THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

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リリなのシリーズのヒロイックな雰囲気に似合わない、かなりダークな展開で物語を進めているから、お気に入りの数の少なさから見ても、この作品は読者の皆さんに好まれていないものかと思っていましたが、意外にも期待と応援のメッセージを送ってくれたファンのユーザー様が何名かいてくれて、大変驚いています。

これを励みに今年も頑張って書いていきますので、これからも応援よろしくお願いします!



己の矜持(プライド)を懸けた勝負。 ヴィータVSロッキー!

『この《鉄槌の騎士》ヴィータと鉄の伯爵(グラーフアイゼン)に壊せねぇモノは存在しねぇっ!!』

 

古代ベルカの時代に製作された【夜天の魔導書】にプログラムされた守護騎士の一人であり、夜天の魔導書の最後の主となった気丈で心優しい少女を心底大切な家族として現代(いま)を生きる彼女がその矜持を心から渇望するようになったのは何時の事だっただろうか……。

 

魔導書の守護騎士プログラムとして古の時代の戦乱の中でただただ魔導書に選ばれた主に仕える忠実な下僕としてひたすらに鉄槌を振るい続け、主の敵を屠り戦場に屍山血河(しざんけつが)を築いてゆく事が生き甲斐だった時か? 魔導書が次々と人の手に渡り代わり醜い欲望に塗れた者が主となってしまった為、世界と共に破滅しては転生を繰り返す悲しき闇へと変えられてしまった魔導書と共に世界を破壊する為だけの道具と成り果てた時か?

 

長き刻を得て破滅と転生を繰り返した末、魔法とは無縁の世界で幼くして両親を亡くし天涯孤独の身となって毎日一人心寂しく生きていた心優しい少女が主となり、彼女が道具としてではなく掛け替えのない家族として自分達を迎え入れてくれた事で初めて“護りたいと思う大切な心”を手に入れられた時か? その大切な家族となった心優しい少女が破滅の闇に蝕まれた魔導書に選ばれてしまったが為、その闇の呪いに身体を蝕まれて死へと向かってゆく絶望を何としても阻止してやる為に、“他人を傷付けてはいけない”という少女との約束を心苦しく破ってまでも運命に抗ってやろうと誓い、生まれて初めて自らの意志に従い動き出した時か? 大切な家族を救おうと他人を傷つける自分達の行動を間違いだと咎める白い魔導師の少女が執念深く何度も諦めずに自分に向き合いぶつかって来た為に、お互いが心に抱いた信念を衝突させ合った戦いの時か?

 

それとも白い魔導師の少女達との戦いの末に互いに分かり合う事ができて、現世に顕現した破滅の闇(ナハトヴァール)を彼女達と共に手を取り合って戦い倒滅させた事でようやく古の時代より数多くの悲しい犠牲者を出しながら世界を破滅させ続けてきた魔導書の闇を払う事ができ、【夜天の魔導書】が復活を遂げて護りたい大切な家族である心優しい少女を破滅の闇の呪いから解き放つという心からの望みが叶った聖なる夜の日の時だろうか?

 

……いや、確かに破滅の闇の呪いを解き放ち、夜天の魔導書の復活と共に掛け替えのない大切な最後の主を死の運命から救ったと同時にこの先の未来に共に立ち塞がってくる“壁”を乗り越えて行く為に、生涯共に切磋琢磨しながら数々の戦いへと挑んで行く事となる白い魔導師の少女等多くの仲間達を得られたあの日こそが彼女達ヴォルケンリッターにとって、真に人としての生が始まった、夜天の守護騎士としての新たなる門出の日と言えるのは間違いではないが……。

 

『なのはあああぁぁぁーーーっ!! 何所だ、何処に居る!? 返事をしてくれっ!!』

 

八神ヴィータが自分のチカラに無力を感じたのは彼女が生まれて初めて掛け替えのない大切なモノを得てから約二年の月日が流れた頃、とある無人世界での任務に管理局の魔導師として赴いた時の事であった。 年中吹雪が降り続く純白で過酷な環境の中、正体不明のアンノウン達と交戦しつつ二年前の戦いで何度もぶつかり合った白い魔導師の少女──高町なのはと共に視界の悪い空を翔け回っている途中、その吹雪による視界の悪さが原因となり、なのはと逸れてしまった事があったのだ。 ヴィータは吹雪という悪天候の空を翔け、逸れてしまったなのはの名を大声で呼び叫びながら必死に捜索し、辿り着いた地で彼女が目にしたのは雪上に散らばる凍結状態でバラバラに破壊されたアンノウンと思わしき機械兵器の残骸とその付近の白を不自然に染めていた血の赤であった。

