THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡 作:蒼空の魔導書
オリ主はまだ最初の回想での登場だけなので、本格登場はもう少し先になります。
ヒロインは一応なのはです。 もしかしたら話の流れで変更される可能性もありますが、今のところその気はありません。
ここで注意事項。 話の流れにより原作・オリキャラ、共に死亡多いです。 他作品で例えると【アカメが斬る!】の敵・味方キャラ達ぐらいの規模で戦死者が出ます。
そして予告の通り、なのは達機動六課が稼働初日で敵勢力に襲撃されて潰されてしまうという衝撃展開が最初にあるので、注意してくださいね。 ストーリー変更の強要は受け付けません。
あと、ティアナは敵サイドでの登場になります。 なのでスターズ4は必然的にオリキャラが入ります。 やはり大きく原作がブレイクしていると原作キャラ達の過去が多少変わってしまってもなんの不思議でも無いんですよね。
では……《THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡》本編──開演!!
*イメージOPテーマ 『Kadenz』 TVアニメ版【Dies irae】OPテーマより。
壊される
「──世界が氷り漬いてしまえばいい……」
雪が降り積もる銀世界の上を胸の孔から流れ出る液体で赤く染めつつ横たわる少女がその呟きを耳にしたのは十一歳のある日の事だった。
気が付けば目測自分と同年代ぐらいの小さな
身体が不調だったにも係わらず無理をして魔導師の任務にあたり、帰還中に正体不明の自律機動兵器に襲撃されて瀕死の重傷を負ってしまい、結果死にかけている自分に哀れみの念を抱いているのだろうか? その眼は今にも砕け散りそうな氷の花のように儚げで、切ない感情を抱かせた。
傍らに目を向ければ自分をこのような瀕死の重傷に追い込んだ自律機動兵器らしき物体が無惨にバラバラに切断されていて、雪原上に散乱している無数のパーツが例外無く全て氷り付いており、動力の暴発による煙は一切上がっていなかった。 おそらくこの不思議なアイスブルーの瞳の少女がやったのだろう、右手に持つ刀型のデバイス、その自身の瞳と同じ色をしている神秘的な刀身には自律機動兵器を切断した時に付着したのであろう僅かな煤が刃の一部を汚していた。
「き……君はゲホッ! ゲホッ!!」
「あまり喋らない方がいい、傷口が開く……ごめん、助けるのが遅れた……」
このアイスブルーの瞳の少女に関して瀕死状態の少女には面識が無かったのでその素性を目の前の本人に聞こうと口を開くものの血反吐の排出で吭が詰まり、噎せて口周りが赤い液体で汚れる結果になってしまい、件の少女に諫められるという醜態を曝してしまう。
思い詰めるような謝罪が洩らされるとアイスブルーの瞳が近づき、瀕死状態の少女は自身の身体が持ち上げられる感覚と共に繊細ながらも硬い物に包まれる触感を自分の血でほぼ赤く染まってしまっている白いバリアジャケット越しに感じるのだった。
「ふ、ふぇっ!?」
硬い胸板越しに聴こえる鼓動に驚きと抱擁感を感じて羞恥のあまり思わず赤面し間抜けな声を上げてしまう。 どうやら自分は今このアイスブルーの瞳の少女……いや、
──
同年代の異性に抱き上げられるという感覚に慣れていない為か少女は胸に空いた傷から血が流れ出る重傷を負っている現状にも拘らず恥ずかしさで栗色のツインテールを揺らして身悶え、極寒の寒さに当てられて危険なまでに下がり続けていた体温が急激に上昇して行く感覚の動揺に打ち震え出してしまっていた。
