期末演習試験。
筆記試験を終えた後に残るこの演習試験を受けるためにコスチュームに着替えて集まったA組の前に、雄英教師たちが並んでいた。
「残念!! 諸事情により今回から試験内容を変更しちゃうのさ!」
相澤先生の拘束布からひょこりと顔を出した根津校長が告げる言葉に、楽勝ムードを漂わせていたA組の生徒たちの表情が固まる。
事前の情報ではロボ相手の試験と聞いていたため困惑する生徒たちに、根津校長が試験内容の変更の理由を語りだした。
ヴィランが活性化している今、現状以上に対ヴィラン戦闘が激化すると考えられる。
学校側としては万全の体制を整えておきたいわけで、そうなるとロボ相手の戦闘訓練は実戦的とは言えない不十分なものなのだ。
そこで、対人戦闘・活動を見据えた試験内容、
根津校長から説明がなされるなか、爆豪は静かに闘志を燃やす。
『ロボ相手だろうが、プロヒーロー相手だろうが関係ねぇ。全力でブッ潰す』
あらかじめ、試験内容の変更も予測して備えてきた爆豪にとってはこの程度のことなど動揺するに値しない。
むしろ質の高い戦闘経験を積む機会だと喜んでいるくらいだ。
爆豪に不安などありはしなかった。この男、まさに恐れ知らず!
「緑谷と爆豪。おまえらチームだ」
「デ……!?」
「かっ……!?」
チームの相手を相澤先生から告げられて、思わず目を見開く爆豪。
因縁の幼馴染がチーム相手と聞いた爆豪の気持ちはいかばかりだろうか?
『大丈夫、大丈夫だ。俺にもうトラウマはねえ! 出久のやつも幼女になってねえ……だから、震えるのを止まりやがれ、俺の手ぇ!!』
めっちゃ、動揺していた。
トラウマ治しきれてないぞ。何やってんだベストジーニストぉ!
『うわあ、かっちゃん震えるほど怒ってるよ! 試験大丈夫なの!?』
一方、出久のほうも爆豪の様子を見て慌てまくっていたり。
いや、その出久の感じ方と現実の爆豪の思いは違うのだが、それが伝わらなければ意味はないもので……。
そんな二人を見て、相澤先生は内心でため息を吐く。
『あの二人。やっぱりチームにして正解だったな』
期末試験にむけての職員会議を思い出す相澤先生。
チームを決めたのも、この二人の仲がこじれていたからだった。
「緑谷と爆豪。この二人を組ませます。この二人は能力や成績では組んでいません……偏に互いの仲の悪さ!」
体育祭以降、お互いに苦手意識が見受けられる二人。
だが、プロヒーローになれば、そんなことは言ってられない。
嫌いな相手や苦手な相手がいたので、ヴィランを逃しました、要救助者を救けられませんでした……では、話にならないのだ。
そこで、今回の試験を通して仲の改善とまではいかずとも、苦手な相手とでも協力することを学んでもらおうというわけだ。
本人たちのストレス? Plus Ultra! だろ?
ただし、本人たちの実力はクラスでもトップレベルだ。
生半可な相手では、個々の能力だけで乗り越えられてしまうかもしれない。
つまり、相手をするにも確実に、そしてかなりの格上である必要があるのだ。
ならば相手をする教師は決まっている。
「オールマイト。二人の相手をお願いします。お互いが苦手だのどうのこうの言わせる余裕を奪って協力せざるを得ないように追い詰めてください」
試験会場に到着した二人は、オールマイトから試験の説明を受けた。
ルールは単純。
制限時間30分以内に、「オールマイトにハンドカフスを掛ける」か「どちらか一人がステージから脱出する」というものだ。
要はヴィランを捕まえて解決するか、応援を呼んで解決するかの判断を問うわけだ。
教師そのものをヴィランと考えて行う実戦に極めて近い状況での試験である。
まぁ、教師と生徒の実力差も考慮して、超圧縮重りによる体重約半分の重量増加というハンデが教師側に課せられてはいるが。
これは、生徒のためというよりは選択を逃走一択にしないための措置である。
説明が終われば、試験が始まる。
しばらくの猶予の間に話し合いをしておくべきなのだがーー
「…………えっと」
「…………チッ!」
無言の二人。
何を話せばいいのか分からないこの状況。とても10年近く一緒にいた幼馴染とは思えない。
お互いチラッと横目で見合っては視線を逸らすの繰り返しで、モニター越しから見ていたリカバリー・ガールはすごいヤキモキしていた。
「何やってんだい、あの二人は。もう、イライラするねー」
完全にテレビドラマを見ているノリである。
先生ー、試験なんですよー!?
