THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

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序章後編、開幕です。 前編の展開から見て予想はできていると思いますが、かなり胸糞悪い内容から始まります。 はやてファンの読者様方は特に閲覧注意!



序章後編、『翼を折られた戦乙女達は喪失の翼(ロストウィング)へとその身を堕とす』
希望の翼を折られた戦乙女達は絶望の淵を彷徨う


「──部隊人員の損害四十二名。 隊舎全焼及びその敷地を含むミッドチルダ南駐屯地A73区画とその周辺区域約200kmの焦土化。 更にはその先の区域・市街地にまで被害を及ぼし、管理局員・一般住人合わせて約七十万人が死亡、約三百万人が重軽傷を負う。 挙句これらの被害を及ぼした襲撃犯……いや、反逆者共には無様にも蹂躙を許し完敗を喫したうえ、奴等に掌握された通信放送にその醜態を全管理世界に晒した事により管理世界全体を恐慌状態に陥らせる、と……」

 

広く真っ白な密室の中央に設置されている一つの机を半円に囲い見下ろす形で存在している高めの壇上の席……そこから中央の机の前に立たされている女性局員に向けて非常に厳しい、或いは嘲るような視線を集めている本局所属の高官達──

 

「……成程、これはこれは、改めて内容を纏めてみると随分と取り返しのつかない大失態を犯してくれたじゃないか。 ええ──八神はやて二等陸佐?」

 

その中央の机の前に立つはやてに正面から向き合い見下ろす形で壇上の中央に座る男性局員──恐らくは議長であろう人物が事の内容を口頭で纏め終えると今述べた内容が正しいのかどうかを嫌味を含む形ではやてに確認してくる。

 

「……はい」

 

はやてはそれを俯いたまま覇気無く肯定する。 彼女は今現在精神が相当磨耗してしまっている状態にあり、眼に生気が宿っていなく、まるで生ける屍のように暗く沈んだ雰囲気を感じさせていた。

 

此処は時空管理局本局内の一角に存在する査問会議室だ。 次元王軍ラグナガンドが管理局に向けて宣戦布告を表明してから一夜が明けた日の夕刻、機動六課の部隊長である八神はやては地上たる第1管理世界ミッドチルダに多大な被害を及ぼしてしまった襲撃戦での完全敗北の全責任を背負い、本局からの査問会の招集に応じて今此処で本局上層部の高官達に襲撃者に敗北し敵を取り逃がしてしまった部隊の失態について詰問をされている。 失態を犯した彼女らの処遇をどうするのかを決定する為だ。

 

通常ならば犯罪者及び組織に敗北した場合の処分については本局からの書面が送られて来る程度の事後処理で済まされるものなのだが……機動六課が喫してしまった敗戦の影響は管理局にとってそれではとても済まされない程の大規模な損害を及ぼしてしまっていた。

 

「君も既に知っているとは思うだろうが、昨日その反逆組織……確か“ラグナガンド”だったか? 奴等が管理世界全ての通信放送を乗っ取って行った管理局への宣戦布告とデモンストレーションとやらの影響を受けて管理世界中の一般住民達が不安と恐怖に晒されていて暴動を起こす者も多く、我々の管理が全てに行き届かない程に秩序が乱れに乱れた状況にある」

 

「……」

 

「君が設立した一年限りの試験稼働部隊──古代遺物管理部機動六課は()()()()()()()()()()()()()である高町一等空尉をはじめとした本局の主力と言えるトップエースや優秀な成績を得て陸士訓練校を卒業し将来を有望視されている若手が集まった最精鋭部隊、所謂事実上の管理局最高戦力であるわけだが()()()()法と秩序を乱し揺るがす不届きな犯罪者や反逆者共に後れを取る事など許されはしない……何故だかは君も判っているだろう?」

 

まさか忘れたわけではないだろうな? そう議長の鋭い視線が圧力を掛けて訴えて来る。

 

