THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

16 / 29
読者の皆さんお久しぶりです! 閃の軌跡シリーズの決着を着けて只今戻って参りました!!

いやー、閃の軌跡Ⅳはマジ感動の連続でしたよー。 リィン・シュバルツァーの物語が無事にハッピーエンドを迎えられて感激しました! 帝国の呪いを討ち果たす為に、皆が全員同志となって戦うという最後の展開は超胸熱! 真EDは今までの軌跡主要キャラ全員集合の大団円! もうなんだか泣きました、ええ泣きました。(大事な事だから二回言った)

大好きな軌跡シリーズのストーリーが一旦区切りを迎えたんだなと実感できる、暖かくもしみじみとした閃シリーズの完結だったと思いますね。 もうリィンもロイドもエステルもオズボーン閣下も皆大好きだぁぁぁあああーーーッ!(ただしルーファス、テメーは許さん!)

しかし今回の真ED後に結社の盟主の口から明らかにされた結社の次の計画は……【永劫回帰計画】……だとぉっ!!? い、いったい何なんだ、その怒りの日の獣の爪牙となった人間の心を大いに震わせるような計画名はっ!!

ただでさえ軌跡はパワーインフレが続く物語だっていうのに、次の新シリーズはなんだか更なるインフレが起きていく予感が……やべ、今から次回作が楽しみになってきた!!


さて、閃Ⅳの完結に興奮するのはこのくらいにしておいて。 約一月ぶりに投下するこの話から、いよいよなのは達機動六課がロストウィング入りしていく流れに入ります!

まあ長い話は嫌われるんで(どの口が言うか?)、以上まえがきはここまで! 久しぶりの最新話をどうか心ゆくまでお楽しみください。



絶望の底に堕ちた六課を救うクロノの秘策は傍若無人で危険な大男? ロストウィングの部隊長、来る!

清浄なる白一色の一室……心身共に汚れの全てが浄化されるようなこの空間に置かれているベッドの上に暖かな陽の光が射し、騎士の身に刻まれた敗北の傷を癒す。

 

「……アタシ達……負けたんだな……」

 

幼い小さな身体中に痛々しく白い包帯を巻き着けた鉄槌の騎士が清潔な白いシーツを怯える子供のように抱きしめて弱々しく無情な現実を実感していた。

 

此処はミッドチルダ北部《ベルカ自治領》にある医療院の入院患者を療養させる用途で設置されている部屋の一つだ。 屈辱の惨敗を喫してしまったあの戦いの後に本局の緊急治療棟に搬送されて手術を受け、なんとか全員一命を取留める事ができたヴォルケンリッター達はより療養できる施設環境に身を置いて身体と心を休める必要があった為に今朝方この病院に身を移していたのだった。

 

「情けねぇ。 無様すぎるにも程があるだろ。 アタシ達ヴォルケンリッターが揃いも揃っておいて一矢報いる事すらできずに成す術もなくあんな奴等にやられちまうなんてよぉ……。 アタシ達の夢を壊してはやてを泣かせたアイツ等を……アタシ達は……クソッタレッ!

 

戦いに惨敗した事実を自覚して心の底からに湧き上がってくる怒りと悔しさのあまりに自分が身を倒しているベッドの鉄柵に行き場のない悲嘆を叩き付けてしまうヴィータ。

 

「何が()()()()()のベルカの騎士だ、フルボッコだったじゃねぇか! 絶対に負けられない戦いでこんな無様な体たらくを晒しておいてよくもまあ、そんな大層な肩書きを名乗れたもんだぜッ! クソ、クソォォッ!!」

 

心の底から吐き出された悲憤によって僻みに僻ましたヴィータの表情からはその嘆きと悔しさが如何に大きなものかを察せられる。 【一対一の戦いにおいてベルカの騎士に敗北は存在しない】、そんな古の戦場を生きた騎士の驕りきった信条など完膚無きまでに踏み潰すかのように彼女達は呆気なく地に叩き伏せられてしまったのだ。

 

「もうやめろヴィータ。 敗戦の屈辱を嘆いたところで傷付けられた我らの誇りを更に貶す事になるだけだ」

 

