THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡 作:蒼空の魔導書
更新停止中には小説の書き方を勉強して、前までは一回書きだったのを下書きと推敲に分けて書くようになれたわけなのですが……今話は下書きで一万字書いたのを基本に沿って削るつもりが、背景描写に拘り過ぎて逆に一万四千以上字に増えたんですけどッ!?
という事なので、まあちょっと今回は長めです。
「い……嫌ァァァアアアーーーーッ!!」
「そ、そんな……ザフィーラさんッ!!?」
「馬鹿な、今のは完全に相手の無防備を突いた決定的な一撃が入った筈だ。 しかし何故、
「酷ぇ……ザフィーラの旦那の片腕が、まるで
盾の守護獣の絶叫と、その耐え難い激痛のあまり苦し紛れに空に掲げられた見るも悲惨な有り様になった彼の左腕を目の当たりにして、六課陣営側の誰もが例外なく戦慄や困惑を露に唖然となっていた。
「グオオォォオオオオッ!! ……ガァァ……ガ……ゼァ、ゼァ……」
蹲り、潰れた左腕を機能するもう片腕で抱え込み、耐え難い激痛に苦鳴を上げながら身悶えてよろよろと相手の間合いから後退る盾の守護獣は大量の汗と言い知れぬ戦慄を浮かび上がらせていた……いったい今、何が起きた? 確かにザフィーラの絶拳はゴートンの面積の広い鳩尾のど真ん中に深々と突き刺さっていた。 その一撃は相手の隙を完璧に突いた完全無防備にクリティカルヒットさせた決定的な必殺だった。
その筈なのに、その会心の決定打はゴートンの巨体を地に倒すどころか少しも揺るがす事さえ出来なかった。 ザフィーラが言い知れぬ困惑を露わに睨み付けた目の前ではゴートンが何ともない無機質な表情で平然としている様を見せている。 そればかりか
「貴殿……いったい今、何をやった……ッ!?」
「攻撃反射防御結界魔法《
右腕の機重鉄腕を豪快に振り上げて構え直しながらゴートンが抑揚なく語ったのは、たった今ザフィーラの左腕を潰したのは
要するに、ゴートンが直前に自身の全体を金剛石並に硬い膜状の魔法結界で蔽い、その上からザフィーラの左拳が勢いよく殴り付けられた結果、彼の拳の攻撃力では金剛石並の堅牢さを持ったその魔法結界を砕くには足らずに阻まれ、更には
加えて補足をすれば、非殺傷設定にしていても魔法効果の二次的要因による“物理的被害”だけは防げない。 その事はこの場に居る全員が理解している常識であるが故に、今のザフィーラの負傷に対して誰もゴートンの反則を訴えたりはできない。
「お前の実力とチカラは、確かに俺より一回りも二回りも上の領域に在るんだろう。 だが、それだけではこの《
「ぬっ!?」
半端不意打ち気味にゴートンが右腕の機重鉄腕を豪快に振り被って距離を詰めて来る。 対するザフィーラは先程よりはマシになったがまだ己の負傷した左腕の痛感に慣れていなかった為、反応はできたが対応が大きく鈍り、不格好にも真正面から暴風を纏って突貫してきたその鉄拳を受けざるを得なかった。
しかしそこは流石、古代歴戦の守護騎士。 万全でない体勢で残った片腕一本で受け止められる威力ではないと咄嗟に判断し、お得意の防御障壁を正面に緊急展開する。 《盾の守護獣》の二つ名に恥じぬ堅牢さを誇るその障壁はザフィーラの長身を上回りかねない大質量の機重鉄腕を難なく受け止めた。 多少受け止めた反動が障壁越しに重く圧し掛かってきたのがキツかったが、それもドゴン! という音を立てて足下を小規模に陥没させた程度に抑えきり、ゴートンの鉄拳が突き刺さった障壁には罅一つできてはいない。
その結果に平静を取り戻したザフィーラが障壁越しの眼前で渋面を作ったゴートンに意気揚々と不敵の笑みをしてみせる……が──
『《パイルブロウ》──
「ッ!!」
瞬間、ゴートンが浮かべた渋面は仕掛けたトラバサミに引っ掛かった兎を見て悦ぶ狩人のような笑みに早変わり、ザフィーラの障壁に突き刺さったまま
「ザッ、ザフィーラァァァーーーッ!!」
