津島善子は恋をした。

暗く音の消えたあの場所から再び輝きが戻り、歌い、踊る彼女に。

彼女の奏でる旋律は善子の心を惹きつけていく。

そんな夏の終わる季節。
1つの転機が訪れた。

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こんにちは、うみみと申します。
今回は短編を投稿してみました。
私の推しカプであるよしりこの魅力を少しでも伝えられたらいいなと思ってます。


奏でる旋律は堕天の調べ

がらん、とした体育館。

ステージには3人のスクールアイドル。

これは来るだけ無駄だったのかも、とサングラスとマスクを付け、顔を隠した津島善子はそう思っていた。

 

(まあ、今日は雨だし、人も来ないわよね。これも私の不幸のせいかしら?)

 

しかし、3人のスクールアイドルはこの数人しかいない体育館で曲を踊り始めた。

揃ったダンス。綺麗な歌声。

こういうのはあまり詳しくはない善子だが、心を揺さぶるのには充分すぎた。

その中でも赤い長髪のスクールアイドルに善子の視線は釘付けだった。

 

(確か、あの人にチラシを渡されたんだっけ・・・)

 

先週の沼津駅での出来事を思い出す。

突然のことでチラシをひったくり、逃げ出したのを思い出した。

 

曲は進んでいき、サビに入る。

だがその瞬間、大きな雷により体育館は停電し、一切の音が消える。

 

しばらく無音だった体育館だが、センターで歌っていたオレンジ色のスクールアイドルがアカペラで歌い出す。

それにつられ、2人も歌う。

 

(まあ、良くやったんじゃない?自分たちじゃなくて、私が来た不幸のせいよ。気にしなくていいわ)

 

ここまで、と見切りをつけて体育館を去ろうとした時、体育館の扉が勢いよく開かれ、眩しい光が射し込む。

 

「あんた、開始時間、間違えたでしょ!」

 

1人の女性の声の後に、大勢の人が体育館に流れ込んでくる。

あっという間に体育館は満員。

そして、電気も復旧した。

 

ステージの上の3人は再び踊り、歌い出す。

その姿が善子にはさっきよりも輝いて見えた。

 

気づけば曲は終わり、善子はマスクを外して、ステージの上の3人に見とれていた。

3人とも綺麗だった。

その中でもやはり善子は赤い長髪のスクールアイドルを見つめ続けた。

この気持ちが何か分からないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから3ヶ月経ち、善子はスクールアイドルAqoursに加入した。

加入した経緯は堕天使を辞めようとしていた善子をそのままでいい、と説得されたことからだ。

現在のAqoursは9人。

元々3人のグループがここまでの大所帯になった。

 

あの赤い長髪のスクールアイドルは桜内梨子といい、東京から転校してきた2年生の先輩。

東京がどんな所か聞いているうちに仲良くなった。

 

今はお昼休み。

ここ2週間ほど、善子と梨子は2人でお昼を食べることが増えた。

ややスキップ気味に善子はお弁当片手に2年生の教室に向かう。

教室の前に着くとそろり、と善子は教室に顔を覗かせる。

 

「あ、善子ちゃん!こんちかー!」

 

善子に気づいたのは梨子と同じ2年生のでAqoursのリーダー千歌。

明るい笑顔を振りまきながら、手をぶんぶん振っている。

 

「ど、どうも。梨子さんいる?」

「いるよー。梨子ちゃーん、善子ちゃん来たよ」

 

すると、お弁当を持った梨子が善子の元にやって来た。

 

「わざわざ来てくれたの?ありがとう」

 

優しく微笑む梨子に善子はドキッ、とする。

 

「べ、別に。リトルデーモンの面倒は見ないといけないから」

 

顔を背けて言う善子。

そんな彼女を見て梨子はクスクス笑う。

 

「リトルデーモンになった覚えは無いけど、迎えに来てくれてありがとうね」

「ふ、ふん!ヨハネの手を煩わせないリトルデーモンになりなさい!」

「はいはい。善子ちゃんは善い子だね」

 

