THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

29 / 29
WBC中継視てたり色々していて執筆に随分と長く時間をかけたうえに話も大して進められなかったな……。(疲)

今回はスバルの過去と彼女が懐いた渇望の話がメインです。




幼きあの日、弱き少女は煉獄の炎の中に舞い降りてくれた絶対不堕の天使様に憧れを懐いた……

「臭っ──さああああああああいいいいいいいいわああああああああッッッ!!!」

 

模擬戦場全体に充満していた次元世界一の悪臭がするという現生魔法生物の放屁(カグワカシイカオリ)が消失したのを見計らって半球(ドーム)形に両陣営の控えベンチを覆っていた結界魔法が解かれ、その中から出たはやてが我先にと抑えていた鼻の孔と口を大きく開けて肺いっぱいに溜まった息を盛大に吐き出した。

 

「結界張っても死にさらしそうなぐらいに超臭いわ、アホーーーッ!! っちゅうか、オナラの魔法とか、ホンマにアホかっ!? あのチャラ男、アホなんとちゃうかああああああッ!!!」

 

結界が無かったら即死でしたね☆ と言えるレベルの激悪臭をとばっちりで嗅がされた理不尽に、エセ関西人芸人やがみんの魂が込められたツッコミ絶叫がメルクーリア連峰の山並みに反響し、珍妙な空気に響いてくる。 スバル達機動六課FW陣の試合対戦相手であるフォックス・ストーンが悪ふざけに放った放屁魔法の攻撃被害範囲は広すぎて、その激臭はバトルフィールドの外野にまで及んでいた。 そのとばっちりでバトルフィールドの外野線が引かれた目の前に設置されていた控えベンチの両陣営に山よりも(おお)きな象型魔法生物ですらも嗅いだ瞬間に気絶させられるレベルの悪臭ガスが直撃し、はやて達機動六課陣営もガンマ達ロストウィング陣営も仲良く地獄(ヴァルハラ)を見る羽目になったのだ。 幸い射撃魔法の誤射や流れ弾、広範囲に被害を及ぼす大技による余波などを想定して予め控えベンチに備え付けられていた緊急対飛来有害攻撃遮断結界装置が作動してくれたお陰で悪臭ガス自体に飲み込まれて全滅するという最悪の事態はなんとか免れたが、それでも結界を素通りできるように設定している空気にある程度の臭いが混ざって中へ侵入して来た為、はやて達は結界に密閉された狭い空間で数分間鼻を摘ままされて、皆半端なく息苦しい思いをさせられたのだった。(因みに、ザフィーラVSゴートン戦時の反発弾や先程爆風飛来してきた破損照明が、今六課側のベンチの下で目をぐるぐる回して絶賛気絶中であるヴァイスに命中した時に結界装置が作動しなかったのは、この模擬戦場と同様に長い事ロクに整備をしていなかった所為で二回とも運悪く不良停止を起こしたからであったw)

 

「いいや、ちぃっとちゃうなぁ機動六課の部隊長はん。 フォックス(あのアホ)は管理世界史上空前絶後の大ドアホウや」

 

「ぶっ──はあああああああッ!! ゲフッ、ゲフッ……うえぇ、まったくだぜ。 あの万年時代遅れの××(チョメチョメ)死語ヤローがぁぁ。 幾ら対戦相手がザコ虫のヒヨッコ共だからって、テメェの御遊びで仲間(オレ等)まで憤死させに掛かってんじゃねぇよ、クソがああぁぁ……」

 

「ガスぅ~……うっぷ」

 

「八神。 機動六課の連中も。 何度も身内が馬鹿な迷惑をやらかして、すまないな……」

 

戯れに使用する次元世界一臭い放屁魔法の被害に同所属部隊の仲間である自分達を巻き添えにして鼻が捻じり千切られるような酷い目に遭わせてくれた、只今バトルフィールド内上空で束になって怒涛に攻め掛かるスバル達4人を纏めて迎え撃っている真っ最中であるフォックスを全員でゲッソリとした表情になって扱き下すロストウィング陣営側一同……ある意味で猛毒ガスよりも有害なガスを嗅がされた直後の気分悪さによって胃の中から吐き出しそうになっているロッキーの背中を横から片手を伸ばして摩っているゴートンがもう片方の手で恥と情けなさがゴチャゴチャになった自分の顔面を覆い隠しながら、生真面目に身内が引き起こした迷惑行為に対する謝罪をはやて達へ向けて伝えてくる。 その誠意を見て、はやてはどうにか溜飲を下げれて気を落ち着ける。

 

「ぁ……てか、いやいや。 別にリライラス三尉の所為やあらへん訳やし……」

 

「別に“ゴートン”で構わない。 お前の家族(ザフィーラ)も普通にそう呼んでいたからな」

 

「ハハハ……おおきに。 まあ、もう過ぎた事やし別にええわ。 それよりも試合状況はどうなっとるんや?」

 

はやては気を取り直し、鼻の曲がりを回復した皆とともに上空で続いている試合の様子に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル・ナカジマは物心が付いたばかりの幼少の頃、今現在のような積極的で明朗快活な気質はなく、それとは真逆に当時は元来内気で人見知りな性格をしていて、戦いや争い事などは大の嫌いであった。 少し怖い目をみると直ぐに泣きわめき出して、今は亡き彼女の育ての母である《クイント・ナカジマ》や現在は父《ゲンヤ・ナカジマ》が部隊長を務める陸上警備隊で一緒に勤めている姉《ギンガ・ナカジマ》の背中へとサッと逃げ隠れてしまっていた程で、その殆どの者が戦闘を生業としている魔導師などとは非常に縁遠いような、泣き虫な普通の女の子だったのだ……。

 

現在の新暦75年から約八年前にミッドチルダの首都防衛隊所属の陸戦魔導師であった母クイントがとある特別任務で殉職してしまい、スバルはその形見にクイントが魔導師として愛用していたアームドデバイス《リボルバーナックル》の右手用のを、姉ギンガが左手用のを受け継いだ。