それを零距離でまともにくらってしまったザフィーラは黒い爆炎を頭から上半身までを濛々と埋もれさせて背中一直線に吹っ飛ばされてしまった。
「ひえええええぇぇぇーーーッ!!」
「気を遣わずとも、なんて凄まじい……破壊力なんでしょうか……」
「どうやら相手のデバイスに付いてたパイルバンカーは一定の強さ以上の衝撃値を加えると、作動して射出される尖端に“接触発動式簡易爆裂魔法”の術式を仕込んでいたみたいだね……」
「渾身の一撃を叩き込むと同時に相手に零距離の爆裂魔法を炸裂させるギミックを搭載したデバイスだなんて……クッ! 敵ながら私のデバイス技師としての浪漫感をよくも擽ってくれますね……」
「いやいやいや! なのはさんもフィニーノも感心してる場合じゃねぇよ! いったいザフィーラの旦那はどうなった? なのはさんのラウンドシールドよりも堅い旦那のあの障壁がああも簡単にぶっ壊されて、余波で後ろの森まで丸ごと……あ、あんなのまともにくらったら幾ら機動六課随一の防御力を持つザフィーラの旦那でも、さすがに……」
外野の六課陣営側はゴートンが
「いや、その心配は無用だ。 あれを見てみろ」
ヴァイス達の動揺の声を取り鎮めてシグナムが指差したのは、ゴートンのパイルブロウを受けてザフィーラが大きく吹っ飛ばされてできた、約100mの赤道の終点先──
「ぬぅ……我とした事が、つい抜かってしまったな……」
先程の大爆発によって連鎖的に発生した爆煙が色濃く其処一面を覆い尽くしていたところが晴れ、そこに潰れた左腕を庇いながら全身を黒焦げにしたザフィーラが辛うじて無事な姿で立っていた。
「ザフィーラ……よかった、なんとか無事そうや……」
「あ……ははは……。 さ、流石は
「なに、当然だろう。 いかに奴等ロストウィングが精強であろうと、我ら
「でもあの左腕を庇っていて、流石にノーダメージとはいかないみたい」
「そうだね。 幾らザフィーラさんが頑丈でも、あの酷い怪我だと自慢の防御力は本来の性能を発揮するのは難しいと思う。 正直に言って長期戦は厳しいかな……」
彼の主であるはやてを筆頭に、ザフィーラの健在を見ては安堵やら驚きやら、負傷を抱えながらも相手の強烈な一撃に耐えきった彼の事を誇らし気にしたり、冷静に状態を視て今後の戦局を分析したりして、六課陣営側は皆それぞれ心嬉し気な様相を呈していた。 しかしそんな彼女達の安堵にガンマが水を差してくる。
「成程、噂通り大した硬さとタフさやなあの犬ヤロー。 せやけど──」
気を抜くのはまだ早い、
「容赦せんぞ! ハァァアアアッ!!」
「ぐぬぅぅッ!!」
そして如何なるものをも粉砕する暴威を纏い、相手との距離を詰めたと同時に突き放った剛鉄爪はまさに戦車砲弾だった。 言葉通り、もう鋼猿金剛は一切容赦はしない。 鋭く風を切り裂き爪尖に円錐状の衝撃波を生じさせて迫る重烈な攻撃を、手負いの獣が正面きって捌ききるのは流石に難しく、ザフィーラは咄嗟にまだ動く右腕でゴートンの爪突を一瞬引き受けつつ大きく跳び退く事で衝撃を和らげて回避するが、逸らされた機重鉄腕の暴威が空気を伝播して猛烈な波濤となり、豪風の如き衝撃波と化して周囲の自然に烈々たる破壊を齎していく。 間一髪巻き込まれる直前に魔力強化を施した後ろ脚で地を強く蹴り宙へと逃れた。
「途轍もない破壊力だな……
ザフィーラは眼下を見下ろし、地上の惨状を目の当たりに目を丸くする……見渡す限り隙間なく隆起と陥没と捲れ上がった土層でバトルフィールドはまるで爆撃機で大空襲を受けた跡のように荒れ果てている。
「こっちの攻勢でそんな余裕そうに騎士の礼儀を尽くされると、なんだか豪く嘗められているように感じて、少しムカッときたぞ」
「フッ、それはすまない。 何分、我や
「ハハッ、別にそのくらいはいいさ。 だが、褒められたからと言って攻めの手を少しでも緩めると思ったら、大間違いだッ!」
