THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡   作:蒼空の魔導書

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いきなり最大規模の敵勢力の一部隊が登場! なのは達の前に現れたその戦力とは!?




破壊の柴竜の襲撃

反射的に回避行動に移れたのは歴戦の魔導師としての直感だった。

 

「ッ、ッッッ!!!」

 

レイジングハートの尖端を咄嗟に地面に突き立てて砲撃魔法を放つ。

 

地を爆砕し深い塹壕を造る事で自分を含めたこの場に生きている三人の全身を地線より下方に落とし、ドーム状の結界魔法を塹壕の上に被せて簡易的なシェルターを造り上げた……そのコンマ数秒後の刹那──

 

う”──あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!

 

「「なのは(ちゃん)っ!!!」」

 

彼女の砲撃など比較にならない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が桜色の結界を掠め、彼女達が見上げる空を結界越しに紅蓮が一瞬で覆い尽くす。 総合SSランクのはやてが全力で広域殲滅魔法を放ったとしても有り得ないレベルの破壊力の奔流が頭上を通過したのだ。 結界を維持するなのはが一瞬で発狂に追い込まれ、可愛くも凛々しい顔を猛烈に歪めて死ぬ気で堪える痛々しい姿はその有り得ない事実を如実に表していた。

 

「ぜぇ、ぜぇ……か、()()()()()で……はぁ、はぁ……わ、わたしが張った結界が……ぜぇ、ぜぇ……あと少しで破られそうに……!!」

 

「嘘やろ、あのなのはちゃんの防御魔法が……」

 

「い、いったい何が……何が起きたんだよ?」

 

紅蓮が完全に通り過ぎて行き、なのはが塹壕の上に被せて展開していた桜色の魔法結界を三人で全体的に目視で確認するとそのドームは満遍なく罅だらけになっていた。 なのはが展開する防御結界魔法の堅牢さは管理局全体の魔導師随一の折り紙付きだ、それが数秒何かが掠って行っただけでこうも易々と破れかけるとはいったいどういう冗談なのだろうかとはやてが疑いたくなるのも無理は無いと言える……だが驚愕はそれだけに止まらない。 肩で息をするなのはが結界を解き、ヴィータが恐る恐る塹壕から頭を覗かせて地上の周囲を見回すと、そこにはあまりにも悲惨過ぎる景色が広がっていたのだった。

 

「何の……何の冗談だよ、これはっ!!?

 

子供の癇癪にも近いヴィータの悲痛の怒号が()()()()()()()()()に虚しく響き渡る。 隊舎が……輝けるエース達と希望の未来へと羽ばたいて行くストライカーの卵達の帰る場所となる筈だった六課の隊舎が、ただの焼け野原と化している

 

その奥先に続く区画もだ。 海側から見て数秒前まで隊舎が建っていた場の先の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()いて、空から射す太陽の光が遮られる事無く何も無くなった荒野を無惨に照らし出していた。

 

「ひっ!?」

 

「ああっ……そんな……!」

 

ヴィータの後に続いて地上に上がったなのはとはやてもまた、辺り一面の焼け野原を見て悲痛の声を上げていた。 なのは、はやて、フェイトの三人が同時に空から集束魔法を地上に撃ち込みでもしない限りこんなに悲惨な景色にはならないだろう。

 

──……そうだ、他のみんなは無事? フェイトちゃんやスバル達は何処に居るの!!?

 

悲壮感に暮れるなのははハッ! とそう思い至り、慌てて再度周囲を見回した。 すると彼方此方の地面が盛り上がり出し、穴が開いてそこから人の陰が次々と這い出て来る。

 

「ゲホッ! ゲホッ! ……エリオ、キャロ、大丈夫?」

 

「は……はい、なんとか」

 

「フェイトさんが咄嗟に造ってくれた壕のおかげで大丈夫です! そ、それより──」

 

「な……何なんだこの有り様は!! 主はやて、ヴィータや他の皆は何処にっ!!?」

 

フェイト、エリオ、キャロ、シグナム等ライトニング分隊の面々が無事な姿を現すのを皮切りにスバル、ミクティーヌ、ヴァイス、そしてヴォルケンリッターの参謀兼六課の主任医務官《八神シャマル》と盾の守護獣である大型の狼《ザフィーラ》、八神家の末っ子である融合機(ユニゾンデバイス)《リインフォース(ツヴァイ)》と別行動で人命救助に当たっていた仲間達がどんどんと地面の中から地上へと這い出て来る。 どうやら皆がなのは達と同じ方法で命の危機を回避していたようだ。