みっともなく癇癪を上げたヴィータを咎めるように冷静な声でそう言ってきたのは彼女の隣のベッドの背凭れに起こした上体を支えさせてリハビリ用のハンドグリップを握っていた烈火の将シグナムである。 彼女もまた全身包帯姿の重傷で、特に倒される際にファングの剛拳をモロに叩き込まれた側頭部には幾重にも冷却ガーゼが施されていてどれだけ彼女が痛烈な一撃を受けてしまったのかを理解させられる。 魔導書を持つ主の命が消えない限り不死身であるデータプログラム体だったからよかったものの、もし彼女が生身の人間だったのなら間違いなく即死していた事だろう。

 

「あんだよシグナム? はやての夢だった六課があんな奴等にブッ潰されて無様に這い蹲らされて、てめぇは悔しくなかったってのかよっ!!」

 

ふざけるな、そんな訳が無いだろう! 私だってな──」

 

八つ当たりのようにやるせない癇癪を投げつけられてシグナムの脳裏に過ぎったのは焼け野原の上に無様に倒された自分をサングラス越しに嘲笑するような目で見下す、悍ましくも未だ嘗て感じた事のない量の魔力を有していた白髪の怪物──

 

『へっ! あばよ蝋燭女(アウフ・ヴィーダーゼン ケルツェヴァイプ)。 こんなカスが将とか、噂の闇の書の騎士も大した事無ぇな。 期待して損したぜっ!』

 

「──倒すべき敵に刃を届かせる事も叶わず拳一つで無様に地に沈み、部隊の大切な仲間達の命を奪った敵を斬り伏せろという主の命を果たす事ができず、挙句に我らがこの胸に刻んだ騎士の誇りをあのような下賤な者共などに踏み躙られるという、決して有ってはならぬ最悪の醜態を親愛なる主はやての目の前で無様にも晒してしまっておいても尚、こうして今生き恥を晒している。 このような恥辱、まるで糞水を浴びせられたような屈辱……悔やまない筈が……平気でいられる筈が……あるものか……っ!!

 

大切な主が流した嘆きの涙を払拭する事ができずに無様にも一撃で敵に倒されたチカラ足らずな自分への怒りが手に握るハンドグリップを握り潰した。 あの戦いでの無念が烈火の将の心の内に怨嗟と憤りを象徴するかのようなドス黒い炎を揺らがせている。 夜天の守護騎士の将としてあの惨敗を思い彼女の内心が平常でいられる筈などありえない。

 

「許されるのならば今すぐにでもこの場で己の腹を切り裂いて詫びとしたいところだ! ……だがなヴィータ。 敗北を喫して大切なモノや誇りを失った苦しみに最も心を痛め、重い責任を背負い、屈辱に耐えているのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

「ぁ……」

 

それでも、例え騎士としてどれ程の生き恥を晒そうとも()()()()()事など許されない。 何故ならば敗北によって守るべき多くのものを奪われた事で自分の大切な主に伸し掛かった悲しみと苦しみは今自分達が心の内に抱いている屈辱など比較する事もおこがましい程に重いに違いないからだ。

 

「我らより先に意識を取り戻していたリインの話によると主はやては昨日六課の総部隊長として、あの襲撃戦においての敗戦責任を問われ本局上層部の査問会に掛けられたらしい。 結果は主はやてが持つ【佐官階級の剥奪】と【一周期間以内に六課を解散させる事】だそうだ……」

 

「っ!!?」

 

衝撃的な処分の内容を聴いてヴィータは眼を見開き絶句するしかなかった。 どうしてこんな事になってしまったんだ、自分達はただ大切なものを護ろうと必死で戦っただけなのに……上層部が下してきた無情なる仕打ちに小さな騎士の身体の内に沸々と怒りが沸き上がってくる。

 

「なんだよそれ……ふざけんなよっ!! アタシ達はミッドを護る為に全力を挙げて敵と戦ったっていうのに、なんでそんなふざけた処分をされなくちゃいけねぇんだっ!!

