顔だしNGのアイドルA   作:jro

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新しい道

「私と・・・ですか?」

 

 

私が江崎部長にそう尋ねると彼は私の横に腰を掛けたまま小さくうなずいた。

 

 

「前に君の歌を聞かせてもらったことがあってね・・・あれだよ、お願いシンデレラ。あの歌を聞いてから君のファンになってしまってね。あぁ、この前発売された君のファーストシングルもきちんと買わせてもらったよ、やっぱり君は──────」

 

 

江崎部長が言った『お願い!シンデレラ』という言葉でようやくこの人と私のつながりが少しは読めてきた。おそらく私が初めてレコードした歌。武内プロデューサーはこの歌を会議で資料として使ったといっていたし。江崎部長は歌部門の纏め役、あの会議にもいたのだろう。

 

話していて興が乗ったのか急に私の歌についてすごい褒めてくれたのだが、さすがに長すぎてほとんど聞き流してしまった。ファンになってくれたのは普通にうれしいことだし江崎部長が私のことを評価してくれるのはありがたいことでそれだけで頑張って練習した甲斐があるというものだ。こういう風に自分の歌を聴いてくれた人の意見を実際に聞いたことがなかったから少し感動してしまう。

 

 

「まぁ、私が君のファンだということは置いといてだ。君は歌が好きかい?」

 

 

楽しそうに話していた江崎さんが急に自分の話を止めると、そう質問してきた。

 

 

「もちろんです。歌を歌っている時が一番楽しいです。」

 

 

聞かれた瞬間に反射的に答えていた。そして答えた自分に対して何の疑問もなかった。

そして私がそう返した瞬間、江崎さんの笑顔がより深まったような気がした。

 

 

「具体的にはあるかい?」

 

「歌っているとき、夢中になれるんです。その曲にも歌詞にもその歌に込められた物語にも」

 

 

なんでそんなことを聞かれているのかわからないが、私は素直に自分の思っていることを伝えた。自分でも青臭いことを言っているのは分かっている。けれど江崎さんは私の答えを聞いてただ小さく頷くだけだった。

 

次に彼が口にした言葉を聞いたとき、私は直ぐに答えることができなかった。

 

 

「じゃぁ、もう一つ質問だ。今してるアイドル活動は楽しい?」

 

 

楽しい

 

そう私は答えなければいけないはずなのにどうしても口がそう動くことを拒んでしまう。

決して楽しくないことはないはずなのだ。歌を歌って、ファンに喜んでもらう。まだ大きく活動していないが楽しいはずなのだ。だが心からアイドルが楽しいと言えないのはどうしてだろう。

 

そんな私の心の内を知ってか知らずかいつまでも答えない私に江崎部長は質問を続けた。

 

 

「・・・もしかしてアイドル活動は楽しくないのかい?」

 

「そんなことはっ!」

 

「じゃあ楽しいかい?」

 

「・・・言いたくありません」

 

 

私がそういうと、江崎部長はふーむと顎の下に手をやった。

『言いたくない』という言葉はさすがに予想外だったのだろう。すこし困惑して言う様子だ。

 

別に『楽しい』と言ったら世界が終わるとか壮大なことは一切ない。黙秘するような内容でも、私が今後不利になるようなことでもない。でも、それでも言いたくなかった。

 

 

「あぁ、怒らせるつもりはなかったんだ。すまない」

 

「いえ、別に怒っては・・・」

 

 

あぁ、どうやら知らず知らずのうちに顔が強張っていたらしい。少し深呼吸をし、体を落ち着ける。

気持ちを落ち着けるため、江崎部長から視線を外した私は江崎部長が『なるほど』と小さく呟いた事に気が付かなかった。

 

 

「君は自分の目がコンプレックスだって聞いたけど・・・私はキレイだと思うよ。」

 

「お世辞は良いです・・・そういってきた人は今までにもいましたけど結局目を合わせると目を彷徨わせる人ばかりでしたから。」

 

 

