あの後一言二言話した後その場は解散となった。
武内Pに送ってもらいはしたのだが、その帰っている道中でも武内Pは何かを悩んでいるみたいだったので少しは助けになるかと私にしてはいろいろ頑張って話しかけてみた。
それが功を奏したのかはわからないのだが渋谷さんは無事にシンデレラプロジェクトに参加することになったようだ。
これでメンバー全員がそろったらしく、本格的にシンデレラプロジェクトが始動し武内Pもそっちにかかりっきりになっているらしい。なので最近は基本的にちひろさんかトレーナーさんが私の専属プロデューサーのようになっている。
私もシンデレラプロジェクトのみんなに負けないように、ということで最近はついに『マジックアワー』というラジオにも出演することが決まった。収録はまだ先の話ではあるが今から練習練習ということで普段歌を歌っている時間を少し割いてラジオの勉強もしている。
私のアイドル活動は基本的に目ではなくファンの耳に聞かせる活動ばかりになるので今回のラジオはすごい大事なお仕事になるだろう。
本日のレッスンは休みのため、家でラジオの勉強をしていた。マジックアワーの流れや各コーナーについてなど、今までの放送を聞きながら自分の中で何を話すかを原稿に纏めておくといいらしい。
このコーナーではこんな事話して、このコーナーではこんな感じでーってな感じに原稿に書いていく。『ナギサ』というアイドルは露出がアイドルの中でも極めて少ないため、どれだけの情報を出すかの匙加減も非常に重要なポイントだそうだ。
色々なパターンを原稿用紙に書き、一旦休憩とネットサーフィンをしていると机の上に置いておいた携帯電話に一本の着信がはいった。手に取りディスプレイを見ると、そこにはちひろさんの名前。すぐに通話ボタンを押し、ケータイを耳に当てた。
「もしもし、ナギサです。」
『千川です。ナギサさん今大丈夫ですか?』
「大丈夫ですよ、ちょうど休憩してたんです。どうされました?」
『実は今度シンデレラプロジェクトから3人の娘が城ヶ崎美嘉ちゃんのライブのバックダンサーとしてステージに立つことが決まったんです!』
いつも以上に興奮しているようで早口で話してくれた。
シンデレラプロジェクトに参加している身ではあるが他の子にあったことはおろか名前すら知らない子もいるのであんまり身内感がないというかなんというか。
まぁ、武内Pの努力が報われたのならそれはそれでいいのかもしれないけれど。
「は、はぁ・・・それは、おめでとうございます」
『はい、それでなんですけど。今度のライブ、一緒に見に行きませんか?』
ライブといえばアイドルたちがファンの前でパフォーマンスを披露するあれか。
生まれてこの方ライブという物には縁がなかったためどういったものか映像でしか知らないのだが、映像だけでもわかる。あれはアイドルにもファンにも相当体力がないとかなりしんどいだろう。レッスンを重ねてそれなりに体力はついたつもりではあるがそれでも不安が大きい。何より男性ファンに揉みくちゃにされるのが怖い。
『大丈夫ですよーもうチケットはもらってますし他の子たちにばれないように離してもらってますから!』
それは確かにありがたいですけれどそうじゃないんですちひろさん。基本的にインドアな私がライブに行ったらどうなるかを心配しているんですよ・・・。
『それに一度本物のステージを見ておくというのも良い経験になりますよ?』
ねっ?ねっ?とかわいらしく言ってくるちひろさん。
まぁ確かに一度アイドルのライブを実際に見てみたいと思っていたしちょうどいいのかもしれない。同じプロジェクトの子たちも来るらしいし怖いけれどちひろさんも大丈夫だと言っているし問題ないだろう。
携帯電話を耳と肩で挟みながらアイドル活動を始めてから買ったスケジュール帳を開く。
「分かりました、行かせていただきます。日時を教えていただけますか?」
『ありがとうございます!えっと、日時はですね・・・』
ちひろさんの言った日時をスケジュール帳に書き込む。幸か不幸かその日にはちょうど何も予定が入っていないようだ。まぁ何か予定が入っていたとしてもアイドル活動の一環としてこっちを優先させただろうが。