そんな二人に焦れたわけではなかろうが、オールマイトがその空気ごと拳で吹き飛ばす。
「さて、
「なっ!?」
「オールマイト!?」
街を破壊して現れたオールマイトに驚愕する二人。
No.1ヒーローが街を壊す姿が信じられないのだ。
まだ自分のことをヒーローとして見ている生徒の二人に、若干の嬉しさを感じながらも教師としてそれを注意しなければならないオールマイト。
「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えていると痛い目見るぞ」
意識を切り替えてもらうために改めて宣言する。
「私はヴィランだ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」
No.1ヒーローの威圧を持って出久と爆豪に迫るオールマイト。
これで、二人の意識の切り替えはできただろう。問題はこの後だ。
『さあて、どう出る? 有精卵ども』
二人の仲がうまくいっていないことは話に聞いている。その苦手を乗り越えどう対処してくるのか、オールマイトは伺っていた。
そして、その二人の対応は……
「ブッ殺す!」
「喰いコロす!」
「あ、あれぇ!?」
バラバラに動くと予想していたオールマイトの予測に反し、二人息の合った動きをみせる二人。
しかも、選択はオールマイトへの反撃という方向性で一致していたのだからたまらない。
爆豪は
『こいつは予想外だ! なかなかやるな、有精卵ども。だが!』
驚愕は一瞬だけ。
多くの修羅場を潜り抜けてきたベテランヒーローであるオールマイトは、即座に二人の攻撃に反応してみせた。
「ガッ!」
「まずは、爆豪少年。君からだ!」
爆豪の首元をつかみ、自慢の怪力で振り回して投げ飛ばす。そしてその身体のひねりを利用して、出久を蹴り飛ばしてしまった。
一つの動きが次の動きにつながる熟練の動きだ。
受け身も取れずに背中から地面に叩きつけられたせいで動けない爆豪と違い、出久は野生の動物じみた動きで空中で体勢を整え四つ足で着地。
息つく暇もなく、オールマイトへと突貫してみせた。
「ガアアア!」
「元気だな! だが、無謀すぎるぞ!」
真正面から猛スピードで飛び掛かってくる出久の顔面にオールマイトの右ストレートのカウンターが突き刺さる。
ガチン、と、硬い物がぶつかる音がして、地面を二度三度と転がるほどぶっ飛ばされる出久。
起き上がった出久は、口から血混じりの唾を吐き捨てる。
「緑谷少女、君ってやつは……」
オールマイトが驚いたような、そしてどこか呆れた声を漏らす。
オールマイトの見つめる右手には、小さく歯形のような傷がついていた。
そう、オールマイトのカウンターをよけるどころか噛みつくことで、逆にカウンターをとろうとしてきていたのだ。
こんな自身を顧みないような戦い方に戦慄を覚える一方で、オールマイトは違和感を感じる。
『この戦い方は、緑谷少女らしくない』
と。
そして、歴戦のヒーローであるオールマイトは気づく。その経験から出久がどんな状態になっているのかを。
「緑谷少女! まさか、ぼう――」
「俺を忘れてんじゃねえよ! オールマイト!!」
ダメージから回復した爆豪がオールマイトの意識の隙をついて懐に潜り込む。
その右指は左手の籠手のピンを引き抜いていた。
直後に起きた爆風で後方へと大きく吹き飛ばされるオールマイト。
その後を追おうとした出久は……
「待ちやがれ、クソナード!」
がっちりと抱き留められて爆豪に身動きできないようにされていた。
暴れようとする出久へ、爆豪は思いっきり怒鳴りつける。
「暴走してんじゃねえよ、アホ狐! とっとと、クソナードと変われや!」
「グゥッ! スマヌ……ふぅ、やっと落ち着いてくれたよ」
ため息を吐いて金髪から元の緑の髪の毛に戻る出久。
オールマイトの威圧に当てられて野生の防衛反応が刺激された乙音が暴走していたのだ。
「ごめん、かっちゃん。迷惑かけたね」
「ちゃんと躾けとけや。てめえの“個性”だろうが」
「うん、ありがとう」
謝る出久に爆豪は言葉少なに応じる。
試験開始前までのぎこちなさはすでになかった。
乙音の暴走は結果的に二人の行動の方向性が一致することになったものの、本当の意味で協力しなければオールマイトに勝てない。
