THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

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サブタイの通り、ラグナガンドが管理局へ宣戦布告! そして今話はラスボスキャラ登場回です!!

ちゃんとしたラスボスキャラを登場させるのは今まで二次創作を書いてきて初めてなので、緊張するぜぇ……。(ドキドキ)




遥か無限の(そら)へ! 破壊の柴竜、管理局へ宣戦布告!!

「“デモンストレーション”……や……て……!!?」

 

ラグナガンドによる機動六課襲撃の真相を聞いてはやては衝撃を受けたように表情を強張らせた。 その内容があまりにも不可解であったが為に彼女の瞳孔は小刻みに震えて映像に映るボルマンに焦点を合わせる事ができずに輪郭が二重にブレて見える。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「“デモンストレーション”って、それはいったいどういう意味だっ!!」

 

身体の芯から震えてくる動揺に続く言葉が出せないはやてを補助するべくなのはとフェイトも前に出て来てはやての両脇に並び立ち、愉悦も弁解もする気配もない硬い無表情で見下ろしてきているボルマンに二人はその真相の説明を求めた。

 

“デモンストレーション”とは勢力・技能・性能などの有能さを示したい相手に対しそれが現実である事を実演して見せて強く印象付けさせる行為を意味する。 戦争目的のデモンストレーションでそれが先程の襲撃戦となると、恐らくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

確かに六課には総合SSランク魔導師である部隊長のはやてをはじめとして、夜天の主の守護騎士であるヴォルケンリッター達に過去数年で数多くの検挙数を挙げている名執務官のフェイト、そして数々の難事件を解決してきた不屈のエース・オブ・エースであるなのはなど、いずれも管理局の主戦力が一堂に集められている異常と言える(少なくとも時空管理局という組織内に限定すれば)最精鋭部隊である。 故にそんな彼女達が手も足も出る事なく蹂躙されたとなると、管理局はラグナガンドの戦力の強大さに恐れ慄き局全体の士気が駄々下がりになってしまうだろうという想像は容易につく。

 

しかしその効果を発揮するには()()()()()()()()()()()()()()()初めて達成されるものだ。 時空管理局程の巨大な組織ならば自分達の不利益になる事柄を下に伝わらせないように隠蔽する事など容易に可能だろう。

 

なのでただ強襲部隊を送ってなのは達を蹂躙したところで局全体の士気に限定するならば影響は少ない筈だ。 下から来る真実を追求する声に対して口を閉じておけばそれの証拠材料と成り兼ねない戦いの爪痕をロストロギアの暴走だのなんだので言い訳する事ができる。

 

故にこの襲撃戦を管理局への深刻な打撃とさせるならば──

 

『サー! たった今緊急回線で三者からの通信が繋げられました! 至急モニターに投影します!』

 

襲撃の目的を究明する姿勢で事を構えているとまるでこのタイミングを見計らったかのようにフェイトの手に持つバルディッシュの核が唐突に点滅しだし、男性的な機械音が自分の主にそう伝えて来た。 すると間を置かず迅速になのは達三人の眼前に通信回線用の小空間モニターが三つ展開された。

 

『なのは! フェイト! はやて!』

 

『よかった、ようやく繋がったわ』

 

『はやて! 高町一尉にハラオウン執務官もなんとか無事……とは言い難そうですが、なんとか生きているようですね。 よかった……』

 

「クロノ君!?」

 

「リンディ母さんも!?」

 

「カリムまで……」

 

その三つの空間モニターにそれぞれ映し出された三者はいずれも六課の隊長達に縁が深く、聡明な存在感を確かに感じさせているのだが、一人の例外なく急かすような焦燥を浮かばせている。

 

フェイトの義兄にしてXV級次元航行艦《クラウディア》艦長の《クロノ・ハラオウン》提督、その実母でフェイトの義母にして本局の総務統括官を勤める《リンディ・ハラオウン》、そしてはやての友人であり管理世界に浸透している《聖王教会》騎士団騎士であると同時に名目上だが管理局の理事官の席に身を置いている《カリム・グラシア》──モニター越しではあるものの機動六課設立を大いに助力した後見人の三名が今此処に顔を揃えたのであったが、その焦燥と額から流れ出ている冷汗から察するに穏やかな用件で通信を繋げてきたのではないだろう。

 

「い、いったいどないしたんや三人共? 皆そないに血相を変えて」

 