 

『な……のは……?』

 

年中吹雪に覆われているような過酷な環境の無人世界に違法航行してまでやって来るような人間など余程の理由が無い限り存在しないだろう、故にこの場の地表を覆う雪の白を赤く染めた血を流した人間の正体は側でスクラップになっている機械兵器を討伐しにやってきた自分達管理局員の内の誰かであると絞られるが為、気が付けばヴィータは最悪の事態を想像してしまい茫然と積雪の上に立ち尽くしていた。

 

ちょっとした成り行きでなのはに近接戦闘の立ち回り方を教えた事があった時に“戦い方を人に教えるのが上手だと思ったから”という突拍子のない理由で彼女が自分に教官の資格を取る事を勧めてきた為に、持っていて損は無いだろうと簡単な教官資格の試験を受けて合格したその日からというもの、同じ教官資格を持っていたなのはと事ある度にこうして任務を共にする事が多くなっていた。 故になのはと接する機会が格段に増えた為に自分が彼女の事を大切な家族である心温かな少女とは別に掛け替えのない友人として認識するまで絆を育むのにそう長い時間は掛からなかった。

 

困っている他人が居たのなら自分の危険を顧見ず救いに行ってしまう突撃思考で危なっかしいバカヤロウだけれども、それ故にとても良い奴であるこの友人の事は任務でよく一緒になる事の多い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていた。 しかし現実は無情だ。 幸いなのはは自分が此処へ来る数分前に謎の氷眼の少年によって救助されていて、近隣の管理世界の病院へと緊急搬送された事実をその場で本隊から受け取った念話通信で知った事で即座に遂行中の任務から離脱する事を決め、なのはが搬送された病院へと急行した時に緊急手術室で目の当りにした彼女の悲痛過ぎる姿は今も自分の記憶に深く刻み込まれていて忘れられない。

 

『なんだよ……コレ……アタシが付いていて、どうしてこうなっちまったんだよ……ッ!!?』

 

手術台の上に寝かされ、素肌の色が殆ど見えない程に包帯が巻き付けられて無数のチューブと人工呼吸器に繋がれた友人の変わり果てた姿に鉄槌の騎士ヴィータは己の無力を噛み締める事となった。

 

見ず知らずの他人によって掛け替えのない大切な友人の命は救われ、担当の医師から魔導師として再起困難だろうと宣告されていたにも拘わらず苦難のリハビリを不屈の意志で必死に乗り切った事でその友人は再び魔導師として見事に復帰する事ができたのだが、この一件においてヴィータは何もできなかった事を激しく後悔し、この出来事以来、彼女は自分の大切な者達を傷付けようとするモノは《鉄槌の騎士》の矜持と長年共に戦場を戦い抜いて来た相棒(グラーフアイゼン)に懸けて必ず全て破壊してやると誓ったのだ。

 

──『護る為に総てを叩き潰して破壊する』──それがあの日にアタシが胸に抱いた渇望(チカイ)だ! だから例え今は相棒(アイゼン)がこの手に無くたって、もう二度とはやてやなのは達を誰にも墜とさせはしねぇっ!! だからアタシはもう絶対に──

 

「──誰が相手だろうが負ける訳にはいかねぇんだあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

裂帛の叫びを伴って振るい掛かったヴィータの戦槌型アームドデバイスがそれを迎え撃つ様に突き放ってきたロッキーの拳に嵌められた鉄甲型アームドデバイス──《天地(ティエンディー)》と激しい火花を散らして打ち突け合い、鈍い金属打撃音を鳴らして互いに弾かれる。

 

バトルフィールドの外野に下がった機動六課・ロストウィング両陣営が見守る中、団体摸擬戦の幕を上げる八神ヴィータVSロッキー・マオの対戦が始まった。 開始直後から先手必勝と言わんばかりに己の小さな全身を砲弾に変えて飛ばすかのように真っ向からの飛翔突撃を初撃早々に敢行し、先程自分に礼儀の欠片もない罵詈雑言を散々浴びせてきやがった生意気なクソガキの捻じ曲がった根性を即刻叩き直してくれると縦回転の遠心力をつけた打ち下ろしの一撃を御見舞いしてやったが、結果はご覧の通り()()()()()()()が故に歴戦の鉄槌の騎士は得物に小さく細い片腕を引かれながら表情を驚愕に引き攣らせた。

 

──ちょっ、マジかよ!? 幾ら相棒(アイゼン)より硬度の低い戦槌だからと言ったって、何気ない感じでこのクソガキが突き出して来た拳如きが、手加減無しの全力で打ち掛かってやったアタシの《テートリヒ・シュラーク》と互角の威力だとぉっ!!