「怪我人は大人しくしていてくれ。 安心しろ、すぐに安全なところまで連れて行くから」
「……ぁ……」
その言葉を聞くと少女は何故だか安心感を感じ、超人じみた跳躍で銀世界の中を翔け出した少年の腕の中で意識を手放すのだった。
「世界は美しい。 豊かな自然も、厳しい環境で必死に生きる動物達も、どこまでも続く大空も、夜空を彩る星達も、母なる海より
──世界が氷り漬いてしまえばいい……」
「──のは──なのは!」
「ん……?」
左に結んだ栗毛のサイドテールが揺れる。誰かに肩を揺すられる感覚、それを感じ取り魔導師《
「あ……フェイトちゃん……どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないよ! しっかりして、今は部隊発足の挨拶の最中だよ!」
「え?……はっ!?」
自分を夢の世界より引き戻した親友の《フェイト・
今現在なのはが置かれている状況を説明しよう。 時は新暦75年4月、場所は第一管理世界《ミッドチルダ》南駐屯地A73区画の湾岸に面した場所に建つ古い建物を改装した本日発足する新部隊の隊舎の一角にあるロビー内。 なのはは《
「高町隊長ぅ~? 部隊長が真剣に部隊発足の挨拶をしようとしとる時に居眠りするやなんて、ちと不謹慎とちゃいますかぁ~?」
気付けば壇上の中央に立つもう一人の親友兼上司が眉の片端をピクピクさせながら笑顔を向けてきていた。 やばい、彼女は超おかんむりだ。 その上司の右肩辺りを浮遊する妖精サイズの女の子も腰に手を当ててプンプンと怒っており、自分から見て上司の奥側の隣に立つ部隊の副官は苦笑いをしている。 眼前に整列している部隊の局員およびスタッフ達は憧れと羨望を抱く管理局のエースの意外な醜態を目の当たりにして唖然と絶句したりクスクスと笑いを木霊させたりして愉快な混沌を場に形成している。
「ご……ごめんなさい……」
これは恥ずかしい。 なのはは自身が曝した醜態の恥ずかしさのあまりシュンと萎縮して謝罪を言う。
──あぅぅ……気持ちが浮付いて油断しちゃったなぁ。 フェイトちゃんやはやてちゃん達はともかく、これから面倒を見ていく教え子達を前に立ったまま居眠りしちゃうなんて……はぁぁ……。
「高町隊長は後で部隊長室な」と事が済み次第親友兼上司からきつ~いお叱りを受ける事を約束された事でこの場は許され、なのはは愕然と内心で溜息を吐いた。 混沌とした笑い声も納まり、ふと整列している局員達の中で一際若く他より異彩を放つ四人に目がいく。 管理局でのなのはの役職は魔導師としての戦闘技術・戦術を局の魔導師達に叩き込み指導するのが主な《戦技教導官》で今日からその四人が彼女の教え子となるので毅然とした立ち振る舞いを見せて“凛々しくカッコイイなのはさん”を教え子達に印象付けたかったのだがその企みはこのたった一回のマヌケをもって呆気なく瓦解してしまったようだ。 ボーイッシュな青髪短髪の少女はまるでとても信じられない異様なモノを目撃したかのように固まり上の空で、フワッとした印象の翠髪の少女は「あ~あ、やっちゃったね……」と言わんばかりの苦笑、まだ十歳前後の幼い少年と少女の二人組は共に生暖かい目線をこっちに向けていた。 なのはは外面で笑顔を取り繕うものの内心は某破壊の名を冠する魔導戦士のバー◯ーカーソウルをくらいまくってボロ泣きしている。 もう止めて、とっくにライフは0よ!
