THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡 作:蒼空の魔導書
今回はオリジナルコンビネーション技に敵のデバイスの性能披露など盛り沢山! 最後は上記の通り、この物語の主人公が戦場に到着します!
では、どうぞっ!!
早々にシグナムとザフィーラが成す術もなくファングに倒され、劣勢の戦況を見守るはやては酷く心を傷め、涙を流す程の苦渋の表情を浮かべていた。
「シグナム……ザフィーラ……そんな……」
気を失い地に俯せるシャマルの大きく裂けた背中の裂傷を治癒魔法で癒しつつもこんなの嘘だと目の前の理不尽なる現実を否定するようにそう呻く。 自分の大切な家族、そして自慢の守護騎士……全員揃えば恐いものは無いと信じていた。 しかし次元の海は果て無く広大で非情にして無情、上には上など幾らでも居る。
「……何でや……何でアンタら機動六課を……私らを傷付けるんや!!?」
握る拳を震えさせて怒りと悲しみの矛先を海岸線にある高台の上で高みの見物に興じているヴォルカーン達に向け、憤慨の意を乗せて問い質す。 散々苦労をしてやっとの思いで起ち上げる事のできた夢の部隊、それが始動したその日にこんな酷い仕打ち、ふざけるな! そんなはやての怒り嘆きをヴォルカーンはまるで羽虫を払うかのように鼻で笑い、涙混じりの非難の目を向けるはやてに対して何を言い出すかと思えばと実に下らなそうに彼女を睥睨した。
「ふん、視た印象通りの愚鈍のようだな。 どうやら先程私が伝えた事柄が耳に入っていなかったと視える」
その言葉に続いて部下達がはやてを馬鹿にするような下卑な表情を浮かべてケラケラと笑い出す中、慇懃無礼にものを言い出すヴォルカーン。
「仕方がないから理解力に乏しい機動六課の部隊長殿にもう一度伝えてやろう。 総帥閣下の命だからだよ、“新たに管理局内に発足する主力が集う部隊を奇襲し潰せ”とな……どうやら我が軍の長は敵勢力の可能性の芽は摘んでおく算段で我らを此処へと送り込んだらしい」
小娘の怒りなど取るに足らないというのかどこか優し気な声音で彼は言葉を紡んでいく。
「他ならぬグロースシュタット閣下の命とはいえ度し難いものだな。 我らには成すべき事が他にある故、このような処で戦力を遊ばせている余裕があるのならばそちらを優先し戦力を回した方が客観的に見据えて合理的だろう。 貴様らのような劣等な女子供の集まりなど捨て置いても所詮、足の爪先に躓くような小石にすらならないだろうからな」
「っ! アンタ……ッ!!」
「だが、私個人としては貴様等を潰すのは吝かではないな。
「ふざけるんやないっ!!」
まるで自分達の事を汚らしい虫ケラ同然に見下すヴォルカーンの物言いにはやては激怒した。
「私らは! 機動六課は理不尽に虐げられ、不幸に苦しみ傷ついている多くの人達を一秒でも早く救いに行く為の部隊や! 次元世界の秩序と平和を護る、それの何が──」
「くだらん、
「──なあっ!?」
だがヴォルカーンははやての主張を一蹴し、頭に巻き着けた包帯の隙間から朱い眼光を光らせて睨み、彼女を威圧し黙らせる。 更には刃のように鋭い口調をもって相手を刺し殺すように言う。
「要は
「な、なにを勝手な事を言うんや! 私らは──」
「極めつけには生まれ持ち有していた中途半端なチカラに思い上がり、自分達ならば全てを救う事ができるだろうと付け上がっているときたものだから始末に負えん。 自分達は次元世界の平和を護る時空管理局のエースになる程のチカラを持つ魔導師だ。 だからどのような者が相手であろうとも打ち倒し、次元世界中の人々を全て救い幸せにできる筈だとな」
「──っ!!」
「自分達が揃ったのならば成せぬ事など何も無い、何故ならばそのチカラを自分達は有しているのだからと妄信して疑わない。
「くっ!」