 

ヴィータはその幼い身体ながらもヴォルケンリッター……いや、機動六課随一の打撃攻撃力を誇っている。 例え鉄槌の騎士の象徴たる相棒(デバイス)のグラーフアイゼン以外の慣れない得物で一撃を振るったとしても、そう容易に並居る魔導師や騎士が彼女の腕力に正面から打ち勝てはしないだろう。 体格差なんてものは所詮、身体強化魔法で理不尽に易々と凌駕可能なのが管理世界の魔法使いなのだ、況してやヴィータは幼い見た目でも【夜天の魔導書】にインストールされたデータプログラムが実体化した人外的存在で、例え身体強化魔法を使用してなくても通常の人間の男性よりも遥かに腕力が強い……だというのに互いに打ち付けた得物を弾き合った反動で一瞬体勢を仰け反らせる彼女の眼前で同様に小さな全身を一瞬仰け反らせているロストウィングの少年魔導師は機動六課FW陣のメンバーの一人である赤髪の少年騎士と歳が然程離れていないだろう本物の幼子(おさなご)だというにも拘らず、鉄槌の騎士ヴィータと互角の威力で相打ってみせたという衝撃的な初撃の結果には外野でヴィータの応援をし始めようとしていた機動六課陣営も驚愕を禁じ得ない。

 

「なあっ!? 嘘やろ? あのヴィータが真っ向から打ち合っておいて、体勢を仰け反らせておりよる!」

 

「でも打ち負けた訳じゃない! 怯むなヴィータッ!!」

 

「うおおぉぉおおぉおおおおぉおおおおっ!!」

 

そんな事は言われるまでもないと、ヴィータは後ろに仰け反った体勢に逆らわず気合いと共に反動をつけて全身を素早く一回転、仰け反りの隙を巧みに埋めてみせると同時に次撃の鉄槌を半円状の軌道に描いて振るい、こちらよりも大きく体勢の修正が遅れたままでいる無防備状態な相手の脇腹に叩き込もうとする。 しかしあちらも大きく仰け反った体勢を利用する事を考えていたようで、そのまま芸術的なバク転を披露しつつ華麗に後退してヴィータの次撃を避けてみせたロッキーは──

 

「んなウ◯コが付いてそうなバッチィハンマーなんか自分の顔面でくらっておけガスッ!」

 

そんな罵倒を吐き捨てながら目の前を空振ったハンマーヘッドをカウンターのアッパーでヴィータの顔面目掛けて殴り飛ばしたが、無論ヴィータはそんなんでマヌケにも自分の振るった得物に自滅させられるような三流騎士ではない。 彼女は唐突に方向を変えられて自分の顔面に戻ってきた戦槌を「ふっ!」っと首を傾けてやり過ごし、その反動の勢いを殺さずに三度全身を流れるように回転させて三度目の槌撃を迅速に返してみせた。

 

想定外の攻撃結果となったとしても逆にそれを利用して隙を見せずに次なる連撃へと繋げるヴィータの巧みな近接戦闘技術……流石は古代ベルカより夜天の主の守護騎士として数多の戦場に身を投じてきた歴戦のヴォルケンリッター、《鉄槌の騎士》だと称賛に値する腕前だ。 堪らずロッキーはその場から咄嗟に後方へと跳び退き、ヴィータの反撃を肩に掠らせて危なげに距離を取った。

 

「ぐぬぬぬ、ちょっと油断したでガス。 うっかり犬のウ◯コ踏むような大ドジ女のクセに生意気なぁぁ!」

 

「へっへっへっ、場数が違うんだよ場数が! アタシと互角の攻撃力で打ち合ったのは褒めてやるが、連撃の繋げ方が全然甘ぇな。 そんなんでアタシに勝とうなんざ百年早いんだよヴァーカ!!」