梨子は自分より少し背の低い善子の頭を撫でる。

 

「な、撫でるな!あと善い子言うな!」

 

善子の言ってることを無視して笑顔で撫で続ける梨子。

実際、善子自身もそこまで悪い気はしていない。

むしろ、もっとされたいと思ってるくらいだ。

 

「あれ?2人とも教室の前で何やってるの?」

 

善子は声のした方を振り向くとそこにはAqours2年生のもう1人、曜がいた。

 

「あ、曜ちゃん。これから善子ちゃんとお昼なんだ」

「そうなんだ。これは無粋なことを聞きましたな。いやぁ、失敬失敬」

 

曜はニヤニヤしながらわざとらしく言う。

 

「もう!行くわよ、梨子さん!」

 

善子は梨子の手を掴むと逃げるように走り出す。

梨子はそれに引きずられているかのように着いていく。

 

「わっ!善子ちゃん!?」

「おおっ、よーしこーは元気だね」

「ヨハネよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭で善子と梨子は肩で息をするしながらベンチへ腰をかける。

 

「全く、曜さんは・・・」

「そんなこと言いつつ、絡んでもらえて嬉しい善子ちゃんなのでした」

 

そう言いながらクスクス笑う梨子。

善子もその言葉を否定せずに、顔を赤らめ、俯いて唸る。

 

「もう、素直じゃないんだから。ほら、お昼食べよう?」

 

梨子は自分の膝の上に可愛らしい弁当箱を広げる。

はぁ、とため息をついた善子も梨子のように弁当を広げる。

 

「そういえば、私のお弁当なんだけどね、何故か軽いの」

 

善子は思い出したように言う。

 

「軽い?」

「ええ。それこそ何も入ってないんじゃないかってくらいに」

 

善子が弁当箱の蓋を開けると、そこには食べ物ではなく紙切れに書かれたメモと、1000円札が1枚。

あらー、と梨子は空の弁当箱を見つめる。

善子は震えながらメモを読み始める。

 

「『善子ちゃんへ。今日はママが朝寝過ごしちゃってお弁当を作れてません☆テヘペロ。英世さんを入れてるのでそれでお昼を食べてね。お釣りはお小遣いにしてもいいよ。ママより』ですって?」

 

善子は1000円札をポケットにしまう。

 

「えっと、善子ちゃんのお母さんて、お茶目だね?」

「ママのバカー!!」

 

大声と共に立ち上がった善子はメモ紙をビリビリに破り捨てる。

 

「作ってないなら作ってないで普通に言いなさいよ!ここからコンビニまでどれだけ距離あると思ってるのよ!行って戻ったらお昼終わってるわよ!」

 

怒りの矛先がないまま善子は叫ぶ。

 

「善子ちゃん!落ち着いて、ね?私のサンドウィッチあげるから」

「ホント!?手作り?」

 

目をキラキラ輝かせながら善子は食いつく。

 

「う、うん。はい、どうぞ」

 

梨子は善子に向かって弁当箱を差し出す。

 

「じゃあ、このハムサンドを」

 

善子はハムサンドを1つとると、もぐもぐ、と小さく咀嚼しながら食べ始める。

 

「どうかな?」

「おいしい!」

 

キラキラ輝く善子の笑顔を見て梨子は小さく微笑む。

 

「ふふっ、よかった」

 

梨子も自分用のサンドウィッチを1つ食べる。

気がつけば善子はもう1つ食べ終わっている。

 

「本当に美味しいわ!毎日食べたいくらい!」

「言い過ぎだよ」

「本心よ!梨子さんの作るものならなんでも美味しいんだろうなー」

「もう、おだてちゃって」

 

何でもない雑談をしながら2人でお昼を食べ続ける。

 

「そうだ、善子ちゃん」

「何?」

「明日お休みでしょ。暇じゃない?」

「特に用事もないわね」

 

善子は頭の中で予定を思い出すが、特にこれといって用事もない。

 

「そっか。なら、明日沼津でお買い物しない?」

「お買い物?」

 

買い物と言う言葉で善子のサンドウィッチを食べる手が止まる。

 

(こ、これは梨子さんに誘われている?休日に2人で、しかもこんな美人な先輩とショッピング・・・。間違いないわ、リア充イベント!)