 

憤慨するあまりにヴィータはベッドを下りて隣のベットの背凭れに上体を支えさせているシグナムの両肩に掴み掛かった。

 

「はやてがいったい何をしたって言うんだよ? アイツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()六課を設立したんだぞ! それなのにアイツ等ッッ!!」

 

「……」

 

「あのファングっていう白髪ヤンキーに負けたからか? じゃあアタシ達が手も足も出なかったあのバケモノ魔導師を相手にして管理局の誰なら勝てたって言うんだよ!? 次元の狭間にあるような安全な本局に居て偉そうに文句を言ってくるんだったら今度はテメェらが戦っt「いい加減にするがいいヴィータよ。将に当たるのは筋違いというものだぞ」──あんっ?」

 

上層部に対するヴィータの八つ当たりをシグナムが至近距離で聴き入れつつ何も言えず無言でいると、経った今この部屋に入室してきた守護獣形態のザフィーラから横槍が入った事でヴィータの暴走が治まった。 直後に彼女は正気を取り戻し、バツが悪そうにシグナムの両肩から手を放す。

 

「ザフィーラ、それにシャマルも……」

 

「ヴィータちゃん、病院で騒いじゃだめよ。 敵にまるで歯が立たなくやられたのが辛くて悔しいのは私達だって同じ、けれどもそれでむしゃくしゃして家族に暴力を振るったりなんかしたら、それこそはやてちゃんを悲しませる事になっちゃうわ」

 

駄々をこねる子供に言い聞かせるようなシャマルの指摘にヴィータは「……チッ!」と気分を害した態度で舌打ちをするが、それは自分が不条理を働いた事を理解している故の気持ちの切り替えだ。 自分だけではなく皆が辛い思いを抱えて心が締め付けられる苦しさを我慢しているのは彼女だって解っている。 眼元と口以外が包帯に覆われてミイラ男ならぬミイラ狼のような見るに堪えない恰好のザフィーラ、外面は一見何ともなく見えるが戦いでカッツェに背中を大きく斬り裂かれた為に今身に纏っている病衣の内の身体は包帯がきつく何重にも巻かれている為にとても無事とはいえないシャマル……こうして見ると本当に皆こっぴどくやられてしまったものだ。

 

「わかってる。 わかってんだよ、そんな事は……けどさ。 はやては闇の書の呪いを乗り越えて、自分の足で歩けるようになってから今までアタシ達が背負うべき罪を一緒に背負って、チカラの無い人が虐げられるような理不尽な世界を変える為にこれでもかというくらいに頑張って上にのし上がって積み上げて、色んな奴等の助けを借りながらも夢へと踏み出す為の部隊をやっとの思いで創る事ができたっていうのにっ! ……それが()()()()()()()()()()()()()()()……クソッ!!」

 

全て壊されてしまった。 自分達の大切な主が夢の為に今まで苦労して必死に積み上げてきたモノが、希望の未来へと羽ばたく筈だった部隊が、突然何処からか襲撃してきた破壊の柴竜の爪牙によって、理不尽なまでに……。

 

「悔やまれるが、今は受け入れるしかない。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で事を進めていたのだ」

 

「それ故に主はやては今、六課の部隊長として失態の責務を全うし、謝罪と糾弾という苦行を労しくその身一つで受け持っている。 我らがラグナガンドなどという下賤な(ケダモノ)の集団などに不覚を取ったばかりに……な……っ!」

 

ザフィーラもシグナムも己の唇を噛み切りたい思いでいっぱいだろう、護ると誓ったものを護れずに大切な主に辛い苦行をさせる羽目に遭わせてしまうだなんて自分達は守護騎士失格だと……だが彼女等の主は酷く打ちのめされながらも理不尽な現実と向き合い、今も戦っている。 そう思うと落ち込んでなどいられない。

 

「……フッ、遥か古の存在である我らが現代に生きて成せる事など、もはや後世の者達にベルカの騎士としての誇りと矜持の何たるかを我らの騎士道をその目に焼き付けさせる事で伝えてゆく事ぐらいだろうと思ってはいたが、その誇りと矜持を踏み躙るような不届きな脅威が現れたとなると、そんな悠長な事など言ってはいられないな」

 

「ああ、アタシ達ももっと強くなってやろうぜ。 古代ベルカの時代の頃、騎士として全盛期だった自分達自身よりも、アタシ達がまるで歯が立たなかったあのファングとかいうギガ強ぇ白髪ヤンキーよりも、何よりアタシ達の大切なはやてやなのは達を絶対に護ってやる為に、今度こそなっ!!」

 