 

「フェイトちゃん! みんなぁっ!!」

 

「っ!? なのは!」

 

仲間達の無事の姿を視認し、なのは達三人は歓喜の声をあげて仲間達の許へと駆けて近寄る。

 

「なのはさん! よかった、無事でよかったですよぉ! うわぁぁぁんっ!!」

 

「スバル、憧れのなのはさんが無事だったのが嬉しいのは理解できますが、引っ付いてバリアジャケットに涙と鼻水を擦り付けるのは流石にどうかと思いますよ? ほら、上司には気を遣わないと」

 

「あはは……二人共、無事で本当によかったよ」

 

「主はやて、御無事でなによりです。 隊舎は無くなってしまいましたが、私は──」

 

「ええんや、みんなが生きていてくれたんならそれでええ……ホンマ……ホンマに生きていてくれてよかった。 家族のみんなまでいなくなったら、グスッ、私は…私は……うぅっ」

 

「はやてちゃん……大丈夫、私達はここにいますよ」

 

「はいです。 だからはやてちゃん、どうか泣かないでくださいなのです」

 

大切な人の生存をより感じる為に抱きしめ合い、失う恐怖に怯えるが故に家族の生存に安堵し涙を流す……焦土と化した更地の上で皆思い思いに仲間達の無事に対する心からの感慨を露わにしている。 あなたが生きていてよかった、獄炎に飲み込まれてこの世から蒸発してしまったかと思って気が気で無かったと……しかし大手を振って喜ぶ事はできない、部隊長補佐のグリフィスをはじめ彼女達は多くの同志を失ってしまったからだ。

 

隊舎を破壊した極大の魔力刃にグリフィスを爆死に追い遣った対戦車擲弾、そしてこの地を焼け野原に変えた紅蓮の魔力爆裂……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 故に──

 

「アハハハ! 見てよファング。 グラナート少佐の《イクスプロジオン》から生き延びている管理局員がいるよー。 ビックリだね♪」

 

「「「「「「「っ!!?」」」」」」」

 

この悪夢を引き起こした者達は彼女達のすぐ側にいたのだった……突如として聴こえてきた無邪気さが窺える幼い少年の声音は悲壮感漂う焼け野原には狂気的で、この場にいる全員がそれに慄き、声が聴こえて来た方──海岸線付近にある高台の上に目を向けた。

 

「ほぉ……」

 

「ハハッ」

 

そこに立つ、又は宙に浮く人間の集団を目の当たりにし、なのは達は全員眼を見開いて絶句した。 ()()()()()? 様々な形状をしたデバイスや質量兵器で武装された紫色の軍服に身を纏った中隊規模(約二百人)の集団。 血臭と硝煙の臭いを蔓延させ大蛇が蛙を睨むような悍ましい重圧(プレッシャー)は大昔の戦場をも生き抜いてきたヴォルケンリッター達ですら過呼吸に陥らせてしまう。 矢面に立つ部隊の隊長らしき長身の男性の右隣で銀髪褐色肌の男がなのは達を値踏みするように見据え、にこやか気の声音を発して狂喜に吊り上がった口端から犬歯を覗かせる様はまさに飢えた野獣である。 隊長らしき男を挟んだ逆側でチェーンソーアサルトライフルの銃床を地に着けて立つ十歳前後の幼い少年が見せる純粋な無邪気な笑みもこの場においては小鬼の哄笑のように狂気じみていて、いかに屈強な精神を持つ者でもその狂気に触れれば背筋を凍らせてしまう事だろう。

 

「……」

 

「あ……貴方達は、一体何者なのっ!!?」

 

その尋常ならざる覇気を放つ全員が規格外。 特に隊長らしき長身の男性が放出する威圧感はその誰よりも重厚で、左手に持つビーフジャーキーを銜える様は煙草を吸うように落ち着き払っていて厳めしい印象を感じさせる。 頭の上半分を覆う包帯の隙間から覗く鷹のように朱い眼光は管理局が誇る不屈のエースですらも畏怖させ、発した声に戸惑いを雑じらせる。

 

察するにこの者達は何処かの軍に所属する部隊だろうが、彼等が腕に巻いている腕章に描かれている“破壊の柴竜のエンブレム”……なのは達全員がそれに見覚えが無かった。

 

故に得体が知れない連中だ。 無論、六課が何者かの奇襲を受けて壊滅し、その直後に堂々と姿を現した時点で──

 

「アンタら……か?……アンタらが、やったんかっ!!!

