THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

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KH3、プレイしてクリアーしたけれど、なんだか今までと比べて呆気なく終わった気がするなぁ……。

まあそれはそれとして、今話でヴィータVSロッキーの対戦は決着です。

今話のサブタイを見れば解る人には解ったかと思いますが、ロッキーが忌み嫌っている彼のレアスキルは【太極に至って武神となったあの女拳士】の異能だったりします。

では何故ロッキーは【生まれ持った自分のチカラ】を異常なまでに毛嫌いするのか? 彼の過去に何があったのか?

そしてヴィータとロッキー、果たして最後に勝つのはどっちだ!?




陀羅尼摩利支天

……ロッキー・マオという少年の存在価値は彼が運良く生まれ持っていた優秀な才能(レアスキル)だけであった。

 

『凄いわ()()()()()()()()()()()()()!』

 

『ああ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、流石は僕達が産んだ息子だ。 ロッキーは将来きっと管理局でトップエース級のエリート魔導師になってくれるに違いない!』

 

両親からの称賛をそのまま()()()()()()()()()()()なんだと真に受けるお調子者幼児であったロッキーは最初、その称賛を素直に喜んでいた。 ロッキーはそのわかりやすい性格故に両親に褒められたレアスキルを友人や知り合いに披露自慢して回り、調子に乗って自分の住む町に屯っていた近所迷惑な不良集団をそのレアスキルを使って退治してみせたりして、あっと言う間に町の皆から称賛と羨望を集めていた。

 

その脚光を浴びて将来を期待される優越感は堪らなく気持ち良く、天に舞い上がる気分は最高に甘露な御菓子であったのだが……。

 

『成績オールE? それは残念だったわねロッキーちゃん。 でも大丈夫よ、塾の成績が悪くったって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ロッキーちゃんの輝かしい将来は約束されているわ~』

 

『痛っつ~! 負けたぁぁーーっ! やっぱ凄く強いな、()()()()()()()()()! 勝てる気がしないよ』

 

『ほんとほんと~。 ロッキー君は勉強も運動も魔法も他全部み~んなしょぼいけど、()()()()()()()()()()()()()()~』

 

『割った壺の弁償? 君は町で噂の()()()()()()()()()()でしょう? いいよいいよ、君の素晴らしい才能を活かす将来の経歴をこんな事なんかで傷付けたりしたら、儂が町の皆に責められてしまう。 どうしてもと言うのなら出世払いという事にしといてくれないかい』

 

その称賛を聴いている内に彼は思った。

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……じゃあ“それ以外”は? オレが褒められるところって……それだけ?

 

少年は気付いた……気付いてしまった……気付かなければ自分にスポットライトが集められていると勘違いしたまま、ヒーローを気取っていられたのに……。

 

──レアスキルなんて何の努力もなく最初から運よく持っていただけの物じゃん! じゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()……周りはその中身の宝石(レアスキル)に魅了されていただけで、入れ物(ロッキー)の方には見向きもしていなかった。 しかもその宝石は自分で手に入れた物ではなく、ただ最初から運よく持っていただけの物……故に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを感じた瞬間に自分に浴びせられて来る脚光はただただ虚しいだけのものと成り果てた。

 

──皆、頼むからいい加減に()()()()()()()()?そんななんも話さない石ころ(レアスキル)なんか見てないでさぁ……。

 

それからロッキーは“自分の存在価値”を求めるようになった。 荒廃した再開発地区に屯っていた大規模な不良グループにレアスキル無しで喧嘩を吹っ掛けて袋叩きにされたり、言葉使いを悪くして語尾に『──でガス』と変な特徴を付けて喋ってみたり、《ロンフォン流天鳥拳》などという知る人ぞ知らないマイナーな格闘流派に手を出してみたり、勉強も運動も魔法も尽力を尽くして()()()()()()()()()()()()()()とにかく必死に何でも頑張った。 何でもいいから『【自分】を見てほしい』……その渇望(ねがい)のままに……。

