今日も鴉天狗が絡んできます【完結】   作:秋月月日

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 というわけで、エピローグです。

 やさぐれ案山子と清く正しい鴉天狗の物語に、ここまでお付き合いくださってありがとうございました。

 それでは、今作最終話。

 スタートです。



最終報 今日も鴉天狗が絡んできます

 泡のように終わった大宴会から、約一年後。

 かつては荒れ果てていた畑は、見違えるほどに立派なものへと変貌を遂げていた。

 乾き切っていた土は瑞々しく潤っていて、命の欠片も感じられなかった畑には数多の作物が植えられている。農業の神の依代としてのチカラだろうか、短い間で作物は急激な成長を遂げている。育成チート、とか言ってはいけない。

 かつて畑の中央にあった棒は、今はどこにも見当たらない。

 ――その代わり。

 

「一つ掘っては父のためー。二つ掘っては母のためー。三つ掘っては……何だっけ?」

 

 鴉天狗の正装に身を包んだ白髪の少年が、汗水たらしながら畑を耕していた。

 夜畑涼夢、と呼ばれるその少年は、案山子が自我を持ったイレギュラーな存在だ。一年前までは歩くことすらできなかったくせに、今では農作業を余裕でこなせるほどまでに成長してしまっている。

 

 

 あの日から、涼夢は案山子であることをやめた。

 

 

 凄まじく心に響かない言葉に影響されたのか、涼夢は案山子であることをやめると同時に、荒廃した畑を復活させることを決意した。畑に縛られる必要はないとは言われたが、別に畑に執着してはいけないとは言われていない。自分の象徴でもある畑を復活させる行為は、誰にも咎められることはない。

 そんな意志の下に農作業を始めたわけなのだが、案の定、涼夢の頭の中には何の知識も残ってはいなかった。もともと何も知らない案山子だったので、そうなってしまうのは当たり前なのだが。……因みに、久延毘古の知識はあのバカが全て持って行ってしまっている。まぁ、端から俺の知識じゃないんだけど、少しぐらい残して言ってくれても良かったと思う訳ですよ。

 そんな訳で、涼夢は農業の神である秋穣子に弟子入りし、農業のノウハウを短期間で頭に叩き込んだ。もともと何も入っていなかったせいか、涼夢は教えられた知識をみるみる内に自分の元にした。乾いたスポンジが水を吸収するかのように、涼夢は農業の知識を会得したのだ。

 そんなこんなで畑を見事復活させた涼夢は、タオルで汗を拭いながら、盛り上がった土に鍬を何度も打ち付けていく。

 と。

 

『「涼夢」さーん。お昼持ってきたので休憩にしましょーう!』

 

「んぁ? もーそんな時間だっけ?」

 

 空高くから聞こえてきた声に、涼夢はのんびりとした言葉を返す。

 その直後、涼夢の傍に一人の少女が舞い降りてきた。かつての短い黒髪ではなく、腰の辺りまでの長さを誇る、美しい黒髪をなびかせながら。

 昔は通常サイズだった胸は一回り大きくなっていて、顔立ちも昔に比べると少しだけ大人びている。かつてはミニスカートを愛用していたはずなのだが、今の彼女の下半身は長い黒のスカートに包まれている。

 夜畑文(よるはたあや)。

 かつて、射命丸文と呼ばれていた鴉天狗の少女は、いつの間にかその名字を変えていた。というか、既に結婚半年です。おめでとうございます。

 あの日から一週間ほどが経った日、文は意を決して涼夢に告白した。私はあなたが大好きです。愛しています。結婚を前提に、お付き合いをしてください――と。

 勿論、涼夢は最初は戸惑った。好意なんて向けられたことがないから、どういうリアクションを返せばいいのか分からない。それに、俺なんかがお前を幸せにできるとは、とてもじゃないが思えない――と。

 だが、文はそんな彼の言葉を否定した。

 

 

 キスという、最大の武器を利用して。

 

 

『私が幸せになるかどうかは、あなたではなく私自身が決めることです。あなたと一緒に生きていたい。あなたと添い遂げたい。あなたの傍に居続けたい。それだけの願いさえ叶えることが出来れば、私はこの幻想郷で一番幸せな存在になることができるんです』

 

 その言葉に涼夢は、静かに涙を流した。泣いて泣いて泣きじゃくって、文に体を抱かれながら泣きまくって、彼女の想いを受け入れた。

 最初に彼女と出会った頃は想像もできなかった、予想外のハッピーエンド。絶対に結ばれないであろう案山子と鴉が種族感を越えて結ばれた、絵に描いたような愛物語。

 

「うぇぇ。やっぱりお前、料理まだ苦手みてーだな……なんか喉がイガイガする」

 

「ぐぬぬ……こ、これでも前よりはマシになったでしょう!? お、夫なら女々しくピーピー喚かずに笑顔で『美味いぜ☆』と妻の料理を受け入れたらどうなんですか!?」

 