吐き捨てられる数々の嘲笑・侮蔑に気圧され、はやては声を詰まらせて唇を噛み締めた。 気に入らないものを排斥したいだなどとは微塵も思ってはいないが、なのはとフェイト、そして自分達八神家がチカラを合わせればどのような局面や困難にぶつかろうとも必ず越えて行けるという自信がある……いや、
「足りねぇんだよガキ共! もっとチカラ絞り出して来やがれ!! オラァアアッ!!!」
「ガハァッ!?」
「アハハハッ、金髪のお姉ちゃん遅~い! そんなんじゃ運動会の駆けっこでビリ決定だねぇぇええええっ!!」
「う、うそっ!? アガァ”ァ”ッ!!!」
「フェイトちゃん!? ヴィータちゃんっ!!」
「「ぐふっ!!」」
桁外れの拳圧をもって暴風を巻き起こすファングの強烈な右ブローが展開されたベルカ式防御魔法《パンツァーシルト》を一撃で突き破ってヴィータの腹部に突き刺さり、小さな身体が“くの字”に曲がって撃ち出された砲弾のように吹っ飛ばされ。 同時にソニックムーブでカッツェの背後を取ろうとするも、それ以上の超音速機動で逆に背後を取られたフェイトの左上腕にカッツェの鞭のように撓る右脚が叩き込まれて骨が砕かれ、そのまま蹴り飛ばされてしまう。 二人の安否を気遣ったなのはの悲痛な叫び声が空に響き、吹っ飛ばされたフェイトとヴィータの背中同士が正面衝突。 互いに揉み合う恰好で荒野の上へと墜落する……何なんだ
「なのはちゃん……フェイトちゃん……ヴィータ……ッ!」
「ふん、所詮は頭数の多さと魔法技術の独占で次元世界を牛耳ってきた
ファングとカッツェに手も足も出ずに圧倒され、ワンサイドゲーム展開で無様に傷付けられて窮地に追い込まれていく六課隊長陣を呆然と眺めてはやてが沈痛に苛まれる一方、ヴォルカーンはその惨めな姿に鼻を鳴らした。 更には彼の部下達もゲラゲラと笑いだす。
「グラナート隊長ぉ~、幾ら本当の事でもそんな言い方は少し可哀想じゃないですか~? もっとこう……“蟻を踏み潰して遊ぶ子供の様だ”とかオブラートに包んだ言い方を~」
「おいおい、それ寧ろ余計に酷くなってないか? それなら“無抵抗の蛙のケツに無理矢理ストローブッ刺してフーフーしている感じだ”の方が良いぜ♪」
「ギャハハハッ! デリカシーねぇなお前ぇ! 女に対してケツに無理矢理ストローブッ刺してフーフーとかさぁ!」
「ゲヘヘ、そういえばあの管理局のエースの女共、視た感じどいつもこいつも上玉ばかりでエロそうな身体しているよなぁ。 あぁ、あの栗毛ツインテールのカワイイ顔したおネエちゃんのケツにオレッチのストローをブッ刺してヒーヒー言わせてぇなぁおい!」
「そんなら俺はあのパツキンなツインテールの女を後ろから抱き寄せてパイパイ揉みしだくかなぁ♪ この距離からガン視しても結構なデカさだぜ、あのパイパイ♥」
「ならオレはさっきイスカンブルグ中尉が一撃でブッ倒した巨乳女騎士がいい。 素っ裸にして壁に張り付けて“くっ、殺せ!”と言わせるプレイをするからよぉ」
「ってか、なんかいつの間にか話題がズレてね? 何で隊長のキツイ言い方をどうオブラートに修正するべきかを討論してたのに、どの女をどうヤりたいのかの議論に変わってんだよ?」
「いいんじゃね別に? どう言おうとフルボッコにしているのは変わらないんだし」
「それもそうだな……あ、なら俺はあのゴスロリおチビちゃんもらいっ♪」
「おまっ!? それさすがに犯罪だろ! ロリコンかよお前っ!?」
「「「「「「「ギャハハハハハッ!」」」」」」」
「くっ、アンタら……ッッ!!」
悔しいが今のはやてには奥歯を軋らせる程強く噛み締めて高見で下品な笑い声を上げる第二二六強襲中隊の兵達を忌々しく睨みつける事しかできない。 大いに蔑まれた挙句、部下にして大切な親友家族達で卑猥な事をする妄想をこちらにわざと聴こえるように言い合って侮辱されたこの屈辱は彼女にとって非常に耐え難い事だろう。
そんな彼女を見限り、ヴォルカーンが呆れた表情を作って爆笑し続ける自分の部下達を諫める。
「お前達、くだらん戯言はその辺にしておけ。 取るに足らん敵とはいえ、この場が戦場である事には変わらんのだからな」