「当日はどちらに?会場に行けばよいのでしょうか?」
『えっとそうですねー。もしよろしければ事務所から一緒に行きませんか?もしバラバラに行って会場で居場所がわからなったら困りますし』
「そうですね、当日は先に事務所に行くことにします」
『はい!じゃぁ一応Pさんに話は通しておきますね』
「あー、お願いします。」
その後一言二言話して通話を切った。
武内Pが目指しているアイドルの魅力というモノを私はそのライブで感じることができるだろうか。
アイドルが作り出すライブの世界がどんなものなのか、気持ちとは裏腹に知りたいという好奇心が抑えられない。
チラリとパソコンで開いた城ヶ崎美嘉ちゃんのライブのホームページを見る。
彼女のライブ映像は動画でいくつか見た。ギャル風な見た目そのまま明るく楽しそうなパフォーマンスで盛り上がっていた。それが今度は画面越しではなく直に見ることができる。
どうやら私は思いのほかライブを楽しみにしているらしい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
というわけでライブ当日になった。
私は先日話した通り事務所でちひろさんと待ち合わせ。武内Pと他の娘たちはもう向かっているそうだ。ちひろさんも簡単な事務作業を終わらせてから来るそうでそれまで346カフェで待っている。
普段は人が多いときはあまり利用しないのだが、今日はちょうど人が少なかった。ライブの方に行っているのだろうか。
本日はライブだということで軽装で来たが、サングラスは忘れていない。服装も地味系な色で選んできたから大丈夫だろう。チラチラとみられている気もするがそれは無駄に意識するからで思考を別のことに飛ばせばあんまりわからなくなる。
例えば頭にウサギのようにリボンをつけてかわいらしいメイド服を着ているあのウェイトレスさんは今何歳位なんだろうとか考えているうちに時間は過ぎていくものだ。
しばらくそうやって時間をつぶしているうちに待ち合わせ時間になったようでいつも通りの事務員の服を着たちひろさんが此方に手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「おはようございます」と挨拶だけ交わし、ライブ会場へと向かう。タクシーを呼び、会場の最寄まで乗せてもらう中でちひろさんからシンデレラプロジェクトについていろんなことを聞けた。
今回バックダンサーに選ばれた3人組を起点としてそこから複数のグループを順番にデビューさせる予定らしい。
思ったよりゆっくりというかなんというか、私はシンデレラプロジェクトとして一気にデビューさせるものと考えていたがそうではないらしい。順を追うというのも大事だとは思うがそれで待たせてしまう子の気持ちはどうなるのだろうか?まぁ、武内Pも考えていないわけじゃないだろう。私が思いつくことぐらい既に想定しているのだろう。
私についてもシンデレラプロジェクトのメンバーには話が通っているらしい。私の事情や活動範囲も話しているらしく、今後一緒に仕事する機会があるかどうかは未知数らしい。まぁ、あったとしてもラジオぐらいだろうか。
色々と話を聞いているうちにライブ会場へ、まだ開始から時間に余裕があるとはいえ多くの人たちが集まっている。特に物販の場所では長蛇の列ができていた。私たちは混みあう人の間をすり抜けながらなんとか会場内へ入り、自分たちの席へと向かう。
初めてくるライブ会場は始まる前だというのにすでに熱気で満ちており、すこし息苦しく感じるほど。
「ナギサさんは初めてですか?こういうアイドルのライブって」
物珍しそうに辺りを見渡していた私が面白かったのだろう。ちひろさんがクスクスと小さく笑いながら声をかけてきた。
「そうですね・・・アイドルのというよりライブ自体に来るのが初めてで・・・すこし圧倒されます」
「そうでしょう?ライブが始まったらもっとすごいですからね!」
普段よりもテンション高めなちひろさん。彼女もアイドルにかかわっているだけあってライブが好きなのだろうか。