 

でもしかし、よく懐いていた母の死に直面して、まだ幼かったスバルの未成熟な心には人一倍に大きな傷ができてしまっていた。 元々暴力や争い事を嫌っていた気質が母の死後につれてそれが極端に酷くなった。 大好きな姉であるギンガがシューティングアーツの稽古に誘ってもその途端に激しく泣き喚いて拒否するようになり、管理局の魔導師が活躍している戦地のニュースや戦いで悪人をやっつける特撮ヒーローや変身ヒロイン物などといった戦いに関するTV番組は頑なになって視聴しようとはせず、街の公園で遊んでいて他の子供達がブランコの取り合いになってケンカを始めだしたのを視界に映した途端に酷く恐怖してその公園から遠くへと逃げ出してしまって、その後日からはその公園には二度と近寄らないようになる。 それ程までに“戦い”に関するあらゆる物事をスバルは大変嫌悪した。

 

『戦いはあたしの大事な人達を傷付けて、あたしからみんな奪って行ってしまうんだ。 だから、戦いなんて、大っ嫌い……!』

 

姉ギンガが亡き母の跡を継いで管理局の魔導師になる為にシューティングアーツを磨き続けて陸士訓練校に入学していく傍ら、スバルは次第に魔導師になる道から遠ざかっていっていた……。

 

そうして時が流れ、現在から四年前となる新暦71年4月を迎える。 スバルは陸士訓練校の春休み期間で休暇を取るギンガに父ゲンヤの勤め先である陸士108部隊へ遊びに行こうと誘われた。 正直に言えば魔導師が大勢居て日常的に大嫌いな戦いが近くに存在している管理局の部隊になんて行きたいなどとは思わなかったが、今となっては自分と姉の唯一無二の親であり日頃から仕事が忙しくてなかなか顔を合わせていなかったゲンヤには久しぶりに会いたいと思った為、しぶしぶと姉からの誘いを受けた。

 

そしてナカジマ姉妹は同月の29日に飛行旅客機を乗り継いで陸士108部隊へと向かう為にミッドチルダ臨海第8空港へとやって来た。

 

ところが其処へ再び不幸がスバルに降りかかった。 次元航行便に何者かが隠して密輸されていた危険度SSS級の古代遺物(ロストロギア)が空港に着いた途端にエネルギー暴走を起こして大爆発し、忽ち空港は丸ごと火の海に包まれた。

 

爆発の衝撃で崩れ落ちる建物の瓦礫、迫り来る火の手、パニックになって逃げ惑う人々の荒波……それらにナカジマ姉妹も否応なく巻き込まれてしまい、スバルはギンガと離れ離れにされて、挙句の果てには炎の中に独りぼっちで閉じ込められてしまうのだった。

 

『うぇぇん。 熱いよぉ……怖いよぉ……助けてよギン姉ぇ……』

 

火災から逃れようとして押し退け合いながら空港の出口へと向かって行く一般客の雪崩に飲み込まれた時に脚を挫いてしまった所為で負った怪我と自分の周りを取り囲んで逃げ道を閉ざした炎が齎してくる熱と煙、そして何時も頼りにしていた姉と逸れて誰も居ない場所に閉じ込められた中で齎され続ける耐え難い孤独感によって、当時僅か11歳の幼子だったスバルは身も心も極限の苦痛に酷く苛まれていた。

 

『……もう嫌だよ。 戦いも、痛いのも、大切な人が死んであたしの側から居なくなっちゃうのも、こうして独りぼっちにされるのも、何もかも大嫌いだ!』

 

彼女の身も魂も燃やし尽くしてやると言っているかのように周囲を包囲する炎が徐々ににじり寄って来る中で、スバルはどうしてこんなに嫌な事ばかりが自分に降りかかるのかと不幸を泣き喚き、理不尽を怨む。

 

『だから、お願い……誰か……誰でもいいから……()()()()()()()()()()()、あたしを助けてよ……ッ!!』

 

故に彼女はこう渇望し(願っ)た。 『総ての苦痛を消し飛ばしてくれる絶対不堕なる天使様、どうか星空から舞い降りて』……そして、少女のその願いは不屈を司る星空へと聞き届けられる。

 

『──よく頑張ったね。 もう大丈夫だよ』

 

一時は何を身勝手な願いをするな無礼者がと言わんばかりに、傍に聳え立っていた天使の石像が周囲の炎に全身を燃やされながら倒れてきて、遥か(いにしえ)に禁忌を犯して知恵の実を食し楽園から追放された人類へ神々が課した罪業の一つである苦痛と死を拒絶したいと願った罪深き少女を頭上から圧し潰そうとした……だがしかし、神の怒りの炎を纏わせた天使の石像が彼女へと落ちる直前に間一髪その身体が桜色の光を放つ天使の環で縛り留められ、少女の願った通りに星空から天使は舞い降りた。

 

『安心してね。 これで安全な場所まで一直線だから!』

 

両足に履いた光の翼の靴で宙を舞い、一切穢れの無い白き衣を纏った長い栗毛の可憐なる天使──当時は15歳だった時空管理局の若手魔導師きっての不屈のエース“高町なのは”は左手に携えた黄金の杖(レイジングハート)を分厚い鉄板が数十層にも重なって星空を覆い塞いでいた天上へと向けて掲げると、杖先の強化フレームが砲身に変形し、その中心に嵌められている赤色の珠(デバイス核)の先に膨大なる桜光の魔力球体(スフィア)を形成する。 そして──

 

『ディバイイィィン────バスタァァアアアアアッ!!!』

 

その魔力球体(スフィア)は極大の光禍となって天上の鉄板を全層纏めて突き貫き、総てを破壊し尽くして星空への道を切り拓いた。

 

『ぁ……ああ……っ!!』

 

