた運命であり、ルール。
「あぁ…………そういうことかよ、合点がいったよ」
フェスティ=バルが、唸るように言った。
「――おい、どういう意味だよ、フェスティ=バル」
デスクイーン57世の、いや、この場にいる全員の疑問に。
フェスティ=バルは、名指しでもって答えた。
「これが目的だったんだね、マジカルロウ……いや、魔法少女
――荘厳な、慈愛の笑みは、にぱっと口の端を釣り上げる、無邪気なそれに変質した。
『…………なぁんだ、気づいてたんだ、つまんないの!』
◆デスクイーン57世
「どういう意味?」
身構えながら尋ねた
「……マジカルロウを復活させることが、リップ・ロップがこのゲームを作った目的だったんだ、正確にいうなら――リップ・ロップの意識を移植した、マジカルロウになる為に」
「何でわざわざそんな事――」
『それはそうだねえ、ここまで来たご褒美に、私が答えたげよう、ああその前にっと』
手を開いて、閉じる、その動作で、デバッグルームにつながるクリスタルが、グシャリと丸まって、消滅した。
「ファズ!」
『ほら、あっちから色々弄くられても困るし。あそこ、意外と出来ることあるからさぁ』
もはや先程までの威厳はどこにもない、マジカルロウ――リップ・ロップは、無邪気な笑みと楽しそうな口調で言った。
『私の魔法でイベントを再現するっていうのは結構大変なんだ、何せ現実に対して、上から違う世界の法則をはっつけるわけだからね? キークみたいに上手くは行かないものだよね。タワーマンション一つ加工するのが、どれだけ大変だったことか……まぁそれに合わせて作ったダンジョンなんだけど。マジカルロウという器を、しっかりと定義して出現させるのは、ロジカルカオス出現からマジカルロウ降臨ってイベントを、ちゃんとこなさないと行けなかったのさ、じゃないと定着しないんだよ、この体』
指を空中でつい、と動かすと、いくつもの、光る六角形のディスプレイが空中に表示された。
『見てこれ、全部イベントの管理フラグ。マジカルロウ顕現は最重要の大型イベントだから、使う魔法の力もそれなりに膨大なんだ。ロジカルカオスもラジカルマキナもメチャクチャ強く設定したから、沢山燃料も必要だったし』
「……燃、料?」
ミラクルまりりんのつぶやきに、マジカルロウは、うん、と答えた。
『あははは、君達さぁ? 疑問に思わなかったの? 外の人間たちは石になってたっていうのに、マンションの中には
背筋が冷えた。異常事態――ラジカルマキナの出現に伴うダンジョン攻略に気を取られて、まったく意識していなかった。
そうだ。ここは、元々マンションなのだから、人間が住んでいるはずなのだ。
『まぁそうは言っても
三千人。それは、このマンションに住んでいた人間の数で。
外の燃料というのは、水晶になった人間たちの事で。
「え、あ、あの、え、だって、水晶になった人は、魔物から、守るために、え?」
のえるちゃんの動揺を、マジカルロウはちっち、と指を振って否定した。
『そんなの、ユーコの勝手な憶測じゃない。何で私がそんな気を使わなきゃいけないの?
違う違う、あれはただの電池だよ。死んだら使えないから、生かしてあるだけ』
「――――何で」
ミラクルまりりんが思わず漏らしたその言葉は、どうして殺したんだ、という意味だったのだろうが、マジカルロウはまったく見当はずれの答えを、当然の様に告げる。
『んん? 君達さぁ、魔法の力って、無尽蔵に無限大だと思ってる? 違うんだなぁ、私達から見たら何の制限もないだけで、実は魔力というのは枯渇し始めてるんだよ。魔法の国が躍起になって魔法少女を量産してるのは、その現状を打破するきっかけを求めてるに過ぎない――だから適当に作って、適当に放置して、なにか起きたら丸投げーってワケ。私がこうやって大掛かりな事を初めて、ガンガン魔法の力を目減りさせて、気づかれたらコトでしょう? だからちゃぁんと外にリソースを求めたのさ』
「そんな事を」
デスクイーン57世が、棒を強く握りしめて、マジカルロウを睨みつけた。
「そんな事を言ってるんじゃないだろ……っ!」
『あっはっはっは――――デスクイーンちゃんだっけ? いやぁ、正義だなぁ凄いなぁ熱血漢だなぁ、いいなー私もそういう魔法少女になりたかった、でもねぇ』
マジカルロウの笑みが深くなる、だけど、その表情は……その瞳は。
何も見ていない、何も映していない、何も認めていない。
ロジカルカオス同様の、ただの空虚だった。
『もう魔法の国に飼い殺されるのはゴメンなんだよ。《
ケラケラと笑う。カラカラと笑う。神の身体が、壊れた様に揺れる。
『魔法の国から見ても貴重なレアアイテムを作り続けたら――あっはは! 魔法の力だってそりゃあ足りなくなるよ、調べてみたら、錬金術で材料揃えて作るのと比べて、三倍消費するんだって! ウけるよね! で、来たんだよ暗殺者。だから計画を実行に移した。ちょうどよかったのさ、タイミングって奴?』
マジカルロウが指を立てた。再び、光が収束していく。
「……だから、そんな事聞いてんじゃねえよ」
その光の持つ力がどれ程のものか、それが解き放たれたら、全てが蒸発する。それをわかっていて、デスクイーン57世は吼えた。
「お前がどんな人生送ってきたかなんて興味ねえんだよ――
『そうだよ、だって今の私は神様だもの』
指を動かす、終わりの合図、光が膨れ上がり、全てをまた、飲み込む。
『お疲れ様、魔法少女達。楽しかったよ、そしてありがとう、この体に生まれ変わることが出来たのは、紛れもなく君達のお陰、だから、苦しまずに消してあげる、バイビー』
光の帯が放たれた。視界が真っ白に染まる、全てを飲み込み蹂躙する、神の権能。
「たわけ」
――――斬った。
光の帯が、中央から真っ二つに裂けた。誰が何をしたなどと、今更考えるのもバカバカしい。
神に逆らえるのは、暴君だけだ。
プリンセス・ルージュは、剣を携え、神の決定を覆した。背後にある全てを守りきり、それでいて尚、揺るぐ事なく。
『――――へえ、頑張っちゃうの? ロジカルカオスに敵わなかった君が?』
「はて、誰の名前か、それは。どうでも良すぎて、記憶の一欠片すら使うのが面倒だ」
真紅の暴君は、高らかに告げる。
「貴様が神だというのなら、神に至り、神のまま死ね。余は貴様の存在を、許さない」