 

この襲撃に無関係である訳が無い事なのは確実だ。 はやてが怒りの震えで恐怖の震えを上書きし、その怒りを声に乗せて怒号を上げるように謎の軍団に吼えて詰問する。 対し敵の隊長と思われる包帯の男が返したのは蔑みの目線であった。

 

「激情のままに吼えるか……ふんっ、劣等が。 部隊長としての器が知れるな」

 

「なっ!? なんやt『ブチッ!』」

 

「全員動くな! 蟻一匹逃がさん!!」

 

続くはやての反発をビーフジャーキーを噛み千切る音で遮り、包帯の男は大空の彼方まで轟かす姿勢でなのは達全員を威嚇した。

 

「次元王軍《ラグナガンド》、第ニニ六強襲中隊隊長《ヴォルカーン・フォン・グラナート》少佐だ! 破壊の柴竜の(レギオン)を統べる我が軍の長、偉大なる《次元王》たる【グロースシュタット総帥】の勅命を受け、我が隊を率いて此処に推参した! 我らが遂行する任はただ一つ、愚昧なる貴様等管理局のエース共の殲滅だ! 抵抗する気の無い腑抜けならば首を差し出すがいい。 向かって来る気概の有る戦士ならば決死の覚悟で参れ。 我が隊が持つ破壊の紫竜の爪牙をもって相手をしてやろう。 温い抗いしかできぬ三下でしかないのならば肉片一つ残らぬと思え!」

 

「「「「「「「っ!!!」」」」」」」

 

高らかに名乗りを上げ、目的を告げ終えるとヴォルカーンは中指を立てた右手を引く動作でなのは達の敵対心を煽り立ててくる。 その威圧感は火口から噴火した灼熱のように尋常ではなく、それに当てられた全員が気圧されてしまう。

 

確定だ、襲撃者は彼等である。 隊長であるヴォルカーン自身の口が語った、“自分達はお前達の敵である”と、“掛かって来い”と……ならば次元世界の法と秩序の守護者たる管理局の魔導師としてなのは達は彼等に立ち向かわなければならない、が──

 

──この人、なんて重いプレッシャーなの!? まるで全身をマグマに沈められて灼熱に焼かれるような痛み……気当たりだけでこれ程だなんて……。

 

なのは達は身構えるのが精一杯であった。 全身から汗が流れ出てバリアジャケットの下着が恥部に張り付く。 気色悪いその感触を気にしてヴォルカーン達から気を逸らせば彼等に一瞬でやられてしまうと、エース級の実力者であるが故に彼我の実力差を感じとって下手に動けないでいるのである。

 

「「「──」」」

 

「冗談……キツイ……ですよ……」

 

未熟なFW達に至っては地に伏せて既に気を失ってしまっている。 辛うじてミクティーヌは意識を保っていたが、その顔色は青く染まっており、戦闘どころかまともに動くことすらできない状態だ。 今は彼女達は戦力にならない。

 

「くっ!」

 

グリフィス等六課の仲間達を亡き者にした仇がすぐ目の前にいるというのに怒りのまま不用意に仕掛ければ返り討ち……そんなもどかしい状勢にはやては歯痒い思いを抱いて呻き、眉を顰めて敵が居る高台を睨みつける。 ヴォルケンリッター達も同様の姿勢だ。 フェイトとヴァイスは倒れ伏したFW達を心配してなんとか彼女達を助け起こそうと考えているようだが、敵から気を逸らす余裕は無く、はやて達と同じように動けずにいた。

 

敵の戦力が未知数であるが故の膠着状態。 そんな管理局のエース達の体たらくを見兼ねてヴォルカーンは嘆息するように訝しむ。

 

「どうした小娘共。私は()()と言った筈だが……まさかこの程度の気当たりで怖気づいたというわけでもあるまい」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

「フッ、成程な。 今まで私が見てきた管理局のエースと呼ばれる輩は皆自信過剰で蒙昧不遜の愚者ばかりだったが、少しは格の違いを見る目がある者は居たようだな……いいだろう、貴様等が来ないのならばこちらから行かせてもらうとしよう」

 

──来るっ!

