THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡 作:蒼空の魔導書
なのははいったい何処に? それは──
第二二六強襲中隊の空襲兵達の猛攻を掻い潜り、氷眼の少年が機動六課の隊舎跡地に参上し仲間達と合流した事によってはやて達は絶体絶命の危機を脱した。
“これより敵を無力化する”という彼の号令が発せられた事で反撃に転ずる空気だったが、その腕に抱きかかえられていた筈のなのはは何時の間にかに何処へと居なくなっていたのだった。
「うにゃぁあああーーーっ!! 何で、どうしてこうなったのぉぉおおおーーーーーーっ!?」
その我らがエース・オブ・エース高町なのはは現在、
では何故彼女は今こんな場所に居て謎の絶叫を上げているのか? ……それは数秒前、彼女と彼女を抱きかかえながら敵布陣の突破を試みていた氷眼の少年に向けて敵空襲兵隊による容赦の無い一斉射砲爆撃弾幕群が二人の視界を埋め尽くそうとした場面での事──
『……悪い、少し手荒かもしれないが、じっとしていてくれ、狙いが狂う』
『へ? ……それって──』
『ふっ!』
『──ちょ? にゃぁぁああああああーーーーーっ!!?』
弾幕群に襲い掛かられる直前で氷眼の少年は抱きかかえていた
つまりは弾幕群を突破する際に被弾による外傷の可能性を考慮し、彼女は一万メートル上空という安全圏へと強制避難させられたという事なのだが──
「もう少し違うやり方は無かったのかな!? わたしの身の安全を考えてくれた事は嬉しいけれどぉぉおおおーーーーーっ!!」
先程の戦闘で飛行魔法を展開できなくなる程のダメージを負ってしまっている彼女は当然の如くミッドチルダの重力に逆らえずに逆風の影響を受けて身に纏うバリアジャケットのロングスカートと自身のツインテールを上向きに激しく揺らめかせ、理不尽な嘆きの涙を眼から飛び散らせて盛大に不満を無限の大空へとぶちまけるという歴戦の魔導師として凄く情けない醜態を曝し出している……要するに彼女はスカイダイビングの真っ最中なのだ。
「イヤァァアアアアーーーッ、スカートが捲れてパンツ見えちゃう──って言うか落ちて死んじゃうよぉおぉおおおぉぉおおおーーーーーーっ!!!」
しかもパラシュートなんて代物は当然用意してなどいない……弾幕群の爆撃領域から逃がされたのは良いが、このままではどの道彼女は地上に叩き付けられてぐしゃりと御陀仏だ。 幾らなのはのバリアジャケットが頑丈だからといって高度一万メートルから地上に叩き付けられれば無事じゃ済まないだろう。
「あーーーれぇぇーーーーーっ!!」
そして間の抜けた事を言っている間にとうとう下層雲を突き抜け、地上まで後1000m……500m……100m……50m……10m……──
もうダメだと眼を瞑ったその刹那、ドサリッ! という受け止められるような衝撃と共に彼女は再び持ち上げられるような浮遊感を感じると共に冷たくも優しい温もりに包まれていた。
「ふえっ?」
訳がわからずなのはは呆けた声を漏らしてしまう。 地上に叩き付けられたと思いきや痛みは皆無でその衝撃も軽かった。 何故なら彼女の身は今先程自分を遥か上空へと放り投げた氷眼の少年の腕に再び抱きかかえられていて、この現状の理解が追い付かずに困惑したからだ。
「突然乱暴に扱ってすまなかったな、お前を抱えたままあの弾幕を突破しに行くのは危険だと思ったんだ、許してくれ。 怪我は無いか?」
「ぁ……うん、大丈夫……です……」
それを聞いた氷眼の少年は安堵の色を見せて割れ物を扱うようになのはを優しく地に降ろした。 気が付けば敵味方関係無しに周囲の視線を集めていた(全体的には急になのはが上空から落下して来た事による唖然だが、フェイトがなのはの無事に感激の涙を流していたり、白百合の少女──もとい先程《
「あ……あの──むぐ!?」
開きかけた口はそっと突き付けられた雪のように白い人差し指よって噤ませてしまう。 彼女が硬直して取り巻く空気の熱が下がったのを確認すると彼女の口許から指を離し、氷眼の少年は未だに狼狽が治まりきらないでいるはやて達の奥側に集合したヴォルカーン達三人に氷の刃を突きつけるような戦意の目線を向けると彼等と向かい合うように──傷ついた戦乙女達の前で盾になるように横一列に並んでいるシルバーガスト小隊の仲間達へと歩みを向けた。
「自分の仲間と共におとなしくしていてくれ。 安心しろ、すぐに終わらせる」
「ぁ……」