 

「あ、やっぱり忙しい?」

 

反応しない善子に梨子は確認をする。

 

「暇!暇よ暇!全然暇!」

「よかったー。あまり沼津のお店知らないの。善子ちゃんが沼津に住んでるから案内してもらおうかなって」

「クックックッ・・・。任せなさい。この堕天使ヨハネに全て委ねるのです」

「ふふっ。じゃあ、約束だよ?」

「ええ、もちろん!」

 

昼休み終了のチャイムが鳴り、2人は中庭を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になり、Aqoursの練習も終わり、もう下校時間だ。

善子は同じ1年生の花丸とルビィの2人と体育館の更衣室で着替えている。

 

「善子ちゃん、やけに機嫌いいね?」

 

ルビィが話しかける。

 

「えー?そんなことないわよー」

「うわっ、こんな善子ちゃん初めて見た」

 

ルビィが軽くひく。

 

「きっと明日大雨ずら」

「ちょっと!?そんなこと言わないでよ!ヨハネの不運パワーで本当になっちゃいそうじゃない!」

 

ムキーッ、と怒る善子だが、花丸はすまし顔だ。

 

「ま、浮かれる気持ちも分かるよ。おそらく明日は梨子さんと遊ぶ約束したんでしょ?」

「うっ、何故それを・・・」

 

花丸に図星を当てられ、言いよどむ。

 

「お昼休み終わったあとからずっとそんな感じでご機嫌だから、分かりやすいずら。もう丸分かりだよ」

「あ、今のはマルちゃんと丸分かりをかけたんだね?」

「ルビィちゃん!?」

 

ルビィがいきなり千歌のようなダジャレを言ったため、花丸は驚く。

 

「まさか、千歌さんに変に影響されたとか」

 

花丸はルビィの事を本気で心配する。

善子もその気持ちは分からなくもない。

 

「むー、ルビィだってそんな時くらいあるよー」

「それならいいけど・・・」

 

2人を見て善子ははぁ、とため息をつく。

ふと、時計を見ると終バスの時間が近づいていた。

 

「やばっ!バスの時間だから行くわね!また明日!」

「あ、うん!善子ちゃんまた明日ね」

 

ルビィが手を振る。

 

「ヨハネ!」

 

そう残し、急いで更衣室を飛び出る。

 

善子は息を切らしながら走ってバス停に着く。

 

「あれ?善子ちゃん、走ってきたの?」

 

バス停に居たのは梨子。

 

「え、ええ。ずら丸とルビィと話してたらこんな時間になって」

「そっか、仲良しだね。・・・羨ましいな」

 

小さな声で羨ましいと言った梨子の表情は寂しげだ。

少し憂いた瞳で海を眺めている。

善子はその梨子の瞳に釘付けになる。

 

(やっぱり梨子さんは綺麗だなぁ。って違う違う!そんなことより)

 

「羨ましい?」

 

善子は梨子の言った『羨ましい』が気になり、梨子に聞き返す。

 

「え?やだ、聞こえてた?」

「ええ。小さな声だけど、はっきり言ってわ。その、私たちが羨ましいって、千歌さんと曜さんと上手くいってないの?」

「ううん。そういう訳じゃないの。あの2人はずっと一緒にいて、お互いのこともよく分かってて。そんな2人の間にこの間転校で来たばかりの私が居ていいのかなって考えちゃって」

 

梨子は苦い笑顔で答える。

 

「あの2人でしょ?そこまで考える必要はないんじゃないの?」

 

千歌と曜ならばそんなに考え込む必要はないと善子は思う。

 