両者が距離を詰める合間に少ない遣り取りを交わし合う事で一息吐くと、互いに標高9000m超というメルクーリア連峰山頂の少ない酸素を限界まで肺に取り込んで、そのまま高速の連打を御見舞いし合う。 両腕を満足に繰り出せるゴートンの怒濤ラッシュに対して右腕一本しか使えないザフィーラはその右腕を盾にゲリラ豪雨のように猛烈と飛んで来る相手の連続パンチを防ぎ、或いは巧みに流していなしつつも、普段の彼はあまり使わない蹴り技を使って応戦していく。 だがしかし…。
──甘いぞ《盾の守護獣》! 片腕が潰されているにも拘らず、それでも両腕五体満足な俺の高速連撃を辛うじて受けきり、尚且つ反撃できる程の体捌きとは、流石は古代ベルカの名高き猛者だと感服する。 だがそれでも──
「──
落下しながらの高速の空中格闘戦を激しく繰り広げた末、荒れ果てたバトルフィールド上へと着地した両者は同時に旋風巻き起こす威力を乗せた回し蹴りを衝突させ、足下の土を捲る突風の如き衝撃で互いに大きく後方へ弾かれる。 凡そ10mの距離が開き、両者は拳と機重鉄腕を振り上げて猛然と相手へ再度の突進。 歩が前進する度に巻き上がる砂煙を強靭な男の肉体で左右に引き裂きながら瞬く間に接近した両者は同時に振り上げた拳を打ち出し、助走で威力を乗せた会心の一撃を正面衝突させる。
それがあまりにも強力な
「ぐぬぬぬっ、負けぬ!」
それでもザフィーラは執念で足下を強く踏みしめて地に脚を刺し止めた事で体勢を崩す事なく、大きく体勢を崩しているゴートンに次の一撃を渾身を込めて打ち込もうとする。 それは完璧に相手の無防備を突いた決定的なものだったが……しかし──
「──ッ!!」
己の拳が相手の肉体に直撃するまさにその直前で
「すぅぅーー、ふんッ!!」
「がはあっ!?」
その硬直を狙っていたのか、ゴートンが
外野のロストウィング陣営側からは野郎共の歓声が、機動六課陣営側からは少女達の悲鳴が上がる中、ゴートンは間髪入れずに構わず足下に突っ伏させたザフィーラの腹部をトーキックで蹴り飛ばし、彼の筋骨隆々の肉体質量が宙に大きな放物線を描く。 先程ゴートンのパイルブロウの余波で破壊された雪林とは逆方向の場外へと墜ちるとザフィーラの巨躯を土地が受け止めて生じた巨大な衝撃が周囲の木々に振動伝播され、林に蔽い被さっていた積雪がドサドサドサァァー! という音を立てて一斉に剥がれ落ちた。 更にはそれで舞い上がった大量の粉雪煙が剥げた林を包み隠してしまう。
「よっしゃあっ、やったか?」
「……いや、まだや」
ビスマルクが立てたそのフラグ通り、ガンマの言った否定通り、
「ぬぉぉぉオオォォオオォオオーーーッ!」
相手に追撃する間を与えまいとして凄まじい気迫の雄叫びを上げて突進を繰り返すザフィーラ。 だが鈍色の魔力膜を纏うゴートンにまともな攻撃を打ち込む事を頑なに躊躇ってしまい、何度突撃しても滅多打ちにされて最後には派手に殴り飛ばされて鍛え抜かれた立派な肉体が地面によって削られていく。
どんな威力の高い攻撃をも遮って丸ごとそのまま跳ね返してしまうという《
「そんな……バカな。 一対一の戦いなら絶対無敵と言われている、あの八神部隊長秘蔵の守護騎士の一人であるザフィーラさんが…まるで手も足も出ないだなんて……ッ!」
「相手の人が使っているあの攻撃反射防御結界魔法、凄まじく高い強度と効力発揮能力を持っているみたいだね……どうにかして打ち破る術を考えないと、このままザフィーラさんは……」
「確か【金剛反射装甲】って言ってたっけ? “リアクティビアーマー”って名前からして、恐らくは戦車なんかのそれと同じように、
「御明察や」
フェイトが口にした分析を盗み聞きしていたガンマが感心を示してそれに追加説明を加える。
「ゴリの《
「ナウなヤングなピチピチギャルのオネーチャン達にはダサく思う言い方だと思うケド、【両腕を潰す覚悟】も見せられないような甘ちゃんじゃあ、この先の戦いのレベルだとソッコーでバイビーするねるねーる☆」
