やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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そして色々な意味を込めて文実は一つになる

side雪ノ下雪乃

 

翌日の委員会でスローガンが決まったわ。

メンバーの半分を入れ換え、一部を除いて団結し、活性化された会議は議論に次ぐ議論を重ね、長時間に及ぶ討議の結果、最後はみんなが頭が働かず、フラフラになりながらも何とか一つの案に纏める事ができたわ。

今年のスローガンは次の通り。

 

『千葉の名物、躍りと祭り!同じ阿呆なら踴らにゃsing a song!』

 

良いのかしら?それで。

 

多少不安に思わなくもないのだけれど、これが委員会の出した結論であるのなら文句はないわ。比企谷君が言うには千葉音頭は名曲らしい。私にはよくわからないのだけれど。

未だ会議の熱は冷めていないようで、委員会の人達はまだ話し合っているわ。

そのモチベーションを仕事へとスライドさせるために、比企谷君が相模さんにメモを渡す。

 

相模「で、では、決定したスローガンの差し替えをお願いします」

 

比企谷君の…いえ、相模さんの指示のもと、文化祭実行委員は再始動する。

 

宣伝部「野郎ども!ポスターの再制作だ!」

 

と宣伝広報が猛々しく吠えれば、

 

会計監査部「ちょっと待て!予算がまだついていないじゃあないか!」

 

と会計監査が制止し、

 

広報部「馬鹿野郎!算盤なんて後で弾け!俺は今なんだよ!」

 

物品管理部「それより、貼り直したら画鋲とかちゃんと回収して来いよ!あれも数えてるんだから!」

 

と、物品管理部までが活性化しているわ。

どこの部署も活発に活発に意見交換をし、半分がリストラされた同じ委員会とは思えない。

でも、比企谷君、ジョースターさん、一色さん、城廻先輩、そして私といえばヒソヒソと陰口を叩かれ、完全に無視をされている状態よ。でも、慣れているわ。

そういうのが私達は当たり前だったのだから。

懸念は城廻先輩なのだけれども、生徒会の結束は強いのか、城廻先輩率いる生徒会に囲まれ、彼女が孤立することは無かったのが幸いだわ。

 

ドン!

 

私の前に無言で仕事が積まれる。声もかけられず、ただ仕事を投げられる。いっそのこと完全に無視された方が清々しいのだけれど、こんな状態でも仕事をさせるのだから大したものよね。

早速今日の議事録を打ち込んでいると、上機嫌な声が上から降ってきたわ。

 

陽乃「やぁやぁ、しっかり働いているかね?」

 

委員会がちゃんと機能するようになって暇なのか、管弦楽の練習の合間にやって来た姉さんがわざわざ私の頭を撫でにやって来たわ。お茶まで淹れてくれて。

冷たい視線もおまかいなく、まるで気にしていないのは流石としか言いようがないわね。頼もしいと誇るべきなのか、我が道を行く人だと呆れるべきかわからないのだけれど。

 

雪乃「見ての通りよ。ありがとう、姉さん。頂くわ」

 

私がお茶に口を付けていると、姉さんはひょいと後ろからパソコンを覗き込んできた。改めて横から見ていると、やはり姉さんは綺麗ね。妹として誇らしいわ。

 

陽乃「ダメだよ雪乃ちゃん?しっかりと働かないと」

 

何故?むしろかなり働いているわよ?ミスらしいミスも見当たらないと思うのだけれど…。

私のムッとした目を向けられ、姉さんはわざとらしく驚いているわ。

 

陽乃「あら、不満顔。だってさ、この議事録には雪乃ちゃん達の功績が入っていないじゃあないの」

 

雪乃「私達の功績?」

 

何をやったのかしら?思わず聞き返してしまった私を見て、姉さんはニタァっと笑う。性悪モードね。

 

陽乃「雪乃ちゃん?ここでクイズです!集団をもっとも団結させる存在はなんでしょ~?」

 

雪乃「冷酷、残忍、そんな指導者かしら?」

 

伝説に謳われるDIOなんて正にそれね。比企谷の事なのだけれども。

 

陽乃「まだまだね。八幡君なんてそれがわかっていてやっていたわよ?まぁ、DIO様の転生である八幡君が冷酷で残忍なのは否定できないし、雪乃ちゃんのその答えも嫌いじゃあ無いけどね?」

 

微笑みはそのままに、視線の温度だけが下がったわ。相変わらず姉さんのそういうところは健在ね?私には遥かに遠く到達できない領域だわ。

 

陽乃「正解はね、……明確な敵の存在よ。わたし達にとってのウルフスのようにね」

 

そのうすら寒い微笑みに姉さんの真意が見て取れる。

以前の私なら恐怖を覚えていたわ。いえ、今でも恐怖しているかも知れないわね。ただ、それをはね除ける勇気が持てただけの話だわ。

そういえば、昔の兵法家は言っていたわね。「民衆を纏め上げる最高の指導者、それは敵である」と。

 