「勿論……です。 時空管理局(われわれ)は次元世界の法と秩序を統括し平和を維持できるよう日々統制管理を行う正義の船……局に勤める魔導師は次元世界に住む人々と平和の守護者であり、故に中でも取り分け優秀で精強な魔導師である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が為、法と秩序に仇なす悪に後れを取り、墜とされる事は絶対に有ってはならない……何故なら最強の魔導戦闘能力をもって他を圧倒し勝利を絶対のものにできる無敵のエース達は他の局員達の模倣であり、また人々の希望でもある。 故にエースが墜ちない限り次元世界の法と秩序は揺るぐ事はない……エースが敗れない限り人々は安心を失わずに日々の日常を平和に過ごす事ができるのだから……です」

 

気まずい雰囲気の中、はやては議長が投げ掛けた問いに途切れ途切れの口調で言い辛そうに答え切る。 すると議長は更にはやてに向ける視線を鋭くしてくる。

 

「その通りだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだよ。 今の君達はその内容と実に矛盾しているとは思わないかね?」

 

その視線にははやてに対する明らかな卑しめが孕まれている。 何も言い返せない気鬱に沈黙し非常に辛そうに俯くはやてを取り囲んでいる壇上の席から彼女を見下ろしている高官達も全員が彼女の無様を嘲笑うかのような侮蔑を孕む歪んだ眼をしていた。

 

「今現在我々の管理下にある世界の住民達がラグナガンドとかいう反逆組織の脅威に怯え、自分達が過ごしていた日常が戦争によって壊されてしまう危機に不安と恐怖を覚え大混乱に陥ってしまっている混沌とした状況なのも、その大混乱により管理世界各地で暴動が相次いでいる所為で全管理世界の管理体制が壊滅状態になり未だに回復しないでいるのも、反逆者共の宣戦布告の影響で局全体の局員の士気が極限まで落ちてしまっているのも、全て──」

 

……もういい、やめてくれ。

 

分かっていますっ! 全て……全て私達機動六課が……襲撃してきたラグナガンドの強襲部隊を相手に手も足も出ず圧倒され……無様な敗北を喫してしまったからに他なりませんっ!!」

 

これ以上聴くのは耐え切れないとはやては議長の小言を遮るように議題の結論を叩き付けた。

 

「部隊稼働の初日だからといって周辺区域の警戒を怠り、その所為で敵の襲撃を未然に防ぐ事ができず局員として将来有望な部隊の人員の多くを失わせてしまい。 更には敵中隊長とその配下の魔導師による大規模破壊魔法の行使をまんまと許してしまった所為で隊舎を設けさせてもらった駐屯地周辺の基地や街が被害が往き、七十万人もの罪の無い命が犠牲に……うぅ……ぐすっ」

 

頭を深々と下げて悔い嘆く彼女の眼からは心から懺悔しているのを証明するかのように悲哀の雫が零れている。

 

「私達はそんな許されざる最悪な襲撃者達に無様にも後れを取って敗北した挙句、襲撃者達の企てた策略にまんまと嵌められてしまい……絶対に曝してはならないエースの敗北を……守護するべき管理世界の人々に見せしめにされ……ぐす……管理世界中が……戦争の恐怖に……うぅ……ごめんさない……ごめんな……さい……っ!!」

 

泣いて謝ったところで戦争が起きなくなる訳でも世界中の不安と混乱が治まる訳でもない。 自分達の失態を懺悔するように謝罪を言い終えたはやてを見て議長は慨嘆混じりに呆れ嘆息する。

 

「八神二佐、君はまだ若い。 失敗して嘆きたい年頃なのは我々とて理解しているが、事態は深刻を極めているのだ」

 

そう、機動六課(エース達)が襲撃してきたラグナガンドの第二二六強襲中隊に敗北した事実が管理世界中に知れ渡った事で深刻な損害を被ってしまったのは、なにも一般住民達の信頼と日常だけではない。

 

「機動六課を地上に設立する事を了承したのはかの《伝説の三提督》が賛同していた事もあるが、それ以上に機動六課(君達)という主力級の精鋭部隊の制御を本局(われわれ)が直接行使でき、且つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、君が約束したからだ」

 

