トランクスとの会話を終えた悟空は、先ほどの話をどう伝えるか非常に悩んでいた。
「どーすっかなぁ……結構複雑な話だし、トランクスの事を上手く説明しねぇと……」
正直、頭のよろしくない悟空は先程の話を皆にどう説明するか悩んでいた。下手な事を言ってしまえばトランクスの存在は危ぶまれるし、何よりも皆に信じてもらえるかの方が心配なのだ。
「あ、悟空!なんの話だったんだ?」
「あ、いや……てぇした話じゃねーんだけどさ」
「ちゃんと話すんだな。俺達にとっても重大な話だ」
話を終えたとクリリンが悟空にトランクスの話はなんだったのかと問うと悟空は口を濁そうとするが、ピッコロがそれを遮る。
「ピッコロ……聞こえてたんか?」
「俺の耳は他の奴等とは出来が違うんだ……安心しろ、奴の存在を消すようなマネはしない。ろくに修行もせずに殺されたんじゃ堪らないからな」
「……殺される?」
悟空はピッコロがトランクスとの会話が聞こえていた事に驚き、ピッコロの発言にクリリン達は驚きを隠せなかった。
ピッコロはトランクスの事を上手く隠しながら、未来での事を話した。その内容に誰もが苦笑いになっていたが、段段真実味を帯びた話に苦笑いすら消えていった。
そして空を見上げた際にトランクスが乗るタイムマシンが宙に浮いて中にトランクスが微笑みながら手を振っていた。その直後、タイムマシンは瞬時に姿を消し、それを見たクリリン達は修行をすると気持ちを新たにするのだった。
その後、悟空がナメック星からどうやって脱出したのか、何故帰って来なかったのかを皆から問い質され、悟空は説明を始める。
崩壊するナメック星でフリーザの大型宇宙船が飛べなかった悟空だが、大型宇宙船の近くにポッド型の宇宙船が落ちている事に気づいた悟空はそれに乗り込みナメック星から脱出を果たした。
そしてポッド型の宇宙船はヤードラット星に向かい、悟空は現地の星の人間と仲良くなり、修行をしてから帰って来たとの事だった。
悟空はヤードラット星で学んだ『瞬間移動』を披露した。ベジータは単なる超スピードで誤魔化しただけだと言うが悟空は亀仙人のサングラスを持っていた。この場所から亀仙人が住んでいる亀ハウスまでは数百キロは離れている為、悟空の瞬間移動は本物であると実証された。
そして、それぞれが修行をすると張り切っている最中、悟空はチチに抱き締められていたスーナの所へと歩み寄る。
「ごめんなさい……チチさんを独占してしまいました。……チチさん、旦那さんが帰ってきたんですから……」
「桃香ちゃん……」
「オメェの事はナメック星でフリーザやギニューから聞いてた」
スーナは虚ろな瞳のまま自分を抱き締めていたチチを引き離そうとするが、チチは逆に力を入れてスーナを抱き締めていた。悟空はそんなスーナの様子を見て、ナメック星の事を思い出していた。
「お父さんやフリーザ様が私の事を……」
「ああ……フリーザは腹心の部下って言ってたし……ギニューは愛娘だって言ってたぞ」
そこでスーナは初めて顔を上げて悟空と目を合わせた。悟空は真面目な顔付きで口を開く。
「オメェの父ちゃんはフェアな戦士で凄く強かった……オラの方が強いって分かったらボディチェンジって技でオラの体を奪いに来たけど……この技は使いたく無かったって言ってた。スーナに嫌われたくねぇって」
「それでも父は負けたんですね……」
悟空からナメック星でのギニューの戦いぶりを聞かされたスーナは、ギニューが思ってた以上にマトモに戦っていたのだと知らされる。
「ああ……オメェの父ちゃんは最後までスーナの事を心配してたぞ」
「そう……ですか……」
スーナは悟空がギニューの事をフェアな戦士であると認めてくれていると感じているが、その真意までは察していなかった。
「それと……ポッドの宇宙船なんだけど……多分、ギニューのだと思う」
「………え」
悟空の言葉にスーナは悟空が乗っていたポッド型の宇宙船に走った。先程、悟空が降りた際に開きっぱなしだった入口から中を覗いた。中を見たスーナはピシッと固まった。
中にはスーナをデフォルメした様なぬいぐるみやスーナの写真が飾られていたのだ。
「あの……バカ親父……」
「………大層な溺愛ぶりだな」
スーナが手を掛けていたポッドの入口が握力でグニャリと曲がり、同じくポッドの中を見たベジータが呟いた。ベジータは以前、惑星フリーザでギニューが鼻血を垂らしながら、ぬいぐるみを縫っていた事を思い出していた。
◆◇◆◇
一方、未来へと帰って来たトランクスは悟空に心臓病の薬を渡した事とフリーザを倒した事を話していた。
「そっか。孫君に薬が渡ればなんとかなるかも知れないわね」
「その……母さん、桃香さんの目の前でフリーザを倒す必要が本当にあったんでしょうか?」
過去の悟空に心臓病の薬を渡せた事に安堵するブルマにトランクスは先程、全身バラバラにして消し飛ばしたフリーザの事を思い出していた。フリーザを倒した際に近くでそれを見ていたスーナは絶望しきっていた。
「アンタが過去に行く前にも話したでしょ?必要な事だったのよ……桃香、スーナはフリーザが生きていたと知れば間違いなくフリーザの下に戻ろうとするわ。ベジータや悟飯君も言ってたけど、ナメック星の侵略も仮に桃香が指揮を執っていたら確実に負けていたってね」
「僕も地球に来てからの桃香さんを知ってるから、それは分かりますけど……」
ブルマは自分自身がスーナの有能さを知っている事と、フリーザ軍に居た頃のスーナを知っているベジータや孫家での生活を知る悟飯から聞いた話から、スーナはフリーザが生きていたら間違いなくフリーザ軍に戻るだろうと確信していた。
「だからって……」
「一番の問題はね……桃香が地球での生活で本来の優しい人格が前に出ている事なの。そのままフリーザ軍に戻ってみなさい。侵略行為と優しい人格の板挟みで心が壊れるわよ」
ブルマがトランクスにフリーザをスーナの目の前で倒すようにと言った一番の理由はこれである。
地球で一年も平和に過ごしたスーナがフリーザ軍に戻れば元の生活に戻ると言う事であり、平和の味と有り難みを知ったスーナが侵略行為や破壊行為を再び、行えるとは思えない。仮にやったとしても、それはスーナが心を殺して行うであろうから結果としてスーナは確実に傷付くだろう。
だからブルマはスーナの心からフリーザを排除する為にトランクスにスーナの目の前でフリーザを倒させたのだ。
「フリーザを倒して、孫君が生きて、人造人間を倒して、桃香は地球で暮らす……それが一番なのよ」
「……そう、願います」
ブルマは桃香の事を思って辛い目に合わせたとしてもスーナを思っての提案であり、ブルマの言葉に頷くトランクス。仮に恨まれたとしても大恩あるスーナには生きていてもらいたいとトランクスは願うしかなかった。
そんなスーナは過去でトランクスへの恨みを一時的に忘れて、父であるギニューの親バカ振りに怒りを沸かせているとは露にも思ってもいなかった。