結局のこの人は何を話しに来たのだろうか。先ほどから私に質問したり落とし文句のようなことを言ったり。部長というからにはそれなりに忙しい立場の人のはずがこんな無駄に時間を使うはずがない。そう思った私は江崎部長に体ごと向き直った。

 

この時の私はまだ冷静になり切れていなかったのだろう。今まであったモヤモヤとした感情が余計に思考を圧迫していた。

 

 

「失礼ですが結局私にどういったご用件なんですか?先ほどから話しているとナンパされているように感じるのですが」

 

 

今思えば私はなんでこんなことを言ったのだろうかと酷く反省するだろう。江崎部長はただ話していただけなのに失礼極まりない。だが、私の言葉を聞いた江崎部長は私のことを怒るわけでもなく私を見ていた。

ただひたすらに私の様子を観察しているような。そんな瞳だ。

 

 

「んー、ナンパかぁ・・・。そうだね、ある意味私は君をナンパしにきたのかな?」

 

「は?」

 

 

今までは少しおどけた様子で話していた江崎部長だったが、急に真剣な表情を私に向けてきた。そして次の瞬間私は本当の意味で思考が止まった。

 

 

 

「うん。君がもしよければなんだが、私の部門にきて歌手になってみる気はないかな?」

 

 

 

彼が何を言っているのか一瞬分からなかった。

だって歌手になるということは、貴方の部門に行くということはつまり・・・。

 

 

「それは・・・」

 

「うん、君にはアイドルをやめてもらうことになるかな。」

 

「っ!」

 

 

実際に言葉にされるとその言葉が甘い誘惑のように私を揺さぶってくる。いや、止めたいわけでは決してない。だが、今のこの感情から解放されるためにはそれが一番いいということも理解できていた。

 

自然に頭が下がっていく。視界が暗くなる。ただ頭が痛い。

 

江崎部長の提案は非常に魅力的なものだろう。歌が大好きな一般人の私にとって歌手になるということ、それはある種私の到達点と言えるだろう。

 

そんな私に江崎部長は追い打ちをかけるかのように続けた。

 

 

「君の事情は把握している・・・それならと思ってね。君の歌は此方でもとても魅力的だし、歌手の世界なら顔の露出は気にしなくてもいい。・・・アイドルとして活動を続けるよりは君にとっても良いと思うんだ」

 

 

彼の言うことはすべて正しかった。

私も考えていたことではあった。ただ、それを認めたくないからという理由で考えないようにしていただけだ。

 

なんだろうかこの気持ちは、なんだろうかこの罪悪感は。私のしていることは間違っていると、まさに今糾弾されているかのような。

 

私はゆっくりと顔を上げた。

 

 

「・・・私も・・・そう、思います。」

 

 

あぁ、今私はどんな顔をしているのだろう。

顔を上げ、江崎部長の顔を見る。その瞳の中に映った私の顔は今までにないほどひどく歪んでいた。

笑っているような、泣いているような。自分でも何と言ったらいいか分からないぐらい歪んでいた。

 

 

「・・・返事は何時でも構わないよ。君にも色々思うところがあるだろうからね。早いに越したことは無いがゆっくり考えるといい。」

 

 

江崎部長が去った後、私はお昼ご飯を食べるためにここに来ていたことを思い出したのだがどうにも食欲がわかず、少し摘まんだだけで片付けた。

結果として江崎部長との遭遇は私にとって大きな衝撃的な出来事になった。

 

示されたのは別の道。

 

アイドルの道を降り、歌手としての道を歩む。それかこれまで通りアイドルとして歩き続けるか。それを選ぶだけだ。

本心としてはもう決まっていることだ。だが、それと自分の思いが重なるかはまた別の話。

 

アイドルとは世の女の子たちの憧れの存在。そんなアイドルにただ流されてなってしまった私。他のアイドルのように笑顔を見せることはせずライブをすることも恐らくない。ただ一人の空間で歌だけ歌っている私。

傍から見れば私はアイドルとは言えないだろう。それどころかアイドルという存在を馬鹿にした存在だ。

 