戦場へと赴く少年の背中を引き留めようと伸ばしかけたその手は空虚に触れただけで持ち主の豊かな胸元へとチカラ無く引き下げられた。 共に戦いたくとも今の自分の体力と
──お願い、無事に戻って来て……。
列の中央から氷のような鬼気を纏った精悍さで敵三名へと向けてゆっくりと歩み出て行く小隊長の右隣に立っている紅髪──《
「機動六課を襲撃した主犯格が三人。 標的だぜ、
無邪気な殺意を満面の笑みと共に向けてくる狂獣カッツェ・オルランド、極上の獲物を前にした凶暴な肉食獣のように全身を疼かせて今にも喰い掛かりそうな牙を覗かせているファング・イスカンブルグ、そしてSSS級のロストロギアすらをも燃やし尽くしてしまう程の圧倒的熱量を内包する劫炎を巻き上げて冷徹な
「──斬る!」
戦巫女の様に勇ましくも氷刃の魔鎌を振るう死神の如き冷たさで世界が氷り漬いてしまいそうな殺意だ。 常人ならば背筋が硬直し全身の時が止まってしまったような停滞感を錯覚してしまうであろうそれは、戦奴達を更なる闘争へと奮い立たせるには十分過ぎた。
「良き殺意だ、礼儀を持って火葬してやろう、《ハウビッツェ・アインエッシェルング》──ッ!!!」
意外にも最初に攻撃を仕掛けたのは敵の隊長であるヴォルカーンであった。 先程から頭上後方に展開しっぱなしであった鉤十字の魔法陣が砲門のように開き、天地を轟かす凄まじい轟音が鳴り響くと同時に灼熱の火焔榴弾砲が撃ち放たれる。
「いけない、避けてっ!!」
「
その火焔榴弾砲にはSランクオーバー相当の破壊力が秘められている事を瞬時に見抜いたなのはが矢面を歩く氷眼の少年に回避するように呼び掛け、判っていると言わんばかりに少年は歩みを疾走に変えて急加速で駆ける。 一直線に飛来して来る火焔榴弾砲をギリギリまで引きつけたタイミングで左前に跳び、速攻で攻勢に出れるように射線スレスレを通り抜けて回避しようとするが──
「無駄な事を──」
地に着弾すると同時に炸裂した爆音によって砲撃主の呟きは掻き消された。 同時に摂氏三千度を軽く上回る爆炎の奔流が
「そ、そんn──きゃああああーーーっ!!?」
爆発と同時に撒き散らされた熱波が戦場全域に広がり、戦乙女達の柔肌をバリアジャケット越しに甚振り尽くして悲鳴が上がる。 辛うじて石炭として形を残していた六課の隊舎の残骸までもが熱風に曝されて一瞬の内に全てが虚しく崩れ去って行き、今も膨張し続けている灼熱のドームをどこか優し気な目で見据えている砲撃主は毅然と嘯いてみせた。
「私の砲が
言い終わると同時に様々な方角から顕れた炎柱が次々と灼熱のドームへと突き刺さり、連鎖的に爆音の嵐を轟かしていく。 なんという苛烈な攻勢だろうか、爆心地の側に並び立つシルバーガスト小隊の面々も猛烈な爆風の凄まじさを直に浴び、顔面の前に両腕を交差させて吹き飛ばされないように耐えている。
「くぅぅっ!? ア、アイツなんて砲撃魔法撃ってくるのよ! 爆発の衝撃波だけで吹き飛ばされちゃいそう!!」
「ひゃああっ、髪が焼けちゃうぅう!? 僕のチャームポイントがへにゃへにゃにーーーっ!!」
「うっお、マジかよ!? 爆発ホーミングとか反則じゃね?」
「加えて
「いや、騒がないでくれやないわ! アンタら何余裕かましとんねん、砲撃くろたのアンタらの隊長なんやろが!」
「あはは! 心配は要らないよ。 アタシらの
自分達の仲間が容赦の無い敵の猛攻を受けているにも拘らず筋違いな事ばかり言って心配一つ見せる素振りも窺えないシルバーガスト小隊員達の態度を怒鳴り気味に指摘するはやてに対し心嬉しく感じた烈槍の少女が宥めるように言っている途中、彼女達の直ぐ手前まで肥大化して来ていた灼熱のドームが突然停止したと思えば、なんとガッチィィーーッン! という幻想的な音が鳴り響くと同時にその場で瞬く間に
「……えっ?」
「なあっ!!?」
「
その驚愕の光景を目の当たりにして六課の隊長達の眼が見開かれる。 そして──
「──これぐらいの攻撃でくたばっちまうようなタマじゃないんだよ」
その氷塊が砕けて内側から弾け飛び、其処には毅然とデバイスを振り切った立ち姿をした氷眼の少年が無傷で健在していたのだった。 彼がやられたと思い悲痛な表情を浮かべていたなのはが強張らせていた顔を緩ませて安堵の溜息を吐いた。
──よかった、なんとか防いだみたいだね。 Sランクオーバー級の砲撃魔法を氷結させるなんて凄いや、彼は相当優秀な氷結魔法の使い手みたい……だと思ったけれど、なんだろう?