「ったりめーだろ。 オレらのロストウィングを絶対に護ると腹決めて編み出したっつう、あの鋼の反射防御結界魔法にはゴリさんの漢の魂が籠められてんだ。 あんな御利口な戦術理論を優先して自分の腕二本すら捨てる根性もねぇような犬コロなんかに破れる訳ねぇんだよ!」
攻撃すれば問答無用でそのまま威力が身に跳ね返されてくる為、迂闊に手が出せず攻めあぐねているザフィーラの事を“覚悟が無い”だの“根性無し”だのと見縊るように捲し立ててくる不躾千万なロストウィングの不良共に対し、はやて達八神家が聞き捨てならないとばかりに眼尻をピクピクと小刻みに震えさせて不快と憤りを露わにする。 大切な家族の事をこうも舐められては黙ってなどいられない。
「アンタら……さっきから黙って聞いていれば、随分と私の自慢の家族に対してふざけた事を抜かしてくれるやないか。 ええ加減にせぇよッ! 大体、攻撃したら全部反射される事が分ってて攻撃するアホやトンチキが何所におるかいな?」
「はやてちゃんの言う通りですぅ! ヴィータちゃんの事もザフィーラの事も、バカにするなんて許しません! それに貴方達って、やっぱり見た目通りバカなんですかぁ? 【両腕を潰す覚悟】だなんてどう考えても馬鹿げています。 そもそも戦術的に考えたって普通、両腕潰しちゃったら余計に不利になるじゃないですか」
「機動六課の主任医師として、何よりも八神家の一員として、これ以上ザフィーラが負傷するのは認められません。 本当だったら彼の左腕が負傷した時点で試合を止めに入るべきだったけれども、先鋒で負けたヴィータちゃんの仇を絶対に取るのだという彼の決意を無下にはできなかったわ。 私達も同じ気持ちだから、ザフィーラには勝ってほしい。 もちろん無理をして傷付いてほしくはないし、これ以上危険な状態になったら今度こそ試合にストップを掛ける。 けれども
「……そうだな」
夜天の主の守護騎士の誇り高さと絆を信じてザフィーラを擁護するように言ったシャマルに同意を求められたシグナムが口数少なく相槌を打つ。 ベルカの騎士の矜持と覚悟を最も誇りに持ち、それを貶す発言を無視する事などは守護騎士の中で一番できないであろう筈の《烈火の将》は意外にも冷静であった。 彼女は淡々と組ませた両腕の上にフェイト以上にボリューム大な双丘を大胆に乗せ、毅然とした目線をバトルフィールド内に向けている。
──このままやられっぱなしで倒されるお前ではないだろう? 我ら誇り高き夜天の主の守護騎士ヴォルケンリッター、その中でも誰かを守護する事に懸けては随一とする盾の守護獣たるお前が、守護への覚悟を侮られて何の一矢報いず終わる筈がない。 信じているぞ、ザフィーラ!
その確かな信頼を向けた眼差しの先では、ザフィーラがゴートンの全身を覆う《
彼の眼はまだ諦めてはいない。 ゴートンが太い右腕を豪快に振り上げ、抉る様に突き出してきた機重鉄腕の爪突を障壁で防ぐが、先程の焼き増しのように反動でデバイスに外付けされたパイルバンカーが作動し零距離で鋼鉄の手甲から射出された鉄杭が機動六課最硬を誇る障壁を穿ち貫くと同時に杭先に刻み込まれた簡易爆裂魔法術式が発動。 何もかもを爆砕する圧倒的な暴威が荒れ果てたバトルフィールドの地表諸共ザフィーラの巨体を豪快に吹っ飛ばす。
流石に歴戦の守護騎士ともあろう者が二度も同じ轍を踏む事はなく、ザフィーラは咄嗟に空中で身を翻して即座に体勢を直し相手から約40m離れた場所へ着地成功。 芸術点が付くなら余裕で十点満点は堅いだろうが、外野から盛大な拍手が贈られる間も待たずザフィーラは勢いよく振り返って魔力を纏わせた右拳を突き放つ。 すると纏っていた魔力が突き出されたザフィーラの右拳から解離して大砲の如く撃ち出され、空気を貫く一瞬の内に大技後の硬直で体勢を崩した状態のゴートンに見事直撃した。 だがしかし、次の瞬間直撃した筈の魔力の弾丸が目にも留まらぬ高速で跳ね返されて来て、それがザフィーラの右頬を掠り切って飛んで行った。
──ぬぅ……やはり遠距離攻撃も反射されるか……ならば、これならどうだ!