 

なのは達はヴォルカーンの圧力を振り払ってそれぞれのデバイスを構え、迎撃に備えて気を引き締める。 敵衆が最初にどう出て来るのかと神妙な面持ちで身構えていると、ヴォルカーンが一瞬ニヤリと表情を歪め、他とは別格の雰囲気を醸し出している自分の両隣に立つ部下に淡々と命を下した。

 

「オルランド、イスカンブルグ──()れ!

 

「「了解(ヤヴォール)!」」

 

隊長から命を受けた猫目の少年と銀髪褐色肌の男が受領の返事をすると同時に地を蹴る。 その音が戦闘開始の鐘となり、六課の部隊長であるはやてが臨戦態勢でなのは達に鼓舞を入れようとした。

 

「みんな、油断したらアカン! 来よるd──」

 

……しかし、その刹那──

 

「──がっ!!?」

 

「──がはぁっ!」

 

「……え?」

 

後ろの仲間達に振り向いた瞬間、はやては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……いったい何故、何故シャマルが猫目の少年に得物の前面に付属したチェーンソーで背中から袈裟斬りに斬られ、ヴァイスの鳩尾に銀髪褐色肌の男のメリケンサック型デバイスが嵌められた拳が突き刺さっているんだ? ……非常なる刹那の事象に現実を疑うが、彼女の感覚にして三秒後に時の流れが元通りに戻る事によってそれが現実であるという事を認識させられるのだった。

 

「ッッッ!? シャマルッ!! ヴァイス君ーーーーっ!!!

 

「嫌ァァーーーーーーーッ!!!」

 

大きく背中に付いた斜めの傷から血飛沫を噴出させて両膝を地に着きそのまま虚ろな眼をして倒れるはやての湖の騎士。 「オラァッ!」という敵の裂帛と共に“くの字”に全身を曲げてミサイルのように吹っ飛び、僅かに石炭となって残っていた建物の残骸に背中から追突し、衝撃で灰塵と化した残骸に埋もれて動かなくなる六課のヘリパイロット……同時に上がったはやてとリインの悲鳴を余所になのは、フェイト、ヴィータ、シグナム、ザフィーラの四人と一匹は仲間二人がやられたショックを受けると同時にコンマの一瞬で接近して初撃を加えた敵二人を前に衝撃的な驚愕を覚えていた。

 

──うそっ、あの高台から80mは離れているのにこの一瞬で!?

 

──私より全然……速いっ!!

 

──何だ……コイツ等っ!!?

 

──み、視えなかった。 この烈火の将の眼にも……!!

 

──有り得ぬ……この者等、誠に人かっ!?

 

衝撃的な事態に時が停滞したかような錯覚を覚える五人。 彼女達が囲む中央で二人の獣がニヤリと牙を見せると彼等を中心に突風のような衝撃波が広がり、戦乙女達の頭髪とバリアジャケットを激しくはためかした。

 

──()()()()()()()!? 音破衝(ソニックブーム)が起きたって事は、あの二人のスピードは()()()()()()()()()()

 

過去に音速を超えた速力を出した魔導師は彼女達が知っている限りでは存在しない。 管理局最速の魔導師であるフェイトですら、最大速度で()()()()()事はできても()()()()()()ことは未だにできていない。 故に超音速の電光石火の如く一瞬にして迫り来て知覚外の内にシャマルとヴァイスを倒した未知の敵に彼女達は戦慄した。

 

「くぅぅーっ!」

 

猛烈な衝撃波に吹き飛ばされないようなのはは必死にその場で堪えている。 飛行魔法を応用して自身の身体をその場の空間に固定し、捲れ上がりそうなミニスカートを右手で押さえながら、レイジングハートを持つ左腕で顔面が風圧に晒されないようにガード……その隙間から見えたのは、背中から大量の血を流して倒れ伏したシャマルに彼女の返り血を浴びた猫目の少年が狂気的な笑みをしながらアサルトライフルの銃口を向けて容赦なくとどめを刺そうとする最悪の光景であったが為に焦燥感が走る。

 

「いけない、シャマルさんっ!!」

 