その桜色の光は幼いスバルの目に尊く焼き付けられ、そこから流れていた不幸を嘆く涙は止んでいた。 何故ならまさしくその光は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから……。

 

それから、スバルはなのはの片腕に抱かれて砲撃で空けた吹き抜けから星空へと飛び出し、別の場所でフェイトに救出されていたギンガとともに、父ゲンヤのもとへと無事に送り届けられたのだった。

 

あの日、煉獄のような炎の中で苦痛からの救済を願った自分のもとに舞い降りた天使(なのは)の姿と、天使の杖から放たれた全ての苦痛を消し去る桜光(ディバインバスター)と、天使の腕の中から見た満天の星空の輝きを、スバル・ナカジマは今でも鮮明に覚えている。 彼女はこれから先も一生涯その光景を忘れる事は恐らく有り得ない事だろう……。

 

そしてスバルは思ったのだ、『高町なのは……あの人こそが、あたしや次元世界の総てから“痛いの”を全部消し去ってくれる、絶対不堕の天使様に違いない』『あたしはあの天使様に近づきたい。 その為なら、どんなに痛くても我慢できるし戦えるんだ!』と……そうしてスバルは絶対不堕の天使様(高町なのは)に妄信的なまでの憧憬を懐くようになり、自身の将来の目標を【高町なのはのように、誰かを助けられる立派な魔導師になる】事に決めた。

 

その夢を絶対に叶えてみせるとして、スバルは母クイントが亡くなった日から今まで頑なに拒絶していたシューティングアーツの稽古を再開。 後に亡き母の形見であるリボルバーナックルを右手に、姉ギンガが通ったのと同じ陸士訓練校へと進む。 そこで訓練候補生寮で同室だった縁もあって《ミクティーヌ・ベクターン》とコンビを組む事となり、互いに切磋琢磨して訓練校のカリキュラムをやり遂げ、彼女は見事首席という最高の成績で卒業してみせた。 涙々の卒業式を終えた訓練校門の前で訓練校で授業と生活をともにしているうちに親友関係になっていたミクティーヌと卒業記念に訓練で破損した訓練用デバイスの部品を交換した時の思い出はあれから二年経った今も彼女の記憶に色褪せず残っている。

 

それからスバルは卒業してからすぐに訓練校からの推薦状を持って親友ミクティーヌとともに念願の時空管理局へ入局を果たし、二人共々《陸士386部隊災害対策課》に配属され、陸士部隊の先輩方から仕事の基本をビシビシと叩き込まれた新人研修期間を終えて……。

 

新暦75年4月初頭、スバルに待ち望んでいた憧れの人との再会と転機が訪れた。 この日、彼女はミクティーヌと一緒に“陸戦魔導師ランク”のBランク昇格実技試験を受けるため、ミッドチルダ北部に在る荒廃都市区画へとやって来ていた。

 

妖精サイズの試験官(リインフォースⅡ)から実技試験内容の説明がされ、試験が開始(スタート)する。 二人一組(ツーマンセル)で荒廃都市内の指定されたコースを走り、そのコース上の至る所に設置されている自動迎撃機能搭載の標的(ターゲットオートスフィア)を全て撃墜してから制限時間以内にゴールを目指すという至極単純明快(シンプル)な試験内容だったが、標的の一部が受験者が段差を登った丁度真上から不意撃ちしてこれる絶妙な位置取りで待ち構えていたり、並の攻撃では破壊不可能な程に頑丈で他のより一際大きなボディーを持った強的が最後に立ち塞がってきたりした為、Bランク用の試験にしてはなかなか歯応えのあるコースだった。

 

それでもスバルの機動力(自作ローラー)突破力(シューティングアーツ)、ミクティーヌの精密射撃と妨害魔法(ジャマー)を駆使する事で、二人は無難に全標的を撃墜し残り時間を五分以上余らせながらコースを見事完走した。 ゴールラインを切ったところに飛んで来た小さな試験官からも文句無しの好評価を貰い、合格間違いなしの雰囲気になって思わず小さく飛び跳ねる程に大喜びしていた二人のもとに、この試験の監督責任者であった()()()()()()が空より舞い降りてきた。

 

『お疲れさま、二人とも』

 

『あ……』

 

その立派な魔導師の浮かべる優し気な微笑みとその人から掛けられた労いの声をハッキリと認識し、スバルは思いも寄らないサプライズを受けたかのような感激と呆然とした声を漏らす。 自分の記憶に留めて忘れもしない、あの空港火災の中で炎の熱さと怪我の苦痛と孤独の恐怖の中ただ怯えて泣いて誰かに助け求める事しかできないでいて、とても情けなくて弱かった幼い自分のもとに舞い降りてくれた、白い衣を纏った長い栗毛の天使様──時空管理局が誇る絶対無敵の《エース・オブ・エース》にして本局戦技教導隊所属のSランクオーバー級空戦魔導師、高町なのは一等空尉。 4年前のあの日見た時よりも彼女は益々と凛々しく美しく身体もより理想の女性らしい豊かな起伏に富んでいて、しかしあの日と全然変わらない優しさと頼もしい雰囲気を纏わせて、今再び成長した自分のもとに舞い降りて来てくれた。 自分の事を苛んでいたあらゆる“痛み”を桜光の砲撃で消し去って救ってくれたあの瞬間からずっと狂おしい程に憧れを懐き、その背中に追い付きたいと思っていた人と再び出会えた感動に、両目の奥に熱いものが込み上げてくる。

 

『なのは……さん……』

 

『ん?』

 

『あ……ああ、いやっ! 本局の高町なのは一等空尉……ですよね? ええと、あのぅ……そのぅ……』

 

『……ふふ。 別にそんなに硬くならないで。 “なのはさん”でいいよ。 みんなそう呼ぶから。 ……それと、4()()()()()()? ちょっと背、伸びたね』

 

『え? ……あたしの事、覚えていてくれたん……ですか?』

 

『うん。 元気そうで良かったよ、()()()

