顔だしNGのアイドルA   作:jro

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はじめてのまねーじゃぁ

私の決意を新たに武内プロデューサーに伝えてからそう数日もたたぬうちに私がアイドル部門から歌手部門へと移籍する話は白紙になった。

 

部署を変わるという話は私と江崎部長の問題だと思っていたのだがどうやら346内で結構な問題になっていたようで、私がアイドルを目指すことを決めて直ぐ今西さんが対応してくれたらしい。

 

私が知らないうちにいろいろな人がこの話に関わっていたらしく全て終わった後にこの話を聞いたときには少々面食らってしまった。

 

後日江崎部長が私のところまで直接いらっしゃって軽い謝罪と共に「残念だ」という言葉をこぼしていったことが胸のしこりのように気にしてしまうのは一度でも迷ってしまったからなのだろう。もう迷うことは無い、自分の決めた道を進むだけだが、それでもあの時手を取っていればと考えないことは無い。

それでも私は私なりのアイドルを目指すと決めた。

 

そして本日、私はついにアイドルとして一歩を踏み出す。

場所は会議室、今は私と武内プロデューサーの二人だけだ。

 

「ゔぁーちゃるあいどる・・・ですか?」

 

「はい・・・もともとナギサさんが活動を始められてから計画していたのですが、ネット上が活動の中心となることは幾分初めてですので環境等の準備に時間がかかりまして。」

 

 

話を聞く分に自分の姿とは別の仮想のアバターを投映して見てくれているファンと交流をする。そういった企画。

武内プロデューサー曰く、私が大勢の前に出ることに抵抗感があるのは自分に自信がないことと少なからず不安を覚えているからであり、こういった活動で多くのファンとかかわりを持つことでその抵抗感をなくしていきたい。という意図を持っているらしい。

 

 

「実際にライブを始めてからの企画は歌や質問や只の雑談等検討中ではありますが、基本的にはナギサさんのやりたいもので進めていこうと思っています」

 

「お話は分かりました。元々無理を言ってご迷惑をかけているのは私なので私なりに頑張らせていただきます。ですが・・・」

 

「・・・何か気になるところでもあったのでしょうか?」

 

「えっと、純粋な疑問なのですが。活動中は常に生放送ということですよね?それなら・・・」

 

コンコン

 

 

あまりにも人手が足りないのではないか、そう続けようとした私の言葉を区切るようにして会議室のドアがノックされた。

少し驚きながらも武内プロデューサーを見ると彼は私の内心を察しているかのように力強く頷くと、「はいってください」と促した。

 

 

「しっ、失礼しまっ!」

 

 

緊張しているのが声だけでわかる。勢いよく噛みながらも会議室に入ってきたのは私と同じぐらいかそれより若い女の子だった。

 

女性の中で見ても間違いなく小さいと言える身長にお世辞にも恵まれているとは言えないそのボディライン。

服さえそれっぽく見せたら小学生だと言われてもおかしくないだろうに着られている感満載のスーツが若干大人っぽさをを醸し出していた。

 

じーっと見られているのがこそばゆいのだろう。ドアの前でワタワタと恥ずかしがる様は非常にかわいらしい。

 

思わず見つめ続けていると、武内プロデューサーは一つコホンと小さく咳ばらいをし、少女を傍へ呼び寄せた。

 

 

「紹介します。彼女は田山(あお)。アイドル部門の企画アシスタントを担当している方です。」

 

「は、初めましっ、て!まだ!入社2年目の若輩者ですがっ!頑張りましゅっ!」

 

 

はい?と思わず口に出してしまった私は悪くないと思う。ヒィッという悲鳴を聞いて思わずやってしまったと後悔するも時すでに遅し、ガタガタと震え涙目になりながら武内プロデューサーの背中に引っ込んでしまった。

 

武内プロデューサーの肩越しにこちらをうかがってくる様はどこからどう見ても初めての場所に連れてこられて怖がっている娘とお父さんにしか見えない。

それでもこちらをチラチラと覗いてくる様は小動物。そう、自分の愛想のなさと子の顔のせいで怖がらせてしまっているとわかっているのにも関わらず湧き上がってくる感情。

 

これは、そう、萌えだ。

 

今までネット上でよく目にはする者の理解できなかった感情。その答えがここにある。

 

ずっと眺めていられるがそういえば先ほど彼女は自己紹介で面白いことを言っていた。なんだったか。そう、アイドル部門のお手伝いをしていて、入社2年目・・・入社2年目ぇっ!」

 

 

「はい。田山さんは一昨年アイドル部門に入られた方で、昨年私の下についてもらったことがありまして。」

 

「えっ、いや、あの・・・。すみません、失礼ですがおいくつ・・・なんでしょうか?」

 

 

突然の私の質問に武内プロデューサーは困った表情をしたが、その後ろからおずおずと顔を出した田山さんが肩越しに応えてくれた。

 

 

「こ、今年で24に・・・」

 

 