『大変だ、深刻な事態になった! 先程から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしく、君達の隊舎が襲撃者の巨大な魔力刃に破壊される映像が強制的に全モニターに映し出された為に艦隊中が機能不全に陥ってしまっているんだ!』

 

「な……なんやてぇぇっ!!?」

 

『本局の通信回線も多次元ネット回線も同じ状況だわ。 おまけに一般のテレビ放送にまで貴女達と襲撃者の戦闘が放送されてしまって、貴女達がやられかけた場面になったあたりから事情説明を求める連絡が管理世界中から殺到して後を絶たないの。 おかげで職員達はその応対に追われてしまって、本局中もうてんやわんや』

 

『それでその、たった今宣戦布告の話がされたところで管理世界中が大パニックに陥ってしまって、教会騎士団の方でも総力を揚げて事態の対応にあたっている状況なのです。 既に至る世界で事故が多発して死者も出てしまっているわ!』

 

「そ、それって……」

 

「管理世界中の通信放送が……」

 

「ラグナガンドの連中によって……掌握(ジャック)されたっていうんかいなっ!!?」

 

三人の後見人から齎された衝撃の事態になのは達三人は青ざめた。 敵の六課襲撃の真の狙いはコレだったのだ。 管理世界全ての通信放送を乗っ取り、管理局の絶対的エースとして管理世界中に名を馳せているなのは達を僅か一個中隊で圧倒・蹂躙する映像をリアルタイムで全管理世界に放送する事で管理世界中を恐慌状態に陥らせ、管理局の信用を地に堕とすという、襲撃前にはもう既に仕組まれていた企てだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだという事だ、次元王軍ラグナガンドという侵略者達が管理世界に侵攻を始める際に時空管理局に与える痛恨の初撃として……。

 

『聞けぇっ! 時空管理局の統治と守護という微温湯に浸かり、戦火を排する法に身の安全を委ね、自らは何もせず堕落を謳歌し続ける事を良しとする管理世界の民衆共よ!!』

 

ラグナガンドの襲撃の目論見を知って既に罠に嵌められていた事に愕然と戦慄するなのは達を見て策は成ったと確信したボルマンは今こそ好機とばかりに片腕を盛大に高く掲げ、全管理世界に向けて高らかに演説を開始した。

 

『諸君らが絶対無敵と信頼を寄せる管理局のエースの小娘共が集いし部隊は、見ての通り我が破壊の柴竜の爪牙によって無力にも容易く没した! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実が白日の下に晒されたのだ!!』

 

不屈のエース・オブ・エース、心優しき金色の閃光、歩くロストロギア夜天の主が一堂に集結した時空管理局最強の精鋭部隊、機動六課は次元王軍ラグナガンドという未知の侵略組織によって手も足も出せずに敗北を喫したという衝撃的絶望の事実は奴等に掌握された全ての通信放送を通して管理世界全域に余すことなく伝わり、管理局の統治と法に日常を護られて生活している管理世界の住人達を恐怖と絶望に陥れて狂乱に堕としていく。

 

何処へ行くかも判らずに逃げ惑い出す女子供、何かの間違いだと立ち尽くす老人、事の真相を求めて通信端末機で管理局の情報課に抗議の連絡を入れる大企業の社長、自分達が忌々しく思う管理局のエース達が更に上のチカラに屈し潰された事に「ザマァッ!」と狂喜乱舞し始める弱小次元犯罪組織、平和は終わったと気を狂わせて暴動を起こすニート。 時空管理局の絶対的な守護と法の下に平和が約束されていた管理世界は瞬く間に混乱の渦へと堕ちていく。

 

『諸君らの平穏の日々は今日という日をもって終わりだ……これより我が次元王軍ラグナガンドは時空管理局が統治する管理世界への侵攻を開始する!!