機動六課はなのはやフェイト等トップエース級の前線指揮官が人員に組み込まれている事が目立っているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 この人員構成なら普通、今回のようになのは達が犯罪組織に敗北する事態になったとしてもその情報が地上部隊やメディアに知れてしまう前に部隊を解隊して本局の信頼と利益に深刻なダメージが行かないようにできる筈なのだが──

 

「だが、結果はどうだ。 ラグナガンドとかいう反逆者共のデモンストレーションとやらで我々の回線を含む管理世界全域の通信放送が全て乗っ取られ、君達が奴等に後れを取り完敗を喫する無様をリアルタイム映像で全ての管理世界に曝してしまった為に、我々管理局が次元世界の平和と民間の安全を約束するという絶対的信頼が今、揺らぎに揺れて崩壊寸前のところまでいっている事を、君ももう察せているだろう!」

 

「仰る通りです……」

 

「まったく、どうしてくれるのかね? エース・オブ・エースである高町一尉を筆頭に局の最精鋭が揃っておいて何所の馬の骨か知らない襲撃者共に後れを取った事が敵の策略によって本局・地上問わず局全体にも公にされた所為で局員達の士気が下がりに下がってしまって、情けない事にこの一晩で既に局が抱える魔導師や騎士の内約数百人が臆病風に吹かれて辞表を提出する始末だ! ただでさえ管理局の魔導師や騎士は人手不足だというのに、この体たらくでは碌に反逆者共を迎え撃つ準備もできんわ!」

 

「返す言葉もありません……」

 

「それから昨晩、地上本部統括の《レジアス・ゲイズ》中将が通信回線を通じて我々に機動六課の即解隊を要求する声と六課の部隊長である君に地上の損害責任を追及する連絡が入ってきている。 ──『地上を預かる儂に黙って本局の部隊を設置しおっただけでなく、ラグナガンドなどという反逆組織に襲撃を許したうえ、敗北するなどという無様な体たらくを働きおった所為で遥か昔から儂等地上部隊が大切に守ってきた地上を反逆者共の蹂躙によって破壊された挙句、儂等地上部隊の数少ない貴重な人材資源とミッドの住民達の多くの命が損なわれてしまった。 これは地上(わしら)の尊厳を最大以上に侵した許しがたい侮辱に他ならん! 故にこれ以降、本局所属の魔導師(貴様等)は二度と儂等の地上で好き勝手するでないぞ! もしこの言いつけを破ったりしたなら貴様等、もう二度とミッドの土を踏む事は叶わんと思え!!』──とかいう喧しい戯言まで残してな」

 

「……」

 

止まらなく次々と投げつけられて来る六課の失態に対しての叱責の数々を受け、はやてはもう言葉が出なくなる程に精神的に参ってしまっていた。 遥か古の時代から多くの人々を苦しめ続け、数々の世界を滅ぼしてきた魔導書の呪いに耐え続けられる程屈強な精神力を持っている彼女がこの程度の事でここまで酷く打ちのめされてしまっているのだから、昨日の六課壊滅は余程ショックだったのだろう。 無理もない、四年前からの夢であった自分の部隊がやっとの思いで始動した経ったの数刻で敵に襲撃されて壊滅し、共に降りかかる困難を生きて乗り越えていくと誓っていた部下達の多くが志半ばで命を絶たれ、絶対に護ってみせると思っていたチカラ無き人々を護る事は叶わず、挙句には揃えば敵などいないと信じていた家族と親友達が襲撃者の理不尽なまでの戦力を前にして手も足も出ずまるで矮小な虫ケラを踏み潰すかの如くいとも容易く敗北してしまったのだから……。

 

「まったく、だから私は反対だったんだ。 幾ら総合SSランクの魔導師だからといってまだ成人すらしていない子供などに一部隊の指揮が務まる筈がないだろうと!」

 

気が付けば議長の叱責に続く形で暗く俯いているはやてに蔑みの視線を集めていた高官達が悲観するような罵り声をあげている。

 

「あれだけ優秀な人材を他から引き抜いておいて情けない! 恥を知れ!!」

 

「将来有望な人材資源をよくもまあ……この損失は我々にとって大きな痛手だぞ」

 

「三提督方のお気に入りだからといって調子に乗った罰だな、うん」

 