暗かった表情から決意を浮かばせるように切り替え、強く拳を握り締めてみせた烈火の将と鉄槌の騎士の決意に同意を示して湖の騎士と盾の守護獣もそれに頷いた。 それが例え根拠の視えない強がりだったとしても、過去に魔導書の闇の呪縛を解き放った最後の夜天の主が……八神はやてが絶望に堕とされない限りは、雲の守護騎士達は何度でも立ち上がってみせるのだ。

 

「よしっ! んじゃあ辛気臭ぇのもここまでだ。 まずは早いところはやてを手伝う為にとっとと身体を回復させねーとな……ところでよシャマル、今はやては何をしていんのか知っているか?」

 

「あら? そういえば言っていなかったわね。 今さっき連絡があったのだけど、はやてちゃんなら今クロノ提督から呼び出しを受けたみたいで、なのはちゃんとフェイトちゃんと一緒にベルカ自治領の聖王教会本部に──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《聖王教会》──それは約三百年前の“古代ベルカ”の時代に勃発していた戦争を終戦に導いた立役者で《聖王》と呼ばれていた英雄《オリヴィエ・セーゲブレヒト》を信仰の対象として祀り上げている次元世界最大規模の宗教団体である。 因みに聖王オリヴィエは女性であり、決してどこかの身分を偽って他国で放蕩するスチャラカ演奏家とは別人なのであるという事を追記しておこう。

 

「失礼します」

 

なのはとフェイトは葬儀の後に知り合ったトリファ牧師と束の間の世間話に興じた後に牧師に別れを告げ、はやてに連れられて此処第一管理世界ミッドチルダ北部の“ベルカ自治領”にある聖王教会本部へとやって来ていた。

 

「はじめまして、機動六課所属の高町なのは一等空尉であります!」

 

「同じく、フェイト・T・ハラオウン執務官です」

 

壁全体が網目の窓で外から日の光を取り込む造りになっていて明るく風情のある空間の応接室へと通されたなのは達。

 

「ふふっ、そういえばお二方と直接会うのはこれが初めてですね。 はじめまして、聖王教会、教会騎士団騎士の《カリム・グラシア》です」

 

入室し敬礼すると共に仕事モードの堅い面持ちと口調で初対面の自己紹介をしてきたなのはとフェイトに対して二人を暖かな雰囲気で迎えたのは機動六課設立の後見人の一人でもある聖王騎士カリムである。 彼女とはラグナガンドの宣戦布告時に緊急回線で面識を得ているが、直接的に知り合ったのはこれが初めてである為、より丁寧に挨拶を交わしたのだった。

 

「それではどうぞ奥のテーブルへ。 先にお見えになっている御二人も待ちわびていますよ」

 

そう言って応接室の奥に置かれたどう見てもティータイム用にしか見えない白く洒落た円形のテーブルへとカリムに案内された三人は彼女達が歩いて来た出入り口から見て奥の席に座っている堅物そうな黒髪の好青年とフワッとした紫色の髪と緩やかそうな笑顔が印象的な青年という、異色の組み合わせの局員二名と対面する。

 

「先日の襲撃事件の時に通信越しに顔を合わせてはいるが、こうして直接会うのは久しぶりだな。 高町一等空尉、フェイト執務官」

 

「はい。 そうですね、クロノ提督」

 

「ええ、ちょっとお久しぶりです」

 

黒髪の好青年の方はなのは達をこの場へと呼び出したクロノ・ハラオウン提督。 一方紫色の髪の青年は──

 

「それで、大変失礼ですが……そちらの方は?」

 

「ふふふ、御二方ははじめましてですね。 私はリンディ・ハラオウン総務統括官の秘書を務めさせていただいている《ルヴェル・クルーガー》と申します。 この場へは敵勢力の管理世界への宣戦布告の影響で荒れ出してしまわれた世界状勢の対応に追われている為に大変お忙しく身動きを取る事が難しい立場にあるリンディ様の代理として参上しました。 ふふふ、若輩者でございますが、どうか今後もよろしくお願い致します」

 

「こ、これはご丁寧に」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

彼等と対面の席に着いて挨拶をするなのはとフェイトはどこかぎこちがない。 二人共真面目な性分故、初対面であるカリムとルヴェルに失礼のないよう気を遣っているのだろう。 それを見兼ねたカリムは二人に助け舟を出した。

 

「ふふっ。 二人共そう堅くならないで。 私達は個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」

 

「と、騎士カリムも仰せだ」

 