「ふふっ。そうかも。でも、たまにあるんだ。2人といるとついていけない、置いていかれてるって時が。ずっと一緒にいるからかな?2人は何も言わずに分かりあってて、それが分からない自分が嫌で、壁を感じて、いや、壁を作って」

「・・・ごめんなさい。無神経なこと聞いちゃって」

 

善子は俯いて、梨子に謝罪する。

 

「ううん、大丈夫。ありがとう、話を聞いてくれて」

「そんな大したことは・・・」

 

すると、バスがやってきた。

 

「バスも来たし、帰ろっか」

 

梨子の後ろに続いて善子はバスに乗る。

空いていた席に並んで座る。

 

「そう言えば梨子さんも帰るの遅いわね。何してたの?」

「私?作曲を少しやってたの。少しメロディが浮かんだから忘れないうちに形にしておきたくて」

「真面目ね」

「違うよ。私に出来ることってそれくらいしかないから」

 

すぐに自分を卑下にする梨子を見て善子はなんとも言えない感情に駆られた。

 

「そんなこと言わないで。梨子さんは凄いわ。作曲だって梨子さんにしか出来ないもの」

「・・・励ましてくれてるの?」

「ち、違うわ!すぐに自分を悪くいう梨子さんに少し腹が立ったというか、見てられないというか、もっと自信を持ってもらいたいとか」

「そっか、ありがとう。善子ちゃん」

 

善子の言葉を遮り、梨子はお礼を言う。

 

「分かればいいの・・・」

 

善子が小さく言うと梨子は優しく微笑み、善子の頭を撫でる。

バスが止まり、梨子は立ち上がる。

 

「じゃあ、私はここだから。明日はお願いします」

「明日?」

「忘れちゃったの?お出かけする約束したじゃない」

「あっ!しまった、忘れてた・・・」

「もう、沼津駅に11時に集合だよ」

「う、うん!分かった!」

 

また明日、と言って手を振りながらバスを降りた梨子。

善子も小さく手を振りながら見送る。

扉が閉まり、再びバスが出発する。

 

(やってしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

1人、頭を抱え、うずくまる善子。

 

(梨子さんのお誘いを忘れてしまうなんて!ヨハネに有るまじき失態!嫌われた!?いや、梨子さんはそのくらいで人を嫌うようなひとじゃない!まだ、まだ大丈夫!)

 

バスが最寄りのバス停に着き、善子もバスから降りる。

 

「明日は成功させる!!」

 

ぐっ、と拳を空へ突き上げる。

が、それを見られており、付近の人にくすくす笑われてしまった。

 

「〜〜〜〜〜!!??」

 

恥ずかしさのあまり、人目も気にせず叫びながら全力で帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。沼津駅前。

善子はまだ10時だが、既に集合場所に到着していた。

というのも、ワクワク感から昨日は眠れず、家にいてもソワソワして仕方がなかった。

いつもの善子なら黒を基調とした堕天使ファンションなのだが、この日は普通の女子高生のような明るいカラーの服装だ。

 

(うー、いつもと違う感じで落ち着かない・・・。でもいつもの私服だと絶対ひかれるし・・・)

 

スカートの裾をつまんでみたり、回って後ろを見たり、ちょくちょく髪型を確認したり、と忙しく動いていた。

すると、奥の歩道でよく見知った姿を見つける。

 

「梨子さん?」

 

集合時間はまだまだ先だが、梨子の姿を見つけた。

しかし、梨子は善子に気づかない。

善子は声をかけようとしたが、梨子はそそくさと行ってしまった。

 

(何か忘れて買いに行ったのかしら?)

