生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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お久しぶりです、ジグです。
……まず最初に謝罪を。半年以上もの間予告なしで更新を止め申し訳ありませんでした。
個人へのメッセージ機能で心配して下さった方々、本当にありがとうございます。
リアルの事情が落ち着いたのと、モチべが復活したことを機に、これからゆっくりですが更新を再開させて頂きます。ダンまちssの方も、近いうちにリメイクという形での復活を考えさせて頂いています。

それではこの辺りで、本編へ。今回はもう坂柳回に入る直前、勉強会が終わった後の時点から始まります。



11.斯くして、漸く少女は全てを改める。

人が恋をし始めた時は、生き始めたばかりの時である。

 

────スキュデリー────

 

 

 

〇〇〇

 

 

夜空の星と月に照らされた道を小走りで渡っていく。

駆け足気味でアスファルトの大地を踏みしめていく。

はぁ、はぁと息を切らしながら、みっともなく汗を垂れ流しながら、それでも止まることなく学生寮までの道のりを進んでいく。

 

───いつもはなんて事のなかったその道程が、どうにも遠く感じる。

夜という時間帯が幸いしてか、周りに人の気配は無いものの、それでも私の心中は穏やかではない。

 

『……一体、何に迷ってるんだ?』

「っ───!!」

 

その原因は、先程の彼の言葉。

どんなに心で首を横に振っても、息が切れるまでに歩き続けても、どうしようとも先刻の彼の表情と言葉が脳裏から消えてくれない。

その声色がどうにも身体を蝕んで。

その真剣な表情がどうにも動悸を早くさせて。

……どう答えればいいか、解らなくて。いや。

 

────あの後、どうすればいいか、解らなくて。

 

こうして、逃げ出してしまった。

あの言葉のせいで、様々な感情や心の闇といった類が尽く脳裏を支配している。そして、それら全てが混ざりに混ざり合って、思考回路を掻き乱している。今までこんなケースなど無かったから、起こり得なかったから、対処法もわからず、まるで幽霊屋敷で怯える子供のように、彼から逃げ出してしまった。

 

「………本当、何に迷っているんでしょうか」

 

後ろから誰かが歩くような音が聞こえてこないことを確認すると、歩調を元に戻し、誰にも届かない言葉を零す。

そもそも、彼に話をしようと言ったのは私だというのに。

夜空を仰げば、いつもと変わりない景色が見える。

思えば、彼と夜まで行動を共にしたのは、これが初めてだった。

本来通りであれば、また冗談を交わしながら────

 

『馬鹿みたいに、坂柳有栖が好きなだけだ』

 

───あんな言葉を、恥ずかしげも無く零していたのだろうと。

そして、また。

彼に恋慕を抱いていることを自覚せざるを得なかったのだろうと。

 

「心地良いとは、思っていたんですが」

 

蘇る彼との記憶。

教室。廊下。食堂。カフェ。プール。今日の図書館内。

今まで私がこの学園内で訪れた場所で、彼と行ったことがない場所など無い。何処に行こうとも彼の顔が思い浮かぶ。彼の姿が想像出来る。

他の生徒からしてみれば主語の欠けた形の無い会話を続けて。

しかし、私達からすれば明確な意味を裏に隠した会話を楽しんでいて。

彼からは想いを告げられ、私はただいつも通りの笑みを纏って。

それでも彼は満足そうにはにかんで、それに吊られて私も言葉を弾ませて。

確かなカタチは無い関係。それでもそれ以外の全ては有った関係。

一方通行でもなく、片想いでもなく、互いにソレを自覚しながらも、このままであることを半ば許容した関係。その関係を保ったまま過ごす日々。

 

そんな日々が、心地良かった。

そんな関係が、心地良かった。

ずっと外れなかった仮面(坂柳 有栖)が外れて。

いや、私が初めて外しても良いと思って。

妥協する形で仮面(坂柳 有栖)もソレを許して。

欺瞞だらけの学園生活───人生の中、唯一心を許しても良いと思って。

もはや意識しなければ機能しない程、彼のせいで仮面(坂柳 有栖)が半壊していて。

それでも、ソレを許容している私がいて。

 

─────でも、コレはそんなレベルじゃない。

 

「─────っ」

 

“全壊”だ。

ペースを落としても止まることは無かった歩みが途絶える。

理解したくなかったソレを、しかし、どうしても自覚せざるを得なかったソレを、混沌状態にあった思考回路が結論を出して、自覚してしまった。

力が抜けていく。動悸が早くなる。表情が歪む。

───涙が、零れそうになる。

 

“一体、何に迷っているのか”。

 

解っているのだ、本当は。

その問いに対する答えは出来ていたのだ。

迷っているのではなく、伝えられない。

ただ、その伝えられない内容を伝えようとして、伝えられなくて。

それが迷っているように見えたのだろう。いや、実際、迷っているのと同義だ。だって。それを言葉にすることは、今までの自分を否定することと同義に等しかったから。此処に入学する際、抱いていた信念の根本を否定することに等しかったから。