そう不機嫌に言って笑いを黙らせ、巻かれた包帯の隙間から覗く眼を細めて東の空を眺める……正しくは
「気を引き締めろよこの莫迦者共が。 何度も教えた事だが、戦場で油断をしていると思わぬ竹箆返しを受ける事がある」
ヴォルカーン・フォン・グラナートの人間離れした空間認識能力は異常に研ぎ澄まされ過ぎていてもはや千里眼の領域だ。 遠見を可とする距離だけでも凡そ10kmを超えている。
「あの調子ならじきにイスカンブルグとオルランドが機動六課の小娘共を屠るだろうが、お前達は東を警戒しておけ」
その眼で捕捉した来訪者は六人……いずれも不殺を信条とする管理局の魔導師とは思えない容赦の一切が見当たらない鬼気を纏い、凄まじい速度で近づいて来ている。 このままだともう三分もしないうちにこの戦場に辿り着く事だろう。
「どうやら
面倒事を匂わせるような内容とは裏腹にその口端は吊り上がっており、若干の愉悦が浮かんでいた。
「面白い、ならば客を盛大に出迎えてやろうではないか。
脅威に値する敵との闘争こそ戦場の醍醐味だ。 故に部下達に提案するようにそう言うと景気付けに好物のビーフジャーキーを軍服の胸ポケットから取り出して再び口に銜えた。
「うぅ……もう、ダメですぅ……きゅ~」
「リインッ!? ……クソッタレ、ユニゾンが!!」
戦場に視線を戻すと大ダメージを受けた事で遂にヴィータの中に居るリインに耐久値の限界が訪れてユニゾンが解除されてしまっていた。 目を回して気を失った小さな祝福の風の子を被っている兎っぽい帽子の中に入れて彼女の安全を確保すると鉄槌の騎士は背中合わせで荒野の上に座り込んでいたフェイトと共によろめきながらも立ち上がり、そのまま凝り固まった肩を回してニヤけながらこっちを見遣ってきている半裸の白髪ヤローを憎たらしく睨みながら、何時如何なる時でも自慢の鉄槌を振り下ろせるようにグラーフアイゼンを肩に担ぐ。
その鉄槌は激戦の影響で既に半壊同然な程亀裂が無数に入っていて見るも無惨な姿を曝していたが、それでもこの鉄槌が砕け散らぬ限り、《鉄槌の騎士》八神ヴィータは諦めない。
「フェイトッ! チカラを貸してくれ。
「えっ? ちょっとヴィータ!?
「その
「で、でもあのコンビネーションはまだ一度だって成功させていないし、無茶だよ! 第一アイゼンがそんな状態じゃ──ッ!!?」
フェイトはヴィータの要求を無茶無謀だと反論するが、背中合わせで立つヴィータの蒼い瞳を横目で見て戦慄する。 その蒼い瞳の奥には凄まじい怒気が籠っていたからだ。
「アイゼンなら大丈夫だ! この程度でブッ壊れる程アタシの相棒はヤワじゃねーし、成功した事が無いんなら
「ヴィータ……」
「……頼むフェイト。 リインとのユニゾンが通じねぇんじゃ、もうあのヤローを倒せる可能性があるのはあのコンビネーションだけなんだ。 アタシは絶対にあのヤローを倒したい! シグナムとザフィーラを傷付け、アタシ達ヴォルケンリッターの誇りを貶し、何よりも壊したい放題に壊してはやてを悲しませたこのクソヤロー共は絶対に許しちゃおけねぇっ!!」
アイゼンを持っていない方の手を右から左に叩き付ける威勢で前を払い、背中の優しき金色にその怒りを主張するかのように懇願するヴィータ。 その激しい怒りと悲しみを受け取ったフェイトは──
「……うん、そうだね。 四年間はやてが散々色々と駆け回ってようやく始まった機動六課を滅茶苦茶にした挙句、グリフィスをはじめとする多くの仲間達を殺したこんな外道共なんかに私達が負けるわけにはいかないよね……わかった」
そう静かに承諾の言葉を口にすると幼い背の肩に担がれている事で丁度自分の腕の横の位置に有るグラーフアイゼンの亀裂が無数に入ったハンマーヘッドの中に【電気】を蓄電していく。
「へへっ、ありがとうよ……そんじゃ行くぜっ!!」
「うんっ!」
「「
そしてフェイトの電気が十全に溜まりハンマーヘッドが金色の輝きを放ちだした瞬間──鉄槌の騎士はロケットの如く飛び出した!