 

『何故レアスキルを使わなかったんだロッキー! 今日の管理局本局主催の一般参加式魔法戦技披露宴で行われた体験摸擬戦。 ()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

『で、でもそれじゃあ、オレの今までの努力が無駄になるじゃないでガスか!? オレは毎日毎日、ロンフォンシショーの元でたくさんたくさん武術の修行をしているっていうのに、それを活かせないんじゃあ意味が……』

 

『……もういいわ。 出て行きなさい! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、心底見損なったわ!!』

 

『そ、そんな……オレはただ……オレの努力を……オレが自分で鍛えたチカラを……()()()()()()()──』

 

皆に……()()()()()()()()()()()だけなのに……その両親からの拒絶は当時たったの六歳だったロッキーの未成熟な心に消えない損傷を与えるには十分であった。

 

このような経緯があってロッキー・マオは両親に見捨てられ、暫くロンフォン流の道場で住み込みの鍛練に明け暮れたその二年後に彼の価値観を決定付けた“ある胸糞な出来事”を通して特務遊撃支援部隊ロストウィングにその身柄を拾われたのだ。

 

「オレを……オレを……ッッ」

 

「うぉぉぉおおおっ、これでブッ潰れろォォォーーーッ!!」

 

雲を貫いて文字通りロケットの如くハンマーヘッドのブースターを最大火力で吹かせて地上から一直線に飛翔してやって来たヴィータが情緒不安定に無防備なロッキーの懐に自身の小さな身体を捩じ入れさせる。 ロケットブースターの推進力で振り回す突進力と遠心力、更には先端が鋭利に尖ったピックによる一点突破力を重ねて全力で叩き付ける! この距離なら外さない、《鉄槌の騎士》の魂をこの一撃に──

 

「ラケーテン──シュラァァアアアアァァアアアァァアアアアクッッ!!!

 

込めて、ロッキーの腹部ド真ん中に叩き込まれた!

 

「が──はあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”-----ッッ!!!?

 

《鉄槌の騎士》八神ヴィータの十八番《ラケーテンシュラーク》が決定的にクリーンヒット。 ロケットブースターの噴射炎が蒼穹に弧を描く尾を引き、時が停滞したような錯覚の中で《曼珠沙華》の異名を持つ少年武術家の幼い身体が一瞬で“くの字”に折り曲がった。 その全てを砕く鉄槌の衝撃が自分の背中を突き抜けて遥か彼方までの大気を爆散させる程の一撃をまともに受けて、全身の骨という骨と必死に鍛え上げてきた肉体の全てが粉砕されるような瞬間的激痛に白眼を剥いて大量の胃液を口からブチ撒けた。

 

「まだまだああぁぁっ! 念入りにッ、ブッ潰すッ!!」

 

傍から見ても決定打と言える一撃を相手に叩き入れた。 しかしヴィータは本気だ、絶対破壊を信条とする《鉄槌の騎士》が絶対に叩き潰すと決めたのだ。 この程度では終わらない。

 

「うおおおおおおおおッ!」

 

《ラケーテンハンマー》のピックに“くの字”に全身を折れ曲がらせたままのロッキーの腹部を刺し付けたままジャイアントスイングの要領でチカラいっぱい五回転程振り回す事で遠心力を更に加え──

 

「カートリッジ、リロード! フルドライブ、《ギガントフォルム》ゥゥゥウウウウッ!!