「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長の《
なのはの不屈の心のライフがバー◯ーカーソウルによって削り取られていくのは放置し、本日この場をもって始動する新部隊《古代遺物管理部、機動六課》の発足を告げるべく部隊長のはやてが演説を開始する。
「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい人々を護っていく事が私達の使命であり、成すべき事です。 実績と実力に溢れた指揮官陣、若く可能性に溢れたフォアード陣、それぞれ優れた専門技術の持ち主のメカニックやバックヤードスタッフ、全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると信じています」
4年前に起きた空港火災が切っ掛けとなり、どんな事件が起きても即現場に向かえる少数精鋭部隊を目指したはやての夢はこの日この時をもって成就され、新たな始まりを告げる。
その空の果てまで見通すような観察眼をもってなのはが選定し部隊に招き入れた将来有望な新人魔導師達。 魔導師ランクSSを誇る夜天の主たるはやてとその守護騎士にして家族である四人の《ヴォルケンリッター》。 数多の難事件を解決してきた優秀な美人執務官にして管理局最速の魔導師のフェイト。 そして管理局最優の魔導師《エース・オブ・エース》の称号を持つ英雄として他者からの信頼が厚い戦技教導官のなのは。
「まっ、長い挨拶は嫌われるんで……以上ここまで。 機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした」
彼女達が集えばこの次元世界に敵は居ない。 どんな残酷な運命や理不尽が襲いかかろうとも自分達ならば誰一人欠ける事無く悉くを打ち破り、輝かしい未来の空へ向かって羽ばたいて行くことができる。 不可能など無い。
今はそう……思っていた……。
部隊発足の挨拶が終わり、四人の教え子達に初訓練の開始時間を指定して集合場所を伝え、解散させたなのはは部隊長室ではやてに公務中に居眠りをしてしまった事に対するお説教とお仕置きと称したセクハラを一時間受け、現在はこの四年間で急激に膨らんだ胸部に熱を感じながらフェイトと自分達の分隊の副官である二人と並び、隊舎の一角の廊下を歩いていた。
「うぅ、もうお嫁に行けないぃ~。 はやてちゃんヒドイよぉ、なにもあんなに胸を揉まなくったっていいじゃない……」
「はは、災難だったねなのは……でも公務中に気を浮付かせたなのはも悪いよ、ねぇ?」
「ああ。 ……それにしても珍しいな高町。 周りから“仕事の鬼”と称され、仕事の事に関してはいつも呆れる程真面目で隙の無いお前が公共の前面で立ち寝するなど、天変地異の前触れかと思ったぞ?」
動きやすさを重視した白い教導隊服を突き上げその豊満さを主張する自身の双丘に感じる熱の違和感に半泣きになりながら愚痴を洩らすなのは。 フェイトがそれに苦笑して不幸な目に遭った親友に同情するが不謹慎だったのは悪いと言って隣を歩く自分の副官に同意を求めると、彼女の副官であるキリッとした双眸が凛々しい女騎士を彷彿とさせる印象の背が高い女性《八神シグナム》がそれに対する違和感を覚えてそう言った。
ヴォルケンリッターの将であるシグナムが言うように普段のなのはの仕事に対する姿勢は
「天変地異は酷いですよシグナムさん……ちょっとね……昔、任務で撃墜された時にわたしの命を救ってくれた男の子の事を思い出してたんだ。 それでその時の事が夢に出てきて……」
「あぁ~。 雪の中に颯爽と現れてはアンノウンを瞬殺し、お姫様抱っこで病院に運んでくれて、ベッドの上で気付けば居なくなっていたっていう、なのはの初恋の人か~。 そりゃあなのはが浮付いちゃうのも仕方がないかもね。 でもどっちにしても仕事中の公私混同は良くないと思うよ」
「初こっ!? ち、違うよフェイトちゃん!! ただその……助けてくれたお礼も言えなかったからちょっと気になって気が緩んじゃったって言うか、そのぅ……」
「はいはい、気になる彼の事が恋しくて今も探しているんでしょう♪」
「だから違うってばぁ~!」