 

次元世界全ての映像越しに高く掲げられていたボルマンの腕がチカラ強く振り下ろされると同時にラグナガンドによる時空管理局への宣戦布告が為されたのだった。

 

『我らが管理局に要求するのは無論、“管理世界の統治権の譲渡”! 我らが《次元王》の理想とする世界を創造する為に、戦火の中に散り征く魂はその(いしずえ)とさせてもらおう!!』

 

「そ、そんな……」

 

「ふざけるな、何を勝手な事を……ッ!!」

 

「チッ、あの戦争狂共め……」

 

なのはやフェイト、烈槍の少女がボルマンの過激な言い振る舞いに背徳的な思想を感じて動揺し悪態を吐いている。 どうやら空間映像越しに演説中のボルマン及びにラグナガンドの構成員達は皆“次元王”と称される何者かに狂信的な忠誠心を抱き長としているようだが──

 

『その《次元王》たる我が軍の偉大なる長──《ラプス・グロースシュタット》総帥閣下は現在、多忙故に軍本部を留守にされている為、その間の軍総司令代理を任されているこの私、《ターデルン・ボルマンが》畏れ多くも代役として宣戦布告を務めさせて頂いたが……本部を空けられる前、グロースシュタット総帥閣下より諸君ら管理世界の全民衆へのメッセージを預かっている。 最後となるが、心して聴くといいっ!!』

 

その《次元王》がどの様な人物なのかは今此処で明かしてもらえるらしい……ボルマンがそう言い放つと黄昏に染まった空に浮かぶ巨大空間モニターに映っていた彼の姿が消えて画面の中が薄暗い玉座の間の様な場所に切り替わる……その刹那、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に機動六課隊舎跡地に立つ戦士達は心の臓を貫かれるような衝撃を覚えた。

 

「「「「「「「──ッッッ!!!?」」」」」」」

 

玉座の背に幻視するは(そら)と破壊を司る紫の竜、座する半裸の肉体は無駄が存在しない人体の黄金比、竜の牙が画面を粉微塵に突き破って来る錯覚を見させられるようなこの世のモノとは思えない程絶大な重圧(プレッシャー)は人間が生み出した数字では表しきれない程果てしなく重く、まるで戦神か何かが持つ黄金の槍の矛先を首元に突き付けられたかのようにその存在を認識してしまった総ては戦々恐々と立ち尽くしてしまう。 首から上は陰に遮られていて視認できそうにないのが幸運だろうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()生物の本能が告げる、この男の存在は尋常では断じてないと。

 

『次元の海の法と守護を司る時空管理局の戦士達……並びに平和を愛する管理世界の民達よ──』

 

陰の中に浮かぶ口元は常に不敵な笑みを造り、声が映像内の薄暗い玉座の間と外の黄昏の大空に響き渡った瞬間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 民衆の狂乱はその一声によって荒波が氷漬くかのように鎮静し、事の鎮圧に動いていた管理局員達もまた氷の針で地に縫い留められるかのように足を止めてしまう。

 

『──俺はラグナガンド軍総帥のラプス・グロースシュタット! 皆からは《次元王》と称されて呼ばれている、至高天の先を目指す者だッ!!』

 

“声にはチカラが宿る”と俗に言うが、この男の声に内包された覇気は逆らう者を地中深くの地獄に堕とす魔王の如き圧力とは一線を画していた。 寧ろその例えとは逆にこの世の総ての存在を遥か高みの(そら)へと引き上げるかのような引力を感じさせる。 翼をはためかせて彼と共にどこまでも飛翔して行きたい、彼が行き着く空の果ての至高天を後に続いて行きこの眼に収めてみたいと──

 

『至高の高みとは自らの翼をもって飛翔し続けて征く無限の(そら)ッ! 理想の世界を願い求めるならば他に任せず己で勝ち取ってみせるがいい!!』

 

だがその声に引き上げられた先は至高天という楽園とは断じて違う。 それは何処まで飛翔して征ったとしても終わりの極点が存在しない無限天獄に他ならず、太陽に焼かれ、天元を突破し、至高天を突き抜けても尚高く飛翔し続けて征く終わりなき空路を旅する運命。

 

『俺は総ての高みへの意志を肯定する! 故に総ては己が理想を叶える為に争え!!』

 

魅せられて飛び出したら最後、もう自分の意志では戻れないだろう。 何故ならその意志はもう既に果て無き永劫の(そら)へと飛翔して征く竜に囚われているから。

 

『愛、夢、平和、富、名声、チカラ、探求、世界征服……より高き理想を求めんと手を伸ばす意志は何であれ貴く輝かしいものだが、世の皆が統べからず同一の理想を願う事など有り得はしない、故に異なる人同士は理想を求め征く道を相容れさせる事などできぬ……故に戦争を! 譲れぬが故に勝利を! 命を燃やし鉄風雷火の三千世界を翔け抜けろッッ!!』

 

他人を思いやるが故に妥協する堕落など許さない、叶えたい理想があるのなら激突する他人を蹴落としてでも飛翔しろ。

 

『黄金の戦火に抱かれ、共に遥か理想の高みへと、身が砕け散るまで競い合おう──《(オオ)イナル黎明》を目指してッッ!!