「アイゼンッ! 《リミットブレイク》だッ!!」
『
金色に輝くハンマーヘッドが持主の幼い身体よりも二倍以上の質量に巨大化し、先端がドリル、その逆側がロケットの噴射口に変化した。 使用者の命すらも削り、限界を超えてチカラを発揮するヴィータとグラーフアイゼンの《リミットブレイク》である。 その噴射口から齎される爆進に乗り、幼い身体を軸に大回転する事で強大な遠心力を蓄えつつ大気を爆散させる勢いをもって、叩き潰すべき敵へと向かって直進飛行して行く。
「キヒッ! 面白れぇ、来いやガキィィ──ッ!!!」
「うぉぉおおおーーっ!!」
牙を剥く凶悪な笑みを前面に曝して豪胆に煽動するファング。 ヴィータの全身全霊の鉄槌を堂々と正面から打ち砕くつもりなのだろう。
──テメェ上等だ。 アタシと
大切な家族を傷付けた敵を叩き潰す為、鉄槌の騎士はこの一撃に全てを懸ける!
「ブチ破れぇぇーーーっ! 剛速雷槌、ドンナァァアアアア──」
焼け野原を天を揺るがすような轟音で震わせ、
「ヤァッ、ハアァァーーーーーッ!!」
しかし対するは規格外の魔力量が籠められた赤黒いメリケンサック型デバイスが嵌められた右拳、それはもう常人どころかエース・オブ・エースの動体視力をもってしても捉える事などできぬ
その幼い身体寄りの空間にて金色の鉄槌と赤黒い鋼拳が交差した……その刹那──
──ここだっ!!
「──シュラァァァァァァァァクッ!!!!」
腹の底から吐き出された鉄槌の騎士の哮りと同時にグラーフアイゼンに帯電されたフェイトの雷光が弾け、爆発するかのように噴射口から吐き出されていく。 それによって生み出された爆発的な推進力は異次元の速度と相応の破壊力を鉄槌に与え、刹那の一瞬の爆進が幼い顔面を殴り付ける寸前の鋼拳を超越し、埒外の貫通力を得た金色のドリルがファングの側頭部に叩き込まれた。
「──グウゥッ!!」
しかし今回の敵はどこまでも規格外であった。 ハンマーヘッドの内に帯電させた膨大な電力を振るって叩き付ける直前で暴発させ、その熱量を噴射口から外に吐き出した時に発生する反動を利用し雷速の領域までスイングスピードを加速させてその一撃の破壊力を莫大に上昇させるヴィータとフェイトの連携技《ドンナーシュラーク》は音すらも突き抜けるが、その並外れた貫通力を持つ先端のドリルは人間の限界反射速度を超えて振り翳された左腕によって受け止められ、しかも鋭利な突起は褐色皮膚を破る事無くその上に突き立ったまま回転摩擦によって火花を飛び散らせている。 防がれた。
「っ!? クソォォーーーッ! テメェどんだけ人間止めてやがるんだよっ!!」
「ハッハァーッ! この低度の事でキョドり回ってんじゃねぇよガキィィ! オラッ、もっと気合いを入れろォォオオオーーーッ!!」
ファングの左腕に押し付けているグラーフアイゼンにどれだけチカラを籠めて押し込もうとしても飛び散る火花の量が増えるだけでビクともしない。 眼前まで振るわれていたファングの鋼拳はドンナーシュラークが炸裂した瞬間にその衝撃で足下が大きく陥没し、ファングが足を捕られてバランスを崩してくれたおかげで僥倖にも繰り出した本人の方から止めてくれたのだが、大気を激震させ大地を大きく抉る程の一撃を生身で受け止めたというのにまるで堪えていないとは如何なる事か!? 噴射口から吐き出された雷撃が複数の稲妻となって周囲一帯を穿ち、凄まじい剛撃の圧迫が地割れを引き起こし四方に走らせていくなどの天変地異、それらを一撃の衝撃によって引き起こす破壊力をこの男は何故受け止める事ができるのだ? ここまできたらもう“魔力量がどうこう”の話じゃ説明できない。