「失望した、機動六課を地上に設立する為に費用をどれだけ消費したのか解っているのか?」

 

「彼女らの失態でレジアスをはじめとする地上連中も大分付け上がってきているな。 今のところ奴等は地上の混乱と本部に押しかけて来るマスコミの対応に忙殺されているようだから、今の内に我々の優位を巻き返す算段を……」

 

ざわざわと聞くに堪えないはやて達への罵詈雑言や戦争を前にしてやっている場合ではない政治戦略の考察などがタダッ広い真っ白な査問会議室に飛び交って酷く鬱陶しい。 確かに機動六課が犯した失態は管理局にとって無視し難い痛手となった、故に六課の部隊長(せきにんしゃ)であるはやてに責任を追及する事は避けられないのは分かるが、この高官共ときたら人を謀る事しかできないで何時も能力や地位の高い者に胡麻を擂る癖に自分達の保身が危ぶまれそうな場合はこうやって一貯前に文句を垂れる。 果たして無能はどちらなのやら……。

 

「静粛に!」

 

お約束(テンプレ)に倣い議長が木槌で机を叩く打音で高官達の口を止めさせる。 一応この場は査問会……まあ六課の敗北責任を追及する()()()()()()()()()()であって、裁判ではないのだが……。

 

「コホンッ! 聴いての通り、君達機動六課が犯した失態の余波は管理局、延いては管理世界全体に深刻な事態を齎した。 この責任は重大だ、故に君達には“相応の処分”を下さねばならないが……何か言いたい事はあるかね、八神二佐?」

 

有無を言わさぬ多人数の視線が眼下の自分に集められ、罪悪感を凄まじく増長させられるこの状況はまるで裁判長に判決を言い渡される直前の被告人のような重い気分を味わされる。 だがその判決を言い渡される前にどうしても言わなければならない事がある。

 

「確かにおっしゃる通り、私達が犯してしまった失態は次元世界の秩序に大きな亀裂を生じさせてしまいました。 エースと呼ばれながらも戦争を求めるような狂人集団などに無様にも敗北を喫してしまった事で多くの人々の命が犠牲となってしまい、戦争が始まってしまうという恐怖と不安が管理世界中の人々の心に植え付けられてしまった事で情勢が混沌としてしまった事には、正直情けなく思い、申し訳ない気持ちでいっぱいです……──」

 

心苦しい想いを議長達に重く吐露していくはやては「──ですが!」と唐突に俯いていた頭をチカラ強く上げた。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私の部下達は襲撃者達に全力を挙げて勇敢に立ち向かいました! それに比べて私はリミッターの解除申請が下りない事を理由にしてただ部下達が地に倒れていくのをみっともなく泣いて見ている事しかできませんでした! なので今回の失態の責任は全て私のみにあると言っても過言ではありません!」

 

──だからお願いや。 どうか……どうか私の大切な家族と友達にだけは!

 

()()()()()()()()()()()()()! これからずっと先未来永劫死ぬまで無償奉仕でも、戦争に最前線投入されても構いません!!」

 

それが部隊を預かる長としての責任というものだ……覚悟を決めた少女の眼差しを受け取った議長がはやてへの処分を言い渡す。

 

「では“《古代遺物管理部機動六課》課長及び総部隊長、八神はやて二等陸佐”。 管理世界全域に損害を齎した昨日の失態に対する処分として君の【佐官階級の剥奪】、並びに【本局への無期限無償奉仕】を義務と定め、これから先君は本局(われわれ)の命を最優先として活動する事。 ……また、部隊設立申請時に提示した条件と地上本部統括のレジアス・ゲイズ中将の要求に従い、【古代遺物管理部機動六課は一週以内の期間をもって解散】とする!」

 

これにて査問会は閉会となった。 大切な人達の立場と信頼を護る為に八神はやてという一人の少女の人生が犠牲になったという残酷で無情な結果を残して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──勇敢なる魂よ。 どうか安らかに眠りたまえ……エイメン」

 

