四苦八苦しながらも何とか周りの助けを借りて今まで生き延びて来たグレイフィアはその日、自分が現在、教師として所属している中学校に在籍しているとある生徒に呼び出され、西日が辺りを照らす中、一人屋上へと来ていた。
「・・・ハァ...」
溜息を吐いた彼女は昼間、手渡された手紙に書いてある文面に目を通し瞼を閉じる。
(前にもあったけど、今回はどうやって断ろうかしら...?)
自分がいた前の学校やその前の職場など人間界に来てから現在に及ぶまでに自分の内面を見ず、外面で決めて告白してくる者や自分の性格も見てくれた者から三桁にも及ぶ告白を受けてその都度、相手に失礼のないよう丁重な言葉を紡ぎ、断ってきた彼女は頭を悩ませていた。
何故、ここまで彼女が悩んでいるかというと自身が悪魔という千年、一万年単位で生きる種族に生まれたからだ。
人間界にやってきた当初、自身の美しさ、人柄に見惚れた男性に求婚され結婚してみたものの最期は看取る事になり深く悲しんだ。
そして、その悲しみを何年もかけて乗り越えたグレイフィアはその時、決心した。
もう、自分は一生独身のままでいよう、と。
深く考えず、「好きだ」というだけで結婚してしまってあれほど悲しまなければいけないのならばもう自分は人を愛さず、好きにならなければ悲しむ事はない、とそう結論づけたグレイフィアはそれから様々な男性に求婚を受けたが全て断り続けている。
自分の過去を振り返り、今回も断ろうと呼び出した生徒を待っていると、グレイフィアの背後にある扉が勢いよく開かれ、中から制服を着崩した茶髪の男子生徒が現れた。
「ま、待たせてしまってすみません...ハァ、ハァ」
息遣いが荒い彼の額からは汗がダラダラと出ている。
彼の姿を見たグレイフィアは少しの間唖然とした後、クスリと笑って問いかけた。
「また、誰か助けてたの?兵藤君」
「え?・・あ、まぁ、はい、そうです。すみません...」
普段と変わらぬ口調で問いかけているのに怒っていると思ったのかグレイフィアの問いに兵藤と呼ばれた男子生徒は荒くなっている息を整えながら返答するも段々と声が小さくなっていく。
「あ、決して怒ってるわけじゃないのよ?その優しさは貴方の美点だと私は思っている。寧ろ、褒めてるわ。目の前で困ってる人がいたら出来る限り助けるなんてそうそう出来るものではないからね」
「そ、そうですか?」
「そうよ」
グレイフィアの考えに頬を赤らめながら兵藤が問い返すとグレイフィアはコクリと頷き、フフッと笑みをこぼした。
西日に照らされるグレイフィアの微笑みに顔を更に一層赤くした兵藤はバクバクと脈打つ心臓に手をやり、落ち着こうと努力する。
数秒の間、手をやって漸く落ち着いた兵藤は、意を決し本題へと踏み込んだ。
「あ、あの、グレイフィア先生...」
「ん?」
「そ、その、手紙...読んでもらえましたか...?」
「・・・ええ...そして、ごめんなさい」
「ッ!」
グレイフィアから文面に対する返答を貰った兵藤はビクッと身体を震わせ、俯く。
数秒の間、静かな空間が流れた後、兵藤は口を開いた。
「・・良かったら、理由を教えて貰えませんか?自分に何が足りないのか知りたいです」
震える声を必死に保ちながら、目の前で申し訳なさそうに下を見つめているグレイフィアに兵藤が問いかけると、グレイフィアはパッと顔を上げ、ブンブンと首を振り、兵藤の問いを否定する。
「それは違うわ。貴方には勇気があって優しさがあって正義感があって...偶に凄い性欲が強いのがキズだけどそれはまぁ、男子中学生だから仕方ないとして...私が何を言いたいのかというと貴方はとても魅力的な男性よ。兵藤君。交際を受け入れられないのは先生と生徒という立場もあるのだけれど、もっと重大な事があるの」
「重大な事...ですか?」
「・・ゴメンね。それは言えない...だけど、これだけは信じて。兵藤君、貴方はとても魅力のある男性って事だけは、ね」
兵藤にそう言って手紙を返したグレイフィアは辛そうな表情をしながら、その場で立ち尽くす兵藤の目の前から去っていったのだった。
グレイフィアが先生だったら?と考えて思いつきで書きました