 

『総てを無限の(そら)へと引き上げる』、それこそが次元王ラプス・グロースシュタットの覇道。

 

『“果て無き永劫の(そら)”は此処に在り! 次元の海の法と平和を守護する管理局の戦士達よ、並びに今こそ己が理想を叶えんが為に立ち上がらんとする強者達よ。 願わくば互いの悲願を懸けた戦場にて相見え、磨き上げた矛を交えて共に魂を限界まで凌ぎ合える決日があらん事を!!』

 

譲れぬからぶつかり合う。 その不屈の意志が戦争への引き金となるのだ!

 

我が軍に勝利を(ジーク・ラグナガンド)! 管理世界の戦士達よ、いずれ戦場でまた会おう! さらばだ(アウフ・ヴィーダーゼン)!!』

 

これにて時空管理局と次元王軍ラグナガンドの初戦は終幕! 組んでいた両腕を解き、チカラ強く握った右拳を突き出したラグナガンドの首領は次元世界中に破壊の柴竜の威光を示すように盛大に宣戦布告を締め括ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊の柴竜の脅威が一時的に過ぎ去った後に残ったのは焼け野原に漂う静寂な微風だけであった……。

 

空を支配していた巨大な空間モニターが役目を終えて消失した事で何もかもが焼失してしまった南駐屯地A73区画に悲愴な黄昏が照り付けて来ている。 海は沈んで行く夕陽で水平線が黄金色の麦畑のように輝いていて海岸線に響く小波の静謐さ加減が、なのは達の周囲一面に広がる殺風景の無情な切なさをこれでもかと演出していた。

 

「何も……できへんかった……うぐっ……私は……理不尽な運命に立ち向かって行く為に……大切なものを護る為に……うぐっ……機動六課を……創ったというんに……うぅっ!」

 

チカラ及ばず奪われた悔しさとどうしようもない哀しさに打ちのめされ、その場に両手を着いて這い蹲り、強く食い縛った両瞼から溢れ出る悔し涙と共にはやては行き場のない泣き言をとても堪える事ができずに吐露していた。 長い時間をかけて彼方此方から支援を貰ってきた事でやっとの思いで設立できた念願の夢の部隊は始動したその日に簡単に叩き潰され、皆の未来への希望が詰まった隊舎(いえ)は襲撃者の魔法によって跡形も残らず焼き崩され荒野と化し、共に降りかかる脅威に立ち向かって行く筈だったグリフィスをはじめとする仲間達の命は無情にも襲撃者達によって奪われて逝ってしまった……完敗だ、過去に“PT事件”や“闇の書事件”といった数々の難事件を解決してきた管理世界の英雄たる戦乙女達は破壊の柴竜の爪牙に完全な敗北を喫したのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と信じておった……なのはちゃんが……フェイトちゃんが……ヴィータ等私の自慢の家族達が……そして私が……一緒に今までの困難を乗り越えて来た信頼できるみんなが集まったこの機動六課なら……誰にも負けないと……護れると……信じておったのに……うぅ……うわあぁぁぁぁぁぁあああああーーーーーっ!!!

 

「はやてちゃん……」

 

「はやて……」

 

『はやて……』

 

『……』

 

世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばかりだ……そんな事は昔から解っていたつもりだったが、こんなの……あまりにも……ッ!!』

 

焼け野原に蹲って悲しみに泣き崩れたはやてを見て彼女と同じ想いを抱く同志達は胸が締め付けられるような悲痛に心を苛ませている。 手も足も出ずに負けて大切な多くを奪われてしまったのは彼女達が弱かったからではない、()()()()()()()()()()()()……しかし次元世界の法を統べる司法組織の者としてそれを犯罪組織に後れを取った言い訳にする事など許されない。 この大失態で六課の部隊長であるはやてには多大な責任が背負わされる事となるだろう。 将来有望な若手を引き抜いた各部署や部隊設立反対派、そして襲撃戦による余波の被害に遭った付近の住民達からの糾弾が飛んで来る事も覚悟しなければならない。 何よりもこれでは殉職してしまったグリフィス達が浮かばれない故に、それがなんとも不憫でならなかった。