 

今の攻防についての駄目出しをされると共にアッカンベー! とヴィータから幼い姿に違わぬ稚拙な挑発を受けてロッキーは心底屈辱を噛み締めるように歯を軋らせながら相手を憎たらしく睨み付けずにはいられないでいる。 まるでそれは見たまんまに近所の子供同士による幼稚な罵り合いのような風景で、外野の大人達はやれやれと呆れるか微笑ましく思い含み笑いに興じる、或いは苛立ちを募らせるばかりだ。

 

「ゴラァァッ! 何ガキのママゴトみてぇな戦いしてんだよロッキー! 遊んでねぇでとっとと“アレ”使ってそのゴスロリハンマー娘を早いとこフルボッコにして終わらせやがれってんだ!!」

 

対戦は始まったばかりだというのに短気過ぎるビスマルクがサングラス越しに眼を血走らせて腑抜けた戦いをしているロッキーに本気を出せと恫喝を浴びせてくる。 それを聞いた途端にロッキーは何が気に入らないのか不満に苛立った視線を外野の仲間達に向けた。

 

「オレに“アレ”を使えだ? 冗談じゃねぇでガス! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() こんな生まれつき他より高かっただけのチカラを周りにひけらかして人に認められて、それでいて上からの好待遇を当然のように受け取ってウハウハしてやがるような、根性の曲がった本局のエース共なんかとは違うんだよっ!!」

 

その言葉は彼の内の領域の奥底に座す本能からの叫びに感じられた。 最初はヴィータの攻撃力に食い下がってきた相手の未知の実力に一時の不安を覚えたが、開幕の攻防にヴィータが打ち勝ち、こちらが優勢を得た事で歓喜に活気付いていたなのは達機動六課陣営がロッキーの叫びを聴いて思わず動揺してしまい、その歓喜を波が退くように鎮めてしまう。

 

「な、何やねんいったい? あの子が今言った内容に色々とツッコミたい所はあるんやけど……」

 

「“アレ”を使いたくないって、何の事だろう。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? どういう事?」

 

「あの子の今の言葉、なんだか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように感じ取れるような……」

 

六課の隊長三人娘が言った疑問に同意するように彼女達の部下達も首を縦に上下させて頷いている。 “アレ”という何かを使用して戦う事を執拗に拒否したいらしいロッキーの拒絶反応は()()()()()()()()()()()を放っていた。 “アレ”というのは、なにやらロッキーの“生まれ持った才能”に関する要素らしいが……。

 

「生まれ持った才能……もしかして【レアスキル】!?」

 

そのヒントから思い至った答えをなのはが口にした一瞬、ヴィータと睨み合った膠着状態のロッキーの背筋が強張った。 どうやら当たりのようだ。 仕方がないと不機嫌な表情を見せたガンマが不躾な口調でなのは達に語り出す。

 

「ああ、その通りやで、ロッキーは先天的にごっつええ強力なレアスキルを持っとる。 あのクソガキは此処に配属されるずっと前に居たところで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしくてなぁ。 あんな生まれ持った才能だけしか取り柄が無い癖にそれだけを鼻に掛けて上に媚売り、大した努力もしとらんのに最初から持っていただけの才能(チカラ)を絶対と思い上がって、汚い自尊心で無才凡人を低脳と蔑み、才能という名の理不尽な暴力でそれ等を嘲笑いながら足蹴にしとるような連中と一緒にされたくあらへんと思うとるようで、あまりそのレアスキルを人前で使いたがらへんのや、あのド半人前のガキは。 才能に“頼り切る”んと“使わず腐らせる”んは別モンやろが、ドアホウ……」

 

話を聞いてなのは達は複雑そうな表情を作って黙り込んでしまう。 才能社会と言える魔導師業の上下関係は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ってもいいだろう。 実際になのは等エースと呼ばれる魔導師達は皆例外無く高魔力量レアスキル持ちであり、他の魔導師や騎士の局員と比較しても明らかに優遇度が高く昇進もしやすくなっているのが現状だ。 地上本部の統括を任されているレジアス・ゲイズ中将などの例外もあるが、基本的に低ランク魔導師や非魔導師局員達は管理局の花形たるエースストライカー級の下でひもじい思いをしている者が多く、またエースと呼ばれる程の才能を持って魔導師を志した者達の中には己の才能の高さに胡坐をかいて自尊心のままに身を振る舞ってしまっている人間も少なくはない。 よって管理世界の魔導師達は高ランクと低ランクとで立場が分かれ、間に大きな溝が出来てしまうのも自然の理と言うものであろう。