ここは流石は十年のキャリアを持つベテランの魔導師と言うべきか、させてたまるかと即座に敵の凶弾がシャマルに放たれるのを阻止するべく行動に移る。 術式を展開して魔力を収束していては間に合わない。 なのでここは速射性に優れている《ショートバスター》を使用するのが妥当だと判断するが、なのはがその行動を実行に移す前にその敵に向けて別方向から金色の閃光が飛び出していた。

 

「ハァァアアアアアーーーッ!!」

 

美しい金色のツインテールを向かい風で逆立たせ、魔力刃の鎌(ハーケンフォーム)に形状を変えた愛機《バルディッシュ》を振り上げて、フェイトが音速に近い速度で猫目の少年の横から割って入る。 瞬間高速移動魔法(ソニックムーブ)。 今まさに地獄への片道切符を湖の騎士に突きつける引き金が引かれようとする直前、コンマ数秒前に電撃を帯びた魔鎌の切っ先が弧を描いて銃身の横に叩き込まれた。

 

「にゃっ?」

 

耳を劈く発砲音と同時に銃口から弾丸が吐き出されるが、着弾した先はシャマルが倒れている場所より数センチ右の焦げた黒い土の表面であった。

 

間一髪で仲間の命を救う事に成功したフェイトだったが、ここでまた別の驚愕が彼女に齎される事となる。

 

「っ!? ハーケンが──」

 

刺さらない……猫目の少年の手にあるチェーンソーアサルトライフルに高密度の金色の魔鎌の切っ先を叩き付けたにも拘らずその銃身には魔力の鉤が微塵も食い込んではいなく、表面に突き立っているだけにとどまっていたのだった。

 

実はこの猫目の少年の得物はデバイスではない“質量兵器”である。 バルディッシュのハーケンフォームは普通の質量兵器の素材なら突き刺さるどころかそのまま切断する事も容易い凄まじい切れ味を持っている為、それを叩き込んだのに()()()()()()()()()()()()()()という事実からして、このチェーンソーアサルトライフルは何か“特殊な素材”を使って製作されているという事が裏付けられる。

 

「アハハッ♪ お姉さんやる気だねぇ。 そうこなくっちゃあ──」

 

バルディッシュの魔力刃の切っ先が銃身に突き立った状態で、猫目の少年は噛み千切るような荒々しい勢いで手元のスターターロープを引き、チェーンソーの刃が甲高くも鈍い悲鳴のような音を上げて超高速回転を開始した。 その異常と取れる瞬間回転数は激的な摩擦力を生み出し、振動する回転刃の周囲が紅く歪んでいる。 猫目の少年は歓喜にも似た声で──

 

「──面白くないねぇぇぇえええっ!!」

 

「きゃああっ!?」

 

威勢と共に凶刃を振り上げ金色の魔鎌を苦も無く押し返した。 バルディッシュの柄に両腕が上方向に引かれ、無防備となったフェイトの細い胴を異次元の摩擦が薙ぐ。 直感で身を翻し瞬間的に上下反転させたので直撃は免れ、凶刃は揺れる豊満な乳房の上部付近の空間を通過しただけで特別外傷は付かずに回避成功かと思われたのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 遵いフェイトの胸元上部のバリアジャケットが引き裂かれた事によってその部分が弾け飛び、彼女の美しい白い肌と大きな双丘の谷間が外気に晒されてしまい、やられた本人は羞恥のあまり思わず悲鳴をあげてしまうが、たったそれだけの事ならば男衆の眼福で済む話だ……だが──

 

──この子、エリオと大差無い体格なのになんて凄まじい膂力をしているの!?

 

フェイトの身体はその一振りで発生した風圧だけで吹き飛ばされてしまっていた。

 

「くっ、シャマル!」

 

しかし彼女は転んでもタダでは起きなかった。 咄嗟の判断で飛行魔法を応用し上手く吹き飛ぶ軌道を調節して、瞬時に倒れ伏すシャマルを掻っ攫うと、“念話”で合図を送る……そう……頼れる彼女の親友に。

 

『シャマルは回収したよ。 今がチャンスだ──なのは!