その言葉を聞いて私は今度こそ言葉を失った。

まさかこんなにかわいらしい女の子が私より年上?そういう個性を持ったアイドルの娘とかじゃなくて?というよりアシスタント?個性が強烈すぎてアイドルやった方がいいと思うんです。

 

呆然としている私をよそに武内プロデューサーは話を続けた。

 

 

「田山さんは様々な企画のアシスタントの経験がありますので彼女をナギサさん専属としてサポートしていていただこうと思いまして。」

 

「専属・・・ですか?」

 

「はい。具体的に言いますとマネージャーのような形になります。」

 

 

マネージャーですか・・・。と小さく零し改めて田山さんを見るがその小さなお姿は庇護欲こそ掻き立てられるが間違っても私の為に何かしてもらおうという気はさらさら起きてこない。

少なからず武内プロデューサーが私の為に選んでくれた方なのだからやはり仕事をする能力は高いのだろう。もちろんアイドル活動が一人ではできないことは承知だし、武内プロデューサーが常に傍にいられないことも分かっている。でも・・・だからといって・・・。

 

 

「ひぃ!」

 

「ナ、ナギサさん・・・突然のことですし、納得いただけないかもしれませんが・・・あまり、その・・・」

 

 

そう言われて私は思わず考え込んでしまっていたことに気づいた。そして思考の中に沈んでいた意識が浮上してくる。すると真っ先に視界に飛び込んできたのは先ほどよりも怯えてしまった田山さんと少しひきつったような表情の武内プロデューサーが目に映った。

 

 

「しょ、初対面だし、未熟者ですし、私のことが気に入らないのは、重々・・・なんですがっ!わた、わたしなりに頑張りますので!どうか・・・どうか、よろしくお願いしますうぅぅぅぅ」

 

 

泣き出した田山さんを見て私は自分が何をしてしまったのか把握した。自分のことは良く分かっていたはずなのに最近こうあからさまにされることがなかったから忘れていた。武内プロデューサーはやはり困ったような顔をしていただけだったが、田山さんは初対面だし私も気づかないうちに怖がらせてしまったのだろう。

 

とりあえず何とか落ち着かせて私が怖くないってことを伝えなければ。

 

そうパニックになりながらも考えた私は何を血迷ったか自分の手を泣きじゃくる田山さんへと伸ばしていた。

 

そして彼女の小さな頭をゆっくりと撫でながらなんとか頭の中に浮かんだ言葉を絞り出した。

 

 

「え、っと。あの、別に気に入らなかったとかそういうわけではなく、て。むしろ、一緒に活動できる人が増えるのは心強いと言いますか、私も人づきあいがうまいわけではないので・・・えと、どうしたらいいか・・・。あの、武内さん・・・」

 

 

撫で続けながら必死に説明していると何とか少しずつ落ち着いてきたはいいものの。ここから先どうしたらいいのかわからなくなった私。武内さんに視線助けを求めるも何故か何か温かい眼差しをこちらに向けているだけ。

そんな表情したことありましたっけ、と言わんばかりの珍しい表情。武内さんの中にどんな感情が生まれているのか分からないが助ける気がないのか助けを求めていることに気づいていないのか・・・

 

そこから田山さんが泣き止んだのはしばらくたってからだった。

 

涙と鼻水で汚れてしまった顔を私のハンカチで拭いてあげ、緊張していた時に握り締めてしまったスーツの皺を軽く伸ばし、泣いたことで赤くなってしまった目元を軽くファンデーションで隠し、撫でてしまった時にすこしぐちゃっとなってしまった髪を櫛で整えてようやくいち段落。

 

そこまでしてすっかり元に戻った田山さんを見て私はなんだか達成感を覚え、彼女に小さく「ありがとうございます」と言ってもらった時には胸の奥から言葉に表せないような温かい気持ちがこみあげてきた。

 

いち段落したのを確認して、武内プロデューサーがコホンと一つ咳払いをした。

 

 

「えー、話が脱線しましたが、田山さんには先ほど伝えた通りナギサさんのマネージャーとして行動してもらいます。ネット上での活動に関しましても一通り伝えてありますので分からないことがあっても問題ないと思いますが、もし何かありましたら私の方に連絡していただければすぐ駆け付けます。」

 

 

分かりました。と返す私に武内プロデューサーは満足そうにうなずくと、座っていた椅子から不意に立ち上がった。

 

突然私たちを置いて歩き出した武内プロデューサーに驚く私と目の前にいた壁が急になくなって驚く田山さんをよそに武内さんはドアを開けこちらを振り返って言った。

 

 

「それでは後はお二人で親睦を深めてください。邪魔者な私はお先にプロデューサールームに戻りますので」

 

 

と言い残して出ていった武内プロデューサー。

 

気を、使ったのか?武内プロデューサーにしてはやっていることがなんだか古いドラマに出てくる主人公の友人キャラみたいな・・・っていう事よりも先ほど泣かせた加害者と泣かせられた被害者の間には深刻な溝が、溝がぁ!

 

という私の心の叫びをよそに部屋のドアがゆっくりとしまった。

 

 

 

 




サブタイトルを考えることが一番嫌いです。。。
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