 

その影響による互いへの弊害は今も改善される兆しは見られず、水面下での醜いいがみ合いが日々絶えない。 それ故にロッキーのような自我意識の強い魔導師は置かれる環境次第で本来のチカラを発揮したがらなくなるという場合が希少ながらもあるのだ。

 

「なるほどな。 つまりテメェは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事かよ?」

 

だがヴィータはロッキーの事情を聴いても同情する気配はなく、寧ろ不愉快そうに腕を組んで苛立ちの表情を表に出していた。 そんな理由でこの《鉄槌の騎士》を相手に全力を出す事を躊躇するだなんて騎士に対する侮辱もいいところだ、もう我慢ならない。 怒気を孕んだ鋭い視線で目の前の我儘なクソガキを睨み付け、そろそろ戦闘再開するぞと小さな身から溢れ出す闘気と魔力を漲らせて戦槌を構える。

 

「そうでガス、オレは“アイツ等”とは違うんだ。 オレは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んでガス! 自分の意志で師事したシショーの下で七年間鍛え抜いた拳と必死に磨き上げてきた、この──《ロンフォン流天鳥拳》でッ!!

 

それは相手方も同様の姿勢であった。 両腕を両翼のように広げて左膝を上げる変則的な片足立ちという“地上から飛び立とうとする鷲”のような構え……ロッキーはまるで功夫(クンフー)映画に影響されたかのようなポーズを取って闘志に猛るヴィータを射貫くように見遣っている。 実際にロッキーが今身に纏っているバリアジャケットもまた黒いラインを走らせた黄色いジャージのような装いである為に益々そう見えてしまうが、幼い歳の所為で周りから観た印象は馬子にも衣裳だ。

 

()──ッ!!」

 

「っ!!?」

 

しかしその暖かい目で見守りたくなるような印象は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()事によって霧散する事となった。 それは約10mの間を挟んで彼と向かい合っていたヴィータも例外ではなく、突然相手を見失った事態に彼女は歴戦の直感で身の危険を察し、魔力障壁を全身に纏うフィールドタイプのベルカ式防御魔法──《パンツァーガイスト》を展開。

 

「──ホァァアアーーーッ!!」

 

「ぐ──ああっ!!

 

刹那、彼女の鳩尾に痛烈な正拳突きが突き刺さった。 腹部に奔る、猛スピードで走って来たダンプカーに衝突されたかと錯覚する程の衝撃と()()()()()()()()()()()()()()()()()()の気合い面に困惑と苦悶を入り混じらせた表情を浮かべ、耐え切れずに口から胃液を吐き出すと同時に全身を“くの字”に曲げさせられて後方直線状に勢いよく吹っ飛ばされて行く鉄槌の騎士。

 

──なっ!? ヤロー、今何しやがった? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だとぉッ!!!

 

吹っ飛ばされながらも経った今起こった事象に驚愕を隠せないヴィータ。 超人レベルに身体能力を魔力で上昇させられる事のできる魔導師にとっては10mなんて近距離を一瞬で詰めてやる事ぐらい造作も無い事なのだが、彼女が驚愕している理由は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からである。 モロに入った拳の衝撃もパンツァーガイストで軽減してこの威力、並ではない!

 

「フォォアチョオウッ!」

 

「があ”あ”ぁっ!!」

 

そしてまたしても存在を察知させる事なく何時の間にか飛ばされた先の軌道上に高速で回り込んで来たロッキーの肘打ちによって後ろから頸部に強烈な殴打を受けてしまい、一瞬意識を飛ばされそうになる。 歴戦の騎士の意地でなんとかギリギリ意識を保てたものの、あまりに威力のある一撃を打ち込まれた為にその反動でヴィータの幼い顔面が地表に叩き付けられてしまい、そのまま地表を凄まじい速度で削り滑って行く。

 

──()()()。 またあのヤローの動きを捉えられねぇ。

 

顔面を地面に突っ込まされて地表を掘り進まされている恰好のまま、相手が回り込んで来た追撃をまた感知する事ができなかった為に、ヴィータは継続的に顔面を襲ってくる摩擦熱の激痛に耐えながらも益々不可解と疑問を心に募らせていく……だが悩んでいる暇はない、今の彼女は頭隠して尻隠さずだ。 地上に出したままの無防備状態の小さな身体を追って容赦なく後方から跳び掛かって来るロッキー。

 

「まだまだァァーーッ、でガスッ! ウウゥゥ、アチョォォオオオオオーーーーッ!!!