 

「うんっ、レイジングハート!」

 

敵の近くから仲間が退避したこの瞬間をもって、管理局のエース・オブ・エース高町なのはの高出力砲撃魔法を放つ障害は何も無くなった。 おまけにフェイトが数秒の時間を稼いでくれたおかげで術式の展開と魔力の収束を滞りなく行う事ができたので、彼女は遠慮なく全力全開で放つ事ができる。

 

「はぁぁあああっ!」

 

凶刃を振るう猫目の少年に標準を定めた朱い珠の砲口の前に膨大な桜色の魔力球が形成されていく。 デバイスからカートリッジの薬莢が二つ飛び出し、極限まで高めた魔力をなのははその魔法名を高らかに言い放つと共に束に変えて一気に放出する。

 

「ディバインバスタァァァアアアアアーーーーッ!!!」

 

高町なのはの十八番《ディバインバスター》。 『全てを撃ち抜く』渇望を象徴するその一撃は暴力の光渦となって撃ち滅ぼすべく敵に向かって真っすぐと突き進んで行く……正確には圧縮魔力を込めたカートリッジを二発使用して使うその発展型──《ディバインバスター・エクステンション》なのだが、高密度で圧縮された魔力で破壊力と貫通力を減衰させる事無く撃進するこの魔砲をまともに受ければ誰であろうと一溜りもないだろう。

 

──よしっ、まずは一人──

 

倒した……疑いも無くそう思って然るべきなのだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が。

 

「その程度か。 仮にも次元世界の法を律する時空管理局のエースが()()()()()()()()()()を低度を弁えずに自慢気にするとは……呆れを通り越して哀れみすら覚えるよ、高町なのは」

 

「アーハハハハッ! 爽快スペクタクルゥゥウウウゥゥウウウゥウウウウッ!!!」

 

今回の敵は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが不幸だった。

 

相手の視界を埋め尽くす桜色の極太レーザー。 その圧倒的な質量の砲は総てを撃ち抜けると今まで信じていたが、その渇望(ねがい)は敵部隊の隊長の嘲笑の言葉と撃ち抜く筈だった敵少年兵の馬鹿げた哄笑と共に真っ二つに斬り裂かれたのだった。

 

「──なっ!!?」

 

「嘘……そんな!」

 

「ありえねぇ、なのはのディバインバスターだぞ……」

 

まるで紙のようにチェーンソーの回転刃の一振りで両断され、明後日の空へと飛んで行ってしまった二つの光束を信じられないという表情で眺めて唖然とするなのは達。 無言のシグナムとザフィーラも蟀谷に汗を流して険しい表情をしている。 ディバインバスターはなのはの最強の魔法ではないが、彼女の代名詞的な魔法と言っても過言ではない大技だ。 それをまるで埃を払うかの様にこうも簡単に破ったと話せば管理世界の誰が信じられるだろうか……。

 

「おいおい、何だ今のは? やる気あんのかこの女共、キヒヒ」

 

「アハハッ、白いお姉ちゃん、ひょっとして今の砲撃魔法全力で撃ったの? アハハハハ、ゴメンゴメン、眩しくて鬱陶しかったからついブッタ斬っちゃった♪」

 

「くっ」

 

戦慄を隠せないなのは達を見回して嘲笑するかのように挑発的に謳う銀髪褐色肌の男と猫目の少年。 悔しそうに顔を顰めるなのはに高みの見物をしている敵兵達による侮辱の哄笑が浴びせられる。 血が滲む程拳を握り締め、歯を軋らせて私達のエースを馬鹿にするな! という苛立ちの目線を敵に向けるフェイト達を余所に、重傷のシャマルをフェイトから受け取ったはやては地面に横たわるシャマルに無言で治癒魔法を掛け始めていた……()()()()()()()()()()()

 

「でもさぁ、この程度で全力だって言うんなら正直ガッカリだよ? 諜報部からここに居るお姉ちゃん達はみんな管理局のエースだって聞いて戦るの楽しみにしてたんだけど、これじゃあ本部近くの森に居る幻獣種でも狩っていた方がマシだなぁ」

 

「ギリッ!」

 

「テメェ……!」

 

「アハハッ! そんな怖い顔しないでよ~、ボク本当の事しか言ってないんだからさぁ♪ だったらもう少し頑張っt──「ええで、そこまで言うんなら本気見せたるわ」──ん?」

 

「はやてちゃん?」

 

恐ろしく冷静な声が話の間に割り込み、ここに居る全員の視線がはやてに向く。 彼女はシャマルに治癒魔法を行使しながら何時の間にか空間モニターを出していて、怒りに震えた手でモニターを操作し、その表情は驚く程冷静でいて眼からは悔し涙を流していた。