───貴方のことが好きになってしまった、と。

その言葉を口にしたが最後、後には引き返せない。

関係が始まると同時に、私が築いてきた信念が、崩れてしまう。

私の傍には誰も要らないという誓いが。

いや。

恋愛にかまけて復讐心が薄れてしまう。

なにより、誰かに依存することで弱くなってしまう。

現に、仮面(坂柳 有栖)は既に修復不能だ。

彼以外の前では問題ないが、彼の前になるとコレはもう意味を為さない。

 

───つまるところ、もう手遅れだ。

 

そんなことはわかっている。

痛いほどにわかっているのだ。

それでも、認めたくない。

いや、認められないのだ。

彼に依存しかけていることが。

彼に好意を寄せていることが。

彼からの好意を受け流せなくなったことが。

───100日にも満たない日々を過ごして、恋に落ちてしまったことが。

 

こんなものはただの子供の駄々こねに過ぎない。

見たくないものに栓をするように。

認めたくないものを認めないで。

それでも結局、現実は変わりなくて。

きっとこの後、幾らいつも通りの私を演じたとしても、彼と接する度にボロが出る。

そんな事実は、変わる訳がなくて。

 

私の、坂柳 有栖の計画はあまりにも呆気なく、崩壊して。

 

彼に依存したい自分と、昔のままで在りたい自分。

相反する想いが交錯し、行動に矛盾を起こし、涙を零しそうにさせて。

咄嗟に顔を覆って、涙が零れていないか、手に触れるぬくもりで確かめようとする。

嗚呼、これすら滑稽だ。

ここに来る前の、最初の信念は何処へ行ったのだ。

行き場のない想いを、昔のままで在りたい自分の想いを、夜空にぶつけようとして、覆っていた手を直ぐに元に戻す。

 

────そして、ようやく気づいた。

 

「────ここ、は」

 

夜空が銀の輝きを照らす。

夜風が頬を撫でて、やがて何かに衝突した。

近くには階段があり、手すりがあり───彼の、面影があり。

───桐ヶ谷 黎耶と、初めて会った場所。

階段を、杖を使い登っていた私に、手を差し伸べてくれた彼と、邂逅した地点。

無意識の内に辿り着いていたのは、紛れも無く最初に彼の手を取った場所だった。

 

「…………ふ、ふふっ」

 

それを悟ると、思わず笑いが零れる。

決して自嘲ではなく、かといって嬉しさから来るものでもない。

ただ、ただ笑いがこみ上げてくるのだ。

学生寮に向かっていたはずが、私の身体は何をどう間違えたのか、ココで立ち止まっていて。

その事実があまりにも可笑しくて、つい笑いが零れて────

 

────いいや、違う。

()()()()を中断する。

笑いがこみ上げてくる原因は、決してそんなものじゃない。

()()()()()が、()()()にこの場所に辿り着いたその事実こそが、その答えを物語っている。

先程の相反する想い(私達)結論(こたえ)が、その真意だ。

畢竟、()()()()()()()()

 

「ふふっ、ふふふふっ」

 

───嗚呼、否定したかったのに、これでは否定のしようがないではありませんか。

()() ()()()の笑い声が静寂に包まれた夜の学園に響く。

()()()()()()()()()だ。

今この瞬間、桐ヶ谷 黎耶に対する想いを完全に自覚しきってしまった坂柳 有栖は、彼の前で仮面を付けることが不可能になった。いいや、そもそも彼に対するソレが壊れてしまった。

完璧に練り上げられた計画に、一つの綻びが生じてしまった。それも、絶対に直せない、修復不可能の綻びが。

そして、それが。その事実が、笑いをこみ上げさせてくるのだ。

ナニカが壊れ狂った笑い声を。ナニカから解き放たれた歓びの声を。

 

「………ふふ、帰りましょうか」

 

そこに在るのは、()()()()()()()()() ()()()ではなく、()()()()() ()()()だった。

ナニカを壊れ、精神が歪み、復讐を誓った少女ではなく、一人の男に想いを寄せ、心臓が高鳴るごく普通の少女。

それを自覚してか、していないかはさてわからないが、少女はただ楽しげに笑い続け───やがて、笑い切ったと言わんばかりに深呼吸をする。

その表情は()()()()()ように清々しいもので、少しずつ息を整えると、意味も無い独り言を夜風に乗せて再度歩み出す。

 

───次なるプランを早急に考えなくてはいけませんね。

 

大幅な変更はないものの、しかし、根幹は大きく異なった自身の計画の変更を。

一度結論にさえ辿り着いてしまえば、坂柳 有栖の行動は迅速であった。

元より、坂柳 有栖の計画自体に、()の有無はさほど重大なものでは無い。ただ、()() ()()()という存在自体における()の存在が余りに大きすぎるだけだ。そして、その彼をどうするかという問いにさえ決着をつけてしまえば、後は計画の軌道修正をするだけ。

もっとも、彼女が想定していなかったイレギュラー(彼への恋慕)により、最初の計画が破綻しかけていたことは確かであり、一歩手順を間違えれば、元の計画より基盤は脆弱になっていくのは明らかだった。それを理解していたからこそ、()() ()()()は彼への想いを自覚することにひどく躊躇し、心の奥に封じ込めていた。