 

『っ! はい……はいぃッ!!』

 

あの日憧れた天使様(なのはさん)は自分の事をずっと覚えてくれていた。 自分ははじめ、次元世界の英雄と呼ばれる相手にとって自分の存在なぞ所詮は次元世界の法の守護者である管理局の魔導師として大勢救ってきた名と力無き一般民衆の内の一人にしか思っていないのだろうかと思っていた。 しかしそうではなかった。 この人は自分の名前までちゃんと覚えていて呼んでくれたのだ。

 

スバルは憧れた英雄に自分の名前を呼ばれた感激が極まり過ぎて、もう堪らず目許に溜めて我慢していた涙をその場で決壊させていた。 そして、この瞬間に彼女の中で高町なのはという存在は絶対的な崇拝対象になってしまった。

 

『なのはさんに付いて行けばあたしは絶対に大丈夫』

『無敵のエース・オブ・エースと呼ばれて、誰よりも強くて優しいなのはさん』

『なのはさんに指導してもらえば、あたしは何処までだって強くなれるんだ』

『なのはさんだったら、きっと誰にだって負けないし墜とされたりしない』

『なのはさんこそあたしがずっと願い求めてた、世界の総てから“痛いの”を消し去ってくれる絶対不堕の天使様に違いない』

『なのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのはさんなのは──』

 

そして……()()()()()()()()()()()()()が絶対不堕と信じて疑わなかった無敵の英雄高町なのはは、彼女達が所属した新規試験部隊である古代遺物管理部機動六課の稼働初日に突如として異次元から襲来した“破壊の紫龍”の軍勢《次元王軍ラグナガンド》の尖兵の爪牙によってその翼を捥がれ、部隊諸共に堕とされたのであった。

 

──嘘だ。

 

先日に六課が奇襲を受けた時、スバルは相対したラグナガンド軍の戦奴達が放つ計り知れない威圧感(プレッシャー)を受けたと同時に一瞬も耐え切れず精神を圧し潰されて意識を失ってしまい、敵と戦わずして地に倒れ伏した。 彼女は心臓を捩じり切られたような息苦しさを感じるとともに目の前が暗転する寸前、己のあまりの未熟さ加減に忸怩たる無念を痛感していた。 しかしそれでも、たとえ自分が倒されても次元世界歴戦最強の魔導師達と称される機動六課の隊長陣がまだ健在なら……否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 そう強く信じて疑いなどせず、安心して眠りに落ちていった。 それなのに……。

 

──なのはさんが敵に墜とされて負けただなんて、そんなの絶対に……嘘だ!

 

竜が去った後に医療センターの病室のベッドの上で眠りから覚めた時、隣のベッドに寝転がりながら【誰の心でも簡単に踏み躙れる友情ゴッコのススメ】という変に怪しい表紙タイトルの心理学本をゲラゲラ笑って読んでいた何事も無い様子の親友(ミクティーヌ)を見て一時は安堵していた。 それで、自分が気を失ってから隊長達が襲撃者を難なく打ち倒し勝利したのだと期待して、こちらが目を覚ました事にようやく気が付いて本を閉じた親友にあれからの戦いの結果がどうなったのかを盛大な歓喜を上げる用意をする半笑いを向けて訊いたら──

 

『ん~、気を遣って言うと……ゴメンね。 気を遣った言葉が思い浮かばない程、フルボッコにされて負けちゃったんだ。 なのはさん達……

 

『……は?』

 

ちょっと申し訳なさそうな口調になった親友からの返答は例え次元世界中の天地がひっくり返ったとしても絶対に有ってはならない隊長陣の敗北結果報告だった。 勝利の期待とは真逆の内容を聞かされて思わず耳を疑い、表情を硬直させて茫然自失と間の抜けた声を口から漏らした。

 

『ご、ごめんミク。 ちょっと寝起きで耳がボケてたかもしれない。 もう一度言ってくれる?』

 

ふふ、またまたぁ、悪い冗談を言わないでよね。 どうせ、時々意地悪な性格が出るこの親友がいつも自分にやってくるドッキリかイタズラなんだろう……そうだよね? 頼むから、そうだと言ってくれ。

 

『そんな事言って、聴こえないフリして誤魔化してるんでしょ? 信じられないのは分かるけれど、現実見た方が良いよ。 気を遣ってもう一度言うけどね、次元世界の英雄(なのはさん達)は負けたんだ。 《次元王軍ラグナガンド》って連中に手も足も出ないで──』

 

『「嘘だああああああああああッッッ!!!」』

 

そして現在、スバル・ナカジマは悪夢のように思い返していた過去の己と重ね合わせて、絶対無敵だと信じていた次元世界の英雄(なのは達)が敗北したという現実を否定して狂い叫び、半狂乱になって眼前の試合相手(フォックス)へ殴り掛かった。

 

「トウギューヒラリーマンチーング(エーンド)バ○チョップ!」

 

「ごがっ──!!」

 

「「「スバル(さん)!」」」

 

しかし、がむしゃらに振り被った右ブロー(リボルバーキャノン)は相手に狙いがまるで定まってない。 当然そのような攻撃など曲りなりにも管理局のエースを超える精鋭揃いである特務遊撃支援部隊ロストウィングの主戦力(ネームド)に数えられているフォックスにとっては曲がれない猪の突進よりもいなす事は容易だった。 彼は真横にして掲げた錫杖(マグヌス)から薄布(ヴェール)状の魔力幕を垂らし下げてそれを闘牛士のマントに見立てると、瞳孔開いて猛進して来たスバルの右拳を魔力幕に突き打たせる事で方向を見失わせ空を切らせる。 そしてそのまま大振りを外して前につんのめったスバルの脳天に高所から垂直に左手の手刀(チョップ)を落とす。 簡易強化魔法で威力強化されたそれは打撃(インパクト)と同時に周囲の熱気を吹き飛ばし、憧れを馬鹿にされて憎悪の焔を燃やしていた魔法格闘少女の両眼に白を剥かせて、空から地に勢いをつけて叩き落とした。 まるで隕石が落下したような物凄い轟音と地響きを鳴らし、衝撃でバトルフィールド上全体の砂塵が原発事故の大爆発を思わせるような規模でド派手に巻き上がった。