「せやな。 二人共普段通りに喋ってええで」

 

クロノとはやてからも援護射撃を貰ったなら降参するしかない。 なのはとフェイトは緊張を崩し、口を緩めて改める。

 

この直後にフェイトがクロノに笑顔を向けて「お兄ちゃん、元気だった?」と気の抜けた発言をしてきた為にクロノが恥ずかしさのあまり珍しく赤面するというちょっとしたハプニングがあった事は割愛するとして、そろそろ本題に入るとしよう。

 

機動六課の隊長陣と代理人を含めた六課設立の後見人がこの場に集められたのは、管理局において過剰と言える程の戦力を集めた機動六課の設立が認められた真の理由について……そして襲撃者撃退に失敗した事により管理局と管理世界に甚大な被害を出してしまった責任として上層部より一週間以内の解散を言い渡されてしまった、彼女達の今後についての話し合いをする為であった。

 

機動六課の設立はこの場に居るクロノとカリム、そして現在は世界恐慌の対応に追われている為にこの場に来られず多忙でいるリンディを後見人に置く事で成り立たせる事ができたのだが、その裏にはかの【伝説の三提督】によって最終的な後押しがあった事が決め手となった為に上層部が折れたのだという話があった。

 

「何でそこまでして……」

 

「それは私のレアスキル──《予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)》が関係しています」

 

カリムのレアスキルはその名が示す通り“()()()()()()()()()を札に書き記す能力”だ。 それは最短で半年、最長で数年先の出来事を予言する事が可能らしいのだが、いかんせん“優れた能力には大きなデメリットがある”というのはお約束。 札に予言を書き記す事ができるのは()()()()()()であり、また書き記される文字が“古代ベルカ語”であるが故に解釈が難しいのだ。 この能力はカリム曰く──

 

「まあ、()()()()()()()()()()()()ですけど」

 

だそうで、「私のレアスキルがそう言っている!」という風に何処ぞの防衛隊に所属している自称実力派エリート様が使うような戦闘予測も未来予想も何時でも手軽にできる使い勝手の良い予知能力ではない。

 

だがそれで彼女の事を要らない子と決めつけてしまうのは大きな間違いだ。 彼女の予言は100%当たる……訳ではないのだが、言った通りかなりの確率で的中するらしく、本局の長官や航空部隊の将官クラスなどといった管理局の中核を担うような人達も一度は彼女の予言に目を通すという。(因みに地上部隊の方は実質のトップであるレジアス中将が高ランク魔導師やレアスキルといった存在を毛嫌いしている為、一度だって見に来る事は無い)

 

「そして、そんなカリム様の予言に数年前から“ある事件”について書き出され始めたらしいですね」

 

ルヴェルが穏やかな雰囲気を潜めた険しい表情でカリムにそう問うと、それに応えるように彼女は真剣な面持ちで周囲の空間に漂わせていた札の内の一枚を手に取った。 するとその札が彼女の手の中で急に純白の光を発し、光が治まると“真っ白な表紙を持つ一冊の本”へと変化していた。

 

「え、ええーーっ!?」

 

「その表紙のタイトル……《白の史書》って読むんですか……?」

 

札に記された予言を読み上げるのかと思っていたなのははその唐突な変化を見て驚きの声を上げ、変化して形となった本の表紙に古代ベルカ語で記されているタイトル名を訝しく凝視したフェイトが自信なくタイトルを読み上げてみる。 カリムの予言について詳しく知っている筈のはやてとクロノが神妙な沈黙で彼女の手にある白い本を見ながら困ったように唸っているのを見ると、これが大変不可解な事象であるという事を悟れるだろう。

 

「タイトルの下に【④】という番号も記されているようですが、これは……」

 

「ええ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……先日の六課襲撃の件も含め、この多次元世界に嘗てない程の由々しき事態が起きていると視て間違いないでしょう」

 

ルヴェルが疑問を口にするとカリムが手に持った【白の史書④】のページを開いて険し気に次元世界に計り知れない程巨大な危機が訪れようとしていると断言し、書に記された予言を真剣な声で読み上げた。

 

 

 

*白の史書④

 

旧い結晶と無限の欲望が交わる地、死せる王の下、聖地より彼の翼が甦る。

 

死者達は踊り、中つ大地の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる。

 

 

 

「そ、それって……!?」

 