 

「クソッ!」

 

地上に出ている自分の首から下の小さな身体に狙いを付けて、まるで地上を這う獲物へと鷲が脚の鋭い鉤爪で上空から襲い掛かるかのように、相手が肩の上から両腕を振り下ろすフォームで鋭く五指を立てた両手を裂帛の気合いと共に猛烈な勢いで叩き付けて来るのを、ヴィータは咄嗟に地表に接して滑走させられている顔面から魔力を放出する事によって爆発的な反発力を発生させ、その反動を使い一気に自身を空中へと押し上げた事で相手の追撃を紙一重で回避する。 直後に直前まで彼女の身体があった地表が凄まじい破砕音と共に爆ぜ砕ける光景を錐揉み状に軌道を描いて空中に投げ出されながら見下ろし、ヴィータは激しく息を吐きつつ表情に苦難の色を浮かべる。

 

「ぜぇ、ぜぇっ! ……さ、さすがに今のはかなり大雑把な動作だったからか、攻撃して来るのが読めて助かったけど。 はぁ、はぁっ! ……い、いったい何がどうなってんだ!? 最後の一撃以外、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

数秒前まで自分の頭が滑走していた場所に形成された直径約15mのクレーターの上に立ち上がってこちらを見上げ、「へっ、どうだでガス? まだまだオレのチカラはこんなものじゃないでガスよ!」と生意気にもニヤニヤしたドヤ顔を向けてきているロッキーに、ヴィータは空中に身を縫い付けて苛立ちと困惑を混同した視線を向ける。

 

レアスキルを使用した感じはしなかった。 と言うか、あれだけ使わずに勝つと壮語しておきながら、直ぐにその誓いを破り捨てるなど、幾ら相手が世間に無知であろう幼い歳頃の少年であるとはいえ、恥じらい外聞知らずにも程があるというものだろう。

 

誇り高い守護騎士たる彼女が視たところ、ロストウィングの連中は表向き粗暴な輩の集まりだが、個人や部隊としての矜持(プライド)に高い誇りを持っていると感じられた。 でなければあ~だこ~だ言ってヴィータ達をこんな団体摸擬戦なんかで試そうとしたりせず、問答無用にチンピラの如く集団でリンチにして来る筈だろうし、己の持つレアスキル才能云々についても大して拘った認識・価値観を持ったりして自己嫌悪せず、我が物顔のままに振る舞ってくる事だろう。 しかし、少なくともこのロッキー・マオという少年に限ってはそうではない、それは彼が見上げて向けて来ている翡翠色の瞳の奥からビリビリと感じ取れる強固な意志が鮮烈に語りかけて来ているのだから。

 

「なるほどな。 テメェの努力で得たチカラが半端じゃない事は理解した。 でも結局、“持っているチカラを使わねーで勝ってやる”って言う事はだ。 アタシを……このヴォルケンリッターの《鉄槌の騎士》ヴィータ様を一対一で相手にしておいて()()()()()()()()()()()()って、嘗めた事をほざいてきてやがる事には変わりねぇ!

 

だが、相手が誇りある戦士だから何だと言うんだ? 戦士としての矜持に誇りを持っているのが自分達だけだと思うな!

 

「へっ、いいぜ。 だったらテメェが使う事を頑なに拒否ってやがるそのレアスキル、テメェ自身の意志で鍛えあげたっつうそのナントカ鳥拳っていう訳の分からねぇ拳法をアタシが完膚なきまでに見切ってやって、無理矢理にでも使わせてやるから、覚悟しやがれ! この石頭デッカチがっ!!」

 

古代ベルカ時代の戦場を生きた騎士の誇りに懸けて、あの生意気で頑固な少年の全力を絶対に引きずり出してやる!! ヴィータはその誓いを胸に、小さな手に戦槌を強く握り締めて相手が待ち構えるクレーター上に狙いを定めて弾丸の如くその身を地上へと突貫させて行くのであった。

 

 

 

 

 

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