翌日、此処第6管理世界《テレジア》の聖王教会支部葬儀場にて、次元王軍ラグナガンド第二二六強襲中隊による六課襲撃によって犠牲となったグリフィス・ロウラン二等陸尉(二階級特進)をはじめとする六課局員等──計四十二名の葬儀・告別式が執り行われた。

 

僧衣(カソック)を身に着けた紫色の頭髪をしている枯れ木のような印象の聖王教牧師による死者の魂を天に送る為の読経が終わり、棺桶に入れられた殉職者達の遺体が式に参列した彼等の肉親・知人達の涙に見送られながら火葬されていく……。

 

「母より先に逝ってしまうなんて、親不孝な息子だよ……」

 

参列者の中にはグリフィスの母にあたる《レティ・ロウラン》提督の姿もあり、母である自分より先に天へと昇って行ってしまった大切な息子が遺骨(グリフィスの身体は敵の対戦車擲弾(パンツァーファウスト)によって跡形もなく木っ端微塵になった為にはやてが拾った片腕だけだが)へと変わり果てていく様を、聡明な眼に涙を浮かばせて別れの祈りを捧げている。

 

やがて火葬は済み、神妙な悲しみに包まれながら六課の殉職者達の遺骨は教会支部のはずれにある《希望の丘(ホープ・オブ・ヒル)》の上に存在する管理局員の殉職者を供養する目的として設置されている墓地へと埋葬された。

 

「部隊長である私が不甲斐無いばかりに、希望と幸福に満ち溢れていた筈だった貴方達の未来が秩序に背く不届きな者達によって不幸にも奪われてしまう結果となってしまい、今も申し訳なさで大変心苦しく思っています。 今後はこのような悲しい犠牲を生まないよう私達管理局員一同はより一層の研鑽を積み重ね、無念に散って逝った貴方達に恥じないよう次元世界の平和を脅かす者達から必ずチカラの無い人々を護りきり、輝く希望の未来を掴み取ってみせます。 だからどうか……安心して天国へと行ってください──」

 

六課の殉職者達の遺骨が埋葬された十字架群を前にはやてが六課の生き残りを代表して彼等への送別を述べ、その背後には首にガーゼを巻いたなのはや全身包帯姿のフェイトをはじめとする六課の生き残り達が神妙な表情をして並び立って黙祷をする。 皆志半ばにして無念にも別れを告げる事となった仲間達が安らかに天へと昇って逝けるよう悲壮感を滲ませながらも真剣に彼等の冥福を祈る。

 

「──親愛なる同志一同の旅の無事を心から祈っています……一同、敬礼ッ!」

 

はやてが送別の言葉を述べ終え、右手を額に持ち上げつつ振り返らず背後に並ぶ部下達にそう号令を言い放つと、この場に立つ一同は部隊長に倣うようにビシッ! と一斉に敬礼を取った事で送別は終了。 はやてが今後の活動については後日改めて連絡を入れると皆に告げると、この場は解散となった。

 

「レティ提督、哀しそうにしていたね……」

 

葬儀は終わったというのに別れがまだ惜しいのか、なのはとフェイトは『グリフィス・ロウラン二等陸尉、此処に眠る』と字が彫られた十字架の前に残り、二人並んで再び祈りを捧げている。

 

「無理もないよ、自分のたった一人の子供が亡くなっちゃったんだもん」

 

「うん、だけどあの人はとても強いよ。 葬儀中は悲愴な表情をしていたけれど、葬儀が済んでグリフィスが埋められたこの十字架に葬花を添え終えたら──」

 

『次元世界の危機だっていうのに、多くの部下を預かる提督がいつまでも気落ちしちゃいられない』

 

「──って言って、毅然と気持ちを切り替えて本局へとトンボ返りして行っちゃったし……凄いよね」

 

「うん、そうだね。 負けて失ったものにいつまでも未練を捨てきれないでいるわたし達と違って……」

 

あの敗北は失ったものが多過ぎた。 護るべき人々の命と生活、積み上げてきたトップエースとしての尊厳、希望の未来を護っていく為の部隊、そして襲撃戦で亡くなって逝った四十二名もの同志達……それらを思うととてもじゃないが悔やみきれない。 魔導師として十年のキャリアを積んできたベテランであってもこの二人はまだ成人にも満たない少女なのだから。