 

人間なら肩が壊れてしまうくらいに長い柄を後上に振り被ると同時に再びカートリッジを、今度は二発使用する。 更に膨張した魔力が得物に注ぎ込まれてその形状が再び変化……及び、巨きく質量が肥大化した。 横幅半径約30m超はある角柱状の巨大鉄槌、それに伴って長い柄も伸長化している。 ハンマーヘッドの片側打面に貼り付いたロッキーの小さな全身はもはやその巨大な面積に納まり切らずに全身の前面がその広い面積に非常にコミカルな恰好でベッタリと貼り付けられている。 この巨大な威容、まさに巨人の鉄槌(ギガントハンマー)

 

「これでとどめだぁぁぁああああああああッ!!」

 

その巨体を振り抜き出しながら、ヴィータは張り裂けんばかりの裂帛と共に流星の如く地上へと急速降下して行く。 小さな紅い騎士に柄を引かれて巨大な質量が天より落下する。

 

「轟天爆砕──」

 

紅い流星が地上へと降り注ぐ、騎士を侮辱した痴れ者を巨人の鉄槌で地ごと粉砕せんが為に──

 

「──《ギガントシュラーク》ウウウウウウウゥゥゥーーーーーッッ!!!」

 

粉砕するべき者を貼りつけた面を地に、巨大な質量をヴィータが幼い顔付きを変貌に歪まさせる程にありったけのチカラを入れて振り下ろして叩き付け、天地を激震させる轟音を盛大に鳴り響かせた。

 

「「「「「「「きゃあああーーーーっ!!」」」」」」」

 

火山の大噴火の如き激震と轟音、そして爆発するように舞い上がり広大な摸擬戦場全体を丸ごと覆い尽くした大量の粉塵と砂煙に戸惑いを禁じ得ず悲鳴をあげたのは六課陣営、精神が未熟なFW陣とシャーリーやルキノ等ロングアーチの女性達だ。 荒事に慣れている隊長副隊長達や元航空武装隊員のヴァイスはさすがにみっともない声は出さないが、「さすがにこれはちょっとやり過ぎじゃないかな……」と一切の容赦がまるでないヴィータに表情を引き攣らせている。 バトルフィールド中に蔓延した砂煙の中で決定的な一撃を叩き付けたヴィータも確かな勝利を確信した笑みを浮かばせる。

 

──手応えあった! ここまで念入りにブッ潰してやりゃあ流石に──

 

そう、ロッキー・マオの小さな身体はこの巨人の鉄槌によって確かに地に叩き潰された。 デバイスが非殺傷設定の為その身体自体は無事だろうが、通常ならこれ程の大質量で遥か上空から地に叩き潰されたならその体内に流れている液体という液体全てを爆散させて大変グロテスクな死に体が出来上がっていた事だろう。 故にこの勝負はこれで決着した──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……筈なのに、これはいったいどういう事だろうか?

 

「ウゥゥオ、アチョオオオォォーーーッ!!」

 

「ぐはっ!!?」

 

砂煙が晴れていく隙間に覗き見られた光景は衝撃的に予想外にして想定外過ぎにも程があった。 大質量に膨張させて地に特大のクレーターを形成した巨大鉄槌の長柄から小さな両手が手放され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()左頬を殴り飛ばされてその小さな身体を宙に躍らせるヴィータの姿……砂煙が完全に晴れると同時にヴィータは派手に地面を転がり、横倒しに制止した体勢で放心した表情を見上げた視線の正面に立つ、突然現れて自分を殴り飛ばした少年に向けて驚愕を露わにする。 ()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()と……。

 

「そんな……バカなっ!? 何で、何でテメェ……っ!!」

 

まるで生ける亡霊でも目撃してしまったかのように不可解と戦慄を入り混じらせた困惑の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()、ヴィータは説明に全くなっていない疑問を震える声音で発する。 理解不能だ。 なら目の前で倒したロッキーの《天地(ティエンディー)》と全く相違ない鉄甲型デバイスを両手に嵌めいて、荒ぶる怒りに視認可能な程の闘気を身から滾らせているこの少年の存在はいったい何だというのだ!?

 

「使わせたな……テメェ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()なぁぁぁあああっ!!