 

───しかし、遠い未来からの結論を告げるならば、それは考えすぎ、畢竟───杞憂であった。

 

「…………!」

「───?」

 

前方から声が聞こえる。

夜風が空を切る音が幾度もソレを遮り、明瞭には聞こえてこないが、とにかく誰かが叫んでいるのは理解出来た。

ただ、距離があるのに加え、今は夜。帳が降りた世界は黒に染まっていて、視界は制限されている。

 

が。

 

「………りすっ!」

 

段々とソレは近付いてきて。

息を切らしているような、必死さを感じ取れる声音が耳朶に触れる。

そして、ソレはやけに聞き覚えのある心を暖かくさせるような声音で。

───ソレを悟れば、私の身体も勝手に前へと駆け足気味に進んでいった。

 

一歩。

二歩。

三歩。

一方は駆け足で、一方は全力疾走で。

互いに互い、まるで磁石のように引き寄せられ───やがて、叫んでも明瞭に聞こえて来ないほどあった距離は、顔が見える程に詰められていて。

視界には、先程まで散々自分の思考回路を掻き乱してくれた(想い人)が映っていて。

汗を垂らし、息を切らし、心臓の鼓動を早くしながら、両者は同時に。

 

「………有栖」

「………黎、耶くん」

 

想い人の名前を呼んだ。

一方は、額から流れる汗を拭いながら、それでもぎこちなくはにかんで。

一方は、本来彼女が見せる余裕を纏った笑みではなく、ただ純粋に可憐で、儚い少女元来の笑みを向けて。

─────そして。

 

「────う、ぉ、おおおっ……!?」

「………これから暫くの間、一切の発言を許しません。私の気が済むまでこのままで居させて下さい」

「えっ? はっ?………はぁ!?」

 

ぎゅうっ、と。

杖だけは握ったまま、ただ、それ以外の一切合切全をかなぐり捨てて、直感的に、本能に任せるまま彼の真正面に全身で突撃して、そのまま彼の身体を確保する。

背中に両腕を回し、到底釣り合ってない身長差故に、頭は彼の胸に埋めて、心臓の鼓動を聞く。

当然、名前を呼んだ刹那抱き着かれるなんて、理解が追いつくわけがない現状をやはり呑み込めない彼はひたすら困惑し、それでも顔を真っ赤にして───鼓動のペースを無意識に早めた。

 

────嗚呼、やはりもう、機能しない。

二人きりになれば、終わりだ。

想い人の姿が見えた瞬間コレだ。

………いや、流石に今回のコレは想いを自覚した初日だからであろうが、それでも彼の姿が見えた驚愕より先に手が出るのはどうなのだろうか、とは自省している。

が、知ったことか。

 

「ちょ、待っ、有栖────っ」

「───発言は許さないと告げた筈です」

 

もっともらしい、当然の反応を見せる彼が、思わず口を開くと、すかさず抱きしめる力を強める。

もちろん、自身の病が悪化しない程度に。

といっても彼には効果覿面のようで、未だに顔を茹で蛸のように真っ赤に染めて、何が起こっているかわからないと言わんばかりの驚愕を表情から示すが、抵抗する素振りもこれ以上何かを喋る様子もなく、ただ硬直した。

ああ、それでいい。

これで心置きなく、自身の想いを再確認出来る。

勘違いではないと。気の迷いではないと。

初恋すら無かった、拗らせた少女の幻想ではないと。

散々自分を迷わせて、思考を掻き乱して、計画を破綻させて、仮面を壊して。

───私の、隣に立つ人に相応しいのか、と。

私が隣に立っても、壊れないのか、と。

胸に顔を埋め、心音を聞いて、彼の身体に触れて──どうしようもなく、身体と心が暖まる自分を見て。

 

間違いない。

これはもう、重症だ。

彼はもう、私が要らないと切り捨てた──いや、強がった、()()()になってしまったようだ。

 

「ふふっ」

 

2度目の笑い声が零れる。

当然自嘲するソレでは無く、しかし、面白いから来るソレでも無くて。

可笑しさと、嬉しさが混同した、殻を破った少女が零す儚いソプラノ。

──その瞬間、壊れた仮面は新たな骨格を構築して。しかし、それに少女が気づくことは無く、彼も気付くことは無く───少女は、顔を上げて、“なんの事かわからないかもしれませんが”と前置き、目を合わせると───

 

「───責任は、取って頂きますからね、黎耶くん」

 

──次のプランには、こうなってしまった私には、貴方の存在が不可欠ですから、と。

やはりまだ抜けきらない建前を思考回路に埋め込んで、新たに形成された仮面がそんな冗談を呟いて。

ただひたすら、戸惑いながらも身体から熱を発する青年を他所に。

 

───坂柳 有栖は、悪戯好きのただの少女のように、満面の笑みを咲かせたのだ。

 

 

 

 

 

 




あまりにも期間を置いていたせいか、どうやって書けばいいかを忘れてしまいました。
一先ずまた、近いうちに次話投稿を目指し筆を執ります。

……偶像リメイクは、まだですか。

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