「そう、恐らくは“ロストロギアを切っ掛けに始まる地上本部の壊滅”と、“管理局システムの崩壊”……」

 

「六課の活動は表向きレリックをはじめとした高ランクのロストロギアの回収と独立性の高い少数部隊としての実験。 だが真の狙いは地上で発生した事態や()()()()に対して本局の主力が到着するまでの時間稼ぎを可能とする精鋭部隊……だったんだが……」

 

「その()()()()の出現が予想よりも早く、そしてあまりにも強大過ぎた……という訳だね……」

 

齎されてしまった事態の巨大さ故に意気消沈せざるを得ない一同……突然地上に襲撃してきて管理局のエースが集う六課を中隊規模程度で容易く壊滅させる事が可能な程の強大な戦力を有している《次元王軍ラグナガンド》という敵はあまりにも大き過ぎる。 特に《次元王》を名乗る正体不明にして記録映像越しですら存在の次元そのものが他者と掛け離れ過ぎていると感じられたあの敵軍の長──《ラプス・グロースシュタット》と直接対峙すると考えるだけでも息の根が止まりそうになる。

 

「それからその……大変言い難いのですが……」

 

そして気の重くなるような重圧に更なる追い打ちを掛けるかのように、カリムが気まずそうな表情をしながら懐から何かを取り出して見せる……それは【白の史書①】と表紙にタイトルが記されている新たな予言書であった。

 

「ちょっ!? カリム、なんやねんそれはっ!!」

 

「本日午前、スクライア司書長が《無限書庫》の整理をしている最中に偶然発見したらしく、それを先程私が預かった物がコレです」

 

「ユーノ君が……それには何と書かれているんですか?」

 

恐る恐るなのはに書の内容を訊ねられたカリムが無言で頷くと、息を呑んでページを開き読み上げ出す。

 

 

 

*白の史書①

 

水星の創作者によって物語の開演を告げられし時、本来の道筋は破壊され、無限の(そら)より破壊の柴竜が爪牙をもって数多の海へと舞い降りる。

 

破壊の柴竜は爪牙を振るい、数多の海の守護者たる戦乙女の翼を容赦なく抉り取ると、それを見せしめとして数多の海を守る法の船に向け咆哮をあげるその時をもって全ての星々を巻き込む激動の時代が幕を開ける。

 

 

 

その衝撃過ぎる内容はこの場に居る全員を大いに驚愕させ、動揺するあまりに少女達の口から漏れたどよめきが室内中を反響する。

 

「な……なああああぁぁ──ッ!!?

 

「この内容って、どう考えても……!!」

 

「“破壊の柴竜”……ラグナガンドの……軍章(エンブレム)ッ!!」

 

カリムの予言者の著書で書き記される予言と同じく内容を解釈するのが難しい書き方がされてはいるものの、この場に居る一同全員がカリムが読み上げた史書の内容に対して同様の解釈を思い浮かべていた。

 

「はい。 恐らくは先日の六課壊滅と次元王軍ラグナガンドによる管理局への宣戦布告……その出来事そのものを書き記したものと視て間違いないと思われます」

 

「“水星の創作者”や“本来の道筋”とかはよく解らないが、なのはの言った通り“破壊の柴竜”は六課を襲撃して壊滅させたラグナガンド軍の軍章を示しているのだろうな」

 

「そしてその解釈が正しいとするなら“爪牙”とは六課を襲撃した第二二六強襲中隊。 “数多の海”は我々も【海】と呼称する事があるので次元世界を指すのでしょう。 従って“守護者”は管理局に所属する魔導師や騎士……」

 

「んでもって“戦乙女”は内容の流れからして私ら機動六課の事やろな。 今更やけど六課の前線部隊員の構成はエリオとザフィーラを除いて皆女性やなぁ……」

 

「最後に書き記されている“激動の時代”は皆の解釈が合っていると仮定して考えると、これから始まる管理局とラグナガンドの戦争の事を言っているんだろうね……」

 

皆で史書に記述された内容を詳しく解釈しようとすればするほど、その解釈の事実性が深まっていく。 どうやらこれは本当に先日の六課壊滅とラグナガンドの宣戦布告、そしてそれを切っ掛けに始まる戦争が起きる事を書き記しているようである……フェイトは憎々し気に心底悔やみ、机の上に重い拳をドンッ!と叩きつけた。

 

「くっ! ユーノに文句を言うのは筋違いなのは分かっているけれど、どうしてもっと早くこの本を発見できなかったんだ!? 今更こんな()()()()()()()()()()()()()()()()()が見つかったところで何の意味も──」

 

……その時──

 

「いや、その小汚ぇ本には凄ぇ重要な利用価値があるんだぜ。 だからドブかなんかにでも捨てやがったりしたら、幾らパツキンで巨乳のキレーなネエチャンだろーとマジでブッ殺すからな──とっ!!