その美貌に悪戯な笑みを浮かべて揶揄う一番の親友がなんとも子憎たらしい。 なのはが羞恥と焦りに顔を朱色に染めて隣を歩く親友の誤解を解こうと必死に弁明する姿はなんとも可愛らしく、今の彼女はまさしく十九という歳相応の少女そのものだ、とてもキャリア十年の歴戦の魔導師には見えない……が、これでも彼女は数多の多次元世界の秩序と安寧の維持に務める司法組織のトップエースなのだ。
「お前ら、恋バナに浮かれるのもそれぐらいにしておけよ。 アタシもあの時死に掛けたなのはを救ってくれた奴には恩義を感じるぐらい感謝しているし、アタシだってできる事なら探し出して礼を言いたい。 でも今は八年間も探して行方が分からない人間の事ばかりを気にして身が入らねーようじゃヒヨッ子共に示しが付かねーし、戦闘の最中に浮付いていたら致命的な隙ができる。 アタシはもうお前が墜ちるのは耐えられねーから、しっかりしてくれよ、なのは」
優秀でチカラを持った人間程相応の期待と責任が課せられるもので、彼女達エースと呼ばれる魔導師は他の局員達の規範、私情に気を取られて任務に支障をきたさせては他に面子が立たない。 なのはの分隊の小さな副官である《八神ヴィータ》はその事を心から訴えるようになのはに指摘する。
「……うん、それはわかっているよ。 気持ちは心にしまって切り替えていく。 わたしはもう墜ちるつもりはないし、あの子達にはわたしと同じ目に遭ってもらいたくないから、ちゃんと教えていく。 仕事だってもうさっきみたいな失敗は二度としないから、大丈夫だよヴィータちゃん」
「わかってんならいい、最近は特に油断できねーからな。 アタシらが追うロストロギア《レリック》を回収していく上での障害になる正体不明の《ガジェットドローン》はもちろん、近年は大人しかった《アーノルド決起団》の連中の動きが次元世界中で再び活発になってきているという情報もある。 ガジェット共は
「三年前の緊急招集で決起団の幹部の一人と戦り合う機会があったのは皆覚えているか? ……私を含めた此処に居る四人と主はやて、シャマルにザフィーラ、その他二十人ものエース級魔導師や騎士を投入して多くの犠牲を出しながらも捕らえるに至らず退却させるのが精一杯だったあの苦渋を舐めた戦いだ。 私もさすがにあの時は死を覚悟したな……」
幼い顔に訝しい表情を作ってこれから先自分達の敵になるであろう計り知れない戦力の規模に浮かない思いを抱いて悩み、過去にあった強敵との戦いの記憶を思い浮かべて痛い目にあった事を思い出し遠い目をする分隊の副官二人。 彼女らの呻きは六課の戦力が異常なレベルで充実しているからと言って立ちはだかる強敵達との戦いは決して楽ではない事を痛感させる。 これからの道は険しい事だろう……しかし──
「きっと大丈夫だよ、わたし達が揃えばどんな事件や戦いだってきっと乗り越えて行ける! ……そりゃあ三年前のあの戦いは相手の方が凄く強くて悲惨な結果に終わったけど、あれからわたし達は厳しい訓練と実戦を重ねて更に強くなった。 どんな相手が立ち塞がろうと今のわたし達が全力全開でぶつかって行けば、誰が相手でもきっと打ち倒せる筈だよ。 だからそんなに悩んだ顔しないで前向きに行こうよ♪」
我らが不屈のエース・オブ・エースは全力全開で降りかかる火の粉は払うと力強く豪語していた。 どんなに壁が高くて頑丈だろうと砲の一撃で撃ち抜いて進む、そんななのはの意志と姿勢に誰もが心を打ち震わせて物事に立ち向かう勇気を与えられてきた。 故に彼女の力強い言葉は“不安”という負の霧を吹き飛ばすのだ。
「そうだね、なのはの言う通りだよ。 私達は強い、きっとみんなを護っていける!」
「……へっ、そんな事は言われなくてもわかってんだよ! けど己惚れ過ぎんなよ? さっきも言ったが気を抜くと足下掬われるぞ」
「フッ、騎士とした事がつい弱気を見せてしまったな……。問題無い、行く道が険しいのは寧ろ喜ばしい事だ。 敵が強ければ強い程、腕が鳴るというものだ」
フェイト、ヴィータ、シグナムがなのはの言葉の強さに当てられて生じた不安を拭い去り沈みかけだった覇気を浮上させる。 これを見ると高町なのはという存在は皆にとって本当に希望の星なのだという事が理解できるであろう。 たった少しの言葉で周りに正の感情を奮起させる影響を与えているのだから。
「そうそう、その息だよ♪ それじゃあ三人共元気になったところで──機動六課始動初日のお仕事、張り切って行こーーーっ!」