 

何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ヘンテコな言葉の語尾は無くなり、その身体から立ち昇らせる闘気は真夏の陽炎や砂漠の蜃気楼のように背景と彼自身の輪郭を揺らがせていて、気配は側のクレーターで巨大戦槌に潰されて倒されたロッキーのものと全くの同質……故にそれは経った今“ロッキー・マオという同じ存在”が奇妙で不可解な事に()()()()()()()()()()()()という確証であった。

 

「許さねぇ、ふざけんじゃねぇっ! ブン殴ってやる、オレの気が晴れるまで殴りまくってやるァァァアアアアアアアアッ!!」

 

「なっ!!?」

 

未だに理解できない現実に戸惑いつつも起き上がったヴィータにロッキーの慟哭が浴びせられた。 鉄槌の騎士を射貫くその視線には底知れぬ憎悪が孕まされていて、瞳からは何に悲しみ嘆いているのか涙が流れ出ている。 彼の慟哭に鳴動するかのように身体から溢れ出る陽炎のような闘気が爆発的に膨張していく。

 

「ロンフォン流天鳥拳──奥義ッ!!

 

カッ! と眼を見開いて技を繰り出すべく取ったその構えはロンフォン流天鳥拳の基本の戦闘姿勢である“飛び立つ鷹”を連想させる恰好ではない。 直立に立ち、縦になるように前に翳した左腕の手首の横下に右拳を付ける威風堂々とした構え。 その姿勢をした直後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という奇妙で不可思議な現象が発生。 その総てからは例外なくロッキーの気配が感じ取れる故に、それはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように錯覚させられる。 ふと側のクレーターに視線を向ければ巨大戦槌の下敷きになって倒されていたもう一人のロッキーの身体は霧のように消滅していた。

 

──()()()()()()使()()()って言ったな。いったいどういう──ッッ!!!

 

相手に発生している理解困難な現象に困惑するばかりのヴィータだが、能力の全貌を読み解こうとさせる間もなく陽炎の闘気を纏うロッキーが右拳を振り上げると同時に地を深く陥没させる程の踏み込みをして真っ直ぐ正面から堂々と飛び込んできた。 困惑している状況ではない、考えるよりも今はとにかく真正面から大振りに振るわれて来た拳をどうにか遮ってやる事が先決だ。

 

「《パンツァーシルト》──ッ!」

 

攻撃が襲い掛かって来る正面に展開したベルカ式魔法陣の形容をした三角盾(トライアングルシールド)が風纏わせる渾身の大振りで振るうロッキーの鉄拳を遮らんと顕現する。

 

──こんな大雑把な大振りが奥義だぁ? 一見攻撃の挙動が単純過ぎでちょっと横に身を移動させれば楽勝に躱せそうだが、奴の使ったレアスキルがどういうものなのか解らねー以上は見た目に騙されて油断はできねぇ。 でもなのはのディバインバスターも防げるこの《パンツァーシルト》なr──

 

ヴィータがその刹那にそんな考えを脳裏に巡らせている間にロッキーの右ブローがパンツァーシルトに叩き込まれたその瞬間、彼女にとって本日最大級に驚愕的な事象がヴィータを強襲した。

 

「──がはぁ”ぁ”ぁ”っ!!?」

 

──なん……だとぉぉっ!!!? このガキの殴りがパンツァーシルトにブチ当たった瞬間に、アタシの脇腹に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! ……しかもかなり重め……え……ッッ!!

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に堪らずその衝撃に全身を腹部から側に折らされて猛烈に苦鳴をあげながら体内の胃液を大量に吐き出してしまうヴィータ。 彼女は己の身に受けた理解の範疇を超えた正体不明の攻撃に先程以上の困惑を露わにして眼を大きく見開く程の動揺を走らせた。 いったい何が起きたと言うんだ? そのあまりの破壊力を受け止めた為に三角盾の総体積約半分にまで亀裂が入りはしたが、彼女が()()()()()()()防御魔法(パンツァーシルト)は見るからにロッキーが繰り出して来ていた拳を防いだ筈だ。 なのにいったい何故……何故ヴィータは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? まるで抉り上げられるように宙にその小さな身体を浮かされ、正体不明の攻撃をモロにくらわされた脇腹の打撲痛に眉間を険しくして苦悶を露わに無防備を晒したその瞬間、彼女は極限状態の知覚加速(オーバーレブ)によって時の流れが停滞した感覚の中で更なる驚愕を目の当たりにする。