 

『くっ! ……キャロ、強化を頼む!』

 

『あ……う、うん。 わかった──』

 

「──エリオ君お願い! 《ブーストアップ・ストライク&アクセル》!!」

 

猛烈な勢いで地面に叩き墜とされたスバルのダメージは心配だが、この隙に相手から追撃されたら危険だ。 高速機動特化型魔導師が故の高速思考回転速度で真っ先にそう判断したエリオは念話で自分が居るすぐ側のウィングロード上に立ちながらスバルが墜とされた地点を苦悶の表情で見下ろしていたキャロに能力(ステータス)強化補助魔法を自分へ掛けてくれと頼むと、彼女は直ぐに我に返りながら咄嗟に振り向いてエリオから向けられている真剣な視線を一目で見て相方(パートナー)の彼が何をするつもりなのかを察し、即座に攻撃力と速力を一定時間上昇させる能力強化補助魔法を二重行使してくれる。 キャロの持つ魔力光である桃色の淡い光を全身に纏わせたエリオは敢えて推進装置(スラスター)を使用せず(ストラーダ)を片手持ちに構えると、裂帛の気合いを溜めてからの速攻でフォックスへの単騎突撃を敢行する。

 

「かー○ーはーめー──「ハアアアァァーーッ!!」──って、うおっぴぃ!?」

 

彼の予想通り相手自身が真下へ叩き墜としたスバルに向かって追撃の収束砲撃魔法を撃ち込もうとしていた直前に滑り込む形でエリオは横から不意を突く。 得物である錫杖(マグヌス)を背中に差した無手になって、右腰の位置で開いた両手を違えるようにして構えたその中に魔力収束(エネルギーチャージ)を誰もが何処かで聞いた事がありそうな気がする技の掛け声を発しながらの動作で行っていたフォックスの格好を外野控えベンチから見上げていたはやてが「アッカーーーン! その技は偉い人から怒られてまうわ──っ!!」と自分の脳天をクソを幾つも前に付けそうな程ヤバそうに両手で抱え込みながら絶叫をあげているのも気にせずに、エリオは相手が魔力収束を完了させて両手を開きながら腕を突き出して砲撃を撃ち出そうとする直前に生じる決定的な隙を狙ってストラーダの穂付きを疾風の如く繰り出した。

 

しかしフォックスは寸出のところでエリオの横槍に反応し、突き出しかけていた両腕を引っ込められた事で高速射出されてきたストラーダの穂先をギリギリ躱した。

 

「ふぅ、危なi「まだだッ!」──って、そのまま近接格闘戦(クロスレンジバトル)いっちゃうナウ!?」

 

だがエリオだって自分よりも魔導師として経験も実力も圧倒的に格上の相手に対して、不意を突いた攻撃でも必ず決定打を当てられるなどと思い上がってはいない。 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と同時に相手が躱した先に回り込み、更には此処でストラーダの推進装置(スラスター)を出力弱めで吹かして滞空(ホバリング)をしながら体重移動を巧みに駆使する事でそのまま空中浮遊しつつ近接格闘戦に持ち込んだ。

 

「はああああっ! やっ! ふっ! それっ! てりゃあああああ!」

 

驟雨の如き神速の乱れ突き、からの体重移動の宙空一回転と手首の返し(スナップ)を使って左脇から柄尻での石突き。 それを相手の錫杖で横から弾かれても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま豪快な払い上げ。 更には長い柄の中央を両手で掴み棒術演舞の要領でブンブンブンブンと高速振り回し、疾風怒濤の連撃乱舞をお見舞いする。

 

《鉄槌の騎士》ヴィータ直伝の()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……精鋭揃いのロストウィングが誇る主力魔導師(ネームド)の一人である《曼珠沙華》ロッキー・マオをも苦戦させた百戦錬磨の騎士である彼女の達人級の近接技巧と比較すれば大分拙い部分が目立つものの、管理局内最速の称号を持つ高速機動特化型のSランクオーバー航空魔導師であるフェイト・T・ハラオウンも太鼓判を押した彼の持つ高速近接戦闘における才覚の高さ、更には彼の相方(パートナー)にして召喚使役と支援補助のスペシャリストであるキャロ・ル・ルシエに施してもらった能力強化補助魔法も合わさって、()()()()()()()()ヴィータをも凌駕していた。 魔導騎士を志すエリオは機動六課が創設される以前から彼の保護者であるフェイトを通じて八神家の守護騎士達にちょくちょくしてもらっていた稽古の賜物だろう。

 

「これならッ!」

 

「のわおっとっとっ! あっ、あぶにぃー。 ちょっとヤンチャしすぎでしょエキセントリック少年」

 

「誰がエキセントリック少年ですか! でも段々とフォックスさんの動きに付いて行けるようになってきましたよ。 FW(僕達)の事を侮るのは此処までですからねッ!」

 

そう言って波に乗ってきたエリオが腕と手首を巧く使って突き出すストラーダの穂先の軌道を制御する事で変幻湾曲自在な連続突きを繰り出してくる。 フォックスはそれを若干冷や汗を掻きながら絶妙に虚実牽制動作(フェイク)を織り交ぜてギリギリ避けていく。

 

「いや、別に(チミ)とイイ性格の翠髪ちゃんとおチビの竜召喚士ちゃんはナメてねーから。 そのデバイスのロケットばびゅんエンジンだってガチな使い方(プレイ)したら突撃(チャージ)で加速威力付けて超特急新幹線あ○さ2号する時にブッパするものでしょうに? それを空中ホバーに応用(シフト)するなんて、なかなかのセンス持ってんジャン少年☆」