 

「先日の襲撃戦でわたし達を救ってくれたあの冷たい眼をした男の子達が去って行った後、比較的に軽傷だったわたしとはやてちゃんは一晩の検査入院で済んで、FW(フォアード)のみんなは幸いにも気絶してただけだったからその日の夜には無事に目を覚ましたって聞いた……でもヴィータちゃん達やヴァイス君は命の危険に係わる程の重体で本局の緊急治療棟に搬送されて、一晩の手術の結果なんとかみんな無事に峠を越える事ができて意識も取り戻したみたいだけど、それでも怪我が酷すぎる為に今も病院で療養中。 フェイトちゃんも背中に重傷を負っていたから病院で応急手術を受ける事になったけれど、病院に着いて医師の人に背中の傷を診せてみた時には()()()()()()()()()()()()()()()()()んだったよね?」

 

「うん、たぶんあの氷眼の男の子が率いて来ていた救援部隊の一人が一度敵にやられて気絶した私を介抱してくれて、その時に飲まされた薬が効いたんじゃないかなって思うけれど……」

 

『おい、死ぬな! 眼を開けてくれ! 生きるのを諦めるなっ!!』

 

「……全てを突き貫くような槍型のデバイスと紅い炎を纏う鳥のような髪が印象的で、とても綺麗で逞しい感じがした女性だったなぁ……」

 

襲撃者の一人であるカッツェ・オルランドに不覚を取ってしまった事で背中に致命的な裂傷を負って倒れ、絶体絶命の危機となった自分の命を救ってくれた恩人の事を思い浮かべてフェイトは「それに比べて自分は……」と助けられてしまった己の不甲斐無さに意気消沈をする……それはなのはとて同じ気持ちだろう。 管理局に入局してから大変優秀な実績を収めて局内最優の魔導師を示す《エース・オブ・エース》の称号を貰った事で多くの人々から羨望と尊敬を集め、その信頼に応えようと今まで研鑽に研鑽を重ね彼女はその才能とチカラを磨き上げて大いに振るってきた。 それでもってその称号に恥じない成果を今まで上げてきたつもりだったが……。

 

「ねえねえ。 あの人って戦技教導隊の高町一等空尉じゃない?」

 

「あ、ほんとだ~。 どの面下げてこんなところに居るのって感じ~」

 

「この間ラグナガンドって侵略者共にテレビに放送が乗っ取られた事で映されたアイツの戦闘見たか? フルボッコだったぜ」

 

「“無敵で不屈のエース”だなんて詐欺もいいところだったよな。 あ~あ、オレあの人みたいな最強の魔導師になりたいって尊敬していたのにな~。 正直言ってあれ見て幻滅した」

 

「いつも【どんなに厳しい状況になったとしても諦めないで、諦めなければどんな困難でも必ず乗り越えていけるから】って言っててさ、馬鹿じゃないのって思ったわ。 所詮魔導師の世界は魔法の才能が全てなのにさ」

 

「自分がオーバーSランクの天才だからって調子扱きすぎワロス! んで自分より更に高い能力を持った犯罪者にフルボッコにされるとか、それなんて因果応報!? “()()のエース・オブ・エース”、プギャー☆」

 

「……」

 

二人の後ろを通りかかった局員達がなのはの姿を見て彼女をディスるような物言いを本人に聴こえるようにワザとらしくほざきながら通り過ぎて行き、なのはは祈りの体勢のまま複雑な気持ちを孕んだ沈黙を露わにする。 たった一度の敗北でなんという掌返しなのだろうか、六課壊滅前まで他の局員達は依存し過ぎな程なのはの存在を持ち上げていたというのに……。

 

──そうか、フェイトちゃん達が例外なだけで殆どのみんなはわたしの“魔法の才能が優秀だったから”着いて来てくれてただけだよね……。

 