「縛れ、《鋼の軛》っ!!」
背後で流れ弾が先日の六課襲撃戦でファングの魔拳にバキボキに砕かれて全治四ヶ月とされた腹部に命中したヴァイスがベンチから転げ落ちて地を芋虫のようにのた打ち回っているのには目もくれず、ザフィーラは続けざまに拘束魔法を行使する。 今度はこっちの番だと言うように超ヘビー級の重量で大きな地響きを踏み鳴らしながら真っ直ぐ突進を仕掛けて来るゴートンの進攻上に敷き詰めて行く手を阻むように出現させた幾つものベルカ式の魔法陣より魔力の鎖が射出されてゴートンの巨躯を滅多刺しにして生け捕りにせんとする。
「無駄だ。 ふんっ!」
ゴートンの全身を覆っている鈍色の魔力膜に触れた途端、虚しくも魔力の鎖は一本残らず音を立てて粉々に砕け散る結果に終わってしまう。
──くっ! どうやら
ザフィーラは実に忌々しそうに苦虫を噛み潰した。 如何なる効果を持つ攻撃や妨害も一切合切反射してくる防御結界を全身に纏いながら動けるだなんて、インチキ効果もいい加減にしやがれ!
しかし、まさに暴れる
突騎槍突き後の硬直から腰をぐるりと回し捻ねる事によってゴートンが続けざまに機重鉄腕の大質量を横へ薙ぎ払ってくるのを、ザフィーラは体勢を地面擦れ擦れまで屈める事でやり過ごす。 猛烈な風圧による突風が外野の両陣営ベンチの後方に離れたオンボロ隊舎の壁の一部を吹き崩す程の膂力が籠められた大振り直後に生じた硬直の大きな隙にも、その全身に針孔程のほつれすら無く纏わり付いている鈍色の魔力膜がある為にザフィーラは一切攻撃の手を出せない。
次の攻撃、次の攻撃、次の攻撃、次の攻撃、次次次次次次次次次次──から次へと絶えず繋げるように繰り出されてくるゴートンの怒濤なる連撃。 その一撃一撃に鋼鉄をも粉砕する破壊力が籠められていて、まさに獰猛な
「くそ、これではまるで手に負えん。 何か反撃する手はないのか──ッ!?」
ゴートン・リライラスという台風の暴威を間近に受けているザフィーラは堪ったものではなかった。 雑に放たれてくる攻撃は障壁でなんとか防げはするし、大半は威力を出すのに大振り気味で飛んで来る為に動体視力を強化せずとも見切れる程の攻撃速度なので一流の戦闘者なら回避し続けるのは決して難しくない。 だが、相手の猛攻が激し過ぎる上に一撃一撃がとにかく重く、障壁や無事な右腕で防御する度にその反動が全身を隈なく打ち震えさせてくるから正直耐えるに苦しい。 極めつけは相手の全身に纏わり付いている《
「どうしたこんなものかっ! まさかもう降参だと言うんじゃあないだろうな? だとしたら拍子抜けもいいところだ!」
そう言って宙に跳び上がったゴートンが右腕の機重鉄腕を宛ら大型重機のパイルドライバーのように地突きしてきたのを咄嗟に飛び込み前転で緊急回避したザフィーラだったが、その一瞬前に彼が居た地面がベヒモスの鉄爪によって穿たれた直後に爆砕された地面の破片が忽ち散弾と化して付近に飛び散った。 爆心地点の真横に転がったザフィーラは当然のように散弾の巻き添えを受け、全身の至る箇所に雨霰の如く土のナイフが突き刺さり、強烈な爆風によって大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ぐはあぁっ!!」
「ザフィーラァァッ!!」
まるで針鼠のような惨い有り様を晒して地に叩き付けられた守護獣に守るべき主の悲痛極まった呼び声が山彦に反響して鳴り響く。 地に仰向けに倒れたまま外野に向けた眼に映ったのは、これ以上もう止めてくれと泣き叫びそうに揺らがせた眼で
「もう……ええ。 十分や。 無理して勝たへんでもええから……これ以上、怪我せんといて……なぁ……」
「我が……あ……るじ……ぐぬおおぉぉっ!」
しかし、はやての右眼から頬を伝って流れ落ちた一滴の涙を目の当たりにし、ザフィーラは奮起するばかりの唸りを上げて立ち上がった。 まだ負けられない、絶対に守るべき掛け替えのないものがあるのはこちらだって同じなのだ。
「ふっ、まだ立つか……やはり俺と似ているな。 だが──」