その不可解にして絶望的な現実を目の当たりにしたヴィータは子供が癇癪を上げるかのように叫び散らしながらも持てる最後のチカラを振り絞る……だがそんな彼女に更なる絶望が追い打ちを掛けた。
劣勢の戦いを続けて全体に無数の亀裂が入り、元々崩壊寸前の状態だったグラーフアイゼン。
「ア……アイゼンーーーーーーッ!!?」
氷海が徐々に割れていくような鈍い音を鳴らして鉄槌全体に走っていた亀裂が大きく広がり、“鉄槌の伯爵”の名を冠する
「沈めオラァァーーーーーッ!!!」
そして今度こそファングの拳は幼き鉄槌の騎士の顔面に突き刺さり、その小柄で先の先まで地を抉る程に猛烈な威力で殴り飛ばされた。
衝撃で頭に被っていた兎の帽子が外れ、中で気を失っていたリインが外に弾き出されて焼け野原に虚しくもその小さな身体を転がした……そしてヴィータは自身の全身を使って出来上がった道の終着地点で横倒しに倒れ、眼から悔し涙を零しながら意識を暗転させたのだった……この瞬間をもって、この戦いの大勢は決した。
「ヴィ、ヴィータ……ちゃん──ッ!!?」
「アハハハッ! ダメだよお姉ちゃん? 味方が倒れてボーッとしてちゃあ、その間にもっと多くの味方が死んじゃうよぉ──
「っ!? しまっ、フェイトちゃん逃げてっ!!!」
「……えっ──」
ヴィータまで敵に倒され、その悲惨な光景を遠目で目の当たりにしたなのはがカッツェを前に一瞬の放心を曝してしまう。 その意識の隙を突いてカッツェがなのはのマークから一瞬で外れ、音を置き去りにする朱き閃光となって音破衝を撒き散らしながら、同じく放心状態のフェイトに一秒も掛からずに接近。 我に返ったなのはの必死の呼びかけも虚しくカッツェが振るうチェーンソーライフルの凶刃をもってフェイトは無抵抗に背中を袈裟斬りに切り裂かれた。
「フェイトちゃぁぁああぁぁああぁあああんっっっ!!!!」
「アハッ♪」
「──ゴフッ!!!」
刹那の静寂の後、噴水のように血飛沫を切り裂かれた背中の裂傷から噴出させ、同時に口から血を吐き出しつつ金色の死神は自分の名を泣き叫ぶ親友の甲高い声が戦場に哀しく響き渡る中で地に伏せ、焼け野原の一部をその血の赤に染めた……そして──
「そん……な……」
「ヒャッハァァアアーーッ!」
「なっ──う”あ”あ”ぁっ!!?」
約40m程離れていた場所よりその刹那の一瞬で接近して来たファングが悲痛に暮れるなのはの首に両手で掴み掛かって彼女を宙に吊るし上げ、一般の成人男性など足下にも及ばないような凄まじい握力をもって呼吸器官を圧迫……遵ってなのはは一瞬の内に呼吸困難に陥った事で喘ぎ声を上げ、強制的な浮遊感と息が詰まる感覚に恐慌し足をジタバタとさせて藻掻き苦しみながら拘束されてしまう……ヴィータが戦闘不能に陥ってからここまでに経過した時間はなんと
「あ”、が……あ”……ぐ……」
首を絞め付けられ、頸骨が軋む音が焼け野原に痛々しく鳴り響く。 酸素の供給を断たれ、耐え難い圧迫感と段々と意識が朦朧としていく酩酊感で抗う気力が抜けていく……なのはは苦しみに喘ぎながらも生気が消えかけた瞳で自分の首を両手で絞め上げてきているファングの顔を見下ろし、その獲物に齧り付く猛獣のような形相を視界に入れて歯を食い縛った。
「へへへ、どうしたこんなもんか! 管理局のエースなんだろテメェら? 殴られてパイオツ揺らしたり転がってパンチラ見せたりのドMセッ◯スアピールばかりしてねぇで、もっと戦いの方で楽しませろよなぁ。 こちとら戦争しに来てんだ、根性見せて抗わねぇとサクッと殺しちまうぞ?」
──この人……本気の握力で絞めていない……