なのはは祈る体勢を止めて「ギャハハハ!」と人を蔑むような下品な笑いを響かせながら過ぎ去っていく局員達の背中に心寂しそうに目を向けてみる……無論、その視線を気にして彼女に振り向く者など誰一人としていない。 全てという訳ではないが皆()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という都合のいい思い込みをしていたから大それた称賛を彼女に向けていたに過ぎず、故に一度墜ちたなら勝手に失望して勝手に見限っていく。

 

「……“無敵の存在”なんて、この世に居る筈も──」

 

そう思わず口にした瞬間、なのはの脳裏に過ぎったのは六課襲撃戦の結末となったあのラグナガンドによる管理局への宣戦布告──

 

『俺は総ての高みへの意志を肯定する! 故に総ては己が理想を叶える為に争え!!』

 

「──……」

 

ラグナガンド軍総帥《ラプス・グロースシュタット》……記録映像越しだというのに暗い空間の玉座に座っていた無限の(そら)を思わせるような計り知れない存在感を放っていた《次元王》……世界が絶対無敵の存在を求めているというのならば、あの男が配下の者達に次元の王と大いに称賛されているのも納得できる。 それ程までにあの男の存在は底が知れないどころか異次元のものだった。

 

「……わたし達、勝てるのかな……」

 

あんな存在が率いる強大過ぎる(レギオン)を相手に次元世界を護りきれるのか? ……そう思うと暗い不安が心を侵食して酷く愕然となってしまう。

 

「なのは……」

 

いつに無く弱気になってしまっている親友が気になってフェイトも祈るのを止めていた。

 

次元の王が手綱を握り遥か高みに飛翔し続ける破壊の柴竜の群勢(レギオン)……奴等は“紫雷の大魔導師”や“壊れた魔導書の闇”といったなのは達が過去に対峙してその度に乗り越えてきた並み居る強敵達が霞んでしまうレベルの化物軍団である事は間違いないだろう。 たったの一部隊と一度交戦した経験で力量を量ってみただけでも月とスッポンどころか恒星と小蝿にすら感じられた。

 

『≪恋人よ、血肉を捧げろ。 死骸を曝せ≫』

 

「「……」」

 

しかもまだまだ奴等は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為に六課を跡形も残さず破壊し尽くしたあの第二二六強襲中隊だけですらも今のままではまるで勝てる気がしない。 それでいて奴等の長である底知れぬチカラを秘めた遥か高みの次元王を打倒せねば次元世界に未来(あす)はないというのだから、本当に気が遠くなる……あれこれ考えていると不安に不安が重なってしまい、敗戦ムードを漂わせるように気を重くしていると。

 

「こらこら貴方達。 いけませんよ、やるべき勤めを果たし終えた魂達が安らかに眠るこの神聖な場において、そんな人を蔑むような暴言を吐くとは何事ですか!」

 

「あん? なんだよアンタ?」

 

眼鏡を掛けた紫色の頭髪の聖王教牧師が先程なのはを侮辱する会話をして通り過ぎた局員達に注意を呼び掛けているのが二人の視界に入る。

 

──あの人は、今日の葬儀で魂送りの読経を読む導師をやってくれていた牧師さん……?

 

「どんなに有能に生まれたとしても人は必ずしも完全な存在ではありません。 人である限りは多かれ少なかれ一度の人生において失敗をしないなんて事はありえない……そしてそれは《エース・オブ・エース》と称されている彼女にだって同じ事が言えるでしょう。 確かに強大な魔力を産まれながらにして有し、英雄的に秀でた才を持っている彼女に信頼を寄せていれば全ての世界は安泰だろうと思ってしまうのも無理はありません。 しかし次元の海は果てしなく広く、故に優れた者の上には更に優れた者が存在している。 それを知っても尚自分よりも強大なチカラを有する相手に対し果敢に立ち向かって行くだなんて、そうそう容易に出来る事ではないでしょうに……」

 

確かに負けてはしまったけれど機動六課の戦乙女達は護るべき世界を護る為に勇敢に戦った。そんな彼女達に対して期待外れだったと失望し、不敬にも侮蔑して嘲笑うなど筋違いもいいところだ。

 