 

「あ~あ、こりゃあ派手にやられちまったなぁ、オイ」

 

「うん、新部隊の隊舎は大規模の改築工事をして最新の設備を取り揃えてるって噂を聞いたけれど、もう跡形も残っていないから確かめようがないや。 あ~あ、どんなのだか一度見学してみたかったんだけどな~、残念……」

 

そんな悲壮感漂う場が形成された中で空気の読めない《破戒狼(ゲオルグ)》と《切燕(スパーダ)》の二人がなんとも情緒の無い事を口にする。 幸い彼等ははやて達から離れた位置に居た為に彼女達には聞こえなかったようだが、代わりに側に立つ朝百合の少女と白雷の騎士から批難の視線が向けられた。

 

「ちょっと二人共!? こんな時になんて事を言うのよっ!!」

 

「その発言は失言が過ぎますよ。 悲しみに暮れている場合ではないのはわかりますが、言葉を選んでください」

 

『そうですよ! ほんっとこの二人はデリカシーが無いんですから、気を付けてください。 繊細な女の子の心は傷付きやすいガラスの工芸品なんですからね! 次言ったらこの切っ先でその汚らわしい股にぶら下がったモノをブッ刺しますよ!!

 

「へいへい、わかりましたよっと」

 

「えっへへ、ゴメンネ☆」

 

デバイスにまで咎められた空気の読めない男二人は反省の色もなく謝罪する。 内心を隠す姿勢も見せない何所吹く風の二人にシルバーガスト小隊内において比較的に常識的な感性を持っている二人が本当に解っているのかというジト目を向ける一方、氷眼の少年と烈槍の少女は辺りの惨状を見回して今回の襲撃での被害状況の大凡を分析していた。

 

「ひでぇなこりゃあ、規模がデカ過ぎる。 この南駐屯地A73区画にはもう雑草一つ残っていねー上に先の先の区画までラグナガンドの奴等が放った破壊魔法でブッ壊されていやがる。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「ああ……そうだな……」

 

烈槍の少女の推測を聞いて氷眼の少年は上の空で頷いた。 少年は何かを深く考え込んでいるあまりに意識の焦点が合っていないフラ付いた様子だ、その為烈槍の少女はサバサバした性格故か自身の奇抜な紅い頭髪を片手で掻きながら飄々と言った。

 

「ラグナガンドの総帥、予想以上のバケモンだったよな……」

 

「……ああ」

 

「さすがのアタシもビビっちまったぜ、なにせモニター越しの記録映像であの気当たりだしな。 ()()()()()()()()()()()()っつーか、心のハートが氷らされるっつーか……今のアタシ達じゃ到底敵う気がしねぇ……」

 

「……」

 

「あの男……お前と同じ《黎明(フィンブル)シリーズ》の聖遺物持ちだって、あの包帯ヤローが口にしていたけどよ……深く気にすんなよ?」

 

どうやら氷眼の少年が何を考え込んでいるのかはお見通しだったようだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その圧倒的な存在感を全管理世界に示してみせた《次元王》グロースシュタット……映像越しにも拘わらずにその存在感から来る異次元の重圧(プレッシャー)と発した声を耳にしただけで無限の大空を燃やす太陽の灼熱に自身を焼かれる幻視をしてしまう、遥か(そら)から見下ろす破竜を連想させるケタ違いの怪物……もし直接奴と対峙していたらと思うと言葉にならない。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アタシだって記憶障害の所為で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事なんてまるで憶えちゃいねぇのが不安だ。 偶になんらかで()()()()()()()()()が頭ん中に鬱陶しくデジャヴるし、さっきもあのフェイトって金髪の声を聴いた瞬間に()()()()()()()()がチラついたりもした。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、アタシはアタシだ。 だからさ──」

 

そう言って気さくな笑みを浮かべ、烈槍の少女は片腕を氷眼の少年の首の後ろにまわしてグイッと引き寄せる。

 

「もっと気楽に構えて行こうぜ! そりゃあ“常在戦場忘れるべからず”ってぇのも大事だろーけど、気を張り過ぎてもしょうがねーだろ、隊長(リーダー)?」

 