 

「な……に……っ!!?」

 

これは何の冗談か? クリティカルヒットの大ダメージを受けた苦痛を必死に堪えるヴィータの視界全体に“複数人のロッキー”がまるで一人から分身したかのように広がって映し出された。 周囲全体360度を見回しても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が取り囲んで続く左拳をその全員が全く同じ動作(モーション)を時差皆無に振り被っているのは流石に目の錯覚だと思いたいが、先程と同じように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるのは間違いない。 故に永き古の時代より戦場で鋭く研ぎ澄ましてきた歴戦の騎士の感覚は己の周囲を取り囲んでいる複数のロッキーは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と結論付けていた。

 

「有り……得ねぇっ! ()()()……()()()()……レアスキル……なn──」

 

瞬間、動揺に無防備を晒したままのヴィータに無情にも周囲を包囲する複数のロッキー全員が容赦なく一斉に拳の連打を浴びせて来た。

 

「「「「「「「うぅああたたたた、たたたたたたたたた、あたたたたたたた、たたたたたたたたたたたたた──ッッ!!」」」」」」」

 

「があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁーーーーっ!!!」

 

まるで大嵐(ハリケーン)のような複数人同時全包囲一斉乱打(リンチ)。 大粒の大雪崩に飲み込まれたようにヴィータは小さな全身を休みなく鉄甲拳に殴打されて断末魔の絶叫を上げた。 非殺傷設定の摸擬戦故にこれだけの乱打を数秒間全身に受けたところでたぶん死にはしないだろうが、仮にも幼いゴスロリ少女の出で立ちをしている彼女がエリオと特に差は見られない歳頃の少年だからとは言え、複数の男に取り囲まれてリンチに晒される光景は非常に痛まし過ぎる事この上なく、外野でそれを目の当たりにした六課陣営一同が顔を青ざめさせて表情を歪むくらいにまで引き攣らせている。 幼い胴体には陥没の痕を無数に付けられ、小さな四肢は惨く拉げて、生意気そうながらも可愛らしい顔には殴打の痣が出来ていく。

 

うぉああたァァァアアアアアッ!!!

 

「が──あ”ぁ……ッッ!!!」

 

そして最後の一撃は阻むパンツァーシルトを怒濤の乱打をもってステンドガラスのように粉々に破砕した真正面のロッキーが踏み込んで来て、見るも無残にボロ雑巾と成り果てたヴィータの顎にとどめの右アッパーを全力を籠めて天高くかち上げたのだった。

 

「《陽炎孔雀(かげろうくじゃく)千手拳(せんじゅけん)》──ッッ!!!」

 

天に覆い出していた分厚い雲海に届いた拳圧で巨大な孔が空いた下でカチ上げた拳を掲げると同時に勝利の雄叫びの如く奥義の名を叫び轟かせる。 無念にもチカラ無く宙に放物線を描く鉄槌の騎士の姿を六課陣営側は口を両掌で塞ぐなどをして唖然と、ロストウィング陣営側は歓喜や安堵に呆れなどといった十人十色の表情を浮かべながら見上げていると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──」

 

そしてドサリと地面に落下した静謐の中、身を横たえさせた満身創痍の鉄槌の騎士は瞼を閉じたままその意識を引き取る……決着だ。

 

「勝負ありやな。 ウチのロッキーの勝ちや」

 

「「「「「ヴィータ(ちゃん)ッ!!!」」」」」

 