それをこの数秒の戦闘で実感した二人。
話し合いができる余裕ができたのならば、当然、打開策について意見を出し合わねばならない。
「やっぱりオールマイトはすごいよ。中途半端な攻撃じゃだめだ」
「全力攻撃、または必殺技をブチ当てるしかねえってことか。だが、言うほど簡単じゃねえぞ」
先程の一連の戦闘から結論を下す二人。
オールマイトには普通の攻撃では弱攻撃にしかならず、持ち前の超人的な肉体には通用しない。
ならば全力の攻撃を仕掛けるしかないが、そうそう当たってくれる相手でもない。
考えなしに戦える相手ではない。何かしらの策が必要だ。
「一応、考えはある。でも……」
「ンだよ。はっきり言え」
作戦を言おうとして口ごもる出久に、爆豪が先を促す。
少しの逡巡のあとに、出久は考えを口にした。
「作戦は――」
「……おまえ、それは」
「うん。僕がミスったら二人とも終わりだ」
出久の作戦を聞いた爆豪はその内容に眉をひそめる。
どう考えても出久の負担が厳しいものであったから。
だが、出久は強いまなざしで爆豪を見つめ、はっきりと告げた。
「でも、かっちゃんは僕が守る。だから、信じて!!」
「これは、だいぶ吹き飛ばされたな」
爆豪の大威力の爆破によって大きく吹き飛ばされたオールマイト。
ダメージは多少はあるものの、戦闘にはまったく支障がないのはさすがといえる。
軽く血痰を吐きながら、この後の出久と爆豪がどう動くかを考える。
取れる行動は大きく分けて二つ。
戦うか、逃げるか。
そして先程までの二人の様子から、取るであろう選択肢はおのずと予想できる。すなわち……
「あくまで、私を倒す気で向かってくるか、ヒーローども!」
「ぜってえ、勝つ!」
「負けません、オールマイト!」
己の打倒を目標に向かってくる二人の決意を受け止めて正面から拳を放つオールマイト。
それを防ぐために、出久が前に出る。
「止めて、みせる!」
「やるな、緑谷少女! だが、まだまだ!」
九つある尾の一つがスマッシュをはじく。
当然、オールマイトの攻撃が一度で終わるはずはなく、一撃のスマッシュから連打のラッシュへと攻撃が切り替わり出久を襲った。
その暴風雨のような拳の雨を九尾を使って凌ぐ。
必死にオールマイトの動きを追う出久の脳裏には、職場体験で教わったワイプシとの訓練の経験が思い浮かぶ。
『違う! 正面から受け止めるな。受け流せ!』
強烈な一撃を防御してたたらを踏む出久に虎が叱咤の声を上げる。
そんな出久を見てマンダレイとピクシーボブがアドバイスをしてくれた。
『あたしたちは力では負けていることが多いからね。相手の攻撃をまともに受けてたらやってられないの。だから工夫が必要なんだよ」
『コツは相手の攻撃の方向を変えてやるってことかな』
彼女らのアドバイスを、ラグドールが簡潔に締め括る。
『アハハハハ、逸らせ、弾け、ぶっ飛ばせー!』
「真正面から受け止めるな。弾くように、逸らすように……受け流せ!」
ワイプシたちからの教えを思い出した出久は、思考と本能を両立させたH&Hモードになって九尾で体を包み込むように構えて防御をする。
範囲に入った攻撃を叩き落とす九尾の防衛圏だ。
鉄壁の防御でオールマイトの攻撃を凌ぎきり、わずかにできたオールマイトの攻防の隙間。それをこじ開けるように爆豪が出久の背後から飛び出す。
爆風による回転の勢いを利用した大火力の必殺技。
当たればオールマイトにもダメージを与えられる大技だが、簡単に当たってくれるようなら苦労はしない。
「甘いぞ、少年。そう簡単に当たってはやらんよ!」
「チイィ!」
後方に飛びのき、爆破を躱すオールマイトに舌打ちをする。
反射神経では人並み外れた自負を持つ爆豪からしても、オールマイトの反応速度は驚くほどのものだった。
このままでは当たらない。
そう本能的に直感した爆豪は、オールマイトに勝つために一つの決断をする。
「かっちゃん!? なにを……?」
「届かねえんだよ、おまえの後ろからじゃ。こっからなら、確実にオールマイトをブッ殺せる」
身を寄せるように体を預けてきた爆豪に驚く出久。
自分から九尾の防衛圏の内側に入り込み、攻撃の機をうかがう。