続々と人が集まり、次々と席が埋まっていく。人の流れを見ているとふとある集団が目に留まった。ライブに来るには珍しい女の子の集団だ。身長の低い子から高い子まで年齢層もばらばらで地味に目立つ。
私がジッと見ていたところが気になったのだろう。顔を寄せてきたちひろさんはあっと小さくつぶやいた。
「シンデレラプロジェクトのみんなですね。」
「あの子たちが・・・。」
遠目からでも分かるぐらいかわいい子がそろっている。それと同時にあれが武内Pの集めたアイドルの子たちかと興味をそそられる。別に敵対心やらといった特別な気持ちがある訳ではないのだが・・・。
楽しそうに話している彼女たちを見ていると、バッと照明が落とされ今まで暗かったステージがライトで照らされる。どうやらライブが始まるようだ。
照明が消えた瞬間に今まで騒がしかったホール内がしんと静まり返り、皆一様にステージの上を見ている。それは自分たちの中にある熱狂を抑えているようにも思えた。
BGMが流れ出し、ステージの上に今回のライブの主役が登場する。と同時に今まで溜め込んでいた熱狂が一気に爆発する。
大きな歓声とともにサイリウムが至る所から出現しライブ会場を染めていく。それはまるで暗闇の中で光る星みたいでここだけ日常から切り離された別の世界のような気がして。
あぁ、ライブが始まる。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
結果だけ言うとライブはとても楽しかった。
初めは城ケ崎美嘉ちゃんの歌に耳を傾けていたのだがそれ以上にその周りの歓声が耳に入ってきて途中からは私もちひろさんと一緒に夢中でサイリウムを振っていた。
シンデレラプロジェクトの子だというバックダンサーの三人組の子たちも素人目ではあるがみんなステージの上で輝いていた。特に驚いたのはあのステージの上にこの前公園で会ったあの子がいたことだ。アレからまだそれほど時間がたっていないのにもうデビューしているなんてそれだけの才能があるのか。なんにしても今日はすごかったと言うほかない。
ライブからの帰り私はタクシーを呼ばず歩いて帰ることにした。会場でちひろさんとわかれ、一人家までの道を歩く。
火照った体を冷ましたいのと同時に今日のライブの余韻を味わっていたかったのだ。
いつの間にか私もライブの一つになっていて、自分のキャラも何もかも忘れて盛り上がってしまった。この感覚をファン達は味わいたいからこうやってライブに集まるのだろう。
ライブで盛り上がりたい人、歌に聞きほれたい人、アイドルと触れ合いたい人。いろんなファンがいてその数だけアイドルがいる。ファンが求めている空間をアイドルは自分の個性をもって、魅力をもって作り出すのだ。そして
ステージ上だけでなく、あのライブ会場全体が別世界な空間を作り出す事ができるアイドルは、嫌でも私とは違う存在であることを認識させられた気がした。
最近よく思うことがある。私はアイドルであっていいのだろうかということ。
まだまだ活躍もしていない小娘が言うことではないかもしれないが、アイドルの子たち、アイドルを目指している子たちを見ていると思ってしまう。
元々アイドルになる気がなく流れでなってしまった私と、自分の夢の為に努力を続けその夢をつかみ取ろうとしている女の子たち。
渋谷さんも私と同じ経緯でアイドルになったはずなのに今日のステージでは自分の居場所はここだとでも言わんばかりに楽しそうにパフォーマンスをしていた。
後ろめたさ・・・これが私の今の気持ちを表すのにふさわしい言葉だろう。
少し冷たくなってきた風に私はようやく冷めてきた自分の体を抱きしめた。
3/12 誤字修正 今の←伊万
たまっていた誤字報告確認させていただきまして、修正をさせていただきました。毎回のことながらお手間をおかけしましてすみません。続きを書いていくうえで誤字等あるとは思いますがこれからもどうぞよろしくお願いいたします。
上記でも誤字がありました。
舞じ→毎回
面目次第もございません。許してください('_')