「……ふっ、やはりな。
なのはが氷眼の少年のチカラに懸念を抱く中、今まで東の空全体に充満していた爆煙が時間の流れによって霧散し、凍り付いた第二二六強襲中隊の空襲兵達がその下方の海や地上に落ちて其処らに浮かび或いは転がっている惨状を目にした彼等の隊長がそう呟いて、実に愉快そうに口許を歪ませている。
さて、次はどうするかと頭の中で戦術を構築しようとするが、そこへ好戦的な笑みを浮かべて一歩前へと踏み出たのはファングであった。
「なあ隊長、俺に奴とタイマン張らせてくれよ。 さっきの借りを返してぇんだ、構わねぇだろ?」
「あ! ファングずるいよ、ボクもy「いいだろう、まずは奴の戦闘力でも量ってみようかと思っていたところだったからな。 貴様に任せよう、イスカンブルグ」……ぶー」
無視された事に不貞腐れるカッツェを後目に隊長の了承を得たファングが拳を鳴らして前に出る事で彼と氷眼の少年が対峙する形となる。 組織同士の抗争にわざわざ一対一の構図を取る必要性は無いのだが、他の第ニニ六強襲中隊の面々と同じように他のシルバーガスト小隊員達も二人の対峙に割り込む気配はないようだ。
「さてとっと……」
凝り固まった首と腕を解しながらファングの朱い眼光が氷の刃の様に静寂な闘志を秘めたアイスブルーの瞳とぶつかり合う。 先程のヴォルカーンの灼熱砲撃の影響がまだ残っているのか砂漠のような熱気が焼け野原の上に陽炎を揺らがせており、互いが発する闘気が観る者に大汗を掻かせるような緊張感を触発させていた。
「さっきは御挨拶だったな小僧、今から挨拶の礼をたっぷりと──ッ!!?」
戦闘が開始されたのは意外にもその直後すぐにであった。 ファングが殺意を向けた瞬間、風切り音と共に氷眼の少年の姿が消失する。 首元に感じ取れた微かな冷気を頼りに右腕を咄嗟に振り上げ、アングレカムの刃とジャバウォックの金具が火花を弾けさせて激突し、直後に波紋のように広がった
「くっ、テメェ……!」
「仕留め損なったか、
至近距離で狂気の殺意が籠るファングの三白眼を冷静な驚きの目線で見つめて物騒な呟きを口にする氷眼の少年。 敵味方関係無しに全ての視界から姿を見失わせた驚くべき初速もそうだが、
──コイツッ!
「ケッ! なんだよテメェ、俺の魔法を丸ごと氷らせるような派手な登場をするからエース級の騎士かと思いきやとんでもねぇ。 完全に
右腕を引き下げて悪態の吐き終わりと同時にファングが突き放った左拳はエース級の魔導師・騎士が用いる魔力の全てで動体視力を極限まで高めたとしてもまず捉える事ができない異次元の初速……更にはシグナムやヴィータといった並み居る歴戦の騎士をも一撃で沈め、地殻を容易に砕き地形すらも変貌させる規格外の破壊力が秘められている。
──なっ!? この小僧、俺の股下に滑り込んで躱しやがった! しかも股下を潜り抜けるタイミングを狙って俺の股間を斬り付けようとしていやがる!!