きっと……きっと大丈夫。 この六課に集った皆が一緒なら、どんな困難な道だって……きっと……。
希望の未来に向かって管理局の戦乙女達は初仕事へと旅立って行く。
蒼い空に青い海、
「あ、丁度帰って来た」
見渡す限り母なる海。 隊舎前の海岸線にて早速四人の教え子達を集めたなのはは手始めの基礎訓練を開始しており、四人の教え子達に隊舎の外周を走らせていた。
「あれ? 二人だけですか? 確か《
なのはの側に立つおっとりした雰囲気の眼鏡をかけた女性がランニングから戻って来たのが赤髪の少年──《エリオ・モンディアル》と桃色髪で大人しい印象の少女──《キャロ・ル・ルシエ》の二人しかいない事に疑問を抱く、確か他に二人いた筈だと……それは教官であるなのはも思ったようだ。
「二人共、スバル達は?」
「あれ? スバルさん達先に到着していないんですか? 僕達より先行していた筈なんですが……」
目の前に到着して乱れた息を整えるチビッ子達に他の教え子二人の行方を訊ねてみるとチビ達は自らの頭上に【?】マークを立てながら不可思議そうに首を傾げてエリオがわからないと返答する。 件の二人は南方の地上部隊から六課に引き抜かれた為にチビッ子二人よりも体力があり、あっという間にチビッ子達を引き離して走って行ったようなのだが……不審に思っていると突然隊舎のエントランスの横に逸れた隙間にある薄暗くて狭い脇道から甲高い悲鳴が聴こえてきた。
「うわぁぁぁあああーーーーーっ!!」
「来ないでぇぇえええ! ボクはガリガリだからおいしくないよーー! 食べるならこっちの肉付きのいいお姉ちゃんにしてください!! 特にこの十五歳とは思えない大きな胸の肉饅頭なんてジューシーで極上ですよ~!」
「ちょっ、ミク!? 人のオッパイ指さしてあたしに誘導しようとしないでよ、親友でしょ!」
「そう、ボクらは親友! だから友情に気を遣って、ボクを助けてくださいねぇぇぇえええっ!!」
「ああっ!? ズルいよそんなのーーーーーーっ!!」
何事かと思いこの場に居る一同は聞き覚えのある声で響く悲鳴がした脇道に視線を向ける。 するとその脇道から短い青髪の少女とフワッとした翠髪をした少女が大慌てで飛び出して来て、その直ぐ後から飢えた野良犬の大群が後を追って飛び出て来た光景を目の当たりにして、なのは達は目が点になった。
「ワンワンッ!」
「バウバウッ!」
「あああっ、ダメだ追いつかれるーーーーっ!!」
「助けてなのはさn──ぐえぇっ!!」
頼りになる教官を目前にして背中から追手に跳び掛かられ、若い少女二人を下敷きに御犬様の山が積み上がっていく。 ざっと二十匹は居るだろう。
「ハァ、ハァ……ちょっとミクぅ~、どこがショートカットなのさぁ」
「ご、ごめんね。 気を遣って最短の道を選択したつもりだったけど、野良犬の縄張りだったみたい……うん、やっぱりズルは駄目ですよね♪」
「勘弁してよ。 あ~、酷い目にあった……」
十秒後、なんとか最後のチカラを振り絞って御犬様の山の中から這い出て生存を確かめ合う二人だったが、これで命が助かったと思うのは早計である。 目の前には飢えた野良犬より恐ろしい般若様が──
「ふぅん、そうなんだ。 二人とも教官のわたしが指定したコースを走らないで不真面目にズルしたんだ」
「「あ……」」
気が付いた時にはもう遅い、般若様は大層おかんむりである。 退路は……無い。
「少し……頭を冷やそうか」
「「Oh My God……」」
なのはが受け持つ《スターズ分隊》の隊員《スバル・ナカジマ》と《ミクティーヌ・ベクターン》の頭上には昼前にも拘らず北斗七星の付近にある死の赤い星が輝いていた……。
【陸戦用空間シミュレーター】、なのはの完全監修で作製されたこのプログラムの起動によって海上に仮想の荒廃都市が具現する。
この場を訓練場と定め、記録チップが埋め込まれたデバイスを手に荒れ果てたビル郡の中をFWの四人は逃げ回る八体のターゲットを追いかけまわして東奔西走していた。
「スバル! そっちに行ったよ!!」
「まかせて! うおぉぉおおおっ! リボルバー・シュートォォォオオオッ!!」
「きゃあっ!」
「ああっ!? ゴメンッ!!」
「キャロ! 大丈夫?」
「だ、大丈夫。 ちょっと掠っちゃっただけだから」
「もう、