 

とにかく善子は大人しく待つことにした。

それから30分後、沼津駅に梨子がやって来た。

 

「あれ?善子ちゃん?早いね」

「そ、そうかしら?割と今来たところよ」

 

挙動不審気味に否定する善子。

そんな彼女を見て梨子はクスッ、と笑う。

 

「そ、それより!どこに行くの?何か買うんでしょ?」

 

善子は話題を変え、今日の目的地を聞く。

 

「そうだね。今日は洋服が欲しくて。そろそろ季節が変わるでしょ?」

「確かに。でも、そういうファンションなら私より曜さ・・・あっ」

 

途中まで口にして善子はハッ、とする。

梨子は苦笑いをしている。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

「いいんだよ。善子ちゃんの気にすることじゃないから。むしろ私が悪いの。ほら、こんな感じじゃ折角のお買い物が楽しくないよ?行こっか」

 

明るく笑う梨子に善子は複雑な気持ちでついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「梨子さんなら、こういうの似合うわよ!」

「無理無理無理無理!そんなかわいいの似合わないって!こっちの方が地味な私に似合ってるよ!」

「何言ってるの!そんなのお母さん方が着るような服じゃないの。梨子さんは女子高生なのよ!」

 

現在2人は服屋で言い争っている。

原因はというと、善子が勧める服を派手だから無理、と断る梨子がこっちがいい、とお互いに引かないからだ。

 

「もう!梨子さんは折角美人なんだから、もっとオシャレなのにしないとなの!」

「び、美人なんかじゃないもん!」

「いいから!着るの!」

 

善子はグイグイ梨子の背中を押し、試着室に押し込む。

 

「よ、善子ちゃん!?待って、押さないで〜!」

「梨子さんがそうさせるのよー!・・・きゃあ!?」

 

善子は試着室の入口の段差に躓き、体勢を崩す。

もちろん、梨子を押し倒す形で倒れる。

 

「あいたたた・・・。ごめんなさい、梨子さん・・・」

 

梨子の背中に覆いかぶさるように倒れた善子は、起き上がりながら梨子に謝る。

手が梨子の下敷きになって上手く抜けない。

しかし、梨子から返事がない。

 

「梨子さん?」

 

善子は梨子の後ろからなので顔がはっきり見えないが、耳まで赤くなって震えている。

 

(や、ヤバっ!相当怒ってる!な、何とかしないと・・・、ってなんだか柔らかいものが手に)

 

試しに手を動かす。

 

「ひゃっ!」

 

善子が手を動かした瞬間に梨子が甘い声をあげる。

その声に善子も驚き、ビクッ、と肩を跳ねさせる。

 

(これはまずい!ヨハネの不幸パワーがこんな所にまで!)

 

そそくさと、手を何とか抜き、梨子から離れる。

 

「あの、本当にごめんなさい」

「わ、分かったから早く出て。善子ちゃんの選んだ服、着るから・・・」

「はい・・・」

 

善子が試着室から出ると、シャッ!とカーテンが閉められた。

1人待つ善子は自分の手を見つめる。

 

(や、柔らかかった・・・)

 

手を何度か握っては開く。

やっている事が完全に思春期男子である。

 

「善子ちゃーん、いる?」

 

中から梨子の声がする。

 

「え、ええ!いるわよ」

「えっと、着たから出るね?」

 

おどおどしながら出てきた梨子に善子は思わず息を呑む。

 

「お、おおっ・・・」

(ヤバイ、似合いすぎ!)

 

白のワンピースにブラウン色のハーフジャケット。

これからの涼しくなる季節にはちょうど良さそうだ。

 

「ど、どう?やっぱり変、だよね・・・」

 

善子の反応が無いため、梨子は落ち込む。

 

「いいえ!そんな事ないわ!とってもとっても似合ってる!!やはり、ヨハネの魔眼に狂いはなかったわね」

 

善子は梨子の両手を取り、ずいっ、と顔を近づける。

 

「あ、ありがとう・・・。でも、ちょっと近い、かな?」

 

そう言われ、善子は自分と梨子の距離を確認する。

お互いの顔の距離が本当に数cm程しかない。

 

「うわぁ!えっと、その、とても似合ってるわ」

「ホントかなぁ?」

 

梨子はその場で自分の格好を見回す。

 

「不安なら写真撮って、Aqoursのみんなに見せましょうか?」

「それだけはやめて!」

「は、反応はやっ」

「でも、これにしようかな」

「え?いいの?あんなに嫌がってたのに」

 