ガンマが摸擬戦の結果を口にするとボロ雑巾のような無惨な姿にされた家族に居ても立っても居られないと八神一家全員が一斉にヴィータが気絶して倒れているバトルフィールド内へと駆け出して行く。 逸早く駆け寄ったはやてが地に意識を失って倒れるヴィータの頭部を膝に乗せて彼女の安否を非常に心配する焦燥で確認するように介抱し、医務官の資格を持つシャマルがその正面に腰を下ろしてヴィータの受けたダメージを看る。 先日の六課壊滅の事もあってぐったりと満身創痍に気絶した大切な小さな家族に今にも泣き出しそうな形相をして必死に呼び掛けるはやての背中にリイン、シグナム、ザフィーラの二人と一匹も囲うように寄り添って安らかに眠っているヴィータの顔を心配そうに覗き込んでいる。

 

「シャマル、どうや? ヴィータは……ヴィータは大丈夫なん!?」

 

「落ち着いてはやてちゃん。 大丈夫よ、ちゃんと非殺傷設定による魔力ダメージのノックダウンで気絶してるだけみたいで特に目立った外傷は無いわ」

 

「そ……そか。 シャマルがそう言うんなら安心やな……ホンマによかった……」

 

家族の無事を確認できて心からの安堵を浮かべたはやてにその背中から見守っていた八神家の家族達も真剣に硬く強張らせていた表情を緩ませる。 一応摸擬戦の規定通りに非殺傷で行ったのだから滅多な事にはならないだろうが、粗暴な雰囲気で気に入らない相手を潰すのに手段を選ばなさそうなロストウィングの連中が果たして摸擬戦のルールを守るものだろうか? はやて達はそう彼等に不信を抱いていたので正直不安に思っていたようだが、どうやらそれは杞憂だったみたいである。

 

「はぁっ、はぁっ! ぜぇ、ぜぇっ! ……クソッ、チクショウでガス! オレは……オレの存在価値はっ! ……こんな……こんなァァーーッ!!」

 

そんな彼女達の側で息を取り乱しながら受け入れ難い悔しさに耐え切れず悲嘆するように地面に座り込んで空に泣き叫ぶ、勝負を望まぬ形で勝利したロッキーの無様を、なんだか顎に片手を添えながら興味深そうに見遣るガンマは──

 

「ほぉ~、勝負に負けず嫌いが揃っとるロストウィング(ワイら)の中でも特に意地っ張りなあのロッキーが勝負に勝っといて尚、ぎょーさん居る人前であないな不満を盛大にブチ撒けとるやなんて、二年前にあのガキんちょがウチに入隊してきた日に無謀にも部隊長(ボス)にケンカを売りに行った挙句に散々フルボッコにされて悔し泣き喚いとったあの時以来やで。 まさかあんな頑なに使いたがらへんかったレアスキルを使わざるを得へん状況までにアイツを追い込むやなんて、あのゴスロリハンマー娘なかなかやるやないか

 

「……えっ!?」

 

意外にも摸擬戦に敗北したヴィータの事を称賛していたが故になのはは非常に思いも寄らなかった言葉を耳にしたかのように驚いた表情で彼に視線を向ける。 他のロストウィング部隊員を見渡しても仲間の勝利に歓喜している者はいても勝負に負けたヴィータの事を嘲って侮辱しようとする声をあげる人間は誰一人として見当たらない。

 

「せやけど相手が悪かったなぁ、幾ら一騎当千で知られとる夜天の守護騎士とは言うても対人近接戦闘を念頭に置いた戦闘スキル主体な古代ベルカ式の使い手にとってロッキーのレアスキルは最悪の相性や。 《陀羅尼摩利支天(だらにまりしてん)》、その真髄は“己の成し得る選択肢の可能性”を無数に拡大して“並行世界線に存在しとる数多の己を実体のある幻影として呼び出す”事を可能とする。 ニンジャが主人公のマンガとかに出てくる影分身なんかにもよー似とるが、このレアスキルのチートさ言うたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──要するに全てがロッキー本体な訳や。 せやから例えスキルを使い並行世界の奴を呼び出した直後を突いてスキルを使った奴を一瞬で殺したとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……つまりはその一瞬において同時間軸のアイツの可能性を余すことなく全部ブッ潰す事ができへん限りはあのガキんちょを倒す事は絶対に不可能って事なんやで、ホンマ言ってチート過ぎやと思うやろ?」