それでも、そんな私がアイドルになり。それでもアイドルで在りたいと少しでも思うことは間違っているのだろうか。

 

驕っていたんだろうか。

アイドルという存在になれたことで思いあがっていたのかもしれない。そんなことできるはずがないとわかっていても、レッスンやラジオの勉強。そういった小さな事を重ねていく事が、その時間がとても楽しかったなどと誰に言えよう。

アイドルとしての活動ではなくその前段階。それでも私は夢を見ることができたのだ。

自分はアイドルだと。自分はアイドルなんだと思い込み、その夢のような時間におぼれていた。

 

あの人が私にアイドルになってみないかと言われたとき、抱いてしまったのだろう。

 

こんな私でもアイドルになれるんだって。

 

私にそう言ったあの人は私の何を見てアイドルの道を示してくれたのだろう。それが知りたい。どんな小さな理由でも私がアイドルで在れるようそがあるのなら私は知りたい。

 

だから聞いてもいいですか?

 

 

「いつものレッスンルームにいないと思ったらこんなところでどうしたんですか?ナギサさん。」

 

 

武内さん。

 

フラフラとレッスンルームへの道をさまよいながら歩いていた私にちょうどその方向から歩いてきた武内さん。どうやらちょっと前までシンデレラプロジェクトの子たちと仕事だったようでいつもはビシッと着こなしていたスーツが少しよれている。

 

忙しいだろうにそれでも私を気にかけてくれる。そんな武内さんに表情が少し緩む。

 

 

「すみません。今日は気分転換に外でお昼を食べていたんです。」

 

「そうなんですか。・・・何かあったんですか?」

 

「いえ・・・ただ思うように歌えなかったので」

 

「どこか体調が?」

 

 

少し焦ったように聞いてくる武内さん。やはり彼はとても優しい。こんな私のことも心配してくれる。私よりもよっぽど忙しい立場にいてストレスも非にならないだろうに。

 

そんな武内さんに私は心配させないようにと努めて笑顔を心掛けた。

 

 

「いえ、そういうわけではないですよ。歌い続けている内に自分が何を歌ってるのか良く分からなくなっちゃって。すみません。」

 

「ナギサさんが大丈夫ならいいんですが・・・もし体に違和感があったらすぐに言ってください。無理が一番ダメですから」

 

「・・・はい、そうしますね。」

 

 

武内さんとレッスンルームへと向かう。

武内さんはシンデレラプロジェクトのプロデューサー。そして私は一応そのメンバーに含まれるアイドル。二人で歩いている時に自然とシンデレラプロジェクトの話題になるのは至極当然のことだった。

 

 

「そういえば、千川さんから伺いました。この前のライブに来ていただいたと。」

 

「はい、初めてのライブでしたがとても楽しませてもらいました。」

 

 

私がそういうと武内さんは酷く安堵した様子だった。私がそういった場に出歩くことがないことは知っているはずなので心配してくれたのだろう。加えてシンデレラプロジェクトの初めてのライブともいえるライブだったので武内さんも心配していたのだろう。

 

だがその心配は杞憂。杞憂ですよ武内さん。あのライブは大成功ともいえる出来だっただろう。

しかし武内さんが私に聞きたいのはライブの出来栄えじゃないだろう。そんなもの私が言わなくても近くで見ていた武内さんが一番わかっているはずだ。武内さんが私に聞きたいのは

 

 

「シンデレラプロジェクトの皆さんはどうでしたか?」

 

 

そう、私と同じプロジェクトに所属してるアイドルについてだろう。私というアイドルが島村卯月ちゃんたちのような王道のアイドルのライブを見てどう思ったか。

それを聞かれたときに私が思い出したのはあの高揚感と焦燥感とが一体になった気持ちの悪い感覚だった。

馬鹿正直にそういうわけにもいかず、何か返さなければと考えるも何も浮かばない。

 

 

「ナギサさん・・・?」

 

急に黙り込んだ私を見て武内さんがまた心配そうな顔でこちらを見下ろしている。

 