この化物染みた男が本気を出せば女の細首など一瞬で握り潰せるだろう。 なのにこうして相手の限界を計るかのようになのはの首の骨を折るか折れないかのチカラ加減で彼女を苦しめて嬲るのは完全に彼女を舐めきっているからに他ならず、
よって今すぐにとどめを刺してくるわけでは無いと判断したのか、それとも自分の身よりも周囲一帯に転がっている仲間達が心配だったのか、普通の人間ならば首を絞め上げられている事による恐慌状態に陥って何もできない筈の状況でなのはは視線だけを動かして周囲を見回してみた。
「「「「──」」」」
「嘘……やろ? ……ヴィータ達が、フェイトちゃんとなのはちゃんが……みんな……やられてもうた……そんな……」
「気を遣わなくても有り得ない……でしょう……」
「「「──」」」
「う”、あ”ぁ……なの……は……」
「アハハハッ、人の心配をしている場合かなぁ? お姉ちゃん優しいねぇ、自分の方がよっぽど死にかけているのにさ♪」
チカラ無く焼け野原に横たわる歴戦のヴォルケンリッター達、絶望的な戦況を目の当たりにして地面に崩れ落ち悲鳴すらも出ないくらいに弱々しく戦慄している様の六課の部隊長、他の同僚達が失神している中で単身押し潰されるような戦場の殺気にギリギリ耐えながらも地に伏せて意識を保っているのが限界な翠髪の新人、重傷の血塗れで倒れ自分の命が危険な状態にも関わらず敵に拘束された自分を心配してくれている一番の親友、その背後に激しく駆動する凶刃を携えてゆっくりとした歩みで迫る敵の猫目の少年。
──シグナムさん、ヴィータちゃん、シャマルさん、ザフィーラさん、フェイトちゃん、みんな……。
「ぐ……っ!!」
冗談じゃない、お前達みたいな最低な連中に屈して堪るか! なのははそんな感情を籠めた視線でファングの眼を射貫くと、奴の表情から獰猛な喜悦が失せていく。
「……気に食わねえなぁ。 テメェ、絶望が足りねぇ。
言葉とは裏腹に彼は喰って掛かるようななのはの眼を興味深そうにまじまじと見つめている。
「非殺傷設定なんて温いモンを使っている管理局員だから自分が魔法戦で死ぬって実感を持てねぇのか? ……いいや、違うな。
ファングは
「──覚えがあるぜ女。
ぶつぶつと独り言を言うかのように言うファング、しかしその視線は無数の氷針のように鋭い。
「う──ぁ……」
それを受けてなのはは唐突に全身を硬直させた。 体温を根こそぎ奪われていく感覚に指一本動かせない、まるで残った僅かな生気を奪い尽くされていくかのように……気が付くと彼女の負傷個所からの流血が蒸発をはじめていた。
「テメェ……まさか──っ!!」
そして
『戦争なんて無くても人は繋がれるよ』
過去に灼熱の炎の中へと消えて行った、慈愛の心を胸に宿す“薔薇の少女”の言葉を思い浮かべて。
「くはっ、くく、くは、かははは──」
それの何が面白いのか、ファングは笑い出す。 今すぐに爆笑したいのに周りの目を気にして抑え、堪えるかのように全身を震わすと、もう我慢の限界だと言わんばかりに爆発する哄笑。
「あは、あははは、あはははははははははーーーっ!! あは、かはっ、くはは、ははははははーーーっ!!!」
理性のタガが外れ、天に轟く狂気に満ちた歓喜の叫びが周囲に存在する生命の聴覚を不快に刺激する。
「面白ぇなァッ!!!」
「ッッッ!!」
カッ!と見開かれた双眸からは殺意の赤光が迸った。 それは物理的な衝撃波すらも発生させ、突風のような威力が不屈のエースの全身を打ちのめした。 辛うじて彼女が意識を保つ事ができたのは歯を食い縛っていたからだろう、もし精神的に無防備な状態で今の殺気を受けていたら即死していたに違いない。
「面白ぇ、面白れぇ面白ぇ面白すぎるぞこの虫ケラ劣等女ッ!