 

とガンマは肩を竦めた苦笑いでロッキーが忌み嫌う彼の生まれ持った才能(レアスキル)についてを説明してくれた。 確かにスキルの内容を聴いた限りは戦いに使用するにおいて反則と言える異能だ。 何せ使用すれば使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()うえ、その全ての存在がスキルを使用した本人そのものであるが為に某ニンジャ漫画に出てくる影分身の術のような()()()()()()()()()()()()()()()刹那の時にその内の一人だけでも生存してさえすれば、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのだから、余程の規格外が相手でない限りはまず戦闘で敗北する事はないだろう。

 

しかしそれ故に生まれ持ったその才能(レアスキル)が優秀過ぎたロッキーは両親や生まれ育った町の友人や知人達に自分の存在価値をその宝石(レアスキル)の入れ物としか認識してもらえなかった……“摩利支天”は他者の目に己の存在を揺らがせて捉えさせぬ陽炎……自分自身としての存在価値を過去に大切だった人達に認めて欲しくても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としてしか見てもらえなかった彼にとってその名は皮肉と言ってもいいところだ。 頼むから皆『【自分(オレ)】を見てほしい』、そんなささやかな渇望(ねがい)の為に必死にチカラを付けようと幾ら努力してもその全ては真夏の陽炎や砂漠の蜃気楼の如く誰からの目にも儚い虚像にしか映ってくれない……それはなんて嘆かわしく虚しい幼少期だったのだろうか?

 

魔導師として破格の才能を持って生まれ、それでいて良き両親や数多くの友人知人に恵まれて幼少期を育ってこれたなのはにはその途方もない彼の辛さや孤独感を想像し理解する事など到底不可能だ。 どうしようもなくガンマ達の許にトボトボと歩いて外野に出て行くロッキーに同情する視線を向けてやる他はできない事をなんとも歯痒く思うなのは達……と、そこへ──

 

「すまなかったな、ウチの連中が色々とお前達の気を悪くさせてしまって」

 

「「「「「「「うわぁぁっ!?」」」」」」」

 

さり気無くなのは達とガンマの間にぬうっと割り込んで来たのは身長2m超は有るであろう巨漢であった。 ガチガチに硬く角張らせた頭髪に眉と唇が太く厳つい顔付きで律儀にも身内の無礼を謝罪してきた筋骨隆々な巨躯を持つその青年が放つ存在的威圧感を前にして六課陣営一同は思わず仰天に身を引いてしまう。 唐突に現れて視界全体を塞いだ巨漢の山脈のように広くゴツゴツとした背中に一驚させられたガンマが猛烈な勢いで文句を飛ばした。

 

「おいゴリ! いきなし間に入ってくんなや、驚くやろが!!」

 

「ぬ? そうなのか?」

 

「当たり前や! アンタみたいなゴッツイゴリラ顔の大男が何の前触れも無く突然横から現れたら、そら驚くわ! ホラ見てみぃ? アンタのデカブツっぷりを眼前にして高町達も超が頭に三つ程付けられそうなくらいにドン引きしとるやろが!」

 

「そ、そうか。 それはすまなかった……」

 

驚きに身を引かせているなのは達を指さして機関銃のようにガミガミと苦情を言ってくるガンマに気圧され、両掌を自分の頭部の両脇上に翳してしどろもどろするゴリラ顔の巨漢。 厳つくも巨躯の威圧感を持っているのに反して何所か生真面目な印象という彼のギャップになのは達も思わず戸惑っていた表情を変えて苦笑いをしてしまう。