 

「別に、只の子供の思い付きですよ。 実戦経験で上回っている格上の人相手に対して無暗矢鱈(むやみやたら)に勢いを付けて突っ込んだりしたら、スバルさんみたいに避けられて勢い余り停止(ブレーキ)が効かないところをやり返(カウンター)されてしまうと思いましたのでね」

 

自分の持つ武才の高さを相手から賞賛(相変わらず死語だらけの言葉遣いで褒められているのか馬鹿にされているのかイマイチ判断つかないが)されても、エリオは驕る事なく謙遜と説明を返しつつ隙の生じぬ槍捌きで果敢に攻め続けて、当たるスレスレを躱し続けるフォックスを徐々に疲弊させていく……そして、程なく肘の返しを柔らかく使った上下段二連突きを放ったところでとうとうストラーダの穂先が相手の青紫色ワックスがけツンツン頭に覆い被さっていたベージュ色ローブ(バリアジャケット)のフードに突き掠った。

 

「チョベリバー!」

 

好機(チャンス)。 これで、墜とします!」

 

フードを突き取ってギラギラと照り付ける日の下に晒したフォックスのガングロピアス面に決定打となる一撃を狙い定め、エリオは《烈火の将》シグナム直伝の《紫電一閃》を放つ。

 

紫電────一閃ッ!!!」

 

シグナムが繰り出す本家本元(オリジナル)のは彼女が持つ魔力変換属性《炎熱》を瞬間魔力増幅薬莢(カートリッジ)を使用して爆発的な威力に高めた烈火を騎士剣(レヴァンティン)の刀身に纏わせて百の敵をも薙ぎ払う大技なのに対し、エリオのこの戦技は彼が持つ魔力変換属性《電気》で(ストラーダ)を丸ごと磁石化し、更には磁力化した槍の左右に相反する磁極性質を持った仮想電極棒を敷く事で、真っ直ぐに番えた穂先を電磁超加速で雷速の刺突撃を放つという改変技であった。 攻撃範囲と破壊力こそ本家本元にやや劣るものの、雷速で射出されるエリオの《紫電一閃》は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 突き放ちの初速の際に生じてくる音破衝(ソニックブーム)が異次元の速度をもって射出された(ストラーダ)の穂先に纏わり付いて放電する(プラズマ)真空ドリルと化し、核シェルターにすら刹那の間に大孔を空ける。 非魔導師は無論、近距離(クロスレンジ)で放たれれば管理局内最速の航空魔導師であるフェイトですらも回避は非常に困難を要するだろうという、()()()()()ほぼ対処不可能な攻撃速度に達している。

 

──よし、当たっ……て、な──ッ!!?

 

フードが突き捲れて、高山特有の猛烈な直射日光が眼に刺さった為に一瞬の硬直を曝したフォックスの眉間に雷速の真空ドリルが突き貫いた──かに見えたが、非殺傷ダメージの手応えが無く、その頭部をストラーダの穂がすり抜けた。

 

「身代わりの幻影分身魔法(フェイク・シルエット)!? しまっ──」

 

「背後からドーン!」

 

「──ぐば、あ″あ″あ″あ″あ″ぁぁぁ!!」

 

ストラーダに貫かれたフォックスの幻影分身体が紅紫の霞と化して消滅し、それと同時に本体が()()()()エリオの背後に出現して隙だらけになったその小さな背中に左拳の四本貫手(親指以外の四本指で点を突き撃つ高等打撃術)が突き打たれる。 打撃点から空圧のような衝撃波が発生して肺を貫通し、エリオは肺の中にあった空気を大量に口から吐き出させられながら胸を弓形に大きく反らして砲弾のように突き飛ばされ、場外ホームラン。 前の試合の時にゴートンが使用した簡易爆裂魔法(パイルブロウ)の余波で薙ぎ倒されていた、バトルフィールド外野の山林跡地の上に曲線を描いて墜落した。

 

電磁超加速を使用した雷速の刺突を空突きした直後、若干十歳の幼子の細腕に襲い掛かってきた反動はその必中必殺の威力に比例して凄まじく、その猛烈な推進力を抑え止める事はエリオの未発達の筋力では身体強化魔法で筋力強化を施しても難しかった為、柄に両腕を引っ張られて先程のスバルと同様に前傾姿勢につんのめってしまった。 更に言うとエリオの紫電一閃は技を繰り出そうとする直前に得物(ストラーダ)を磁石化する際に電光(スパーク)を派手に迸らせるという事前動作(エフェクト)が出る為、それで相手が大技を出してくると見破ったフォックスが雷速の槍が突き放たれて来る前に複合光学迷彩(オプティックハイド)を使用してそれと並行発動していた幻影分身魔法(フェイク・シルエット)体と入れ替わって身代わりにしたのだった。

 

「エエ、エッ、エリオーーーーーッ!!!」

 

「エリオ君ーーーーー!!」

 

「キュオオーーーーーン!!」

 

「クッ! エリオのあの紫電一閃は強力な分、相手に付け入れられる隙は大きいか……どうやら実戦で使うにはまだまだ改善と修練の時間が要るようだな」

 

「そうですね。 だけどエリオも背中に攻撃を受けた時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様子だったから、たぶん外野から戻って来れば試合復帰できると思う。 だけどその間、前に出て壁になってくれていた前衛(スバル)遊撃(エリオ)が離れたこの一時に司令塔(ミクティーヌ)後方(キャロ)がどう凌ぐか……」

 

派手に外野へ吹っ飛ばされたエリオに彼の保護者(フェイト)相方(キャロ)とその腕に抱かれた使役竜(フリード)が悲鳴を響かせた中、技の師匠(シグナム)が教えた技を簡単に破られた事に口惜しそうな呻きを漏らしつつも浮上した問題点を取り挙げて今後の課題を考え。 その横から同意を示した教導官(なのは)が腕を組みながら、エリオは体勢を崩して隙を見せてもしっかりと防御をしていたのが見えたから大丈夫だと言い、しかし壁役の二人が居なくなった後衛の二人はどうするのかという心配と期待を半分半分にして、未だ宙空に敷かれているウィングロード上に立つ教え子二人へ注目を向ける。