陽乃「単に敵対心を持つ相手がいたぐらいで、全員が一気に態度が変わる訳じゃあ無いんだけどね?それが四人、五人と増えればねずみ算式で増えていくものだよ?数を増すごとに思想は加速していくの。わたし達三十年前のDIO様の部下達のように。あるいはジョルノ兄さん達ブチャラティチームのように」

 

姉さんは人間は共感する生き物だと言っているわ。アクビをしている人を見ると、アクビが伝染するのと一緒なのだと…。

わかる気がするわ。

熱狂や狂信や憎悪は特に伝播するもの。

マルチ商法や宗教の勧誘と同じ。

比企谷君の前世は…DIOはとにかくそれを利用したものね。姉さんの前世やダービーさん、ペットショップちゃんやプッチと…。

誰だって、誰かと一緒が良い。

DIOやジョースター家のように、黒でも白でも必死に頑張るのはカッコいいという認識さえ作れば良いのだから。

空気とは数。

大衆とは数。

戦争とは数。

 

……最後は何か違う気もするのだけれど。

数を揃え、勝ち馬に乗れる空気を作り出してしまえばほとんど勝ったも同然。今も昔も空気で回っているもの。

絶大なカリスマ性を持った独裁者ではなく、絶対の大多数によって、あるいはその大多数を生むであろう確約によって勝敗が決せられてしまう。私は……そんな世界を変えたかった。

でも、今はその大多数を逆に利用している。

敢えて少数になることによって、本来の目的を果たすために…。

少し前の私から考えれば信じられないわね。

それに抗えるジョースターは異常なのだけれど。

容赦のない悪の独裁者とその取り巻きという体を作り出したわたし達文実アーシス。

独裁者によって断罪されても健気に頑張る相模さんの元で頑張る人はかっこいい革命者。頑張らない人は暴君に屈した悪の手先。

そのレッテルがあれば嫌でも聖女相模さんの為に頑張るしかない。ジャンヌ・ダルクのようなものね。

姉さんはふふっと笑って私を見る。

 

陽乃「ま、自分達が敵に操られてることすら判っていない小物だけどね」

 

ホントね。でも、本来の世界征服ってこんなものなのかも知れないわね。

 

陽乃「でも、祭りの気分に当てられて、盛り上がってるし良いのかな」

 

雪乃「おかげでこっちの仕事は増えているけれどもね」

 

それでも、こんなものはものの数には入らないわ。それ以前の状態の方が酷かったものね。

 

陽乃「良いんだよ。悪役がちゃんとやっているならそれはそれで対抗心がでるでしょ。それに、敵がしっかりしないと成長もしないからね。争いこそが技術を発展させるのであーる」

 

はぁ……姉さんは解説はじめちゃったわ。

 

雪乃「姉さん。それを自分で実演してきたわよね。出来れば実の妹にそれをしないでもらいたかったわ」

 

姉さんは行方不明になる前は私にそういうちょっかいをかけ続けてきたものね。今となってわかったけれど。

 

陽乃「雪乃ちゃんの成長は嬉しいけど、勘が良くなったのはつまらないなぁ……今後は隼人にやるかな?成長の兆しが出てきたって徐倫ちゃんが言ってたし」

 

敵の存在が人の成長にもっとも手っ取り早いとするならば、姉さんはずっとそれを続けてきたわ。

 

八幡「おい雪ノ下。手が止まってるぞ」

 

ひょいっと仕事のファイルを持っていかれる。見上げると比企谷君がいやらしい笑顔を向けて立っていた。

 

八幡「スローガン変更に伴う書類の破棄はやっとくわ。議事録が終わったらスローガン変更に伴う通達を頼む」

 

雪乃「仕事を手伝いに来たのか増やしに来たのかわからないわね。明らかに今、かんがえなかったかしら?」

 

八幡「突然閃く事もあるだろ?知恵と人いうのは使ってなんぼの物だしな。ついでに企画申請書を取り込んでサーバーにアップするのも頼むわ」

 

言い訳をするつもりのない言い訳をした上に、さらっと仕事を増やしてきていないかしら?

私が不審げな視線を向けると、比企谷君は更にいやらしい笑顔を強くする。姉さんと似た者同士だわ。本当に。

 

八幡「冗談だ。既に終わらせてある。とはいえ、やることはまだまだあるから、議事録の方は早めに頼むわ」

 

雪乃「からかっていたのね。本当に性格が悪いわ」

 

比企谷君が相手だと、今までの労働環境がぬるかったんじゃあないかとすら思えるわ。これがバイトとかだったなら逃げて携帯の電源を切っているところよ?