 

「アンタ等、絶対に許さへん……散々苦労してようやく発足まで漕ぎ着ける事ができた六課を台無しにしてくれた挙句、えらい馬鹿にしてくれて……それだけやならまだ大人しく罪を償ういうんなら許せた。 せやけど……よくも……よくもグリフィス君達を殺し、私の家族を傷付けてくれおったな」

 

人間怒りの臨界点を越えると冷静になるという。 はやては噴火寸前の火山のように冷静な声音で言いながら淡々とモニターを操作して何かを処理していく。

 

「……機動六課総部隊長八神はやての名において、六課前線の全分隊長・副隊長の“能力限定”の解除を許可します」

 

「「「「っ!!」」」」

 

そう言ってモニター操作を終えるとなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムの四人の()()()()()()()()()()()()()()、彼女達から溢れ出る膨大な魔力光が巨大な柱となり天へと昇る。 彼女達に掛けられていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

管理局の部隊には【戦力保有制限】という規定が存在する。 機動六課という部隊が管理局の主戦力を集結させた過剰戦力の集まりであるという特性から部隊長及び各分隊長・副隊長には()()()()が科せられていた。 それが“能力限定”というリミッターを付け()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものであり、解除するには部隊長であるはやての許可が必要となっている仕組みなのだ。

 

「でも残念や、私がこの手で死んだみんなの仇を取ってやりたいんやが、生憎とわたしのリミッターは()()()()から許可を貰わへんと解除できへん……せやからみんな、すまへんけど代わりにそいつ等全力全開でブッ飛ばしたってぇな!」

 

顔を上げ、周囲の仲間達を見回して流れる涙を堪えながら最後にチカラ強くそう言い放ち、握り締めた拳を突き出した。 部隊長からの頼みを受け取ったなのは達は──

 

「もちろん! 全力全開でやれるんなら誰が相手だって負けたりしないよ!」

 

「うん、だから任せて! 私達が必ず、グリフィス達の仇を取るから!」

 

「おっしゃあぁっ! やってやらぁああっ!!」

 

「仰せのままに、我が主はやて! この剣に誓い、必ずや!」

 

「主。 シャマルの事を、どうか頼む」

 

「リインもやるですよ! こんな奴等ブッ飛ばしてやるのです!!」

 

漲る魔力を纏い戦意高揚に昂りつつ気合いを入れて、はやてに了解の意を伝えた。 そして我らがエース・オブ・エースが動きを見せる。

 

「よーし! “切り札”はまだ未完成だけど、新しい《フルドライブ》いくよ、レイジングハート!!」

 

『了解、マスター!』

 

「エクシード・ドライブ!!」

 

毅然と言い放つと共になのはのバリアジャケットが姿を変える。 人目に曝されていた艶めかしい絶対領域がミニスカートからロングスカートに変化した事で隠され、胸元の可愛らしい赤いリボンが消滅して彼女の双丘の豊かさがより強調されたバトルドレスとなった。 またレイジングハートも変形して砲杖から金色の槍の形状をとっている。

 

汎用性と持続性を重視した《アグレッサーモード》から持続性と速力を度外視した攻守特化型の《エクシードモード》へ……数々の戦いを勝ち抜いて来た英雄、高町なのはの()()()での最強モードだ。

 

なのはとフェイトは猫目の少年、戦闘不能のシャマルを除くヴォルケンリッター達は銀髪褐色肌の男を包囲するように立ちはだかり、デバイスを構えてそれぞれ倒すべき敵と対峙する。

 

「まだまだこれからだよ! 悪い子にはたっぷりと“お話”してあげるから、そこに直りなさい!!」

 

「【世界間無断航行】に【器物損壊】、【質量兵器所持禁止法違反】に【公務執行妨害】、そして【大量殺人】の現行犯で貴方達の身柄を拘束します!」

 

「よくも好き放題やってくれたな、借りは何百倍にもして返してやるぜ!!」

 

「不届き者共、この剣の錆にしてくれる!」

 

「貴様達、五体満足でいられると思うな!」

 

「はやてちゃんを泣かせた貴方達は絶対に許さないのです! ボコボコのケチョンケチョンにしてやりますぅ!!」

 

「「「「「「覚悟して(ろ)(なのです)!!!」」」」」」

 

時空管理局最高峰の膨大な魔力を漲らせて襲撃者達に威勢よく言い放つ。 歴戦の魔導師・騎士が放つ圧倒的な威圧感と数々の難事件と戦いを乗り越えて来た自信と存在感を前に刃を向けて彼女達に立ち塞がる命知らずな有象無象共はただただ畏怖して慄くのみ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「くく、準備は済んだみてぇだな……そんじゃそろそろ本格的に──開戦と行くかっ!!!