 

そんな愕然とした空気の中で突如として乱暴臭い男性の言葉が聴こえてくると、クロノ達が座っている側の奥にある窓壁が猛烈な爆発音と共に粉砕された。

 

「ふ、ふぇぇぇーーーっ!?」

 

「な、なんやねん? なんかいきなり壁が爆発しおったで!」

 

「まさか、また敵の襲撃!?」

 

突然の奇想天外に六課の隊長三人娘は奇声を上げて立ち上がり、待機形態のデバイスを握って警戒態勢を取る。 クロノ達後見人組は表面上は慌てる素振りを薄くしているものの、内心動揺はしているようで席を立ち上がる反応に挙動不審の震えが見え隠れしているようだ。

 

いったい何が起きた? 事故か? 敵襲か? 全員が緊張を露わにしながら粉砕された壁の大穴を凝視していると室内に充満した粉塵煙が治まり、空いた大穴の付近の床に倒れて目を回しているおかっぱ頭の女性教会騎士と大穴から太々しく煙草を吸いながら室内に入って来たノースリーブシャツ姿の大男がその姿を現したのだった。

 

「シャ、シャシャシャシャ──シャッハ!?

 

「ぎゃあ”あ”ぁぁっ!? マッチョなオッチャンの姿をしたター◯ネーターやぁぁあああーーーっ!!」

 

カリムが床でノックダウンしているおかっぱ頭の女性教会騎士を見て驚愕しつつその女性教会騎士の名を動揺に震えるように叫んだ。 彼女はカリムの補佐役である《シャッハ・ヌエラ》。 シグナムにも匹敵する実力を持った彼女がやられてしまっている事態が起きるなど普通ではなく、はやてが陽陰に黒く塗りつぶされている威圧感たっぷりの厳つい顔で煙草の煙を「フシュー、フシュー」と口から吹かしている大男に恐怖し阿鼻叫喚……そんな混沌とした中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、この事態はとてもじゃないが尋常に見えず、なのはとフェイトは何時でもセットアップできるように臨戦態勢で謎の大男の前に毅然と立ち警告する。

 

「動かないで下さい! 貴方はいったい何者なんですか?」

 

「【教会施設の破壊】に【教会関係者への攻撃】……貴方のやった事は管理局法と照らし合わせるまでもなく重罪だ! まさかこれだけの事をしておいて一般人だという訳ではないでしょう? 何所の素性かを明かしなさい!」

 

煙草を口に銜えながらヤ◯ザのように威圧的な大男の視線を怯まず押し返すかのように真っ向から対立する意志を二人のエースはぶつけている。 もう負けない、これ以上大切な何かを奪われてたまるか! そんな真っ直ぐな強い想いを身に受け止めて大男は何が愉快なのか、好奇心混じりの凶悪な笑みを厳つい顔に浮かべてみせた。

 

「へっ! 可愛らしい顔して覚悟が決まったイイ面をするじゃねぇか! こういう才能に溢れたお利口さん共は普通、その才能で何でもできちまうから他人に対して慢心丸出しで向かって来るモンなんだが、()()()()()()()()()()ところそんな気配は微塵も無ぇようだな。 うん、なかなかイイじゃんお前ら」

 

「何を訳の解らない事をッ!」

 

「こんなにおもしれぇ嬢ちゃん達なら、異次元の戦争バカ共と上層部のウ◯コ共に潰されるのが惜しいと思うのも納得がいったぜ。──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──んで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ええ、クロノ提督よぉ

 

一触即発だった空気がその大男の衝撃的な発言によってビシリッ! と凍り付いた……数秒の間を置いて一同の視線がやれやれと苦悩するように肩を竦めるクロノへと注がれる。

 