 

陽乃「わたしもやろうか?」

 

八幡「いや、陽乃さんは会社の仕事を終わらせて下さい。いくら康一さんでもそろそろ怒り出しますよ?」

 

にべもなく言い放つ比企谷君に姉さんは瞳を潤ませる。

 

陽乃「ひどい!八幡君ひどい!愛する八幡君の為に力を貸そうって言ってるのに!……まぁ、ホントに康一さんが怒り出しそうだから戻るんだけどね♪康一さん、わたしと相性悪いから最近勝てないし、由花子さん(奥さん)出てきたら厄介だしねー」

 

姉さんですら震えさせるのね。広瀬夫妻。

確かに広瀬夫人は恐ろしいからわかるわ。

 

八幡「それがわかっているのなら早く会社に行ってくださいよ。俺だって由花子さんは怖いんですから。何で俺の周りはそういう人ばかり集まるんだ?」

 

比企谷君は頭をボリボリ掻きながらデスクに戻る。

 

八幡「一色~。ジョースター。予算の見直しをするから、手を貸してくれ~」

 

いろは「は~い。了解ですよ~、せーんぱい♪」

 

静「了解よ、比企谷」

 

比企谷君の周りにいつもの二人が集まる。

 

雪乃「振られたわね?姉さん」

 

陽乃「ふっふー。違うよ?雪乃ちゃん。わたしだからこそ会社の事を頼んで来たの♪八幡君なりの信頼と信用を任せてくれたの♪」

 

雪乃「そうね。比企谷君の本当の居場所はジョースター家だものね。今となっては私にとっても大切な居場所だけれど。頼んだわよ?姉さん。私の大切な居場所、SPW財団とアーシスを守ってね?」

 

陽乃「ん?ふふっ……、はーい♪こういう事を自然に頼るようになった今の雪乃ちゃん。やっぱり好きだな~。でも、成長が嬉しい分、寂しくもあるんだけどね♪」

 

どっちなのかしら、成長が嬉しいのか嬉しくないのか。

 

陽乃「姉はいつまでも妹の世話を焼きたがるものなのよ」

 

そう言って姉さんは私と比企谷君達に投げキッスをして帰っていったわ。

色々と忙しいはずの姉さんが頻繁に顔を出すのはアーシスの仕事の為だけ、とは思わない。そこまで世界のSPW財団は暇じゃあない。きっと私達や相模さんの事が心配だっのだと思う。

悪魔よりも悪魔らしい……

あの世界の本物の悪魔は比企谷君やジョースターさんをそう評したけれども、本来の姉さんだってそれは同じ。

でも、ジョースターの気質は、歪んでいた姉さんの家族愛を直し、私達の関係を正常に戻してくれた。だって昔の姉さんは気に入った物を構いすぎて壊すか、気に入らないものを徹底的に壊すかのどちらかだったのだから。

敵には相変わらず徹底的に壊すのは変わらないのだけれど。

そう考えると、ジョースター家には感謝しても感謝しきれない。いつかあの両親も直れば良いのだけれど…特に家にしがみついている母は…。

あるかどうかもわからない未来を想像しても仕方がないわ。そんなことよりも目の前の仕事をどうにかすることを考えた方が建設的ね。

私も社畜に慣れてしまったわ。

私をこんなにしたのもジョースター家よね。

感謝はするけれども、責任も取って貰うわよ?ジョースター家♪

 

←To be continued




一つになるは一つになるとしても反骨精神によって一つになる文実。
いやはや、どうしようもない悪い民意ですな。


それでは恒例の。

視点は八幡➡️雪乃

陰口を叩かれるのは八幡のみ➡️アーシス文実組

陽乃が話しかけるのは八幡に➡️雪乃に

雪乃がシーザーネタに走る

陽乃は八幡を小物の悪役と評する➡️八幡達に踊らされている文実メンバーを小物と評する。

陽乃は雪乃の成長を促す為に悪役に徹している➡️既に変わった雪乃にちょっかいを出していた理由を話す

雪乃は手が止まっていた八幡に、更にファイルを山積みにする➡️八幡は山積みになっていたファイルを取り上げ、負担を軽減する

明らかに今、考えたというツッコミに雪乃は八幡を睨んで封殺する(雪乃が都合が悪くなるとすぐに睨むというアンチ作品の元ネタはこの部分だと思われる)➡️八幡は開き直ってさらに意地の悪いニタニタ顔をする

今日中にオーバーワークの仕事を終わらせろと言う雪乃➡️本当は既に終わらせてあり、からかう冗談だったと言う八幡

手伝いを申し出た陽乃に対して早く帰れと言う雪乃➡️早く財団の仕事に復帰しろと言う八幡(休職中だが、一応陽乃の上司)

予算の見直しを姉に頼む雪乃➡️いろはと静に頼む八幡(休職中だが一応二人とも陽乃の上司)陽乃には本業の方を頼む八幡

雪乃の本作での陽乃に対する人物像の加筆

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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