 

『よしキャロ。 此処は気を遣って、教科書通り二人で背中合わせになって守りをガッチガチに固めておいて、スバルとエリオ(弾避けの壁)が戻るまで時間稼ぎといきましょうか☆』

 

『そ……そうですね。 エリオ君もスバルさんも沢山食べるから丈夫だし、きっと二人共やられていないと私も思います。 時間稼ぎでいきましょう、ミクティーヌさn──』

 

「ところがギッチョン、そうは問屋が卸三杯!」

 

「──って、嘘、いつの間に!?」

 

「百合の間に割り込んでか~ら~のぉ~。 秘打、ハクチョウの舞い!」

 

「きゃ、きゃあああっ!」

 

「ギャオギャオ!」

 

エリオが飛ばされて行って落下した場所を見定め、彼が持つ高い機動力を考えれば其処からバトルフィールドへ戻って来るまではそれ程長い時間は掛からないだろうと判断したミクティーヌは念話を通してキャロに時間稼ぎ作戦を提案する。 それを聞き、頼れる相方の少年がやられて一瞬放心していたキャロが気を正してその提案を呑み、早速作戦に移ろうとしてフリードを抱いたままミクティーヌの許へと駆け寄ろうとするが、二人の作戦を読み切っていたフォックスが亜音速移動魔法(ソニックムーヴ)を使用して閃光のように素早く接触間近だった両者の間に割り込んで来る。 そのまま彼は野球のバットを構えるように両手で錫杖(マグヌス)の長い柄を握ると片足を軸にして華麗に高速大回転し、前後に分断された二人と一匹へ同時に牽制攻撃を行う。 まるでバレリーナの舞いのように優雅と見せかけて竜巻を思わせる程の猛烈な勢力を伴った錫杖の大回転スウィングを間近で受けて、魔法少女二人と幼竜一匹は慌て出した悲鳴をあげながらも必死に打ち飛ばされまいと正面防御結界魔法(シールド)を展開して防壁を張る。 独楽のように高速で大きく円を描き振り回される錫杖が防壁と接触してガガガガッ! と引っ掻くような連続打音が打ち鳴らされる。

 

「うおおっと!? 気を遣って言って、ギャグっぽい格好の割に重い打撃力してるし。 でもボクはどっちかと言うと男の()が好きだから百合じゃないっての」

 

「わわわ、私だってそうですよ! でも、好みの男性(ひと)を詳しく言うなら。 何時でも私の側に居てくれて、とっても優しくしてくれて、何をするのも一生懸命で──」

 

誰もタイプの男なんて聞いてないにー☆ あ、それー。 何やら乗って参りましたー! いつもより多く回しておりマッチョオオオオ!!」

 

「「ヌーーーーッ!!!」」

 

「キュルルーーーーッ!!!」

 

まるでギャグ漫画のようにコミカルなスピンで回転し続けるフォックスを魔法の防壁で挟み、ミクティーヌとキャロは防壁に超高速で断続的に叩き付けられる錫杖の打撃力が思いの他凄まじくて防御を維持するのも一苦労だという様相を呈しながら、相手から何を根拠に同姓好き(百合)なのかと言われた事を否定する。 その上聞かれてもいないのに二人共に男の好みまで暴露して、実は余裕なのか? そう感じた為か、更に加速をつけて旋風の如く60m真下の地上から土砂まで盛大に巻き上げ竜巻と化したフォックス。 回転速度の急激上昇に加えて竜巻の勢力とそれに巻き上げられた硬い土砂礫まで加わり、叩き付けられる錫杖の威力は途轍もないパワーとなった為、とうとう二人の魔法少女が必死になって張り続けている二枚の防壁の表面が魔力粒子に分解されて徐々に削り取られだした。 防壁を維持するのが極限に困難を極め、二人の少女と一匹の幼竜の焦燥苦鳴が山々に鳴り響いた。

 

「──ぐあっ!? 痛っっってぇ……おいフォックス! テメェ、外野ベンチ(こっち)にまで土の塊を飛ばしてんじゃねぇよ!!」

 

機動六課FW陣四人と一匹を相手に一人で大太刀回り圧倒的な実力差を見せつけるフォックスの大暴れっぷりはバトルフィールド外野の両陣営控えベンチにまで飛び火が及ぶ程に凄まじいものであった。 上で前後に挟むミクティーヌとキャロの防壁を猛烈な勢力で押し退けていっているフォックスの超速旋風回転攻撃に巻き上げられた土砂礫が野球の弾丸ライナーを連想させる瞬間スピードで流れ飛ばされて来た、それが彼が自慢にしているトレードマークであるリーゼントのトサカを潰して頭にクリーンヒットした事で額に大きなタンコブを作ったビスマルクが真っ赤に茹で上げた(タコ)のような愉快な顔をしながら怒り心頭を露わにしている。 その横で腕を組んでいるガンマも先程は呆れていたが流石にそろそろ我慢の限界が近いようで蟀谷に青筋を浮かび上がらせて歯をガチリと噛みながら沸々と苛立ちを募らせている様子。

 

「あんの多重次元宇宙一の超超超大ドアホウが──ったく! さっきの絶死級オナラガス弾といい、そろそろええ加減にせぇよ? これ以上ふざけ腐れ続けとるんなら、あのガングロチャラ男の股間のピア○ンに此処から一発弾丸(タマァ)撃ち込んで、ブチ抜き墜としたるわ……ッ!!」

 

「……なるほど、確かに大分強いね、あのフォックス君という子」

 

「あん?」

 