 

ゴゥウウウッ!! なのは達から向けられた敵意と闘志を感じ取るや否や銀髪褐色肌の男が野獣のような獰猛な笑みで牙を見せるとサングラスの奥の紅い眼光が光り、天にも届く程の轟音と共に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「「っ!!!?」」」」」」

 

何だ、この馬鹿デカイ魔力は? かつての闇の書の管制人格すらも霞む圧倒的な魔力の噴出。 何か得体の知れない怪物の鬼気とも言うべきプレッシャー。 突如男が発した凶源に当てられた瞬間、なのは達の威勢の一切が駆逐された。

 

「なっ!? 冗談やろ、なんやねんこれは!!?」

 

死に掛けの家族の命を必死に繋ぎ止めていたはやてもまた男の規格外の魔力を感じ取って表情を青く染めていた。 ヤバイ、こいつはヤバイ。 彼女達の全神経全細胞が激しく警戒警報を鳴らしている。

 

「……キヒッ! いいじゃねぇか、威勢のいい女は俺好みだ」

 

「「「「──ッ!!」」」」

 

周囲の空間が異次元の歪みを生み出す量の赤黒い魔力を纏って男が一歩目の前のヴィータ達に向けて足を踏み出す。 四人の脳内で更に警戒警報が喚き散らし、一歩、また一歩と本能的に後退りをしてしまう。 ()()()()()()()()()()と。

 

「次元王軍ラグナガンド、第二二六強襲中隊突撃兵長《ファング・イスカンブルグ》中尉だ。 名乗りな女共、騎士だってんなら(いくさ)の作法を知らねぇわけじゃねぇだろ?」

 

サングラスの奥の紅く光る眼光で夜天の騎士達にゆっくりと迫るファングという男。 腹を括るしかない、そう意を決して後退るのを止めたヴィータ達を余所に、彼女達を更に絶望の淵へと落とす事象が顕れた。

 

「アハハハッ! ファングってば本気じゃん! ……よしっ、ならボクも──ハァァァアアアーーーーッ!!!

 

「「なっ!!?」」

 

ファングに対抗するかのように猫目の少年が天に響く咆哮を上げ、同時に少年の全身から紅い炎のような闘気が目に映る形で放出された。 魔力ではない()()()()()()()()……それは暴虐の限りを尽くす鬼のような威圧感を発していて、ファングの魔力と同等の脅威を感じる。 管理世界において一般的に浸透している魔力で無い分なのは達にとってはこっちの方が異質であるが故、得体の知れない忌避感を感じる。 気が付けばなのはとフェイトは全身を震わせていた。 ()()()()()()()()()()()()、そんな獰猛な虎を前にした草食動物のように。

 

「じゃあ、戦の作法に則ってボクも名乗ろうかな。 次元王軍ラグナガンド、第二二六強襲中隊狙撃兵長の《カッツェ・オルランド》中尉だよ♪」

 

勝てるのか? こんな化物共を相手に……もはや後には引けない、こっちにだって負けられない理由があるのだ。 なのはとフェイトは地獄に身を投じる覚悟を決めてデバイスを握るチカラを強めた。

 

「アハハハッ! それじゃあ部隊発足記念を祝う楽しいパーティーを始めよっかぁぁああっ!!!」

 

獲物を狩り殺せと猛り狂うカッツェが戦闘(パーティー)の始まりを告げる。 恐怖劇(グランギニョル)序章(プロローグ)が今、幕を上げるのであった……。

 

 

 

 

 

 




リミッターで出力が抑えられているとはいえ、なのはのディバインバスターがラグナガンドからしたら一兵卒レベル……やりすぎか?(笑)

オリ主とその仲間達の登場は次回に持ち越し(?)、早くなのは達と合流させたいのに文字数がぁぁーーー!(汗)

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