 

「あ、ははは……なんだか毒気を抜かれちゃったね、フェイトちゃん」

 

「うん、そうだね。 考えてみればロストウィング(彼等)の事はまだよく知っていないんだし、これから徐々に私達が彼等に歩み寄って互いの事を知り合っていけばいいか……」

 

ガンマとゴリラ顔の巨漢が微笑ましくやり取りしている様を愉快に笑っているロストウィングの隊員達を眺めていると今はそう割り切っておいた方が今後に彼等と良い関係を築いていけそうだと、なのはとフェイトは互いに思った。 そう、今はこの摸擬戦で彼等に自分達の事を認めてもらう為に全力を尽くして彼等にぶつかる事が第一だ。

 

「ふむ。 不届千万なならず者ばかりかと思っていたが、なかなか見所のある者も居たようだ」

 

其処に()()()()()()()()ザフィーラを先頭に気絶したままのヴィータを伴って八神一家が揃って戻る。 ガンマの猛烈な抗議にたじろぎの姿勢でいたゴリラ顔の青年が振り返り、感嘆の声を自分に掛けてきた人型のザフィーラに正面から向き合う。 筋骨隆々の長身巨躯で厳つい(おとこ)二人が互いに視線を衝突させ、緊迫した空気を醸し出す。

 

「我は最後の夜天の主八神はやての(しもべ)──《盾の守護獣》ザフィーラと申す」

 

「特務遊撃支援部隊ロストウィング、《アームストロング小隊》を率いる隊長を務めている《ゴートン・リライラス》だ。 以後よろしく頼む」

 

「フッ、少々淡々としているようだが他と比較して良い印象だ。 しかもその大柄な剛健に似合う頑丈な肉体と実戦で鍛え上げられたであろう強靭な剛腕を合わせ持っていると視得る」

 

歴史ある闘技場(コロッセオ)において数々の戦いに勝利を重ねてきた剣闘士(グラディエーター)の如き猛者の闘志を静かに滾らせるゴートンに真っ向から不敵の闘志を激突させるザフィーラ。 ゴリゴリマッチョな厳つい野郎二人……なんだかむさ苦しい顔合わせだが衝突させたその視線は互いに極上の獲物を見るような獣のように鋭い。

 

「面白い、次鋒は我が出るとしよう。 そなた、気に入ったぞ。 是非とも拳を交えたい」

 

「……いいだろう。 この《鋼猿金剛(ハガンコンゴウ)》の鋼拳、その身でたっぷりと味わうといい、夜天の盾の守護獣ッ」

 

見た目麗しく叙情的な魔法少女達を差し置いて、次の対戦の組み合わせ(カード)は決まった……。

 

 

 

 

 

 




団体摸擬戦の初戦はロッキーの勝利。 しかしヴィータの意地と想いはロッキーの固い心を大きく揺らがせて、一度の使用すら拒んでいたレアスキルを使わせる屈辱を刻み付けました。 ロッキーは今後もうヴィータを馬鹿にする事はできないでしょうね、ウ◯コ女呼ばわりだけは実際にやらかした彼女のドジが原因だから止めないでしょうけれど。(笑)

こんな感じで序章後編は摸擬戦を通してなのは達やガンマ達味方陣営の登場人物達が抱いているそれぞれの“渇望”について触れていきます。 やっぱDies要素があるならキャラクターの“渇望”は重要でしょう!

さて、次の対戦カードはザフィーラVSゴートン! リリカルの欠片の要素も見当たらないマッチョモリモリでむさ苦しい事この上ない組み合わせとなりました、あはは……。(男臭)

拳と拳、筋肉と筋肉で激しくぶつかり合う(おとこ)の戦いをお楽しみ!

因みに自分は【ソッチ】の気は全く持っていません、キレーなオネーチャンの巨乳大好きなノーマルスケベですので、だからどうか皆さん勘違いしないでーーーーーッ!!(懇願)


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