「っ?」
喜びのような、苛立ちのような、そんな気狂った罵倒を至近距離で受けてなのは思わず表情を引き攣らせた。
「いいなぁ、いいぜお前ぇ。 そそるぜ犯してぇ殺してぇ堪んねぇっ! 引ん剥いて犯して引き裂いて引き毟って、吊るして晒して噛み千切ってやらァッ!!」
いったい何に……
「屈辱だぜ、冗談じゃねぇ許せねぇ。 裕福でいられた人生を自分から捨てておいて不幸ぶりやがって、そんで人に殺し合いはダメだとか繋がれるだとか舐めた事をほざいてんじゃねぇっ!! だったら
「な──きゃああぁぁっ!?」
その激昂のままにファングはなのはの身体を無造作に空へと放り投げた。 突然の解放感に驚き、全身が強引に引っ張り上げられて行く激痛に悲鳴を上げる上空のなのはを底なしの殺意を乗せて見据え、ファングは獰猛な牙を剥いて狂い笑む。 もう容赦は一切無い。
「あ~あ、ボク知~らないっと。 ファングが“マジ”になっちゃったよ。 これヘタをしたらミッド丸ごと消えちゃうんじゃないかなぁ……」
「少なくともこの湾岸地区は跡形も残さず消滅するな。 まあいい、“ミッドチルダを滅ぼすな”とは命じられてはいないからな……それに、
瀕死のフェイトにとどめを刺すつもりだったカッツェが衝撃波を伴ったファングの殺気を感じてチェーンソーアサルトライフルを肩から下ろし上空に投げ飛ばされたなのはを見上げて呆れるように肩を竦めており、その隣には何時の間にか海岸線の高台に居た筈のヴォルカーンが両腕を組んで微笑を浮かべて立っていた。
「《ジャバウォック》ゥゥアアアーーーッ! 《
『
それは経った今、ファングが自身の持つメリケンサック型のデバイス《ジャバウォック》に搭載されている未知の機能を使用して顕現させた四つの“
「な……なんやねん、
「
その“孔”から覗く景色は闇に輝く銀河の星々……
「ま……ずい……意識……が……」
無論、無数に浮かぶ雲の間に放物線を描きだしていたなのはも出現したその絶大な魔力の気配を察知していたのだが、彼女の意識は既に飛行魔法を展開する事が困難な程に朦朧としていて、それを保つのが精一杯な状態であるが故に身動きが取れずにいたのであった。
劣勢続きの戦闘の疲労とカッツェの猛攻を受けて蓄積したダメージに数分の間首を絞め上げられて呼吸困難に陥っていた事による一時的な意識障害、極めつけは今でも地上のファングから浴びせられ続けている朱い熱波のような殺意だ。 まるでホースから流れ出る赤い血を継続的に浴びせ続けられているかのような悍ましい狂気と万力のプレス機で押し潰されるような圧力を内包する怒気……正直言って強靭な精神を持つなのはじゃなかったら既にショック死している事だろう。 これだけの害を被って彼女は本当によくここまで耐えたものだと感心に値するが……その奮闘もここまでのようだ。
「ヒャーッハァァアア! キタキタキタァァァア”ア”ア”ーーーッ!!!」
狂喜し、昂り続ける感情のままに片腕を回転が緩まった“孔”のうちの一つの中に突き入れる。 そこから星々の一つを掴み、乱暴に引き抜いたファングはその絶大な魔力を取り込んで全身に循環させ、とても人が出せるようなものじゃない狂気の叫びを上げて先程の鉤十字が描かれた魔法陣を足下に展開した。
「ありえ……ない……こんなの……人間が扱える……チカラじゃ……な……い……──」
それを見て瞳孔が開くくらいに唖然と呟いたフェイトが遂に意識を失ってしまう。 焼け野原の上に広がっていくその魔法陣の大きさは先程ザフィーラを一撃で戦闘不能に追い遣った《ヴァロン・シュトライク》を放った時のモノとは比較にならないくらいに巨大であり、魔力量はなのはが自身の最強の集束魔法を行使する時に集める最大魔力量を遥かに上回っていた。
管理局規定基準でその推定魔力ランクを測定するならば……
「ヤァァァッ、ハァァアァァアアァアアアアアーーーーーッ!!!」
雄叫びを上げながら右腕を水平に薙ぎ、撃ち出すようにその右腕に収束した絶大な魔力を一気に放出するファング。 腕に纏った赤黒い魔力刃が留まるという事を知らないかのように無限に伸長し、その太さをも膨張させていく。 禍々しい暗黒の大剣は雲を貫いて柱となり海を割って水平線の先まで伸びる塔となった。
──この魔法は隊舎を一瞬で破壊した……じゃあアイツが……アイツが六課のみんなを……ッッ!!!