そう言ってフレンドリーにじゃれ付く姿は微笑ましく、豊満な胸脇に頭を抱えられて鬱陶しそうにむくれ顔をした少年が女顔の為に傍から見たら仲の良い姉妹のように見えるだろう。 口振りからして彼女も相当複雑な事情を抱えているだろうに、その気丈な振舞いはまさに良き姉のような温かな抱擁感があり、少年はアイスブルーの眼を恥ずかしそうに半開きにしながらもその安心感に元気づけられて少しだが不安を緩和できたようだ。 その証拠にむくれていた顔にはいつの間にか微笑を浮かばせていて、もう大丈夫だから放してと言わんばかりに首に回されている腕を振りほどいた。

 

「気を遣ってくれなくても大丈夫だ、歳が近いお前に子供扱いされる程俺の心は弱くない」

 

「ふ~ん、そう言ってる割には顔が朱くなっているじゃないか。 なんだ照れているのか? かわい~な、ウチの隊長さんはさ♪」

 

身動きがとれるようになった氷眼の少年は再びジト目になってニヤニヤと悪戯の笑みを自分に向けてきている烈槍の少女に強がってみせるが、照れ隠しが下手である故に簡単に見破られて揶揄われ、余計に羞恥心を煽られた少年は更に頬を濃い朱に染めて平静を装いながらもこの場から隊ごと退散する意を顕す。

 

「……行こう、任務は終わりだ」

 

「んー、それはいいんだけどさ。 お前、あのエース・オブ・エースの子には何か言っていかないのか?」

 

少し遠目で悲愴に暮れているなのは達を背にスタスタと他の小隊メンバーが集まって談笑している場に歩き出して行こうとすると、烈槍の少女に呼び止められて一旦足を止める。 彼女の言っている意味が理解できなかった為に少年は背を向けたまま肩を竦めて聞いた。

 

「どうしてだ? 任務を達成したなら長居はせずに速やかに帰還するのが基本だろう」

 

「そうだけどさ。 お前あの子と()()()()なんだろう? さっきもやけにいい雰囲気だったみたいだし。 ()()が今あんなにしょぼくれた顔してるってのに、お前は少しも()()を元気付けようとしねーで帰っちまうのかな~って?」

 

そう聞き返されると少年は言葉を詰まらせた。 言ってきた内容の内の数ヶ所があまりにも的外れだったからだ。

 

「……アイツとは昔馴染みでも恋人同士でもない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 元気付けるにしても部外者の俺がどうこう言ったところで仕方がないだろう、そっとしておいてやれ。 この場において俺達にできる事はもうなにも残ってはいない」

 

冷淡にそう答え終えると止めていた足を再び進めだして行く。 冷たいように感じるかもしれないがこれでも気を遣っているのだ、何故ならば彼女達の積み上げて来たモノの重さは彼女達に深く関わりを持つ同志にしか解らない、故にその同志でもない自分に彼女達に語る資格は無い。 「何も知らない君に何が解る、知った風な口を利くな」と余計に傷付けて追い返されるのがオチだろう……「解ったならもう行くぞ」と背後の烈槍の少女に促しつつ歩みを進めようとしたその時、背後から彼女とは別の少女の声に再び呼び止められた。

 

「ま……待って!

 

意外な第三者の声に思わず進めていた足を再び止めて振り返る少年、すると其処に必死な形相をして叙情的な碧い瞳をこちらに向けて来ていたのは──

 

「行かないで……今度こそちゃんとお礼を、言わせてくださいっ!!」

 

無論、管理局のエース・オブ・エースにして氷眼の少年が八年前に命を救った不屈の心を持つ少女──高町なのはであった……。

 

 

 

 

 

 




顔見せはまだでしたが、ラグナガンド総帥《ラプス・グロースシュタット》の演説、どうでした?

彼の渇望は『総てを無限の(そら)へと引き上げる』。総てはより高き理想に手を伸ばし飛翔するべし! 故に人々よ、己の理想を手にする為に身が砕け散るまで争え! 他に譲るな!! という戦争的価値観を持っています。 平和的思想も否定したりはしませんが、「ならば戦って勝ち取れ」とどこまでも戦争思考……。(汗)


さて、次話でようやく序章前編は終幕の予定です。 章の最後にして闇堕ちしたあのツンデレガンナーが初登場か? お楽しみに!!


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