もしオールマイトの攻撃が一発でも入れば、先ほどまでいた背後とは違い爆豪もダメージを確実に受けることになるにも関わらず、何の躊躇もすることはなかった。
「俺を守るんだろ? てめえがそう言ったんならやり通せ、出久!」
「~~~~ッ! うん!」
なぜなら、信じると決めたのだから。
爆豪の信頼に応えるべく、オールマイトの攻撃を捌き続ける。
そして、その一瞬は訪れた。
「コフッ!」
突如咳き込み、動きが鈍るオールマイト。
その隙を逃す二人ではない。
「オールマイトの動きが止まった!」
「前に出るぞ、遅れんな!!」
「ああ!」
二人同時に攻撃を開始する。
爆豪は残り一つの虎の子である籠手のギミックを使いオールマイトにダメージを与える。
吹き飛ばされたオールマイトに追撃をするべく、出久は身体能力を活かして着地する直前を狙って攻撃を繰り出す。
「“キャットコンバット”……『サバトララッシュ』!」
身体のしなりを活かした高速ラッシュ。それを腕をクロスさせて防御するオールマイト。
反撃の隙を与えまいと猛攻を仕掛ける出久の後ろから、爆豪が体を回転させながら迫ってくるのが目に入る。
『爆豪少年の必殺技か、あれは痛そうだぞ』
CAROLINA SMASH
クロスしていた腕を振りぬき、出久を弾き飛ばす。
すぐさま爆豪を迎撃するために、拳を握りこんだ。
「DETROIT SMA……なに!?」
振りぬこうとした拳が途中で弾き飛ばされる。
巨大な獣の腕だ。
「やらせないって言ってるでしょ!」
「腕だけの巨大狐化!? そんなことも出来るようになってたのかい!?」
守り抜く、と、必死の形相でくらいついてくる教え子の成長した姿につい喜びを感じてしまったオールマイト。
その感情の動きは数瞬だけ動きを遅らせてしまった。
必然、その結果爆豪の攻撃が、届いた。
「
直撃。
巨大な質量が落ちたような音が、破壊音が響き、土ぼこりが舞う。
オールマイトの体勢が大きく崩れた今がチャンスだ。
「行けェ! 出久ゥゥウ!」
「うおおお!」
ハンドカフスを手に雄たけびを上げながら突進する。
オールマイトにカフスが掛かる!
と、思った瞬間。
「ガフッ! …………え?」
気が付けば出久は建物の壁に叩きつけられていた。
何が起きたのか分からない。
ただ、直感的にオールマイトの動きがさらに鋭くなったとだけ感じられた。
『まだ、本気じゃなかったってこと? そんなことどうでもいいだろ! 動け、動かないと』
立ち上がろうとした出久だが、身体のダメージは大きく。さらに悪いことに、H&Hモードの副作用が体を襲っていた。
くらくらと視界が揺れてめまいがする。
身体の節々は限界を訴え、倒れてしまえと出久に伝えている。
だが、それでも……
「まだ、だよ。まだ倒れるわけには……いかない!」
無理やり巨大狐化を発動させて、オールマイトと向かい合う。
横を見れば、爆豪もまた膝を震わせながら立ち上がるところだった。
「かっちゃん……」
「まだ行けンだろ、出久!」
「ああ!」
満身創痍ながら戦意は十分。
そんな二人に、オールマイトは笑顔を向けた。
「さすがだ、二人とも。だが、残念だったね」
「どういうことだ、オールマイト」
「何って、こういうことさ。少年」
不信感を煽るオールマイトの言葉に爆豪が聞き返せば、オールマイトは視線を上に向けて呟いた。
次の瞬間、
『タイムアップ!! 期末試験これにて終了だよ!』
「な、に!?」
「終わっちゃった?」
無情にも告げられる試験終了の合図。
呆然となる二人。そして、ショックから緊張の糸が切れて限界を迎えていた体は崩れ落ちた。
意識を失ってしまった出久と爆豪。
二人の期末試験は、これで終わってしまったのだ。
戦闘シーンを書いてる時が一番筆が止まりやすいと気が付きました。
苦手です。上手に戦闘かける人が羨ましい。
コツはなんだー!?
次回は期末試験後のあれこれ。ショッピングモールに行くところまでの予定。
ぶっちゃけ、そっちの方が書きやすいのよね。
活動報告更新しました。
アンケートもしてるので、是非。
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