対戦相手が格下の新人魔導師チームな上に軽い挑発で容易に激怒し暴走してチームの連係を無視し単身突撃(スタンドプレー)に走っている足手纏いを一人抱えているが故に、試合を不真面目に遊びふざけて戦って、何度もそのとばっちりを外野の味方陣営の仲間にまでくらわせておいて少しの自重もする様子もないロクでなしガングロチャラ男に対し、ブチギレしかけて腰のホルスターから拳銃型デバイスを抜きかけるガンマ。 しかし寸前に上空の試合模様を見上げながら思案顔を浮かべていたなのはの呟きを耳に入れて思わず思い止まる。 何かと思い隣の相手陣営側ベンチの方に向けてみると、視線に気付いたなのはがこちらに顔を向けて何かを訊きたそうな目で訴えてきていた。

 

「なんや高町? 人ん事ジロジロと見つめおってからに……まさかワイに気でもあるんか? 悪りぃんやけど、(ツラ)(オッパイ)(ケツ)は良くても“お話しよう”と言って街一つ丸ごと消し飛ばす集束魔砲(ブレイカー)をブチかましてくるようなマジキチ女は御免被るで」

 

こっちだって君みたいに短気で怒ると直ぐに銃抜いて問答無用で眉間を撃ってくるような人を彼氏にしたいだなんて一生思わないからねッ! ……ただね、ちょっとフォックス君について訊きたいの」

 

有ろう事か恋情を向けられていると勘違いされた挙句にセクハラセットで断じて言ったつもりもないこちらの告白をフッてやったかのような口ぶりを吐きながら上唇を噛み締める程凄く嫌そうな顔をしてきたガンマに、滅相極まりなさ過ぎたあまり途轍もなくムカッ腹を立てて自分もお前なんかを恋人にするなんて願い下げだと負け惜しみ全力全開でフリ返してやった彼氏イナイ歴=年齢のまま成人を目前に控えた純潔乙女の高町なのは。 その所為でとても不機嫌を被った顔になったが、なのはが訊きたかった事はフォックスの戦闘能力についてであった。

 

近接距離(クロスレンジ)での肉弾戦においては並の魔導師や騎士を超えるチカラを発揮するスバルとエリオの二人を相手にして軽くあしらえる程の高い格闘センスを持ち、射砲撃・防御結界・高速移動・幻影迷彩といった使える魔法の種類(バリエーション)を多種多様に揃えていて、随分とふざけているけれどオリジナルの魔法術式を構築する応用力も備わっている。 それに加えて、それぞれ得意な魔法技術(スキル)戦闘配置(ポジション)が全員異なっているFWの四人の多彩な戦略・攻勢に対し適切な行動や魔法の手札を選び切って迎撃する優秀な選読眼と空間把握処理能力に、その性能を十分に活かす事のできる俊敏な機動力(フットワーク)と非常に冴えわたる直感力、相手の行動の裏を突いて隙を作り畳み掛けるといった連綿に狡猾で的確な手を打てる戦術構築能力(バトルタクティクス・スキル)も高得点だね。 彼はまさしく魔導師として理想の万能(バランス)型を体現していると言っても過言じゃない。 正直に言って、場数や戦闘経験値が不足していてまだまだ未熟なFW陣(スバル達)が相手にするには荷が重過ぎる強さだし、管理局有数のSランクオーバー魔導師であるわたしやフェイトちゃんが本気で戦ったとしても簡単には勝てないと思う。 確かにフォックス君は文句無しに最高クラスの戦力に入れられるだろうね……“人の内の領域でなら”だけどね」

 

経った今、竜巻旋風でFW後衛の二人の防壁を同時に粉砕しそのまま二人共仲良く外野へ弾丸ライナーで打っ飛ばし、グルグル眼を回してふらつきながら回転を止めたフォックスを怪訝そうに見上げ眺めるなのは……彼女は戦技教導官として、自分の教え子の四人(+一匹)を同時に相手取りながら完璧(パーフェクト)に限りなく近い万能型魔導師の性能(ステータス)を十分以上に発揮して見せているフォックスの実力に対し最高の戦力に値すると明言した。 だがそれは“人の内の領域でなら”に限定されると口にした。 何故そのような、()()()()全然問題にならなそうな要素を付け加えたのかと言うと──

 

「でもロストウィング(君達)ってさ、並行世界線の自分を無数に呼び出せるレアスキルとか、どんな攻撃でも撥ね返せるオリジナルの防御結界魔法とか、みんな“反則級に強力なスキル”を持っていると思ってたんだよね。 確かにそれぐらい出来ないとこの山の変態劣悪環境下で本局とも地上とも切り離された非公式の遊撃支援部隊なんてやっていけないだろうし、管理世界(わたし達)の常軌を逸するような埒外級の戦力を保有しているラグナガンド軍に対抗するのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと、どうにも物足りてない気がするんだ、彼……」

 

「あ~、そういう事かいな……せやけど、そないな事なら全然心配は要らへんて。 フォックス(あのドアホウ)をよう観てみぃ、もうそろそろアイツはいい加減試合終わらせに“あのチカラ”を出すところになるやろ。 アンタの教え子らの事も()()()()()()()()やろしな」

 

なのはの疑念にガンマが何だそんな事かと書いたような真顔と共に蟀谷をポリポリ掻き、続けてフォックスはもうそろそろ本気を出してくると断言する不敵の笑みを浮かべて、激しい試合の余波を受けて濛々と立ち込めた大量の砂煙に蔽われたバトルフィールド内にて、経った今地面から起き上がった魔法格闘少女の人影へ物を試すような鋭い視線を差すのだった……。

 

 

 

 

 




どうしよう、スバルの渇望が確定レベルでヤバイ内容のものになってしまったよ。(白目)

エリオ君強化しました☆ 原作のかみなりパンチもイイけれど、超電磁加速斬撃はロマンだぜ!

さて、次回こそは此処まで引っ張っていたフォックスの特殊能力を御披露目します。 FW陣は果たしてどこまで食らい付けるのか? お楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。