「どど、どういう事やねんクロノ君!? どう見ても【ヤ】の付く危ない人達のボスみたいなこの怖~い人相しとるオッチャンが()()()()()()って……何でこないな状況でそんな話が出てくるっちゅーねん?」

 

「というか今この人()()()()()って言っていたけれど、まさかこんな教会施設を破壊して壁から部屋に入って来るような危険人物が部隊を任せられる程、位の高い管理局員だって言うの!?」

 

動揺と疑心に困惑するはやてとフェイトから投げつけられた疑問にクロノは気疲れしたかのように一度嘆息すると、大男の眼前に立って臨戦態勢でいるなのはとフェイトの横に来て壁の大穴から射す陽の逆光を背に太々しく煙草を吹かしている大男を──

 

「まったく、来るのが遅過ぎますよ“マクラウド特務遊撃支援部隊長”殿? 貴方の遅刻癖は昔からそうでしたけれど、少しは治そうとする努力をしてください」

 

呆れるような細目を向けつつ()()()()()()()()()()()()()()()出迎えた。

 

……はい? 風紀や規律に五月蠅く堅物で有名なクロノ提督がこんな如何にもセメントで固めた人間を何人か海にでも沈めていそうな大男に対して普通に話し掛けた? 全く予想外な彼の対応を見てこの場に居る一同は固まった。

 

「がははは! いや~スマンスマン。ちょっと人生という道に迷っちまってなぁ」

 

「年中行き当たりばったりで過ごしている貴方が人生に迷う事なんてあるんですかね? それに仮にも管理局員が民間建築物を破壊してどうするんですか? 後、大体理由に見当は付きますけれど、何故騎士シャッハが其処に倒れているんです?」

 

「あん? そりゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……道を塞ぐ邪魔な障害物を破壊(どか)して歩いてたら教会前でそこのパッツンシスターに絡まれた。 んでスゲー口五月蠅くて面倒だったから上手くO★HA★NA★SHIをつけて此処に通してもらった。 ただそれだけの事だ、どこも問題無ぇだろ?」

 

大アリです! 局員でも勝手に物を壊せば損害責任は生じますし、賠償払えるんですか?」

 

「後で()()()()()()()()()()()から大丈夫じゃね?」

 

()()()()()……どうしようもない傍若無人っぷりを遺憾なく発揮してくる大男に今度は盛大に溜息を吐くクロノ。 何でこんな危険人物全開の男と何気なく会話できるのだろうかという不審な視線が周りから集められている事にようやく気付いて「ハッ!?」と我に返ると、彼は「コホンッ!」と一回咳を払って一旦心を落ち着かせる。 そして側に立つなのはとフェイトに言った。

 

「二人共警戒を解いてかまわないよ、この人は僕が呼んだんだ。 敗戦によって上層部や地上から糾弾され、解隊を余儀なくされてしまった機動六課を、()()()()()()()()()()()()()としてな」

 

それはあまりにも唐突で驚かしく、とても怪訝過ぎる話だった為になのは達は益々困惑してしまう。 そんな彼女達を和まそうとしたのか、彼が存続の危機に陥った六課を救ってくれる人物だという大男が室内の一同ににこやかな笑みを向けてフレンドリーな態度でもって自己紹介をしてみせた。

 

「てなわけで、ども。 ()()()()《デイビット・マクラウド》でっす。 《特務遊撃支援部隊ロストウィング》という名の管理局のチンピラ問題児共を集めた底辺部隊をムチとブレイカーでしごきながら引っ張ってやっている総部隊長なんてものをやってま~す。 夜☆露☆死☆苦!

 

「それ、メッチャ理不尽な拷問やんけ! アメはっ!?」

 

すかさず発せられたはやてのツッコミの冴え渡りにこの先の不安を一層に感じるなのは達なのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、傍若無人っぷりが半端ないロストウィングの部隊長《デイビット・マクラウド》の登場で鬱だった空気が見事に吹っ飛びました。 因みに彼の容姿イメージはブラック・クローバーのヤミ・スケヒロ団長だったりします。(笑)

そして今作品の重要アイテム、明らかに閃の軌跡に影響されまくっている《白の史書》とは、ぶっちゃけこの作品の最終決戦までのプロットが書き記されています。(汗)

全部で幾つあるのかは次回のお楽しみに! それではまた次回(アウフ・ヴィーダーゼン)!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。