「ホンットにゴメンね! 次は気を付けるから……ってエリオ! キャロ! 下に四体纏まってる。 チャンスだよ!!」
「本当だ。 キャロ! ブーストお願い!」
「う、うんっ! ≪我が乞うは疾風の翼。 若き槍騎士に駆け抜けるチカラを!!≫」
「うぉぉおおおおおおおおっ!!!」
六課での初の実戦訓練に悪戦苦闘しながらも懸命にターゲットを減らしてゆく教え子達を廃ビルの屋上で記録を取りながら、なのはは真剣に見守っている。
「新人達、なかなか苦労しているみたいですけど、みんな一生懸命ですね」
さっきから側に居る眼鏡を掛けた通信士兼メカニックの女性《シャリオ・フィノーニ(愛称:シャーリー)》が訓練の様子を見兼ねて笑顔でなのはにそう言う。
「うん、ちょっと今は動きがぎこちなくて危なげないけれど、みんな良いものを持っているよ。 どう育てようか迷っちゃうくらいにね」
「あの子達、強くなれそうですか?」
「それはみんなの頑張り次第だね。 教導官はあくまでも望む未来を目指す為のお手伝いだから……でも大丈夫、未来に向かって前に進む気概がある限り、わたしがきっとあの子達を立派な魔導師に育ててみせるよ」
腕を組み、キリッとした表情をして子を見守る親のような目で眼下の教え子達を見据えてなのはは口許を綻ばせた。 その脳裏に過ぎるは、過去の失敗、教導官として魔法戦を教えていく上での意気込み、これから先に思い描く未来……。
──八年前のあの日……わたしは日頃の無茶が祟って墜とされ、死にそうになったところを氷のような眼をした男の子に助けられて今、此処に居る。 医師の人から【二度と魔法を使う事ができないかもしれない】と診断された時は辛くて悲しい思いを抱いてしまったけれど、もう一度空を飛ぶ為に凄く痛くて辛いリハビリを乗り越えて再び空を飛ぶ事ができた……他の人達にはわたしのように墜ちて辛い思いをしてほしくない。 少なくともわたしの目がある内はどんな相手が来ようと絶対に誰も墜とさせはしない。 みんなの未来はわたしが導いてみせる。
そして、それらを統合して想い抱いた彼女の
──辛い思い、理不尽な痛み、どうしようもない運命……わたしはそんなものが大嫌いで、撃ち抜くチカラが欲しくて、戦うチカラを、同じ想いを抱く人達に伝えていく仕事を選んだ。 この胸にあるチカラは、魔法のチカラは、理不尽な運命から皆を護り抜けるチカラだから……だから──
「だが悲しいかな、運命とは残酷なものだ。 これより始まる物語は翼を持つ戦乙女達による
その声が発せられた瞬間……
———……えっ!!?
今、世界は異常な現象に陥っていた。 歪んだ願いを叶える願望器、世界を滅ぼす壊れた魔導書など魔導師という特異な存在であるが故に高町なのはは飽きる程今まで故郷の星では考えられないような異常と対峙し続けてきたのだが、この異常はその中でも群を抜いていた為にその眼は驚愕に見開かれていた。
──な……何、これ? ……みんな、止まっ……て?
風に流されて蒼穹の空を流れ続けて行く筈の白い雲が一つの例外なくその場に完全に留まっていた。 水面を揺蕩う小波が風景画のように固定され、海の上を漂ううみねこの鳴き声が途絶え、乙女の柔肌を撫でる生暖かな潮風も今は感じられなくなっている。
「っ!? シャーリーッ! みんなっ!!」
ハッと隣を振り向くなのは。 日本人である事を疑われるような碧い瞳に映されたのはこうなる直前まで自分と談笑していた筈の女性が笑顔を面に固定したまま身体を彫刻のように硬直させている姿だった。 ピクリとも動く気配が視られない。 先程まで眼下の仮想コンクリートの上では魔法攻撃特有の轟音が新人達によって撒き散らされていた筈なのだが、その轟音は今や消し飛び、そこから齎される静寂が異常に陥った世界をより不気味に演出している。 背にしていた隊舎から絶えなく聴こえてきていた若い活気も完全に途絶えており、各地上部隊に六課設立の説明をしに行く予定で親友二人を乗せて飛び立つ寸前だったヘリのプロペラの風切り音さえ消失していた。
まるで
「──時よ止まれ、お前は美しい……なんて、口に出して言ってみるとこれはなかなか……フフッ、癖になりそうだ」
「っ!!?」
この異常が起きる直前に聴こえて来たのと同じ声……釣られて視線を前に向けると声の持ち主は其処に立っていたのだった。
──な、何この……人? 空に……立っ……て!?