「いいですか、持てる尽力を尽くして成すべき事をやった人を侮辱するなど人としてやってはいけない恥ずべき行いです。 貴方達もチカラ無き人々を護る義務を背負った人間ならば、人前で軽挙な言動や振る舞いをするのは控えるべきじゃないでしょうか。 違いますか?」

 

「……チッ、くだらねー。 付き合っていられるか」

 

真摯に正論をもって咎められた局員達は気分を悪くしてこの場から去って行く……そんな無礼極まりない集団の背中を牧師は「やれやれ、最近の若者達ときたら、仕方ないですねぇ……」と呟きながら困った表情で見送ると、自分の背中に歩み寄って来ていたなのはとフェイトの存在に気付いて振り返り、柔和な笑みで二人に応対してみせる。

 

「これはこれは、可憐で美しいお嬢さん方。 大変見苦しいところを見せてしまったみたいで申し訳ない」

 

人が良さそうな雰囲気と心からの思い遣りが感じられる声音を向けられて思わず戸惑ってしまう二人。

 

「い、いえ。 全然大丈夫です。 寧ろわたしの事を庇っていただいたみたいで、こちらの方こそ申し訳ないというか……」

 

「おや? では貴女があの管理局の“不屈のエース・オブ・エース”と称されている高町なのは一等空尉なのでしょうか」

 

「は、はい! この度は志半ばで亡くなってしまったわたし達の大切な仲間達を天に送り届ける葬儀で導師を務めて頂き、本当にありがとうございます!」

 

そう言って慌てるように頭を下げるなのは。

 

「いえいえ、聖なる王に仕える身として当然の仕事をしたまでです。 寧ろ貴女方の方こそ先日は御立派でした。 苦渋を飲むような悲惨な結末になってはしまいましたが、貴女方がミッドチルダの人々を護る為に勇敢に戦ってくれたのだというのは十分に理解していますよ。 その高潔な気概、正義への信念、誠に素晴らしい」

 

素直な態度で称賛をしてくれるのは大変嬉しく思うのだがその結末に大切なものの多くを失ってしまった手前、喜びの感情を表に出すわけにはいかない。

 

「失礼ですが牧師様。 お名前を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

それと名前も知らない人間に馴れ馴れしく話をするのも失礼というものだろう。 そう思ったフェイトが目の前の牧師に貴方の名前を教えてほしいと訊ねてみると牧師は佇まいを正し掛けている眼鏡を右手の人差し指と中指でクイッと上げ、恭しく名乗りだした。

 

「これは失礼。 私は聖王教会テレジア支部に勤めてさせていただいている《ヴァレリア・トリファ》と申します。 しがない牧師ですが、よろしければ以後もお見知りおきください、勇敢なエースのお嬢さん方」

 

その柔和な微笑みの裏にあるのは真実の親愛か? それとも無限の欲望か? この出会いが翼を折られた戦乙女達の未来に何を齎すのか、今はまだ知る由も無い……。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作の聖王教会ってシスターは腐る程居るけれど神父って居ませんよね? ……まあ宗教といっても祀り上げている存在が聖()だし、教会に勤めている男性を()父とは呼ばないだろうなと思い、“牧師”にしたのですがどうでしょう?

さて、今回はやては襲撃戦敗北の責任を問われ、佐官階級を剥奪された事によりなのはと同じ“一尉”へと降格となってしまいました。

StrikerSのアニメ第13話でも語られていた通り、部隊活動において深刻な非常事態に見舞われた為に機動六課も解隊を余儀なくされてしまいましたが……それについてどうなるのかは次回のお楽しみに。(まあここまで読んで下さった方々は大体の展開は予想できているとは思いますが……)

最後に登場した《ヴァレリア・トリファ》を名乗る牧師はもちろん怒りの日の聖餐杯猊下本人ではありません。 “紫色の頭髪をしていて成◯剣ヴォイスの枯れ木のような印象の男”……いったい何所のドクターなのだろうか?(爆)

ア◯ゾ◯で予約した筈の閃の軌跡Ⅳの事前支払いの連絡が発売日三日前だというのに未だに来ネェェェーーーッ!!? 発売日当日にプレイできねぇの確定じゃねーかよコレェェェ!!?(泣)


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