「行けよヴァルハラァァァァアアアアアアーーーーーーーッ!!!」
その圧倒的質量を激昂のままに振るう。 大気と無数に浮かぶ雲を闇に飲み込み、割れていた海水が大空を薙いで動く暗黒の塔の周囲に渦巻いていく。 「もしかして私は今、悪夢を見せられているのだろうか?」とそんな気にさせるこの圧倒的な災厄を前に夜天の主の憤怒は一瞬にして駆逐され、その感情は言葉にできない恐怖と光が見えない絶望にすり替えられた。
「こんなところで終わってまう言うんか? ……私達の六課が、夢の部隊が、長い時間掛けてようやく始まったって言うんに……こないな仕打ち、あんまりやろ……」
大空の蒼穹を暗黒で侵食して空から墜ちる不屈の少女に振るわれる魔力の塔をどうする事もできずに絶望に泣き崩れ、はやては焼け野原の上に両手を着き、這い蹲ってしまった……圧倒的質量の魔力刃がなのはに迫っていく……もはやこれまでか……。
「そん……なの……嫌……わたしは……まだ……あの時の……男の子に──」
お礼を言っていないと言うのに……飛行魔法を使えずに墜ちて行く感覚、段々と失いゆく意識と戦意、左に視線を向ければ底知れぬ絶望の闇がもう目の前……そんな絶体絶命の危機の中、なのはは八年前に自分の命を救ってくれた美少女のように綺麗な顔をしていた少年の事を想っていた。 生まれ故郷の世界の陽だまりに残してきた家族や友達でも今焼け野原の上で蹲っている親友でも瀕死の重傷を負って倒れた彼女の一番の親友でもなく……。
「──……助……けて……もう……一度……会いたい……よ……っ!!!」
「──世界が氷り漬いてしまえばいい」
瞳の碧から一滴が流れ落ち、その少年との再会を強く切望した刹那──彼女は
「……ふぇっ!?」
冷たくて硬い、けれども暖かくて心地が良い。 そんな矛盾した感覚に身体を包み込まれたなのはは失いかけていた意識を瞬時に覚醒させて思わず気が抜けるような呆けた声を出してしまった。
同時に結晶同士が重なり合うような幻想的な騒音が鳴り響き(擬音にするならば『ガッチィィンッ!!』と表現する)、覚醒させた意識と視線を左に向けると
「ふ……ふぇぇええぇぇえええええっ!!?」
素っ頓狂な情けない声を上げて思わず自分を包んでいる硬い何かに強くしがみ付いてしまう。 それはそうだろう、ファングが振るった魔力刃はEXランクの魔力が籠められていたのだ。 そんな嘗て世界を滅ぼし続けると共に転生を繰り返していた呪われた魔導書すらも凌駕する災厄がアッサリと氷り漬いてしまったのだから信じられなく思うのも仕方がない……いったい何故と思うと、彼女の耳元に凛々とした声が囁かれる。
「ここまでよく頑張った。 ごめん、
「──ぁ……」
その声を耳に入れた瞬間、なのはの眼から流れ出る涙は悲しみから来るものではなくなった。
恐る恐るその顔を見上げてみる。 それは昔よりも若干大人びたとはいえ、相変わらず凛々しい美少女のように整った顔立ちで、周りの人間を男女性別関係なく惹きつけるような毅然とした雰囲気を纏っている。 腰の下まで伸びる艶やかな長髪は雪のように白く女性である自分ですらも羨む程で、自分を優し気に見下ろしているその瞳の色は氷のように透き通るアイスブルー……見た瞬間に解った。 見間違える筈もない、紛れも無く今自分を抱きかかえてくれているのは再会を強く望んだ、あの時の少年。
「やっと……やっと……会えた」
八年前と同様にその華奢にして逞しい両腕で横抱きにされながら、なのはは流す涙の質を嬉しさに変える。 彼女が切望して已まなかった黎明との再会は、遂に叶えられたのであった……。
やったぜ! 遂に……ようやく主人公とロストウィングの戦闘が書けるっ!!
いやー、意外にここまで長かったッス! てかなのはさんマジでスーパーヒロイン! ここまでちゃんとしたヒロインを描写したのは自分、初めてですよ!(まあ、今までに自分が書いてきたヒロイン達がサバサバし過ぎていたからっていうのもあるけれど……)
ヴィータとフェイトのオリジナルコンビネーションの《ドンナーシュラーク》はどうでしたか? ……ん? 【ドンナー】と【シュラーク】って、別に今春予定されていた【ありふれた職業で世界最強】のアニメ放送が来年に延期された悲しみのままにむしゃくしゃしてその主人公が使用する銃の名前を付けたんじゃないですよ。 本当だぞ……。(汗)
獣の爪牙の人はもう既にお気づきでしょうけど、ファング・イスカンブルグのモデルはDies iraeのヴィルヘルムだったりします、褐色肌なところが相違点ですね。
んでカッツェ・オルランドが英雄伝説 碧の軌跡のシャーリィ・オルランドを性転換させた感じ。 そして彼等の隊の隊長であるヴォルカーン・フォン・グラナートは……素顔を隠している包帯を取る時まで秘密です。(ズコーッ!)
では次回、主人公達ロストウィング【シルバーガスト小隊】とファング達次元王軍ラグナガンド【第二二六強襲中隊】がカチ合うぜぇぇええっ! お楽しみにっ!!