「あーいや、流石にこれは無理だわ。これ以上喰ったら胃の中のものブチ撒けちまいそーで……」

 

「女々しい! 『アッチの方』は無駄に男らしかったくせに、無駄に女々しいですね涼夢さん!」

 

「まー確かに、そんな臆面もなく下ネタぶっ込めるお前に比べりゃ、女々しいかもなー」

 

「はぇ? ………………~~~~ッ!」

 

「布団の上じゃ凄まじく女々しいくせに、外では無駄に男らしいってかー? いやはや、やっぱり文は可愛いなー」

 

「ば、バカにするなぶっ飛ばしますよ!?」

 

 平凡な空の下、平素な畑の中で、平和な二人は仲睦まじげに駄弁り続ける。

 かつては仲が極端に悪かった案山子と鴉天狗は、そんな面影なんて少しも感じられないような純粋な笑顔を浮かべながら、平和なひと時を謳歌する。

 かつては鴉天狗に絡まれ続けていた案山子だが、今はもう受け身ではない。

 

 ――んぁ? 何だよ、お前。俺になんか用か?

 

 ――あややっ。噂の案山子さんとはあなたのことですね。「文々。新聞」の記事のネタの為に、ご協力お願いします!

 

 ――いきなり突拍子もねーコト言ってんじゃねーよ! まずは名乗れ! 話はそれからだ!

 

 ――あやや、それもそうですね。これは失礼いたしました。

 

 二十年以上前に行われた最初のやり取りが、頭の奥で再生される。あんな出会い方をしたくせに、何で俺たちは結ばれたんだろーな、とか思いつつ。

 そんな涼夢の心境を悟ったのか、文は静かに目を瞑り、涼夢に向かって唇を少しだけ突き出した。ここにきて甘えるのかよやめろよしかもココ外だから誰かに見られるだろーが、という涼夢の心境だけは悟ってくれはしないようだ。

 涼夢は「はぁぁ」と溜め息を吐き、文の顎を優しく持ち上げる。

 そしてゆっくりと彼女との距離を詰めていき――

 

 ――私は清く正しい鴉天狗の射命丸文です! これからよろしくお願いしますね、案山子さん☆

 

 

 ――唇と唇が、静かに触れた。

 

 

 

 妖怪の山の麓では、案山子と鴉天狗が暮らしている。

 その麓から少し離れた人里付近には、案山子と鴉天狗が管理している畑がある。

 その畑で行われるやり取りは、既に幻想郷の名物となっている。

 そう、その名物ともいえるやり取りの中で、案山子は今日も思うのだ。

 

 

 

 ――今日も鴉天狗が絡んできます――

 

 

 




 今作のコンセプトは、前作とは違う――ヒロイン一人での完結、でした。

 むろん、物語を構成する上で問題となったのは、主人公のキャラ設定です。


 ぶっちゃけた話、人間主人公って溢れすぎてますよね――みたいな。

 
 せっかく東方の二次を書くのだから、幻想郷だからこその主人公を書いてみたい。

 そんな意志の下にネットを彷徨いに彷徨った結果、『久延毘古』という神様に出会いました。……いや、物理的な意味じゃないですよ?

 全てを知っている神様。田の神。農業の神。山の神。――そして、案山子を神格化した神様。

 直後、鴉の天敵である案山子を主人公にすればいいじゃね? というアイディアが浮かびました。

 ……まぁ、最終的に主人公は案山子ではなくなっちゃってますけど。細けぇこたぁ気にすんな!

 話は変わりますが、今作に置いて一番の苦労人は、文ではなくはたてだったりします。

 そりゃまぁ、文の惚気話聞かされたり酒に付き合わされたり慰めたり案山子捜索に付き合わされたり……正直言って、はたては文にとって最高の友達です。流石はダブルスポイラー。

 そして余談ですが、文が結婚してから二か月後ぐらいに、今作でのはたては恋人を作っております。

 相手はまぁ、鴉天狗の誰かなんじゃないかな(適当)。

 はたてと付き合うぐらいですから、きっと凄く優しい好青年なのでしょう。まずは掃除の腕前が必要だぜ、ボーイ。

 因みに、椛ちゃんはお値段以上の河童娘と結ばれました。誰とは言いません。名前は明かさないんだからね!

 さらに余談ですが、久延毘古さんは地獄で陽香ちゃんの尻に敷かれています。簡単に神様が地獄に行けちゃっていいの? とか言う質問がきそうですが――細けぇこたぁ気にすんな!

 そんな訳で、色々とふわっとしたまま完結した今作。

 約三か月の間御付き合いくださり、ありがとうございます。

 そしてこれからも、二人のことを温かく見守ってくだされば、幸いです。

 それでは、今作はここで筆を降ろさせてもらうことにして。

 今まで本当にありがとうございました。

追記

二人の夜の営み短編は、皆様のリアクション次第かなぁ(笑)
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