善子の質問に梨子はニコッ、と笑う。

 

「いいんだよ。善子ちゃんが私のために選んでくれたから」

「そ、そう・・・。いい心がけね、リトルデーモン・・・」

 

目をそらして照れる善子を見て、梨子はクスクス笑う。

 

「じゃあ、私はお会計してくるから。善子ちゃんは少し待ってて」

 

梨子に言われた通り、店の外に出て待つことにした善子。

 

(少し?いや、かなりやってしまったけど、梨子さんも楽しんでくれてるみたいだし・・・。うん、大丈夫・・・。もうそろそろお昼だし、昨日調べたお店にでも)

 

次の計画を頭の中で組み立てている所で、梨子が戻ってきた。

 

「お待たせ。もうお昼だね」

「そうね。梨子さんは何か食べたいのとかある?」

「あ、それでね。今日付き合ってもらった善子ちゃんにお礼になればいいな、って思ってお昼持ってきたの」

「え!」

 

善子は想定外の自体に声を上げる。

 

「その、迷惑だったかな?」

「いいえ!とても嬉しい!じゃあ、どこがいいかしら?」

 

しばらく考えてもいまいちピン、と来ない。

とにかく、適当に歩いて良さそうな場所を探すことにした。

 

「この辺にしよっか」

「ここでいいの?」

「うん」

 

決めた場所は狩野川の河川敷。

毎年夏はここで花火大会が行われている。

ここのアスファルトの段差に腰をかけ、2人で座る。

梨子が自分のカバンからバスケットを2つと桜色のレジャーシートを取り出し、1つを善子に渡す。

 

「このレジャーシート集合時間前に買ったんだ。はい、善子ちゃんの分」

「あ、ありがとう。梨子さんがどこか行くの見えたから。これを買いに行ってたのね。開けていい?」

「どうぞ」

 

そっと、蓋を開けるとキレイに並べられたサンドウィッチとおにぎり。そして楊枝の刺されたおかずが数品。

 

「す、すごい!これ、梨子さんが作ったの!?」

「そんなに驚くようなものじゃないよ。簡単なものだし」

「充分すごいわよ!私はこんな綺麗に作れないし・・・」

「そんなことないよ。今度作り方を教えようか?」

「お願いします!」

 

それから2人はお昼を食べ始める。

 

「善子ちゃんはすごいね」

「いきなりどうしたの?」

 

食べながら梨子が善子にポツリ、と呟く。

 

「自分に自身があって、キラキラしてて、自分の好きなものには素直で。そんな善子ちゃんに私は憧れてたの」

「私はそんなのじゃ・・・」

「善子ちゃんはそんな風に考えてるわけないよね。でも、私にはそう見えたの」

 

梨子は善子の顔を見ずに、続ける。

 

「最近なんて千歌ちゃんと曜ちゃんに引け目を感じて、それでよく話しかけてくれる善子ちゃんの所に逃げて・・・。私はなんて醜いんだろう、汚いんだろうって」

 

話し続ける梨子の声は段々涙混じりになっていく。

 

(・・・全然気づかなかった・・・。いつも笑って話を聞いてくれる梨子さんがこんなに抱え込んでたなんて・・・)

 

いつも楽しそうに話を聞いてくれる梨子。

たまに叱られて怖いと思う梨子。

そして、繊細で触れると割れて壊れてしまいそうな梨子。

そんな梨子に善子は気づけば恋をしていた。

善子がいつも梨子に近寄るのは無自覚に恋をしていたからだ。

 

「あー、もう。ダメだな、私。善子ちゃんや1年生の前ではもっとかっこよくしてなきゃいけないのに」

 

少し赤くなった目を擦る梨子。

 

「いいのよ」

「え?」

「私はそれでいいと思う。綺麗でかっこよくて、優しくて、笑って話を聞いてくれて。作る音はとても力強くて、真っ直ぐに綺麗で。梨子さんはそれでいいの」

「よくないよ。こんなんじゃ・・・」

「いいの!千歌さんたちのことで悩んで、その悩みを打ち明ける相手で私を選んでくれて嬉しかった!」

「善子ちゃん・・・」

 