なのはが足を置く廃ビルの屋上……彼女が向いている切り立つ奈落への縁の先で一人の黒髪の女性が
その一挙手一投足、目に映せば異性どころか同性すらもその場に居る者全てを惹き寄せる程美しい……だが
──人? ……この人、本当に人なの? というか……
なのははその魅力的で美しい女性の容姿を見ても
「はぁ、はぁ……あ……貴女は……はぁ、はぁ……いったい……?」
存在自体が意味不明でその感情すら理解不能。 なのはは底知れぬ不可解さに精神を侵され、気付けば吐き気を催していた。 今、時が氷り付いたこの世界の中で動けるのはなのはと目の前に突然現れた女性の二人のみ。 何故この二人だけが動けて他の生命が全て停止しているのかは不明だが、
謎の女性はなのはの問いを聞いても奇異で柔和な微笑みを崩さない。
「フフフ、そう警戒しなくてもいい。
「それを信用しろと? 馬鹿な事を言わないでください」
時を止めてまで接触を図って来た異常な存在が怪しくない訳がない。 なのははどんな人間とでも軽く打ち解ける開けた性格をしているが、得体の知れない存在の言葉を信用する程頭の中がお花畑という訳ではないのだ。
「そうか? 私のような卑小な存在に対して警戒など無意味だと思うのだが……まあ、いいだろう。 長々と話すと子供を退屈させてしまうやもしれん。 手短に開演を告げるとするか……」
謎の女性の謎の発言になのはは困惑を禁じ得ない。 意味不明だ。 “開演を告げる”とはどういう事なのか? 首に掛けている朱い珠──なのはの愛機《レイジングハート》を手に取り如何なる時でも起動する事ができるように警戒を強める。
そして、謎の女性がまるでオーケストラの指揮者が演奏の開始を告げるように両手を振るい上げた瞬間……背筋に底知れぬ悪寒が走りだした。
「それでは皆の衆、この《トリスメギストス》の歌劇をご覧あれ! 私にとって何分初めての試みなもので、少々ありきたりな筋書きになってしまうやもしれんが、役者は悪くない。 至高……とまではいかないが、皆優秀でなかなか魅力的だ。 故におもしろくなると思うぞ? では──
──これより、《
謎の女性──トリスメギストスが開演する演目を告げ終えると同時に氷り付いていた時が解け。 瞬間遥か海の向こう側の空に天を突き破る程の超極大な光の柱が立ち昇り──剣となって六課の隊舎に振り下ろされたのだった。
魔法に
トリスメギストス……いったい何者なんだ?
書いてて思ったけどDiesネタ多っ!?(プレイ中のDies irae(PSP版)はあと某Bカップ先輩ルートが残っているのに……)
でも獣殿等Diesキャラは一人も登場させる予定はありません。 ていうか自分のヘボい表現力・技量では獣殿や水銀ニート等の難しいキャラクター性を上手く書く事ができそうもない……無念。
ぶっちゃけここまでほぼなのは視点でしたね(笑)。 彼女の夢に少しだけ出て来た女顔の奴がオリ主となります。 本格登場はあと二話ぐらい先かな?
そして次回……原作キャラの中から早くも死者が一人出てしまいます。
いったい誰が……とはまだ教えられませんが、なのは達六課の前線メンバーでは無いとだけ言っておきます、前線メンバーでは……。
次回は敵勢力の襲撃です。 もう半分ぐらい書けているので、次話の更新はそんなに長くかからないと思います。
では次回更新まで──
*イメージEDテーマ 『嘆きのリフレイン』 PS4専用ゲームソフト【英雄伝説 閃の軌跡Ⅲ】EDテーマより。