容赦はしない。 そう言わんばかりにゴートンは地を踏み抜く程の脚力で蹴り、爆発のように蹴り上げた土砂を背中にして爆進。 身体に蓄積したダメージでよろめくザフィーラに機重鉄腕で全力のブローを御見舞いする。
突き放ちの出の際に互いの間に立ちはだかっていた空気の壁を巨大な鉄爪が穿つと同時に上空を覆っていた曇天にまで威力が伝わり落雷のような轟音と共に直径50m程の大孔が空く。
その直後に文字通り一瞬にして天変地異を引き起こした剛鉄腕が、最大硬度に固めてザフィーラの前面に展開された障壁に突き刺さり、しかし一秒持たず爆散するように砕け散って成す術なくザフィーラの巨体は紙のように軽く吹き転がされる。
最早激戦で凹凸だらけとなったバトルフィールドの上を何度も大きくバウンドして外野の大樹に激突した。
「この《
殺傷設定だったら細胞ミクロ単位で全身が粉々になりかねない超過ダメージと副次的な要因による外傷で全身血塗れの満身創痍になりながらザフィーラは一瞬飛びかけた意識に根気という名の鞭を打つ事で叩き起こす。 「まだだ!」と不屈の闘志を絶やさず立ち上がってくるザフィーラの精神に追い打ちをかけてゴートンが喝破を入れる。
「
すると今度は、戦いの最中に説教などふざけるな黙らせてやる、と吠え掛かるようにザフィーラが立ち上がり様に付けた助走を使って一秒も間もなく相手との距離を踏破すると、仕返しとばかりに全力で右ブローを振り被る。 だが、やはりどうしてもゴートンが纏う金剛反射装甲を前に手を出すのを止めてしまう。
止むを得ず近接距離で立ち止まり、両者は雁首を突き合わせて睨み合う姿勢に。
「“誰かを守りたい”という独り善がりの願いなど脆弱だ、世界の悪意と強大な
まるで呪言のように忌々しく耳にこびりついてくる相手の言葉を、歯を食いしばって傾聴する以外に選択の余地がないザフィーラの顎に無情にもゴートンの左アッパーが痛烈に打ち上げられる。
「その
曇天にぽっかりと空いた大孔が、胃の中の液を吐き出させられて背中を丸め汚い放物線を無様に描くザフィーラを嘲笑うように見下ろす中、宙を舞った彼の背中に向けてゴートンが己の過去の後悔と決意を拳に血が滲んで震えさせる程強く握り締めて怨念を呪うように語り叫ぶ。
あの時未熟だった自分は守るという意志も覚悟もチカラも全てが中途半端で、何の夢も目標も持たずただ
「お前に
それが分らぬと言うのならばいいだろう、最早これまでだ。 今や岩山地帯と見紛う程に酷く歪曲凹凸とした荒野と成り果てたバトルフィールドを魔力強化した脚力による踏み出しで丸ごと陥没させ、
狙うは空に投げ出されればたとえ如何なる体勢とて大きな隙を晒さずを得ないだろう、着地の瞬間だ。 必殺を撃ち込むべく、駆け抜けながら獲物に狙いを定める
「応えろ──夜天の主の盾の守護獣ザフィーラァァアアアアアアアーーッッッ!!!」
……だが、まだ経ったの二十六年しか生きていない、況してや戦場経験十数年程度の若輩者にここまでの事を言われて、古き歴戦の戦士たるザフィーラは我慢ならず、静かなる激情を燃やしていた。
「──侮るな若造……その苦痛を、決意の重さを、
着地の瞬間、
「な……にッ!? まさかお前、
「ぬおおぉぉおおぉおおおおおッ!!」
鋼猿金剛の無敵の皮膚に全力で叩き付け、グシャリという粘土が潰れるような音が鳴った……。
……ってか、ガチムチマッチョ同士がむさ苦しく殴り合う話に、前話と合わせて何二万文字以上も書いてんの俺ェェェエエエエーーーーーッ!!?(しかもまだ終わらない(泣))
もういい加減になんとかして、次話でザフィーラとゴートンの試合は決着付けて次に行きたいです。 主人公の氷眼の少年だってまだ本編に名前を明かしすらしていないし、だけどこの団体摸擬戦でやりたい展開もまだまだあるし……ええい、とにかくまずは野郎同士の殴り合いにとっととケリを着けるぜ!!
なので読者の皆様、話が長いとか背景描写がクドいとか思ったら遠慮なく言って下さい、次回からはそうするように努めますので……。
話は変わりますが、軌跡シリーズ最新作『英雄伝説