言ってることはめちゃくちゃで、自分の気持ちを押し付けてるだけかもしれない。

しかし、善子の言葉は止まらない。

 

「確かに梨子さんのやったことは酷いことかもしれない!でも、それでも私は嬉しかった!大好きな梨子さんに頼ってもらえて!」

「ダメ、ダメだよ・・・」

「私の好きな人のことを醜いとか汚いなんて言わないで!」

 

善子の言葉に、梨子は黙り込む。

 

「お願いだから、自分を・・・。梨子さんが梨子さんを嫌いにならないで・・・」

 

涙を流しながら訴える善子を梨子はそっ、と抱きしめる。

 

「ありがとう、善子ちゃん」

「私は何も・・・」

「ううん。善子ちゃんがそう言ってくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」

「梨子さん・・・」

「善子ちゃん、驚かないで聞いて?私ね、善子ちゃんが言ってくれたこと、本当に嬉しくて、今にも泣いちゃいそうなの。善子ちゃんの笑った顔、熱くなった顔、それに誰よりも優しいこと。その全部が好きなの。私も善子ちゃんが好き。こんな私でよければこれから一緒に居てくれますか?」

「え?」

 

突然の梨子の言葉に驚きを隠せない善子。

涙を流すのも忘れ、呆然としている。

 

「梨子さんが私を?好き?」

「うん。そうだよ」

「え、え?やだ、恥ずかしい・・・」

「先に言ったのは善子ちゃんだよ?」

「で、でも・・・」

 

善子は梨子から少し離れ、顔を真っ赤にして縮こまる。

 

「答え、ちゃんと聞かせて欲しいな」

「・・・梨子さんは意地悪ね」

「そうかな?堕天使さんほどではないと思うな」

 

イタズラに笑う梨子。

 

「クックック・・・。いいでしょう、この堕天使ヨハネと」

「ヨハネちゃんじゃなくて、善子ちゃんの言葉が聞きたいな」

 

善子が照れ隠しでヨハネモードで返事をしようとしたが、梨子は笑いながら途中で言葉を遮る。

 

「ぐっ・・・。梨子さんて結構小悪魔かも・・・」

 

小声で呟き、善子は腹をくくり、1つの答えを出す。

 

「こんな私でよければいつまでも一緒に居てください!」

 

頭をペコリ、と下げながら、叫ぶ善子。

梨子はそんな善子を見て嬉しそうに笑う。

 

「善子ちゃん、顔上げて」

 

言われた通りに善子は顔を上げる。

その瞬間、ふわっ、と桜のような匂いと共に、善子の唇は梨子の唇によって塞がれる。

2秒もないほどの短い時間。

やがて、唇が離れる。

 

「ありがとう。これから宜しくね、私の堕天使さん」

 

優しく微笑む梨子。

善子は自分の唇を1度触り、火が吹き出したかのように真っ赤になり、空気が抜けたように、小さくなる。

 

「よ、善子ちゃん!?」

「り、梨子さんは本当に小悪魔ね・・・。でも、嬉しい・・・」

 

恥ずかしさと嬉しさが混じった笑みをする善子。

 

「な、何にせよ!これで貴方はヨハネのものよ!いい?リトルデーモン、リリー!」

「リリー!?」

「覚悟しておきなさい。このヨハネの愛からは逃れられないのよ?」

 

季節の変わり目の気持ちのいい風が吹く。

まるでこれからの2人を祝福するような旋律を響かせているようだ。




いかがでしたか?
これは以前投稿したものを少し付け足したり、修正しているものです。

憧れの先輩に無自覚に恋し、あることではっきりと自覚してしまうよっちゃん。かわいい。

まだまだよしりこの魅力を引き出せていないので少しずつ頑張っていきます。

感想等お気軽にお願いします。

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