あぁ、すみません。別に気分が悪くなったとかじゃあないんです。ただ、少し羨ましくなってしまったというか。なんというか。

 

ライブの後から今の今まで考えてきたことがある。

ニュージェネレーションズを含め、他のシンデレラプロジェクトのメンバーは皆それぞれアイドルになれるだけの何かを持っていて、それを十分に輝かせる力がある。だからあのライブであの三人は初めてながらにしてあれだけ輝くことができたのだと。そして他のメンバーたちも己の何かを存分に輝かせアイドルとして大成していくのだろうと。

 

そしてそんなアイドル達を見極め集めたのは武内さんだ。武内さんの目から見て光るものがあったからこそこのプロジェクトのメンバーに選ばれている。

 

 

「そういえば武内さんはシンデレラプロジェクトのアイドルを全員実際に会ってスカウトを決めたんですよね?」

 

「?そう・・・ですね。例外はありますが私が実際にお話ししてスカウトさせていただいています。」

 

「実際に会って・・・話して・・・武内さんがスカウトを決める理由って皆何かあるんですか?」

 

 

そう質問した私に武内さんは私の目を見て、はっきりと答えた。

 

 

「もちろんです。皆さん其々に個性があり、アイドルとして輝けるだけの───」

 

 

今までにないほど饒舌に語っていく武内さん。渋谷さんはどうとか新田さんはこうとか。武内さんがどれだけ真剣に私たちを見ているかが良く分かる。

 

私の知らない子もそういった何かを聞いているだけで不思議とその子のことを応援したくなるような、いやいずれ応援することになるのだろう。武内さんが選んだ子たちだ大成しないわけがない。

 

だけどそれなら───それなら私は?」

 

 

無意識に呟いてしまった事にひどく後悔した。思わずとっさに口を覆う。

聞いてしまえば少しは安心できるかもしれない。なのに聞くのが怖いと思う私がいる。それと同時に武内さんの口から聞く子たちがとても羨ましく、妬ましく感じてしまう私に吐き気を覚える。

 

 

何様だ。

 

 

幸いにも私のつぶやきは武内さんには聞かれなかったらしいが突然口を覆った私を不思議そうに見ていた。

 

 

「あの・・・どうか「そういえば、ライブはどうって話でしたね」えっ、は、はい」

 

 

急な話の展開に困惑している武内さんをしり目に私は淡々と言葉を紡いでいく。

 

 

「皆初めてとは思えないぐらい生き生きと踊っていて、ファンを楽しませようと全力で頑張りながらも自分たちも楽しんでいるのが見ていてもわかって・・・」

 

 

口にするたびに自分との違いを自覚させられていく。

これは何かの罰か。口を開くたびに頭が痛くなる。まるで大勢の人から糾弾されているかのような。

 

 

「踊っている姿を見ているだけで盛り上がって・・・声一つでライブが一つになっていくのがわかって・・・」

 

「ナギサさん?」

 

 

あぁ、ごめんなさい武内さん。貴方の言葉を否定するわけではないの。でも、私はこの言葉のことをどうしても好きになれなかったの。

 

 

「とても・・・良い・・・え、がおだった、とおも・・い」

 

 

「ナギサさんっ!?」

 

 

そう言い残し、私はその場を離れた。今の顔を合わせて居たくなかったから。遠くに離れるように普段動かさない腕と足を必死に動かした。

 

私は武内さんから離れるように走っていった(逃げていった)

 




Q.どうしてこうなった。

A.興が乗ったんです、すみません。


※掲示板について

書いてほしいという方が多かったので今後何処かに一話儲けようかと考えているのですが、私の知識不足のまま低レベルなものを書き皆様のお目を汚すのもどうかと思いましたので一度他の作品や実際に掲示板を拝見させて頂き、充分に勉強したうえで書かせていただきたいと思います。

また、毎回のごとく亀更新ではありますがお付き合いいただけると幸いです。


誤字修正 竹内→武内
     江崎部長→彼




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