「チィッ!」
ファングは人外の反射速度で宙に跳び上がり、真下から自身の股間に向かって弧を描いて振るわれたアングレカムの刃から間一髪で逃れた。 野郎、見えていやがるのか? と
「ヒャッハァァーーーッ!!」
二人は振り向くと同時にデバイスを振るい、目視不可な速度で数回打ち合うと氷眼の少年がファングの拳を受けた強烈な反動を利用して宙にその身を躍らせた。
『なのは、今のって見えた?』
『ううん、わたしには二人が振り向き合った瞬間に大きな火花が弾けたようにしか見えなかったけれど、後から音破衝が発生したり瞬間的に金属を打ち付け合う音が数回響いたりしたから、たぶん
『ホンマか!? 私も全っ然見えへんかった! なんや、敵のヤンキー野郎もあのキレイな男の子も常識外れ過ぎるやろっ!!』
身体を僅かに休められた事で微量に魔力が回復した事で念話程度ならば使用可能になったなのは達が目の前で管理局のエースである自分達ですらも認識する事が困難な程に凄まじい攻防を繰り広げている二人の戦闘力に驚きの感情を隠せないでいる。
「ハッ!」
──
「クソがっ!」
跳弾するかのように上から突っ込んで来た氷眼の少年の反撃をファングは拳を薙ぎ払う事で逆方向の宙へと弾き返す。 ところが氷眼の少年は
絶えなく弾き返し続けてきた故に集中力が徐々に低下していき、氷眼の少年が振るう超高速の冷刃を何度か打ち払い逃して身体の数ヶ所に小さな斬痕を刻む事を許すようになった頃、彼の超高速全方位跳弾攻撃を破る突破口を見つける為に苛立ちながらも冷静に対処しながら彼の動きを観察していたファングが
──あれは……氷の足場かっ! あの小僧
「しゃらくせぇっ!! オラァァアアアアーーーーーッ!!」
「っ!!?」
敵の超高速全方位攻撃のカラクリを見破ったファングはもう面倒だと熱り立ち、氷眼の少年が跳弾して来た瞬間に高濃度の魔力を収束した右拳を足下に振り下ろして地を爆砕した。 地を揺るがす程の衝撃に巻き込まれた氷眼の少年は砕かれた地表の飛礫によって急所を防御する為に交差させた両腕を突き刺されながら30m程離れた位置まで吹き飛ばされてしまう。
「……キヒッ! いいぞ、お前、悪くねぇ」
反撃に転じる隙を作る事に成功したファングは吹き飛ばした氷眼の少年が靴底を磨り減らしてスタイリッシュに着地する姿を地に拳を振り下ろしたままの体勢で視界に納め、獰猛な牙を口端から覗かせると身体を起こして立ち上がり、なんと身体の内側から鋭く尖った棘を貫き出すかのように非常にグロテスクな姿を周囲の眼に曝し、数百にも及ぶ鋭利な礫のような魔力塊を自身の周囲に展開してみせる。 無論これはファングの赤黒い魔力を媒体にして展開した魔法であるが故に当然その魔力光も不気味に赤黒く、まるで血を固めて作られた杭の様だ。
「「「ひっ!!?」」」
「な、なんなのよあの魔法!?
『うわっ、気色悪い! あの半裸白髪ヤンキーは下種でロクでもない人種だとは思っていましたが、使用する魔法まで猛烈に忌諱感を感じるとかあの男救い様がありませんよ! 眼に映しただけで吐き気を催します! でも私、デバイスなので映す眼も吐く口もありませんが!』
──いい加減自分のデバイスに一々ツッコミをするのも疲れてきたよ。 待機状態にリリースしてシャットダウンしておこうかな……。
「うわー、キモイね」
「そうか? アタシはブヨブヨしたアメーバっぽいバケモノとかの方がよっぽどキモイと思うんだけどな」
「なんじゃそりゃ? さてはお前、また例の
展開されたファングの魔法の気味の悪さを目の当たりにしてなのは達は忌諱感のあまりに悲鳴を漏らし、シルバーガスト小隊員達も嫌悪感で引き気味になっている。 一部が変な感性を持っている為に全く関係の無い事を口走っている者も居るようだが……。
「まあギリギリ合格って事にしといてやろう。 お前は俺が喰うに値すると認めてやる」
そんなのお構いなしにファングは展開した杭の全ての鋭利な棘先を氷眼の少年へと差し向けた。
「誇れや小僧、タイマンでこれ使うのは
「必要ない、名前だけとはいえ敵対組織に個人情報を与えるのはデメリットにしかならないからな。 それに、どうせお前達はここで俺達に倒されて局が管理する無人監獄世界に永久移住するんだ、どちらにしろ意味などない」
「……くくく、あはははははーーーっ!!」
視界に入れてしまえば胃の中の汚物を全て吐き出しかねない瘴気を発する数百の血の杭を前にしても尚その戦意と冷静さを揺らがせる気配のない氷眼の少年が鷹揚に言った挑発を聞き、身体の内側から込み上げてくる愉快と昂る憤りのあまりにファングは狂乱の哄笑を上げ、同時に殺意を乗せた衝撃が広がって砂煙を巻き上げた。 面白い、この手の獲物は嫌いじゃないと。
「刺し殺せや、《カズィクル・ベイ》ィィーーーーーーーッ!!!」
主の号砲に従い、数百の血の杭は氷眼の少年の命を吸い尽くすべく砲弾の如き轟音を鳴らして一斉に直進して行く。 枯渇、搾取、略奪──“
次回、氷眼の少年がその内に秘めるチカラの一端を披露する……かもしれないぞ☆